第三十七話〜お高くとまったエルフがこんなにエロい訳がない〜
人間何事も適度にガス抜きをすることが大事で、いつまでも根を詰めているとふとした瞬間にあっけなく崩れ去ってしまう物だ。
ガス抜きの方法は人それぞれで、遊びだったり釣りだったり読書だったり……人によってはセックスなんかであったりもする。
精神構造や身体的構造が似通っている魔物達もそれは変わらず、彼女たちにとっては人と交わる事が食事であり、ガス抜きであり、パートナーとのスキンシップであり……と中々合理的な作りになっている。
だからさ、あまり我慢しないほうがいいんだよ。じゃないと爆発したときに大変なことになるんだから。
〜江戸崎冒険者ギルド ロビー〜
朝起きて顔を洗った俺はロビーで緑茶を啜っている。
いつもの朝の一杯の習慣というものはなかなか抜けないもので、緑茶じゃなくても酒と煙草以外の何かしら嗜好品を飲んでいたりするのだ。
ただしルートビアは別だ。あれはいただけなかった。
「で、だ。何でお前は俺の向かい側に座って俺を睨みつけているんだ?」
俺の向かい側にはアイシャが陣取って俺が緑茶を飲む所を凝視している。
「別に。全員集まるまでは暇だし、ただの人間観察よ。」
「さよか……」
俺は実験動物か何かか。
その内観察日記でも付けられそうな感じだ。
「そういやお前ってパートナー……男女の関係的な意味でってのだが……探しに来たんだっけ?エルフなのに珍しくないか?」
疑問をぶつけると彼女は皮肉げに口の端を吊り上げて薄く笑う。
そして頬杖を突きながらこうのたまった。
「もう……ね。エルフの掟とかプライドとかどうでもよくなったのよ。サキュバス化しかけて私の事をバケモノ扱いした里長の顔を見たら、ね。」
「そりゃまぁ……辛いこと訊いちまったかな……」
「別に気にしていないわ。昨日まで親切にしてくれていた里の連中が掌返したように罵声浴びせてくるのよ。それ見たらエルフも人間も対して変わらないんじゃないかって。あれだけ人間を蔑んでいたのに皮肉な物よね。」
長い髪を一房手にとってクリクリといじくり回すアイシャ。
その顔には拭いきれないほどアンニュイな雰囲気が漂っており、心底『どうでもいい』という退廃的な精神状態になっているのが伺えた。
「んで、里にいられなくなって外の世界に飛び出して気づいたわね。どれだけこの世界は広いのかって。正直昔里に引き篭っていた自分の襟首掴んで放り出したい気分だったわ。」
髪を弄るのを止めると、今度は自分の前の湯呑みに口をつけて溜息をつく。
薄目を開けてリラックスする様子がどことなく色っぽい。
「そうしたら今度は自分の中で燻っている何かに気づいたワケ。別に初めてじゃなかったから解ったけどそれって恋焦がれる……とか言うのかな。幼なじみに一度だけ感じたことがあったわ。今度のは対象がいなかったけどね。」
魔物としての本能なのだろう。
本能に目覚めた彼女たちは否定しつつも自ら男性を探す行動をとってしまうという。
「その時かな。エルフや人間にこだわらずにとびきりいい男を捕まえてやろうって思ったのは。それで二人で里へ戻って私たちはこんなに幸せなんだぞって見せつけてやってさ。滅茶苦茶怒っているあいつらの顔みて笑ってやろうってね。」
「随分ひねくれてんのな……お前。」
関心するやら呆れるやら、俺は目の前のぶっ飛んだエルフを改めて眺める。
そのささやかな復讐を語るエルフはどこか誇らしげだ。
「だから今の私はエルフじゃない。私を見捨てた里に牙を剥く……ただの復讐者よ。」
「随分かわいい復讐者もいたもんだな。」
冗談交じりにそう言ってやると彼女は頭から水蒸気が出そうなほど真っ赤になる。
「な、な、ななにいいいいいってんのあんたは!?かわいいとか似合わないでしょ!?私には!」
「落ち着け。ほら、深呼吸。」
言われたとおりに深呼吸するアイシャ。
所作や言動は皮肉っぽいが、根は素直な性格らしい。
「別に他意は無いから安心しろ。あと似合わないとか言わずに素直に取っとけ。言われている内が華だぞ。」
「〜〜〜〜〜〜!」
恨めし気に上目遣いで睨みつけてくる彼女。天然でこれをやっているのだとしたら大した男殺しだ。
「全員集まったな。それでは今回の仕事を割り振ろう。」
アーサーの号令で空気が引き締まる。流石は年長者と言ったところか。
彼女はボードから持ってきた依頼をちゃぶ台の上に並べていく。
「サクラとリュシーには引き続き倉庫整理を頼もう。まだ終っていない依頼もあるから迅速に頼む。」
「迅速にってどうすればいいんですかぁ……」
無茶な注文ではあるだろうが、運搬系の依頼というのは時間が掛かる性質上溜まりやすい。
アーサーの言うとおりハイペースで終わらせないと無くならないだろう。
「私とエレミアは山中のゲリラ組織の壊滅だ。練度はそれほど高くないだろうからサクサクと終わらせられるはずだ。」
「少しは歯ごたえのよさそうな相手がいるといいのだけれど……」
前回のクエストで不完全燃焼気味だったのだろう。
気だるげに見えながらもその目には静かな闘志が燃えている。
「そして今回はアイシャとアルテアのペアで受けて欲しいクエストがある。」
そう言うとアーサーは一枚の紙を俺達の方へ滑らせてくる。
その紙に書いてあるのは……
「染料の素材収集?これなら私だけでも大丈夫じゃない?」
「素材の収集だけなら……な。」
何か訳でもあるのだろうか。アーサーの表情に少しだが影がさす。
「どうもその素材のある土地は曰くつきの土地でな。踏み込んだが最後、帰ることが出来ないとの噂があるのだ。」
「しかし所詮は噂レベルの話だろ?それに素材があるという情報があるってことは帰ってきた奴もいるって事だ。なら『帰れない』なんて話はウソになる。さほど心配するこたぁ無いだろ。」
しかし彼女の表情は渋いままだ。
「まぁ噂だけならば良かったのだ。しかしあそこはどうも良くない気の吹き溜まりのようでな。正直何がいるかわからんのだ。用心するに越したことはない。」
同行者兼護衛って事ね。
「ま、そういう事なら同行させてもらうさ。異存は無いな?アイシャ。」
「完全に無いって訳じゃないけど……ここは年長者を立てておきましょうか。」
素直じゃない奴だ。
俺達は各々クエストの依頼書を持ってカウンターへと向かった。
〜クエスト開始〜
―想いを乗せる物―
『今付き合っている彼とはそろそろ2年目になります。
結婚を申し込む際、どうせなら送る服は彼によく似合う物を送りたいのです。
彼には黒がよく似合うのですが、今一しっくりと来る色が出せないのです……。
そこで、黒神山地に自生する『クロゾメカズラ』っていう植物の実を採ってきて欲しいのです。
今の時期ならば採取出来るはずなので、取りに行って貰えないでしょうか?
八足呉服店店主 機織 絹江』
「今回は女連れですかウジ虫野郎」
「毎度毎度唐突過ぎるだろアンタ。」
カウンターに座っている瑠璃に出会い頭の罵詈雑言をぶつけられる。
プリシラは席を外しているのか姿が見えない。
「まぁどんなに罵っても構わんからさっさとクエストの受領印を押してくれ。そうすりゃさっさといなくなるから。」
「尻尾を巻いて逃げ出すんですか。ウジ虫の上に腰抜け野郎とは救いようがないですね。」
我慢我慢……
「グダグダ抜かしていないでさっさと押せ。お前の遊びに付き合っている暇は無いんだ。」
「それが人に物を頼む態度ですか?ウジ虫は礼儀も知らないのですね。」
がま……
「受領印を押して下さい……お願いします……」
「嫌です。」
<ブチ>
「このクソアマァぁぁああああああ!ケツ出しやがれ!真っ赤になるまでスパンキングしてくれる!」
「うわぁぁぁあああ!待ってくださいアルテアさん!受領は私がやりますから落ち着いてください!」
俺の怒声に気づいたプリシラが文字通り飛んで戻ってきてその場はなんとか事なきを得た。
あの受付……なんでクビにならないんだ?
〜黒神山地 苗降ろしの森〜
カードポータルによって黒神山地に飛ばされた俺達は二人揃って地上から2〜3メートル程の上空へ転移していた。
「またかよ!?」
「っ!」
俺は無様に尻から着地。
アイシャは綺麗に一回転を入れて両足から着地した。
「無様ね。そんな事で私のバディが務まるの?」
そんな嫌な虫でも見るような目で見ないで欲しいものだ。
俺は立ち上がって尻に付いた土を払い落とし、周囲を見渡す。
「悪かったな。まさかまた転送座標がズレているとは思わなかったんだよ。」
「そのぐらいで動揺せずに着地体勢取ったら?私はノロマと組む気は無いわよ?」
ひでぇ言いようだ。
「少なくとも足手まといにはならんさ。力仕事ならお前よりは得意だしな。」
「それでもリュシーやサクラよりは弱いくせに……」
先程からアイシャの言動がトゲトゲしい。
そんなに機嫌損ねるようなことしたっけな……。
「言い争っている暇があったらさっさと終わらせるぞ。上手く行けばクエストのハシゴができるかもしれん。」
「あ、ちょっと待ちなさいよ!不用意に進まないで!」
ぐだぐだと愚痴を垂れ流すアイシャを後ろに俺は前へと歩き出す。
道が違えば教えてくれるだろうし、何よりここで俺が先に立つことで彼女を危険から護れるのであればそれはそれでいい事だ。
クロゾメカズラは割とあちこちに自生していた。
ヤマブドウのような実を付けたその実を摘み取ると、破れた果実から黒い汁が飛び出して指を黒く染め上げる。
お陰で手やジーンズが真っ黒になってしまった。
「こんなもんでいいか。」
革袋一杯にクロゾメカズラを詰め込み、アイシャの方へ振り返る。
彼女の袋もクロゾメカズラで一杯になっていた。
「帰りはカードを掲げれば帰還……っと。便利なもん……ありゃ?」
「どうしたの?」
首を傾げる俺にアイシャが近寄ってくる。
「いや……カードが発動しない。何だ?故障か?」
アイシャも同じようにカードを取り出して掲げてみるが、何も起こらない。
「変ね……。何かがカードの効力に干渉しているのかしら。」
いくらカードを振ったり叩いたりしてみても変化は無し。
仕方なく俺達は森の外へ出たらカードを使うことにした。
「そういやお前、復讐が終わった後はどうするんだ?」
道すがらアイシャに目的のその後の事を訊いてみる。
復讐するにしても成し遂げた後の事を考えねば抜け殻になりかねない。
「終わった後……ね。その時にはパートナーも見つけているだろうし、どこかひっそりとした場所で静かに暮らしてみようかしら。」
これといった指針はないらしく、平穏な生活を送るようだ。
しかし、それではいつか飽きてしまうし、人間の寿命も無限ではない。
人魚の血を飲んだり、インキュバス化すればそれなりに長生きできるが、それでも子供含めても寂しくもなるだろう。
「どうせなら村でも作ってみたらどうだ?」
「村づくり?」
目標は長期的、且つ実りのある物が望ましい。
それを考えるのであれば開拓はうってつけではないだろうか。
「あぁ。サキュバス化したエルフやその夫なんかを誘致すれば人間とエルフが共存できる村ができるかもしれない。きっと純粋なエルフの村なんかより面白い村ができるんじゃねぇかな。」
「へぇ……面白そうね。しかも見せつけるだけよりよっぽどダメージ与えられそう。」
俺の提案を聞いて彼女はニヤニヤしている。
高慢で強気な性格に腹黒さがプラスされてその性格は真っ黒だ。間違いなくドS。
「ま、村ができたら呼んでくれ。祝わせてもらうくらいは構わないだろ?」
「えぇ、もっと面白い復讐方法を教えてくれたのだしね。問題は相手よねぇ……」
頭を振って溜息をつく彼女。どれだけの間伴侶を探し続けているのだろうか。
ヘタをするとフィーより長く探し続けている可能性だってある。
「何、あんたは美人さんなんだ。そのうちいい婿さんを見つけられるさ。」
「っ!び、美人とか言うなぁ!いきなりそんなこと言われても何て返せばいいのか解らないしサキュバス化が進行すればエッチになっちゃうしそんなことになったら目も当てられ……」
そう言いつつも顔が真っ赤になり口元がにやけている。
基本的に褒められ慣れていないが、褒められるのが嫌いという訳では無いようだ。
面白いので追い打ちしてみようか。
「いや、俺も帰るべき場所がなければ一生側に居たいぐらいは綺麗だと思うぞ?こういう大自然の中に村を作るってのもなかなか楽しそうだしな。いっそ仕事放り出して二人で駆け落ちしてみるか?」
「あ……か……っ……!」
お〜目が泳いでる。
足元も覚束ないし……大丈夫かこいつ?
「ば……」
「ば?」
彼女が何かを言わんとしている。
怒っている……というわけではなさそうなのだが。
「ばかぁぁぁぁぁあああああああ!」
次の瞬間彼女は俺に背を向けて走りだした。
よほど恥ずかしかったのだろうか、物凄い速度だ。
「あ、おい!急に走ると転ぶ……」
俺が手を伸ばした時には彼女の姿は消えていた。
いや、『文字通り消えていた』。
声すら聞こえず、足音もしない。
「あ……?何が起きた?」
彼女の逃げた方向へ歩いて行くと直径1メートル程度の穴が開いている。
落とし穴にしては深い……というより底が見えない。
「お〜い!アイシャー!生きていたら返事しろ〜!」
穴の底へと呼びかけるとわずかだがうめき声が返って来る。
恐らくはこの穴に落ちたのだろう。
動ける状況でも無いのか這い上がって来る様子もない。
近くの木と体をロープで結んで足でブレーキを掛けながら穴の底まで降りていく事にする。
穴の底まで降りるとアイシャがうずくまっていた。
カンテラは持参していたのか、明かりが付いている。
「大丈夫か?どこか怪我は?」
「少し足を捻ったみたい。しばらくすれば普通に歩けるようになる筈だけど……」
彼女は洞窟の奥を見据える。
まるでその奥に何か危険なものがいるとでも言うように。
「この洞窟……明らかにおかしい。聞こえてくる音も、漂ってくる匂いも普通じゃない。」
彼女は壁に手をついてふらふらと立ち上がると足を引きずって俺の方へと歩み寄って来る。
「ロープで降りてきたなら早いところ上がりましょう。長居していい場所じゃないわ。ここは。」
「あぁ、こっちへ。一緒に体を縛り付けて上が……」
するすると何かが落ちてくる音がする。
俺の足元にパタパタと積み重なるそれは……
「ロープが……つながっていない?」
「ゑ”」
ロープの先端には何か液体が付着しており、そこからじわじわと繊維が溶けていっている。
「何かに切られたみたいだな。おそらくロープでの脱出は不可能だ。」
「それじゃぁ……歩きでこの洞窟を進むの?」
俺は真っ暗な洞窟の奥を見据える。
鵺は無いのでサーモスキャンによる暗視効果は使えない。
この暗闇の中、カンテラの明かりを頼りに出口を探すしか無いようだ。
「行くぞ。どの道ここでじっとしているのはマズイ。」
俺はカンテラを持って彼女を肩に掴まらせる。
「置いていきなさいよ。私がいたら足手まといでしょうが。」
「やなこった。絶対に二人揃って帰るぞ。帰ったら銭湯行って汗を流して夕飯でも食おう。そこにお前が欠けるのは御免だね。」
到着したときに足手まといになるなと言ったことを思い出したのか、はたまたエルフゆえのプライドの高さなのか、彼女は唇を噛んでいる。
しかし、俺が考えを曲げる気がないとわかると、大人しく一緒に歩き始めた。
「ねぇ……」
「何だ?置いていけって言うならお断りだぞ。」
「別に今更になって足手まといがどうのとか言う気は無いわ。私が言いたいのはこの上の森の名前の事よ。」
森の名前……ギルドで教えてもらったが、確か苗降ろしの森とか言ったか。
「なんだかおかしくない?苗は普通植える物でしょ?なのに苗降ろしっていうのは変だわ。」
「変……ねぇ。まぁ確かに語呂は悪い気がするな。」
地名の由来として何かが訛ったという事例がある。
「もし……もしもよ?苗っていう字が元は別の字だったとしたら……」
「何が言いたい?」
しかし、俺も薄々とは感じていた。
肌にまとわりつくような湿気、生臭い臭気、そして何かがのたくったような地面の跡。
所々に落ちている、白骨死体。
「たとえば……贄とか」
〜黒神山地 贄落としの穴〜
「そりゃ笑えない話だな。それが本当なら俺達は穴に落とされた憐れな生贄って事か。」
「意外と……冗談じゃないかもね。」
彼女がそう言った途端、何かが這いずるような音が洞窟の暗がりから聞こえて来る。
「さっきからよ。何かがこっちに這い寄ってきてる。」
「ますます笑えねぇ……。この閉鎖空間でバケモノと鬼ごっこしろってか。」
カンテラの光に何かテラテラとしたものが映しだされる。
しかも、以前どこかで似たようなものを見た気がする。
「「…………」」
その映しだされた物の数が増えて、増えて、増えて、増えて……
「はは……冗談じゃねぇぞ……おい……!」
「…………!」
何本もの触手がぶよぶよとした本体から生えている。
その数は100本では済まないだろう。
その本体の前面部分が開いて緑色の目がこちらをギョロリと凝視する。
次の瞬間、アイシャに触手が殺到した。
「アイシャ!」
触手は俺を突き飛ばしてアイシャを絡めとる。
彼女は足を挫いてまともに動けなかったせいもあり、空中で身動きが取れなくなっている。
「この……っ!離せ!」
必死にもがくが、どうにも離れる気配がない。
一際太い触手が彼女の股ぐらへとにじり寄る。
「やだ……!初めてがこんなのなんて……!絶対……!」
「っく!この野郎!」
仔鵺から火燐を引き抜き、太い触手へ投げつける。
刺さった衝撃で触手が木っ端微塵に吹き飛ぶが、せいぜい一時しのぎでしかないだろう。
「こうなったらさっさと無力化するしか……!」
慌てず相手を観察する。それはE-クリーチャーとの戦いで嫌というほど身についた技能だ。
いくつか生えている太い触手の付け根近くに他の細い触手にはない斑が付いており、そこが時折ヒクヒクと動いている。
「狙って下さいって言っているようなもんだろ!」
ナイフを展開してそれを突き刺す。
すると本体ごと触手が苦しげに身を捩った。
「ビンゴだ!」
苦し紛れに俺を薙ぎ払おうとする触手の群れを掻い潜り、次々と斑を潰していく。
最後の斑を潰すと、先程の目玉が露出した。
いや、もしかしたらあれは目玉ではなく……
「こいつがコアか!」
通常洞窟に棲息する生物というのは視覚が退化している。
故に別の器官が発達するのだ。
そしてこいつは触覚が特に優れて発達した。
だとするとそれを個別に操るために高度な制御中枢が必要になる。
つまり……
「こいつでトドメだ!」
鵺から火燐を3本まとめて引きぬいてコアへと投げつける
――制御中枢さえ潰してしまえば無力化。最悪死亡するということ!――
見事に3本まとめてコアに突き刺さり、爆砕。
青い体液をまき散らしながら辺りの触手が力を失い地面へと伸びていく。
アイシャも無事解放され、地面へと落ちたようだ。
「大丈夫か?」
アイシャに駆け寄って様子を伺う。
全身に触手の粘液がまとわりついているものの、それ以上の被害は無さそうだ。
「……ない」
「ん?」
「情けないって言ってるの。碌に抵抗もできずにいいように弄ばれて……。これじゃ私の方が無様じゃない。」
どうやら助けられっぱなしなのがお気に召さなかったようだ。
「それじゃ、これから助けてもらうさ。生憎俺は出口がわからないんでね。立派なエルフの耳と鼻で出口を探してもらおう。」
彼女の場合ヘタに慰めるよりはこちらのほうがいいだろう。
思惑通り、彼女は幾分気持ちを持ち直したようだ。
「言われなくてもそのぐらいはさせてもらうわ。」
俺は彼女を背負い上げると洞窟の暗がりへと歩き出す。
自由への光を探し求めて。
「今度は……あっち……」
彼女の指示した方向へと進む。
彼女の体重は軽く、背負う分には大した苦にもならなかった。
問題は……
「はぁ……はぁ……」
妙に色っぽい吐息を耳元で吐かれることだ。
伝わってくる体温は熱く、しきりに体をもぞもぞと動かしている。
おかげでささやかな膨らみが背中に押し当てられ……
「おい、本当に大丈夫か?具合とか悪くなってないよな?」
気を紛らわすために彼女の気分を訊いてみる。
色っぽい吐息とか、体温とか、なんか柔らかい物とかはこの際全スルーだ。
「体が熱くて……ものすごく変な気分。苦しい……」
なんとなくこの状態の奴を何回も見かけたことがあるような……
「何か変な物を飲まされたけど……もしかして……」
予感的中だった。
媚薬成分でも含まれる体液を飲まされたのだろう。大体のことはそれで説明がつく。
風邪でも無い限りは……だが。
「寒気はするか?のどが痛いとか鼻が詰まるとかは……」
「無いわ……少なくとも……風邪じゃない。」
逃げ道を粉々に叩き割られましたよ。
これはあれか。食われろって事か。
「何かして欲しい事はあるか?出来る範囲なら何でもするが……」
それでも言わずにはいられない俺お人好し。
だって苦しそうなんですもの。
「……っ……ぅ……」
そりゃ言い出せないよな。少なくとも俺は言い出せない。
ヘイ、ブラザー!ちょっと腹減ったからお前の(ピー)を咥えさせてくれるかい!?
うむ、無理だ。
「ちと休憩にするか。腹も減ったし何か食おう。」
彼女を洞窟の壁へともたせかけて隣に座る。
辺りには特に生臭さは無く、何かが這いずった跡も無いから少なくとも安全な場所なのだろう。
バックパックから携帯食料と水を取り出して齧る。
大して美味くもないが、少なくとも栄養は計算されている。
そう考えれば一応食えなくもないレベルまでは思い込めるという物だ。
第一、ソイレント・グリーンの事を考えたら千倍くらいはマシな味である。
「お前も何か食ったらどうだ?」
「………………」
俺の言葉に彼女は特に反応を示さない。
いや、何かに葛藤しているようだ。
もし、彼女が何かを決心したとしても俺はそれに逆らわないつもりだ。
それで楽になるというのなら、俺は拒まない。
携帯食料を食べ終わり、全身の力を抜いてリラックスする。
眠らないように体に休息を取らせるのはなかなか難しいが、できると便利だ。
「ねぇ」
彼女が言葉少なに俺を呼ぶ。
おそらく決心が固まったのだろう。
「何だ?」
「ここであなたを押し倒したら……私を軽蔑する?」
目を潤ませて俺を見上げてくるアイシャ。
今の彼女の中は情欲が渦巻いているのだろう。
「なんだかもの凄くお腹がすいて……でも普通の空腹じゃなくて……なんていうか……」
今までは精気を補給する薬品や何かでごまかしていたのだろうが、その手段が取れない今では俺にすがるしか無い……と。
「軽蔑はしない……が、本番は未来の旦那さんの為に取っておいてやれ。少なくともそこは俺が手を出せる領域じゃない。」
俺がそういうや否や彼女は俺を押し倒してズボンに手を掛ける。
吐息は荒く、とても自制心がある状態のようには見えない。
もし行き過ぎた行動に出ようとしたら……俺が止めてやらなくちゃな。
「っ……はぁ……」
ズボンから取り出したモノの匂いを嗅いで彼女が恍惚の溜息をつく。
普段は悪臭か何かにしか感じないのだろうが、今は女性の部分を疼かせるごちそうの匂いなのだろう。
「すごい匂いね……ちゃんと洗ってる?」
「普通に洗っている……単に動きまわった後だからだ。」
先程の戦闘の影響で俺は汗まみれだ。
洞窟の中は割と涼しいとはいえ、動けば汗もかく。
彼女が舌の先端をモノに絡みつかせる。
ぬめぬめとした舌先がゾクゾクするような感覚を伝えてくる。
「ちょっとしょっぱい……でも……いい……」
ぺちゃぺちゃと亀頭を舐め回すアイシャ。
確かに気持ちがいいのだが、何か物足りない。
処女だとは言っていたし、こういう事は経験が無いのだろうか?
「裏側の皮が線みたいになっている所とか……穴の中の方とか舐めまわしてみてくれ。手で幹を扱きながらだと尚いい。」
「ん……ほぉ……?」
伝わってくる感触が面から少し広めの点になる。
少し外れているが、快感のツボを捉えたその刺激はじわじわと俺を追い詰めていく。
「あぁ……いいぞ。後は口に含んだり吸ったりとかしてみてくれ。」
「んむ……じゅる……ほへへいい?」
モノを口に含んで少しくぐもった声で訊いてくる彼女。
その声を出す時の振動もいい刺激になるのだが、彼女は気づいていないようだ。
「歯は立てないでくれよ?痛いから。」
「ん……ちゅ……んむ……」
小さな口で懸命に奉仕をする彼女。きれいな髪がさらさらと揺れ、形の良い口が俺の御世辞にも綺麗とは言えない物を頬張っている。
そのギャップが余計に興奮を煽る。
「精気の補給が目当てだから出たものは全部飲んだほうがいいのだろうが……嫌だったら出しても構わないからな。無理強いはしない。」
「んぐ……らいひょうふ……」
くちゅくちゅと一心不乱にモノをしゃぶる。
積み重なった快感が限界ギリギリの所まで迫ってきている。
「そろそろ出るからな……一応覚悟だけしておいたほうがいい……」
「ん……らしへ……のんへあへる……」
情欲に染まりきった彼女の口内へ大量の白濁をぶち撒ける。
後から後から湧きでてくる精液を彼女は少し零しながらも飲み干していった。
射精が終わり、脈動が終わったモノから口を離した彼女はまだ少しぼーっとしている。
「大丈夫か?」
「おいしい……もっと……」
そう言うと彼女は履いていたショーツを脱ぎだして俺の上に覆いかぶさる。
「たりないの……もっと……もっとちょうだい……」
「だから本番は駄目だって。後々泣くことになるのはお前だぞ?」
俺は彼女をどけようとするが、上手く体重移動で躱される。
「おい……本当にやめとけ。」
「やだ……ほしい……もっとほしいよぉ……」
ツンデレならぬツンエロ……なんて言っている場合じゃない。
「ならせめて擦り合わせるだけにしておけ。絶対入れるなよ?」
「うぅ〜……」
目を潤ませて頬を膨らませないでください。ホレテマウヤロー!
俺の言葉に従ってアソコと俺のモノを擦り合わせる彼女。
いつ気が変わって入れられるかわからないだけにヒヤヒヤ物だ。
「ん、はぅ……ぁ……ぃ……くぅ……」
「っ……これはこれで……いいもんだろ?」
局部を擦り合わせるたびにニチニチと卑猥な音が洞窟に鳴り響く。
その音がさらに拡大されるものだからより卑猥に感じる。
「ぁ……んぅ……いれたい……いれたいよぉ……」
「我慢しろ。俺はお前を泣かせたくない。」
いくら刺激が弱いと言っても長くやっていれば限界も訪れる。
切羽詰った俺は彼女のアソコに自分のモノを強く押し付けていた。
「そろそろイクぞ……」
「ぁ……は……ん……っ……!」
彼女は俺のモノに手を添えると強くアソコを擦りつけて扱きあげる。
暖かい感触とすべすべとした手の感触であっという間に上り詰め、果ててしまった。
彼女の手に俺の精子がべっとりとまとわり付く。それを口元へと持ってきて美味しそうにしゃぶり始めた。
「ちゅ……おいし……」
舐め終わると彼女は俺の胸の上に倒れこみ、額を擦りつけて甘えてくる。
こいつ俺のことあまり好きじゃなかった筈なんだがなぁ……
お互いに着衣を整え、一息いれる。
彼女は……なんだか塞ぎ込んでいるようだ。
「……ありがと……止めてくれて。」
我を忘れていた時の事だろう。
「別にいい。俺が誘惑に屈してお前に泣かれるのも嫌だったからな。」
「でも、ありがと。それで……さ。今あったことは忘れて。お願い。」
彼女としてもこれは五指に入るほどの黒歴史だろう。
俺としてもこれ以上意地悪をする気はないので素直に忘れることにする。
「これは応急処置だ。俺は俺に出来ることをお前にしただけ。オーケー?」
「うん、ありがと。」
ある程度休憩した後、俺達は出口へと向かって歩き出す。
その洞窟を出ることができたのは夕方頃。
出た頃にはカードが使えるようになっており、俺達は江戸崎へと帰還した。
〜食事処『ねこまんま』〜
ギルドに戻ってクエストの納品と報告を行った後、銭湯へ行って汗を流した俺とアイシャは連れ立って食事処へと来ていた。
他のメンツはまだ帰ってきていないそうだ。
「はぁ……生きててよかった……」
「だろ?修羅場から帰った後の飯は最高に美味いもんだ。」
俺達はこの店の看板メニューでもある雑炊(店主こだわりの煮干出汁が効いた物)を食べている。
値段も味も悪くないのでここ最近ではよく利用する店だったりする。
「でも残念だなぁ……」
「何がだ?」
彼女が俺の顔を見たままポツリと漏らす。
「先客がいなければずっと一緒にいられたのに……って。」
その先客とはサフィアの事を言っているのか?
そして一緒にいる対象はもしかしなくても俺ということか?
「今のお前の感情は共に危機を乗り越えた相手に対する擬似的な恋愛感情だ。そういうのは長続きしない。やめとけ。」
「理屈っぽいなぁ……擬似的でもいいじゃない。少しは幸せに浸らせてよ。」
この一件で彼女の俺への風当たりが柔らかくなったのはいいが、一緒に妙なフラグまで立ったような気がして仕方がない。
〜???〜
「どうするんですか?このままだと彼を取られちゃいますよ?」
「私は……彼が彼女を選ぶと言うのであれば納得しようかと……」
「そんな事では駄目だろう。ただでさえお前は押しが弱いのだ。自分の欲するものぐらい自分で奪い盗るぐらいでなければ。」
「で、でも……私のわがままで彼を困らせたら……」
「彼が困っているところをよく見たことある?あれで結構嬉しそうにしているのよ?あれはあれで結構まんざらじゃないと思っているに違いないわ。」
「でも、でもぉ……」
「あぁ、面倒くさい!仕方ない、一旦帰って作戦会議だ。盛大に盛り上げてやらないとな。」
「あ、あの、ちょっと、ひゃああああああ!?」
11/09/03 10:36更新 / テラー
戻る
次へ