首なし騎士の断頭台 (デュラハン)上
首無し騎士の断頭台
ダン……ダカダカダン……ザーーーッ、ダン……ダカダカダン……ザーーーッ、ダン……
『歩け……』
ジャラ……
『くっ……』
魔物国ノーマンズランドの国立闘技場前の大通りには真紅の絨毯が敷き詰められている。兵士が叩くスネアドラムの勇ましい音と白昼の光の中、鎖に繋がれて引き摺られるように罪人が歩いている。
私こと国家拷問官ベンジャミン・シュバルツ・リヒターは助手であり、従僕であり、愛すべき伴侶であるダフネと共にゆっくりと後ろから歩く。サキュバスらしい陰惨な笑みを浮かべて私に寄り添っている。
愚かな民衆は楽しくて仕方がないと言う様子で大通りの両端から身を乗り出して白昼堂々、物見の真っ最中だ。私が元いたベルモンテ王国にもこういった"催し物"があったがここまで悪趣味で楽しげで享楽じみてはいなかった。
あれが勇者か!
見た?なんて凶悪そうな顔だ……
なんと恐ろしい……
などと罵詈雑言が聞こえてくる。鎖に繋がれているのはツェーリ自由中立国の女勇者ヒルダ・ベルリオーズだ。銃と銃剣術の名手で"マスケット"の異名を持つ。
なぜ、こいつが鎖に付きになったか。それは少し前に遡る。
オランジュ独立戦争後、ランドル・ファラン王国の侵攻を受けた主神教国であるベルモンテ王国は、オランジュ公国に駐屯していた魔王軍の援軍を受け、渋々ながら共闘。辛くもこれを撃退した。
が……その後、魔王軍は手の平を返すようにオランジュ独立戦争介入とベルモンテ防衛戦争で弱り切ったベルモンテ王国に攻め入った。
女勇者ヒルダ・ベルリオーズは私の元雇い主であるベルモンテ国王に雇われたツェーリ傭兵団に所属する女勇者で、律儀にも王城前に陣を敷き、数少ない仲間と共に王都を包囲した魔王軍を相手取った。血の輸出とはよく言ったものだ。ツェーリの傭兵は金さえ払えば人魔を問わず、どの国にも、どの勢力にも、どんな戦争にも兵を送る。それがツェーリ自由中立国の国益になる。例えそれが負け戦であっても……
ヒルダは仲間たちと共に魔王軍に立ち塞がり、一騎当千獅子奮迅の活躍を見せるも最後にはドラゴンのハフナー将軍が放った魔界銀の弾丸に倒れた。
勇者という頼みの綱を失ったベルモンテ王国は呆気なく降伏し、王国はカルミナというリリムの手に落ち、ヒルダはオーベルシュタイン司教らと共に魔王軍に囚われた。
その後、囚われの女勇者を私の現在の雇い主であり、魔王の娘リリム・カルミナの姉君であり、ここノーマンズランド国主であらせられるカタリナ殿下の独断と偏見と気まぐれでベルモンテ王国より移送された。
ククク……憐れとしか言いようが無い。
元は美しいであろう亜麻色の髪は薄汚れ、ぼろぼろの布切れにも等しい服を纏い、鎖に繋がれて歩く彼女の首には聖女のメダイが輝いている。彼女の件を聞いた折、先日の拷問ショーで屠ったオーベルシュタインと同様に敬虔な主神教徒の勇者のまま連れて来いとダフネに命じてある。獄中での魔界産の食事を辞めさせ、彼女に聖典と法具を与えたところ、私の目論見通りに彼女は敬虔な主神教信者のまま、気高い勇者のままで私の前に現れた。
ジャラッ!!
ドサッ……
『とっとと立て!』
ギチッ!
ヒルダが転び、兵士は引き摺る様に無理矢理に引き起こす。その顔からは生気は感じられないが、勇者の証しである金色の瞳だけが爛々と輝いている。いまだ主神を信じ、奇跡を願い、なけなしだが希望を持っているのだろう。
いい……実にいい……。ククク……どうか精々頑張ってそのなけなしの希望を……虚しい願いを……薄っぺらい信仰を持ち続けてくれ。
口端を歪めずにはいられない自分自身に気づく。ダフネの笑い方が移ったのか、今私はさぞ酷い顔をしている事だろう。
やがて罪人を連れた一行は大通りを渡り、観客でごった返したノーマンズランド国立闘技場へ到着した。紅い絨毯は闘技場中央まで敷かれていて、両端にずらりとマスケット銃を構えた魔王軍兵士が銃剣先を揃えて並んでいる。絨毯が行き着くその先には舞台が設けられ、断頭台が高々と聳え立っていた。
聖者様だ!
黒衣の聖者様だ!!
ベンジャミン様ー!!
舞台の階段を上がる私に、この魔物の国の愚かな民衆は諸手を上げて歓声を送りつけた。
続いてヒルダが鎖に引かれて舞台に上げられる。
ザザーーーーーーーーーーーーーッ、ダン!!
スネアドラムが勇ましく鳴る。すると辺りが静まり返った。
私は拷問師の証しである黒い法衣を翻し、両手を慈悲深い聖職者然として広げ、仰々しく頭を下げ、羊皮紙の巻物を読み上げる。
『これより、裁判を開廷する。被告人、勇者ヒルダ・ベルリオーズ!!先達ての旧ベルモンテ王国攻略戦の折、魔王軍の侵攻を阻み、ひいては魔王の娘たるカタリナ様、カルミナ様の両殿下に銃を向けたとし、これにより鞭打ち30回並びに首なし騎士の断頭台の刑に処す!!被告人、何か申し開きは?』
ブッ!
ビチャッ!
ヒルダが私の顔に唾を吐きかけた。瞬間、ダフネが怒りを放ったが、私が右手を上げ、それを制止する。
『……主神の裁きを怖れるがいい!』
クククク……。これだから、聖職者や勇者は楽しい。
『プロフィヴェーレ……(動くな』
と呪文を唱えると彼女は膝を折り動かなくなった。麻痺の魔法を改良したオリジナルの魔法だ。五感と意識を保ったまま、相手の動きを封じる。ピクリとも動けまい。
『くっ……!!』
私はヒルダに見せつけるように愛用の魔界銀で作られた薔薇鞭で頬をなぞる。
『ククッ……いい様だな……。さて、今日の仕事はお前を鞭で痛ぶった後、 "アレ" で素っ首を落としてお終いにする予定だったが気が変わった。ダフネ、インクを小樽一杯持って来い。』
ダフネは頭を下げると、インクを用意しに行った。
『これより、罪人に罰を与える!!!!』
ワァァァアアアアアアアア!!!!!!!
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
私はヒルダの着ている服を掴み、ビリビリと音を立てて引き千切る。あられもない姿になった女勇者が燃え盛るような金色の目で睨みつけるも最早、怖くも何ともない。彼女を繋いでいる鎖は主神から与えられた力を抑え込む特別製だ。
『さて……普通は、魔法陣術式を施す際には魔法のペンを使用するのだが……勇者のお前には生温いなぁ……』
『どういう……うぐゔゔゔぅぅぅぅ!!!』
『良い声で鳴くじゃあないか。その調子で頼む。』
『くっ……一思いに殺せ!!』
魔界銀製の短剣を、露出させた美しい背中にゴリゴリと肉を引く様に時間をかけてゆっくりと方陣を描く。短剣を進めるたびに彼女の肌から玉のような汗が吹き出す。魔法で身動き一つ取れないまま、健気にも魔界銀が与える灼けつくような感覚に耐えている。なんと泣かせてくれるのであろうか。
ちょうど方陣を書き終えた所でダフネが戻って来た。
『さあ、仕上げだ。』
『き、貴様……ゆるさぎゃぁぁあああ!!!!』
黒いインクを背中にザブリとかけると叫び声を上げた。ダフネめ……何かインクに混ぜたな?女が時折見せる残酷な眼差しで口端を吊り上げ笑っている。まぁいい……
ヒルダの背中に短剣で刻み付けた方陣がくっきりと浮かんだ。書き残しは無いようだ。これなら充分な効果が期待できる。
『ダフネ、そいつを吊るせ。』
『畏まりました。旦那様。』
磔の魔法を解き、手枷とを滑車に取り付け、足枷を重石に繋ぎ吊り上げ、布切れのよう残骸を取り払う。
インクで汚れてはいるが、均整の取れた美しい肢体だ。軍服を纏い、金髪を靡かせ、馬を駆る彼女をベルモンテ王国にいる時に見た事がある。パレードだったろうか?まるで御伽に出てくる英雄そのものの輝かしい栄光に満ち満ちた姿を覚えている。
運命とはなんと残酷であろう……
『さて、勇者ヒルダ・ベルリオーズ。お前に施した術式は3つだ。感覚や神経を鋭敏化、強化する術式。痛みや苦を快楽に変換する術式。そして、脳内麻薬の生成を促進する術式だ。』
『……それがどうした?』
『知りたいか?』
『………………』
人間の好奇心とはなんと素晴らしいのだろう。
『では、授業を始めよう……さて、ある程度発達した脳と神経回路を持つ生物が傷ついたり、痛みを感知するとその脳は麻薬に似た物質を生成して苦痛を和らげ、自身を守ろうとする。』
『…………?』
『そこで、先程お前に施した感覚強化術式で痛みを感じるレベルを強化し、次の変換術式で快楽に変える。しかし、痛みを快楽に変換したとはいえ、お前の脳には痛みを感知する場所に常軌を超えた刺激が行く。だから当然脳内麻薬が生成、分泌される。そこに脳内麻薬の分泌を補助する強化麻酔術式が加わると?』
ヒルダの顔がどんどん青ざめていく。
『そんな状態で鞭で打たれたらどうなるかな?……ククク。さあ、自分で自分の首を絞めて貰おうか?』
『この外道!!!』
『無様なお前は、無様に鞭で打たれ、無様に泣き、無様な姿を大衆に晒す。30回も鞭で打たれる頃には自分自身の脳ミソが出した麻薬に溺れ、何も分からなくなってるさ。そうしたら気持ち良く首を跳ねてやろう。』
ガシャン!ガシャン!ガシャン!
『主神よ!!主神よ!!お助け下さい!!何故ですか!!?何故降りて来られないのですか!!?』
クスクスクスクスクスクスクスクスクスクス
愚かな民衆はヒルダの取り乱す様子を見てせせら笑う。
主神を盲信する輩はこれだから困る。司教も勇者も変わらない。皆同じように喚き、同じように縋る。
『新約聖典マテウによる福音書27章42節……お前が誠の勇者であるのならば、自分を救ってみせろ……。今のお前にぴったりの言葉だよ。お前が主神を愛し、愛されてると言うのなら、主神が救ってくれるだろう。』
同じ事を言う事になるとは……なぁ、オーベルシュタイン先生……。
ヒルダの無様な様子を見て、あるいはこれから起こる事を想像してか民衆の期待が高まる。
『お前には人間様に使う鞭は勿体ない。馬や牛用ので十分だ。泣いてわめいて、豚のような声を上げろ。』
『地獄へ堕ちろ!!焼かれてしまえ!!お前も!お前も!皆焼かれてしまえ!!!』
私は乗馬鞭を取った。
ヒュパン!!
『ああああああああああああ!!!!』
ガクガクガクガクガクガクガクガク
アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
鞭ふるうと民衆から歓声と笑い声が巻き起こった。
ヒルダを繋ぐ鎖がガシャリ!と音を立ててゆれる。打った跡は綺麗なミミズ腫れとなり、背中には魔法陣が煌々と輝いてる。
『 1……なに、あとたったの29回だ。頑張れ。』
ヒュパン!!
『ああああ!!(なんで!?)』
ヒュパン!!
『あがぁあああ!!(なんで!?)』
ヒュパン!!
『ひぐぅぅうううう!!!(気持ちいいの!!?)』
ヒュパン!
ヒルダは馬用の鞭で打つ度に豚のような声を上げて良く泣いた。施した魔法陣の効果は上々でヒルダは顔や身体から出るあらゆる液体で汚れた。
しかし、8回打ったところで気絶してしまったので、雷の魔法を改良し神経回路に直接刺激を与え、混じりっ気無しの純粋な苦痛を与えるオリジナルの拷問魔法で叩き起こしたが、痛みや苦を快楽に変換する魔法陣が仇となり直ぐにまた気絶してしまい、起こすのに苦労した。
研究の余地がありそうだ。
『ぎゃあああああああああ!!!!!ひぐっ……は……ひっ…………っ…………』
『10……。さて、少し休憩しよう。良かったなぁ、あと20回で終わりだ。』
まさに息も絶え絶えといった様子だ。しかし……まぁ、予想はしていたが反応が単調になってきた。少し早いがつまらないので次の行程に入ろう。
合図を送ると、闘技場の扉の1つがゆっくりと開き、中から兵士に鎖で繋がれた男が入ってくる。ボロ布を纏った栗毛に青目の青年だ。酷く窶れ、ヒルダと同じく首には聖女のメダイがかかっている。
彼はヒルダの部下で、同じくツェーリ傭兵団に所属する若き軍人、ヘクトール・リッターマイヤーという。窶れてはいるが、軍人らしい端整な顔立ちだ。彼はヒルダの右腕と名高く、数多の戦場で苦楽を共にした。
それを虚ろな目で見ていたヒルダの表情がどんどん正気に戻っていく。
『へ……ヘクトール……?』
『ヒルダ!?ヒルダなのか!?』
私はヒルダの耳元で囁く。
『感動の再会だな。』
『あ……あ……ああああ!!見るな!!ヘクトール!!見ないでぇぇえええ!!!』
ヒルダの悲鳴を聞いたヘクトールは首を逸らし、目を固く閉ざした。それでは面白くない。私は右手を上げると兵士は彼を取り押さえた。
『クソッタレ!!……悪魔どもめ!!こんな事をして何になる!!』
もがきながらも目を閉ざしたままだ。流石、ツェーリの傭兵だけはある。
『プロフィヴェーレ……これで動けまい。兵士諸君、彼の目を開いて首をこちらに向けろ。』
ヒルダに掛けた魔法と同じ拘束呪文を唱えるとヘクトールはピクリとも動けなくなった。兵士達は命令通りに彼の目を無理矢理開かせ、こちらに向ける。
『くっ……ん?……あんたは、見覚があるぞ?確か、黒衣の聖者……高等審問官のベンジャミン神父!?何故此処に!?……裏切ったのか!!』
『ほう?私も有名だな。しかし……裏切ったとは人聞きが悪い。色々と事情があるのだよ。さて……こんな事をして何になるだと?……ククク……民衆が喜ぶのさ。』
ヒュパン!!
『ぁぁぁああああああああ!!!!』
『やめろ!!ベンジャミン!!やめてくれ!!こんなものを見せないでくれ!!!!』
ヒュパン!!!
『い"ぐぁぁあ"ああ!!!……あひ……うっ……』
魔法陣が輝き、増幅された痛みを快楽に変換し脳みそを自らが分泌する麻薬で侵していく。ヒルダはションベンを漏らし、無様なアヘ顔を晒しながら泣き喚きイキ狂っている。最早、正気を保ってはなく、目は焦点が合わずに虚空を見つめていた。
拘束呪文に逆らえず、それを泣きながら見ていたヘクトールの逸物はギンギンにいきり勃っている。
『30……さて、鞭打ちは終わった。最終審判を!!!』
私はこの国の国主、リリムであらせられるカタリナ殿下へ手を向け少々大袈裟に跪くと、しどけなく横たわっていた殿下はゆっくりと立つと、幕屋から出てと優雅に両腕を広げた。
ザザッ!!!
その場に居る全ての者がカタリナ殿下に頭を垂れ、また彼女を見る。
殿下はしどけなく優雅に両腕を前に広げると、少しばかり何かを思う様な間を置き、そして怖気を振るう美しくも残虐な笑みを浮かべて親指を立て、首の前を掻き切る様に動かし、その指を地面に向けた。
その瞬間、全ての者が闘技場に聳える断頭台を見た。あるものは好奇の目で。あるものは哀れみの目で。
ザザーーーーーーーーーーーーーーーー…………
兵士のドラムが一斉に鳴り響く。
『先の戦争でカタリナ、カルミナ両殿下に逆らい、魔王軍へ銃を向けた罪!ベルモンテ兵を率いた罪!正義の侵略を阻んだ罪!勇者である罪!敬虔なる西方主神教信者である罪!人間の雌である罪!諸々の罪状につき有罪とし国主殿下の承認の下、勇者ヒルダ・ベルリオーズを首なし騎士の断頭台に処す。……いと慈悲深い堕落の神よ、この罪深き魂を救いたまえ……』
ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ
三日月型のギロチンの刃がゆっくりと引き上げられる。
『これは邪魔になるな……』
ジャリン……
ヒルダの髪を掴みナイフで引き裂くと、はらりと亜麻色の髪が落ちていく。この切れ味……リビヤの理髪師でもこうはいくまい。
ギィ…………ガコン!
ヒルダは引き摺られるように連れられ、ギロチンの枷に括られる。
『止めろ!やめてくれ!!くそっ!!くそっ!!!』
自身の最後を悟ったヒルダが眼下のヘクトールを虚ろな目で、しかし、しっかりと見つめている。
『ご……めん……なさ……い……ヘクトール……。わ……たし……先に……主……神……様の……所……に……』
『ヒル……ダ……?』
『ヘク……トール……わ……たし……は……あなた……を…………』
シュ……
ザン!!
ゴトン……
『ヒルダーーーーーーー!!!!!!』
『五月蝿いよお前等……』
ザザーーーーーーーーーーーーーーーーー………………
パパーーーン!パパーーーン!パパパパパ、パーーン、パーーン、パーーン、パーーン、パパーーーーーン!!!!
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ…………
ワァァァァアアアアアアア!!!!!!
トランペットのファンファーレがけたたましく鳴り響き、民衆は感性を送る。勇者の死に喜びを表す。
私は首を拾い上げ、民衆に見せつけるとカタリナ殿下は微笑みを私に送ってくださった。
さて、これをご覧の諸君。ここまでならごくごく普通のギロチン処刑だが、ここは魔物の国……カタリナ殿下が治めるノーマンズランド。
この国の名前にはいくつか意味がある。
何者でも無い者達の国(ノーマンズ・ランド)。故に誰にでもなれる国。
そして……
人間のいない魔物達の国(ノー・マンズランド)。
故にこの国に入った人間は男ならすべからく魔物娘の伴侶となり、インキュバスに成り果て、女ならばすべからく魔物娘により魔物娘へと成り果てる。
魔物娘は死を許さない。悲劇を許さない。快楽を望み、享楽を求め、永遠の愛を渇望する。……そんな彼女達がただの処刑など許す筈は無い。ただの処刑ならばなぁ……
これから、何が起きるか楽しみだろ?
ダン……ダカダカダン……ザーーーッ、ダン……ダカダカダン……ザーーーッ、ダン……
『歩け……』
ジャラ……
『くっ……』
魔物国ノーマンズランドの国立闘技場前の大通りには真紅の絨毯が敷き詰められている。兵士が叩くスネアドラムの勇ましい音と白昼の光の中、鎖に繋がれて引き摺られるように罪人が歩いている。
私こと国家拷問官ベンジャミン・シュバルツ・リヒターは助手であり、従僕であり、愛すべき伴侶であるダフネと共にゆっくりと後ろから歩く。サキュバスらしい陰惨な笑みを浮かべて私に寄り添っている。
愚かな民衆は楽しくて仕方がないと言う様子で大通りの両端から身を乗り出して白昼堂々、物見の真っ最中だ。私が元いたベルモンテ王国にもこういった"催し物"があったがここまで悪趣味で楽しげで享楽じみてはいなかった。
あれが勇者か!
見た?なんて凶悪そうな顔だ……
なんと恐ろしい……
などと罵詈雑言が聞こえてくる。鎖に繋がれているのはツェーリ自由中立国の女勇者ヒルダ・ベルリオーズだ。銃と銃剣術の名手で"マスケット"の異名を持つ。
なぜ、こいつが鎖に付きになったか。それは少し前に遡る。
オランジュ独立戦争後、ランドル・ファラン王国の侵攻を受けた主神教国であるベルモンテ王国は、オランジュ公国に駐屯していた魔王軍の援軍を受け、渋々ながら共闘。辛くもこれを撃退した。
が……その後、魔王軍は手の平を返すようにオランジュ独立戦争介入とベルモンテ防衛戦争で弱り切ったベルモンテ王国に攻め入った。
女勇者ヒルダ・ベルリオーズは私の元雇い主であるベルモンテ国王に雇われたツェーリ傭兵団に所属する女勇者で、律儀にも王城前に陣を敷き、数少ない仲間と共に王都を包囲した魔王軍を相手取った。血の輸出とはよく言ったものだ。ツェーリの傭兵は金さえ払えば人魔を問わず、どの国にも、どの勢力にも、どんな戦争にも兵を送る。それがツェーリ自由中立国の国益になる。例えそれが負け戦であっても……
ヒルダは仲間たちと共に魔王軍に立ち塞がり、一騎当千獅子奮迅の活躍を見せるも最後にはドラゴンのハフナー将軍が放った魔界銀の弾丸に倒れた。
勇者という頼みの綱を失ったベルモンテ王国は呆気なく降伏し、王国はカルミナというリリムの手に落ち、ヒルダはオーベルシュタイン司教らと共に魔王軍に囚われた。
その後、囚われの女勇者を私の現在の雇い主であり、魔王の娘リリム・カルミナの姉君であり、ここノーマンズランド国主であらせられるカタリナ殿下の独断と偏見と気まぐれでベルモンテ王国より移送された。
ククク……憐れとしか言いようが無い。
元は美しいであろう亜麻色の髪は薄汚れ、ぼろぼろの布切れにも等しい服を纏い、鎖に繋がれて歩く彼女の首には聖女のメダイが輝いている。彼女の件を聞いた折、先日の拷問ショーで屠ったオーベルシュタインと同様に敬虔な主神教徒の勇者のまま連れて来いとダフネに命じてある。獄中での魔界産の食事を辞めさせ、彼女に聖典と法具を与えたところ、私の目論見通りに彼女は敬虔な主神教信者のまま、気高い勇者のままで私の前に現れた。
ジャラッ!!
ドサッ……
『とっとと立て!』
ギチッ!
ヒルダが転び、兵士は引き摺る様に無理矢理に引き起こす。その顔からは生気は感じられないが、勇者の証しである金色の瞳だけが爛々と輝いている。いまだ主神を信じ、奇跡を願い、なけなしだが希望を持っているのだろう。
いい……実にいい……。ククク……どうか精々頑張ってそのなけなしの希望を……虚しい願いを……薄っぺらい信仰を持ち続けてくれ。
口端を歪めずにはいられない自分自身に気づく。ダフネの笑い方が移ったのか、今私はさぞ酷い顔をしている事だろう。
やがて罪人を連れた一行は大通りを渡り、観客でごった返したノーマンズランド国立闘技場へ到着した。紅い絨毯は闘技場中央まで敷かれていて、両端にずらりとマスケット銃を構えた魔王軍兵士が銃剣先を揃えて並んでいる。絨毯が行き着くその先には舞台が設けられ、断頭台が高々と聳え立っていた。
聖者様だ!
黒衣の聖者様だ!!
ベンジャミン様ー!!
舞台の階段を上がる私に、この魔物の国の愚かな民衆は諸手を上げて歓声を送りつけた。
続いてヒルダが鎖に引かれて舞台に上げられる。
ザザーーーーーーーーーーーーーッ、ダン!!
スネアドラムが勇ましく鳴る。すると辺りが静まり返った。
私は拷問師の証しである黒い法衣を翻し、両手を慈悲深い聖職者然として広げ、仰々しく頭を下げ、羊皮紙の巻物を読み上げる。
『これより、裁判を開廷する。被告人、勇者ヒルダ・ベルリオーズ!!先達ての旧ベルモンテ王国攻略戦の折、魔王軍の侵攻を阻み、ひいては魔王の娘たるカタリナ様、カルミナ様の両殿下に銃を向けたとし、これにより鞭打ち30回並びに首なし騎士の断頭台の刑に処す!!被告人、何か申し開きは?』
ブッ!
ビチャッ!
ヒルダが私の顔に唾を吐きかけた。瞬間、ダフネが怒りを放ったが、私が右手を上げ、それを制止する。
『……主神の裁きを怖れるがいい!』
クククク……。これだから、聖職者や勇者は楽しい。
『プロフィヴェーレ……(動くな』
と呪文を唱えると彼女は膝を折り動かなくなった。麻痺の魔法を改良したオリジナルの魔法だ。五感と意識を保ったまま、相手の動きを封じる。ピクリとも動けまい。
『くっ……!!』
私はヒルダに見せつけるように愛用の魔界銀で作られた薔薇鞭で頬をなぞる。
『ククッ……いい様だな……。さて、今日の仕事はお前を鞭で痛ぶった後、 "アレ" で素っ首を落としてお終いにする予定だったが気が変わった。ダフネ、インクを小樽一杯持って来い。』
ダフネは頭を下げると、インクを用意しに行った。
『これより、罪人に罰を与える!!!!』
ワァァァアアアアアアアア!!!!!!!
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私はヒルダの着ている服を掴み、ビリビリと音を立てて引き千切る。あられもない姿になった女勇者が燃え盛るような金色の目で睨みつけるも最早、怖くも何ともない。彼女を繋いでいる鎖は主神から与えられた力を抑え込む特別製だ。
『さて……普通は、魔法陣術式を施す際には魔法のペンを使用するのだが……勇者のお前には生温いなぁ……』
『どういう……うぐゔゔゔぅぅぅぅ!!!』
『良い声で鳴くじゃあないか。その調子で頼む。』
『くっ……一思いに殺せ!!』
魔界銀製の短剣を、露出させた美しい背中にゴリゴリと肉を引く様に時間をかけてゆっくりと方陣を描く。短剣を進めるたびに彼女の肌から玉のような汗が吹き出す。魔法で身動き一つ取れないまま、健気にも魔界銀が与える灼けつくような感覚に耐えている。なんと泣かせてくれるのであろうか。
ちょうど方陣を書き終えた所でダフネが戻って来た。
『さあ、仕上げだ。』
『き、貴様……ゆるさぎゃぁぁあああ!!!!』
黒いインクを背中にザブリとかけると叫び声を上げた。ダフネめ……何かインクに混ぜたな?女が時折見せる残酷な眼差しで口端を吊り上げ笑っている。まぁいい……
ヒルダの背中に短剣で刻み付けた方陣がくっきりと浮かんだ。書き残しは無いようだ。これなら充分な効果が期待できる。
『ダフネ、そいつを吊るせ。』
『畏まりました。旦那様。』
磔の魔法を解き、手枷とを滑車に取り付け、足枷を重石に繋ぎ吊り上げ、布切れのよう残骸を取り払う。
インクで汚れてはいるが、均整の取れた美しい肢体だ。軍服を纏い、金髪を靡かせ、馬を駆る彼女をベルモンテ王国にいる時に見た事がある。パレードだったろうか?まるで御伽に出てくる英雄そのものの輝かしい栄光に満ち満ちた姿を覚えている。
運命とはなんと残酷であろう……
『さて、勇者ヒルダ・ベルリオーズ。お前に施した術式は3つだ。感覚や神経を鋭敏化、強化する術式。痛みや苦を快楽に変換する術式。そして、脳内麻薬の生成を促進する術式だ。』
『……それがどうした?』
『知りたいか?』
『………………』
人間の好奇心とはなんと素晴らしいのだろう。
『では、授業を始めよう……さて、ある程度発達した脳と神経回路を持つ生物が傷ついたり、痛みを感知するとその脳は麻薬に似た物質を生成して苦痛を和らげ、自身を守ろうとする。』
『…………?』
『そこで、先程お前に施した感覚強化術式で痛みを感じるレベルを強化し、次の変換術式で快楽に変える。しかし、痛みを快楽に変換したとはいえ、お前の脳には痛みを感知する場所に常軌を超えた刺激が行く。だから当然脳内麻薬が生成、分泌される。そこに脳内麻薬の分泌を補助する強化麻酔術式が加わると?』
ヒルダの顔がどんどん青ざめていく。
『そんな状態で鞭で打たれたらどうなるかな?……ククク。さあ、自分で自分の首を絞めて貰おうか?』
『この外道!!!』
『無様なお前は、無様に鞭で打たれ、無様に泣き、無様な姿を大衆に晒す。30回も鞭で打たれる頃には自分自身の脳ミソが出した麻薬に溺れ、何も分からなくなってるさ。そうしたら気持ち良く首を跳ねてやろう。』
ガシャン!ガシャン!ガシャン!
『主神よ!!主神よ!!お助け下さい!!何故ですか!!?何故降りて来られないのですか!!?』
クスクスクスクスクスクスクスクスクスクス
愚かな民衆はヒルダの取り乱す様子を見てせせら笑う。
主神を盲信する輩はこれだから困る。司教も勇者も変わらない。皆同じように喚き、同じように縋る。
『新約聖典マテウによる福音書27章42節……お前が誠の勇者であるのならば、自分を救ってみせろ……。今のお前にぴったりの言葉だよ。お前が主神を愛し、愛されてると言うのなら、主神が救ってくれるだろう。』
同じ事を言う事になるとは……なぁ、オーベルシュタイン先生……。
ヒルダの無様な様子を見て、あるいはこれから起こる事を想像してか民衆の期待が高まる。
『お前には人間様に使う鞭は勿体ない。馬や牛用ので十分だ。泣いてわめいて、豚のような声を上げろ。』
『地獄へ堕ちろ!!焼かれてしまえ!!お前も!お前も!皆焼かれてしまえ!!!』
私は乗馬鞭を取った。
ヒュパン!!
『ああああああああああああ!!!!』
ガクガクガクガクガクガクガクガク
アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
鞭ふるうと民衆から歓声と笑い声が巻き起こった。
ヒルダを繋ぐ鎖がガシャリ!と音を立ててゆれる。打った跡は綺麗なミミズ腫れとなり、背中には魔法陣が煌々と輝いてる。
『 1……なに、あとたったの29回だ。頑張れ。』
ヒュパン!!
『ああああ!!(なんで!?)』
ヒュパン!!
『あがぁあああ!!(なんで!?)』
ヒュパン!!
『ひぐぅぅうううう!!!(気持ちいいの!!?)』
ヒュパン!
ヒルダは馬用の鞭で打つ度に豚のような声を上げて良く泣いた。施した魔法陣の効果は上々でヒルダは顔や身体から出るあらゆる液体で汚れた。
しかし、8回打ったところで気絶してしまったので、雷の魔法を改良し神経回路に直接刺激を与え、混じりっ気無しの純粋な苦痛を与えるオリジナルの拷問魔法で叩き起こしたが、痛みや苦を快楽に変換する魔法陣が仇となり直ぐにまた気絶してしまい、起こすのに苦労した。
研究の余地がありそうだ。
『ぎゃあああああああああ!!!!!ひぐっ……は……ひっ…………っ…………』
『10……。さて、少し休憩しよう。良かったなぁ、あと20回で終わりだ。』
まさに息も絶え絶えといった様子だ。しかし……まぁ、予想はしていたが反応が単調になってきた。少し早いがつまらないので次の行程に入ろう。
合図を送ると、闘技場の扉の1つがゆっくりと開き、中から兵士に鎖で繋がれた男が入ってくる。ボロ布を纏った栗毛に青目の青年だ。酷く窶れ、ヒルダと同じく首には聖女のメダイがかかっている。
彼はヒルダの部下で、同じくツェーリ傭兵団に所属する若き軍人、ヘクトール・リッターマイヤーという。窶れてはいるが、軍人らしい端整な顔立ちだ。彼はヒルダの右腕と名高く、数多の戦場で苦楽を共にした。
それを虚ろな目で見ていたヒルダの表情がどんどん正気に戻っていく。
『へ……ヘクトール……?』
『ヒルダ!?ヒルダなのか!?』
私はヒルダの耳元で囁く。
『感動の再会だな。』
『あ……あ……ああああ!!見るな!!ヘクトール!!見ないでぇぇえええ!!!』
ヒルダの悲鳴を聞いたヘクトールは首を逸らし、目を固く閉ざした。それでは面白くない。私は右手を上げると兵士は彼を取り押さえた。
『クソッタレ!!……悪魔どもめ!!こんな事をして何になる!!』
もがきながらも目を閉ざしたままだ。流石、ツェーリの傭兵だけはある。
『プロフィヴェーレ……これで動けまい。兵士諸君、彼の目を開いて首をこちらに向けろ。』
ヒルダに掛けた魔法と同じ拘束呪文を唱えるとヘクトールはピクリとも動けなくなった。兵士達は命令通りに彼の目を無理矢理開かせ、こちらに向ける。
『くっ……ん?……あんたは、見覚があるぞ?確か、黒衣の聖者……高等審問官のベンジャミン神父!?何故此処に!?……裏切ったのか!!』
『ほう?私も有名だな。しかし……裏切ったとは人聞きが悪い。色々と事情があるのだよ。さて……こんな事をして何になるだと?……ククク……民衆が喜ぶのさ。』
ヒュパン!!
『ぁぁぁああああああああ!!!!』
『やめろ!!ベンジャミン!!やめてくれ!!こんなものを見せないでくれ!!!!』
ヒュパン!!!
『い"ぐぁぁあ"ああ!!!……あひ……うっ……』
魔法陣が輝き、増幅された痛みを快楽に変換し脳みそを自らが分泌する麻薬で侵していく。ヒルダはションベンを漏らし、無様なアヘ顔を晒しながら泣き喚きイキ狂っている。最早、正気を保ってはなく、目は焦点が合わずに虚空を見つめていた。
拘束呪文に逆らえず、それを泣きながら見ていたヘクトールの逸物はギンギンにいきり勃っている。
『30……さて、鞭打ちは終わった。最終審判を!!!』
私はこの国の国主、リリムであらせられるカタリナ殿下へ手を向け少々大袈裟に跪くと、しどけなく横たわっていた殿下はゆっくりと立つと、幕屋から出てと優雅に両腕を広げた。
ザザッ!!!
その場に居る全ての者がカタリナ殿下に頭を垂れ、また彼女を見る。
殿下はしどけなく優雅に両腕を前に広げると、少しばかり何かを思う様な間を置き、そして怖気を振るう美しくも残虐な笑みを浮かべて親指を立て、首の前を掻き切る様に動かし、その指を地面に向けた。
その瞬間、全ての者が闘技場に聳える断頭台を見た。あるものは好奇の目で。あるものは哀れみの目で。
ザザーーーーーーーーーーーーーーーー…………
兵士のドラムが一斉に鳴り響く。
『先の戦争でカタリナ、カルミナ両殿下に逆らい、魔王軍へ銃を向けた罪!ベルモンテ兵を率いた罪!正義の侵略を阻んだ罪!勇者である罪!敬虔なる西方主神教信者である罪!人間の雌である罪!諸々の罪状につき有罪とし国主殿下の承認の下、勇者ヒルダ・ベルリオーズを首なし騎士の断頭台に処す。……いと慈悲深い堕落の神よ、この罪深き魂を救いたまえ……』
ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ
三日月型のギロチンの刃がゆっくりと引き上げられる。
『これは邪魔になるな……』
ジャリン……
ヒルダの髪を掴みナイフで引き裂くと、はらりと亜麻色の髪が落ちていく。この切れ味……リビヤの理髪師でもこうはいくまい。
ギィ…………ガコン!
ヒルダは引き摺られるように連れられ、ギロチンの枷に括られる。
『止めろ!やめてくれ!!くそっ!!くそっ!!!』
自身の最後を悟ったヒルダが眼下のヘクトールを虚ろな目で、しかし、しっかりと見つめている。
『ご……めん……なさ……い……ヘクトール……。わ……たし……先に……主……神……様の……所……に……』
『ヒル……ダ……?』
『ヘク……トール……わ……たし……は……あなた……を…………』
シュ……
ザン!!
ゴトン……
『ヒルダーーーーーーー!!!!!!』
『五月蝿いよお前等……』
ザザーーーーーーーーーーーーーーーーー………………
パパーーーン!パパーーーン!パパパパパ、パーーン、パーーン、パーーン、パーーン、パパーーーーーン!!!!
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ…………
ワァァァァアアアアアアア!!!!!!
トランペットのファンファーレがけたたましく鳴り響き、民衆は感性を送る。勇者の死に喜びを表す。
私は首を拾い上げ、民衆に見せつけるとカタリナ殿下は微笑みを私に送ってくださった。
さて、これをご覧の諸君。ここまでならごくごく普通のギロチン処刑だが、ここは魔物の国……カタリナ殿下が治めるノーマンズランド。
この国の名前にはいくつか意味がある。
何者でも無い者達の国(ノーマンズ・ランド)。故に誰にでもなれる国。
そして……
人間のいない魔物達の国(ノー・マンズランド)。
故にこの国に入った人間は男ならすべからく魔物娘の伴侶となり、インキュバスに成り果て、女ならばすべからく魔物娘により魔物娘へと成り果てる。
魔物娘は死を許さない。悲劇を許さない。快楽を望み、享楽を求め、永遠の愛を渇望する。……そんな彼女達がただの処刑など許す筈は無い。ただの処刑ならばなぁ……
これから、何が起きるか楽しみだろ?
18/04/09 18:10更新 / francois
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