連載小説
[TOP][目次]
第5章 「友達」として…… 9
 ……一体どれだけ絶頂し続けただろう……。5回目までは覚えていたが、それ以降はおぼろげな記憶しかない。今、またようやく意識が闇から目覚めた。
さきほどからこの繰り返しだ。目覚めれば強烈な快楽の施しを受けて意識を失い。また起きては気絶する。無限の悦楽の海にただひたすら溺れるだけだった。

 有妃と性の交わりを経て、このぐらいならなんとか耐えられる。と思っていた。だが…普段の優しさと思いやりの仮面を脱いだ彼女は、男を貪る魔物の情念を全力でぶつけてきている。正直言ってここまでとは思わなかった。そんなつもりは無かったが俺は心のどこかで侮っていたのだろう…。

 そして今、目の前には赤い瞳を燃える様に輝かせている有妃が、淫らな笑みを顔に張り付けている。獲物をいたぶり食らいつくす事を喜ぶ魔物の笑い、淫虐としか言いようがない笑いだ。

「おはようございます…。佑人さん。ご気分は……十分良さそうですね。……さて、目覚めて頂いたのなら…またいたしましょうか?」

「え…ちょっと…。また、するの?」

 一体何度目だろう。俺が目覚めるたびに同じ会話を繰り返している様な気がする。そしてその度に有妃は冷たく笑うと、容赦なく精を搾り取るのだ。今回も全く変わりなかった。

「もちろんですっ!ふふっ…。一日も早くインキュバスになりたいと言ったのは佑人さんなんですよ。お望み通り私の魔力をた〜っぷりと注ぎ込んであげますね…。すぐにでもインキュバスになって頂ければ私も大変嬉しいですから…。」

「ゆきちゃん…。」

「わかって頂けますよね…。大体佑人さんがいけないんですよっ。せっかく私が休ませてあげようと言うのに、無茶なことを言って…。駄目です…もう私も抑えられませんっ!これは佑人さん自身の言葉なんですから、自己責任でお願いしますね…。」

 駄目な子でもたしなめる様子の有妃は、不意に口づけすると液体を注ぎ込む。舌を念入りに吸われ、絡められ、犯されながら、甘く濃い液体を味わい続けた。あ…さっきの媚薬だな…。そう思う間もなく俺の肉棒はたちまちのうちに張りつめ、目の前の有妃の膣内に欲望を吐きだす事しか考えられなくなった。

「はい…。それじゃあ遠慮しないでたーくさんイッちゃって下さいね…。」

 嘲る様なひそやかな笑いを見せると、有妃は俺の体を持ち上げて対面座位の形を取る。そして蛇体をしっかりと絡みつけると、猛り立った肉竿を自らのどろどろのクレヴァスに押し込んだ。ずぶずぶと咥え込まれる男根に、蠢き締め付ける様な強烈な刺激がもたらされて思わずうめく。

「ふふっ…。そ〜れっ!!」

 あえぐ俺を見て優越感に満ちた表情をした有妃は、笑顔のまま腰を上げて俺の腰に打ち付ける。衝撃で子宮口が雁首を包み込むと、その甘く激しい吸引を受けて頭の中が真っ白になった。

「だ、駄目だからっ!!また…出ちゃうから…。いっ…いくいくいくうっ!

 あ…また、出る…。俺は獣の様に吠えると、たちまち白く濁った体液を有妃の胎内に爆発させた。有妃に何度も教え込まれた魔の悦楽が俺の心と体を焼き尽くす…。
 だが…それに構わず有妃はなおも激しく腰を動かし怒張を刺激し続ける。何度も何度も絶頂が襲い、子種が有妃を孕ませるべく子宮内に注ぎ込まれ続ける…。

「あははっ…。せーしぴゅーぴゅー出ていますよ…。いいですよ。とっても美味しいです…。う〜ん。どうしましょうか…。このまま枯れ果てるまで佑人さんを頂くのも素敵ですねえ…。」

 嗜虐的な喜びを隠そうともしない嬉しそうな声で、有妃はにやりと笑った…。














 
 もう……気持ち良いという感覚の他には何も意識できなかった。時折甘く強烈な快感が下半身を襲い、精を放出するたびに腰がガクガクと震えた。
 ただ白い幕のような物が目の前を覆い、どこからかよがり声が聞こえている。あ……これって俺の声だ…。ようやくその事だけに気が付いた。もう…駄目…何も考えられなくなる……。

 その時不意に全身を包む快楽が遠ざかり、有妃の声が遠くから聞こえてきた。え…。あ、ここに居たんだ…。俺が気が付くと、目の前には心配する様な眼差しの有妃の姿。

「佑人さん…。大丈夫ですか…。」

 俺は虚ろな目で言葉も無く見つめるだけだ。そんな姿を見た有妃は安心させる様に頭を抱くとぽんぽんと叩く。そして思わず泣きそうになるぐらい優しい声で、何度も大丈夫、大丈夫と繰り返してくれた。

「大丈夫ですよ…。心配させるのも可哀そうなので言って置きますけれど…先ほど食べて頂いた魔界豚には大変強力な精力増強効果があるんです…。それに、絶倫になるお薬も何度も差し上げていますし…。だからほぼ無制限にせっくすできますから安心して下さいね。」

 俺は無意識のうちに目の前の蛇体をかき抱いていた。有妃はすがりつく俺を慰めるように優しい愛撫を繰り返した。

「それに佑人さんには強力な身体保護の魔法をかけてあるんですよ。間違っても壊しちゃうようなことはありませんっ!そんな事をするなら私自身を殺した方がましですっ!!」

 有妃はそう言って思いやりを込めた笑顔でうなずいてみせた。正直何を言っているか良く分かっていなかったが、何も心配しないで大丈夫だ、と言っている事だけは理解できた。
 そしてその事は良く分かっていた。有妃に身を任せていれば大丈夫だと言う安心感は、ある意味こんな悲惨な状態でも間違いなくあった。優しい笑顔に答えるかのように俺もにっこりとする。

「ふふっ…。佑人さんがつらいなら休憩を取りますけど…。どういたしましょう?」

 そっと勧めてくれる有妃に俺は無言でかぶりを振った。

「わかっておりましたが、さすが私の旦那様ですっ。では…続きを始めましょうか…。」
 
 有妃は感心したように言うと、口づけをして再び口中に媚薬を注ぎ込む。俺もねだる様に有妃の唇舌を何度も吸って舐めまわした。そうすると喜ぶように目を細めてくれるのが嬉しい。

「正直言うと…先ほどまでは気を遣いすぎて、どうも不完全燃焼ぎみだったんです…。これでやっと全力で佑人さんを愛せているんですよ…。
 何も心配しないで大丈夫ですよ…。だから、もっともっと気持ち良くなって、何百回気絶してもお付き合いして頂きますからねっ!!」

 そう言って華やかにぱあっと笑う。ああっ…。何で有妃はこんな時に素敵な笑顔を見せるんだろう…。俺は有妃の笑みを目の奥に焼き付けて、また淫楽の中に溺れて行った…。

















「はい。佑人さん。ミルクをどうぞ。」

「ああ…。ありがとう有妃ちゃん…。」

 俺はベットで横になっている。魔物としての本性を現した有妃には、あれからさらに何度も何度も搾り取られた。それまでの労わりと気遣いから一変して、暴力的な快感を延々と叩きこまれ続けた。頭の中が真っ白になる様な感覚に耐えきれずに、何度も気絶してしまったが、それでも遠慮なく責めたてられ続けた。

 自分自身を意識する事すら出来なくなる様な快楽が、どれだけ続いた事だろう。ようやく我に返った俺だが、凄まじい倦怠感のあまり指先一本動かす気力すら無かった。でも、あるのは疲労感、特に精神的なものだけで他には苦痛などは感じない。有妃は心配しなくていいと言ったが、まあ…一応は本当だったようだ。

 そんな姿を見た有妃はようやく俺を解放すると、優しく労わり丁寧にお世話してくれている。先ほどまでのいたぶる様な魔性の笑いは消え去り、心からほっとする様な微笑みを浮かべているので気が休まる。
 でも、やっぱり最初した時は遠慮してくれていたんだろう。気遣ってくれていた事を思うと、つい詫びてしまう。

「本当にごめん…。面倒掛けちゃったね…。」

「もう。佑人さんは好きなだけ甘えてくれればいいんですよ…。そんな事言わないで下さい!」

 有妃は元気良く笑うと俺を見つめる。優しいが強い力を感じさせる瞳だ。先ほど以上に肌の色つやも良く、白銀の髪も輝くように美しい。
 まあ、ずっと搾り取られ続けたからな…元気良さそうなのも当然か…。つい、そんな思いを抱くが、これほど活気みなぎる有妃の姿も新鮮で美しい。

 それに…有妃はそういうと言葉を続ける。

「お望みのことは何でもいたしますよ〜。不自由はさせませんから、遠慮無く言ってくださいねっ!」

 愛おしむかのような眼差しをする有妃がとっても素敵だ。つられてにこにこと笑顔を返してしまう。そんな俺を見て彼女は顔をほころばすと、頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。
 何でもいいと言ってくれるのは嬉しいけど…。でも。大丈夫。何を言っても有妃は受け入れてくれるはずだ。思い切って少し甘えてしまおう。

「何でもいいなら…。それじゃあ…あの、またぎゅってして欲しいかな…なんて……。」

「ふふっ…。は〜い。それでは甘えんぼの佑人さんを抱っこしてさしあげますね…。」

 無性に甘えたくなってつい恥ずかしい事を頼んでしまった。でも有妃は全くためらいも嫌なそぶりも見せずに優しく抱きしめてくれる。蛇体もするすると体に絡みつき、たちまち温かな魔の肉体に包み込まれてしまった。

 みっちりと包む蛇体の温かさと甘酸っぱく切ない匂いを感じる。俺は白くきめ細かい肌を掻き抱くと。弾力のある双丘に顔を埋めた。そのまま体を委ねて心地よさと安らぎの中を漂っていると、ふいにすべすべの温かい掌で両頬を挟まれた。
 有妃はそのまま優しく顏を持ち上げると、濡れた様に輝く赤い瞳でじっと見つめる。とても温かく、俺の事を気遣う様な穏やかな眼差しだ。

「あの…さっきは怖かったですか?」

 優しく、そして申し訳なさそうに問いかける有妃だが、先ほどの事を気にしていてくれたのだろう。俺は夢見心地のまま否定する。

「ううん。全然…。」

「つらかったですか…。苦しくはなかったですか?」

「正直に言えばすごく疲れたけど、とっても気持ち良かったから…。」

 なおも有妃は心配する様な視線を送り続けた。その優しい目で見つめられるのが心地良くて…俺もただ見つめ返す。しばらく吸い込まれそうな感覚を味わっていたが、有妃は下を向くと安堵したかのようにため息をついた。

「そうですか。良かった…。あの、無茶しちゃって本当にごめんなさい…。」

 有妃は申し訳なさそうに頭を下げた。いつも気遣ってくれるのはとっても嬉しいけれど、有妃にだけ心配させるのは悪い。俺も気になっている事を聞いてみる事にする。

「俺は本当に大丈夫だから。それで有妃ちゃんこそどうだった?俺と…その…して、不満は無い?もっと色々したいのなら言ってくれれば…。」

「そんな…不満なんてあるわけありませんっ…。とっても素敵でしたよ。先週末からずうっと佑人さんの美味しい精を頂き続けたのですから…今度こそ本当に大満足です。もう無理はさせませんので安心して下さいね。」

 穏やかに語り終えて、慈愛深く微笑む有妃はキスをしてくれた。貪り尽くす様な魔物の口づけでは無く、優しく触れるような接吻だ。そして俺の頭を抱くと耳元でささやいた

「本当にありがとうございます…。佑人さんとっても美味しかったですよ…。」

 耳にかかる温かい息が心地良くて背中がぞくぞくする。

「いえいえ。こちらこそ。でも、そうだね…。本当にあれから何日たったんだろう…。」

 よかった…。有妃に満足してもらったようで…それと、俺のような者が役に立てた事が嬉しい。でも、何だろう…。何か大切な事を忘れている様な…。

「はい。ええと…今日は金曜日ですね。といってももう夜になりますが。」

「そっか。金曜か……。金曜……って、ああっ!!しまった!!忘れてたあ!!」

 ようやく気が付いて思わず叫んだ。そうだったっ…。会社に行くのをすっかり忘れていたっ…。有妃の家に来たのが先週の土曜日だから…5日間も無断欠勤してしまったんだ…。やばい…。いくら緩いうちの会社でもこれはまずい…。

 だが、動揺して慌てふためいていた俺を有妃は優しくなだめた。そして両肩をほんぽんと叩いて気持ちを静めてくれる。

「大丈夫ですっ。大丈夫ですから…。日曜日に私から桃里さんに連絡しておきましたからっ。何も心配しないで下さい…。」

「そうなの?」

「はい。主人の体調が優れなくて、しばらく休ませてもらいたい。と伝えましたので…。」

「そっか…。良かった…。ありがとう。助かったよ。」

 とりあえず無断欠勤にならなかっただけ幸いだ。よかった…。思わず安堵のため息をついた。気を利かせてくれた有妃には本当に感謝だ。

 でも俺が『主人』か…。当然の事なのだが、いよいよそう言う立場になったのだ。有妃は無理しないでいいと言ってくれたが、気が引き締まる思いだ。でも…まさかこの俺がこんな素敵な人と夫婦生活を営むことにになろうとは…。仮に一年前の自分が聞いたとしても一笑に付しただけだっただろう。

「それで、社長は何か言っていた?」

「桃里さんでしたら今朝結婚のお祝いに来てくれましたよ。佑人さんを起こそうとしたのですが、疲れて寝ているなら起こさないでいいと気を遣ってくれて…。それと…ふふっ。なんとお祝いの金一封を持ってきてくれましたよ〜。」

 ありがたい。どうやら社長には色々お見通しだったらしい。そもそも有妃と結婚できることになったのも桃里社長のおかげだ。出社したらよくお礼を言わなければ…。

「それとですね。有給と特別休暇を合わせて何週間か休めるけどどうする、と言っていましたが…」

「本当に!?」

 これが本当なら思わぬ喜びだ。色々結婚の準備で忙しくなるはずだから、しばらく休ませてくれるのは大変ありがたい。

 …でも、4日も急に休んだのに、なおかつ数週間の休みを貰えるなんて…。おまけに嫌な顔一つしないで結婚を祝ってくれるし。いくら人とは価値観が異なるとはいえ、さすが魔物の社長だ。これでもう頭が上がらなくなったな…。

 ……とはいえ言葉を額面通りに受け取って大丈夫だろうか?魔物娘が本音と建前を使い分けるなんて面倒臭い真似をするはず無いとは思うのだが…。そんな俺の心中を察した有妃は安心させる様に言う。

「桃里さんなら信用して大丈夫ですよ。自分の言葉には責任を持つ方ですから…。どうでしょうか?ここはお言葉に甘えさせて頂きましょうか?」

「そうだね。これから忙しくなるから、しばらく休ませてもらおうか?それと…有妃ちゃんには会ってもらいたい人もいるし…」

「佑人さん……。はい!私も佑人さんにはぜひ会って頂きたい人が居るんです!」

 少し照れた俺に対して、有妃は朗らかな笑顔を見せた。そうだ…俺たちはもう夫婦のつもりだけど、互いの両親への紹介と言う一番大切な話はまだこれからなのだ。
 いよいよ娘さんを下さい!イベントをクリアしなければならない時が来たのだ。今まで煩わしい事はずっと避けてきた。そんな俺だがこれは絶対に逃げられない戦いだ。正直胃が痛くなる思いだ…。

 あ…でも、良く考えれば『友達』から恋人を飛ばして一気に『夫婦』になってしまうような気もするが…。まあ…細かい事はいい。どちらにしても有妃と一緒に居たい事に変わりはないのだから。ならば少しでも早く身を固めたほうが良い。

「大丈夫ですよっ!私の両親は佑人さんを絶対に気に入ってくれます!それに…万が一何かあっても私はあなたとずっと一緒ですからね…」

 思わず不安になった俺をなだめる様に頭を抱いてくれた。いつもの素敵な微笑みを見ていると心も落ち着く。














 


 その日の夜。今日はもうお休みしましょうと言う事で、有妃に抱きしめられながら横になっている。本当にいつもいつも抱っこされているな…。そう思うと少し気恥ずかしさもあるが、全身を蛇体で巻き付かれて守られている安心感と、心を蕩けさせる様な恍惚感は何にも変え難い。今もただひたすら温かい体に包まれながら、安らぎと心地よさに浸っている。

 最近ではすっかり自分から抱擁を求めるようになってしまった。あまり甘えるのもどうかと思うのだが、有妃も求められると嬉しそうにしてくれるのでまあ良いだろう。逆に遠慮していると悲しく不安そうな顔をするので、色々申し訳なくなってしまうのだ。     

「ああ…。これでようやく佑人さんをずっと抱きしめていることが出来ます…。もう帰り時間になって寂しい思いをすることは無いんですね…。これからはずっと一緒ですからね…。ずっとずっとずっとず〜っと一緒です…。」

 有妃は俺の頭を抱き締めると、匂いを染みつかせるかのように顔を何度も擦り付けた。長い髪から漂うシャンプーの香りが顔を包み、胸が甘く切なくなる。
 歓喜に溢れる彼女の笑顔を見ていると、とっても嬉しくなってくる。この人を大切にしていこう。生涯離さないで一緒に居よう。という使命感みたいなものが心に湧き起こってくる。

「俺もこうしていたい…。有妃ちゃんにずっと包まれていたい。好き…。大好きだよ…。」

 感極まった俺は有妃の柔らかい胸に顔を埋める。いい子いい子するかの様に頭を撫でてくれるのが心地良い。

「ええっ!もちろん私も大好きですっ!いいんですよ…。佑人さんが満足するまで好きなだけ甘えてくれていいんですからねっ…。でも…。」

 嬉しそうにしていた有妃だったが、最後の『でも』が気になって俺は顔を上げた。不安げな、そして焦燥感溢れる表情を見て身が引き締まる。

「でも…私だけですよ。佑人さんをお世話したり甘えさせたりするのは、私だけですからね…。出来る事は何でもしますから…。誠心誠意お仕えしますから…。お願いします……。どうかこれからは私だけを…」

「当たり前じゃないか!俺はもう有妃ちゃんしか目に入らないよ!いいんだよ…。もし不安なら…君だったら俺はもっと縛られてもいいから…。」

 泣きそうな表情で哀願する有妃が愛おしくて、俺は嘘偽りない本心を口にした。有妃になら縛られたい…。有妃だったら甘く優しく拘束してくれるはずだ。それは間違いなく安らかで穏やかな、俺が望んでいる日々のはずだから…。

「佑人さん…。ごめんなさい…。私ったら…。いいえ!大丈夫です!あなたを縛る様な事は…出来るだけしたくありませんから…。」

 はっと我に返ったような有妃は儚げな笑顔を見せた。何度見ても飽きる事ない微笑みに、俺はうっとりとしてしまう。でも、有妃の笑顔はこれから俺だけのものなのだ。この輝く白銀の髪も、神秘的な真紅の瞳も俺だけのものなのだ…。そう思うと急に独占欲が湧いてくるのが抑えきれない。

 有妃にはいつも見とれてしまう。本当に美しい…。映像でしか見た事が無いが、絶世の美しさを誇る魔王の姫リリムも、透き通る様な肌と白銀の髪、そして真紅の瞳を持っている。実物も有妃みたいな感じなのだろうか…。そんな思いが自然と言葉になって口に出る。

「有妃ちゃん…。本当に素敵だよ。まるでリリムのお姫様みたいだ…。」

 俺としては素直な気持ちを最高の褒め言葉のつもりで伝えた。だが、なぜか有妃は急に拗ねた様な顔になって、体に巻き付いた蛇体をぎゅううっと絞めた。苦しくはないので手加減はされているのだろう。だが、思わぬ事になってうめき声をあげてしまう。

「ゆ う と さ ん …。いくら魔王様の御息女と言っても、よその女を引き合いに出すなんて…。見かけによらずひどいお方です…。」

「待ってよ有妃ちゃんっ!違うんだってっ!君が綺麗だよって…褒めたつもりなんだよっ!だから…まって…。」

 有妃は大慌てで弁解する様子をじっと見ていたが、困り果てた姿を十分に堪能したようだ。悪戯っぽく笑うと蛇体の締め付けを緩めた。俺はほっとして安堵のため息をつく。

「ふふっ…。大丈夫です。わかっておりますよ。でも複雑な気持ちなのは本当なんですよ。魔界の王女様と比べられても恐れ多くて…。大体私はそんな…綺麗でも素敵でもありません……。」

 俺の視線を受け止めるのを恥ずかしそうにして有妃は俯く。白い肌が赤く染まっているのが可愛らしい。可愛らしさのあまり思わず手を伸ばして、きめ細かい肌をやさしく撫で、白銀の長い髪を梳く。さらさらの髪がふわっと漂い甘酸っぱい匂いが漂う。

 有妃はしばらく戯れを受け入れてくれたが、やがて俺の手を取ると優しく押し戻した。そして買被りですよ…と消え入るような声で言うと、小さく首を横に振る。そんな姿を見ていてもう我慢できなかった。知らぬうちに口から言葉が溢れ出ていた。

「そんな事ないよ!有妃ちゃんに初めて会った時…。俺、君の事とっても素敵だな。笑顔が可愛いな。ずっと見ていたいなって思ったんだよ。でも…俺なんかこんなに綺麗で魅力的な人に釣り合わないって一人合点しちゃって…。」

 言葉を切って有妃の様子を伺ったが、俺の目を見て続きを促すかのようにうなずいた。

「なのに有妃ちゃんはいつも傍にいて励ましてくれて、ずっと見守ってくれて…。どう言われたって君は本当に素敵なひとに間違いないから…。
それと…あの…君のそばにずっと居させて欲しい…。て言うか俺はもう君が居なくては駄目になっちゃたけど…。今までありがとう。そして、これからもよろしく…。」

 俺は偽らざる想いを情熱を込めて伝えた。ずっと、有妃とは生涯一緒に居たい。いつか有妃は俺を連れて故郷の魔界に帰り、ひたすら淫楽に浸って過ごしたいのだろう。今は抑えてくれているが、それを強く望んでいるはずだ。ずっと一緒に居ると言う事は、将来は半ば監禁状態になるかもしれないと言う事だ。
 
 でも、それを承知で、いや。そんな事はどうでもいいと思えるほど有妃とは一緒にいたいのだ。

 有妃は顔を真っ赤にして、潤みきった瞳で俺を見つめている。それがこそばゆくもあり、恥ずかしいセリフを発してしまった照れ隠しもあり、思わずキスをしてしまう。有妃の瑞々しい唇が気持ち良くて、もっと気持ちを伝えたくて、そして…思いっきり甘えたくて、何度も何度も唇を合わす。

 お互いに十分唇を貪った後、再び俺たちは見つめあう。そして有妃は今日一番というぐらいに明るく笑うと、嬉しさを爆発させるかのように訴えかける。
  
「はい。ふつつか者ですがこちらこそよろしくおねがいしますっ!大丈夫ですよ…。佑人さんは駄目なんかじゃありません。逆にもっと駄目になって頂きたいぐらいです。
 だから、何も心配しないで全部私に任せて下さい。私にあなたを護らせてください。一緒に幸せになりましょう。ね……。」

「有妃ちゃん…。」

 一瞬有妃の瞳が、思いつめたような暗い光を放ったかに見えたが、全然気にしなかった。もう我慢できずにただ温かく柔らかい体を抱きしめる。すると白い蛇体が優しくあやす様に俺に巻き付き、心地よい圧迫感を与えてくれた。

「佑人さん…。」

 有妃も穏やかに微笑んでくれている。最初に会った時と全く変わらない、愛らしく素敵な笑顔で…。俺は儚く愁いを帯びた様な、真紅の宝石の様な瞳をただ見つめる。何の不安も気兼ねもいらない。これからは有妃に守られて穏やかな毎日を送って行くはずだ。そう直感させてくれる。

「佑人さん…大好きですよ…。」

 俺の耳元で切なく囁くと、有妃は頭を優しく胸に抱きしめてくれた。柔らかい双丘に顔を挟まれ、温かい蛇体と甘酸っぱい匂いに優しく包まれて、もう夢心地だ。
 でも…ある意味ずるい…。いつもこんなにも優しく俺を受け入れてくれるので、もう絶対に逆らえない…。いつも有妃に甘え、いつも有妃に依存して、いつも有妃に溺れて、生涯心をとろとろに蕩けさせて生きて行く事になるはずだ…。

 もう絶対に離れられないけれど…でも…それで…。俺の思考は最後まで続かなかった。
 優しい抱擁を受けてたちまち睡魔が襲ってきたからだ。しかも眠気を加速させるかのように有妃はずっと頭を撫でてくれている。
 とろとろと眠気が頭をぼやけさせる。もう、駄目…。最期に顔を上げると、慈愛深く微笑む有妃が見えた。

「ふふっ…。佑人さんはもうおねむみたいですね…。嬉しい…。これからはこうして毎日寝かしつけてあげることが出来ます…。」

「ゆきちゃん…もう…。」

「いいんですよ…。ゆっくりお休みなさいね。」

 有妃は再び頭を胸に抱くと、甘い手つきでよしよしと撫でてくれる。全身を包む有妃の温かさと匂いを感じている。俺はこれまでの生涯に無かったほどの優しい眠りに堕ちて行った……























17/03/09 02:49更新 / 近藤無内
戻る 次へ

■作者メッセージ
次章に続きます。

ようやく第5章が終わりました…。
始まりが2月末ですので、かれこれ2か月以上書いていたことになります。
そもそも、この連載自体年末年始の連休で集中的に上げるつもりでいました。
それが遅筆に加え書きたい事が次々と出てきてしまいご覧の状態です。
ところで、これでようやく折り返し地点を過ぎました。これからも変わらずお付き合い頂ければ有難いです。

さて、今回の冒頭のHシーンは最初書くつもりはありませんでした。
それが色々情念が沸き起こってしまい、衝動的に書き上げてしまいました。
まあでも、久しぶりに魔物らしい有妃が描けて満足しています。ご覧の皆様のお気に召せば良いのですが…

今回もご覧いただきありがとうございます。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33