第四話〜ブラックジャックにお任せできない〜
視界の隅には心電図が表示されている。脈拍は弱いものの、まだどうにかならないレベルではない。
『裂傷の度合いは背部の方が大きいですが、腹部の裂傷からの出血が多量です。先に腹部からの縫合を推奨します』
「了解……っと」
マニュピレーターを裂傷部にかざすと手のひらから液体が噴出した。おそらく患部洗浄兼消毒用の溶液だろう。一応自分の左手にも塗っておく。
『患部の洗浄および消毒完了。キシロカイン投与後、縫合を行ってください』
創傷部の横に親指を当てると、無針注射特有の空気が抜けるような音がした。
『キシロカイン投与完了、縫合を開始してください』
もう片方の手で開いている部分を寄せて、マニュピレーターの人差し指部分を傷口に向ける。
すると光の線が出てきて傷口を縫い始めた。
「(仕組みは分からんが……今は気にしている暇は無いな)」
そうこうしている内に傷口の縫合が終わった。
『腹部裂傷の縫合完了。縫合部に創板<ダーマ>を貼り、残りの創傷部も同様に処置してください』
手首のスリットから肌色の布を出し、縫合部に貼ると元々肌の一部だったかのように馴染んでいく。
「(まだあと2つ……これに加えて骨折の処置か……俺はどこぞの白黒無免許医か)」
ジャケットを敷いてうつ伏せに寝かせ、同じように傷を縫い合わせていき、外傷は全て塞いだ。
『外傷の縫合完了。続いて骨折部位の処置を開始してください』
「あいよ」
骨折部位の近くに親指を押し当て、麻酔を投与する。
『投与完了。メスを展開するため、手を安全な方向へ向けてください』
「こうか?」
ダイアログ通りに指を上に向けると、中指に取り付けられたボックスから薄い刃が出てくる。
「(こいつで切れってことか……)」
骨折部位の皮膚を切り裂いて皮膚をめくると折れた骨が露出した。
『表皮剥離完了。骨折部位にボーンアニメーターを塗布後、ルミナストリングで固定して下さい』
「(技術の出所は気にしない気にしない……治ればいいんだ)」
左手で表皮を捲り上げたまま指示通りに折れ口に薬指を押し付けナノマシン配合軟膏を出し元通りに接着する。糸で固定すればお終いだ。
『右肋骨の補修完了。表皮を縫合後、創板の貼布をしてください』
皮膚を被せ、縫合し、創板を貼り付ける。
『縫合完了。左肋骨の処置を開始してください』
喉が渇く。あまりの緊張に汗まで出てくる。
同じように麻酔を打ち、切開、接着、固定。
「(内臓が傷ついていなかったのは不幸中の幸いか)」
皮膚を被せ、縫合し、創板を貼る。
『処置完了。全外傷、および内部損傷の処置を完了しました。アドレナリンの静脈注射を開始してください』
首筋に親指を押し当て、静脈にアドレナリンを流し込む。脈は浅いが無いわけではない。
『静脈注射完了。次の投与の1分前にアラートで通知します。可能であれば正規の医療機関で輸血を行うことを推奨します』
「ふぅ……」
全ての処置を終え、一息つく。後はこの人の生命力次第だ。
よく見るとこの女性、角やら羽やら尻尾やらが生えている。彼女の母親なら当たり前か。
「……ぅ……」
小さなうめき声。彼女が薄目を開けている。
「ずいぶんな生命力だな……処置してまだ1分も経ってないぞ」
『バイタルの回復を確認。生命反応が安全域まで回復しました』
朦朧としながらも彼女は口を開く。
「あなたは……」
「今はまだ寝てろ。いくら生命力が強くたって回復しきっていないだろう?」
「……」
若干警戒していたようだが、危害を加えるつもりが無いと見るとゆっくりと目を閉じた。
数分後。
「おにいちゃーん!おいしゃさんよんできたよ!」
アニスちゃんが白衣の男性の手を引いてこちらに駆け寄ってくるのが見える。
「おつかれさん、ありがとな」
息を切らせている彼女を労ってあげる。
「この子の母親が血まみれになって倒れていると聞いて駆けつけてきたのですが……どちらに?」
メガネをかけた青年がこちらに問いかけてくる。
「そこ。応急処置……というかあらかた治療したけど一応病院まで運んで介抱がしたい。手伝ってくれるよな?」
「ええ。急ぎましょう」
俺とその青年は彼女の両脇を抱え上げるとそのまま医院まで運んでいった。
〜キサラギ医院〜
「凄いなこれは……一体どうやって、しかも何を使ったんだい?」
彼は医者としての経験が浅いのだろう。縫合跡や縫合してある例の光の糸、創板を見ながら興奮気味に喋っている。
「悪い、どうやったかぐらいは話せるが何を使ったかは話せない」
どう見てもオーバーテクノロジーの産物だよな、これ。
「それでもいい!是非!」
どうして俺が会う奴って全員テンションが異常に高いんだろうな。
仕方なしに施術手順と使った薬品の効果を話してやることに。
「信じられないな……しかし合理的でもある……」
ぶつぶつと呟きながら思考の海に入っていってしまった。当分は戻ってこないだろう。
アニスちゃんは母親の隣で寝ている。緊張の糸が一気に緩んだのだろう。
かくいう俺も緊張の糸が一気に緩み
<ぐぎゅるるる……>
腹の虫がオーケストラを奏でていた。
「……(腹へった……)」
『警告、熱量不足による運動能力の低下が懸念されます。至急食物の摂取を』
「うるせぇ」
無いものを摂れとのたまうダメAIを小突いて黙らせつつ、空腹と疲労で俺の意識は闇に沈んでいった。
『裂傷の度合いは背部の方が大きいですが、腹部の裂傷からの出血が多量です。先に腹部からの縫合を推奨します』
「了解……っと」
マニュピレーターを裂傷部にかざすと手のひらから液体が噴出した。おそらく患部洗浄兼消毒用の溶液だろう。一応自分の左手にも塗っておく。
『患部の洗浄および消毒完了。キシロカイン投与後、縫合を行ってください』
創傷部の横に親指を当てると、無針注射特有の空気が抜けるような音がした。
『キシロカイン投与完了、縫合を開始してください』
もう片方の手で開いている部分を寄せて、マニュピレーターの人差し指部分を傷口に向ける。
すると光の線が出てきて傷口を縫い始めた。
「(仕組みは分からんが……今は気にしている暇は無いな)」
そうこうしている内に傷口の縫合が終わった。
『腹部裂傷の縫合完了。縫合部に創板<ダーマ>を貼り、残りの創傷部も同様に処置してください』
手首のスリットから肌色の布を出し、縫合部に貼ると元々肌の一部だったかのように馴染んでいく。
「(まだあと2つ……これに加えて骨折の処置か……俺はどこぞの白黒無免許医か)」
ジャケットを敷いてうつ伏せに寝かせ、同じように傷を縫い合わせていき、外傷は全て塞いだ。
『外傷の縫合完了。続いて骨折部位の処置を開始してください』
「あいよ」
骨折部位の近くに親指を押し当て、麻酔を投与する。
『投与完了。メスを展開するため、手を安全な方向へ向けてください』
「こうか?」
ダイアログ通りに指を上に向けると、中指に取り付けられたボックスから薄い刃が出てくる。
「(こいつで切れってことか……)」
骨折部位の皮膚を切り裂いて皮膚をめくると折れた骨が露出した。
『表皮剥離完了。骨折部位にボーンアニメーターを塗布後、ルミナストリングで固定して下さい』
「(技術の出所は気にしない気にしない……治ればいいんだ)」
左手で表皮を捲り上げたまま指示通りに折れ口に薬指を押し付けナノマシン配合軟膏を出し元通りに接着する。糸で固定すればお終いだ。
『右肋骨の補修完了。表皮を縫合後、創板の貼布をしてください』
皮膚を被せ、縫合し、創板を貼り付ける。
『縫合完了。左肋骨の処置を開始してください』
喉が渇く。あまりの緊張に汗まで出てくる。
同じように麻酔を打ち、切開、接着、固定。
「(内臓が傷ついていなかったのは不幸中の幸いか)」
皮膚を被せ、縫合し、創板を貼る。
『処置完了。全外傷、および内部損傷の処置を完了しました。アドレナリンの静脈注射を開始してください』
首筋に親指を押し当て、静脈にアドレナリンを流し込む。脈は浅いが無いわけではない。
『静脈注射完了。次の投与の1分前にアラートで通知します。可能であれば正規の医療機関で輸血を行うことを推奨します』
「ふぅ……」
全ての処置を終え、一息つく。後はこの人の生命力次第だ。
よく見るとこの女性、角やら羽やら尻尾やらが生えている。彼女の母親なら当たり前か。
「……ぅ……」
小さなうめき声。彼女が薄目を開けている。
「ずいぶんな生命力だな……処置してまだ1分も経ってないぞ」
『バイタルの回復を確認。生命反応が安全域まで回復しました』
朦朧としながらも彼女は口を開く。
「あなたは……」
「今はまだ寝てろ。いくら生命力が強くたって回復しきっていないだろう?」
「……」
若干警戒していたようだが、危害を加えるつもりが無いと見るとゆっくりと目を閉じた。
数分後。
「おにいちゃーん!おいしゃさんよんできたよ!」
アニスちゃんが白衣の男性の手を引いてこちらに駆け寄ってくるのが見える。
「おつかれさん、ありがとな」
息を切らせている彼女を労ってあげる。
「この子の母親が血まみれになって倒れていると聞いて駆けつけてきたのですが……どちらに?」
メガネをかけた青年がこちらに問いかけてくる。
「そこ。応急処置……というかあらかた治療したけど一応病院まで運んで介抱がしたい。手伝ってくれるよな?」
「ええ。急ぎましょう」
俺とその青年は彼女の両脇を抱え上げるとそのまま医院まで運んでいった。
〜キサラギ医院〜
「凄いなこれは……一体どうやって、しかも何を使ったんだい?」
彼は医者としての経験が浅いのだろう。縫合跡や縫合してある例の光の糸、創板を見ながら興奮気味に喋っている。
「悪い、どうやったかぐらいは話せるが何を使ったかは話せない」
どう見てもオーバーテクノロジーの産物だよな、これ。
「それでもいい!是非!」
どうして俺が会う奴って全員テンションが異常に高いんだろうな。
仕方なしに施術手順と使った薬品の効果を話してやることに。
「信じられないな……しかし合理的でもある……」
ぶつぶつと呟きながら思考の海に入っていってしまった。当分は戻ってこないだろう。
アニスちゃんは母親の隣で寝ている。緊張の糸が一気に緩んだのだろう。
かくいう俺も緊張の糸が一気に緩み
<ぐぎゅるるる……>
腹の虫がオーケストラを奏でていた。
「……(腹へった……)」
『警告、熱量不足による運動能力の低下が懸念されます。至急食物の摂取を』
「うるせぇ」
無いものを摂れとのたまうダメAIを小突いて黙らせつつ、空腹と疲労で俺の意識は闇に沈んでいった。
12/02/21 20:35更新 / テラー
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