第三十八話〜ドキドキ!?デート大作戦!〜
引っ込み思案な奴が何か新しい事を始めようとするには多大な労力が必要な物で、形から入るだけでもヘロヘロになるまで精神力を費やすこともしばしば起こる。
それでも周りの友人達や家族が支えてあげればその労力も半分以下、心機一転として足取りも軽くなる。友情とは美しいものだ。うん。
……行く末が気になるのはわからないでもないがね。
〜冒険者ギルド 江戸崎支部 ロビー〜
今日は何だか朝から変だ。
アーサーは朝俺の部屋に押しかけてくるなり『今日のクエスト消化活動は急遽中止だ。自由に過ごすように。』とか言い出すし、エレミアは『あら御機嫌よう。今日は絶好のお出かけ日和ね。』とか似合わなすぎて鳥肌が立つようなセリフを吐くし、リュシーは『頑張ってください!』とか手をとって励ましてきたし、サクラは『余ったからやる』とか言って居酒屋の割引券を渡してきた。普段なら絶対自分で使うのに。
そして廊下ですれ違ったアイシャは何故か顔が引き攣っていたという。
「全くもって訳わからん……」
気を取り直すために熱々の緑茶を啜る。
緑茶を飲んで溜息をつくのは日本人の習性みたいなもんなのかね。
いや、多分俺は日本人じゃ無いと思うけど。
「ものすごくじじむさいですね。アルテアさん」
カウンター越しにプリシラが呆れたような表情で俺を見ている。
「この一杯の旨さがわからんようではジパング通とは言えないぞ?」
「いえ、別に通を名乗るつもりはありませんけど。」
和のすばらしさを小一時間語ってやりたいところだったが、語ったところで理解なんて出来ないだろうし面倒なのでやめた。
そんなゆるい朝の一時を過ごしていた時だ。
「あ、アルテアさん!」
唐突にサフィアが俺を呼ぶ声が。
振り向いていみると……
「サフィア……お前それどうした?」
サフィアの魚の下半身が無くなり、人間の足が生えていた。
各所にある大型のヒレはそのままだったが。
「きょ、きょうはおひまですか!?」
質問への返答が帰ってこないぞ。
仕方なく話を進めることに。
「あ、あぁ。アーサーが今日の仕事は中止だってさ。一体何があったのやら……」
「そ、それなら、わ、わたしとでで、でーとしていただけませんか!?」
緊張でガチガチになって俺へと話すサフィア……というか……デート?
「いきなりデートって……お前どうしたんだ?」
「ひ、ひまそだからさそてみました!」
どう見ても言わされているって感じだよなぁ……というか積極的に誘うタイプじゃ無いし。
「まぁ暇は暇だけどさ……どこ行くか決めてあるのか?」
「ぁ…………」
そう言われてから『しまった!』という表情で固まるサフィア。
どうやらアテも無く声をかけたらしい。
<あちゃー……しまった。どこへ行かせるか決めてなかった……>
<どうするんですか?こっそり指示を?>
<いや、アルテアなら自分で決めるぐらい機転は効かせるはずだ。まだ様子を見よう。>
「ま、いいさ。行くぞ、サフィア。」
「ぇ……?行くって……。」
未だにぽかんとしているサフィアの手を取ってギルドを出る。
勇気を出して誘ってくれたのだ。少しぐらいは報われてもいいよな?
「デートに行くんだろ?別にどこへ行こうが構わないさ。楽しめれば、な。」
「……は、はい!」
〜甘味処 『夢屋』〜
とりあえず引っ張ってきたはいいものの、彼女はどこへ行ってもガチガチに緊張していた。
緊張を解す意味も込めて甘味処で団子を食べながら茶を飲む。
「美味いか?」
「はい。初めて食べましたけど美味しいですね、これ。」
俺はみたらし、彼女は三色団子だ。
「三色団子の色の由来ってのはいろんな説があってな。一説では一番上の桃色は春の日差し、白は冬の名残の残雪、緑はヨモギの芽吹きを表すんだとか。」
「へぇ……なんだか面白いですね。」
風情とかそういう感覚を伝えたいが上手くいかないものだ。
「ジパングの物には総じていろんな意味を込められているものが多いからな。調べてみると結構面白いぞ。」
「物知りですねぇ……」
実際は脳チップのデータベースから引っ張ってきた物なんだがな。
「楽しいか?」
「へ……?」
ある程度緊張を解せたようなので確認してみる。
彼女は俺が何を言いたいのか解らず、ただぽかんとしているだけだ。
「別にデートだからって気負う必要はないんだ。二人で行って、楽しめればそれでいい。」
「そう……ですね。失敗しないようにしなきゃって考えていたら凄く緊張しちゃって。」
彼女がはにかみながら微笑む。
あぁ、かわいいなコンチクショウ!
「そういえば……その足どうしたんだ?」
朝に答えてもらえなかったことについて問いかける。
どうしても気になっていたが、あまりに彼女が緊張しすぎていて聞きそびれてしまったのだ。
「これは……知り合いから貰った魔法具で変身させているんです。デートで歩きやすくなるかな……って」
「知り合い……ね。」
朝のあいつらの挙動不審、いきなりのデートのお誘い。
「これはひょっとすると……。」
気取られないように周囲を観察すると……
「(向かいの飯屋、奥の席か。)」
アーサーご一行がいた。
ご丁寧にも和服で変装しているが周囲から滅茶苦茶浮いている。
特にアーサーが似合わな過ぎて泣けてくる。
「(さて……どうしたものか)」
十中八九あいつらの差し金だろう。
何時までも踏み切らないサフィアに業を煮やして背中を押した……といった所だろうか。
「(要らぬおせっかい……とまでは行かないが過保護すぎる気がしなくもないよな)」
隣で団子をもくもくと頬張るサフィアを見る。
誰が見ても『幸せそうだ』と言うだろう。
せめてデートを成功させて名一杯楽しませてやるかと一人決めていると、袖を引かれる感触が。
「あ、あの……」
「ん?どうした?」
彼女が不安そうに俺の袖をつまんでいた。
決めた途端にこれでは先が思いやられる。
「アルテアさんは楽しくありませんか?」
「まさか、こんな美人に誘われて楽しくない男がいるものか。」
しまった。いつもの癖というか体に染み付いた何かが出てきてしまった。
どうしてくれようこの軽い口は。
「あ……あぅ……」
「す、すまん……誉め過ぎたか?」
真っ赤になりながらも彼女は首を振る。
「い、いえ……恥ずかしいけど、嬉しい……です。」
人差し指同士を付き合わせて照れ隠しをしている。
俺も相当だがこの子も男を落とす事に関しては天性の才能があるのではなかろうか。
〜向かい側〜
「いい感じですねぇ……」
うっとりした表情でアルテア達を見つめるリュシー。
彼女はアルテア達を通して自分のギルドマスターを見ているようだ。
「奥手も使いようによっては武器となるものだ。まったく、いい仕事をしてくれる。」
「あの二人いつくっつくかしら。掛けでもしてみる?」
アーサーとエレミアはお茶を片手に二人を観察している。
どことなくスポーツ観戦をしているような雰囲気だ。
「か〜……じれったい!いいからさっさと押し倒せよ!」
「いや、流石に街中で押し倒すのはマズいと思うのだが。彼女のトラウマになりかねない。」
どうもサクラはやきもきしているようで、酒を片手に拳を握り締めている。
余談だが机を壊されやしないかと店主が店の奥でビクビクしていたり。
「…………」
「で、貴方はなぜ先程から黙り込んでいるのかしら?」
一人憮然として冷奴をスプーンでつつきまわしているのはアイシャだ。
何故か背後から黒いオーラが湧き出ている。
「別に?アイツが誰といようと関係ないし。別にアイツが特別好きってわけじゃないし。」
ブツブツつぶやきながらスプーンを振り下ろす。
グズグズした断面をつくりながら冷奴が両断された。
「好きになっちゃったんですかぁ?」
「な!?バカ!別にアイツのことなんてどうとも思ってないから!」
「(ツンデレだな)」
「(ツンデレですね)」
「(ツンデレね)」
「(ツンデレだ)」
〜能楽堂 『松前雅』〜
「(デートと言えば映画だろう……と、思って似たようなものを探したのはいいが……)」
<あさ〜ま〜しき〜……こい〜の〜やっこや〜>
恐ろしくつまらない。
何がつまらないかって?言っている意味が分からないんだよ。
入り口にはでかでかと『世代を超えた悲劇のラブストーリー!』とか書いていながら何一つわからない。
「……」
しまいにゃサフィアが船漕いでいるし。
「……出るか。」
「ふぇ!?へ、は、はい……」
〜芸能通り〜
「すまんな、退屈させて。」
「いえ……私、デート中なのに居眠りしてしまいましたし……」
それは俺のチョイスが悪かったせいだ。
何か気晴らしになるものは無いかと周りを見回すと……
<さぁさよってらっしゃいみてらっしゃい!子鼠一座の曲芸だ!>
少し開けたところでラージマウスの一団がサーカスのような事をしていた。
少なくとも理解出来ない能なんぞよりは面白いだろう。
「少し見ていくか。」
「ぁ……」
サフィアの手を取って集まりの方へと歩く。
握られた手に少し戸惑っていたようだったが、少しするとキュと力が込められた。
「器用な物だな……」
玉乗りをしながら肩車をしたり、3人同時に綱渡りをしたりとその身軽さを生かした曲芸はなかなかに楽しめる物だった。
「わぁ……」
普段こういった催し物とは縁がないのか、サフィアも楽しそうにしている。
危なくなったところで息を飲んだり、見事な曲芸に手を叩いたりとこちらを見ているだけでも楽しい。
「さて、それでは今日の特別演目を行いたいと思います!」
司会が声高に宣言すると、ラージマウス二匹が俺とサフィアの方へとトテトテ駆け寄ってきた。
「ん、何だ?」
「え……え……?」
二人は俺達の手を引くと前へと引っ張り出して来る。
櫓の上にはラージマウスが二匹肩を組んで立っている。そして櫓の前に吊り下げられているのは……。
「これは酷い晒し者だ。」
「はわわわ……」
どピンクのハートマーク型の紙だ。
丁度櫓の上の二匹と俺たちの間にある。
「お二人にはネリーを跳ね上げてもらい、あのハートを突き抜けて櫓の上の二人組の上へと乗せてもらいます!少し早い二人の共同作業、はたして成功するか!?」
「やるぞ、サフィア。」
「えぇ!?」
酷い羞恥プレイだが仕方がない。
「ここで成功しなきゃ延々やらされる!一発で決めるぞ!」
手を取って両手を組み上げる。
彼女は失敗した時の事を考えているのか若干涙目だ。
「いっくよー!」
助走のために距離を取ったネリーが手を挙げる。
次の瞬間猛然と走りだした。
「タイミングを合わせろ!」
「は、はい!」
「いち!」駆け寄ってきたネリーが踏み込む。
「にの!」飛び上がって組んだ手の上に飛び乗る。
「さん!」そしてネリーを二人一緒に跳ね上げる!
ネリーは宙を舞い、一直線にハートを突き破ると空中で一回捻りを入れて見事に櫓の上の二匹の肩の上に着地した。
鳴り響く歓声、口笛と冷やかしが飛び交う。
「成功しても恥ずかしいですよこれ……」
「何度もやらされるよりはマシだ……耐えろ。」
〜江戸崎南東 御崎埠頭〜
「はぁ〜……落ち着きます……。」
ひと通りつつきまわされた俺とサフィアは逃げるようにその場を離れて御崎埠頭までやってきていた。
サフィア曰く海が見えると落ち着くらしい。
「まぁあんな目には遭ったが楽しかったと言えば楽しかったな。」
「……」
真っ赤になって黙りこんでしまった。
余程恥ずかしかったのだろうか。
「ほ、他にどこか行きたい所はあるか?自由に歩き回るような事なんてあまり無いだろうからもっといろんな所に……」
「あの……もう少し近くに寄ってもいいですか?」
だから上目遣いで目を潤ませながらお願いは反則だと(ry
「ぁ……あぁ、構わない。」
「し、失礼します……」
そう言うと彼女はぴたりと身を寄せて来る。
普通の人よりも少し体温は低いだろうか。少しひやりとしている。
「……♪」
幸せそうに眼を閉じて頭を肩にもたせかけてくる。
「(悪くない……な。)」
自分の周囲にいるようなタイプとは違い、積極的に身を寄せてくる事はない。
たえず寄り添い、共にある事を幸せとする女性。
しかし……。
「(だからこそ……俺には相応しくない……かな。)」
元々俺は傭兵だ。
明日には戦場のどこかで野垂れ死んでいるかもしれない。
この世界ではE-クリーチャーと戦うこともある。一回一回の戦闘が命懸けだ。
もし死んでしまったら……俺という拠り所を無くした彼女はどうなるだろうか。
傍らで幸せそうに目を瞑る彼女を再び見る。
「じれったいですね……もっとこうがばーっと押し倒したりしないんでしょうか?」
積荷の陰でアルテアとサフィアを伺う影×5。
「二人とも積極的とは言い難いからな……サフィアは言わずもがなアルテアも誘わなければ応じないタイプだろう。」
「あと一押しって所か。エレミア、何かいい策は無いかい?」
「要するにそういう雰囲気を作ればいい……という事でしょう?だったら適任がいると思うけれど。」
エレミアがアイシャに目線を向けると、全員の目がアイシャに向いた。
「何をしろって言うのよ……」
「……!?」
風を切り裂いて俺達の前を何かが通り過ぎた。
何かが飛んでいった方向を見ると、海の上に矢が浮いている。
あれは確か……アイシャの……。
「一体何が……!?!?」
サフィアの方をもう一度向いて愕然とする。
「何か……少し涼しいですね?」
咄嗟にサフィアを抱き寄せる。
黒い水着っぽいアレが……アレが……
「っ!?あ、アルテアさん……?」
紐が切れてポロンしていた。
今は俺が前から抱きしめる形で周りからは見えないが、少しでも離したら見えそうだ。
「……やったわよ。今回だけだからね。」
「グッジョブ!流石弓の名手!」
親指を立てて賞賛するエレミア。
「お膳立ては整った。さぁ、遠慮せずに食らうがいい……。」
「笑顔が怖いですよ……アーサーさん……」
「あ、あの……何か?」
「いいから、どこか物陰に行くぞ。このままじゃヤバい。」
彼女を抱きしめたままカニ歩きで倉庫の影へと歩いて行く。
暑いからってジャケットを置いてくるんじゃなかった……!
「い、今からですか!?そ、その……そういう事をするならもう少し落ち着いた場所の方が……」
「何も言わずに下を向け。そして声を出すな。」
「下……ですか?」
彼女が顔を向けると真っ青になって凍りついた。
「な、何ですかこれはぁ!?服の紐がkんむぅ!?」
両手はふさがっている。しかし叫ぶのは防がなければならない。
向かい合っている。そうしたら取れる行動は一つしか無いじゃないか。
すなわち、口で口をふさぐと。
「……っ!……っ!?」
「……」
腰を叩いて落ち着かせる。
暫くすると落ち着いたようなので口を離した。
「は……ぁ……ぅ……」
「とりあえず物陰まで行って服を直すぞ。」
幸い倉庫や積荷で遮蔽物は山ほどある。
ここ数年動かしていなさそうな木箱の間に身を潜り込ませた。
「ぅぅ……」
彼女は今俺のTシャツを着ている。
俺は上半身裸で彼女の水着(?)を縫っていた。
ソーイングセットは外出用のポーチの中に入っていた。備えあれば憂いなしってね。
「縫いつけた分少し紐が短くなっちまうなぁ……その辺は縛る長さを調節してくれ。あと、こいつはあくまで応急処置だから早めに新しいの手に入れろよ?」
「………………」
何か声を掛けても彼女は黙り込んだままだ。
よほど恥ずかしい……
「……何やってるんだ?」
Tシャツを鼻の上あたりまで押し上げている。
傍目から見たらかなりシュールな光景だ。
「ぇ……ぇと……アルテアさんの……匂い……嗅いでます……」
ダボTにそれは……かなりクる物があるのだが。自覚しているのだろうか。
「前を向いたら裸のアルテアさんがいますし……下を向いたら匂いが上がってきますし……どうしたらいいか……」
これは何か?襲えとでも言うのか?
「ぁ……」
「ん?」
彼女が顔を真赤にして俯く。一体どうしたというのだろうか?
彼女は腕で胸を隠すように交差しているが、その豊満な胸を隠し切ることは出来ない。
「み、みないでくださいぃ……」
そして、俺は見てしまった。
俺のTシャツの胸の部分を押し上げる双丘、その頂点にポツリと一つずつ点が……
「ぅ……」
そりゃね、こんな女性のあられもない姿を見たら立ちもしますよ。何がとは言わないけれど。
そしてサフィアさん、視線を下に動かさないでください。
「お、おっきくなってますね……」
真っ赤になりながらも視線は外さない彼女。
恥ずかしがりなのにこういう欲求には素直なんだよなぁ……。
「す、すまん。すぐに直す……」
「あの、ここって人……来ませんよね?」
人が来なさそうな所を選んだのは、服の修繕中に誰も来ないような場所がよかったからだ。
何もそういうことをするためでは無かったのだが……
「確かに来ないかも知れないが……本気か?」
「恥ずかしいって思ったら体が火照ってきてしまって……ダメですか?」
彼女は自分を抱きしめて少し息を荒くしている。
頬は上気して赤みがさして色っぽさを増している。
さらに言うなれば普段清楚な彼女が自分に対して劣情を催している、というのは鼻血が出そうなくらいくるものがあった。
「まぁ……別に構わないんだけどな……。」
俺はホルスターから仔鵺と虎牙鎚を引き抜く。
なぜ武器を取り出すのかがわからないようで、彼女は頭上に?マークを山ほど浮かべているみたいだ。
「出歯亀がいるのはいただけないな。」
振り向き様に虎牙鎚のトリガーを引きながら仔鵺のゲンブジャケットを生成。
練り合わせてタイグレスハウルの発動準備を行う。
「吹っ飛べ!」
タイグレスハウルを解き放つと空の木箱が吹っ飛び、物陰に隠れていた4人が姿を表す。
まさか障害物を破壊されてまで位置を特定されるとは思わなかったのか彼女たちは呆然としている。
「お節介を焼くのも手助けをするのも構わないがな、いくらなんでもプライベートまで覗き見るこたぁ無いだろ。」
「い、いやぁ……あはは……」
「サクラ!あたな図体が大きすぎるわ!」
「大きさだけならアーサーだって負けていないだろう!?」
「もう少し離れた場所から伺うべきだったか……迂闊だ。」
各々責任のなすりつけあいや反省点を述べている。
この期に及んでこいつらは……。
「ぁ……」
後ろでサフィアが小さく声を上げる。
なにかと思って彼女の方を伺うと……
「今ので……冷めちゃいました……」
「「「「……」」」」
余計な事をしたと思ったのだろう。出歯亀4人は気まずそうに顔を見合わせていた。
「悪かったな。折角いい雰囲気になっていたのに。」
「い、いえ……私も見られていた事を後で知ったらものすごく恥ずかしかったでしょうし……」
しかし、その表情からは残念だという感情がありありと読み取れた。
ここは……一肌脱ぐしか無いか。
「サフィア。」
「はい……なんでしょ……」
顔をこちらに向けた瞬間に不意打ちで唇を奪う。
最初はパニックになっていたようだが、何をされたか理解してきたのか次第にこちらへ身を預けてきた。
「ん……ふぅ、おあずけしたお詫びだ。気に入ってくれたか?」
「ぁ……ぅ……」
夕暮れというのを差し引いても顔が真っ赤になっているのがわかる。
その気になったら求めてくる癖にこういう所は初心だよなぁ。
<ヒュッ>
何かが頬を掠めて飛んでいき、皮膚が薄く切れて血が流れ出す。
サフィアが息を飲んでとっさに回復術を施そうとしたが俺はそれを手で制した。
目線の先の地面に矢が突き刺さっている。
「アルテア……さん……?」
「すまないな、サフィア。残念だがデートはここまでだ。」
あぁ、そんな泣きそうな顔をしないでくれ……
「急にリアル鬼ごっこの予定が入ってな。これから街の中を走りまわらにゃならん。
逃げきって生きていたら……また明日会おう。」
彼女の隣をすり抜けて大通りを駆け出す。
背後にはすぐに誰かが追ってくる気配がした。
「(どうりであの時4人しかいなかった筈だよ……伏兵が……しかも超弩級に逃げづらい奴がいたのか……!)」
逃げる足元に矢が突き刺さる。
本気で俺に当てる気は無いとはわかっていても、流石に足をとめる気にはならない。
「ド畜生!絶対生き残ってやる!」
叫びながら、奇特な目で俺を見る雑踏へ踏み込んでいく。
明日の朝日を生きて拝めるかなぁ……。
「…………クスッ」
やっぱり、アルテアさんはアルテアさんだった。
どんな人相手でも助けてしまう。そしてその性格が災いしていろんな人に追いかけられるのも。
「〜〜♪」
それにしても……キスされちゃった……。
結構人目が多かったけど嬉しかったなぁ……。
「フフフッ……♪」
嬉しくて口元がニヤける。
あぁ、私今ものすごくだらしない表情しているかもしれません。
「〜♪〜♪」
恥ずかしいけど、嬉しい。夜になったら……我慢できなくて人目を盗んでコッソリ一人でしてしまうかも……はしたないです……。
その時、ふらふらと近づいた路地から黒い手が伸びてきたんです。
「!?」
口を手で塞がれて路地へと引きずり込まれました。
さらに布で口を塞がれて、意識が……怖……アルテ……たす……
11/09/10 10:58更新 / テラー
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