連載小説
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回想〜真昼と真夜中の双子〜

〜クロアの家〜

「う〜ん……」

僕はテーブルの上に広げられた革袋の中身を眺めて唸っていた。
置いてあるものは、金属製の筒、螺旋状の針金、手にフィットする形状の金属のグリップ、その他細かい部品がてんこ盛り。

「何なんだろ、これ。」

その内の一つの螺旋の針金を手にとって見る。
弾力が強く、途中で曲げて手を離すとブルブルと震える。
全部まとめて何かの部品なのだろうけれど、それがバラバラなために原型が全くと言っていいほど検討もつかない。

「またそれか……そんなに気になるのか?」
「あ……サラさん。」

余程集中していたのか、サラさんが小屋の中へ入ってきた事すら気付かなかった。
声をかけられてようやく気づく。

「私からしてみたらガラクタの山だがな。」
「でも……フラムさんが何も考えずにこれを渡したとは思えないんですよ。」

彼女はドワーフであれば直せるかもしれないと言っていた。
ならば、ドワーフに見せるのが一番手っ取り早いのだろうが……

「知り合い……いませんよねぇ。」
「あぁ、いないな。」

これでこのやり取りは何度目だろうか。
こんな複雑な物を取り扱ってくれるようなドワーフの知り合いなど、僕にもサラさんにもいなかった。

「やっぱり……探すしか無いんですかね?」
「だろうな。しかしどういう奴に頼んだものか……ドワーフならば誰でも飛びつきそうだがな。」

現にモイライに住んでいるドワーフに見せた所、ヨダレを垂らさんばかりに飛びついては来たものの、作業開始30分程度でギブアップしたほどの代物だ。
彼女達曰く、「これを作った奴は細工師じゃなく芸術家か何かなんじゃないか?」らしい。
それだけ構造が複雑なのだろう。

「どこかにこれを直せる人っていませんかねぇ……手先が器用でこういう複雑な構造の道具に精通しているような……」
「……それだ!」

僕がブツブツとつぶやいていると、耳元でサラさんが叫ぶ。思わずそのままの体勢で2センチほど浮き上がってしまった。

「いるじゃないか!そういう細かいことに精通した人々が!」

そう言うとサラさんは色々と旅支度を始めた。
一体どこへ行くつもりなのだろう。

「あの……サラさうぶぁ!」

声をかけようとして僕の服を顔に押し付けられる。
何とか引き剥がして彼女の方を見ると、既に支度が済んだ後だった。早い。

「ジパングだ。行くぞ、クロア。」



〜華の都 江戸崎〜

馬車と船を乗り継いで行くこと5日。
僕らはジパングの土を踏んでいた。かなりの部分が木造で造られている家屋がたくさんある。

「ふぅ……やはり旅の館が無いと時間がかかる物だな。」
「僕は倍疲れましたよ……トホホ……」

ナンパされても軽くあしらえるサラさんはまだいい。
僕はここに来るまでに顔を合わす魔物のお姉さん達(独身限定)から声をかけられ、それをなだめすかしながら何とかここまでやってきたのだ。
ネレイスに船から引きずり降ろされそうになったときは本当に終わったと思った。

「言っておくがここには冒険者ギルドが無い。ギルド宿舎が頼れない以上どこかで宿を取るか野宿しかない。外で寝たくなかったら死ぬ気で宿を探せ。」
「はぁ……願わくば宿の人が魔物じゃありませんように……。」

結局宿も妖狐が経営する宿だったので中居さんと女将さんに、食事、風呂、夜と連続して狙われる事になった。
なんとか誘惑を振り切る僕の鋼の精神に賞状を送りたいんだけど何て書いたらいいかな。よくがんばったで賞?そんな子供じゃあるまいし。
サラさん?焦る僕を見てニヤニヤ笑っていたよ。多分この間一本取りかけた事への仕返しなんだろうなぁ。



〜江戸崎 鍛冶屋通り〜

あちこちからトンテンカンテンとハンマーを振る音が聞こえてくる。
ここは江戸崎にある武器職人の職場街、通称鍛冶屋通り。
ここでは良質な砂鉄から作られる鋼鉄を使って様々な武器屋防具、農工具や日用品などを作っている工場が数多く存在している。
一部の製品は大陸へも輸出されているとか……。

「みつからんな。」
「見つかりませんねぇ。」

そんないい金属の匂いを嗅ぎつけてドワーフが店を出しているのではないか〜と考えてあちこち探しているのだけれど、見つからない。
通りに店を出しているのは大抵が人間、良くてサイクロプスあたりであり、ドワーフの工房は全く見つからない。
地元の人に聞いてみても知らないという。

「見当外れだったか……」
「もう少し探してみましょうよ。工房は逃げませんし、逃げないなら探すことも出来るはずですから。」

そうして僕らは再び鍛冶屋通りを徘徊する。
……探索が遅くなるのってサラさんが軒先に展示してある刀とかをじっくり見ているからだと思うんだけどな。



「サラさ〜ん……」
「う〜む……これは中々……」
「だろ?刀ってのは切れ味を追求するもんだが耐久力がイマイチだ。そこで、……」

今度はサラさんが工房の店主と話し込んでしまった。これでは探索が続けられないだろう。
どの道合流する場所は取った宿なので、僕はここで別れて一人で探索を続けることにする。
……一人で探したほうが効率が良さそうだからと思ったわけじゃないよ?

今までは特に見てこなかった裏路地を中心に見てまわる事にする。
流石にここは工房より普通の住宅の方が多いみたいだ。
家の中からはたまに子供の笑い声が聞こえてくる。

「(いいなぁ……)」

もし、僕にあの体質さえなければこんなふうに笑って過ごせたのだろうか。
僕が住んでいたのは恐らく教会が治める領地。魔物のお姉さん達はいないけれど、それでも幸せな毎日が過ごせたのかも知れない。

そんな風にぼーっとよそ見をしていたら、足元の何かに躓いて転んでしまった。
辺りに金属がぶつかり合う大きな音が響き渡る。

「ったたたた……なんだろ……廃材でも置いてあったのかな?」
「……お、重い……早く……どいて……」

よく見ると僕の太ももに何かが下敷きにされていた。
オレンジ色の髪……体格からして子供?
それを認識した瞬間どっと冷や汗が吹き出す。もし大怪我でもしていたら事だ。

「ご、ごめん!大丈夫!?」
「とりあえず怪我は無いよ。そこまでヤワなつもりはないしね。」

そう言うと、彼女は立ち上がって服についた埃を手で払った。
僕の膝より少し上くらいの身長。尖った耳。

「あの……もしかして、ドワーフさんですか?」
「あん?まぁ、一応そうだけど。なんだい?ジパングに住むドワーフがそんなに珍しいかい?」

当たりだった。確かにこんな小さな子がこれだけの鉄屑を持ち運べる訳がないよね。

「あ、僕はクロアって言います。貴方は……」
「タマってんだ。ま、見ての通り鍛冶屋とからくり職人の二足のわらじをやっているよ。」

確かに鉄屑の中には糸巻きに巻かれた麻糸や歯車に使うらしき木材も混じっていた。
多分この子なら……。

「実はからくりとか複雑な構造をした道具を修理できる職人を探しているんですが……もし宜しければたn

僕の言葉は最後まで続けられなかった。
というより彼女が猛スピードで散らばった鉄屑などを籠に入れて、僕の背後に回ってベルトを掴み、物凄い速度で路地裏を疾走して一件の建物の中へと引きずり込んだからだ。
おぼろげに家の表札に『珠家』と書いてあった気がする。

「ホント!?改めて聞くけど直して欲しいものがあるって本当に!?キャンセルとか聞かないよというか絶対に離すもんかどれどれなのというかお客様一号だよイヤッハー!」

狂気乱舞してクルクルと踊り狂うドワーフの女の子……というか見た目通り女の子でいいのかな?

「お、落ち着いて。別にどこかへ行くつもりはないから。」
「だってようやくちゃんとした依頼なんだよ!?今まではお茶くみ人形とか習字小僧とかそういう実用とは程遠いのばっかりだったし鍛冶の方は鍛冶の方で釘とか金槌とかばっかりで武器のような花形の物は全然売れなかったんだよ!?宝の持ち腐れというより腕の持ち腐れだったんだからというかさっさと直すもの見せろさぁさぁさぁさぁ!」

なんだかここまできてやはりやめたと言うとひねり殺されそうだったので、例の部品が入った革袋を彼女へと渡す。
それをひったくるようにして受け取ると、中身を改め始めて固まった。

「………………なに、これ?」
「いや、それが僕にもさっぱり。」

一つ一つを低いテーブルのようなものに丁寧に置いていく。
全部広げ終えて、彼女は首をかしげた。やはりダメだろうか……。

「こんな構造のからくり見たことないよ……。これは……バネかな?でも材質は鯨の髭じゃなくて金属……鉄?いや、鋼鉄かな……。こんなに細い鋼鉄なんて加工できるの……?こっちの筒も凄く精密にできてる……。歪みも全く無い……綺麗……。」

そう言うと無意識なのか部品を一つ一つ組み合わせていく。
あるべき場所に筒が、針金が、歯車が組み込まれている……のかもしれない。
だって何しているかわからないんだもの。

「……このままじゃ無理だね。」
「……やっぱり直せませんか……。」

その一言に落胆する。まぁ、もう慣れっこではあるけど。

「別に直せないとは言っていないよ?ただ、直すにしても少しばかり部品が足りないし、何より……。」

そう言うと、鉄の持ち手近くの出っ張りらしきものを押して、さらに中から鉄の四角い何かを取り出す……ってそんな構造をしていたのか。

「これ、多分中に何かを入れるんだろうけど……何も入っていないし、何を入れるかもわからない。これは無事な部品を元にして新しく作りなおすしかないねぇ……。」

彼女曰く、可動に必要な部品がいくつも抜けているらしい。
それならばいっそのことあるものを寄せ集め、部品を足して別のものを作ってしまおうということだった。



「と、言うわけで設計た〜いむ♪」
「どういう訳かはわかりませんけれどやりますか……。」

バッグの中から羽ペンとインクを出し、彼女に紙を用意してもらう。
流石に筆では細かいカラクリなどの設計はできないとのこと。

「第一並のカラクリより構造が複雑だからねぇ。筆じゃ書き切れないよ。」

そう言うと、彼女は部品の一つ一つを原寸大で、緻密に書き込んでいく。
流石ドワーフ、こういう作業は天下一品だ。

「カラクリの構造から言って……多分この金具で何かを思いっきり押し出して飛ばす物だと思うんだよね。よく見ると筒の内側にも螺旋の溝みたいな物が彫ってあるし……これって何かを回転させながら飛ばすものなのかなぁ……。あ、回転させながら飛ばしたほうが安定するもんね、なるほどなるほど。」

一人でブツブツと何かをつぶやきながら図面に書きこんでいく。
うわ、ドワーフの文字で何かを大量に書きだした。

「でもあの金具だけで何かを飛ばすってなると威力が足りないよねぇ。何かで飛ばす力を倍増させなきゃ。魔力……?でも金具で叩いても魔力じゃ威力が増えないよね……となると……火薬?火花を散らせて固めた火薬に点火するのかな……。」

今度は筒の中に丸と黒い塊を詰めた物の断面図を書き始めた。
僕はもう既に黙って見ているだけしかできない。

「でもあの筒の中に一発づつ火薬と弾を装填するとなると……結構時間がかかるし、あの持ち手のところの構造の意味が……。あ、弾と火薬を一緒の筒に入れて、それをあの金具で……。」

今度はもっと小さな筒に先ほどの丸と黒い塊を詰めた物を書き始めた。
そして、彼女の手がピタリと泊まる。

「無理だー!」
「うわぁ!?」

突然頭をぐしゃぐしゃとかきむしり始めるタマさん。
一体どうしたのだろうか。

「そんな小さくて薄い金属製の筒を?全く同じ大きさ形で何十個も何百個も作るなんて無理!しかも構造から言って消耗品だし!精魂掛けて作った物が使い捨てなんていーやー!いーやー!二回もいっちまったい!」

どうやらこのからくりは何かを打ち出すためのもので、その撃ち出す物は作るのにやたら手間が掛かる割には消耗品になる、ということらしい。
そりゃ職人としてのプライドがズタズタになるだろう。

「はぁ……もっとこう……扱い易くて経済的な方法は無いかなぁ。弾が無限に切れないとかさぁ。」
「そりゃ物質で作っている限りは無理でしょう。もっと何か延々と湧き出るものを飛ばさなきゃ。空気とか。」

なぜか彼女にものすごく冷ややかな目で見られた気がする。
そんなに悪いことを言っただろうか……。

「はぁ……少し頭冷やしてくる。」
「あ、いってらっしゃい。」

そう言うと彼女は工房から出ていった。
まぁ確かにこの中は暑いし、頭を冷やすのであれば暑い中水を被るよりは外へ出てしまったほうが早いだろう。

「う〜ん……無限に出てくるもの……か。」

そうひとりごちると、僕は羽ペンを取って新しく紙に書き始めた。
彼女より絵は下手だけど、少しでもヒントになるんだったら何かをしたかった。



「ただいまぁ……」
「できた!」

タマさんが工房へ帰ってくるのと、僕が設計図とも言えないようなラクガキを書き終えたのはほぼ同時だった。
それを聞いて怪訝そうな顔で僕の隣まで歩いてくるタマさん。

「できたって何が?」
「設計図です!」

そう言うと紙を彼女の目の前に突きつける。

それにはかなり歪な線でおおよその形が書いてあり、所々に『まりょく』とか『いしでへんかんかのう』とかが矢印で書いてある。
それを受け取ってジロジロと眺めている。

「……なるほどね、金属の弾の代わりに魔力を使おうと……マジックアローの応用だね。今までの構造をほぼ全部取っ払うのは盲点だったかなぁ……でもこれなら余った部品だけで2つ作れそう……それにしても……。」

設計図から顔を上げて僕を呆れ顔で見つめる彼女。
なんだか僕の無知で呆れさせっぱなしな気がする。

「全く、無茶苦茶な設計思考だね。まぁやってみるけどさ。」
「でき……ますかね?」

そう言うと彼女はテーブルに飛び乗って足りない分の身長を補い、僕両頬をパン!とはさみ込むように叩いた。地味に痛い。

「あたいを誰だと思ってるんだい?江戸崎随一のカラクリ職人、タマ様だよ?このぐらい朝飯前さ。」

そう言うと設計図を丸めて奥の工房へ引っ込んでしまった。
恐らくこの後僕の出番はないだろう。
だったら邪魔にならないように後日改めてこの工房へ来たほうがいい。
僕はそっとタマさんの工房を後にした。今から完成が楽しみだ。



「ミスリルを使うなんて邪道だね。真の刀職人ってのは鉄だけで希少金属製の武器以上の切れ味と耐久性を出すもんさ。」
「しかし、使ったほうが強度も切れ味も軽さも上ではないか。使い手の事を考えるのであればここは……」

サラさんはまだ鍛冶屋の主人と武器談義をしていた。
話しかけても返事がないので、先に宿に戻ることにした。



〜1週間後〜

「はぁ……疲れた……。」

この一週間余り、宿のお姉さん方や、通りすがりの妖怪さん達に狙われながら過ごすことになった。
あるときはやんわりと断り、ある時は全力で逃げ、ある時はヴァーダントを使って無理矢理切り抜けたりもした。
あのサクラってアカオニさん、強かったなぁ……。冒険者になったらさぞ活躍するだろう。

「ごめんくださ〜い!」

戸を叩いてタマさんの工房へと入っていく。
中では例のテーブルの脇に腰掛けてお茶をすすっているタマさんがいた。

「あぁ、来たね。丁度今日完成した所だよ。」

そう言うとテーブルにかぶせられている布を取り払った。
中には銀色と漆黒の物が置いてある。
大きさは大人の手のひらより少し大きい程度だろうか。

「部品の残骸の中に銀色と黒のカバーがあっただろ?多分あれがこのカラクリの外装なんだと思ってね。調べてみたら銘が彫ってあったよ。で、その外見を復元したら、こうなった。全く、これの大元を作った奴が見てみたいよ。」

手にとってその彫られた銘を見る。

黒い方は『Nacht』
銀色の方は『Mittag』

見たことのない文字。知らない言語。
正直なんと読むかわからない。

「黒の方は『ナハト』、銀は『ミタク』だよ。こいつに書いてあった。」

そう言うとかたわらの分厚い本をペシペシと叩いていた。
タイトルは、『独和辞典』。もちろん読めない。

「驚いたよ。なにせこれは異世界の本だ。偶然ジパングの言語と似ていたから読むことができたけどね。で、その言語と全く同じものがそれに書いてある。ということはそのカラクリは元々異世界の逸品って事だ。復元されたとはいえまともに使える状態だからね。学術的価値とか希少価値を考えたら金貨を最低千枚ぐらいは積まないと買えないね。」

それを聞いて手がギクリと震える。
金貨千枚と言えば勇者が使うような聖剣に匹敵するほどの金額だ。
それが、僕の手に握られている。
ただの鉄の塊を握っているだけにも関わらず、何か金塊でも握っているような気分になってしまった。

「怯える事はないさ。あんたがあたいに修理を依頼した以上、出来上がったそれはあんたの物だ。高かろうが安かろうがあんたがそれを有効活用してくれればあたいは何も文句は言わんよ。」
「……わかりました。有り難く使わせて頂きます。」

とはいえ、使い方がわからない。
以前四角い筒が収まっていた握りの底はしっかりとネジ止めがしてあり、開く気配が無い。
あるのはせいぜい握りの上の方に付いているレバーだけだろうか。

「機能については大体があんたが設計図に書いてくれた機能の通りだよ。基本的にはマジックアロー(魔力を使って撃ち出す無属性の矢)を無詠唱で撃ち出すための装置だね。引き金を引く前にグリップ……あぁ、その握っている所だ。それに意識を集中してみな。」

言われた通りに意識を集中する。すると、手の平から魔力が吸われる感覚がした。

「すると、中の魔力タンクに蓄積される。あとは撃ちたい種類を思い浮かべてトリガーを引けば思い浮かべた形で撃ちだされるよ。注意してほしいのは、通常弾……つまり、相手に衝撃を与えるだけの物が6発。これを基準にして貫通射は2発分、フルバースト……つまりタンクの中の魔力を全部放出する場合は6発分一気に使うから、空になったらその都度魔力を充填すること。充填はタンクに残りがあってもできるからこまめにすることをオススメするね。」

地面に向けて、通常弾を思い浮かべてトリガーを引く。
すると、高速で射出された魔力弾が地面へ着弾し、乾いた音をたてる。
どうやらナハトもミタクもほぼ同じ性能みたいだ。

「と、いうわけで移動!」
「脈絡ありませんよ!?というかどこへ引っ張っていくんですか!?ちょ、待ってうわぁぁぁぁぁあああ!」

他にもいろいろと弄り回してみたかったのだが、タマさんに無理矢理外へと引っ張り出され、そのままどこかへ引きずられていった。
一体どこへ行くのだろうか……。



〜御崎埠頭〜

着いたのは江戸崎の城下町の外れ。貿易などでよく使われている倉庫街だった。
よく見るとそこかしこに緑色の筒状の物が置いてあった。いつの間に……。

「それを作って時間が余ったから竹を節ごとに輪切りにしたものをそこいらじゅうに立てておいたんだ。射撃訓練用にね。」

この展開は大体読めた。

「つまり、これらを撃ち落として練習しろと。」
「その通り!さ、いてら〜。」

ハンカチをフリフリして僕を送り出すタマさん。
目の前の道には無数に竹という植物の切ったものが置いてある。
それを、いかに素早く倒しながら進むか、ということか。

「え、え〜と……。」

狙いを定めて、引き金を引く。外れる。
狙いを定めて、引き金を引く。外れる。
狙いを定めて、引き金を引く。外れる。
狙いを定めて、引き金を引く。外れる。
狙いを定めて、…………

「ヘタクソ!」

後頭部にタマさんの飛び蹴りを食らった。



〜さらに二週間後〜

サラさんにミタクとナハトが出来上がったことを告げ、さらに使いこなすために訓練が必要なのでしばらくここに留まることを告げると、彼女は快く承諾してくれた。
というか、訓練に付き添ってくれる事になった。

「っ!」

前方に走りながら右前方の竹筒へ向けて発砲。甲高い音を立てながら竹筒がはじかれる。
積んである荷物を駆け上がり、その上から前方宙返り。頭を下にし、体を捻りながら二丁を乱射。下に無数に置いてあった竹筒が撃たれてバラバラと散らばっていく。
着地する寸前、背後に二つ撃ち漏らしがあるのを捉える。
両腕をクロスするように前から背後へ向け、発砲。甲高い音が二つ鳴り響く。
荷物の隙間を通り抜けて次のポイントへ。

広い場所へと出る。
辺りには無数の竹筒。
一つ一つ狙いをつけている時間が惜しい。
両腕をそれぞれ違う方へ向け、別々の竹筒へ狙いをつけて撃ち落としていく。
全て倒して次のポイントへ向かう。

山積みにされている荷物を飛び越えるとそこには山と積まれた竹筒。
端っこから倒している暇はない。魔力タンクへと再充填。
腕を交差させ、フルバースト。竹筒がまとめて吹き飛ぶ。

「そこまで!」

物陰から拍手の音と共にサラさんとタマさんが出てくる。
サラさんはどこか満足そうに、タマさんは満面の笑顔で手を叩いている。

「31秒といった所か。最初はどうなるかと思ったが……中々やるではないか。」
「いや〜……すごいね。次世代武器の真髄って感じだよ。もしかしたら普通の剣や槍って実は時代遅れなのかも……?」

それぞれに賞賛と感嘆の言葉をいただく。やはり褒められるのは少し照れくさい。

「僕の力だけじゃありませんよ。デュアルウェポンの心得を教えてくれたのはサラさんですし、この二つの調整を行ってくれたのはタマさんですから。凄く助かりました。」

片方ずつに武器を持って戦うやり方はサラさんの方が一日の長がある。
ミタクとナハトの調子が悪くなればタマさんの出番だった。
この二週間、僕達は一丸となってこの二丁のを使いこなすためにがんばったのだ。

「さて、後は実戦だ。訓練で上手く使えても実際の戦いの中でまともに扱えないのでは意味が無い。ヴァーダント抜きでかかってこい、クロア。」
「はい!師匠!」

僕達は開けた場所に移動すると彼女と対峙した。
僕の手には昼と夜の2丁拳銃が。彼女の背には恐らくジパングで新調したのであろう新しい双剣が背負われている。赤色と青色の、どこか巨大な鋸を思わせるような物々しいデザインだ。
しかし彼女はそれには手を掛けず、腰に差してあったいつもの双剣を引きぬいて構える。

「その背中のは使わないんですか?」
「これはお前が私を本気にさせた時に使おう。お前にはまだ……荷が勝ちすぎるだろうからな。」

タマさんが僕と師匠の中央から少し離れた場所に立ち、ポケットから銅貨を取り出した。
僕と師匠に視線を向けて頷いてきたので、僕も頷き返す。
そして、彼女の手から銅貨が弾かれた。
その銅貨がクルクルと回転しながら落ちて……

<キーン!>

地面に落下。
瞬間、師匠が猛烈なスピードで僕に肉薄してくる。
真正面から受けるのは無理と判断し、サイドステップとバックステップで軌道を逸らして勢いを相殺しつつ、二丁を彼女へ向けて乱射する。無論これでまともに当てられるとは思っていない。

「甘いぞ、クロア!」

予測通り全て双剣で弾かれた。残り魔力は左右共に3発ずつ。
しかし、この足止めの状態を作りたかったので問題ない。
左右同時に貫通射。さすがにこれは弾けないと判断したのか、体をわずかに右にそらして回避される。しかし、それも予想済み。
本当の狙いは……。

「これで!」

回避によりバランスを崩した所で、足に一発ずつ打ち込む。
いくら師匠といえど、足を封じられれば苦戦は免れない。
しかし……

「ふんっ!」

彼女はそのまま背後へと体を投げ出し、足を振り上げて狙いを外した。
しかし、あのままでは背面から地面に倒れ込む形になる。
いくら受け身を取ろうと、それだけで大きな隙になる。
追撃のために魔力をチャージする僕の目の前で信じられないことが起きた。


尻尾を使って上空へと跳ね上がった。


確かに自分の体の一部である以上、それは合理的な判断だ。
尻尾を構成するのは大半が筋肉なので、下手をすると腕よりも力が出るのかもしれない。

「反則でしょっ!?」

慌てて追撃のために空中で体勢を整える師匠に打ち込んでみるけれど、やはり全て叩き落された。
改めて思う。師匠は、強い。
あのアレクさんと添い遂げようとしたぐらいだ。彼に匹敵するぐらいの力量は備えているという事だと思う。

「呆けている暇は無いぞ!」

着地した師匠がほぼノーモーションで僕へ再び肉薄する。
弾は先程空中の師匠へ打ち込むのに使い尽くしてしまった。
フルチャージには約1秒かかる。慣れれば一瞬で出来るらしいが、今の僕にはこれが限界だ。

「うぐ……っ!」
「甘い!」

かろうじて二丁を交差させてガードをするけれど、がら空きの胴へ尻尾による横薙ぎがクリーンヒットしてしまった。
肋骨がミシミシと音を立てて歪み、内蔵がよじれ、目の前が真っ赤に染まる。
背中に衝撃と激痛を感じ、それが置いてあった木箱に激突して壊した時に感じたものだと気づいた時には、首筋に剣を押し当てられていた。

「やれや……最近お……ヒヤ……る。…………た?ク……」

目の前が真っ黒に染まってきた。
意識がグラグラと揺れて遠のいていく。

「……かん!本……しす……!大……クロ……!」
「馬……!人……手に……出…………!」






目が覚めると、頭がまだグラグラとしていた。
吐き気は無いから……多分大丈夫だろう。
それにしても、頭の下に何か柔らかいものが敷かれている。一体これは何だろう……

「む、目が覚めたか。」
「ぁ……ししょう……?」

目がゆっくり開いていくと、師匠の顔と天井が映った。
あぁ、そうか。師匠に膝枕をされているんだ……。

「気分はどうだ?」
「少し……頭がグラグラします……。吐き気は……無いから……多分大丈夫かと……。」
「そう……か。」

師匠は漸く安心したと言うように深くため息を吐いた。
頭への衝撃は結構危険なものがあるから、彼女の心配は並大抵の事ではなかっただろう。
師匠がそっと頭を撫でてくる。それだけで、なんだか嬉しい気持ちになった。

「一応透視ができる医者には見せたほうがいいだろうね。頭の中に血が溜まっていたら大変だ。」
「あぁ、そうさせてもらう。邪魔をしたな。」

そう言うと師匠は僕を背中に背負って、立てかけてあったヴァーダントに手を伸ばす……が、

「…………どう持つのだ、これは。」

いくらリザードマンが戦闘に秀でた種族だとはいえ、流石にヴァーダントは重いらしい。
僕を背負っている状態でそれを持っていくのは流石に無理だろう。

「あぁ、預かっておこうか?それ。持っていくのは大変だろう。」
「頼む。流石に両手が使えない状況でこれは無理だ。」

ヴァーダントは後日取りに行く事にして、僕は師匠に連れられて江戸崎内にある診療所へ行くことになった。
幸い危惧された頭の中の出血はなく、軽い脳震盪だと診断された。
尻尾で打たれた所も打撲で済んだ。我ながら中々に丈夫な体をしていると思う。



〜宿屋 クロア達の部屋〜

夜中、体に感じる圧迫感に目を覚ます。
扉には魔物避けの結界を張ってあった筈だけど……効きが悪かったのかな……?
うっすらと開けた目に写っていたのは……

「……サラ、さん?」
「っ!?」

僕が目を覚ました事にびっくりしているサラさんの顔だった。
ものすごく目が泳いでいる。

「いや、これは……だな。お前がうなされていたから心配になって……」
「……サラさん。やめて下さい。僕が危険なのはよく知っているでしょう?」

正直、男としてはこれ程嬉しい展開は無いと思う。
僕だって少なからずサラさんに好意は抱いているし、サラさんだって最近はなんとなくだけど僕に対する目が変わってきているのもわかる。
でも……。

「それをされると……僕が一番辛いんです。もう、大事な人を僕から奪わないで下さい。」
「……済まない。軽率だった。」

彼女は心底申し訳なさそうに僕の上からどいてくれた。
正直、自分の体質が恨めしくて仕方がない。多分、僕のパートナーが魔物のお姉さんである限り僕はその人を愛することができないのだろう。
それは、この上なく辛い事だ。自分にとっても、相手にとっても。

「サラさん。」
「……何だ?」

それを避けるため、僕は変わらなければならない。
好きになられるかもしれないのであれば、最初からそれを潰さなければならない。
愛されるかも知れないのであれば、愛想を尽かされなければならない。
最初から見向きもされなければ、双方が傷つく事はない。
だから僕は……

「モイライに帰ったら……しばらく別行動を取りましょう。少し、やることができました。」
「……そうか。」

彼女は一言だけそうつぶやくと、自分の布団へと戻っていった。

11/11/22 01:06更新 / テラー
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■作者メッセージ
〜あとがき〜
ノット反抗期。彼の行動は彼女の為。
ガンカタっぽく戦闘描写をするのって結構難しいですね。
言葉だけであの複雑な動きを再現するとなると……表現力がたりねぇ!ってなります。

サラの背中の双剣は言わずもがな赤と青のアレです。しゃべりませんけどね……

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