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第五章 「Further signs of a struggle and people come away」
俺たちはその部隊が発見されたところに行きながら、現状を確認していた。
詳しく話を聞くとどうやら東にある山を越えてきたらしい。
その山は険しく越えるのは困難なため警戒していなかった。
そのため山裾に広がる森を抜けてくるまで発見できなかったようだ。
「敵の数はどのくらいだ。」
「発見されたのは50人くらいですが、斥候部隊かもしれません。」
「いったい何が目的だ?」
レミリアが言ったことは俺も納得していないところだ。
つい1週間くらい前に大規模な侵攻作戦を失敗したばかりなのだ。
そんな短期間では十分な兵員やそれのための食料など用意できないだろう。
挙句こんなに早く侵攻してきても、メリットなどない。
そんな意味のない侵攻など教団の馬鹿どもが許すとは思えんが…。
そう考えていると前方から新たなハーピーがこちらに飛んできている。
「団長〜!」
「どうした?何かあったのか?」
「いえ、それがですね〜。」
困惑したようにこちらを見ていた。彼女が告げた内容に俺たちは驚いた。
「発見した人間たちのことなんですが。こちらに投降したいと言ってきまして…。」
『はぁ!!』

とりあえずそのまま東門に向かうと彼らの足元にはいくつかの武器が転がっていた。
すでに武装解除させられているようだった。
レミリアが進み出ると呼応するように彼らの中から一人の男が進み出てきた。
その男は大きい体つきをしており、その体には大小さまざまな傷を持っていた。
また片目は見えないのか眼帯をして隠していた。この男に俺は見覚えがあった。
「お前が投降したいと言ってきた者たちのリーダーか?」
「はい。ロイと言いま「ロイじゃないか。」す。」
俺がそう声をかけると彼はこちらを見た。見開いた目にどんどん涙が溜まっていく。
「旦那!生きてたんですねぇ!おれぁ、信じてましたよ!」
「心配かけたようだな。お前がいるという事は連れてきたのは…。」
俺は彼に近づきながら、彼の背後にいる人たちを見渡した。
思った通り、その中には見知った顔がたくさんいた。
「何だ、アキラ。知り合いか?」
「ああ。俺の知り合いで教団第1軍救護部隊にいたロイだ。
後ろにいるのは同じ部隊にいた者とその家族だと思うが。」
彼らはある山間にある村の出身だ。1年くらい前に起こった飢饉で食料が足りなくなった。
彼らは生きるために盗賊まがいのことをせざるを得なかった。
それが発覚し、俺とじいさん率いる教団第1軍が派遣された。
当然大した抵抗もできず鎮圧された彼らの事情を聞いたじいさんがある提案を持ちかけた。
今回のことを許す代わりに彼らの知識を貸してほしいという提案だった。
住む場所と食事も保証してくれるという事を聞き、彼らは満場一致で頷いた。
そして彼らは村で得た薬草の知識を生かして救護部隊に編成されることになった。

そんな彼らの事情をかいつまんでレミリアに話すと彼女は不思議に思ったのだろう。
レミリアは首をかしげながら彼らを見て、聞いた。
「ではなぜその部隊がここに来ている?」
「はぁ。それについては事情がありまして。」
とレミリアに答えると俺の方を見てきた。そしてその理由を話し始めた。
「ハインツ様が引退したのはご存知ですか。」
「ああ、じいさんから引退することは聞いていた。」
「その来た後任者がひどい奴で……ダウル卿の息子をご存知ですか?」
「……よく知っている。ボロンドのことか?」
ロイが言ったダウル卿の息子の名はボロンド・ダウル。
ダウル卿の一人息子であり、甘やかされて育ったせいか傍若無人な振る舞いをする奴だ。
特に貴族でなければ人ではないと考えている貴族至上主義を掲げていた。
そのせいでよく街で住民と争いを起こして、父親であるダウル卿を困らしていた。
あいつとは教団の騎士学校での同期であり、よく俺に突っかかってきたことを覚えている。
確か3年前にとある事件を起こしてあいつは騎士学校を退学になったはずだが。
「ええ。そいつがハインツ様の後任になりまして…。
俺たちのことを知って「そんな罪人は騎士団にはいらん」と言ったらしく…。
俺たちを処刑しようと動き始めたんで、家族引き連れて逃げてきたんです。」
「あいつは変わってないようだな…。じいさんは後任を指名しなかったのか?」
引退すると言っていたじいさんが残った者のことを考えないという事はあり得ない。
そう考えて聞いてみると予想通りロイは頷いた。
「誰かはわかりませんが、指名していたようです。
ダウル卿の息子が来たという事は無視されたのでしょう。」
「教団の馬鹿どもがやりそうなことだ。それで?」
「反魔物国家に逃げてもどちらにしてもいずれ引き渡されると考えましたので、
どうせなら新魔物国家に逃げればかくまってくれるのではと考えたんです。
教団に見つからないようにあの山を越えるのはなかなか大変でしたがね。」
俺はちらりとロイの後ろに見える山を見る。
50人くらいであそこを越えるのは確かに大変だったろう。
よく見てみるとロイたちは全員疲れ切っていた。
特に半数くらいいる女性、子供たちの顔は蒼白だった。
「…レミリア、まず彼らを休ませてあげてくれないか?」
「……いいだろう。城にある施設を提供しよう。今日はゆっくりと休みがいい。」
「ありがとうございます。それでは旦那また会いましょう!…皆行くぞ!」
レミリアに頭を下げ、俺に一言言うと先導していたアラクネに着いていった。
彼らの姿が見えなくなってから俺はレミリアに話しかけた。
「レミリア、彼らはこれからどうなる?」
「とりあえず背後関係を洗うが、何もなければ本人たちの希望に沿うようにする。
軍に入りたいのなら編成するし、平和な暮らしがしたいのならば他の都市を紹介する。」
「どうやって背後関係を洗う?」
「あの国には協力者がいる。彼らに頼んで言っていたことが真実か確かめる。」
「あの国に協力者なんていたのか?」
「表向きは反魔物派として振る舞っているがな。
互いに協力すれば自国をもっと豊かになると考えて、こっちに接触してきたんだ。」
……そんな奴らがあの国にいたのか。どこにでもまともな奴はいるのだな。
「すぐにこちらから連絡を取って確認してみるさ。早ければ明日にでも結果がでるだろう。」
「そうか…。結果がわかったら早めに教えてくれ。」
そう言うと俺は歩き始める。向かう先は都市外に出るための東門だ。
「アキラ?どこへ行く?」
「ちょっと気になることがあるのでな…。ちょっと確認してくる。」

そう言った俺は東門を抜け、彼らが通ってきたと思われる道を辿って森へ進んでいく。
彼らが通ってきた道は草木が踏み荒らされており、辿るのは容易だった。
少し奥地に入っていくとやはりというべきか人の気配がする。
「……そこの奴、姿を現したらどうだ?」
「……ばれてましたか。なぜ私がこの森にいると?」
「あいつらは教団に見つからないように山を越えてきたと言っていた。
だがそんな動きが教団にばれない訳がない。
とするとあいつらは利用されていた可能性が高い。あの都市に潜り込むために、な。
だが今のところ、誰かが都市に入った様子はなかった。
とするとまだ隠れている可能性が高い。となると怪しいのは都市の近くにあるこの森だ。」
そこで言葉を区切り、周りの気配を探ってみるが動いた様子はない。
「その通りです。さすがハインツ殿の息子ですね。」
「それで何をしに来た?」
「……いえ、その必要はありません。もう目的は達成されましたから…。」
「何だと?」
俺が反応するとそいつが姿を現す。そいつは黒色の服をまとっていた。
また隠密行動に特化しているのだろう。目に見える範囲では武器を持っていなかった。
とは言っても油断する気はないが……。それよりこいつが言ったことが気になった。
「ええ。私に命じられたのはあなたの生存を確認すること。
そして生きているのであればあなたを説得しろと命じられました。」
「説得だと?」
「ええ。……アキラ殿、教団に戻る気はありませんか?
私の主はあなたの能力を買っているのですよ、この世界を救済するために…。
ですから戻ってきていただけるとありがたいのですが…。」
「……お断りだな。あそこにいても俺の目的は成就されないのはわかりきっている。
 それにそいつの言う世界とは”人間”のだろう?」
「我が主の考えは私ごときには推し量れません。しかし断られたのは残念です。」
そう伝えるとそいつは残念そうに肩をすくめる。俺は手に剣を召喚し構える。
「逃がすと思うか?」
「いえ、そうは思いません。ですがこの暗闇なら逃げ切るのは可能だと思いますが?」
確かにこの森の中で姿を消されれば発見することはできない。
俺はため息をつくと剣を戻し、そいつを睨みつけた。
「ならば忠告をしておこう。今度俺の前に現れたならその時は容赦なく斬って捨てる。」
「ええ、肝に銘じときます。ではそちらにいるお友達と気を付けてお帰りください。」
そう奴は告げると体がスーッと消えていく。おそらく隠蔽魔術だろう。
その姿が完全に消え、気配がなくなったことを確認して、後ろを向く。
やはりというべきか、そこにはレミリアが木を背にして立っていた。
「……いつから聞いていた?」
「あいつが姿を現したあたりからだ。あいつは何者だ?」
「残念だが俺も知らん。」
スペランザへの帰路を歩きながら話す。あいつが何者かなど知ったことではない。
「おそらく今後もああいう奴らが来るだろうな。…だがその前に聞くべきことがある。」
そう言うとレミリアは俺の喉に刃を突きつける。少しでも動けば喉が抉れるだろう。
「お前が信用できるのか、どうかだ。」
「信用できないのなら、今すぐ俺を斬ればいい。もとより死ぬ覚悟はできている。」
少しの間、レミリアと俺は見詰め合う。しかしすぐに剣を鞘に納めた。
「……すまないな。疑ってしまって。これでも都市を守る身なのでな…。」
「構わんさ。疑われるのはとうに慣れている。」
「ふっ、そうか。いったいお前は過去に何があったのか気になるな。」
レミリアがからかうように言うと俺は過去を思い出す。
荒野に散らばる死体…、飛び散る血潮…、轟音と共に砕け散る人……、
そしてその中で一人立っている俺の姿を……。
「おい、どうした?急に立ち止まって?」
「……いや。なんでもない。」
俺は思い描いた風景を頭の隅に押しのけ、レミリアと並んで歩いて行った。
あの後ロイたちは休息を取ったのだが、その日夜這いに来た魔物に襲われた。
次の日の朝には未婚の男たちは襲い掛かった魔物と結婚していた。
また既婚者の妻はその時の魔力に当てられたのかサキュバスなどの魔物になっていた。
……まぁ、幸せそうにしてるから大丈夫だろう…おそらく…。

「そうか…。断られたか…。」
「すみません。使命を果たすことができませんでした…。」
ここはディスペラツィオネの城にあるある一室。主に結果を報告していた。
そこにいるであろう主の姿は暗闇に隠れて見えない。
「……仕方ない。別の方法でやるしかないだろう。」
そう答えると主はなにか考えてるのだろう。主が答えを出すまで静かに待つ。
「そうだな。お前にはかなり働いてもらうことになるが、頼めるか?」
「おおせのままに……。」
「準備には時間もかかる。そうだな、ダウル卿の息子にも協力してもらうことになる。」
主の発する小さな笑い声がその部屋に響き渡っていた。


「握りが甘い!死にたいのか!」
少年の持つ木剣を弾きながら、柄で彼の肘を打った。その衝撃で彼の持つ剣が落ちる。
「ぐっ!!」
「いいか。何があっても武器を離すな。そうなれば他の味方が死ぬぞ!」
「は、はい!」
木剣を拾った彼が俺に頭を下げ、後ろに控えていた者たちの中に入る。
俺が上を見上げるとそろそろ昼らしく太陽が昇りきっていた。
あれから半年……、俺は別の仕事がないときは訓練所で新兵を訓練していた。
「今日の訓練はここまでだ。各自言われたことを復習しておけ。
明日は集団戦をやるから覚悟しておけ。」
『はい!!』
彼らが帰ると俺は訓練所から出てそばにある小高い丘に登り、目を閉じて体を休める。
少しすると誰かが俺の横に来て座ったようだ。声をかけられなかったので無視する。
「起きているのだろう?」
そのまま時間が少し経つと、声をかけられた。目を開けると声の通りレミリアがいた。
「……何のようだ?生憎、暇ではないのだが。」
「嘘をつけ…。まぁそんなことはいい。さすがに新兵相手に本気を出しすぎではないか。」
「本気ではないが…、あのぐらいでちょうどいい。何も勝てとは言わん。
 しかし守りたいものを守れるぐらいの力は持たねば意味はない。」
「それはそうだが……。なぜかわからんが急いでないか?」
「いやな予感がする。これは今まででも何度か感じたことのある感覚だ。
 できれば間違っていてほしいが、備えておくことに越したことはない。」
「いったい何だ?その感覚とは?」
その言葉に俺は答えず、小高い丘を下り始める。慌ててレミリアも追ってくる。
何か後ろから言われているが気にせず、訓練所に向かう。
新米たちの訓練が終わったら次は自身の鍛錬をしなければならない。

そう考えながら、訓練所の扉を開くと先客がいた。少し隠れて様子を見る。
先ほど訓練していた新兵の一人のようだ。確か名前はアルと言ったか…。
彼は見られているのにも気づかず、黙々と素振りをしていた。
俺はため息をつきながら声を掛けた。
「……何をしている?今日の訓練は終わったはずだが。」
声をかけた瞬間、アルはビクッと体を反応させ、こちらを向く。
それを見て俺はさらに問いかけた。
「……ついさっき終わったというのにお前はここで何をしている?」
「いえ…。あの…。今日の復習をしようと……。」
「そんな疲れ切った体では逆効果だ。初日に言ったことを忘れたのか。」
「うう……。」
そう言われ、どんどん体を小さくしていく。再度俺はため息をつく。
「聞きたいのだが、お前は先ほどの素振りで何を考えていた。」
「……アキラさんに注意されたことを考えていました。」
「やはりか。確かに注意はしたが素振りではもっと重要なことがある。」
「?重要なことですか?」
「イメージだ。ただ振るだけなら誰でもできる。ならば考えろ。
自分の理想の形を、そして戦うべき敵、そして今いる状況をイメージしろ。」
アルに言うと彼は困惑していた。まぁ、最初はそうだろうな。
「もうひとつアドバイスをしておこう。他人の試合をよく見ておけ。
そのとき彼らが何を考え、どう選択したか想像しろ。
案外そんなところにもヒントは転がっている。」
「!……はい!」
「今日は体を動かすな。家で休んで明日に備えておけ。」
「はい!失礼しました!」
そう言って彼は走って訓練所を出ていく。それを見送って、またため息をつく。
アルが出て行った扉からレミリアが笑いながら顔を出していたからだ。
「さすがだな。いつもあのくらいで訓練してやればいいだろうに…。」
「我ながら似合わないことをしたものだ。」
「いやいや、なかなか似合っていたぞ。」
ふふと笑いながら訓練所にレミリアは入ってくる。
「なぜ入ってくる?俺は今から鍛錬するのだが?」
「いいではないか。一度お前の鍛錬を見てみたいと思っていた。」
「……見てて楽しいものではないのだがな。邪魔はしないでくれ。」
出て行けと言っても無駄と思い、俺は訓練所の中央で足を組んで座る。
そして頭の中で想像する。貯蔵している武器を、存在しない武器を……。
何日かに一回俺は自分が貯蔵している武器を確認する。
これをしておかないと戦場で必要な武器が出ないという状況になる可能性がある。
おそらくレミリアには俺の身体から何かオーラのような物が出ているように見えるだろう。

「旦那様いますか〜?暇なら一緒に昼食べませ…ん…か…。」
「隊長?いますか?」
「アキラ?いるのか?」
10分くらいそうしていると誰かが騒々しく入ってくる。
声からしてリズとリリィ、最後はライラだろう。
リズにはその呼び方はやめろと何度も言っているのだが……。
あの庭での戦いの後リズからは毎日のように求婚されている。
それに対抗したリリィが何回もアタックしてきたことで俺に好意があることに気付くことができた。
さらにはレミリアとライラも好意を持っているらしい(副団長たち曰くだが…)。
だが今のところ俺にはその好意を受ける気はない。
……今は関係ないことを考えていたな。考えていたことを忘れ、鍛錬を再開する。
「なぁ、団長。旦那様は何をしているんだ?」ヒソヒソ
「本人が言うには鍛錬らしい。リリィは何か知っているか?」ヒソヒソ
「何度か見たことはありますが、何をしているのかまではちょっと…。」ヒソヒソ
「ジパングにある瞑想ではないでしょうか?」ヒソヒソ
「知っているのか!ライラ。」
「団長、静かにしないと。」ヒソヒソ
邪魔をするなと言ったはずなのだがな…。まぁいい。
数十分ほどたって鍛錬を終えて後ろを振り返ると彼女らは居眠りしていた。
「…だから言っただろう。見てて面白いものでもないと。」
「む?終わったか?」
「じゃあ、昼でも食べに行きませんか?旦那様!」
「では隊長。シイナのところに行きましょう。」
「それはいいな。私もあそこの料理は好きだしな。」
「ああ。わかった。待たせてしまったし、私が奢ろう。」
そう告げると彼女たちは嬉しそうな顔をする。幸い金は使わないので余っている。
そう言って大通りのシイナの店に俺たちは向かった。
シイナの店に着いて少しすると後悔した。俺の奢りと聞いてリズはしたい放題。
俺の横で酒をジョッキで飲んでいる。すでにビンを5本も開けているが…大丈夫だろうか。
リリィとライラも最初はゆっくり食べていたのだが…。
酔ったリズに酒を飲まされ、共に横で机に突っ伏している。
そんな状況だったが俺はマイペースに酒をちびちびと飲んでいる。

「アキラ、こんなところで聞くことではないのだが、聞いていいか?」
「……内容による…。」
隣で同じように酒を飲んでいるレミリアが話しかけてくる。その顔は真剣だった。
「教団のことだ。ここ最近ちょっかいもかけてこないし、何かしているという情報もない。」
「…さぁな。俺にもわからん。だがずっと静かという事はあり得ない。
少なくとも俺に接触してきた奴は何かをするつもりで俺に接触してきたのだからな。」
「あの黒装束か…。」
「ああ。何も情報が入ってこないという事は故意に隠している。
 そしてちょっかいをかけてこないという事は準備期間という事だろう?」
「何か企んでいるという事か?」
「そう思う。また前のような侵攻しようとしているのであればディスペラツィオネだろう。
あそこはここからも近く、教団の信者が多いからな。」
「そんなのどうでもいいじゃないか〜♪そんなことより飲もうよ、旦那様ぁ♪…うぷっ」
レミリアと話していると後ろからリズに抱きつかれる。
限界なのだろう。すでに足がガクガクしていて、俺に抱きつくことで何とか立っている。
「…リズ、飲みすぎだ。もうやめとけ。
アキラ、シイナから部屋を一部屋借りてきてくれないか?」
「ああ、わかった。少し待ってろ。」
俺が自分の部屋と合わせて2部屋借りてくるとリズはすでにダウンしていた。
そんなに飲まなければいいだろうに……。

その後リリィとリズ、ライラを部屋に寝かせると俺は酔いを醒ますために外に出た。
レミリアは教団の動向について調べるために部下に指示しに行ったので一人だ。
レミリアの言う通り、あの森で黒装束と会った後不気味なほどに何も起きていない。
各地で小競り合いをしていた教団軍が自国に引き返し、教団の動きが沈静化していた。
表面上は平和に見えるが俺には嵐の前の静けさに感じられた。
この勘が当たらなければよいが……。
「あれ?旦那じゃあないですか?ここで何をしてるんです?」
そんなことを考えていたら声を掛けられた。そっちを向くとロイがいた。少し顔が赤い。
「…少し飲みすぎてな。お前こそこんな時間にどうした?」
「いやぁ、晩酌用のつまみが切れてしまいまして…。ちょっと買いに行っていたんですよ。」
彼が来た翌日を思い出す。次の日会いに行くと彼らには嫁ができたと言っていたな。
嬉しそうなロイに寄り添っていたのは肌が青く、頭から2本の角が生えている魔物だった。
魔物の名前は確か……。
「確か、お前の嫁はアオオニだったか?」
「ええ、アオオニの睦月(むつき)って言うんですが、これがどうも可愛くて……。」
俺が確認すると彼はにやっと笑いながら惚気話をし始めた。俺は適当な相槌を打っていた。
「…彼女は酔うと本当に可愛くて…。って旦那聞いてます?」
ああ、と俺が頷くと彼はふと思ったのだろう。それまでの話を断ち切って言い始めた。
「そう言えば旦那は結婚とかしないんですかい?旦那ならいい相手はいるでしょうに…。」
「そうでもない。こんな俺に着いて行きたいという奴の方が稀だろう。」
「そうでもないでしょう。現に「そう言えば家に帰らなくていいのか?」」
何やら要らぬ話をし始めたロイを遮るように俺が言うと彼は慌てだした。
「そうでした!じゃあ、睦月を待たせてるので帰ります。」
「ああ、大事にしろ。」
俺が言うと彼は袋を持って走っていった。俺はそれを見送ると上を向いた。
曇っている俺の心とは違い、その空には綺麗な月が浮かんでいた。
俺は少しの間月を見続けると、立ち上がって宿に戻り始めた。
部屋に着くと起き出したリズたちがまた飲もうとしていたので止めるのが大変だった。


同時刻、ここはディスペラツィオネの一室。ここには総勢20人の国の重鎮が集まっていた。
そんな彼らを前にして部屋の隅にいた男が立ち上がる。
彼は180cmくらいの身長をしており、その体を無駄のない引き締まった筋肉が覆っていた。
また薄い水色の髪を腰まで垂らし、髪と同色の目をしていた。
街に出れば十人中十人が振り返るような美しさを持っていた。
だがその美しさを台無しにしているものがあった。
それは眉毛の上から目を横切るように頬のあたりまである大きな傷だった。
そのせいでどこか冷酷な印象を周りの者に与えていた。
彼の名はコーレマ・テウラストス。このディスペラツィオネの宰相である。
「さて皆さん、ここに集まってもらったのは他でもありません。ついに準備が整いました。」
「おお!」 「やっとか!」 「これであの魔物を駆逐できる!」
コーレマが言うと周りの者たちから歓声が上がる。コーレマはそんな人々を見渡す。
「ええ。半年間もの間よく耐えてくれました。ここからは我々の番です。
ですがその前に掃除をしなければなりません。」
彼らがぽかんとしている中、彼はそう言うと腕を横に振る。
ザシュッ!    ……ボトッ!!
すると彼らのうち数人の首が転がり、その首からはおびただしい血が流れ出す。
「うわぁぁぁぁぁ「お静かに!!」」
彼が手をパンッと打つとその場は静まり返る。
そして扉が開き、黒装束を着た男たちが死体を布に包み、運び出していく。
またその中の一人がコーレマに何か耳打ちする。
「…そうですか。追う必要はありません。一人くらいなら逃がしても構いませんから。」
そう告げると黒装束の男は一礼をして去っていく。
「……さて、掃除も終わりましたし、話を進めますね。ボロンド殿いますか?」
「ああ、いるぜぇ。」
そう尋ねると一人の男が立ち上がる。
身長は170cmくらい金髪に、赤い目をしている青年だ。
しかし、常に人を小馬鹿にしたような表情を浮かべている。
「あなたには前もって言っておいたことをしていただきます。」
「あぁ。わかってる。いいんだよなぁ……好き勝手にして!」
「ええ。告げておいたことを守っていただければ何しても構いません。」
「いいねぇ。いいねぇ!……ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
いきなり狂ったように笑い出すボロンド。その眼はすでに正気ではなかった。
「やっとだ!やっと、復讐できる!楽しみだなぁ!ひゃひゃひゃひゃ!」
狂ったように笑いながら部屋を出ていくボロンド。
それを誰も止めなかった。否、止めれなかった。
「出て行ってしまいましたか。まぁいいでしょう。
もう一つの事案についてですが、こちらもすでに準備できており、発動するだけです。
ですがこれはあくまで最終手段ですから、そこを理解しておいてください。」
その後もこの会談は続いた。そして朝になると彼らは動き出した。
そして次の日、ディスペラツィオネを中心とする反魔物国家による魔界侵略が始まった。
彼らが目指すのは魔物の前線都市スペランザであった。
彼らがスペランザに着くまでおよそ4日……。
11/10/09 16:02更新 / まるぼろ
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■作者メッセージ
はい!どうもまるぼろです!
今回も遅れてすみません。
ここ最近、大学の卒業研究が忙しくなりまして……。
あげるのは早くて週1くらいのペースになりそうです。(;´・ω・`)ゞごめんなさい

本編の話に戻りますがこの章で新たな展開を迎えました。
次章は戦争メインの話になる予定です。お楽しみに…。(・д・)ノシ

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