第五話〜家族と言う名の仲間〜
『少佐、見捨てられなかったのはわかりますが、そう簡単に子供を拾われてきても困ります』
声が聞こえる……。女の人?困ったような声……。
『いいじゃねぇか。今更面倒見る奴が一人増えた程度でどうこうなるほど苦しくはないんだ。お前も弟分が出来るんだぞ?嬉しくねぇのか?』
今度は男の人だ……誰だろう……。あたたかい……。
『私が拾われたのは運がよかったからです。それに、弟など欲したことなどありません』
咎めるような口調の女の人……。でもどこか嬉しそう……。
『面倒見てりゃ愛着も湧くってもんだ。おい、坊主。お前名は何て言うんだ?』
僕……僕は……誰?
『腕のタグに何か書いてあるようですね……ALLS―S001 ALTEA……アルテア……でしょうか』
僕は……アルテア……?わからない……。
『よし、今日からお前はアルテアだ。苗字も付けてやろうか、ブレイナーなんてどうだ?アルテア=ブレイナーだ。イカしてるだろ?』
アルテア……ブレイナー……。
『でだ。俺のことはおやっさんって呼べ。こいつは……そうだな、姉さんとでも呼んでおけ』
『だから、私は弟など……』
おやっさん……ねえさん……?
『う……と、とにかく!この子の面倒は拾ってきた少佐が見てください!私は関わり……』
ねえ……さん?
『そ、そんな目をしても無駄だぞ!私は弟など……弟……など……』
『ガッハッハッハ!いいじゃねえか、フェンリルのメンバー全員で面倒見りゃ。家族が多けりゃ賑やかになるってもんだ!』
かぞく……?
『アルテア、お前は今日から俺達の家族だ。嬉しいか?』
……うれしい……?かぞく……かぞく……
〜キサラギ医院 休憩室〜
「っは!……はぁ……はぁ……」
今のは……夢か?
「おにいちゃん?だいじょうぶ?」
朝からやや過ぎたくらいの日差しが降り注ぐ。温かみのある木造建築の建物。
開け放たれた窓からは気持ちのいい風が吹き込んでくる。そして自分の傍らには……
「う〜う〜いっていたけど、だいじょうぶ?こわいゆめ、みた?」
心配そうな顔をしてアニスちゃんが立っていた。
「あ〜……うん、夢をみていたんだ」
「ゆめ?こわかった?」
いかんいかん。心配させちゃいけないよな。
「大丈夫だ、怖い夢じゃなかったからな」
にっこりと爽やかスマイル!
<グオオオオオオオルルルル!>
「!?」
びっくりするアニスちゃん。若干焦りながら頬を掻く俺。人間が発する腹の虫の音じゃないよなぁ……。
「はっはっはっ!ようやく起きたみたいだね。朝食はいるかい?」
昨日の青年がボウルに入ったサラダと目玉焼きの乗ったトーストをトレーに乗せてやってきた。
「ゴチになります!」
昨日の昼から何も食べていなかった俺に、断るという選択肢は毛ほどもなかった。
「いやー……ご馳走様でした!」
サラダとトーストを全てたいらげ、手を合わせる。しばらくぶりに味わう食事は天上の味がしたとさ。
「お粗末さま。いい食べっぷりだったね」
食器を片付けながらいい笑顔でそういう彼。なんという好青年。
ちなみにアニスちゃんはというと俺の膝の上でホットミルクをちびちびと啜っていた。尻尾が俺の脚に巻きついているのはどういう意味だろうね?
「そういえば自己紹介もまだだったね」
彼は流しに食器を置くと俺の対面に座った。
「僕はヒロト。ヒロト キサラギだ。この街で小さな医院をやっている医者……の卵だ」
まだ自分の腕に自信が無いのか断言はせずに謙遜を交える。
「俺はアルテア=ブレイナー。冒険者(予定)だ」
一方の俺は自己紹介に謙遜ではなく補足を入れる。まだなっていないのだから仕方が無い。
「予定……ということはギルドの登録はまだなのかい?」
「あぁ……登録するための紹介者も紹介状も無い」
現実を再認識し、落ち込む。
「おにいちゃんはぼうけんしゃになりたいの?」
膝の上のアニスちゃんが訪ねてくる。
「今の俺にできることと言ったらそういう類のものしかないからね」
「あれだけの医療技術がありながら……できることならウチで雇いたいぐらいだよ」
苦笑いするヒロト。昨日のアレの事を言っているのだろう。
「無免許だからな。そう何度も同じ事はできないさ。それに慣れているとはいえ専門外だしな」
「それは残念」
本当に残念そうな顔をする。
「おかーさん、おかーさん。おきてー!」
いつの間にか俺の膝から降りていたアニスちゃんがベッドで寝ている女性を揺さぶっていた。
「ん……アニー……?……アニス!」
彼女の母親が目を覚まし、アニスちゃんを見た途端その小さな体を抱き寄せた。
「ごめん……ごめんね……心配したよね……?」
「おかーさんくるしいよぉ!」
おそらくその苦しいは抱擁的な意味での苦しいではなく窒息的な意味での苦しいだろう。小さな顔が豊満な胸で押しつぶされていた。
「……」
「鼻血、垂れてるぞ」
「ッハ!って垂れてないじゃないか!」
我に返ったみたいなので大笑いしてやった。
「おかあさん、おにいちゃんをおかあさんのところでおしごとをさせてあげて?」
「おにいちゃん?」
彼女は俺のほうに視線を向けると目を見開いた。
「君は昨日の……」
「怪我の具合はどうだい?何か違和感は?」
「それ僕の言うセリフなんですけど……」
「遅刻医者は黙ってろ」
「酷いなあんた!?」
酷いショックを受けたような顔をするヒロト。
「えぇ、大丈夫。元々傷の治りは早いほうだからあと2,3日もしたら綺麗に消えると思うわ」
傷の具合を確認しながら今度は彼女が俺に訊いてくる。
「仕事がしたい……と言うことは冒険者になりたいということ?」
「ま、そんな所だ。生憎と紹介者も紹介状も無いから立ち往生していたんだけれどな」
俺は肩を竦めておどける。
「そう、紹介者がいれば登録はできるのよね?」
「端的に言えば、な。残念だがギルドの事を教えてくれたリザードマンとは別れた上に連絡が取れないから頼ることはできない」
ボリボリと頭を掻く。ホント、あいつ何処に行っちまったのやら……。
「問題ないわ。私が紹介するから」
そう言って妖艶に微笑む。人妻だと分かっていてもドキッとするよな。これは。
「鼻血でてるよ?」
「んなわけねぇだろ……って、へ?紹介?」
頭を抱えて悔しがっている馬鹿医者(笑)は捨て置いて聞き返す。
「そ、紹介」
マジか。
「自己紹介が遅れたわね。私はミリア=フレンブルク。このモイライの街の冒険者ギルド支部の支部長よ」
「…………はい?」
しぶちょー?渋長?
「しぶちょうって、ギルドの管理者の?」
「えぇ、それで合っているわ。何か不都合は?」
俺は額に手を当てて天を仰ぐ。偶然にしちゃ出来すぎてやがる。肝心なときに手を貸さない神よ、お前は俺を弄んで楽しんでいるのか?
「しごとがみつかるよ!やったねおにいちゃん!」
アニスちゃん、そのネタはギリギリ(でアウト)だ。
声が聞こえる……。女の人?困ったような声……。
『いいじゃねぇか。今更面倒見る奴が一人増えた程度でどうこうなるほど苦しくはないんだ。お前も弟分が出来るんだぞ?嬉しくねぇのか?』
今度は男の人だ……誰だろう……。あたたかい……。
『私が拾われたのは運がよかったからです。それに、弟など欲したことなどありません』
咎めるような口調の女の人……。でもどこか嬉しそう……。
『面倒見てりゃ愛着も湧くってもんだ。おい、坊主。お前名は何て言うんだ?』
僕……僕は……誰?
『腕のタグに何か書いてあるようですね……ALLS―S001 ALTEA……アルテア……でしょうか』
僕は……アルテア……?わからない……。
『よし、今日からお前はアルテアだ。苗字も付けてやろうか、ブレイナーなんてどうだ?アルテア=ブレイナーだ。イカしてるだろ?』
アルテア……ブレイナー……。
『でだ。俺のことはおやっさんって呼べ。こいつは……そうだな、姉さんとでも呼んでおけ』
『だから、私は弟など……』
おやっさん……ねえさん……?
『う……と、とにかく!この子の面倒は拾ってきた少佐が見てください!私は関わり……』
ねえ……さん?
『そ、そんな目をしても無駄だぞ!私は弟など……弟……など……』
『ガッハッハッハ!いいじゃねえか、フェンリルのメンバー全員で面倒見りゃ。家族が多けりゃ賑やかになるってもんだ!』
かぞく……?
『アルテア、お前は今日から俺達の家族だ。嬉しいか?』
……うれしい……?かぞく……かぞく……
〜キサラギ医院 休憩室〜
「っは!……はぁ……はぁ……」
今のは……夢か?
「おにいちゃん?だいじょうぶ?」
朝からやや過ぎたくらいの日差しが降り注ぐ。温かみのある木造建築の建物。
開け放たれた窓からは気持ちのいい風が吹き込んでくる。そして自分の傍らには……
「う〜う〜いっていたけど、だいじょうぶ?こわいゆめ、みた?」
心配そうな顔をしてアニスちゃんが立っていた。
「あ〜……うん、夢をみていたんだ」
「ゆめ?こわかった?」
いかんいかん。心配させちゃいけないよな。
「大丈夫だ、怖い夢じゃなかったからな」
にっこりと爽やかスマイル!
<グオオオオオオオルルルル!>
「!?」
びっくりするアニスちゃん。若干焦りながら頬を掻く俺。人間が発する腹の虫の音じゃないよなぁ……。
「はっはっはっ!ようやく起きたみたいだね。朝食はいるかい?」
昨日の青年がボウルに入ったサラダと目玉焼きの乗ったトーストをトレーに乗せてやってきた。
「ゴチになります!」
昨日の昼から何も食べていなかった俺に、断るという選択肢は毛ほどもなかった。
「いやー……ご馳走様でした!」
サラダとトーストを全てたいらげ、手を合わせる。しばらくぶりに味わう食事は天上の味がしたとさ。
「お粗末さま。いい食べっぷりだったね」
食器を片付けながらいい笑顔でそういう彼。なんという好青年。
ちなみにアニスちゃんはというと俺の膝の上でホットミルクをちびちびと啜っていた。尻尾が俺の脚に巻きついているのはどういう意味だろうね?
「そういえば自己紹介もまだだったね」
彼は流しに食器を置くと俺の対面に座った。
「僕はヒロト。ヒロト キサラギだ。この街で小さな医院をやっている医者……の卵だ」
まだ自分の腕に自信が無いのか断言はせずに謙遜を交える。
「俺はアルテア=ブレイナー。冒険者(予定)だ」
一方の俺は自己紹介に謙遜ではなく補足を入れる。まだなっていないのだから仕方が無い。
「予定……ということはギルドの登録はまだなのかい?」
「あぁ……登録するための紹介者も紹介状も無い」
現実を再認識し、落ち込む。
「おにいちゃんはぼうけんしゃになりたいの?」
膝の上のアニスちゃんが訪ねてくる。
「今の俺にできることと言ったらそういう類のものしかないからね」
「あれだけの医療技術がありながら……できることならウチで雇いたいぐらいだよ」
苦笑いするヒロト。昨日のアレの事を言っているのだろう。
「無免許だからな。そう何度も同じ事はできないさ。それに慣れているとはいえ専門外だしな」
「それは残念」
本当に残念そうな顔をする。
「おかーさん、おかーさん。おきてー!」
いつの間にか俺の膝から降りていたアニスちゃんがベッドで寝ている女性を揺さぶっていた。
「ん……アニー……?……アニス!」
彼女の母親が目を覚まし、アニスちゃんを見た途端その小さな体を抱き寄せた。
「ごめん……ごめんね……心配したよね……?」
「おかーさんくるしいよぉ!」
おそらくその苦しいは抱擁的な意味での苦しいではなく窒息的な意味での苦しいだろう。小さな顔が豊満な胸で押しつぶされていた。
「……」
「鼻血、垂れてるぞ」
「ッハ!って垂れてないじゃないか!」
我に返ったみたいなので大笑いしてやった。
「おかあさん、おにいちゃんをおかあさんのところでおしごとをさせてあげて?」
「おにいちゃん?」
彼女は俺のほうに視線を向けると目を見開いた。
「君は昨日の……」
「怪我の具合はどうだい?何か違和感は?」
「それ僕の言うセリフなんですけど……」
「遅刻医者は黙ってろ」
「酷いなあんた!?」
酷いショックを受けたような顔をするヒロト。
「えぇ、大丈夫。元々傷の治りは早いほうだからあと2,3日もしたら綺麗に消えると思うわ」
傷の具合を確認しながら今度は彼女が俺に訊いてくる。
「仕事がしたい……と言うことは冒険者になりたいということ?」
「ま、そんな所だ。生憎と紹介者も紹介状も無いから立ち往生していたんだけれどな」
俺は肩を竦めておどける。
「そう、紹介者がいれば登録はできるのよね?」
「端的に言えば、な。残念だがギルドの事を教えてくれたリザードマンとは別れた上に連絡が取れないから頼ることはできない」
ボリボリと頭を掻く。ホント、あいつ何処に行っちまったのやら……。
「問題ないわ。私が紹介するから」
そう言って妖艶に微笑む。人妻だと分かっていてもドキッとするよな。これは。
「鼻血でてるよ?」
「んなわけねぇだろ……って、へ?紹介?」
頭を抱えて悔しがっている馬鹿医者(笑)は捨て置いて聞き返す。
「そ、紹介」
マジか。
「自己紹介が遅れたわね。私はミリア=フレンブルク。このモイライの街の冒険者ギルド支部の支部長よ」
「…………はい?」
しぶちょー?渋長?
「しぶちょうって、ギルドの管理者の?」
「えぇ、それで合っているわ。何か不都合は?」
俺は額に手を当てて天を仰ぐ。偶然にしちゃ出来すぎてやがる。肝心なときに手を貸さない神よ、お前は俺を弄んで楽しんでいるのか?
「しごとがみつかるよ!やったねおにいちゃん!」
アニスちゃん、そのネタはギリギリ(でアウト)だ。
12/02/21 20:39更新 / テラー
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