第1章 戦場の悪魔
第1章 戦場の悪魔
『第3歩兵中隊前進。第2歩兵中隊は左右に展開。大砲用意』
勝った。相手の前線は既に崩れている。君達は僕の軍がたかが1個大隊と甘くみたね。昨夜の夜襲にて敵の補給路を絶ち、敵部隊を分断、消耗戦が出来ないと踏んで焦って攻め急ぐ君達に対して此方は撤退戦と見せかけ全線を下げる。踏み込んだ敵軍に左右から大砲と迫撃砲での奇襲。まともな指揮官なら撤退して体勢を立て直そうとするだろう。
ラッパの音が響く。おそらく敵軍の撤退命令かな...
少数が残り、果敢に立ち向かってきた。殿を置いて撤退。どうやらまともな方だね。めんどーくさいから全軍で突撃してくれるか、さっさと白旗を上げれば良いに。
『第3騎兵隊に伝達。撤退する敵兵に対して西側から攻めて足を止ましょう。第1中隊、君らは突撃してくる敵兵を駆逐しようか。』
撤退する敵兵の先には僕の軍の騎兵隊。全線を放棄したんだ。大砲等の重火器は無い。防御魔法を使う魔法兵も魔物たちもいない。反魔国家同士の利権を争う純粋な人間同士の醜い戦争はこんなものだ。心許ないねぇ?あるのはせいぜい残弾僅かな迫撃砲と手榴弾くらいじゃないかなぁ?突破にせよ防衛にせよもう無理だ。
第1中隊と戦闘中の敵兵さん達の中に良い馬に乗ってる人がいる…
『大尉さん。あれきっと司令官だよね。生け捕りにしようか?』
大尉さんは一瞬険しい顔をしたけど、敬礼して去って行った。
程なくしてラッパ手がファンファーレを吹いた。どうやら敵軍の司令官を捕獲したみたい。あとは逃げちゃった人達を処理しよう。
。
。
。
戦闘が終わった。僕の軍に完全に包囲された敵兵さん達は白旗を出してくれた。
捕虜にした敵兵さん達の武器を取り上げて、待機するように命令した。僕は捕虜さん達の前に行く。
『中佐殿に敬礼!』 ザッ、ザッ!!
大隊の皆は敬礼して出迎えてくれた。皆いつも大変だなぁ。
『捕虜は923名。ほぼ一個大隊です。』
うん。分かった。ありがとう大尉さん。
良い仕事だね。みんなも見習ってほしい。一家に1人(台)大尉さん。
敵兵の司令官さんは、少しびっくりしてるみたい。まぁしょうがないね。僕の身長は140cmそこそこ。今年で30歳になるけど見た目は丸眼鏡を掛けて軍服を着た生意気な男の子にしか見えない。声も子どものままだ。
僕はハイランダー症候群と言う病気で13歳から成長も老化もしていないんだ。
『なっ...子供...!?こんな子供に負けたのか...!?』
ガッ!
大尉さんがライフルの底で殴った。痛そう。かわいそうなので右手を上げて止めてあげる。落ち着いて大尉さん、どうどう...
『うちの大尉さんが失礼いたしました。ごめんね。僕はクラーヴェ帝国陸軍第1師団所属第3番大隊長、ヨハン・エーデルバッハ中佐です。君はランデル公国のマルロー大佐かなぁ?違う?』
右手で頭を抑えながら司令官さんがこたえる。
『いかにも...私がサムソン・マルロー大佐だ。中佐殿...』
そう、これこれ。楽しいなぁ。
こんな小さな子供に跪かされる彼らを見るのは何度見てもいい...屈辱に歪む口元とか、隠しきれていない様々な感情が入った表情や目。思わずニヤニヤしてしまう。大尉さん曰く何時もニヤニヤしてるって言われるけど...
まぁいいや、話を進めよう。
『大尉さん。捕虜さん達の中から士官の人を連れて来て?』
そう言うと大尉さんが捕虜の中から士官さん達を連れて来てくれた。8人か...今回はちょっと多いね。
『さて、マルロー大佐さん。僕は争いごとが嫌いなんだよ。なるべく穏便に済ませたいんだぁ。だから君ら僕の軍に入る気はない?歓迎するよ?』
捕虜の士官さん達は目を丸くしている。びっくりさせちゃいましたね。
『...自分の祖国を裏切れと?我が部隊の同胞を殺した貴様に、クラーヴェの悪魔 に傅けと!?』
『うん。そーだよ?』
『出来るわけ無いだろう!!貴様らクラーヴェのハイエナ共から祖国を守る為に戦いに来たんだ!!むざむざ貴様らに』
タン...
『がああぁぁぁ!!!』
拳銃を取り出して、マルローさんの足を撃ち抜いた。五月蝿い。この手のおじ様は話が長くて困る...しかもつまらないんだよね。
ふと、横を見ると僕は捕まえた士官さん達の中に優秀そうな人を見つけた。
『しょうがないなぁ....ねぇ君。そこの無精髭のおじさん!...うん、君だよ君!えっとね、マルローさんは協力してくれないんだぁ...。それでね、この銃を君にあげるからさぁ......僕が何言いたいかわかるよねぇ?』
さぁ、どう出るかなぁ
銃を手にしたおじさんはカタカタと震えている。おじさんはゆっくり銃を上げてマルローさんの頭を狙うと...
『調子に乗るなよ糞ガキィィィィ!!!』
おじさんが僕に拳銃を向けた。
カチンッ.....
一瞬場が騒然となったけど、1人だけ動じていなかった。さすが大尉さん。みんなも見習ってほしい。
その銃にはさっき撃った1発しか入って無いかったんだよ。
大尉さんが予備の銃を手渡してくれた。ありがとう大尉さん。気が効くね。みんなも見習ってほしい。今回その目は見なかったことにしておいてあげるよ。
『おじさん...君はもう少し出来る子だと思ってたけど、残念だね。...君には失望したよ...』
タン...
ドサッ...
『...フレデリック・リヒター大尉。マルロー大佐と捕虜士官の処理をまかせる。遺体はランデル公国に送り返せ。捕虜は使う。丁重に扱え。逆らう者は殺せ。これは大隊長命令である。』
『了解...。』
ジャキッ...
これで捕虜達は頭を無くしたロバのようになった。逆らうことは無いだろう。それに、なんでさっきの戦いでむざむざ僕に兵士を殺された理由もわかった。...司令室に戻ろう。ココアが飲みたい
君は僕を軽蔑しているだろうね...大尉さん。
司令室に戻り、ココア(代用品)を飲んで、机に座って目を閉じる。疲れたので少し休みたい…
zz...
。。。。
今日は3つ歳上のフレデリック兄さんが孤児院を出て士官学校に行く日だ。兄さんと言っても血は繋がっていない。僕達はみんな親を戦争で亡くしているんだ...
『フレデリック兄さんはなんで兵隊さんになりたいの?』
すると兄さんは
『戦争で悲しむ人が居なくなるように、誰も家族をなくさないように、軍隊に入ってみんなを守るんだ!』
そう言ってフレデリック兄さんは孤児院を出て士官学校に入った。
かっこいいと思った
僕も兄さんみたいに強くなりたいと思った。だから兄さんを追って飛び級で士官学校に入った。
1年後、士官学校の訓練で再会した時、兄さんの驚いた顔をいまでも覚えてる。
僕は身体を使う訓練はからきし駄目だったけど、戦術理論とか作戦議論とかが得意だった。兄さんとは正反対だった。冷や汗をかいた教官の顔が面白い。
士官学校を卒業して、僕とフレデリック兄さんは同じ部隊に配属された。初めて戦場に行く時、怖くて兄さんの腕にずっとしがみついていたっけ。
戦場に着いて戦いが始まった。つらいつらい戦いで敵も味方もいっぱいいっぱい死んでいった。初めて人を殺したその夜は震えて眠れなかった。引き金を引けば確実に人が死ぬ...その事実がただ怖かった。
ある日、顔を洗って鏡を覗いた時、僕の目は暗い人殺しの目になっていた。兄さんも、他の人達もそうだった。
戦争は何年も続いて日に日にみんなボロボロになっていった。補給路も敵に阻まれて、ろくに物資も届かなくなった。僕達の部隊の上官は拮抗して動かない戦況にイライラしていて、ある時僕達にこう言った。
『お前ら全員、敵陣に突撃しろ!!』
みんな嫌がった。機関銃や大砲の餌食になる。もし仮に潜り抜けても敵の兵隊さんに撃たれてしまう
『お待ちください!むやみに攻め入っては、自軍の兵力をいたずらに消耗するだけです!補給路の確保を最優先して援軍の到着を待つべきです!』
すると上官は拳銃を取り出して副官に向けて撃った。副官は小さい悲鳴を上げて倒れると静かになった。
『出来ないのなら、俺が殺してやる!』
今度はフレデリック兄さんに銃を突きつけた
タン...
僕は銃を取って、背後から上官を撃った。弾は上官の背中に当たり、上官は床を芋虫のように這っている。みんな唖然としていた。
でも、止めようとする人もいなかった。
『...上官殿。知っていますか?士官さんの5人に1人は流れ弾で死んじゃうらしいです。きっと頭を下げてなかったせいですねぇ...』
タン... 『君には』 ぐへ!
タン...『本当に』 ぎぁ…
タン...『失望したよ』 …………
僕の中で何かが割れて壊れた様な音がした
世界の何かがガラリと崩れる様な感じがした
大切な何かがなくなった様な気がした
代わりに黒くてドロドロした何かが生まれた感じがした
でももういいや。
『...みんな、今から僕が作戦を考えます...』
そうして僕達は援軍が来るまで耐え抜いて、地獄の様な戦場を生き残る事ができた。
その時思ったんだ
偉くなってやる。
みんな無駄に死なないように。
偉くなってみんなを守る。
勝つ為に手段を選ぶな。
相手は選んでくれない。
だから僕も選ばない。
生き残る為に。
どんなに汚い事でも。
どんなに醜い事でも。
どんなに悪い事でも。
僕は悪魔にでも魂を売るんだ。
勝つ為に、生き残る為に手段を選ばずなんでもやった。
優秀な人は捕虜でも引き抜いて僕の部隊で使った。周りの人たちは裏切り者部隊って言った
焼き討ちに夜襲に奇襲に騙し討ちに暗殺。敵の士官さんを捕まえては拷問して、敵の情報を集めた。手に入れた情報で、たくさんたくさん殺した。
だんだん夜眠れなくなった。
僕は偉くなった。偉くなって大隊長になった
そんな僕に兄さんは付いてきてくれた
兄さんが複雑そうな顔で『少佐殿...』と言って敬礼してくれた。
そうして戦場で指揮をとる度にいつしか僕はクラーヴェの悪魔と呼ばれるようになった。
僕の指揮する大隊は汚いことでも平気でやるから暗黒部隊と呼ばれた。
時々、身体はどこも悪くないのに胸がズキズキ酷く痛むことがあった。
ある日の、ある夕焼けの、ある戦場跡で
フレデリック兄さん...大尉さんに頼んだ事がある
もし僕が壊れた時は迷わず引き金を引いて...
僕を止めて...と。
...ん?...またあの夢か...
コンコン、コンコン...
『フレデリック大尉であります。』
『どうぞ...入って下さい。』
『第3歩兵中隊前進。第2歩兵中隊は左右に展開。大砲用意』
勝った。相手の前線は既に崩れている。君達は僕の軍がたかが1個大隊と甘くみたね。昨夜の夜襲にて敵の補給路を絶ち、敵部隊を分断、消耗戦が出来ないと踏んで焦って攻め急ぐ君達に対して此方は撤退戦と見せかけ全線を下げる。踏み込んだ敵軍に左右から大砲と迫撃砲での奇襲。まともな指揮官なら撤退して体勢を立て直そうとするだろう。
ラッパの音が響く。おそらく敵軍の撤退命令かな...
少数が残り、果敢に立ち向かってきた。殿を置いて撤退。どうやらまともな方だね。めんどーくさいから全軍で突撃してくれるか、さっさと白旗を上げれば良いに。
『第3騎兵隊に伝達。撤退する敵兵に対して西側から攻めて足を止ましょう。第1中隊、君らは突撃してくる敵兵を駆逐しようか。』
撤退する敵兵の先には僕の軍の騎兵隊。全線を放棄したんだ。大砲等の重火器は無い。防御魔法を使う魔法兵も魔物たちもいない。反魔国家同士の利権を争う純粋な人間同士の醜い戦争はこんなものだ。心許ないねぇ?あるのはせいぜい残弾僅かな迫撃砲と手榴弾くらいじゃないかなぁ?突破にせよ防衛にせよもう無理だ。
第1中隊と戦闘中の敵兵さん達の中に良い馬に乗ってる人がいる…
『大尉さん。あれきっと司令官だよね。生け捕りにしようか?』
大尉さんは一瞬険しい顔をしたけど、敬礼して去って行った。
程なくしてラッパ手がファンファーレを吹いた。どうやら敵軍の司令官を捕獲したみたい。あとは逃げちゃった人達を処理しよう。
。
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戦闘が終わった。僕の軍に完全に包囲された敵兵さん達は白旗を出してくれた。
捕虜にした敵兵さん達の武器を取り上げて、待機するように命令した。僕は捕虜さん達の前に行く。
『中佐殿に敬礼!』 ザッ、ザッ!!
大隊の皆は敬礼して出迎えてくれた。皆いつも大変だなぁ。
『捕虜は923名。ほぼ一個大隊です。』
うん。分かった。ありがとう大尉さん。
良い仕事だね。みんなも見習ってほしい。一家に1人(台)大尉さん。
敵兵の司令官さんは、少しびっくりしてるみたい。まぁしょうがないね。僕の身長は140cmそこそこ。今年で30歳になるけど見た目は丸眼鏡を掛けて軍服を着た生意気な男の子にしか見えない。声も子どものままだ。
僕はハイランダー症候群と言う病気で13歳から成長も老化もしていないんだ。
『なっ...子供...!?こんな子供に負けたのか...!?』
ガッ!
大尉さんがライフルの底で殴った。痛そう。かわいそうなので右手を上げて止めてあげる。落ち着いて大尉さん、どうどう...
『うちの大尉さんが失礼いたしました。ごめんね。僕はクラーヴェ帝国陸軍第1師団所属第3番大隊長、ヨハン・エーデルバッハ中佐です。君はランデル公国のマルロー大佐かなぁ?違う?』
右手で頭を抑えながら司令官さんがこたえる。
『いかにも...私がサムソン・マルロー大佐だ。中佐殿...』
そう、これこれ。楽しいなぁ。
こんな小さな子供に跪かされる彼らを見るのは何度見てもいい...屈辱に歪む口元とか、隠しきれていない様々な感情が入った表情や目。思わずニヤニヤしてしまう。大尉さん曰く何時もニヤニヤしてるって言われるけど...
まぁいいや、話を進めよう。
『大尉さん。捕虜さん達の中から士官の人を連れて来て?』
そう言うと大尉さんが捕虜の中から士官さん達を連れて来てくれた。8人か...今回はちょっと多いね。
『さて、マルロー大佐さん。僕は争いごとが嫌いなんだよ。なるべく穏便に済ませたいんだぁ。だから君ら僕の軍に入る気はない?歓迎するよ?』
捕虜の士官さん達は目を丸くしている。びっくりさせちゃいましたね。
『...自分の祖国を裏切れと?我が部隊の同胞を殺した貴様に、クラーヴェの悪魔 に傅けと!?』
『うん。そーだよ?』
『出来るわけ無いだろう!!貴様らクラーヴェのハイエナ共から祖国を守る為に戦いに来たんだ!!むざむざ貴様らに』
タン...
『がああぁぁぁ!!!』
拳銃を取り出して、マルローさんの足を撃ち抜いた。五月蝿い。この手のおじ様は話が長くて困る...しかもつまらないんだよね。
ふと、横を見ると僕は捕まえた士官さん達の中に優秀そうな人を見つけた。
『しょうがないなぁ....ねぇ君。そこの無精髭のおじさん!...うん、君だよ君!えっとね、マルローさんは協力してくれないんだぁ...。それでね、この銃を君にあげるからさぁ......僕が何言いたいかわかるよねぇ?』
さぁ、どう出るかなぁ
銃を手にしたおじさんはカタカタと震えている。おじさんはゆっくり銃を上げてマルローさんの頭を狙うと...
『調子に乗るなよ糞ガキィィィィ!!!』
おじさんが僕に拳銃を向けた。
カチンッ.....
一瞬場が騒然となったけど、1人だけ動じていなかった。さすが大尉さん。みんなも見習ってほしい。
その銃にはさっき撃った1発しか入って無いかったんだよ。
大尉さんが予備の銃を手渡してくれた。ありがとう大尉さん。気が効くね。みんなも見習ってほしい。今回その目は見なかったことにしておいてあげるよ。
『おじさん...君はもう少し出来る子だと思ってたけど、残念だね。...君には失望したよ...』
タン...
ドサッ...
『...フレデリック・リヒター大尉。マルロー大佐と捕虜士官の処理をまかせる。遺体はランデル公国に送り返せ。捕虜は使う。丁重に扱え。逆らう者は殺せ。これは大隊長命令である。』
『了解...。』
ジャキッ...
これで捕虜達は頭を無くしたロバのようになった。逆らうことは無いだろう。それに、なんでさっきの戦いでむざむざ僕に兵士を殺された理由もわかった。...司令室に戻ろう。ココアが飲みたい
君は僕を軽蔑しているだろうね...大尉さん。
司令室に戻り、ココア(代用品)を飲んで、机に座って目を閉じる。疲れたので少し休みたい…
zz...
。。。。
今日は3つ歳上のフレデリック兄さんが孤児院を出て士官学校に行く日だ。兄さんと言っても血は繋がっていない。僕達はみんな親を戦争で亡くしているんだ...
『フレデリック兄さんはなんで兵隊さんになりたいの?』
すると兄さんは
『戦争で悲しむ人が居なくなるように、誰も家族をなくさないように、軍隊に入ってみんなを守るんだ!』
そう言ってフレデリック兄さんは孤児院を出て士官学校に入った。
かっこいいと思った
僕も兄さんみたいに強くなりたいと思った。だから兄さんを追って飛び級で士官学校に入った。
1年後、士官学校の訓練で再会した時、兄さんの驚いた顔をいまでも覚えてる。
僕は身体を使う訓練はからきし駄目だったけど、戦術理論とか作戦議論とかが得意だった。兄さんとは正反対だった。冷や汗をかいた教官の顔が面白い。
士官学校を卒業して、僕とフレデリック兄さんは同じ部隊に配属された。初めて戦場に行く時、怖くて兄さんの腕にずっとしがみついていたっけ。
戦場に着いて戦いが始まった。つらいつらい戦いで敵も味方もいっぱいいっぱい死んでいった。初めて人を殺したその夜は震えて眠れなかった。引き金を引けば確実に人が死ぬ...その事実がただ怖かった。
ある日、顔を洗って鏡を覗いた時、僕の目は暗い人殺しの目になっていた。兄さんも、他の人達もそうだった。
戦争は何年も続いて日に日にみんなボロボロになっていった。補給路も敵に阻まれて、ろくに物資も届かなくなった。僕達の部隊の上官は拮抗して動かない戦況にイライラしていて、ある時僕達にこう言った。
『お前ら全員、敵陣に突撃しろ!!』
みんな嫌がった。機関銃や大砲の餌食になる。もし仮に潜り抜けても敵の兵隊さんに撃たれてしまう
『お待ちください!むやみに攻め入っては、自軍の兵力をいたずらに消耗するだけです!補給路の確保を最優先して援軍の到着を待つべきです!』
すると上官は拳銃を取り出して副官に向けて撃った。副官は小さい悲鳴を上げて倒れると静かになった。
『出来ないのなら、俺が殺してやる!』
今度はフレデリック兄さんに銃を突きつけた
タン...
僕は銃を取って、背後から上官を撃った。弾は上官の背中に当たり、上官は床を芋虫のように這っている。みんな唖然としていた。
でも、止めようとする人もいなかった。
『...上官殿。知っていますか?士官さんの5人に1人は流れ弾で死んじゃうらしいです。きっと頭を下げてなかったせいですねぇ...』
タン... 『君には』 ぐへ!
タン...『本当に』 ぎぁ…
タン...『失望したよ』 …………
僕の中で何かが割れて壊れた様な音がした
世界の何かがガラリと崩れる様な感じがした
大切な何かがなくなった様な気がした
代わりに黒くてドロドロした何かが生まれた感じがした
でももういいや。
『...みんな、今から僕が作戦を考えます...』
そうして僕達は援軍が来るまで耐え抜いて、地獄の様な戦場を生き残る事ができた。
その時思ったんだ
偉くなってやる。
みんな無駄に死なないように。
偉くなってみんなを守る。
勝つ為に手段を選ぶな。
相手は選んでくれない。
だから僕も選ばない。
生き残る為に。
どんなに汚い事でも。
どんなに醜い事でも。
どんなに悪い事でも。
僕は悪魔にでも魂を売るんだ。
勝つ為に、生き残る為に手段を選ばずなんでもやった。
優秀な人は捕虜でも引き抜いて僕の部隊で使った。周りの人たちは裏切り者部隊って言った
焼き討ちに夜襲に奇襲に騙し討ちに暗殺。敵の士官さんを捕まえては拷問して、敵の情報を集めた。手に入れた情報で、たくさんたくさん殺した。
だんだん夜眠れなくなった。
僕は偉くなった。偉くなって大隊長になった
そんな僕に兄さんは付いてきてくれた
兄さんが複雑そうな顔で『少佐殿...』と言って敬礼してくれた。
そうして戦場で指揮をとる度にいつしか僕はクラーヴェの悪魔と呼ばれるようになった。
僕の指揮する大隊は汚いことでも平気でやるから暗黒部隊と呼ばれた。
時々、身体はどこも悪くないのに胸がズキズキ酷く痛むことがあった。
ある日の、ある夕焼けの、ある戦場跡で
フレデリック兄さん...大尉さんに頼んだ事がある
もし僕が壊れた時は迷わず引き金を引いて...
僕を止めて...と。
...ん?...またあの夢か...
コンコン、コンコン...
『フレデリック大尉であります。』
『どうぞ...入って下さい。』
16/08/31 21:34更新 / francois
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