連載小説
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持つべきものは。
あの舞台での戦いからあっという間に1週間過ぎた。

それまで自分たちの戦いが無かったため、穏やかな日々を過ごしていた。
これで囚われの身でなければ、言う事はなかったのだが。
まぁ、流石に剣闘士としての役割もあるので、訓練をして汗を流した。

グリーとキースは共に戦ったウシオニの香月を交え、休憩の合間に談合していた。

「まさか、グリー殿が将軍の身分だったとはのぉ。」

「私もびっくりだ。」

少し変わった話し方をするウシオニの香月は、もともとはジパングの出身らしい。
大陸を渡って新しい物を探すため街に向かっている途中、争いに巻き込まれ捕まってしまい、現在に至るという。

「ということは、戦には勝ったのかの?」

「はい。」

「それならば何故ここにおる?まぁ、ここにおる者はどれもこれも訳ありな奴ばかりではあるが。」

「自分の正体がバレた以上。隠していても仕方がない。全て話します。」

それから自分の身の上に起こったことを包み隠さずに全て話した。

自分が将軍であった時のこと。
シーカーに騙され殺されかけたこと。
自分の故郷が焼かれたことも。

「・・・さぞ辛かったであろうな。」

「うぅ・・・ぐすっ。」

悲痛な面持ちの香月に我慢できずに涙を流しているキース。
以外に涙もろかったみたいだ。

しんみりした雰囲気を変えるために、話題を変える。

「そういえば、香月さん、肩の傷は大丈夫なんですか?まだ包帯を巻かれているということは、傷が深かったんじゃ?」

「我のことは香月でええのに。まぁ、確かにおかしな話じゃのう。我はジパングでは少し名の知れたウシオニじゃ。ちょっとした怪我でも一日あれが回復する。それが今になっても、まだ治りきっておらん。」

キースも口に手を当てて言った。

「考えてみれば、自分たち魔物娘には魔力が通っているはずなのに、それがあまり感じない。魔法が不得手の私でも魔力が体を巡っているのに・・・。」

「こういうことに少し心当たりがあります。」

グリーが言う心当たりとは・・・。

ある国は親魔物領ではあったが、中身は魔物娘を奴隷扱いしている国だった。
他の親魔物領の国は、それの奴隷制度に我慢ならず、攻めたことがあったが、ことごとく失敗に終わっていた。

それで、親魔物領として力をつけ始めた、グリーの国に援軍としての使者が来たのだ。
使者の話を聞いた領主は、すぐさま軍を編成。

第一軍総部隊長だったグリーが初めにその国に入り、戦闘を開始した。
苦戦を強いられはしたものの、親魔物領の国々を退けるほどの武力は持ち合わせているとは思えなかった。

戦争ではグリーの軍が勝利。
国の奴隷を解放し、本当の意味で親魔物領を宣言した。

その時に発覚したのが、魔道具によっての魔力抑制結界だった。

あまりにも強すぎる魔力結果に、全力が出せずに、敗退していたのだ。
しかし、その時のグリーの軍はほとんど人間の軍だったので、対した効果は得られず、勝ち進めたのだ。
インキュバスの兵士には少なからず効果はあったが、元が人間なので、さほど気にする程でもなかったらしい。

「その時の魔道具と同じものが、もしこの国にもあるとすれば・・・。」

「この国の在り方に疑問視する魔物娘たちが反乱を起こさない事に納得がいくのぅ。まして、我らを使って殺し合いをさせるなど我慢ならんだろうに。」

「もしかすれば、反魔物領の者もこの国に関係しているかもしれないな。」

それで我の性欲も抑えられているのかのぉ。

と、グリーにお色気たっぷりの流し目を一つ。
キースがスっとグリーの腕を抱え込む。
それに、苦笑いで返しつつ、思案を続ける。

考えれば考えるほど、様々な思惑が浮かんでくる。
しかし、ある剣闘士の一声で現実に戻された。

「将軍。あんたに客人だ。」

「客人?」

あの戦いから剣闘士たちのグリーに対する呼び方が『将軍』に変わった。
グリー自身は、もう将軍でもないので、やめてと言っているのだが、聞かないのだ。

それにしても、客人とは一体?

「私も一緒に行こう。」

「我も。」

二人も立ち上がってグリーについてこようとする。
舞台の戦いから、グリーを抱きたいという貴婦人の依頼があとを絶たないのだ。
それをキースと香月が妨害というか、邪魔というか・・・。

まぁ、二人のおかげでグリーが誰かの毒牙から逃れられているのだが。
しかし、逆に言えば、キースも香月もいずれグリーを毒牙にかけようとしているという皮肉である。

「安心しな。今回は違うみたいだ。確かに貴婦人がいるが、もう2人、付き人がいるよ。」

「???」

ますます分からなくなる。
まぁ、会ってみればわかるだろう。

剣闘士の話を聞いて、その場に座りなおすキースと香月。
大人しく座った二人に内心、安心して面会室に赴いた。

衛兵に連れてこられた面会室に、確かに身なりのいい女性に、付き人らしき人物が2人。
ローブをかぶっており、顔が見えない。

シーカーが差し向けた暗殺者か?
ふと、そんな不安が頭をよぎり、身構えた。
しかし、それも無駄に終わる。

3人共、グリーのことをよく知っている人物だったからである。

「グ・・・グリー・・・!」

「将軍・・・・!!」

二人はローブを外した。

「まさか・・・!無事だったのですか!」

ヴァンパイアの王妃のジュリエと副将軍ゴドーだったのだ。

「よく・・・よく無事で・・・!!」

目から涙を溢れさせ、感極まってグリーに抱きつくジュリエ。

「嬉しすぎて、もう我慢できませんわ!このまま血を吸ってしまいm」「こんな時に何をやろうとしてるんですか!」

グリーとジュリエの間を割って入ってきたもう一人のローブを着た人物。
その声もグリーはよく知っていた。

「君も本当に無事で良かったよ・・・サーラ。」

名前を呼ばれ、ビクッと肩を震わす人物が、軍医として従軍したメデューサのサーラだった。

「苦しい戦いだったでしょうけど、無事みたいね。まぁ、こんなことで死ぬ奴だなんて思っていなかったけど。」

いつぞやのセリフを言い、ツンっとそっぽを向くサーラ。
しかし、目から涙が溢れるのを堪えているのがよく分かった。

そんなサーラを慰めようと、グリーはそっとサーラを抱き寄せた。
強気な彼女もこれには参ったらしく、目から涙を決壊させ、抱きついた。

「グリーから抱き寄せられるなんて、羨ましいですわ・・・。」

「さきほど抱きついていたのだから、もう良いでしょう?」

指を咥えて、その光景を見ているジュリエにツッコミを入れるゴドー。
感動の再会を交わしたところで、落ち着いた二人からグリーはゴドーに視線を向けた。

「ゴドーもよく無事で。」

「はい。シーカー様・・・いや、シーカーが、グリー将軍に暗殺の濡れ衣を着せたあと、よからぬことを画策しておりました。それを事前に察知したジュリエ様が、内密に魔物娘たちやその伴侶をジュリエ様の領地へ避難させ、自分とサーラさんもそこで身を隠しておりました。」

ジュリエもサーラも見たところ、人化の魔法を使っているのか、ヴァンパイアの特徴である犬歯や、メデューサの蛇体や髪の蛇は人間のそれに変わっている。
まだ、人化の魔法を使えるだけの魔力は残っているらしい。

「何とか、他国に援軍を求め、軍を編成しようにも、この街に結界らしきものが張ってあり、親魔物領の援軍も頼ることができないでいました。
しかし、グリー将軍らしき人物を見たと、内通者からの通達を見て、いてもたってもいられず、ここに来たのでございます。」

「正直、皆生きていないかと思って諦めていたが、本当によかった。しかし、軍は一体どうしてる?」

「はい、今、本拠地近くの駐屯地で待機をさせられています。
軍の兵士たち皆、シーカーの言うことを信じておりません。
将軍が生きていると分かれば、シーカーの手配した司令官の言うことなど聞きますまい。」

ゴドーの説明が終わると、今度は自分がというように、ジュリエが言った。

「今、政治家を買収して、グリーの自由を買う算段をしておりますわ。反魔物領の人間も紛れ込んでいるので、時間がかかってしまいました。」

どの国にも政治家というのは存在する。
基本、自分の保身を測りたい連中だ。
どっちつかずの態度を見せるなら、それ相応の利益を提示してやれば政治家は動く。
この貴族はそれがよく分かっていらっしゃる。
まぁ、忠誠心が厚い者なら話は別だが。

「それはありがたいですが、自分の正体がもうバレてしまった。恐らく、何らかを理由に自分を殺しにかかるでしょう。」

それは、まだ時間を稼げるかも、とサーラが言った。

「今の領民の心はグリーにあるの。
仲間を大切にして、自ら危険なところに飛び込んでいくグリーは今やこの国のヒーローになりつつあるから。
それに、この国の将軍だったってバレちゃったし。」

皆それぞれに動いて情報を集めてきてくれたことに胸が熱くなるのを感じるグリーだが、まだ問題はあった。

まず、1つが自由を買うということ。
金銭面に関しては、貴族であるジュエルに任せておけば大丈夫だろう。
しかし、反魔物領の人間が紛れ込んでいるというのが、気になる。

2つめが、自由になったあとの手引きだ。
反魔物派の勢力がいるとなると、それに関する武装勢力が少なからずいることになる。
となると、グリーを逃さないように動くことは確かだろう。

「とにかく、この計画は慎重に進めなくては・・・。」

「ゴドーの慎重論は、領地にいるときからずっと聞いておりましたが、事は急を要しておりますわ。あまり慎重になりすぎると手遅れになります。」

「でも、急いでも失敗するだけよ。今は出来る限りのことをしましょう。情報を集めるの。」

「皆、動いてくれるのは助かるが、無茶だけはしないで欲しい。もし、ダメだと思ったら・・・。」

グリーの言葉にそれぞれが笑みを浮かべて答えた。

「あんたは、落ち着いてドンと構えてたらいいの。ただ、変なことで死なないでよね!」

「その通りです。将軍が生きていてこその計画なのですから、将軍こそご無理をなさらずに。」

「この計画が成功した暁には、グリーの血を所望いたしますわ!」

「何を言ってるんですか!それってつまり、グリーをもらうってことでしょう!?」

「当たり前ですわ。私の伴侶はただひとりと決まっておりましてよ!」

「そんなの、私が許さないんだから!」

ギャーギャーと騒ぎながら面会室から出ていく2人。
その後ろ姿をグリーとゴドーは苦笑いして見つめた。


「軍を連れてくるだと?」

ジュリエたちとの密談を終え、グリーはプロキシマと話をしていた。
計画を実行するには、彼に話しておく必要があった。

「軍を連れてきて、貴様は一体どうするつもりなのだ?」

「この国を元の姿に戻します。」

「結果、貴様らに国を支配されれば、以前と同じようなことのように思うが?」

「国を解放したら、自分は軍を去ります。この国をどうするのかは、領民が決めること。軍は、国を守るため、この地に留まります。」

「・・・それを何の証拠もなしに信じろと?」

「人を信じた時期があったでしょう?」

「確かにそんな時期もあった。しかし、何事にも、それが信じるに値するモノかどうかを決める権利はある。それをどう証明する?」

「・・・・前領主様のご意思だからです。」

「・・・・・・・・。」

それを聞いたプロキシモは黙ったまま何度も頷き、グリーを帰した。


2回目の密談。
これが最後の手筈の確認だった。

「将軍。軍には私から信頼できる筋に話を通しておきました。将軍が帰還次第、命令権は将軍に移ります。」

「私も、政治家の買収は完了致しましたわ。グリーの自由も勿論ぬかりなくです。」

「あと、グリーの気になってた魔道具だけど、やっぱり運び込まれてたみたい。でも、場所まではわからなくて・・・。」

と、しょんぼりするサーラ。
自分だけあまり役に立たなかったと思っているのだろう。

グリーは、サーラを労うように、頭を優しく撫でた。

「ありがとう。それだけ分かれば十分だ。」

「子供扱い・・・しないでよ。」

恥ずかしそうにそっぽを向く。
声音は嫌がっている風に聞こえるが、顔は真っ赤で口元がニヤけそうになっているのを抑えようと必死になっているのがわかる。
髪の蛇も、グリーの手に巻き付いたり、スリついたり彼女の心情を表しているかのようだ。

まぁ、話はそれで終わらないわけでありまして。

「私も頑張ったのですから、ご褒美が欲しいですわ!」

「あ、はい。分かりました。」

貴族の女性でも慕っている男性が頭ナデナデをしているところを見て、羨ましく思うのは仕方がないこと。
と、空いている方の手をジュエルの頭に乗せて、こちらも優しく撫でる。

貴族のお嬢様にこんなことをしてもいいのかと文句を言われそうではあるが、その肝心なお嬢様はというと。

「(*´ω`*)」

すごく喜んでいらしておいででした。
もう、口が『ω』の時点で、お察しである。

そんな和む雰囲気になっているところ、こほん!とゴドーがあからさまな咳払いをした。
心和ませる雰囲気から緊張に満ちた雰囲気に変わる。

「あとは、将軍の脱出経路ですが・・・。」

ゴドーがそれだけ言うと、グリーの後ろにいる人物に目を向けた。
プロキシモである。

「ふん・・・!」

明らかに不機嫌そうな表情だが、その右手には鍵の束が握られていた。

「これが檻の鍵だ。」

「・・・ありがとう。」

受け取るグリー。
どうしてプロキシモがここにいるのか。
それは、グリーの脱出のためだった。

グリーの自由の権利は、もうすでにジュリエの手にあった。
それはグリーの自由を意味するのだが、それを許すほど、シーカーは甘くはない。
政治家を買収することは、そうそう隠せることではない。

シーカーはグリーを逃さないように近衛兵の軍を組織。
捕まえようと動き始めたのだ。

しかも、それは今夜決行という情報を掴んだ。
時間がほとんど残されていなかった。

何とか時間稼ぎをするしかない。
そのためには、剣闘士の力を借りるしかない。
プロキシモに話を通したのはそのためだった。

しかし、この話はプロキシモには何の利益も無い話。
なぜ、計画に協力しようと思ったのか、理由は分からない。

「・・・プロキシモ。」

「本当の自由を掴め。」

それだけ言って去っていった。
13/10/30 22:49更新 / 心結
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