銀色の角笛 下
銀色の角笛 下
トランペット奏者だった富岡・景(トミオカ・ケイ)は実力で評価されずに、経歴や人間関係ばかりが尊重される腐敗した日本の音楽業界に失望していた。
そんな時に出会ったのが異界の門の向こう側の世界で " フォンティーヌ・スミス " と言うメーカーが作ったフルハンドメイドのトランペットだった。その銀色の角笛に魅入られた彼は紆余曲折の後、異界の扉を潜り、異世界に。アルカナ合衆国、ニューシャテリア・シティのブルックス67番地にある小さな楽器工場の門を叩いた。
そこで名も無き楽器職人"トミー"としての第二の人生が始まった。
トミーは職人の先輩であるサイクロプスのセシリア・スミスの家に寝泊まりしながら仕事をしている。
朝7時に起床。朝食はセシリアとの当番制。
8時半に出社。
9時に仕事が始まる。
12時に昼食。近くの店ですませる。
1時に仕事再開。
5時に仕事が終わる。その後、セシリアやナナリーに菅の曲げ方やベルの作り方や楽器修理の技術を教わる。
一通り終わったら、トランペットの練習を少し。セシリアはその間、トミーの側でずっと聴いている。
7時に会社を出て、近くの店で買い物を済ませ、家に帰り、軽めの夕食を食べ、シャワーを浴びて寝る。
休日はひたすら楽器作りの勉強。
これがルーティンになった。
さて、フォンティーヌ・スミス社の自社工場には、新参者のトミーを含めて97人の楽器職人がいる。と言っても3名いるマエストロ以外は各部専属かリペアマン(金管楽器専門の医者)で、1〜10まで楽器を1人で作れるのは親方であるナナリーと、彼女の旦那さんのロバートと、セシリアの3人のマエストロだけだ。
トミーが1番最初に任された仕事は楽器の選定だった。
トランペットやトロンボーン等の金管楽器は楽器本体が組み上がると息漏れが無いか、ピストンや抜き差し菅は問題無いかを徹底的に調べる。その後に鍍金を施すのだ。
真っさらの真鍮の楽器を吹いてみて、響きや癖を確かめて、その楽器にふさわしい鍍金をつける。鍍金をしない方がいい場合もある。そこはカンが頼りの職人仕事だ。
鍍金を施した後にも鍍金のムラを見たり、吹いてみて楽器の響きを確認し、必要なら調整。それでようやくケースに入れられ、楽器店に並ぶ。
サテンのままなら暗く柔らかい音に。
ラッカーなら優しい音に。
シルバーなら華やかでよく通る音に。
ゴールドなら明るく煌びやかな音に。
そして、特別出来の良い楽器には必ずミスリル(魔界銀)を施した。
ミスリル鍍金の楽器はサテン、ラッカー、シルバー、ゴールドの全ての要素を高レベルで含んでいる。正に特別な楽器だ。
♪〜……♪♪♪……
『……少し頑固だね。でも、誠実。決して奏者を裏切らない。キミはシルバーが良い。』
♪♪♪♪♪〜……
『キミは……明るくて、優しい。お日さまみたいだ。……ゴールドが良いかな。』
この仕事はトミーに合っていた。類い稀なる演奏技術に、少々ナイーブな芸術家的性格に起因する強烈なシナスタジア(共感覚)を持ちいて楽器の個体差を正確に見抜いた。
その選定のクオリティは親方のナナリーに異次元と言わしめた。
トミーの選定した楽器はフルハンドメイドの高価な楽器でもすぐに売れた。そう言う訳で、ナナリーから選定の仕事を任された1ヶ月後にはトミーが工場で作られた全てのトランペットとコルネット(トランペットの仲間) 、フユーゲルホルン(同じく)の選定するようになっていた。
トミーは選定の仕事をしながら次々に楽器職人の技術を身につけていった。
『凄いな、トミー。もうそんな事まで出来るのか?こんな短期間でどうやって憶えたんだい?』
ある日、旋盤でピストン(トランペットに付いてるボタンの内部)の削り出しをしていると世話焼きのロバートがトミーにそう話しかけた。
『……音を憶えるんです。……ハンマーで叩いた時のリズムや、音。指先から伝わってくる金属の響き……とか。親方やロバートさんや……セシリアのを聴いて……同じ綺麗な音がするように……。』
それを聞いたロバートは『凄いぞトミー!』と笑いながら彼の背中をバシバシ叩いた。
そうして、トミーがやって来て1年があっという間に過ぎて行った。
その日はビザの更新に行った帰りだった。
ブルックスから少し遠いニューシャテリア・シティーの中心に行ったので、お土産を買ってセシリアの家に戻ると美しいトランペットの音色が聴こえて来た。
『セシリア?ただいま。』
『……お帰りなさい。……あの……聴こえてた?』
セシリアは少し気恥ずかしそうに顔を赤くしている。
『うん。凄く上手だね。』
すると彼女は首を横に振った。
『……トミーと比べると……ぜんぜん。』
彼女はそう呟くと、持っている鈍い銀色のトランペットに視線を落とした。
『……今までは……楽器の選定が……出来るくらい……吹ければ……それで良いと……思ってた。……でも、アナタの音を……近くで聴いて……今は……少し……少しだけ……もっと上手くなりたい。……そう思うんだ…………』
そうして少しづつ顔を上げたセシリアの大きなひとつ目の瞳は、真剣に真っ直ぐにトミーを見ていた。
『良ければ……楽器の吹き方……教えて欲しい……』
『わかった。僕で良ければ……でもハイスクールとか、セカンダリー(中学生)の初心者の子達に時々教えてただけだから、上手く教えられないかも。それでもいいかい?』
『……うん!……じゃあ……よろしくね……先生♪』
『うん……先生か……。ははっ……楽器作りではセシリアが先生なのに、なんかおかしいね。』
トミーとセシリアは目を見合わせて笑い合った。
それから、彼らの1週間のスケジュールに休日のトランペット・レッスンが加わった。
『じゃあ、今のところをもう一度。』
『うん……』
♪〜♪♪♪〜♪♪♪♪♪♪〜.……
♪〜♪♪♪〜♪♪♪♪♪♪〜.……
近くの公園にトランペットの音色がふたつ。トミーは早速、次の休みにセシリアにトランペットを教えていた。
『セシリア、一回やめて。……少し、力が入ってる。リラックス。唇に頼りすぎているから、もっと息を沢山使って吹いて。それから……セシリア、君のパートを歌ってみて?』
『うん?……歌?』
セシリアは歌えと言われて少しキョトンとしてる。
『そう。1回楽器を置いて歌って?』
『う……うん。♪〜♪♪♪〜♪♪♪♪♪♪〜.……あっ……』
セシリアはさっきトミーに止められた所の音程が取れていなかった。
『ありがとう。ねぇ、セシリア?……トランペットは歌と一緒なんだ。違うのは唇を震わせるか、声帯を震わせるかだけなんだよ。だから、現実にセシリアが歌えた所はトランペットでも問題無かった。』
『うん。』
『反対に、良く吹けない所は音が取れていなかったでしょ?』
『そう……だね。』
『声で歌うのと同じように演奏すれば良いんだよ。こんな感じで……♪〜♪♪♪〜♪♪♪♪♪♪〜』
トミーの歌声は優しいテノールで、その声はまるでお日さまと緑の中に溶けていくようだった。
トミーの歌を聴いてセシリアは歌手としてもやっていけたのではないかと思った。
『それで、楽器で吹くと……♪〜♪♪♪〜♪♪♪♪♪♪〜.……こんな感じ。歌で出来る事は楽器でも出来るんだ。でも、歌で出来ない事は楽器でも出来ないんだ。トランペットを演奏する時は歌うように吹いてごらん?じゃあ、もう一度声で歌ってみようか。こんどはもう少し大きな声で。』
『は、はい。…♪〜♪♪♪〜♪♪♪♪♪♪〜.……』
そうして何回か歌って、セシリアはようやく合格点をトミーからもらう事が出来た。
『じゃあ、楽器でやってごらん?』
『は、はい。……♪〜♪♪♪〜♪♪♪♪♪♪〜.…!?できた……凄い!出来たっ!!凄いよトミー!!』
セシリアは目を輝かせながらトミーに抱きついた。
『うわっ!?』
普段物静かな彼女がこんなに嬉しそうにするのが珍しく、トミーは少し戸惑ってしまった。
『あ……ごめん……つい……その……う、嬉しくて……』
『う、うん……』
彼は彼女の意外な一面を見る事が出来た喜びをそっと心の中にしまった。
『えっと……もう譜面の心配は無いと思うから、アンサンブルのコツを教えるね?……それは責任を果たす事と、相手を思い遣る事。』
『責任を果たす事……思い遣る事……』
『そう。トランペット奏者はソロでも必ず、オーケストラだったり、ピアニストやオルガニスト、アンサンブルのメンバーと一緒なんだ。僕にとって今、世界でたったひとりのアンサンブルの相手がセシリアで、セシリアにとっては僕なんだ。自分の吹く音に責任を持って、パートナーを思い遣る。そうして、素晴らしい音楽が出来るんだと思うよ。……じゃあ、もう一度合わせて見ようか?』
『はい。……よろしくお願いします。』
ふたりはトランペットを構えると、トミーの合図で少しだけ頬を赤く染めたセシリアが息を吸う。
スゥ……
スゥ……
♪〜♪♪♪〜♪♪♪♪♪♪〜.……
♪〜♪♪♪〜♪♪♪♪♪♪〜.……
そうして産まれたのはふたつのトランペットが奏でる美しいコラールだった。
それから、休日のレッスンを通してトミーとセシリアの距離はぐっと縮まった。距離が縮まる程にトミーはセシリアの起伏の少ない表情を読み取れる様になっていった。
以前は口数が少なくて素っ気なく見えるセシリアに、トミーは少し苦手意識があった。しかし、今ではセシリアの事を冷淡な女性では無いと彼は理解している。恥ずかしがり屋で引っ込み事案だけど、温厚で誠実で優しく、情の深い女性である事を彼は知る事が出来た。
トミーは彼女を知る度に、彼女の事を好きになっていった。
そしてまた時が流れ、ある秋の日……
夕方5時。仕事が終わり、今日2人はこのまま帰るのでナナリーに挨拶をしに行った時の事。
『親方……お疲れ様でした。』
『お!トミー!いい時に来た!……このトロンボーンなんだが、良い出来なんだけど、ゴールドか……それともミスリルか……うーむ……』
親方が持っているのは、組み上げ仕立てのトロンボーンだった。スライドにはサクバット(トロンボーンのご先祖さま)みたいに脱着式のバーが付いている。親方はこのバーでトロンボーンの試奏をしている。
これなら体の小さな種族でも扱えるのだ。
『悪いけど、ちょっと音を聴いてくれないかい?……音に関してはアンタが1番だ!残って具れないかい?』
『あ、はい、わかりました。』
『おぉ!ありがとよ!!と、言うわけでセシリア!ちょっとトミーを借りるよ!?』
『えっ……あ……はい…………』
『ごめんセシリアちょっと残っていくね。』
『う、うん……』
少し残念そうに返事をするとセシリアは工場を後にした。
トミーが帰宅したのは親方の選定を手伝い、帰宅したのは何時もより2時間程遅くなった。
『ただいま。遅くなりました。……あれ?』
ドアを開けて声を掛けるも、返事は無い。
『セシリア……ただいま……』
荷物を玄関先に置いてリビングに入る。セシリアの姿は無かった。彼女は疲れて先に寝てしまったのか、テーブルの上にはスープの入った鍋とバケット、それからチーズが置いてあった。
少し冷めてしまったスープを見て、ちょっとバツが悪さを感じたトミーはポリポリと頬を掻いた。
『……トミー……は……トミー……ん……』
すると、トミーの耳にセシリアの声が聞こえてきた。苦しそうなぐもったセシリアの声に彼は心配になってセシリアの寝室のドアをガチャリと開けた。
『セシリア!大丈夫!?……あっ……』
『…………………………』
大きく見開かれたセシリアのひとつ目と目があった。
彼女はひとりでシている最中だった。
『え……あっ……その……セ、セシリア?』
世界が静止する。沈黙の後、涙を浮かべたひとつ目の瞳はぐるぐると渦巻いて、セシリアの青い肌がみるみる赤くなっていく。
『うわぁぁあああああああああ!!!!!』
バタン!!
『セシリア!!』
セシリアはそのまま悲鳴を上げて、家を飛び出してしまった。
『……弱ったなぁ。』
トミーは頭を抱えながらキャスケットを被り上着を羽織るとブーツを吐き直してセシリアを追った。
セシリアの生き方は非常にシンプルだ。
工場で働き、夕方いつもの店で買い物か近くのレストランで食事をして家に帰る。休日は公園。
彼女が逃げた先は工場か公園で、公園にはいなかった。
いつもの店も閉まっていて、レストランも休業日だ。
トミーは急いで工場に戻った。
『……お疲れさん。トミー。』
汗だくトミーが肩で息をしながらドアを開けるとナナリーとロバートがレジに座って帳面の書き入れをしていた。
『おぉ、トミー。お前さんが来てから楽器の売り上げが良くなってる。で……どうした?そんなに慌てて……忘れ物か?』
ロバートさんが書類を整理しながらトミーに声をかけた。
『……セシリア……セシリアが来ませんでしたか?』
『ははっ、そりゃ大きな忘れ物だ。大丈夫。セシリアなら、さっき来たよ。奥の部屋だ。』
それを聞いたトミーがほっと胸を撫で下ろす。
『少し落ち着いたか?……ナナリー、話があるんだろ?後は俺がやっておくから、向こうで話して来な。』
トミーはナナリーに促されて工場の奥に入っていった。トミーの背中に『頑張りな……』とロバートから声がぽすりと投げかけられた。
工場の奥、小さな椅子に座りナナリーはコーヒーを入れて持って来た。
『いゃあー夜は冷えるねぇ。……何があったか大体の察しはつくけどさぁ。一応聞いておくよ。どうしたんだい?』
奥へ入るなりナナリーはトミーにそう聞いた。
『……その……セシリアがひとりでシテいるところを見てしまったんです。それで……』
『あぁ、はいはい。わかったわかった。それで飛び出して来たって訳だ。……懐かしいねぇ、アタシにもそんなウブな時分があったよ……。』
そう言ってナナリーはコーヒーをすする。
『……で、アンタはどうしたいのさ?』
『あの……どうって?』
ナナリーは大きなため息をひとつ吐いた。
『おいおい……幾らなんでもそこまで鈍いとは思わなかったよ……朴念仁もここまで来ると朴念神だ。セシリアの好きかどうか聞いてるんだよ。』
その瞬間、トミーの顔が真っ赤になった。
『アンタをセシリアに会わせるのは簡単だよ。でもね?それを確認しない限り、アンタをセシリアに会わせる訳にゃあいかないんだよ。……で、どうなんだい?』
『あ、あの……その…………』
ぷちっ……ガタン!!
『あぁ!メンドクセーー!!愛してんのか、愛してねぇのか、ハッキリしやがれ!!!』
『あ、愛してますっ!!』
『ヤリたいってことでいいんだな!!??』
『えっっ!??……えっと……そのっ……』
『ヤリたいんだな!!??』
『ヤリ……たい……です…………』
『声が小さい!!……ヤ・リ・た・い・ん・だ・な!!??』
『ヤ、ヤリたいですっっ!!!』
トミーは今、茹でダコよりも酷い有り様だ。
ナナリーはそんなトミーに笑顔を向けた。
『……じゃあ、簡単じゃないか。行って抱き締めておやり。』
『で、でも……僕は自分に自信が持て無くて……』
ナナリーはそっとトミーの肩に手を置いた。
『それはセシリアも一緒だよ。あの娘も自分に自信がなくて、臆病で、引っ込み事案で……。好きな人に好きだって言えない。そう言う不器用な娘なんだよ。アンタ達はソックリだね。』
『好きな人……?』
『朴念神だねぇ……セシリアはアンタが好きなんだよ!』
『……え!?』
『え!?……じゃないよ!好きでもない男と一緒にひとつ屋根の下で暮らそうなんてバカな女が居ると思うのかい!?あの娘はアンタがやって来たその日からずーーっと、アンタの事が好きなんだよ。……わかったらキッチリ男を見せな!』
『はい……。でも……』
『でも、なんだい?』
『僕は……僕が嫌いです。まだ自分に自信を持てません。』
『……大丈夫だよ。きっと上手く行くさ。アンタはアンタが思っている以上にイイ男だ。ロバートの次にね!……セシリアは仮眠室にいるよ。鍵はこれ。中から鍵を掛けると防音と人払いの魔法がかかる。ひとつしかないから無くしたら承知しないよ?たまにアタシ達や他の奴らも使うから、きっちり掃除しておく事。じゃ、しっかりやりな!』
バシン!……とナナリーはトミーの背中を叩いた。トミーは仮眠室に向かって階段を上がって行った。
『……終わったかい?』
ロバートが後ろからナナリーにそう声を掛けた。
『あぁ……。』
『こっちも書類が終わったよ。……コレがいるだろ?』
歯に噛んで笑う彼の手にはブランデーのボトルとグラスがふたつ。
『ありがとう。……全く世話の焼けるねぇ。アイツら面倒だから、とっととくっついちまえば良いんだよ。』
ナナリーはグラスを受け取る。
『ははっ。……俺たちの若い頃にそっくりだよ。俺もああやって結婚する前、ウジウジしてたらフォンティーヌさんに"惚れた女をモノにしたきゃ男を見せな!"って背中をバシン!ってやられたなぁ……。』
ロバートはブランデーの蓋をキュポンと開けた。
『ホント、そっくりだよ。……ねぇ、アンタ?』
『ん?なんだい?』
作業台に置かれたナナリー用の小さなグラスに琥珀色の液体が注がれていく。
『トミーが来た日、あのトランペットを持ってるのを見た時、アタシ正直驚いたんだよ。』
何かを懐かしむようなナナリーはポケットからタバコとマッチを取り出して、くわえたタバコにシュポっと火をつける。
『あれか……確か20年前、セシリアが一人前になった日に作った楽器だったね?』
傍にあった灰皿を寄せてロバートはそれをナナリーの手元に置いた。
『おっ……ありがと。ふぅー……そうそう!好きに作って良いって言ったら、セシリアは鍍金用の魔界銀まで全部使っちまったんだ!……おかげで向こう3カ月ミスリル鍍金の楽器が作れなくなった。……でも、凄く良い出来の楽器だった。』
『流石は、フォンティーヌさんの娘だと思ったよ。でも……』
ロバートは自分のグラスにブランデーを注いだ。
『ふぅ〜……純魔界銀の楽器。セシリアのありったけの魔力と想いを受けて出来たトランペットはセシリア以外音を鳴らせなかった。』
コトリと瓶が作業台に置かれた。
『……もし音を鳴らせる人が居たら、そいつはセシリアの運命の人だってフォンティーヌさんは言ってたなぁ。』
ロバートの言葉を聞いて、ナナリーの目は何処か遠くをみるようだった。
『その相手がまさか異世界にいたとはねぇ……。それもとびきり特別な音を持ってた。……運命……か……。』
『ナナリー、どうしたんだい?』
『ねぇ、アンタ……人生って……不思議だねぇ。』
『そうだね。』
『……祝おうか。セシリアとトミーの未来に。』
『フォンティーヌ・スミス社の未来に。』
『『乾杯』』
キン…………
あれ、ツマミは?
ごめん、忘れてた。……俺じゃダメか?
もう!……いいよ。
。
。
。
。
階段を上がって角の部屋。トミーはノックを4回。
『セシリア……』
中に入ると涙目のセシリアが仮眠室のベッドにちょこんと腰掛けていた。部屋の中には机に置かれたランプがひとつ。トミーはそれ以上何も言わずに内側のドアに鍵を差し込んでガチャリと捻り、彼女の隣に腰掛けた。
沈黙ばかりが時を数えて行く。
ふたりは耳はお互いの心臓の音が聴こえている。
トミーがふとセシリアを見ると、彼女は俯いて手を固く握っていた。
ゆっくりと、ゆっくりと、恐る恐るトミーはセシリアの手に手を伸ばした。
触れる瞬間、セシリアの肩が強張り、けれども固く握られていた手が少しずつ解けていって、今度はトミーの手を逃がさないように、指と指を絡ませて固く握った。
『……私……私……トミーに……嫌われたと……思った……。キモチワルイ……って……思われたら……どうしよう……って……肌も青いし……ひとつ目だし……んん!??』
トミーはセシリアの口を塞ぐように彼女の唇を奪った。
『セシリア……僕は君の事が好きだ。気持ち悪くなんかないし、君は……その……とても綺麗だよ。その青い肌も綺麗だと思うし、大きな金色の瞳も好きだ。……相手を気遣って黙ってしまうところとか、優しくて不器用な性格とか。』
『トミー……』
『僕は僕が嫌いで……自身が持て無くて、ずっと何かに後悔していて。……今でもそうだ。……だから、もうあの時こうしていたらって思いはしたくない。』
『トミー……わたしも……トミーが好き……うわぁぁあああんん!!』
セシリアはトミーに抱きついて泣いた。
そうしてしばらくして、セシリアが落ち着いた頃……
『トミー……あの……当たってる……。』
『あ……ご、ごめん……。』
『ねぇ……トミーは……わたしで……いいの?』
『セシリアがいい。セシリアじゃなきゃダメなんだ。』
『そっか……嬉しい……ねぇ……しよっか……?』
『……う……うん……』
無言の小さな部屋に布が擦れる音と、ベルトの金具が外れる音が鳴る。その状況が2人の頬を赤く染める。
2人は産まれたままの姿になってベッドの上で向きあった。
セシリアはサイクロプスと言う種族故に少々大柄であるが、作業着からは伺う事が出来ない豊満な胸、括れた腰、安産方のまろい尻を持っていた。
トミーはその美しく、豊かな肢体にぼぅっと見つめていた。
『その……見られると……は、恥ずかしい……』
セシリアの声に我を取り戻した彼は途端に気恥ずかしくなる。
『……セシリア……その……よろしくお願いします。』
『はい……。』
合わさるふたつの唇。先程の合わせるだけのキスから徐々に口が開かれて、舌を絡ませていくいやらしいキスに変わっていく。
息をするのも忘れてふたりは唇での行為に没頭した。
『『ぷはっ……』』
キスが終わった頃、ふたりの思考はピンク色に染め上げられていた。
『セシリア……僕……』
『うん……わたしも……もう……』
セシリアはトミーに押し倒されるように後ろに倒れた。
そしていよいよ……
トミーは自分の分身をあてがうと、セシリアの手を指を絡ませるように握った。
『セシリア……あ、愛してる!!』
『へっ!??……ぁぁああああああ❤❤❤』
入れた瞬間、セシリアの身体が痙攣した。
『はんしょくぅ❤……それっ……はんしょくうぅぅぅ❤』
セシリアとトミーの繋がりからは純潔を散らした証の一筋の赤い雫が。
彼女の快楽に蕩ける目と表情を見て欲望の火に油が注がれる。
『セシリアっ!』
『トミー❤……トミー❤んんっ……』
気を抜けば直ぐに果ててしまいそう。しかし、もうどうにもならない。トミーは欲望のままセシリアを抱いて、セシリアはトミーから与えられる快楽を貪る。
豊満な胸を揉みしだき、口を重ねて、指を絡ませ合う。鼓動と共に乾いた音が速度を増していく。
『トミー❤抱きしめてっ❤ぎゅってしてっ❤❤』
トミーの背中にセシリアの足が回される。
『セシリア!セシリアぁっ!!』
『トミー❤……あっ……トミー❤』
お互いの与え合う快楽に翻弄されて、息も絶え絶えできつく抱きしめていないと自我が保てそうになかった。
ふたりはぴったりと抱き合って、唇と唇を重ねて舌を絡ませ合う。セシリアの中はトミーでいっぱいで、隙間がなく、子宮と鈴口までぴったりと収まっている。
そして、そのまま……
ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドク!!!
『『ーーーーーーーーーーーーっ!!!!』』
魂が抜け出すほどの快楽の波が押し寄せ、それに呑まれ、2人は呆気なく果ててしまった。
絶頂を極めてもふたりはそのまま抱き合ったまま、気怠く心地よい睡魔の中で一緒に夢へと旅立った。
。
。
。
。
ふたりは狭い仮眠室のベッドで優しさを持ち寄って微睡んでいる。
『……あの楽器を……トミーが……持って来た日……運命だと……思った……』
するとセシリアがぽつりと言葉を吐いた。
『うん……』
『私の家は……代々……鍛治職人の家系で……おばあちゃんの……クレモンティーヌおばあちゃんの代まで……剣や……槍を作っていたの……』
『うん……』
『でも……剣や槍は……勇者や……一部の魔物娘だけしか……使わなくなって……ほら……あのヒト達は……銃を使うより……そっちのほうが強いから……』
『うん……』
『剣や槍が要らない時代になって……音楽が好きなお母さんは……楽器を作った……』
『……もしかして、セシリアのお母さんの名前って……』
『うん。フォンティーヌ・スミス……お母さんは……この工場で楽器を作ったんだ……』
『うん……』
『私が……楽器職人として……一人前になった時……一本のトランペットを作ったの……それが……』
『僕の楽器……』
『そう……あの日……あなたが持っていた楽器……シリアル7906 アルティザン・モデル。凄く良い出来だった。……けど……試奏の時……わたし以外……誰にも吹けなかった……』
『……普通に吹けるよ?』
『うん……そうだね……だからなの……その昔……私たち……サイクロプスは……運命の相手に……剣を作っていた……運命の人を……守ってくれるようにって……』
『うん……』
『誰も吹けない楽器を見て……お母さんが言ってたの……[楽器が人を選ぶ。だから、おまえの作ったその楽器が、おまえの運命の人を選んで導いてくれるだろう]……って……。だから……あなたは……私の運命……。今……私は……幸せ……』
『……僕も……幸せだよ。』
。
。
。
。
ふふふ♪それで、トミーは程なくしてセシリアと結婚したのさ。
それから彼は職人として大成した。
美しい音を作る。
彼の情熱と聴覚。そして強烈な共感覚に手先が追いついたのさ。
マエストロの仲間入りを果たすとトミーは次々と新しいものを生み出した。
彼がこの街に来る以前、フォンティーヌ・スミス社の職人達が作るアルティザン・モデルのラインナップはB♭(変イ調)トランペットしかなかったけど、彼は新しくC(ハ調)トランペットを作り、D管、E♭管、それからピッコロトランペットの製作に乗り出したんだ。
中でもD(ニ調)管、E♭(変ホ調)管、それからピッコロトランペットはトミーのプレイヤーとしての要望が詰まった物になっているようだ。
ピッコロトランペットはバロック時代の音楽で良く使うだろ?
だからより当時の楽器に近い音質を目指す為に、パイプの曲げを最低限に抑えて、組み立て式のロングベルを採用したようだ。この楽器はマウスパイプ(歌口菅)を入れ替える事でA(イ調)管とB♭管に対応するらしい。
それから特に彼が力を注いだのがD管とE♭管のトランペットなんだ。
気になるかい?
彼は職人達のノウハウを活かす為に、楽器の型を既存のB♭管からほとんど変えずに、楽器本体のクルーク(抜き差しチューニング管)を入れ替える事でD管とE♭管を入れ替えるシステムを採用したんだ。
クルーク・システムの出来は素晴らしく、受注生産ながら多くの一流プレイヤーを魅了した。プレイヤー達は Tommy・K ……そう刻印が付いた楽器の特別なクルークをトミー・ケー・パイプと……そう呼んでるんだ。
なんで知ってるんだだって?
ふたりはこの店の常連さんだからさ。
ふふふ♪……驚いてるね?
あのレコードはフォティーヌ社の新しい楽器の宣伝用のデモ演奏さ。レコードが楽器店に配られて直ぐにトミーの元に演奏依頼が殺到したらしい。
演奏家としても彼は成功したんだ。
嬉しそうだね?
ん?トミー氏に伝言かい?わかった。今、紙とペンを……
……お待たせ。どうぞ?
ふむ………
"君は自分の道を見つけて、幸せになれたようだね。友人として心から嬉しく思う。"
わかった。次に彼らが来たら必ず伝えておくよ。
さて、雨が止んだね?
行くのかい?気をつけて……
またのお越しを。

ミスタ・フリードマン……
銀色の角笛 おわり
トランペット奏者だった富岡・景(トミオカ・ケイ)は実力で評価されずに、経歴や人間関係ばかりが尊重される腐敗した日本の音楽業界に失望していた。
そんな時に出会ったのが異界の門の向こう側の世界で " フォンティーヌ・スミス " と言うメーカーが作ったフルハンドメイドのトランペットだった。その銀色の角笛に魅入られた彼は紆余曲折の後、異界の扉を潜り、異世界に。アルカナ合衆国、ニューシャテリア・シティのブルックス67番地にある小さな楽器工場の門を叩いた。
そこで名も無き楽器職人"トミー"としての第二の人生が始まった。
トミーは職人の先輩であるサイクロプスのセシリア・スミスの家に寝泊まりしながら仕事をしている。
朝7時に起床。朝食はセシリアとの当番制。
8時半に出社。
9時に仕事が始まる。
12時に昼食。近くの店ですませる。
1時に仕事再開。
5時に仕事が終わる。その後、セシリアやナナリーに菅の曲げ方やベルの作り方や楽器修理の技術を教わる。
一通り終わったら、トランペットの練習を少し。セシリアはその間、トミーの側でずっと聴いている。
7時に会社を出て、近くの店で買い物を済ませ、家に帰り、軽めの夕食を食べ、シャワーを浴びて寝る。
休日はひたすら楽器作りの勉強。
これがルーティンになった。
さて、フォンティーヌ・スミス社の自社工場には、新参者のトミーを含めて97人の楽器職人がいる。と言っても3名いるマエストロ以外は各部専属かリペアマン(金管楽器専門の医者)で、1〜10まで楽器を1人で作れるのは親方であるナナリーと、彼女の旦那さんのロバートと、セシリアの3人のマエストロだけだ。
トミーが1番最初に任された仕事は楽器の選定だった。
トランペットやトロンボーン等の金管楽器は楽器本体が組み上がると息漏れが無いか、ピストンや抜き差し菅は問題無いかを徹底的に調べる。その後に鍍金を施すのだ。
真っさらの真鍮の楽器を吹いてみて、響きや癖を確かめて、その楽器にふさわしい鍍金をつける。鍍金をしない方がいい場合もある。そこはカンが頼りの職人仕事だ。
鍍金を施した後にも鍍金のムラを見たり、吹いてみて楽器の響きを確認し、必要なら調整。それでようやくケースに入れられ、楽器店に並ぶ。
サテンのままなら暗く柔らかい音に。
ラッカーなら優しい音に。
シルバーなら華やかでよく通る音に。
ゴールドなら明るく煌びやかな音に。
そして、特別出来の良い楽器には必ずミスリル(魔界銀)を施した。
ミスリル鍍金の楽器はサテン、ラッカー、シルバー、ゴールドの全ての要素を高レベルで含んでいる。正に特別な楽器だ。
♪〜……♪♪♪……
『……少し頑固だね。でも、誠実。決して奏者を裏切らない。キミはシルバーが良い。』
♪♪♪♪♪〜……
『キミは……明るくて、優しい。お日さまみたいだ。……ゴールドが良いかな。』
この仕事はトミーに合っていた。類い稀なる演奏技術に、少々ナイーブな芸術家的性格に起因する強烈なシナスタジア(共感覚)を持ちいて楽器の個体差を正確に見抜いた。
その選定のクオリティは親方のナナリーに異次元と言わしめた。
トミーの選定した楽器はフルハンドメイドの高価な楽器でもすぐに売れた。そう言う訳で、ナナリーから選定の仕事を任された1ヶ月後にはトミーが工場で作られた全てのトランペットとコルネット(トランペットの仲間) 、フユーゲルホルン(同じく)の選定するようになっていた。
トミーは選定の仕事をしながら次々に楽器職人の技術を身につけていった。
『凄いな、トミー。もうそんな事まで出来るのか?こんな短期間でどうやって憶えたんだい?』
ある日、旋盤でピストン(トランペットに付いてるボタンの内部)の削り出しをしていると世話焼きのロバートがトミーにそう話しかけた。
『……音を憶えるんです。……ハンマーで叩いた時のリズムや、音。指先から伝わってくる金属の響き……とか。親方やロバートさんや……セシリアのを聴いて……同じ綺麗な音がするように……。』
それを聞いたロバートは『凄いぞトミー!』と笑いながら彼の背中をバシバシ叩いた。
そうして、トミーがやって来て1年があっという間に過ぎて行った。
その日はビザの更新に行った帰りだった。
ブルックスから少し遠いニューシャテリア・シティーの中心に行ったので、お土産を買ってセシリアの家に戻ると美しいトランペットの音色が聴こえて来た。
『セシリア?ただいま。』
『……お帰りなさい。……あの……聴こえてた?』
セシリアは少し気恥ずかしそうに顔を赤くしている。
『うん。凄く上手だね。』
すると彼女は首を横に振った。
『……トミーと比べると……ぜんぜん。』
彼女はそう呟くと、持っている鈍い銀色のトランペットに視線を落とした。
『……今までは……楽器の選定が……出来るくらい……吹ければ……それで良いと……思ってた。……でも、アナタの音を……近くで聴いて……今は……少し……少しだけ……もっと上手くなりたい。……そう思うんだ…………』
そうして少しづつ顔を上げたセシリアの大きなひとつ目の瞳は、真剣に真っ直ぐにトミーを見ていた。
『良ければ……楽器の吹き方……教えて欲しい……』
『わかった。僕で良ければ……でもハイスクールとか、セカンダリー(中学生)の初心者の子達に時々教えてただけだから、上手く教えられないかも。それでもいいかい?』
『……うん!……じゃあ……よろしくね……先生♪』
『うん……先生か……。ははっ……楽器作りではセシリアが先生なのに、なんかおかしいね。』
トミーとセシリアは目を見合わせて笑い合った。
それから、彼らの1週間のスケジュールに休日のトランペット・レッスンが加わった。
『じゃあ、今のところをもう一度。』
『うん……』
♪〜♪♪♪〜♪♪♪♪♪♪〜.……
♪〜♪♪♪〜♪♪♪♪♪♪〜.……
近くの公園にトランペットの音色がふたつ。トミーは早速、次の休みにセシリアにトランペットを教えていた。
『セシリア、一回やめて。……少し、力が入ってる。リラックス。唇に頼りすぎているから、もっと息を沢山使って吹いて。それから……セシリア、君のパートを歌ってみて?』
『うん?……歌?』
セシリアは歌えと言われて少しキョトンとしてる。
『そう。1回楽器を置いて歌って?』
『う……うん。♪〜♪♪♪〜♪♪♪♪♪♪〜.……あっ……』
セシリアはさっきトミーに止められた所の音程が取れていなかった。
『ありがとう。ねぇ、セシリア?……トランペットは歌と一緒なんだ。違うのは唇を震わせるか、声帯を震わせるかだけなんだよ。だから、現実にセシリアが歌えた所はトランペットでも問題無かった。』
『うん。』
『反対に、良く吹けない所は音が取れていなかったでしょ?』
『そう……だね。』
『声で歌うのと同じように演奏すれば良いんだよ。こんな感じで……♪〜♪♪♪〜♪♪♪♪♪♪〜』
トミーの歌声は優しいテノールで、その声はまるでお日さまと緑の中に溶けていくようだった。
トミーの歌を聴いてセシリアは歌手としてもやっていけたのではないかと思った。
『それで、楽器で吹くと……♪〜♪♪♪〜♪♪♪♪♪♪〜.……こんな感じ。歌で出来る事は楽器でも出来るんだ。でも、歌で出来ない事は楽器でも出来ないんだ。トランペットを演奏する時は歌うように吹いてごらん?じゃあ、もう一度声で歌ってみようか。こんどはもう少し大きな声で。』
『は、はい。…♪〜♪♪♪〜♪♪♪♪♪♪〜.……』
そうして何回か歌って、セシリアはようやく合格点をトミーからもらう事が出来た。
『じゃあ、楽器でやってごらん?』
『は、はい。……♪〜♪♪♪〜♪♪♪♪♪♪〜.…!?できた……凄い!出来たっ!!凄いよトミー!!』
セシリアは目を輝かせながらトミーに抱きついた。
『うわっ!?』
普段物静かな彼女がこんなに嬉しそうにするのが珍しく、トミーは少し戸惑ってしまった。
『あ……ごめん……つい……その……う、嬉しくて……』
『う、うん……』
彼は彼女の意外な一面を見る事が出来た喜びをそっと心の中にしまった。
『えっと……もう譜面の心配は無いと思うから、アンサンブルのコツを教えるね?……それは責任を果たす事と、相手を思い遣る事。』
『責任を果たす事……思い遣る事……』
『そう。トランペット奏者はソロでも必ず、オーケストラだったり、ピアニストやオルガニスト、アンサンブルのメンバーと一緒なんだ。僕にとって今、世界でたったひとりのアンサンブルの相手がセシリアで、セシリアにとっては僕なんだ。自分の吹く音に責任を持って、パートナーを思い遣る。そうして、素晴らしい音楽が出来るんだと思うよ。……じゃあ、もう一度合わせて見ようか?』
『はい。……よろしくお願いします。』
ふたりはトランペットを構えると、トミーの合図で少しだけ頬を赤く染めたセシリアが息を吸う。
スゥ……
スゥ……
♪〜♪♪♪〜♪♪♪♪♪♪〜.……
♪〜♪♪♪〜♪♪♪♪♪♪〜.……
そうして産まれたのはふたつのトランペットが奏でる美しいコラールだった。
それから、休日のレッスンを通してトミーとセシリアの距離はぐっと縮まった。距離が縮まる程にトミーはセシリアの起伏の少ない表情を読み取れる様になっていった。
以前は口数が少なくて素っ気なく見えるセシリアに、トミーは少し苦手意識があった。しかし、今ではセシリアの事を冷淡な女性では無いと彼は理解している。恥ずかしがり屋で引っ込み事案だけど、温厚で誠実で優しく、情の深い女性である事を彼は知る事が出来た。
トミーは彼女を知る度に、彼女の事を好きになっていった。
そしてまた時が流れ、ある秋の日……
夕方5時。仕事が終わり、今日2人はこのまま帰るのでナナリーに挨拶をしに行った時の事。
『親方……お疲れ様でした。』
『お!トミー!いい時に来た!……このトロンボーンなんだが、良い出来なんだけど、ゴールドか……それともミスリルか……うーむ……』
親方が持っているのは、組み上げ仕立てのトロンボーンだった。スライドにはサクバット(トロンボーンのご先祖さま)みたいに脱着式のバーが付いている。親方はこのバーでトロンボーンの試奏をしている。
これなら体の小さな種族でも扱えるのだ。
『悪いけど、ちょっと音を聴いてくれないかい?……音に関してはアンタが1番だ!残って具れないかい?』
『あ、はい、わかりました。』
『おぉ!ありがとよ!!と、言うわけでセシリア!ちょっとトミーを借りるよ!?』
『えっ……あ……はい…………』
『ごめんセシリアちょっと残っていくね。』
『う、うん……』
少し残念そうに返事をするとセシリアは工場を後にした。
トミーが帰宅したのは親方の選定を手伝い、帰宅したのは何時もより2時間程遅くなった。
『ただいま。遅くなりました。……あれ?』
ドアを開けて声を掛けるも、返事は無い。
『セシリア……ただいま……』
荷物を玄関先に置いてリビングに入る。セシリアの姿は無かった。彼女は疲れて先に寝てしまったのか、テーブルの上にはスープの入った鍋とバケット、それからチーズが置いてあった。
少し冷めてしまったスープを見て、ちょっとバツが悪さを感じたトミーはポリポリと頬を掻いた。
『……トミー……は……トミー……ん……』
すると、トミーの耳にセシリアの声が聞こえてきた。苦しそうなぐもったセシリアの声に彼は心配になってセシリアの寝室のドアをガチャリと開けた。
『セシリア!大丈夫!?……あっ……』
『…………………………』
大きく見開かれたセシリアのひとつ目と目があった。
彼女はひとりでシている最中だった。
『え……あっ……その……セ、セシリア?』
世界が静止する。沈黙の後、涙を浮かべたひとつ目の瞳はぐるぐると渦巻いて、セシリアの青い肌がみるみる赤くなっていく。
『うわぁぁあああああああああ!!!!!』
バタン!!
『セシリア!!』
セシリアはそのまま悲鳴を上げて、家を飛び出してしまった。
『……弱ったなぁ。』
トミーは頭を抱えながらキャスケットを被り上着を羽織るとブーツを吐き直してセシリアを追った。
セシリアの生き方は非常にシンプルだ。
工場で働き、夕方いつもの店で買い物か近くのレストランで食事をして家に帰る。休日は公園。
彼女が逃げた先は工場か公園で、公園にはいなかった。
いつもの店も閉まっていて、レストランも休業日だ。
トミーは急いで工場に戻った。
『……お疲れさん。トミー。』
汗だくトミーが肩で息をしながらドアを開けるとナナリーとロバートがレジに座って帳面の書き入れをしていた。
『おぉ、トミー。お前さんが来てから楽器の売り上げが良くなってる。で……どうした?そんなに慌てて……忘れ物か?』
ロバートさんが書類を整理しながらトミーに声をかけた。
『……セシリア……セシリアが来ませんでしたか?』
『ははっ、そりゃ大きな忘れ物だ。大丈夫。セシリアなら、さっき来たよ。奥の部屋だ。』
それを聞いたトミーがほっと胸を撫で下ろす。
『少し落ち着いたか?……ナナリー、話があるんだろ?後は俺がやっておくから、向こうで話して来な。』
トミーはナナリーに促されて工場の奥に入っていった。トミーの背中に『頑張りな……』とロバートから声がぽすりと投げかけられた。
工場の奥、小さな椅子に座りナナリーはコーヒーを入れて持って来た。
『いゃあー夜は冷えるねぇ。……何があったか大体の察しはつくけどさぁ。一応聞いておくよ。どうしたんだい?』
奥へ入るなりナナリーはトミーにそう聞いた。
『……その……セシリアがひとりでシテいるところを見てしまったんです。それで……』
『あぁ、はいはい。わかったわかった。それで飛び出して来たって訳だ。……懐かしいねぇ、アタシにもそんなウブな時分があったよ……。』
そう言ってナナリーはコーヒーをすする。
『……で、アンタはどうしたいのさ?』
『あの……どうって?』
ナナリーは大きなため息をひとつ吐いた。
『おいおい……幾らなんでもそこまで鈍いとは思わなかったよ……朴念仁もここまで来ると朴念神だ。セシリアの好きかどうか聞いてるんだよ。』
その瞬間、トミーの顔が真っ赤になった。
『アンタをセシリアに会わせるのは簡単だよ。でもね?それを確認しない限り、アンタをセシリアに会わせる訳にゃあいかないんだよ。……で、どうなんだい?』
『あ、あの……その…………』
ぷちっ……ガタン!!
『あぁ!メンドクセーー!!愛してんのか、愛してねぇのか、ハッキリしやがれ!!!』
『あ、愛してますっ!!』
『ヤリたいってことでいいんだな!!??』
『えっっ!??……えっと……そのっ……』
『ヤリたいんだな!!??』
『ヤリ……たい……です…………』
『声が小さい!!……ヤ・リ・た・い・ん・だ・な!!??』
『ヤ、ヤリたいですっっ!!!』
トミーは今、茹でダコよりも酷い有り様だ。
ナナリーはそんなトミーに笑顔を向けた。
『……じゃあ、簡単じゃないか。行って抱き締めておやり。』
『で、でも……僕は自分に自信が持て無くて……』
ナナリーはそっとトミーの肩に手を置いた。
『それはセシリアも一緒だよ。あの娘も自分に自信がなくて、臆病で、引っ込み事案で……。好きな人に好きだって言えない。そう言う不器用な娘なんだよ。アンタ達はソックリだね。』
『好きな人……?』
『朴念神だねぇ……セシリアはアンタが好きなんだよ!』
『……え!?』
『え!?……じゃないよ!好きでもない男と一緒にひとつ屋根の下で暮らそうなんてバカな女が居ると思うのかい!?あの娘はアンタがやって来たその日からずーーっと、アンタの事が好きなんだよ。……わかったらキッチリ男を見せな!』
『はい……。でも……』
『でも、なんだい?』
『僕は……僕が嫌いです。まだ自分に自信を持てません。』
『……大丈夫だよ。きっと上手く行くさ。アンタはアンタが思っている以上にイイ男だ。ロバートの次にね!……セシリアは仮眠室にいるよ。鍵はこれ。中から鍵を掛けると防音と人払いの魔法がかかる。ひとつしかないから無くしたら承知しないよ?たまにアタシ達や他の奴らも使うから、きっちり掃除しておく事。じゃ、しっかりやりな!』
バシン!……とナナリーはトミーの背中を叩いた。トミーは仮眠室に向かって階段を上がって行った。
『……終わったかい?』
ロバートが後ろからナナリーにそう声を掛けた。
『あぁ……。』
『こっちも書類が終わったよ。……コレがいるだろ?』
歯に噛んで笑う彼の手にはブランデーのボトルとグラスがふたつ。
『ありがとう。……全く世話の焼けるねぇ。アイツら面倒だから、とっととくっついちまえば良いんだよ。』
ナナリーはグラスを受け取る。
『ははっ。……俺たちの若い頃にそっくりだよ。俺もああやって結婚する前、ウジウジしてたらフォンティーヌさんに"惚れた女をモノにしたきゃ男を見せな!"って背中をバシン!ってやられたなぁ……。』
ロバートはブランデーの蓋をキュポンと開けた。
『ホント、そっくりだよ。……ねぇ、アンタ?』
『ん?なんだい?』
作業台に置かれたナナリー用の小さなグラスに琥珀色の液体が注がれていく。
『トミーが来た日、あのトランペットを持ってるのを見た時、アタシ正直驚いたんだよ。』
何かを懐かしむようなナナリーはポケットからタバコとマッチを取り出して、くわえたタバコにシュポっと火をつける。
『あれか……確か20年前、セシリアが一人前になった日に作った楽器だったね?』
傍にあった灰皿を寄せてロバートはそれをナナリーの手元に置いた。
『おっ……ありがと。ふぅー……そうそう!好きに作って良いって言ったら、セシリアは鍍金用の魔界銀まで全部使っちまったんだ!……おかげで向こう3カ月ミスリル鍍金の楽器が作れなくなった。……でも、凄く良い出来の楽器だった。』
『流石は、フォンティーヌさんの娘だと思ったよ。でも……』
ロバートは自分のグラスにブランデーを注いだ。
『ふぅ〜……純魔界銀の楽器。セシリアのありったけの魔力と想いを受けて出来たトランペットはセシリア以外音を鳴らせなかった。』
コトリと瓶が作業台に置かれた。
『……もし音を鳴らせる人が居たら、そいつはセシリアの運命の人だってフォンティーヌさんは言ってたなぁ。』
ロバートの言葉を聞いて、ナナリーの目は何処か遠くをみるようだった。
『その相手がまさか異世界にいたとはねぇ……。それもとびきり特別な音を持ってた。……運命……か……。』
『ナナリー、どうしたんだい?』
『ねぇ、アンタ……人生って……不思議だねぇ。』
『そうだね。』
『……祝おうか。セシリアとトミーの未来に。』
『フォンティーヌ・スミス社の未来に。』
『『乾杯』』
キン…………
あれ、ツマミは?
ごめん、忘れてた。……俺じゃダメか?
もう!……いいよ。
。
。
。
。
階段を上がって角の部屋。トミーはノックを4回。
『セシリア……』
中に入ると涙目のセシリアが仮眠室のベッドにちょこんと腰掛けていた。部屋の中には机に置かれたランプがひとつ。トミーはそれ以上何も言わずに内側のドアに鍵を差し込んでガチャリと捻り、彼女の隣に腰掛けた。
沈黙ばかりが時を数えて行く。
ふたりは耳はお互いの心臓の音が聴こえている。
トミーがふとセシリアを見ると、彼女は俯いて手を固く握っていた。
ゆっくりと、ゆっくりと、恐る恐るトミーはセシリアの手に手を伸ばした。
触れる瞬間、セシリアの肩が強張り、けれども固く握られていた手が少しずつ解けていって、今度はトミーの手を逃がさないように、指と指を絡ませて固く握った。
『……私……私……トミーに……嫌われたと……思った……。キモチワルイ……って……思われたら……どうしよう……って……肌も青いし……ひとつ目だし……んん!??』
トミーはセシリアの口を塞ぐように彼女の唇を奪った。
『セシリア……僕は君の事が好きだ。気持ち悪くなんかないし、君は……その……とても綺麗だよ。その青い肌も綺麗だと思うし、大きな金色の瞳も好きだ。……相手を気遣って黙ってしまうところとか、優しくて不器用な性格とか。』
『トミー……』
『僕は僕が嫌いで……自身が持て無くて、ずっと何かに後悔していて。……今でもそうだ。……だから、もうあの時こうしていたらって思いはしたくない。』
『トミー……わたしも……トミーが好き……うわぁぁあああんん!!』
セシリアはトミーに抱きついて泣いた。
そうしてしばらくして、セシリアが落ち着いた頃……
『トミー……あの……当たってる……。』
『あ……ご、ごめん……。』
『ねぇ……トミーは……わたしで……いいの?』
『セシリアがいい。セシリアじゃなきゃダメなんだ。』
『そっか……嬉しい……ねぇ……しよっか……?』
『……う……うん……』
無言の小さな部屋に布が擦れる音と、ベルトの金具が外れる音が鳴る。その状況が2人の頬を赤く染める。
2人は産まれたままの姿になってベッドの上で向きあった。
セシリアはサイクロプスと言う種族故に少々大柄であるが、作業着からは伺う事が出来ない豊満な胸、括れた腰、安産方のまろい尻を持っていた。
トミーはその美しく、豊かな肢体にぼぅっと見つめていた。
『その……見られると……は、恥ずかしい……』
セシリアの声に我を取り戻した彼は途端に気恥ずかしくなる。
『……セシリア……その……よろしくお願いします。』
『はい……。』
合わさるふたつの唇。先程の合わせるだけのキスから徐々に口が開かれて、舌を絡ませていくいやらしいキスに変わっていく。
息をするのも忘れてふたりは唇での行為に没頭した。
『『ぷはっ……』』
キスが終わった頃、ふたりの思考はピンク色に染め上げられていた。
『セシリア……僕……』
『うん……わたしも……もう……』
セシリアはトミーに押し倒されるように後ろに倒れた。
そしていよいよ……
トミーは自分の分身をあてがうと、セシリアの手を指を絡ませるように握った。
『セシリア……あ、愛してる!!』
『へっ!??……ぁぁああああああ❤❤❤』
入れた瞬間、セシリアの身体が痙攣した。
『はんしょくぅ❤……それっ……はんしょくうぅぅぅ❤』
セシリアとトミーの繋がりからは純潔を散らした証の一筋の赤い雫が。
彼女の快楽に蕩ける目と表情を見て欲望の火に油が注がれる。
『セシリアっ!』
『トミー❤……トミー❤んんっ……』
気を抜けば直ぐに果ててしまいそう。しかし、もうどうにもならない。トミーは欲望のままセシリアを抱いて、セシリアはトミーから与えられる快楽を貪る。
豊満な胸を揉みしだき、口を重ねて、指を絡ませ合う。鼓動と共に乾いた音が速度を増していく。
『トミー❤抱きしめてっ❤ぎゅってしてっ❤❤』
トミーの背中にセシリアの足が回される。
『セシリア!セシリアぁっ!!』
『トミー❤……あっ……トミー❤』
お互いの与え合う快楽に翻弄されて、息も絶え絶えできつく抱きしめていないと自我が保てそうになかった。
ふたりはぴったりと抱き合って、唇と唇を重ねて舌を絡ませ合う。セシリアの中はトミーでいっぱいで、隙間がなく、子宮と鈴口までぴったりと収まっている。
そして、そのまま……
ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドク!!!
『『ーーーーーーーーーーーーっ!!!!』』
魂が抜け出すほどの快楽の波が押し寄せ、それに呑まれ、2人は呆気なく果ててしまった。
絶頂を極めてもふたりはそのまま抱き合ったまま、気怠く心地よい睡魔の中で一緒に夢へと旅立った。
。
。
。
。
ふたりは狭い仮眠室のベッドで優しさを持ち寄って微睡んでいる。
『……あの楽器を……トミーが……持って来た日……運命だと……思った……』
するとセシリアがぽつりと言葉を吐いた。
『うん……』
『私の家は……代々……鍛治職人の家系で……おばあちゃんの……クレモンティーヌおばあちゃんの代まで……剣や……槍を作っていたの……』
『うん……』
『でも……剣や槍は……勇者や……一部の魔物娘だけしか……使わなくなって……ほら……あのヒト達は……銃を使うより……そっちのほうが強いから……』
『うん……』
『剣や槍が要らない時代になって……音楽が好きなお母さんは……楽器を作った……』
『……もしかして、セシリアのお母さんの名前って……』
『うん。フォンティーヌ・スミス……お母さんは……この工場で楽器を作ったんだ……』
『うん……』
『私が……楽器職人として……一人前になった時……一本のトランペットを作ったの……それが……』
『僕の楽器……』
『そう……あの日……あなたが持っていた楽器……シリアル7906 アルティザン・モデル。凄く良い出来だった。……けど……試奏の時……わたし以外……誰にも吹けなかった……』
『……普通に吹けるよ?』
『うん……そうだね……だからなの……その昔……私たち……サイクロプスは……運命の相手に……剣を作っていた……運命の人を……守ってくれるようにって……』
『うん……』
『誰も吹けない楽器を見て……お母さんが言ってたの……[楽器が人を選ぶ。だから、おまえの作ったその楽器が、おまえの運命の人を選んで導いてくれるだろう]……って……。だから……あなたは……私の運命……。今……私は……幸せ……』
『……僕も……幸せだよ。』
。
。
。
。
ふふふ♪それで、トミーは程なくしてセシリアと結婚したのさ。
それから彼は職人として大成した。
美しい音を作る。
彼の情熱と聴覚。そして強烈な共感覚に手先が追いついたのさ。
マエストロの仲間入りを果たすとトミーは次々と新しいものを生み出した。
彼がこの街に来る以前、フォンティーヌ・スミス社の職人達が作るアルティザン・モデルのラインナップはB♭(変イ調)トランペットしかなかったけど、彼は新しくC(ハ調)トランペットを作り、D管、E♭管、それからピッコロトランペットの製作に乗り出したんだ。
中でもD(ニ調)管、E♭(変ホ調)管、それからピッコロトランペットはトミーのプレイヤーとしての要望が詰まった物になっているようだ。
ピッコロトランペットはバロック時代の音楽で良く使うだろ?
だからより当時の楽器に近い音質を目指す為に、パイプの曲げを最低限に抑えて、組み立て式のロングベルを採用したようだ。この楽器はマウスパイプ(歌口菅)を入れ替える事でA(イ調)管とB♭管に対応するらしい。
それから特に彼が力を注いだのがD管とE♭管のトランペットなんだ。
気になるかい?
彼は職人達のノウハウを活かす為に、楽器の型を既存のB♭管からほとんど変えずに、楽器本体のクルーク(抜き差しチューニング管)を入れ替える事でD管とE♭管を入れ替えるシステムを採用したんだ。
クルーク・システムの出来は素晴らしく、受注生産ながら多くの一流プレイヤーを魅了した。プレイヤー達は Tommy・K ……そう刻印が付いた楽器の特別なクルークをトミー・ケー・パイプと……そう呼んでるんだ。
なんで知ってるんだだって?
ふたりはこの店の常連さんだからさ。
ふふふ♪……驚いてるね?
あのレコードはフォティーヌ社の新しい楽器の宣伝用のデモ演奏さ。レコードが楽器店に配られて直ぐにトミーの元に演奏依頼が殺到したらしい。
演奏家としても彼は成功したんだ。
嬉しそうだね?
ん?トミー氏に伝言かい?わかった。今、紙とペンを……
……お待たせ。どうぞ?
ふむ………
"君は自分の道を見つけて、幸せになれたようだね。友人として心から嬉しく思う。"
わかった。次に彼らが来たら必ず伝えておくよ。
さて、雨が止んだね?
行くのかい?気をつけて……
またのお越しを。

ミスタ・フリードマン……
銀色の角笛 おわり
20/07/23 13:53更新 / francois
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