連載小説
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第2章 約束
第2章 約束


クラーヴェ帝国とランドル公国は長い間戦争を続けている。

石炭と鉱山の利権を争うくだらない戦争で、人は人を容易く殺し、容易く死んでいく。

争う理由は何でも良いんだ。土地のため、食べ物のため、お金のため、地位や権力のため、神様のため、宗教のため、主義や主張のため、自由のため、正義のため

北の海の女王が治める島国は遥か東の大国、霧の国とお茶と麻薬が原因で戦争を始めた。ある古代の王国では只1人の未亡人の女が原因で戦争が起こった。

そして、魔物のという人類共通の脅威があっても人間同士が一つになる事は無い。

人間同士の戦争は無くならない。僕達はどんなにくだらない理由でも殺し合いが出来てしまう。所詮、人間の敵は同じ人間なんだ。


人間とは残酷で残虐で強欲で醜い


悪魔よりもずっと悪魔らしいじゃあないか...







大砲の音が響く

今、目の前で起こっている事は敵兵さん達からすれば常軌を逸した事だろうね。敵兵さん達から見れば、相手の軍隊が味方ごと自分達を大砲で吹き飛ばしているのだから。

『大尉さん。敵軍さん達が目の前に集中しているこの機に2個中隊を率いてこっそり敵軍後方に移動。退路を断ってはさみ打ちにしよう。』

『....』

『大尉さん?』

『..........』

『大尉!!』

『ッ!!』

『今大尉さんが行かないと、敵も味方ももっと、もっっと死んじゃうよ?』


『しかしッ!!』



『...わかった。もういいよ。僕が直接率いる。大尉さんはお留守番してて…第1及び第4歩兵中隊、僕に続け。これより隠密行動とする。』










赤い赤い夕焼け空の下、僕は煙草を吹かしながら戦場跡を眺めていた。今できる大方の後始末は終わった。

すると大尉さんが近づいてくる。

『フー...大尉さん、あの時なんで命令を聞かなかったの?』

大尉さんは拳を握り締めたまま口を結んでいる。

『......フレデリック兄さんはさぁ...僕に何か言いたい事があるの?』

大尉さん...フレデリック兄さんは僕の方を向いて関を切った様に話し出した。

『この惨劇はッ!この有り様を、この光景を俺達がっ!!』

『フー...そうだよ。僕達がこの光景を作ったんだよ。勝つ為には仕方がなかったんだ...。』

ランドル公国は1万以上の大軍でやってきた。此方は3千にも満たなかった。普通にやったら勝てない。

そこで僕は今までに捕らえた捕虜の兵隊さん達1000人くらい全員に正面から突撃させた。背中に火薬を背負わせて。僕は部隊の士官さん達に、突撃させた捕虜さん達ごと敵を大砲や迫撃砲で攻撃させた。

その間に騎兵隊を率いて、馬車や兵舎や傷病舎や弾薬庫やら、燃えそうな物はなんでも焼いた。敵の兵隊さん達はみんな混乱していた。正面からいきなり突っ込んできた兵隊さんが次々と爆発して行くんだもの。

僕は目の前で敵の兵隊さんが火だるまになってのたうち回っているのを何度も見た。

敵軍が混乱している間に僕達は大砲をたくさんたくさん撃った。動くモノが無くなるまで。形あるモノが無くなるまで。

その結果、この光景を作り出した。血と肉と鉄の灼ける匂い、黒く焼けた夥しい数の死体の山、真っ平らの更地に赤い絨毯を敷いたみたいになった。...勝ったのに口の中が苦い。

『捕虜を突撃させて!捕虜ごと敵兵を殺して!!これが...人間のやることか!!!』

『そうだよ...だから勝てたんだよ。...じゃあ大尉さん。僕の軍の被害は?』

『捕虜を除き死者...342名、重軽傷者...1271名...です。』

灰が風に吹かれてポトリと落ちた。

『あの大軍相手に、この程度で済んだのは奇跡としか言いようが無いよ。死者は500人くらい。重軽傷者は1800人は想定してたんだ。それにあの作戦以上にいい作戦あった?』


『...あり...ません...。』


『フー...じゃあ...フレデリック兄さん...僕は間違ってると思うかい?』

『....』

吸っていた煙草を投げ捨てた。ジュ...っと湿った地面に落ちて消えた。

『もし間違っているとしたら、いったいどこで間違ったんだろう...この惨たらしい光景を作ったのは僕だ。それはすごく悲しい事だってわかる。でも悲しくないんだよ。何も感じないし、後悔もない。仲間を失ったのに。敵も味方も人をたくさんたくさん殺したのに...』


『戦争なんだヨハン...おまえは悪くない。どうすれば良かったとか、何が間違っているか俺にもわからない...』


『...兄さんは優しいね。でもね。兄さん...思うんだよ。僕はまたコレを作る。きっとコレを作ってしまう。今度はもっともっと大きいのを…いくつもいくつも...たぶん兄さんも解っているでしょ?』

兄さんは目を背けてしまった

『今は戦場だけで済んでいる。でも次は村を焼いて、その次は町を焼いて、やがては国を焼く...いずれ僕は僕等と同じような子供達をたくさん作ると思うんだ...ハハッ、とっくの昔に僕はもう壊れているんだ...』

『...』

『いつか近いうちに心も失くすと思うんだ。もう自分では止められない...もうそこまで来てるんだ。つまり...ここが塩時だよ。...たぶん、兄さんはそのために僕の所に来たんでしょ?』


『...』


『今ここが...僕を止める最後のチャンスだ』


『...』ジャキッ


兄さんはライフルのボルトを起こした。目に涙を溜めながら



『僕がバケモノになる前に止めて...』



兄さんは照準を僕に定めた。



『フレデリック大尉。僕の屍は野晒しにすること。君の保身のためにだ。僕のことは作戦行動中行方不明としろ。これは大隊長命令だ。』

『解りました。』

『君を部下に持てて良かった。皆んなを頼んだよ』

大尉さんの頬には涙が滝のようにつたっている

『中佐殿...知っておられますか?士官の5人に1人は流れ弾で死ぬらしいです...』



あの時の....



『ハハッ、知ってるよ大尉さん』



あぁ…



ターーン...




フレデリック兄さんが僕の胸を撃ってくれた。




夕焼けって


こんなにも


綺麗なんだ...


兄さん


泣かないで...





僕を止めてくれて




あ り が と う。



16/09/01 13:34更新 / francois
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■作者メッセージ
こんにちは。fransoisです。初投稿です宜しくお願いします。

さてさて、此処までが前半戦です。魔物娘達は次のお話から登場となります。撃たれてしまったガラスのハートのヨハンくん(30歳)...どうなるかはお楽しみで。

此処で、登場人物紹介でーす。


ヨハン・エーデルバッハ

30歳 男性 138cm (140cmと言い張る) 陸軍中佐

ハイランダー症候群により身体の成長が13歳で止まっている。眼鏡ショタ中年。細胞分裂数も成長期の活発なままなので、寿命も人より短く40年生きられるかどうか。本人は自身の容姿を気に入っている。

反魔国家 クラーヴェ帝国 テルマ村出身

クラーヴェ帝国陸軍第1師団第3番大隊長。クラーヴェの悪魔と言われるほどの天才的な軍師の才能を持つ。魔術や錬金術にも長け、通信や拷問の魔法を良く好んで使う。一見して子供らしく穏やかな性格ながら、目的の為ならどんな汚く醜い事でもやってのけるあざとい性格で常に笑顔を崩さない冷血なサディスト。ガラスのハート。丁寧だが子供っぽい喋り方。自身の過去による生死感の気薄さ、倫理的な性格的欠如があるが素はとても繊細で優しい性格。

6歳の頃、反魔国家ブリトニア王国軍の騎行作戦により村を焼かれ、両親と幼い妹を無くす憂き目にあう。彼は当時、隣町の主神教会にいて無事だった。

その後、隣町の教会の孤児院に引き取られる。孤児院では虐めに会い孤立していたが3つ年上のフレデリックの助けがあり、彼を兄のように慕う。13歳の時に彼を追って士官学校に飛び級で入学する。身体的に色々足りない彼が軍隊に在籍していられるのは、一重に天才的な頭脳とそのカリスマ性による。

卒業後、フレデリックと同じ部隊に配属されるも、無能な指揮官により劣勢に立たされる。見かねたヨハン(当時少尉)は指揮官を背後からの流れ弾で撃ち殺すと、前線での指揮権を掌握。絶望的状況を立て直し、援軍合流まで耐え抜き辛くも勝利する。その功績を認められ、以降指揮官としての手腕を発揮して台頭していく。地獄の様な戦場で数多くの友人や味方の死に直面し、死んでいった仲間のため優秀な指揮官となり誰も無駄死にすることの無いように権力を得る事を誓う。

この頃に軍医からハイランダー症候群と診断される。ヨハンが15歳の時だった。

指揮官となり、その人間性は徐々に歪になっていった。勝つ為には手段をえらばず、奇襲や夜襲、焼き討ち、騙し討ちなどに加えて情報を獲るため捕虜にした敵軍士官への拷問や自軍の犠牲を出さない為に捕虜にした兵士を最前線での囮に使ったり、捕虜部隊ごと敵軍に対して大砲を浴びせたりと勝つ為には手段を選ばない汚いやり方から クラーヴェの悪魔 や 暗黒大隊長 等と敵味方双方から怖れられる。

フレデリック・リヒター

33歳 男性 182cm 陸軍大尉

短く切り揃えられた金髪と碧眼の軍人。堅く無口な性格だが昔は良く喋った明るい少年だった。

反魔国家クラーヴェ帝国 ジルバブルグ市 出身

戦争孤児で主神教会の孤児院で育つ。9歳の時に当時6歳のヨハン・エーデルバッハが引き取られてくる。抜け殻になったような彼をほって置けず、世話をやくようになる。教会の神父から読み書き計算を一通り教えられ、また頭も良い方だったので、15歳の時に軍隊の士官学校に合格。1年後に士官学校に飛び級で入学したヨハンと共に卒業する。ヨハンとは対照的に対人格闘術、馬術、剣術、銃剣術、射撃など身体的な性能に恵まれる。

卒業後、ヨハンと同じ部隊に配属されるも、無能な指揮官により劣勢に立たされる。苛立った指揮官が無謀な突撃命令を下すおり、見かねたヨハンが指揮官を撃ち殺し彼の部隊は助かった。地獄の様な戦場を生き残ったその後はヨハンの士官としての才能と能力を支えることに尽力する。

しかし、ヨハンの勝つ為には手段を選ばない非道な遣り方に少なからず疑問を持っている。

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