連載小説
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外伝〜絶対に笑ってはいけない旅館〜

〜イルミネーション〜
[30・31話より]

『報告。二時方向100に空間の歪を検知。』

突然のアラート。こんな町中に空間の歪……?

「危険なものか?」
『不明。詳しい情報は調査の必要あり。』

泊まるところを探しているとはいえ、目の前に異変があるのに見て見ぬふりをすることは……できないな。

「少し見てみるか。行くぞ、メイ。」
「あ〜い♪」

俺達は反応があった路地裏へと入っていく。一体何があるのやら……。
路地裏に入り、少し開けた場所に出てきた。本来であればここに広場なんて……

「なんじゃこりゃあ……。」

キラキラと瞬く白熱電球。縦横無尽にイルミネーションが散りばめられ、『いらっしゃいませ』とパチンコ屋の電飾よろしくギラギラと病的な光をまき散らした建物がそこにあった。

「ここ……入るのか?」
『悪趣味ですね。』

引き返そうとしたが、メイは既にその建物の扉を開いていた。
好奇心が強いのも困り物だ。



〜理不尽〜

「いらっしゃ〜い!」

俺はメイと共に中へと入って愕然とした。
見た目完全にパチンコ屋だ。というか、普通に台が置いてある。
迎え入れてくれたのはアロハシャツを着てサングラスを掛けた狐耳の女。尻尾がいくつもあるあたり……妖狐か稲荷なのだろうか。あまりにも怪しすぎる。

「お客さん二人?休憩と宿泊どっちかナー?」
「しゅ、宿泊……」
「オッケー!ブラザーの間にごあんなーい!」

普通ならあまりの異常さに笑い出してもおかしくないだろう?でも笑えなかったんだ。
何でかって?張り紙がしてあったんだよ。

[一度笑うごとに宿泊料銀貨10枚追加]

すごく……笑えないです。



〜ファーストトラップ〜

「ハーイ、ここがブラザーの間だヨォ!」

一つの扉の前まで案内された。
見た目は普通の木のドアだ。しかし……普通故に胡散臭いことこの上ない。

「(絶対に何か仕掛けてやがる……。何が来る……?)」
「あにぃ、どうしたの?」

恐る恐るドアノブに手を伸ばし、勢い良く押し開く。
普通ルームクリアリングでもここまで緊張しないぞ。

<びったんびったんびったんびったん>

中で白いくねくねしたものが跳ね回っていた。というかあれは……

「(何で……なんでニョロニョロが……!)」

ムーミン、というアニメの中で出てくるお化けが部屋の中でのたくっていたのだ。
正直シュールすぎる。
その物体にメイがトテトテと近寄っていく。

「おい、メイ……何を……」
「はむ」

そのうちの一つを拾い上げるとおもむろに口に咥えた。
殆ど口の中に入りきらなかったニョロニョロの胴体がベチベチと暴れている。

「っぶ……っは……ちょ、無理!メイ、マジでやめ……!」
「オキャクサーン、銀貨十枚追加ね。」
「しまったー!!」

これ以上何か起こる前にニョロニョロは全て窓から放り捨てた。



〜お約束〜

「あ〜も〜……メイ、お前今後何かを勝手に触るなよ?」

部屋の中でビチビチと暴れまくる謎物体を片付けた後、俺はテーブルにぐったりと見を預けていた。これが宿屋だというのだから気が休まる暇もない。

メイはというとテーブルの上に置いてあったまんじゅうを頬張っていた。
まぁまんじゅう程度で何か変な事が起こるわけが無いか……。

「……ん?」

その時、テーブルに置いてあった書き置きに目が行った。
何かが書いてある……?

「塩ある……?なんだこ

言いかけた瞬間、メイが食べていたまんじゅうが破裂した。
当の本人は何が起こったかわからず目を白黒させている。
そして彼女の顔にべったりとアンコがへばりついて……

「ぶふぅ!?」

ちょうどアンコに含まれている小豆が彼女のおでこに2つ張り付き、まろ眉のような状態になっていた。
流石に吹いた。
その時、柱に張り付いていた御札から奴の声が聞こえてきた。

『アルテア、アウトー。』
「てめぇぇぇぇぇええええ!」

もうやだこの旅館。



〜腹芸〜

風呂の準備ができ、脱衣所で服を脱いでそのまま風呂にはいる。
ここまで、トラップ何も無し。

「(おかしい……おかしすぎる。)」
「あにぃ〜洗って〜♪」

石鹸を手にとって泡立て、メイの頭をゴシゴシと泡立てながら洗う。
本来であればゆったりとくつろげる時間の筈なのだが……一瞬たりとも気が抜けないこの状況だと手に当たる髪の毛の感触も非常に曖昧だった。

「アルテアサーン!お背中流しに来ましたヨー!」

奴の声だ。
まぁあいつだって魔物だろうし……こういう展開は予想しなかった訳では……

「別に流さなくていい。さっさと出て……っ!?!?!?」

入ってきたそいつの姿を見てすぐに顔を伏せた。


何故腹に顔が書いてある……!
しかもご丁寧にその大きめの胸に赤い線を走らせて目に見立てたように……!いくら何でも体張り過ぎだろ!


「んー?どうしました、アルテアさーん?」
「いい、いいからさっさと出て行け……!」

何故だろう。本来であれば恥ずかしがって顔を伏せている筈なのに今俺は笑いを堪える為に顔を伏せている。

「……ははぁ……」

奴が何か心得たかのように呟く。一体何をしてくるつもりだ……?

「目玉ボーン!」
「ぁぁぁぁあああああ!やめ、まじ、腹が壊れる!」

あれを見せた後でその一言は反則だ!



〜空気を読め〜

「あぁ……もう最悪だ。」

部屋に帰ってくると既にベッドメイキングが済ませてあった。
この辺はきっちりしているらしい。

「もうさっさと寝よう……これ以上笑わせられない内に……」
『あ、マスター。毛布を捲る前に心構えを……』
「あん?」

ラプラスの制止が間に合わず、ベッドの毛布が捲られる。
中には……

「っ……!っぶねぇ……」

空気嫁、ラブドール、ダッチワイフ。まぁ呼び方はどれでもいい、それが入っていた。
かろうじて笑いをこらえたが……セーフだよな?
その時、その空気嫁に貼りつけられた札から奴の声が。

『や〜ん、エッチ〜♪』

宿泊料がまた追加された。



〜学習〜

翌日の朝食。
あれだけ異常な(?)サービスをしておきながらも朝食は割と普通の和食だった。
パッと見特にトラップは見当たらないが……。

「(警戒しておくに越したことはない……か。)」

箸立てから箸を掴みとり、引き上げる……って、なんだこりゃ。

「……どこまで伸びるんだよこれ。」

80センチぐらい持ち上げてもまだ引き抜けないような箸がそこに刺さっていた。
見た感じまだ下がありそうだ。
向こうでは奴がニヤニヤと笑っている。

「……ラプラス、単分子カッター。」
『了解。』

テーブルに立てかけてあったラプラスから単分子カッターを引き抜き、ちょうどいい長さになるくらいでカット。もう一組作ってメイに渡す。

「(ざまぁwwww)」

鮭のマヨネーズ焼きを一欠け取って口に運ぶ。



鮭の“練りからし”焼きだった。
俺は笑わなかったが、滅茶苦茶むせる俺を見てメイが笑っていたのでアウト。ちくせう。



〜NKT〜

散々だった旅館滞在も漸く終わりを迎えようとしていた。たったの一泊だったけど。
エントランスで奴が宿泊料の計算をしている。やれやれ……結構財布が苦しいってのに……

「え〜、笑った回数が5回と……基本宿泊料で……」

まぁ5回程度ならなんとかなるだろう。
流石に帰りは歩きだろうが……まぁ仕方があるまい。

「金貨60枚と銀貨50枚ですネー。毎度〜♪」






「あにぃ、あのおねぇさんは?」
「あぁ、違法営業ってことで役人に突き出してきた。」

ちゃんちゃん


11/11/22 22:32更新 / テラー
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■作者メッセージ
〜あとがき〜
20000ビュー記念に本当はぷちねた劇場のつもりでしたが、笑ってはいけないネタが止まらなくなったので急遽これだけで作りました。微妙に短いかも。

女将は妖狐とも稲荷とも付けていませんし、名前もありません。
まぁ……知世がここまでキャラ崩壊するのは考えられませんしね。

恒例の感想返信。この場を借りて謝辞をば。

>>名無しさん
逆を言うとスタイリッシュ性を削ると爽快感がなくなるので、コレはコレでバランスが取れていると言えなくも……

現在彼が拠点としている街は聖廟都市ミシディア。今の所目立った機械化はコインランドリーだけですね……。誰かが機械化を意図的に止めているのかもしれません。

>>ネームレスさん
魔術は行使する範囲が広がれば広がるほど術者の負担が大きくなりそうですからね。
この場合は装置を使うのが一番合理的かと。運搬はガーディアンに任せればいいですしね。

「そんなもったいないことできるか……。」
『貧乏性。』
「うっせ。」

>>おいちゃん
援軍は逆転フラグ。これは鉄板。
実は彼も自分の敵がどこにいるのかが分かっていなかったりします。
だから手当たり次第に潰して回っているのでしょうが……。

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