連載小説
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後編
「陸くんお疲れさま。よく頑張ったね!さ…お風呂に入ったら一緒におねんねしようね!……はい!ご褒美のちゅー。」

 あれからいったいどれだけの精を放出し続けただろう。陸の疲れを見抜いた白夜が気遣ってくれた。先ほどまでの冷酷な眼差しは消え去り、今ではすっかり穏やかな表情に戻っている。白夜は疲労を隠せない陸を労わる様に抱くと、そっとキスをしてくれた。

「む…んっ…。んふぅ…。」

 柔らかくしっとりとした妻の唇を、半ば呆然とした意識で味わう。そう言えば今日キスをするのは初めてだった。なぜか妙に懐かしく…そしてもっと甘えたい。もう何もこだわる必要は無い。白夜は全てを受け入れてくれるだろう…。陸はためらわずにキスをねだる。

「あ…もっと…。」

「うふふっ…。嬉しい…。すっかり素直になってくれたね!はい!素直で良い子の陸くんにはもっとご褒美だよー。」

 白夜は柔らかく笑うと陸の頭を抱えこむ。そして唇をしっかりと重ねあわすと、長い舌を侵入させて陸の舌に絡み付けた。
 白夜は陸の舌を吸い、口中を念入りに舐めまわし、唾液を喉奥に注ぎ込む。だがそれは愛情と思いやりのこもった接吻だった。陸もうっとりとして淫らな施しを受けいれて、子供が母に甘える様に白夜を抱きしめる。そして自らも舌を吸いかえして、注ぎ込まれる甘い唾液をこくこくと飲み干した。

 互いの慈しみを込めあった情熱的な口づけだったが、白夜の方から名残惜しげにそっと離れた。何事かと思った陸が悲しげな表情で訴える。

「え……?嫌だよ!もっとして欲しい…。それとも……まだ怒っているの?」

「大丈夫!良い子になってくれた陸くんに怒りなんかしないよぉ!もう何も心配しないで!」

 白夜は不安げな様子の陸を慰めて愛撫する。そしてにっこりと笑ってみせた。

「ちゅーしたいのなら幾らでもしていいんだよ〜。私も陸くんとちゅーするの大好き!でも…べたべたになっちゃったから体洗いたいな…。とりあえずお風呂を沸かしてくるから待っていてね!」

「あ……でも……。」

「安心して!すぐ戻ってくるからね…。」

 穏やかな微笑みを残すと白夜は部屋を出て行った。















 一人残された部屋で陸はしばし黙然とする。気が付けば白夜の濃い性臭が部屋に漂っている。それは当然陸の体にもこびりついており刺激的に鼻をつく。
 だが決して不快ではない。愛する妻の匂いはいつも心を落ち着かせてくれる。今も何度も深呼吸しては白夜の事を思い浮かべた。

 白夜はトラウマにはしないから大丈夫と言った。その言葉を裏付けるかのように陸の心は平静…と言うよりも蕩け切っている。だが恐怖と快楽の調教を受け続け、心は完全に折れてしまった。負けた…。もう二度と白夜に挑むことも逆らう事も出来ないだろう。本当ならば羞恥心と屈辱感から、立ち直れないぐらいのダメージを受けてもよいはずだ。

 そのはずなのに心の中にあるのは、恍惚とした甘さと安らぎだけだ。白夜に身を任せていれば喜んですべてを与えてくれるだろう…。その思いが白夜を求めさせ、心が蕩ける様な切なさに胸が締め付けられる。

 とにかく俺達は新しい関係に入ってしまった。今後どのような日常を送る事になるかは友人達を見ていれば想像がつく。白夜と一緒に甘美な泥沼に堕ちて行くしかない…。陸はそう思いため息を着いた。でも、ほんの少し前まではぞっとする様な感情しか抱かなかったのに、今では妙な期待に胸が高鳴る様な興奮を覚える。もうすっかり堕とされてしまったな…。陸は自嘲するかのような笑みを浮かべた。

 その様な事をとりとめもなく思っていたが…どうしたのだろうか?すぐに戻ってくると言った白夜はなかなか帰ってこない。不安になってきた陸はそわそわして焦燥感に駆られ始めた。
 何故だろう…無性に白夜が欲しい。蛇体を巻き付けられて拘束され…。熱い抱擁を交わして舌を啜り合い…。柔らかい胎内に思う存分精を吐きだしたい…。白夜の微笑み、白夜の眼差し、白夜の匂い、すべてが恋しい。

 待ちきれなくなった陸は苛立たしげにドアまで行くとノブを捻る。が……開かない。焦った陸はさらにガタガタ揺するが全く微動だにしない。
 おかしい…。なぜこれほどまでに白夜を求めてしまうのだろう…。無性に切ない。

 一人では寂しい…。

 白夜がいないとつらい…。

 切ない…

 つらい…

 寂しい…

 つらい さみしい 切ない 悲しい つらい 切ない 悲しい 寂しい…………………………。渦巻く思いが爆発しそうになった陸は必死になってドアを叩く。

「白夜ちゃん!白夜ちゃん!お願い。開けて!お願いだから!俺を一人にしないで!頼むからあ!」

 そうだ…そうだった。大声で叫んで取り乱しながらも陸は思い出す。白蛇の妻に魔力を注がれた友人の話だ。その友人も魔力を注がれた後、しばらくは寂しくて一人でいられなかったそうだ。妻の蛇体に包み込まれなければ安心できなかったという。

 と、するとこの切ない想いも魔力の作用か?だが…今はそんな事はどうでもよかった。この張り裂ける様な想いをどうにかしてほしい…。白夜に抱きしめてもらって癒してほしい…。とにかくつらい。白夜にそばにいて欲しい。

 心がそう訴える。

 頭の先からつま先までそう訴える。

 細胞の一つ一つがそう訴える。

 脳みそがそう訴える。

 魂がそう訴える

 陸の体を構成するすべてのものが、ひたすら白夜を求めて全身全霊で訴える。

「びゃくやちゃん!おねがいだから!助けて!びゃくやちゃあん!!」

 自分の口から発せられたとは思えないほどの凄まじい絶叫が迸ったその時…不意にドアが開かれた。

「陸くん落ち着いて!大丈夫だから!」

 慌てて駆け寄った白夜が陸を抱きしめると、蛇体が隙間もないぐらいに念入りに巻き付く。温かく柔らかい蛇体…。甘い白夜の匂い…。愛する妻の体に包み込まれた陸の心からたちまち一切の不安も切なさも消え去った。
 入れ替わる様に甘美で優しい陶酔感が心を覆い、うっとりとして白夜の胸に頭を埋める。

「白夜ちゃん…。ひどいよ…。寂しいよ…。つらいのは嫌だよ…。」

 心の奥底まで快楽と魔力に蝕まれた陸は、もうすでに白夜を非難する気力は無かった。声を震わせてひたすら切なさを訴え続けた。

「よしよし。もう一人になんかしないからね…。何も心配しないでね。でも…さっきは陸くん一人になりたいって言ってたじゃない?私なんか一緒で本当にいいの?」

 優しく陸を抱きしめながらも白夜は弄ぶかのように念を押す。溢れ出そうな想いを抑えきれずに陸は必死に訴える。

「お願い…。そんな意地悪言わないで。ずっとそばにいて…。頼むから…。」

「本当に?」

「もちろんだよう…。」

 今にも泣きそうな陸。白夜は真紅の瞳で真っ直ぐに見つめながら、その決心を確かめるかのように問いかけを始める。

「わかった…。それじゃあこれから陸くんがお散歩行く時も一緒に付いていくよ。」

「お願い…。」

「あなたのお友達と会う時も同伴するからね!」

「俺の奥さんは美人だろって皆に自慢するよ…。」

 思わぬ事を聞いたと言わんばかりに白夜は嬉しそうに笑う。

「ふふっ。お世辞でも嬉しいよ。ありがとう…。それと、これからは私が陸くんを食べさせてあげるからね!あんな女狐や牛女のいる会社に行ってほしくないから!いつも私の目の届く所に居て欲しいんだよ。」

「一日中のんびりできるのは嬉しいけど……いいの?」

「白蛇様はとってもお金持ちなの…。陸くんに不自由させる事はないし、欲しいものは何だって買ってあげる!だから何も心配しないで!」

 白夜は微笑むと、今後の生活に不安な様子の陸を安心させる。

「さすがにおトイレの時は一人にしてあげるけど…。それ以外は私は陸くんから離れないよ。お風呂だって一緒に入って体を洗ってあげるし、ご飯もあ〜んして食べさせてあげる。着替えも全部手伝ってあげるし、本や新聞も私が読み聞かせてあげる。夜はぎゅーって巻き付いて寝かしつけてあげるし…あ、もちろん毎日と〜っても気持ち良くしてあげるからね!他にも身の回りの事は全部付きっ切りでしてあげるの。とにかく何があっても絶対に一緒だから……」

「お願い…ずっと俺の傍にいて…。お願い…。」

 白夜は病的なまでの執着心を隠さない。だが異常ともいえる願いを聞いても、陸は全く怯まなかった。心に満ちる甘いものが不安や煩いを溶かす。今後の二人の生活はより一層素晴らしくなるだろうと確信させる。

「ん…。大丈夫。全部私に任せてくれればいいんだよ。一緒に幸せになろうね…」

 蛇体に包まれて身を震わせている陸を、白夜は何度も何度も愛撫する。温かい手触りに陸の気持ちも静まった。

「陸くんが分かってくれて本当に良かったよぉ…。大好き…。」

 しばらくそのまま愛情深く陸を抱きしめていた白夜だったが、今にも泣きそうな眼差しで切々と訴えかける。

「また意地悪しちゃってごめんね…。でも、わかって…。私はいま陸くんが感じていたような気持ちをずっと抱えて生きてきたの…。
 毎日毎日不安でつらくて…。陸くんがどっかに行っちゃうんじゃないかと思うと怖くて…。本当に心がどうにかなりそうだった…。」


「白夜ちゃん…白夜ちゃん…白夜ちゃん…」

 気持ちを抑えきれずに涙ぐむ白夜を見た陸は無性に申し訳なくなる。抱きしめて何度も名前を呼んで胸に顔を押し付ける。

「もういいんだよ。さっきはちょっと意地を張っちゃっただけだよね。陸くんが本当は素直な良い子なのは私が一番良く分かっているから…。さ。お風呂の用意できたよ。一緒に入ってあったまろう!」

 白夜は優しく慰めると穏やかに微笑んだ。愛情あふれる笑顔を見ていると陸もいつしか暗い気持ちが消えていくのだった。
















「えーと…。巻き付いた跡はついていないね…。良かった…。」

「そんな心配しなくてもいいのに…。」

「本当に大丈夫?どこか痛かったりしたら言ってね!あ………さっきは乱暴にしちゃってごめんね…」

「白夜ちゃんこそそんなに謝らないで。俺は大丈夫だから…」

 白夜は陸の体に優しく巻き付いて丁寧に洗っている。そして締め付けた跡や傷が付いていないか念入りに確認している。陸を優しくあらう白夜の手。その手から不思議な温かな力が流れ込んで陸の気持ちを穏やかにしていく。

「ううん…。陸くんに傷でもついていたら一大事だから…。本当にごめんね…。」

 傷一つない陸にほっとした様子ながら申し訳なさそうに詫びる白夜だ。

「本当にもういいんだよ…。それよりも…白夜ちゃんこれ気持ちいいよお」

「すっかり緩んだ顔しちゃって。可愛い…。心も体もちゃんと癒してあげるから、もっと気持ち良くなっちゃって」

 温かい手と巻き付いて蠢く蛇体のもたらす快感は、陸の萎えた性感を復活させるのに十分だった。いつの間にか下半身が反応して滾り立つ。

「まあっ…。大きくなっちゃって…。」

「ご、ごめん。」

「ううん…。反応してくれてとっても嬉しいよ。あ…そういえば。」

「どうしたの?」

 困った様に口ごもる白夜に陸はそっと問いかえした。白夜は上目づかいで陸を気遣う様に言う。

「あの……お尻とおしっこの穴は痛くない?」
 
「え………。ううん………。大丈夫だから………。」

「そう…。良かった…。あ、あの…全然心配いらないからね!穴がガバガバになっちゃったりとか、そんな事は絶対にないから!」

「いや…その…別に気にしなくても…。」

 お互いに先ほどの狂気じみたプレイを思いだしたのだろう。顔を真っ赤にして俯く。冷静になった白夜は己のした事を思い知ったかのように、申し訳なさそうな表情で陸を見つめ続ける。しばらく言葉も無かった二人だが、沈黙に耐え兼ねた陸が言葉を発した。

「あの…白夜ちゃんは口では怖い事言っても…とっても気持ち良くしてくれたし…。君が優しい子だっていうのは良く分かっているから。もういいんだよ。」

「陸くん…。ありがとう…。本当にごめんね。もうあんな事しないからね…。」

 感極まった白夜はぎゅっと抱き着く。蛇体が優しくマッサージするように蠢き陸は喘ぎ声をあげる。

「傷つけていないはずだけど…一応ここにも念のため癒しの力を入れておこうね!」
 
「えっ?」

 疑問に思う間もなく白夜はにっこりと笑う。そしてしなやかな指を陸の肛門にあてがうと、そっと侵入させた。

「あ…まって!もうしないって言ったじゃん!」

「大丈夫!今度はなにも怖い事しないから!気を楽にして」

 慌てる陸をなだめる様に白夜は蛇体を巻き付けると、指先を直腸の敏感な部分に触れさせ念入りにマッサージする。それは先ほどの暴力的に犯すかのような魔力の奔流では無かった。甘く優しい力が陸の下腹部に染み込むように流れ込んでくる。癒される感覚に陸は恍惚とした表情を見せる。

「なに…これ…とってもきもちいい…。」

「そうだね…。気持ちいいよね。いいんだよ。我慢しないで感じちゃってね。」

 全身に回る甘美な感触に耐えきれなくなった陸は白夜にしがみつく。そんな陸を白夜も嬉しそうに受け入れぎゅっと抱きしめる。

「白夜ちゃあん…。」

「ほんとに陸くん可愛いよぉ…。そうだ!おしっこの穴も治療しておこうね!」

 白夜は微笑むと不意に仰向けになり陸の下に潜り込む。そしてシックスナインの体勢に入れ替えると張りつめた男根を咥えこむ。
 突然の事を受け入れるしかない陸だったが不意に声をあげた。白夜のぬめぬめとした舌が鈴口をちろちろと刺激してきたからだ。

「ああっ!いっ…。それはいやだよ!」

 先ほどの尿道の奥の奥まで熱く犯される感触を想像した陸は叫んだ。だが白夜の舌はそれ以上侵入せずそっと鈴口を舐め続ける。徐々に肛門と同じく優しく甘い快感が尿道に染み込んできた。

「うあ…。いいよお…。」

 穏やかな力の流れは尿道の奥まで浸透し陸を甘くあえがせ続ける。肛門の快楽も合わさり陸はたちまち絶頂へと導かれていった。

「いい…良い…白夜ちゃんいいよおおおおっ!気持ちいいよおおおっ!」

 細胞の奥の奥まで浸潤する甘く穏やかな法悦感に陸はたまらず達した。何度も体を震わせ喘ぎ続ける。だが延々と白夜に犯され絞られ続けたのだ。元気に飛び出る精は一滴も残っていなかった。ひたすら妻の温かい口の中に空射精し続ける。

 白夜はなおも愛情深くしゃぶり続けていたが、虚ろな目で痙攣する陸を見てこれ以上は無理だと理解したのだろう。口を離すと愛する夫の一物にちゅっと口づけした。そしてにっこりとほほ笑む。

「嬉しい!さっき私に全部精を捧げてくれたんだね…。偉いよ陸くん。ありがとう。」

「白夜ちゃん…怒らないの?」

 精が得られなかった白夜に怒られるかも。と思っていた陸はおずおずと尋ねた。

「そんなことある訳無いよお…。陸くんはとっても頑張ってくれたんだから!さ。体が冷えないうちにお湯につかってあったまろう!」

 白夜は愛情深い眼差しで陸を見つめる。そして快楽で腰が抜けた陸を抱き上げると一緒に湯船につかって抱き合うのだった。








 







 お風呂から上がった二人は抱き合ってベッドに横になっている。白夜の蛇体が掛布団の様に陸を優しく包み込んでいる、風呂上りという事も相まって、ぽかぽかの温かさの中で安らいでいる。
 もっと温かさに浸りたくて、もっとこの心地よさを味わいたくて、陸は蛇体を掻き抱く。すっかり魔力に浸食されて白夜を欲する事だけを求める陸だ。なんのためらいも無く夢中になって蛇体に顔を埋める。

「ん……。白夜ちゃん温かい…。気持ちいいよぉ…。」

「あは…。もう…陸くんたらすっかり甘えちゃって…。可愛いんだからぁ!」

「ごめん…嫌だったかな?」

 からかう様な白夜の口調に陸は慌てて顔を上げる。だが見上げた妻の顔は慈愛深い優しい笑顔だった。なんの気兼ねもいらないとばかりに優しく頭を胸に抱いてくれる。

「ふふっ…。変な気を回さないの。こうして陸くんが甘えてくれてとっても嬉しいんだから!ほら…今までは私にあまり甘えてくれなかったじゃない。」

「ああ…そうだったかな。」

「そうだよ!同族の有妃さんの所の旦那さんなんか、暇さえあればべたべた甘えてくるって言うのに。あなたときたら私が誘ってもやせ我慢しちゃうんだもん。」

「いや…森宮君は過激派に近い親魔物派だから…。彼と比較されても困るよ…。」

 苦しい弁解をする陸を見て白夜は顔をむーっとふくらますと、蛇体をさらに念入りに巻き付けた。

「だめですよ!そんな言い訳聞きません!いい。何も遠慮や気兼ねはいらないんだよ。陸くんは好きな時に好きなだけ私に甘えればいいんだからね!」

「白夜ちゃん…。」

「ね…覚えているでしょ…私はお義母さんに陸くんの事を頼まれているんだよ。いつだって私は陸くんのおかあさん代わりなの…。子供はおかあさんに甘えて当然なんだからね。」

 切なく語りかける白夜を見て陸ははっと思い出した。あれはもう何年前の事だろうか…。女手一つで陸を育ててくれた母が急病で亡くなったのは…。
 しっかり者で優しい母だった。結婚する時も我が事のように喜んでくれた。不思議と馬が合ったのか白夜と母との関係はとても良好だったはずだ。

 突然の母の病死で気が動転した陸は全く何も出来なかった。そんな彼を白夜は妻として献身的に支え、葬儀やその後の様々な手続きを夫に成り代わって行ったのだ。

 それからしばらくの後、冷静さと共に悲しみも戻ってきた陸が延々と泣き濡れるのを、白夜はひたすら慰め続けた。蛇体で優しく包み込み、陸が落ち着くまでずっと抱きしめてくれたのだ。そして穏やかにこう語りかけた。

「私はあなたの奥さんだけれど…これからはお母さんでもあるから。いつだって陸くんの味方だし、ずっとお世話する。だから陸くんも遠慮せずに私を頼って、好きなだけ甘えるんだよ!いい…私が陸くんのお母さんなんだからね。」

 いまわの際の母に陸の事を頼まれたそうだが、あまりに悲しみが強かったせいで当時の事はあまり思い出せない。だが、あの時の白夜の優しさと愛情。思いやりの深さにはどれだけ救われた事だろうか。

 だが、悲しみが癒えるにつれ白夜のこの言葉を意識することも無くなっていった。一刻も早く立ち直ろう。これ以上白夜に迷惑はかけられない。そう決意して甘える事は避けていたと言ってもいい。

 と、すると先ほどの陸の事を子供にする、といった発言はこの事があった故の事だろう…。白夜はずっと覚えていてくれたのだ。それなのに陸は白蛇の異様な独占欲の現れだと思い恐怖してしまった。俺は本当に馬鹿だ…。陸は己を恥じて問いかける。

「ねえ白夜ちゃん。」

「なあに陸くん。」

「あの…もしかしてさっき俺を子供にしたいって言ったのも…この事があったから?」

 申し訳なさそうな表情の陸をみて白夜は笑う。

「もちろんそうだよ!………って言いたいけれど、実際は陸くんをそばに置いて徹底的に可愛がりたかっただけなんだよね。それには子供にしちゃうのが一番かなって。
 だから気にしないで!陸くんが抱いた不安はあながち間違っているわけじゃないんだから。」

 白夜は再び陸の頭を抱き優しく撫でて慰めてくれる。相変わらず蛇体も巻き付いており、文字通り全身を包み込まれているといっていい状態だ。
 そうだ、白夜はこうしてずっと俺を優しく包んで護ってくれていたんだ…。陸は改めて思い返し、うっとりとして身を委ねる。

 母が亡くなった以後も陸の事をとても大切に、愛情深く包み込んできた白夜だった。だが愛する妻は笑顔の陰でずっと苦しんできた。己の心に渦巻く暗い欲望を必死に制御しようとしてきたのだ。

 先ほどはいよいよ我慢できなくなった白夜の血を吐く思いの頼みだったはずだ。それを陸は冷たく拒んでしまった。あれほど慈しんでいた夫に足蹴にされてどれほど嘆き悲しんだ事だろう。本当に申し訳ない事をしてしまった。陸は後悔したがもう今さら遅すぎた。

「そう言えば…こんなにずうっと陸くんを抱っこしてあげるのはあの時以来だね…。」

「白夜ちゃん…。俺…」

 感極まった陸が言葉を発する間もなく白夜はぎゅうっと抱きしめた。

「ね…陸くんは色々心配しちゃっていると思うんだ…。でも、大丈夫だよ!何も心配はいらない。これは悪い夢…。明日になれば笑って話せる夢にすぎないんだよ…。」

 温かい…。白夜の優しい言葉も、想いも、包み込む蛇体も全てが温かい。陸の心に僅かに残っていた不安も恐怖もすべてが溶けて行く。

「ううん。なんかもうどうでもよくなっちゃったよ…。白夜ちゃんにこうして抱きしめていてもらえればいいかなって…。」

「陸くん…。ありがとう…。じゃあ一緒におねんねしようか!こうして私がぎゅってしていてあげるから…。明日になれば、嫌な気分は全部消えてなくなっているよ。陸くんがこの事で悩む心配はないからね。」

「んぁ…。眠…く…なっちゃった…かな。」

「酷い事しちゃってごめんね…。疲れちゃったよね。陸くんの気の済むまでゆっくり寝ていいんだよ。」

 白夜の深い愛情を込めた笑みを見つめながら陸は眠りに堕ちていった………。
















「あ…おはよう。陸くん起きた?」

「んぁ…おはよう白夜ちゃん…」

 優しい温もりと大好きな匂いを感じながら陸は目覚める。心安らぐ声に耳を傾ければ、そこには白夜の姿があった。前日同様に相変わらず妻の蛇体に全身を包まれている。白夜は夫の視線を受けてほっとする様な柔らかな笑みを浮かべた。
 その笑みを見てどうしても前日の事を思いだしてしまうが…なぜだろう。不思議と甘く柔らかいものが心に満ちてきて、不安と恐怖の記憶を覆い隠してしまう。

「ふふっ…。それじゃあご飯作ろうか?」

「ん…。」

 白夜はそう言って蛇体を解いて起き上がろうとした。その時だ、陸の心に一瞬つらい思いが甦る。白夜と離れたら寂しい…切ない…悲しい…つらい…。

 動揺した陸は必死に白夜を抱きしめ引き止めた。

「嫌!嫌だから…。お願い。俺を一人にしないで…。頼むから…。」

 狼狽しきった様子の陸に白夜も慌てて抱きしめ返す。

「ごめんごめん!まだ魔力の影響が残っちゃっているよね。大丈夫だよ。もう絶対に離れないから…。」

「ほんとう?」
 
「もちろんだよ。私はもうあなたからずうっとずうっと離れない…。いつまでもいつまでもいつまでも一緒だからね…。」

 どろりとした昏い光を放つ白夜の視線が絡みついた。だが陸はなんのためらいも無く胸に顔を埋める。ほっとして安心したのか、再び眠気が襲いうとうとしてしまう。

「ありがとう。白夜ちゃん。」

「うふふふっ…。お礼なんかいいんだよ。え〜と…。まだ陸くん眠いみたいだから、一緒に二度寝しようか……。」

 白夜の声を最後まで聞くことなく陸は甘い二度寝に堕ちていった………。
















「ひぃっ…!うぁっ…!ぐうっ…。いっ…。いいよおぉ!りくくんのおちんちんごりごりいいよぉ!」

「すごい…。白夜ちゃん可愛いよ!もっと…もっと感じて。もっとエロい恰好見せてっ!」

「ぎぃっ…!も…もっと激しく…。お願いっ!もっと激しく突いてえっ…。擦り切れるぐらいわたしのお○んこ犯してえぇっ!」

 あれから一体何日過ぎ去った事だろう。陸と白夜はカーテンがかかった薄暗い部屋の中で延々とまぐわい続けている。とっくに時間の感覚は無くなっており、ただ甘い悦楽に身を任せている。陸が感じるのはたとえようもない快楽…白夜の甘い匂い…温かい抱擁…優しく見つめる真紅の瞳だけだ…。だがそれだけでよかった。他に何もいらなかった。

 陸の疲労と倦怠を察すると、白夜は栄養と魔力を込めた乳をたっぷりと飲ませる。そして一緒に風呂に入って体を休ませると、心尽くしの手料理を振る舞うのだ。満足した陸がうとうとすると抱き合って気の済むまで眠り続け、目が覚めるとまた当然のように交わり続ける。怠惰で爛れた毎日の繰り返しだった。

 心まで溶け切った甘い安らぎと、淫楽に浸った日々だった。

 ただ白夜の温かさと愛情だけを感じる日々だった。
 
 縛られ、拘束され、犯され続ける日々だった。

 かつて陸が拒み続けたはずの人としての自由を失った日々だった。

 ……だがそれが何だというのだろう。白夜が与えてくれる平安の前では、人としての誇りなど無意味なものだった。前は一体なんでそんな些細な事にこだわっていたのだろうか。陸は己の了見の狭さを嘲笑った。

 もういいんだ。このまま白夜と一緒に、深い沼の様な安楽の中にずっと堕ちて行けばいい…。このまま白夜に大切に守られて監禁されるのも心地よい…。陸は獣のようによがり続ける白夜を見つめる。

「おっ…おおぉっ!だ…だめ…りくくん…いきそう…いっちゃいそう…いくよぉ!」

 透き通るような肌がびっしょりと汗に濡れている。宝石の様な赤い瞳が虚ろに輝く。快楽に顔を歪ませて蠱惑的な美声で吠える。人前では常に貞淑な姿を崩さない白夜だ。痴態は夫である陸にだけしか披露する事は無いのだ。そう思うと陸は己の妻がますます愛おしくなる。もっともっと淫らにしたくなり渾身の力で腰を打ち付け続ける。

「ぐぁっ…あぐうっ!!きゅ、急にそんなに激しくするなんてっ…。だめだよぉ!」

「白夜ちゃん…。俺も…もうそろそろ…。」

「ん…。いいんだよ…。我慢しないで陸くんの好きな時に出せばいいんだよぉ…。私のおまん○はあなた専用の物なんだからぁ…。」

 快楽を貪りながらも白夜はいつも陸を気遣ってくれる。淫猥な天使とでも言った趣の慈愛深い眼差しを感じながら陸は達した。

「び…白夜ちゃん…いく…。」

 精をねだるかのような秘肉が陸の肉棒を締め付け、子宮口は雁首を包んで吸い続けた。精が尿道口を通り抜ける快楽を味わいながら、白夜の温かい胎内に大量に放出する。

「りくくぅん…それいいよぉ。精が美味しくてっ…いっちゃうよぉ!!」

 陸の肉棒がぐうっと大きくなり白夜の膣内でぶるぶる震える。あ、そろそろかな?白夜がそう思う間もなく精が注ぎ込まれて……蕩けるような甘さと快楽を味わい白夜も絶頂する。

「いっ…いっくううううううううっ!」

 白夜は呆けた様な妖艶な顔を晒し、魅惑的な嬌声でひたすら泣き叫んだ。そして無意識のうちに腰を動かし続ける陸を抱きしめると、蛇体で全身をしっかりと絡み付ける。陸も甘く温かい蛇体に巻き付かれて蕩けるような声を上げた。

 これが今日何十回目の絶頂だっただろう。貪られ疲れ切った陸は荒い息をついて蛇体の中で憩う。白夜は労わる様な穏やかな笑みを見せると、何度も優しく頭を撫でた。
 
「よく頑張ったね!ありがとう陸くん!とっても美味しくて良かったよ!疲れたでしょ…。そろそろお風呂に入ってお休みしようか?」

「ぅん…。」

 疲れるといつもこうして励ましてくれる白夜の優しさが嬉しい。陸はうっとりとしてしっとりと汗ばむ蛇体を抱きしめた。
 なんのためらいも無くこうして甘えてくれる陸を見るのが白夜も嬉しい様だ。母親の様な慈愛深い眼差しでそっと見守った。

「あ…陸くん。ちょっと待っていてね。」

「ん………。」

 だが優しく包まれる甘い時間は終わりを告げた。白夜は蛇体の拘束を解くと起き上がって窓辺に立つとふいにカーテンを開く。
 カーテンが開かれるなんていつ以来の事だろう。陸は急に部屋に差し込んできた眩しい陽光に目がくらんだが、やがてそれにも慣れて温かい日差しを楽しむ。

「ねえ陸くん!」

「なあに…白夜ちゃん。」
 
 陸は楽しそうにはしゃぐ白夜を見つめる。

「あのね…どうかな?家のお風呂もいいけど…久しぶりに温泉に行くって言うのは…。」

「え……でも……いいの…。」

 半永久的に家から出る事はかなわないと思っていた。戸惑を隠せない陸を優しく諭す母親の様に白夜は語りかけた。

「ねえ陸くん…。私はこうしてあなたとずうっとエッチし続けるのはとっても大好き。でもね。それと同じぐらい一緒にお出かけしたり…。買い物に行ったり…。美味しいもの食べに行ったり…。そんな事も大好きなんだよ。だから陸くんも付き合ってくれればうれしいな。」

 華やかににっこりと笑う白夜を陸は黙って見つめる。そうか…解放されるのか…。受け入れていたはずだった。ずっと監禁され、閉ざされた愛欲の中で生きて行く事は承知していたはずだった。

 なぜと言わんばかりに見つめた白夜の表情にあったのは憐れみだった。夫でもあり守るべき子供でもある陸を大切に慈しむ眼差しだった。その温かな視線を受けた陸だったが………

 これで陸の中の何かが切れた………

 知らず知らずのうちに涙が頬を伝っていた。思わず手をやるが頬が涙でぬれている。

 さらに続けて大声で泣き喚く声が聞こえてくる。一体誰が?

 そうだ……この声は俺じゃないか…………。

 陸は大声で泣いていた。先日白夜にあれほど責められても…涙は流してもぎりぎりで踏みとどまった陸だった。そんな彼がただひたすら泣きわめく。理由もわからず大泣きする。

 暫くはきょとんとしていた白夜だったが、我に返ると嘆き続ける陸の全身を蛇体で巻き付けた。頭を胸にしっかりと抱いて、何度も何度も優しく撫で続ける。
 陸は抱擁と温かさを受け入れ、うっとりと身を委ねる。気持ちが落ち着いて顔を上げた彼の目に映ったのは、深く後悔する白夜の姿だった。

「ごめんなさい陸くん………。たとえ何をしても、どんな手段を使ってもあなたを手放したくなかった………。」

 いつしか白夜も泣いていた。二人はお互いを抱きしめあいながらずっと泣き続けた。















 
 まだ低いが穏やかな日差しが差し込む暖かい部屋。身を横たえて憩う陸に白夜の蛇体が絡みつく。陸は全身に巻き付いた白い蛇体を抱きしめ、温かく包み込む感触にうっとりとした表情だ。白夜は子供のように甘える陸を優しく撫でながら、もう片方の手でスマートフォンを弄って何かを見ている。

「ねえ陸くん。この映画面白そうだよ!買い物に行くついでに見に行こうよ!」

 楽しそうに勧めてくる白夜だが、陸は気怠そうに蛇体に身を埋めて甘い匂いを吸い込む。

「うーん………。白夜ちゃんにこうしてぎゅってしていてもらった方がいい…。」

 いやいやする様に頭を振る夫の姿に、白夜はただ苦笑する。

「もう…。陸くんがそう言ってくれるのはとっても嬉しいけれど…でもたまには一緒に遊びに行きたいな……」

 そう言いかけた白夜だが、突然はっとした表情になって悲しげな眼差しをする。

「あ…ごめん…。私にこんなこと言う資格はないよね…。陸くんがこうなる事を望んだのは私だよね…。
 でも、大丈夫だから…。まだ魔力の影響が残っちゃってるけど、そのうちに間違いなく回復するから。心配しないでね!」

「ううん…。もう気にしないでいいんだよ。俺も白夜ちゃんに抱いていてもらうのがとっても心地良いから。ずっとこうしていたいな…。」

 申し訳なさそうに抱きしめてくる白夜を陸は穏やかに慰めた。労わる様に見つめ続ける真紅の瞳が美しい。

 あれから解放されたものの、何度も注ぎ込まれた魔力は陸の心身を犯し続けた。しばらくの間は白夜に付きっ切りで面倒みてもらわなければならなかったほどだ。蛇体に巻き付かれていないと強い不安と焦燥感が襲い、全く何も出来なくなってしまったのだ。

 病人に近い状態になってしまった陸だったが、白夜はそれまで以上の愛情を持って世話し続けた。不安を訴える夫をそっと抱いて癒し続け、情欲を抑えきれずに溢れる精を優しく搾る。もちろん食事や入浴など、朝から晩までありとあらゆる面で世話し続けた。

 もう陸の生殺与奪の権は完全に白夜に握られていた。仮に虐待されても文句も言えずに従うしかなかっただろう。だが白夜はあの時は申し訳ない事をしてしまったと、罪滅ぼしするかのような献身的さで接し続けたのだ。

 心が燃えたぎる様な魔力の影響は徐々に薄れてきて、今では蛇体に巻き付かれていなくともある程度は支障なく過ごせるようになった。
白夜と二人で近所のスーパーに買い物に行ったり、公園で日向ぼっこしに行ったりと外に出かける事も多い。

 今はとても穏やかで心安らぐ日々だが…結局友人達と同じように白蛇の妻だけを見つめ続ける日々になってしまった…。陸はとろけそうな頭で皮肉に思う。

 俺を奴隷にする気だろうと陸は白夜を散々罵倒してしまった…。その言葉が的外れの事であった事は今では理解できる。
 確かに白夜によって心も体も支配され、生活の全てを依存せざるを得なくなってしまった。結果として彼女が望んだ通りの事だ。

 だが白夜に拘束され、縛られる日々は陸が今まで知らなかった幸福をもたらしてくれている。愛する妻に全てを委ね、温もりと優しさに包まれる事は他の何物にも耐えがたい喜びだという事を思い知った。
 それが奴隷だというのなら喜んで奴隷になろう…。そう思う陸の心を見透かした様に白夜が心配そうに問いかけた。

「どうしたの…。何か心配事かな?」

「ううん。そんな事は…」

 白夜はかぶりをふると慈愛深く微笑む。

「そんな事言ってもだめだよぉ…。私はね。大好きな陸くんの事は何でもわかっちゃうんだよ。」

 陸が何か言おうとする間もなく蛇体がするすると巻き付いて全身を包みこむ。白夜の胸に頭も抱かれて甘く撫でられる。

「ね…陸くんは何にも気にする事も不安になる事も無いの。私があなたをずっと守り続けるから…。心配しないでいつも笑顔でいてね…。私は陸くんと一緒に居たい。二人で幸せになりたいだけなんだよ。」

 白夜の手が優しく愛撫し続けると、温かい力の流れが陸に染み込んでいく。知らぬうちに細々とした憂いが消えていった。陸の不安な思いを察すると、白夜はいつも抱きしめて優しく愛撫してくれる。こうされると煩わしく嫌な気持ちが、温かく穏やかなものに変わっていくのだ。

「白夜ちゃんありがとう…。」

 甘く蕩けそうな思いに切なくなった陸は、白夜の胸に手をあてがいじっと見つめる。

「ん?おっぱい欲しいのかな…陸くん?」

 蛇体に包まれ優しく撫でられると、無性に甘えたくて仕方が無くなってしまう。物欲しげで切ない瞳で見つめる陸に白夜は笑顔で問いかけた。

「いい…かな…。」

「私のおっぱいはまだ陸くんだけのものなんだよ。遠慮しないで好きな時に飲んでいいんだからね!」

 ためらいがちの陸の頼みに快く応じる白夜だ。最初は激しく罵って授乳を拒否した陸だが、今ではすっかり夢中になってしまっている。白夜もそんな彼に嫌み一つ言う訳では無く、頼まれればいつも喜んで乳を与える。

 だが今は白夜の言葉が妙に気になったらしく真面目な表情で伺う。

「まだ?まだって一体何の事?」

「まあまあ。そんな慌てないの!ほら、いつになるか分からないけど…赤ちゃん出来たら片方は譲って欲しいな。」

 大切なものが失われかねないと言わんばかりに動揺した陸。白夜は苦笑してたしなめる。それで納得したのか安心した表情で豊かな胸にすがり付いた。白夜も嬉しそうに愛する夫の頭を抱え乳首を咥えさせる。



「さ、どうぞ。たくさん飲んでくれれば私も嬉しいんだよ。」

 陸は恍惚とした表情で乳首を吸う。甘く、まろやかだが、癖が全くない乳の味わい。全身を温かく包む蛇体と優しく撫でる手、真紅の色をした思いやり深い眼差し。甘酸っぱい体臭。白夜の全てを感じてただ夢中で吸い続ける。

 もう今ではほかの飲み物を飲むことが多いし、白夜も決して無理強いはしない。だが一日一回はどうしても飲みたくてたまらなくなるのだ。いや。乳が飲みたいというよりも、白夜に包まれて白夜自身を己に取り込む感触がもう忘れられないのかもしれない。

 もっとも乳だけに限った事ではない。あの時白夜に激しく責められ、強制的に開発された肛門と尿道の快楽。かつてはアブノーマルなものと忌避していた性癖に陸は気が付いてしまった。

 これも白夜は無理強いする事は無いのだが、あの時の快感が忘れられない陸は自分から求めてしまうようになってしまった。何も恥ずかしがる事は無いと優しく諭す白夜に、陸は俯いて肛門と尿道へして欲しいとねだる。白夜は満足した笑みを浮かべて、蕩ける様に甘く穏やかな責めで絶頂させるのだ。

 精神的な充足感だけではない。肉体的な快楽に関しても完全に白夜に支配されている。もう妻以外の女性には全く関心を持つことも性欲を感じる事も無くなってしまった。心の中にあるのは白夜に包まれて快楽と安らぎを貪る事。ただひたすらこの甘く昏い海に溺れたい…。陸は夢中になって乳を吸い続ける。

「あれ…今日はなんかすごく美味しいけど…。」

 普段から至福の味わいと言っても過言ではない白夜の乳なのだが、今日はいつも以上だ。陸は気になって愛情深く見つめる妻を見返す。

「ふふっ。そういってくれて嬉しいな…。陸くんに美味しく飲んでほしいから…食べ物にはいつも気を付けているんだよぉ…。」

 嬉しそうにえへへと笑う白夜だが…。そうか。食べるものによって乳の味が変わるというが、白夜自身が食べるものにまで気を付けてくれているのか…。いつも夫の事を想ってくれる妻を心から愛おしく思う。
 
 でも、白夜は毎日とても尽くしてくれるのだが無理していないのだろうか。以前から献身的だったが最近は余りにも度が過ぎる様に思える。

「いつもこんなにしてくれて申し訳ないけど。あの…。」
「ん〜?なんですか。陸くん?」

 ふと思いついて陸は問いかける。子供をあやす様に微笑みを返す白夜もまた可愛い。

「あの…白夜ちゃんはもう大丈夫なの?この前みたいにつらくならない?無理しないで言ってね!俺に出来る事は何でもするよ!」

 陸はいたわりの眼差しで白夜を見つめ続ける。

 白夜はしばらくの間何とも言えない表情で固まっていたが、やがて感極まって涙ぐんだ。

「陸くん…。ありがとうね!私はね。陸くんがそばにいてくれればいつも元気なの!なんだって出来るしどんな事があっても耐えられる!
 心配させてごめんね…。でも陸くんは何も気にしないでね。あなたの幸せそうな顔を見る事が何よりの喜びなんだから!」

 陸の気遣いがよほど嬉しかったのだろうか。白夜は陸の頭を胸にぎゅっと抱く。蛇体の絞め付けもいつも以上に強まり、陸は圧迫感であえぐ。

「ん……。白…夜ちゃん…。」

「あ…ごめん陸くん…。」

 息苦しそうな陸に気が付いて慌てて締め付けを緩めたが、相変わらず泣き笑いの様な笑顔は絶やさない。

「えへへ…。嬉しいな…。そんなこと言ってくれて…………。ん〜。そうだ!今日は陸くんの好きなものをご馳走しますね!何でも食べたいものを言ってね!」

 白夜は、ぱあっと華やかな笑顔を見せる。そうだ…良く考えればこんな素敵な笑顔を見たのは久しぶりじゃないか…。思いも新たに見惚れてしまう。はしゃいだ躍動的な空気が伝わってきて、陸も楽しくなってくる。

 でも、白夜はいつも美味しいものを作ってくれるので、今さら食べたいものと言っても…だが、ここは好意に甘えよう。陸はそう思うとわざとらしく考え込むふりをする。

「ん〜。そうだねえ…………。それじゃあ肉!肉がいい!」

「え?それだけ?」

「うん!美味しい肉が食べたい!」

「それは反則。漠然としすぎてる……あ!そうだ!近所のスーパーが確か肉の三割引きセールをやっていたはずだけど。」

 困ったような顔で陸を見つめていた白夜だったが、急に思い出した様にスマホを操作する。

「やっぱりそうだ…今日は肉の特売日だったよ!それじゃあスーパーに行ってから考えようか?……陸くんはどうする?一緒にお買いもの行く?」

 気遣う様に、それでいて一緒に行こうよと目で訴える白夜が可愛らしい。陸も思わず頬が緩んでしまう。

「もちろんわかってるよ!俺もお供するから…。」

「は〜い!それじゃあ決まりです!どうしようか…まだ早いから午後になってからにしようか……。」

 ますます楽しげに笑う白夜だ。陸と一緒にいるのが心から楽しいのだろう。一緒に居る事が何よりの喜びなのだろう。陸はそれだけの事しかしていないのに、いつも心からの献身と深い想いを注いでくれる。

 そうか……。人とは相当違うがこれが白蛇の愛情なんだな。ふと陸は気が付く。普通の人間からすれば身も心も徹底的に縛られて、快楽と安逸を注ぎ込まれる異常な姿だ。
 だがそれは彼女達が心から愛する男に与える究極の幸福…。何よりも男を想うが故の至高の愛…。

 一緒になってそれなりの時間が経つのにこんな事にも気が付かなかった…。陸は唇を噛みしめてうつむいた。白夜と結婚するにあたって魔物娘図鑑は何度も読んだはずだが、全く何も理解していなかったんだな…そう思いため息を着く。

 となると…まだ肝心のけじめを付けていないのではないか…。陸は思い出す。あれほど白夜に酷い事を言ったのにまだしっかりと謝っていなかった。無論不安と恐怖に駆られて何度も謝ってはいるが、あんなものは謝罪のうちに入らない。

 別にこのままでも白夜は何も気にしないだろう。もういいんだよと苦笑するだけだろう。だが、それでは常に愛情を注いでくれる妻に申し訳ない…。陸は意を決すると白夜の目を真正面から見つめる。

「ん?また何か気にしちゃってるね…。大丈夫!私が楽にしてあげる…。」

「待って白夜ちゃん…。聞いて欲しいんだ。」

 真剣な顔つきの陸を慰めようとする白夜に優しく語りかけた。
 
「あの…俺は全く気が付かなかった。いつも笑っていた君が笑顔の陰で苦しい思いをしていたなんて、想像もできなかった…。挙句の果てに散々酷いこと言ってしまって…ますます君を苦しめて…。
 ごめん…。許してくれなんて言えないけど…。謝らせてほしい…。ごめんなさい…。」

 陸は頭を下げると白夜をぎゅうっと抱きしめた。そう、いつもの二人の儀式を。お互いに抱き合ってごめんなさいする儀式を…。

 白夜はしばらく物も言えないで固まっていた。
 
 だが突然の事で気が抜けた様な表情は徐々に歪んで…

 やがて大量の涙を流して泣き出すと、陸を抱きしめ蛇体で幾重にも拘束する。

「もぉ……。陸くぅん……。陸くんは人が良すぎるよぉ……。もっと怨んでくれたっていいのに…。心の奥底に憎しみを閉じ込めてくれていたっていいのに…。なんでそんなこと言うのよ…。」

 白夜は陸を抱き身を震わせ泣き続けた。陸はいつも白夜がしてくれる様に、手を伸ばして優しく撫でて慰める。やがて蛇体の先端が手のひらに絡まると、手を握り合う様にそっと締め付けられた。

「私こそごめんね………。あの時の私は陸くんの事を全く考えていなかった。突然あんなこと言われた陸くんがどれほど困るだろうかなんて、全く考えていなかった。
 ただ自分の苦しみしか頭になくて…陸くんに酷い事し続けちゃって…。本当にごめんね…。」

 穏やかに語った白夜は目に涙を浮かべて微笑む。再度陸を包み込むように抱きしめて温かい抱擁の中に憩わせる。永遠に続くかのような温もりの時間を、陸はただうっとりと弛緩して身を任せ続けた。

「あの…それじゃあ許してくれるの…。」

「ううん…。それを言うのは私の方。私の事許してくれるかな…。」

 白蛇の夫婦は見つめあい、恥ずかしそうにそっと笑った。これで終わった。戦いは終わりを告げた。二人は心の底からつながり合い…そして一つになった。今から新しい時間が始まったのだ…。陸は白夜を心から愛していた。何のためらいも無くそう言えるだろう。

「好き…。白夜ちゃん大好き…。好きだから。本当に大好きだから…。」

「うん!わかっているよ!ありがとう…。私も陸くんの事が大好き!」

 蕩けそうな頭で身を寄せ甘える陸を、白夜は愛する子供にでもするように撫でる。だが何かに気が付いた白夜はあっと呟いた。

「ごめんね…。おっぱいまだ途中だったね…。さ、好きなだけ飲んでね…。」

「ん………。」

 陸の頭は白夜に抱きかかえられて再び乳房を吸う。夢中になって愛情深い施しをひたすら貪る。滑らかで温もりある蛇体の抱擁と、いい子いい子するかの様に甘く撫でる手…。
 優しさと温かさに包まれた陸はまどろみに堕ちそうになって行った。

「あ…陸くんはまたおねむかな…。好きなだけ寝ていいんだよ。おっぱいたくさん飲んでおねんねすれば絶対に元気になるから…。そうしたらまた一緒に遊びに行こうね…。」

 優しく労わる声がますます眠気を誘う。見上げた陸の目に映ったのは慈母の微笑みを浮かべる白夜の紅い瞳だった。
 今はただ温かく守られている。白夜にすべてを任せれば幸せな日々は続くだろう。心からの安らぎを得た陸は穏やかな眠りに堕ちていった…………………













16/04/14 00:36更新 / 近藤無内
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■作者メッセージ
これにて本作は完結になります。
いかなる手段を使っても好きな男は己の物にする。そんな正統派の白蛇さんをずっと書きたかったのですが、気に入って頂ければ有難いです。

さて、本当は先月の連休中に読み切りでUPするつもりでした。それが全くはかどらずに、結局連載形式で一か月以上かかってしまいました…。
連載を二つ抱える事になってしまってどうしよう。と相当焦りましたが、今は完結できて心からほっとしています。

プライベートでも色々あって疲れました…。本当に白蛇さんに堕とされて、ずっとお世話されて幸せになりたいものです。早くゲート開かないかな…。

今回もご覧いただきありがとうございます。

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