お互いに離れがたくてあれからずっと抱き合っている。俺は頭を優しく撫でる手と、緩く絡みつく蛇体の心地よさに身を摺り寄せてしまう。有妃の体全体に包みこまれている、と思うと、甘く安らかで不思議な陶酔感に陥ってしまう。

　気持ちが落ち着くと色々な事に気を配る余裕も出てくるが、ふと腹が減っている事に気が付いた。良く考えれば固形の食べ物を腹に入れたのはいつ以来だろう。確か有妃に告白する前だ。あれから延々と交わり続けているので、いったい何日前の事になるのか…。
　困った……気になりだすと何か食べたくて仕方が無い。有妃は栄養素はちゃんと体に入れてくれているが、何かを咀嚼して腹に入れる満足感は、それだけでは足りない。

　空腹を気にしてもぞもぞしている俺に気が付いたのだろう。有妃は食事をとる様に進めてくれる。

「お腹空いていますよね？ごめんなさい。気が付かなくて…。何か作ってきますので待っていて下さいね。」

　絡みついていた蛇体を解くとすぐに起き上った。俺も慌てて一緒に手伝おうとする。

「それじゃあ俺も手伝うよ…。」

「佑人さんには精を十分すぎるほど頂きましたから…。これ以上無理はさせられません。ゆっくり休んでいて下さいね。」

　有妃は手伝おうとする俺を優しく制する。そして布団を掛け直して両肩をぽんぽんと叩いた。ついでと言う訳か頭をなでなでして、にっこりとほほ笑むと部屋を出て行った。

　一人になって俺は周囲を見回す。ここは……寝室か？有妃の家には今まで何度もお邪魔しているが、寝室に入れてくれたのはこれが初めてだろう。
　本当に女の子らしい部屋だ。と言っても身内以外の女性の部屋など知らないのだが…。だが、とても可愛らしく整理整頓が行き届いており、有妃だったらこんな感じの部屋だろう、と言うイメージそのままだと言ってよい。

　そして部屋にこもる有妃の匂い。香しい女の香りが満ちている。俺は依存してしまいそうな魔の芳香を存分に堪能した。何度も吸い込んでいるうちに、その匂いは布団から強く漂っている事に気づく。
　魔物の有妃が使っている布団だ。彼女の事だからこまめに干したりシーツを洗ったりしているのだろうが、それでも男を虜にする汗や体臭は染みついている。

　花の匂いにおびき寄せられる虫の様に、俺は布団を持って鼻に近づけてしまう。馬鹿…。止めろ…。女の子の布団をすーはーくんかくんかするなんて、どう見てもお約束の変態だ。
　心の中で理性が何度も止めようとするが、意に介さずに布団を顔に押し付ける。そして…ついに魔のフレグランスをすうーっと吸い込む。

　甘く、切なく、胸が締め付けられるような有妃の匂い。いつも抱きしめられて何度も嗅いでいる心落ち着かせる香りが、顔を包み込んだ。
　俺は夢中になって吸い続ける。大好きな有妃の、魔物娘の匂いを何度も何度も吸い込む。頭がくらくらする様な感覚を存分に愉しみつづける。その時だった……。

「佑人さんお待たせしましたっ！」

　有妃が戻ってきた。しまったっ！！見られたか！やばい。どうしよう……！動揺のあまり慌てて布団をかぶって寝たふりをしたが、当然お見通しだったらしい。あ〜っ。と嬉しそうな声を上げながら近寄ってきた。

「ゆ　う　と　さ　ぁ　〜　ん　……！　一体何しているんですかぁ〜？」

「………………。」

「ふっふ〜ん。寝たふりしたって駄目ですよぉ〜。」

　有妃はからかうような調子で無理やり布団をとった。にやにやとした意地悪な笑みを浮かべ、恥ずかしさのあまりうつむく俺を見つめている。さすがにこれは……。今から何を言われるかわからずに、不安と羞恥心がない交ぜになった顔をしてしまう。

　先ほどみたいに嬲られ続けるのか…。俺が悪いとはいえ、この事で嘲笑されるのはきついなあ…。そんな思いで顔を赤くする。だが……意外な事に俺を抱きしめて有妃はにこやかに笑ってくれた。慈しみのある眼差しに俺の気持ちも落ち着く。

「も〜っ。そんな顔しないで下さいよ…。佑人さんが私に抱っこされると、いつもくんくんしているのはわかっているんですよ…。だから、そんな恥ずかしがらないで…」

「えっ…。知っていたの…。」

「もちろんですっ！でも…さすがにこの事を指摘するのは気の毒でしたので黙っていましたが…いくらなんでも私の布団をすーはーする現場を見て見ぬふりは出来ませんねぇ。」

　魔物娘に性の隠し事など出来るはずもないのはわかってはいる。それでも匂いを嗅いで喜んでいた事を知られていたのは恥ずかしい…。有妃は仕方がないなあとでも言いたそうにくすくすと笑う

「……ごめん。」

「ふふっ…。ド変態の佑人さんも素敵ですよ〜。それに私だってあなたの匂いは大好きなんですから…おあいこです。」

　慰めてくれる有妃にひたすら頭を下げる俺だったが…。そうか、とっくに気が付かれていたか…。確かに彼女に抱きしめられるたびに、その優しい香りを何度も吸い込んでは安らぎに浸っていた。俺にとっては心が落ち着いて穏やかな気持ちになれる。いうなれば至福の香水みたいなものだ。

「でも…私の匂いなんか嗅いで…そ、その…。く、臭くないんですか…？」

「そんな事ない……とってもいい匂い…だよ。」

　急に恥ずかしそうにもじもじする有妃に構わず、俺は顔を押し付けて素敵な香りを胸いっぱいに吸い込む。ボディーソープの爽やかさが混じっているが、心をつかんで離さないいつもの匂いだ。少し慌てた様子の有妃は優しく頭を抱いてくれた。

「ちょっと…佑人さんったら…。もう…。」

「ん……こうして有妃ちゃんの匂いを嗅いでいるとすごく落ち着くんだ。もう離れられないよ…。」

「まあ…そんなに褒めて頂くと悪い気はしませんよねぇ…。でも、さすがに布団は恥ずかしいので……直接わ、私の匂いを嗅いで下さい…ね。」

　恥ずかしさを見せながらも温かな包容力で俺を受け入れてくれる。変態と罵られて蔑んだ目で見られるのかなあ…と思っていたので、心から安心する。
有妃に責められるとすっかり興奮するようになってしまった俺だが、でも、こんな現場を抑えられて馬鹿にされていれば相当ショックだったっと思う。良かった…。やっぱりわかってくれている…。

「でも、有妃ちゃんの布団の匂いもまた違った良さがあるしなあ…。」

　有妃に受け入れてもらって調子に乗った俺は、布団を取ると鼻に押し付けた。より濃厚な匂いが鼻を刺激する。

「な…っ！だ、だからそれは駄目ですってばっ…！なんか妙に恥ずかしいんですよっ！もうっ！」

　慌てた有妃が布団を無理やり取り上げる。呼応したかのように蛇体がするすると巻き付くと優しく緊縛する。

「ふふっ…。聞き分けの悪い佑人さんにはこうしてあげますっ！」

　心地よい拘束を受けてすっかり安堵すると、その甘い匂いに包まれる。顔を見ると優しく微笑んでくれているのが嬉しい。俺は身を委ねてふわふわとした陶酔感の中を漂う。有妃は、甘えんぼさんなんだから…と呟き苦笑すると頭を撫でてくれる。そんな穏やかな時間が過ぎて行った……。














　


　バターと蜂蜜をたっぷりと塗ってあるこんがりトースト…良く焼いた厚切りベーコン…
　色とりどりのサラダ…グラスにはジュースとミルクも注いである。有妃に促されて食卓に着いた俺の目の前には、とても美味しそうな食事が広がっていた。

「ありがとう。こんなに豪勢だなんて思わなかったよ。嬉しいな…。」

「いえ…そんな…。さっ。どうぞお召し上がりください！」

　謙遜する可愛い姿を眺めながら早速料理を頂くことにしようと思ったが…。有妃は突然ベーコンをフォークで切り出した。彼女もお腹が空いたのか？とそんな疑問を思う間もなく…

「はい、あ〜ん。」

　微笑みながら俺の口の前にベーコンを出してきた。まさか…これは…伝説の萌えシチュエーションの…。

「どうしたんですか佑人さん？はい、あ〜んして下さいね…。」

「ちょっと…。有妃ちゃんなんで…。」

「なんでって…疲れた旦那さんにあ〜んしてあげるのは奥さんの務めですから。」

　思わぬことになり俺は顔を真っ赤にする。それは嬉しいけど…すごく嬉しいけれど、これは想像以上の恥ずかしさだ。しばらく躊躇している俺を見て有妃は急に悲しそうな表情なった。

「あの…、嫌、だったですか……。」

　そう言って泣きそうになる姿に俺は慌てて口を開ける。

「そんなっ！嫌なんかじゃないって！嬉しいよ！とっても嬉しいからっ！ええと…あ〜ん。」

「はいっ！あ〜ん。よく噛んで食べてくださいね！」

　笑顔を取り戻した有妃は俺にずっとあ〜んして食べさせてくれた。でも、まさかこの俺が女性にあ〜んして食べさせてもらうなんて…。信じられない気持ちと恥ずかしさがない交ぜになり、料理の味なんて分からない。こんな事なら有妃に責められて、恥ずかしい言葉でも言わされる方がよっぽど楽だ。

「今度はサラダですよ〜。はい……。可愛いですよ…佑人さんっ…。」

　にこにこしている有妃が目の前にいる。嬉しさと恥ずかしさのままに食べさせてもらい続けたが、それでも料理の味に意識が向いてきた。……これは、美味しい。っていうか美味しすぎる！今まで食べていたパンやベーコンは一体なんだったんだろう。ミルクもまろやかでこくがあり、その辺に売っている物とは雲泥の差だ。

　有妃の事だからデパ地下の高級食材か、富裕層向けのスーパーで買い物をしているのかもしれないが…。それにしてもこの味は信じられないぐらいの美味しさだ。何度も美味しいと言う言葉が出てくるのを抑えきれない。

「ふふっ。気に入って頂けたようで何よりです。これは全部魔界産の食料ですよ。バターやミルクはホルスタウロスミルク使用、蜂蜜に見えるのはアルラウネの蜜で、お肉は魔界豚といってとっても美味しいんですよ〜。」

　驚いている俺の気持ちを察した有妃は笑いながら言った。そう言えば狸茶屋では魔界産の食料のメニューが圧倒的だったな。当時は食べるのが怖かったものだが…。ふと、そんな事を思いだし懐かしい気持ちになる。

「ちなみにこの食材は佑人さんと初めて会ったカフェから宅配してもらいましたっ。桃里さんに教えてもらったんですよ〜。」

「へー。狸茶屋ってそんな事もやっているんだ…。」

　まさか狸茶屋でつながるとは…。少し驚きながら俺はホルスタウロスミルクを飲む。まろやかでとろけるようなこくがあるのに、牛乳にある様なくせが全くない。飲みやすく本当に美味しい…。ついおかわりを頼んでしまう。

「このミルク凄く美味しいよ。もう一杯いいかな？」

　すると有妃は急に目に暗い色を孕む。なんで？その理由が分からない。

「私にお乳が出れば牛女の乳なんかに頼らないでも、佑人さんに栄養をつけてあげることが出来ますのに…。口惜しいですね…。」

「ええと…。有妃ちゃん…。」

　自分の乳をもみもみする様な仕草をすると、有妃は少し寂しげに笑った。これは…嫉妬しているのか？まあ…ラミア属だしな…。でも自分の乳を飲ませたいと言ってくれるのは嬉しいし、もし出るなら飲んでみたいかも…。そんな思いを抱きながらも、俺はミルクを飲むのを止めようとする。

「あ…。じゃあこっちのジュースの方を貰えるかな？」

「いえっ…。ごめんなさいっ！違うんです！そういう意味では無いんです！さ、どうぞ。たくさん飲んでくださいねっ！」

「でも……。」

「正直に言えば佑人さんが牛女の乳を飲む事には少々複雑な思いです…。でも栄養補給にはこれがもってこいですからっ。佑人さんの体が第一ですよ。さっ。どうぞ！」

　慌てた有妃は目の前にミルクを出すと笑顔を作って見せた。本当に飲んでいいんだろうか…。俺がなおも躊躇していると、気にしないで下さい…と言いながら有妃はミルクを口に含む。なんでだろう？有妃自身も飲んで俺が気兼ねしないで飲める様にするの？
　そんな事を思っているうちに有妃にキスをされ、口移しでミルクを注がれた…。予想外のことに驚きながらも、有妃の唾液が混じった甘いミルクをこくこくと飲み干す。

「さっ…。たくさん飲んでくださいね…。」
　
　思わぬ展開にぼーっとしてしまう俺に、有妃は恥じらいを込めた笑顔を見せた。














　

　洗面所を借りて歯を磨いたのちに戻ると、有妃自身もトーストを食べていた。はむはむという音が聞こえてくるかのような、そんな愛らしい食べ方につい魅入ってしまう。
　だが、どうやらバターと蜜をたっぷり塗ったらしく、手がべとべとになっているのに気が付いた。有妃の白く可憐な指先を濡らすバターと蜜。何ともいやらしい。
　少し情欲を込めた俺の視線に気が付いたのか、有妃は指先を目の前でねちゃねちゃしてみせる。

「佑人さん見て下さいよぉ…。こんなにべとべとですよ…。」

　そういって自分の指をつーっと舐めると、淫らに笑ってみせた。
　俺は妖艶な姿に我慢できずに知らず知らずに有妃の手を取る。驚きもしないで俺を見つめる彼女の視線は、若干嗜虐的にも感じる。そして…有妃の指を口に含む…。
　一体何をやっているんだ…。自分でそう思いながらも、含んだ指先を吸って、舌で舐めて…付いた甘い蜜を存分に味わう。

「ふふっ…。ありがとうございます…。綺麗にしてくれるんですね…。」

　有妃は相変わらずサディスティクな表情で俺を見降ろしているが、からかうような口調で言った。そして指先を動かして、舌を摘んだりこすったりして弄ぶ。淫らな戯れが心地よくて、俺は夢中になって指先を舐めて吸い続けた。

「あら、そんなに一生懸命に舐めてくれて…じゃあ…もっとしてくれますか…。」

　お願いされた俺は嬉々としてご奉仕を続ける。だが、白く可憐で繊細な有妃の指先が、実際は恐るべき膂力を生むことを知っていた。
　以前二人で酔ってふざけあった時、有妃はトランプの束をつまむと一瞬にして引きちぎって見せたのだ。その凄まじい握技に俺は一瞬で酔いも醒めた。その時こう思った。絶対に喧嘩しては駄目だと…。

　俺は十分に凶器と言える指先をひたすら舐めているのだ。でも…それは普段も同じだ。その気になれば簡単に人間を絞め殺せる蛇体に巻き付かれて、ただうっとりとしているのだから…。有妃には明らかに生殺与奪の権を握られているのだ。

　そんな俺の実質的な支配者である有妃に、どんどん性癖を開発されていく。私の指を舐めなさいなんて、どう見ても女王様だろう。
　蜜とバターで指をべとべとにしたのも、俺をこうして誘導するためだったのかもしれない。やれやれ…これではダークエルフの奥さんにご奉仕している黒川の事を笑えない。　　　　　

　有妃は絶対に自分が支配者だなんて認めないだろうし、間違っても俺に危害を加える様な事もしないだろう。いつも愛情と思いやりで俺を包んでくれている。それはわかっている。わかっているが、こんなふとした切っ掛けで、俺が心身ともに魔物の『もの』になっている事を実感するのだ。

　魅惑的なご奉仕の時間が終わった。有妃は口から手を離すと、自らの口に持っていく。そして俺の唾液にまみれた手を何度もぺろぺろと舐めだした。妖艶なその姿は男の精を貪る魔物そのものだった。

「ああっ！佑人さんの味がします…。とってもおいしいですよっ…。」

　情欲を抑えきれない様子の声音で訴えかけると、誘うかのようなどろりとした眼差しで流し見る。淫猥な遊戯で気持ちが高ぶっていた俺は、そんな有妃の姿に我慢できなかった。

「有妃ちゃんっ！！俺っ！！もう駄目……。」

「ゆ、佑人さんっ！！」

　たまらず有妃に抱き着くと胸に顔を埋める。彼女自身も発情しているのだろう。先ほど嗅いだ匂いとは明らかに違う濃い香りが顔を包む。もう辛抱たまらず交わろうとしたが、意外な事に有妃自身が止めてきた。俺の全身を蛇体で拘束するとたちまち動けなくなる。

「ちょっと…。待ってください。駄目ですよ…佑人さん…。」

「焦らさないで…もう我慢できない！…それとも、なんか気に障った…。」

　有妃の機嫌を損ねるようなことをしたのか？それとも焦らしプレイ？また恥ずかしい事を言わせるのか？様々な思いが心の中を駆け巡る。切ない思いが顔に出てくるのを抑えきれない。

「いいえ…。とんでもない。佑人さんが求めてくれてとっても嬉しいですよ。でも、気が付いていないでしょうけれど、私はもうあなたから限界以上に精を頂いてしまったんです…。
　限界になった所をお薬で無理やり奮い立たせて、さらに何度も頂いてしまいました。インキュバスになっていない方にこれ以上の無理はさせられません…。」

　有妃は昂る俺を優しく諭す。見れば労わる様な眼差しだ。その気遣いはもちろん嬉しい。でも、だったらなぜ誘う様な事をしたんだ？あれだけ欲情を高めておいてからお預けするなんて…。俺を嬲って喜ぶ有妃らしい嗜虐心の表れか？

「ここまでしておいてそれは酷いよ…」

「ええ。わかっています…。私がからかう様な事をしてしまったのが悪いんです。ごめんなさいね…。ちょっとまってください。すぐに気分を楽にして差し上げますから…」

　恨みがましい眼差しで見つめる俺に、有妃はすまなそうに頭を下げる。でも…謝られても気持ちを鎮めてもらっても、滾った欲望は不完全燃焼のままだ…。
　それに魔物と何度も交尾して魔力を注いでもらう事が、インキュバスになる一番の方法と言うじゃないか。その結果、有妃にどれほど搾り取られても、先ほどの様な醜態は晒さない…。俺は訴えかける。

「俺は大丈夫だから…。有妃ちゃんと…したいっ。もう有妃ちゃんに食べられて嫌な顔なんかしないから…。それに、もっともっとして一日も早くインキュバスになりたいから…だから、お願いっ……。」

　俺は心からの願いを込めて訴えた。哀願にも似たその言葉を聞いた有妃だったが、徐々に瞳は真紅の鈍い光を帯び、酷薄で苛むような魔物の笑みを浮かべて行った。でも…今ではそれも素敵な彼女の一面。可愛い嫁が俺だけに見せてくれる姿だとしか思えなかった。
　
　だが…なおも有妃は己の気持ちを抑え、俺を押し止めようと努力しようとした。
　
　「いけませんっ！佑人さんはご自分が何を言っているかわかっていらっしゃらないのです…。大変な事になる前にお止めになって下さい。今の話は聞かなかった事にしますから…。」

　「ねえ…有妃ちゃんは俺の事が美味しくなかったのかな？　もう食べたくないのかな…」

　気遣ってくれるのはありがたいけど、それが無性にじれったい。つい挑発するような事を言ってしまった。有妃はそんな俺をしばらく黙って見つめていた。だが、とうとう気持ちを抑えきれなくなったかの様に、強い欲情を込めて語りだした。

「佑人さん…。これはあなたが言ったんですよ……。もう知りませんからね………。わかりました…。今度こそ望み通り犯して貪りつくしてあげますっ！！」

　もう何も恐れや不安は無い。冷酷に宣言する有妃を俺は恍惚の笑顔で迎え入れた……。

■作者メッセージ
次回で第５章は終わりになります。

べ、別に白蛇さんをくんくんしたり、あ〜んしてもらったり、指をぺろぺろしたいだなんて、
そ、そんな事を思っている訳ではありませんからねっ！……嘘です。

今回もご覧いただきありがとうございます。