連載小説
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第四十九話〜蒼の銃、緋の剣〜

人間気になる事があると何かにつけてその事へ思考能力が持って行かれがちになる。
人によっては夕飯のメニューだったり、はたまた街角で見かけた人が以前の知り合いに似ていたりとその『気になること』は十人十色、千差万別だ。
俺も気になることが出来るとその事について納得が行くまで悩む性質(そうでもないと生き残ることができなかった)なのだが、彼女はそれに輪をかけて気にするタイプのようだ……。

〜冒険者ギルド モイライ支部 ロビー〜

「お〜い、エルファ〜。」
「…………………………」

今朝からこの調子である。
エルファは朝一でギルドに顔を出すなり、開いていた俺の膝の上にひょいと乗っかって腕を組み、何か物思いにふけり始めた。
膝の上を独占されてアニスちゃんやニータ、メイがふくれっ面をしている。

「少しは反応してくれよ〜……寂しくて死んじゃうぞ?」
「…………………………」

うにょ〜んと彼女の両頬を引き伸ばしてみるが、完全無視。
別に機嫌が悪いわけでもなく(機嫌が悪いときは耳の毛が逆立っている)、ただひたすらに無言。いろんな意味でいたたまれない俺。
ロリっ子3人の恨めしげな目とか生暖かい目で俺を見ているミリアさんとかシェリアとか。
つい最近入ったアレンとランスもこちらをニヤニヤと眺めている。チクショウ、今度下水道に放り込んでバブルスライムの餌食にしてやる。

「お兄ちゃん、少しは嫌がってもいいんだよ?」

ヤバい、アニスちゃんが本気モードだ。
こうなると俺でも戦慄を覚える程に気迫が凄くなる。
というか微妙に髪が浮き上がってきてません?少し怖いんですけど。

「あ〜……何か考え事をしているみたいだからそっとしておいてやってくれるか?多分これも無意識の行動だろうし。」

ちなみにペッタンコをグリグリしても何の反応もなかった。(ニータに殴られたが。)
まぁ俺としては役得でもあるし、ずっとこのままでも良いのだが……。

『マスター、そろそろ依頼を受け始めないとまともな依頼が無くなってしまいますよ。』
「そう、だな。流石に一日をこのまま棒に振る訳にもいかないか。」

ただでさえ金銭的に余裕が無い上、この間のクエストの報酬が妙に少なかったのだ。
理由を問いただしても何も話してくれないし、報酬を押し付けられただけで話を終わらせられた辺り何かが有りそうなのだが……。

「目先の利益を確保しないとやってられんか。」

俺は膝の上に座っているエルファを抱き上げて今まで座っていた椅子に置くと、クエストボードへと向かう。
E-クリーチャー関連の依頼は無し、というか話も無し。
貼り出されているのは菜園の手伝いや果樹園の摘果の補助、生えに生えまくった庭の雑草取りなど極平和な物しか貼り出されていない。
平々凡々、荒事など何もないという平和ボケしそうな掲示板になっていた。

「兵士の俺が言うのもアレだが……平和が一番ってな。」
『皮肉にしか聞こえませんね。』

自覚はしている、と苦笑しつつ一つの依頼に手を伸ばす。
採取依頼、森の中の強壮剤の材料になるという木の実を取って来いという物だ。
たまにはピクニック感覚の依頼もいいものだ、とその時は考えていた。
それが、いかに甘い認識なのかも知らずに……



〜クエスト開始〜
―熱い夜のために―
『連日暑い日が続いて、村全体の体力が若干低下気味になっている。                 
魔物の夫達が夜にヘバり気味だという声も上がっているので、村に伝わる強壮剤を作ることになったのだが、いかんせん採取に名乗りを上げるものが居ない。                       
男を送り出そうとしてもその妻に送り出すのを渋られるし、独身の物を出せば帰ってこなくなる。かといって魔物達は夫から離れようとしない。                         
森の中へ入っても魔物に捕まらず、無事に木の実を持って帰って来る事ができる者がいたら斡旋してもらいたい。                                                  
                                                   クート村 村長』


「この強壮剤ってさ、要するに精力剤だよな?」
「ですね。服用すると夜が激しくなるタイプの。」

適当に選んでしまったが、よかったのだろうか……。
要するに俺は他人の夫婦のギシアンを補助するために使いっぱしりをやらされるわけで……

「やるせねぇ……」
「あはは……まぁこういう仕事も冒険者の役割の一つですから諦めて下さい。」

苦笑しながら受領印をクエスト用紙に押し付けるプリシラ。
まぁプリシラの言うことも尤もだし、こちらとしても財布が潤うのであれば文句は言えまい。

『マスターも一つもらい受けてはどうですか?使えば多少の鬱憤ぐらいは晴らせるかと。』
「バカ言え。そんな気分で女抱いても嬉しくねぇっての。だったら報酬で酒でも買ってロバートと呑んでたほうが幾分マシだ。」

ちなみに最近のプチ飲み会の話題はカレーライスとライスカレー、どっちが優れているかだ。
至極どうでもいい。



〜クート村付近 木洩れ日の森〜

カードポータルでクート村に転送し、採取するための籠を持たされた俺は森の中を歩きまわり、自生している木の実を籠へと取り込んでいく。
トラップのようにそこかしこに設置されている蜘蛛の巣を迂回し、おおなめくじの這った跡を飛び越え、遠巻きから望遠ツールでホーネットのコロニーを確認しつつ目的を達成していった。
マンティスが目の前に現れた時はヒヤッとしたが、特に何をされるでもなく素通りされた。
今が繁殖期でなくて助かった……。

「ま、現代のクレイモアやら自動機銃やらを欺瞞するよりは遥かに楽だわな。」
『熱源探知では引っかからないのが玉にキズですが。しかし、巧妙に迷彩を施されている訳ではないので幾分かは安全です。』

そんな現代兵器と魔物達の仕掛けたトラップに関する批評をしながら歩きまわると、あっという間に籠がいっぱいになった。
元からピクニック感覚で来ていたのだ。時間が経つのも早い。

「ま、こんなもんか。マッピングはできているよな?」
『問題ありません。そもそもさほど深い森でもありませんから。』

視界に矢印と目的地への大体の距離が隣に表示される。
コンパス無しでも問題ないのだから便利なものだ。
俺はあちこちに点在するトラップを回避しつつ、村への道を辿っていくことにした。



「……あん?何だ……これ……」

村に近づくにつれて、辺りにフワフワと光の粒子……いや、これは火の粉だ。
それが漂い始めた。しかし、別に熱を感じるわけでもなく、サーモスキャンでも特別高い熱が放出されているわけでは無いことが確認できた。

「……嫌な予感がするな。さっさと戻るぞ。」
『了解。行動の妨げになる木の実はここへ放棄した方が良いでしょう。』

ラプラスの言うとおりに籠を木の根元へと置くと、火の粉が漂ってくる方へと駆け出した。
村に近づくにつれて胸騒ぎと嫌な予感が大きくなっていく。
やがて火の粉が濃密な霧にもなろうかとした時、突如視界が晴れた。村に出たのだ。
そして、俺は想像を絶する光景を目にすることになった。



〜クート村〜

「……っ……な……何だよ……何なんだよこれはぁ!」

火の海。

火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海火の海。

火の粉に混じって鉄臭い血の匂いが漂ってくる。
見ると、道端に胴体の所で上下に両断されている男性が転がっている。
少し離れた所に白い塊が転がっており、その隣では少年が虚ろな表情で泣いていた。
何があったのか問いただそうと、その少年へ駆け寄った瞬間。


少年の頭が血煙となって消え失せた。


頭部を失った少年がグラリと倒れ伏し、ビクビクと痙攣する。
俺は、その光景を黙って見ているしか無かった。

「嘘だろ……何なんだよ……これ……さっきまで平和だったじゃないか……何で……何で!」
『錯乱している場合ではありません。動体反応1。目視可能範囲に出ます。』

建物の影から一人の男がゆっくりと姿を表す。
その男の手には銀色の拳銃が握られており、その銃口は先程の少年の残骸へと向けられていた。

「この……よくも……」
『マスター、落ちついて下さい。まずはコンタクトを取らなければ……』

「この野郎ォォォォオオオオオオオ!」

もう、ラプラスの制止など耳に入らない。
マニュアルでオクスタンライフルを展開し、フルオートでそいつ目掛けて乱射する。
俺の叫びに気づいた男がスッと建物の影へと見を潜めた。

「逃すかよ!」

駆け寄りながらM870を展開。ゴム散弾を装填し、建物の隙間へと向けて連続で放った。
今頃あの中はゴム弾の乱反射で打撃の嵐となっている筈だ。まともに立っていられるのはドラゴンぐらいの物だろう。
隙間を正面に捉える位置まで移動し、倒れているであろう男へ向かって銃口を向ける。

しかし、男の姿はそこに無い。

「っ!どこに行った!?」
『警告。上空より動体反応接近。回避行動を取って下さい。』

警告を受けて咄嗟に横っ飛びに転がる。すると、今まで立っていた所へ、何かが強い勢いで叩きつけられた。土埃が晴れ、それを確認。大剣だ。

「へぇ、やるじゃねぇのよ。頭に血が上って判断力がトんじまっているかと思ったぜ。」

赤いコート、髑髏と十字架のペンダント。俺が確認できたのはそこまでだった。
ゾクリと悪寒を感じ、咄嗟に鵺を体の前面に押し出した瞬間、強烈な衝撃と共に後方へと吹き飛ばされ、ザリザリと地面を滑っていく。

「っぅ……!なんて……怪力だ!」
『人間の出せる出力を超えています。危険度は未知数。一時撤退を推奨します。』
「バカ言え!この惨状の原因らしき奴が目の前にいるんだぞ!?ケツまくって逃げ出せるか!」

よろよろと立ち上がって再び銃口を男へ向ける。
その様子を見て男は心底面倒そうに肩をすくめた。

「おたく、何か勘違いしてないか?少なくとも俺はこの事態の収拾に来たんだぜ?」
「ふざけんな!子供の頭をふっ飛ばしておいて今更何を……!」

しかし、叫んだ途端に猛烈な違和感に襲われた。
俺が見たのは、『少年』だ。
『魔物の少女』ではない。
俺は既に見ている筈だ。



この村の夫婦の殆どは、魔物と人間の男性ではなかったか?



「……何が、起きている。」
「見てりゃ嫌でもわかるだろーよ。俺にケンカ売るならそれを見てからでも遅くはないんじゃねーか?」

すると、民家の一つの扉が勢い良く開いた。
中からは、ワーラビットが何かを抱きしめて外へと転がりでてきた所だった。

「はぁ……はぁ……可愛いよぉ……食べちゃいたいぐらい可愛い……」
「やめてぇ!ダメ、だめだってばぁ!」

妙に血走った目で少年を組み伏せ、そのまま犯し始めるワーラビット。
俺は何が起きているのか解らず、ただ呆然とするしかなかった。

そして、家の中からさらにもう一つ、大きな人影が出てくる。
というよりあれは……

「っ!ガーディアンだと!?」

以前見た戦士タイプと同型の物だった。
ほぼ条件反射でM870を展開し、スラッグ弾を装填。胸部へ向けて発砲し、コアを潰して機能を停止させる。

「ひゅ〜、やるねあんた。アレを一撃かよ。」
「茶化すな。一体何が起きている!」

男は無表情で先ほどのワーラビットを親指で指し示した。

「やだ、出ちゃう!やめて、抜いてぇ!」
「いいよ!このまま中で出していいから!君の子種で種付けしてぇ!」

この惨状にも関わらず、彼女はほぼ狂乱と言っていいような勢いで少年を犯し続けている。
そして、少年の体が大きく震える。恐らく絶頂に達したのだろう。
ワーラビットの結合部から白い液体がわずかに零れた。

「はぁぁ〜〜〜〜……君の熱いの……いっぱ……い……」

そして、彼女がそのままの姿勢で固まった。
次の瞬間、腹を押さえてもがき苦しみ始める。

「ぐ……ぁ……が……」

そして、俺は我が目を疑った。超常現象が日常的に起こるこの世界において、何が起こっても不思議ではないと。そう、これ以上驚愕するような事態は起こらないだろうと思っていたのだ。甘かった。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁあああああ!」

断末魔の声を上げ、彼女の全身から炎が燃え上がった。
激しい炎を上げながら燃焼し、後には骨だけしか残らない。
そう言えば、これだけ激しく火の手が起こっているにも関わらず、家屋には一切延焼していない。
それどころか、輻射熱すら感じないのだ。

「ま、そういう事だ。」

そう言うと男はぐったりと倒れている少年の頭へ銃口を向けて発砲。
その少年の頭を撃ち抜き、吹き飛ばした。

「これが、今現在この村で起こっている事だ。男はガーディアンに殺され、魔物はこいつらで燃やされる。中々にイっちまっている状況だとおもわねぇか?」

道端に落ちている白い塊。
最初は燃え尽きた木材が灰にまみれて転がっている物だと思っていたが……

「……冗談……じゃねぇ……!」

よく見るとそれは骨であり、人の骨ではなかった。
それが、無数に落ちている。

「何が……一体……何で……こんな……」
『今は疑問を感じている状況ではないようです。』
「そのリビングアイテムの言う通りみたいだぜ?パーティの主賓のお出ましだ。」

金属同士がぶつかり合うような音と共に、炎の中から見覚えのある物達が大量にこちらへと近づいてきた。
ガーディアン達だ。

「テメェら……絶対に……絶対に……っ!」
「さぁ、覚悟はできたかよ?クソ野郎共。」

もはや、怒りで何も考えられない。
今はただ、目の前の敵を。



「絶対に許さねぇぞ!チキショォォォォオオオオオオ!」

「最高にイカれたパーティの始まりだァ!」




ほぼ無意識的にE-Weaponを呼び出す。
どうやらラプラスが俺の思考に合わせてくれたようだ。
出したのはクラスターランチャー。それを敵陣のど真ん中へと打ち込む。
巨大な連鎖爆発により、ガーディアンの隊列が大きく乱れた。
そこへ男が突っ込んでいき、各個撃破を行っていく。しかし、そこで終わらせない。
上空へとUAVを放ち、戦場全体を表示する。

「こいつらは……ここで平和に暮らしていただけなんだ……それを……それをこんなにあっけなく奪いやがって……!」
『出力1000%突破。EX.LOAD突入。コード『インドラ アロー』発動。マルチロックオン…』

UAVの映像に表示された戦場全体のガーディアンを次々とロックオンしていく。
もうすべきことはわかっている。鵺が、エクセルシアが教えてくれる。
砲身を真上に向け、怒りを滾らせる。

「てめぇら全員……」
『発射準備完了。クラスターランチャー、スタンバイ。』

そして、トリガーを引く。
全てを消し飛ばす破壊の引き金を。

「消えて、無くなれぇぇぇぇぇえええええ!」

巨大な、それも太陽と見紛うほどのエネルギー塊が上空へと打ち上げられた。
そのエネルギー塊は村の真上まで来ると一瞬閃光を放ち、数千、数万の小さなエネルギー塊へと分裂。地表へと落下していく。
目標は勿論、先程ロックオンしたガーディアン達だ。

エネルギーの爆撃が一斉に地表へ到達した瞬間、世界から音が消失した。
いや、音が大きすぎて逆に聞き取れなくなったのだ。
防爆姿勢を取り、自分への衝撃を最小限に抑える。
爆発の衝撃が完全に止んだ時、辺りに動くものは何一つ無かった。



先ほどの、赤いコートの男を除いて。



「いや〜、最高だなアンタ。そんなゴキゲンな隠し玉どこに持っていたんだ?」
「どうでもいい……それよりあの少年。あれは一体何なんだ?」

俺の頭の中からは既にE-Weaponの強大な威力の事など無くなっていた。
浮かぶ疑問は先程の少年とワーラビットの事だけだ。

「教会製の人形生物兵器……って事になっている。どこのマッドが造ったかはしらねぇがな。ガーディアンについては知っているだろ?冒険者ギルドモイライ支部のエース、アルテア=ブレイナーさんよ?」

どうやら彼は俺についてある程度の事は知っているようだ。
こちらは全くと言っていいほど知らないのだが。

「名乗り忘れたな。オレはクロア。元冒険者ギルド所属、今は対教会勢力の切り札なんて事をしている。」

彼曰く冒険者ギルドは表立って教会と対立する事ができないらしく、ギルドを脱退した後に冒険者ギルドから資金援助を受けながらあちこちに出現するガーディアンやチャイルド達を潰して行っているらしい。

「尤も、大元が叩けないもんだからいつまでもイタチごっこやっている訳だが……あんた、知らないか?生体兵器を量産している腐った教会組織の場所を。」
「知るわけが無いだろうが……。俺は情報屋じゃ無い。」

見当違いな事を聞くのは彼なりのジョークなのだろう。
それもそうだといいながらケタケタと笑っている。

「さて、さっさと帰ってピザでも食べますか。良ければ奢るぜ?少なくとも今回の始末の報酬はたんまりと貰っている。あんたの依頼の報酬の数倍ぐらいはな。」
「なんか気に入らない言い方だが……ご相伴に与ろう。」
『よかったですね、マスター。食費が浮きます。』
「うるせぇよ!?」

あぁ、貧乏性貧乏性……



〜交易都市モイライ レストラン『ニケのキッチン』〜

俺はクロアと共に彼行きつけのレストランへと来ていた。
レストランと言っても寂れた大衆食堂のような場所で、人気は殆ど無い。

「結構な穴場なんだぜ?安いし美味い。ウェイトレスは人間だから襲われる心配はない。」
『マスターにとっても安らげるかもしれませんね。変にフラグが立ちそうもありませんし。』
「だからうるせぇよ!?」

クロアが笑いながら手を振ると、ウェイトレスのお姉さんがこちらへ小走りで駆け寄ってきた。

「あら、クロ。お友達連れなんて珍しいわね?」
「あぁ、新しいセフレだ。」

丁度出された水を口に含んでいたところだったので、その言葉に猛烈にむせた。

「げふっ、ちょ、おま!」
「あらあら、だーいたん♪」

その含み笑いからするに冗談とわかっているのだろう。俺としてもその方が助かる。

「勘弁しろ……同性愛だけは本当にダメなんだ……。」
『一度掘られかけていますからね。』
「だーもう!お前は黙ってろ!」

俺とラプラスのコントに二人共笑っている。やれやれ、こいつが口を開くと本当に碌な事がない。

「ミレナよ。クロアとはぁ……何度も体を……」
「お前とそういう関係になったことは一度もない。あまり茶化すな。」
「あらやだ怖い。」

抱きついてきたミレナを片手で引き剥がすクロア。こいつも俺と同じか……。
彼曰く、魔物達よりも人間の女性のほうが色恋沙汰に必死なのだとか。
なにもしないでいると片っ端から魔物達に男を取られるがためらしい。



「おまたせ〜。ミックスピザニケスペシャル二つね。クロアは食後にいつもの?」
「あぁ、頼む。あんたは?」
「いや、俺ここの常連じゃないし。いつものって何だ?」

俺が聞くなりニヤニヤ笑い出したのは、クロアではなくミレナの方だった。

「ストロベリーサンデー……大好物なのよね?クロア君の〜♪」
「悪いかよ……」

悪態をついて顔を背けるクロア。まぁこんな悪ぶっている奴がそんなスイーツ(笑)なんか食べていたらばつが悪くなるわな。

「俺は遠慮しておく。カロリーの摂り過ぎになりそうだ。」
「おっけ。それじゃ、食後に持ってくるわね〜。」

ひらひらと手を振って彼女は厨房へと戻っていった。
なんとなく意地悪がしたくなってニヤニヤ笑いながらクロアの顔を眺める。

「……何だ。」
「大好物のストロベリーサンデ〜♪」

眉間に銃を突き付けられましたよっと。



「ところで……あんた、異世界の住人だとミリアから聞いたんだが……。」

クロアの言葉にまたも飲み物を吹きかける俺。知らないところで個人情報を流されている……。

「ま、まぁな。それがどうしたんだ?」
「面白そうな……というか、粗野な言葉を探している。異世界でもそういう言葉はあるだろ?」

粗野な言葉……スラングとかそういったたぐいの物だろうか。

「あるにはあるが……知ってどうするんだ?」
「何、モテない為に言動を荒っぽくしているんだ。古今東西いろいろな罵詈雑言集めてな。」

モテる為に悪ぶっている奴はいるが、モテないために悪ぶっている奴は初めて見たぞ。
まぁ彼が望むのであれば協力しないでもないが……。



「へぇ……なかなかにイカすじゃねぇか。」
「本来は戦闘時の挑発とか無意識に出てくる物なんだけどな。意識して使う物じゃない。」

ひと通り米国エリアで使われているようなスラングを教え込んだ。
発音的にも楽だしな。

「サンキュ、助かった。」
「こんな事でよければいくらでも。」

なんだか白い目でミレナがこちらを見ているが気にしない!
スラング講座で若干テンション高まっているから!

その後はクロアがストロベリーサンデー、俺がリキュールを呑みながら談笑。
ラプラスが俺をいじくりまわし、いつの間にかミレナまで参加し、彼女が酔いつぶれた所でお開きとなった。

「は〜楽しかった。あそこまで馬鹿騒ぎしたのは久しぶりだな。」
『飲み過ぎです。二日酔いになりますよ?』
「気にすんな。二日酔いも飲み会の風物詩の内だ。」

若干足元がふらつくが、宿舎に帰る分にはなんら問題はない。
報告は明日でいいか……面倒だ。
その後はよく覚えていない。
気がつけば自室に戻ってベッドに倒れこみ、そのまま寝ていた。



翌日、クエストの報告をしなかった事についてミリアさんにチクチクと文句を言われたのは言うまでもない。
11/11/26 08:01更新 / テラー
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■作者メッセージ
〜あとがき〜
本格的に交差した物語。二人が追う敵が重なり合い、物語はクライマックスへ……!
いや、そこまで盛り上がるかはわかりませんけどね。

恒例の感想返信。この場を借りて謝辞をば。

>>ネームレスさん
たまに書くギャグ物は何故かいつも出来がいまいち……それでも笑ってくれたのならば幸いです。
と、言う訳で……

つ[ケツバット]

>>pi-sann
こんな下らないネタで笑っていただき、有難うございました!

そんな訳で……
つ[ムエタイ世界チャンプ ラファエル・マトゥーデ]

>>『エックス』さん
実は向こう側には強力な敵は設定していなかったり……結構一方的になりそうな。
実質的なラスボスが教会側にいないってどうなんでしょうね。

「あれ、おにいちゃんどこいったの?」
『送られてきたトマトジュースを口に含んだ途端に口を押さえてどこかへ言ってしまいました。アニス様も飲みますか?』
「うん、のむ〜♪いただきまーす……!!!???!?!?!?」

>>名無しさん
いやいや、アレは野放しにしたらえらいことになるでしょう。
ふらっと迷い込んだ旅館が悪徳業者でした……なんてシャレにならない。

今回はここまで。明後日にこの話のおまけを投稿予定。ちょいと切なめかな……?お楽しみに。

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