第二十七話〜妄執〜
〜???〜
『私は……負けてはならない。』
声が聞こえてくる。いつもの黒い空間。
幾度も心の闇を照らし出したあの空間だ。
『幼い頃から私は、敗北を許されていなかった。』
剣を振るう少女、後ろには試合で打ち負かされたと思わしき少年少女たち。
彼女は傷つきながらも凛として立っている。
『常に強くあれ、常に負ける事なかれ。これが私の家の家訓だった。』
厳格そうな父親と、凛々しい母親。
『負けても叱られることは無かったが、その分鍛錬を増やされる。』
練兵場の光景だろうか。木偶に向かって木刀を振り下ろす少女。
『両親の目論見通り、私は強くなった。しかし……』
少女は女性になっていた。所々目玉があしらわれた鎧を着こみ、大剣を構えている。
『その時には私は、負けることは許されないという妄執に駆られていたのだ。』
彼女の周囲には、倒れ伏す兵士達。死んでこそいないものの、まともに動くことすら出来ないようだ。
『強くならなければいけない……負けてはならない……常に勝ち続けなければならない……』
返り血を浴びながらも進み続ける女性。
その姿はまるで修羅のようであった。
『勝たなければ……強くならねば……強く……強くつよくつよくつよくツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨク……』
景色がヒビ割れ、色褪せる。彼女の闇は、大体解った。
『大変なことだな。勝ち続けるってのは。』
俺が現れた途端、景色が修復されていく。城の中の練兵場のような場所だった。
彼女は何も言わない。
『でもよ、それでお前は満足なのか?』
俺は彼女に問いかける。彼女の求めるべき強さが何かを気付かせる為に。
『ナニ……?』
『お前は何のために勝とうとするんだ?お前にとっての強さって何だ?』
『ギャクダ、マケルコトニイミハナイ。ソシテツヨサトハチカラダ。』
これもほぼ予想通り。親父さん、おふくろさん。あんたら子育て苦手だったんですかい?
『ありがちだよな、それ。何も無いから負けられないとか、力こそが全てだとか。』
俺は言葉を続ける。彼女の両親が本当に伝えたかった強さを。
『じゃあさ、負けた奴が『負けなかった』場合ってのが何だかわかるか?』
『ソンナモノ、ソンザイシナイ。ハイシャハハイシャダ。』
『お前、小さい頃は負けたりもしたんだよな?悔しかったか?』
『アタリマエダ。マケタアトノタンレンモ、ワタシガノゾンデイタ。』
俺はしてやったりとほくそ笑む。
『じゃあ、お前はその負けた時でも負けなかったんだ。心が折れなかったからな。』
『ココロ……?』
『お前の親もそう言いたかったんじゃないかな。負けるなって事は、心を折るなって事だったんじゃないか?』
おそらく、彼女の両親が言いたかったのはそういう事なのだ。
『ソレデハ、ワタシガカチツヅケテイタノハマチガイダッタノカ?』
『勝つこと自体は悪くないさ。勝利を追い求めるのも生き物の常だ。でもな、勝つこと自体に意味を求めるのは間違っている。強さを誇って勝ち続けるのはただの自己満足だ。』
俺は彼女に歩み寄る。彼女はたじろいでいたが、構うものか。
『お前の親はさ、別に剣の腕とかが強くなって欲しかった訳じゃないと思うんだ。本当に必要なのは、これだ。』
彼女の胸元に拳を当てる。
人とは、心さえ折れなければどこまででも強くなれる物なのだ。
それは、魔物も同じ。
『ココロ……』
『そういう事だ。折れず、弛まず、真っ直ぐに。実際、力がなくてもどうにかなるもんだ。俺も訳あって一気にいろんな武器を失ったが、割と何とかなっているぜ?諦めていないからな。』
ま、そうなると色々と苦労はするだろうがね、と俺は肩をすくめて見せる。
『ワタシハ……ワタシハ……』
『勝つ必要なんて無い。問題は、敗北から何を学ぶか。どう立ち直るかだと思うぜ?』
彼女は地面に膝を付くと、さめざめと泣きはじめた。今まで堪えてきた分を流すように。
『私の負けだ。』
唐突に彼女が言う。その顔は屈辱とかではなく、妙に晴れ晴れしい。
『まだ勝ち負けにこだわるのか?』
『いや、そうではない。お前の心意気に、強さに、意志に負けたのだ。』
彼女は俺の前に跪く。
『心の底から慕わせて欲しい。生涯お前に尽くそう。』
いきなりプロポーズかよ。
『本心は?』
『本心も何もこれが私の』
<カポ>
首を外してやる。中から何かが漏れてきた。
『正直辛抱たまらんので抱いてもいいですか?』
<カポ>
『……』
『……』
沈黙が流れる。どうにも気まずい。こうなったら静寂を打ち破る一撃を……!
『……えっち。』
『お前が首を外すからだろうがああああ!』
照れてる照れてる。
『ええい、こうなったら……』
彼女の足がブレる。視界が回転し、仰向けになってから足を払われたことに気が付いた。
彼女は俺に馬乗りになると鎧を脱ぎ始める。
『あの〜?何をしていらっしゃるのでしょうか?』
『ここまで胸を熱くさせるような事を言われて我慢できると思うか?それにお前は一瞬でも私の首を外したのだ。その意味ぐらいは判るだろう?』
あぁ、精気補給ですね、わかります。
『あまり自分から動くなよ?』
彼女は俺の服を剥ぎ取りながら忠告してくる。頬は上気して息が荒くなり、息子に押し付けられたアソコからは濡れた感触が伝わってくる。
『そいつはまたどうしてだ?やられっぱなしは趣味じゃないんだが……』
『お前は首が取れて精気がダダ漏れになった私と延々交わりたいと。そういう事なら先に言え。』
『外さなくていいから!そのままでお願いします!動かないから!』
彼女が首を外しかけたのを慌てて引き止める。
いくら体の状態が現実に戻ったときにリセットされるとしてもそれは勘弁願いたい。
『そうか……私としても捨てがたいと……あ』
<ポロリ>
『……』
『ハァ……ハァ……』
生首だけでハァハァしている!?地味に不気味!?
『フ……フフフ……』
彼女は首を持つと、俺の胸の上に乗せた。丁度俺の顔がよく見えるようにだ。
『もうこうなったら我慢出来ないな。搾り尽くさせてもらおう。』
『ハハ……お手柔らかに……』
彼女は俺の胸板に手を置き、モノに手を添えて腰を落としてくる。
スムーズにめり込んでいき、奥まで届く感触がする。
『動くぞ……覚悟はいいか?』
『やめてくれとか言っても動くんだろうが……いつでも来い。』
俺はため息を吐いて彼女を迎える。まぁ嫌ではないんだがな。
<ぐちゅ……ずぷ……ぬちゅ……ぬち……>
卑猥な水音が鳴り響いている。結合部からは止めどなく愛液と精液の混合液が溢れ出し、白く泡立っている。
『うぁ……で、出る……!』
全身が痙攣し、モノから白濁が吐き出される。
もうこれで3度目くらいだろうか。しかし、1回1回の快感が強く、そのたびに意識が飛びそうになる。
『んっ……また沢山出したものだな……しかし、もっと出してくれるだろう?』
そう言うと休む暇も与えずにピストン運動。
激しい物ではく、射精直後のモノを労るようなゆっくりとした動き。
しかし、この動きが曲者だった。
最初から最後まで速度が変わらないのだ。
『っく……お……』
最初は出した直後の敏感さでむず痒く、射精直前は早くイきたいのにイく事ができない。
もどかしい分快感は2,3倍増しになっていた。
それに……。
『あまり……見ないで欲しいんだがな。』
『こんなに面白いものから目を逸らせるはずがないだろうが。』
先程からイく所を見られながらというのも快感に拍車を掛ける。
情欲で濡れた眼差しで情けない顔を見られるのは、羞恥と同時に快感をさらに増幅させる。
『こっちは……あまり気分が良いものじゃないんだが……』
『そのつもりで見ているのだから当たり前だろう?』
コイツは……。
『言った……だろうが……!やられっぱなしは趣味じゃないってな!』
彼女の頭を掴む。両手の平で耳をふさぐように持ち上げ……。
『何をするつもりだ?』
『こうする。』
ディープキス。べろちゅーでもいい。
耳を塞がれたままこれをされると頭の中で音の逃げ場がなくなり、通常より水音が大きく聞こえるのだ。
舌を絡ませ、歯茎をなぞり、上顎をくすぐる。
『んむぅ!?んむ……ちゅ……』
予想通り水音が頭の中に響くのか、徐々に抵抗が弱くなっていく。
モノを包む膣肉がビクビクと震え、彼女の肌に鳥肌が立っている。
『ふぅ……どうよ?』
『お前という奴は……。』
彼女が腰を持ち上げ……。
『もっと燃えてしまったではないか。』
深く叩きつけた。反動で自分も気持ちがいいのかビクビクしている。
『ふぅ……はぁ……♪』
『ぐぅ……逆効果か……』
彼女が蕩けた眼差しで俺を見つめてくる。
『まさか、最高の気分だぞ。もっともっと愛したくなる。』
彼女は先程より早いペースで動き始める。彼女も我慢が効かなくなってきたのだろう。
動くたびに柔らかい膣壁が窄まり、モノに絡みついてくる。
『私ももうすぐ……イきそうだ。一緒にイけるか?』
『もち……ろん。そのぐらいの……甲斐性は……残してある』
ふと思いつき、彼女の顔を結合部に向けてやる。
『こ、こら!何を見せている!』
『騎乗位版乱れ牡丹……ってね。結構……やらしいな。』
結合部は白い泡でぐちゃぐちゃになり、劣情をそそる光景となっている。
彼女も自分のものを見るのは恥ずかしいのか、耳まで真っ赤だ。
『元に……もど……』
『させないっての。』
彼女の手が伸びてきたのでひょいと避ける。
向こうは首と胴体が離れているので一人二人羽織状態だが、こちらは普通に見えているため、このやりとりはこちらのほうが有利だ。
『く……この……♪』
動きを甘くするためか、彼女がモノを締め付け、しごきあげて来る。
『見せられて興奮した?やらし〜。』
ケラケラ笑ってやるが、こちらもいい加減限界である。
下腹部に力を入れ、なんとか我慢しているが少しでも変な力が加わると爆発しそうだ。
『はぁ……もう、だめ……げんか……』
『あぁ、俺も……一緒に……!』
彼女のペースが早くなり、双方限界を迎え……。
『イ……く……ああああぁぁぁぁぁっ!♪』
『ぐ……ああああぁぁぁぁっ!』
快感が爆発。頭の中が真っ白になり、射精することしか考えられなくなる。
彼女は精液が漏れ出す自分の秘所を凝視していた。
『あぁ、こんなに出して……♪しょうがない奴だ……♪』
『はぁ……はぁ……』
彼女が倒れこんできたので支えてやり、首をはめ直した。
『疲れたな……暫くはこのまま休むか。』
『いいね。こうしてゴロゴロするのは嫌いじゃない。』
そして、俺達は抱き合いながらしばらくその場に寝そべるのだった。
空もないのに天井から差す光が強くなっていく。
『時間かな……。』
『む、何の時間だ?』
彼女も俺と同じように強い光に目を細める。
『目が覚めるって事。ここでお別れって訳じゃないが、ここであったことは大体忘れちまうだろうな。』
そう言うと彼女は笑う。
『まるで夢みたいな話だな。しかし、私は割と夢を覚えている質でな。そうそう忘れてはやらんぞ?』
『そうかい。そりゃ楽しみだ。』
強い光で周囲に何も見えなくなる。目覚めは近い。
『それでは、また夢の外でな。』
『おう、さよならじゃない。またな。』
拳を突き合わせ、互いにほほえむ。
俺は、暖かな光に包まれながら意識を手放した。
〜うたたねの草原〜
「っぐぅ!?……っげほ!……っえほ!」
強烈な頭痛と違和感。現実世界へ帰ってきた。
「おいアルテア!しっかりしろ!この場で死ぬなんて冗談が過ぎるぞ!」
フィーが俺を揺さぶってくるというか揺さぶり過ぎ頭がぐわんぐわんするってか
「やめろ!脳震盪でまた気絶させるつもりか!?」
彼女を無理矢理引き剥がす。俺の意識が戻ったことで彼女は落ち着いたようだ。
「良かった……死んでしまったかと思ったぞ。」
「あのまま揺さぶり続けていたら間違いなく死んでいたよ。」
皮肉も言える。問題ない。
「そうだ……あいつの怪我の具合を見ないと……。」
「あいつ?あいつとは……。なんと、あの騎士は……。」
騎士が纏っていた禍々しい空気は無くなり、捕らえていた檻の中には鎧を着た女性がバルーンによって磔状態になっていた。
「怪我は……皮膚表面だけか。これならダーマ貼っとけばすぐ治るな。」
むしろ皮膚表面だけであれだけの癒着力ってどうなっているんだろうな。
「鎧は……簡単には脱がせられないか。ラプラス。単分子カッターを。」
『了解。単分子カッター展開』
グリップを引きぬいて単分子カッターを取り出す。
「慎重に慎重に……」
金属を切り裂く轟音が辺りに響き渡り、聴覚が一瞬麻痺する。
「な、何だ!?一体何が……。」
その音で彼女が目を覚ます。
「動くなよ。腹ごと切りたくはない。」
鎧の腹部を切り取り、パラケルススを展開。傷口を消毒して手首からダーマを引っ張り出し、傷口へ貼り付ける。
「染みなかったか?特に何も言わなかったけど。」
「この程度の痛みは慣れている……が、お前は……。」
俺はバスケットの中から水の瓶を取り出して、水を接着部分に流していく。
「誰だろうな。俺は正気を失って暴れていたあんたを取り押さえただけだ。」
粘着剤はすぐに剥がれ、彼女は自由になる。
彼女は体が自由になった後も、俺の顔を凝視している。
「どこかで会ったことは無いか……?というよりどこかで会ったはずだ。」
こいつ、本当にうっすらとだが覚えていやがる。
「俺とあんたは初対面の筈だぜ?第一お互い名前も知らないじゃないか。」
あくまでシラを切り通す俺。俺に詰め寄る彼女。
「いや、会っている!そうだ、心だ。心の強さを教えてもらったはずだ!」
うわ、言われてみるとなかなか恥ずかしいなこれは。記憶を封印したくなる。
「アルテア……?お前はこの女と知り合いだったのか?」
後ろから聞こえて来る絶対零度の声。振り返ったらその場で斬り殺されそうな気がする。
「そうだ、私はお前を慕うと誓った筈だ!我が夫よ!」
何もかもすっ飛ばして結婚させられていた!
「ほう、そんな話は聞いたことも無いがな。少なくともアルテアの知り合いに親しかったデュラハンはいなかった筈だが?」
「心が通じれば、距離など関係ない!私は彼と添い遂げる!」
姉さん、事件です。俺は今熱血と冷血のサンドイッチになっています。
「私としても今アルテアを奪われる訳にはいかないからな。貴様も戦士を名乗るのであれば……これで取り合いと行こうではないか。」
剣を構えるフィーさん。あんた本当に脳筋ね。
対するデュラハンは。
「望むところだ!我が剣の錆に……錆……に……」
当の剣は大きさこそ元に戻っていたが、バルーンの粘着剤によりベトベトになっていてすぐには使い物にならなくなっていた。
「アルテア、と言ったな。すまないが何か剣になりそうな物を持っていないか?」
「わりぃ、俺ガンナー……」
『E-Weapon<BAGブレイド>展開。』
鵺の後方から80センチほどの柄が出て、砲身が剣の鍔になるように分かれる。
「ふむ、それは剣にもなるのか?ではそれを貸してはもらえないだろうか。」
答える暇もなく、柄を掴まれて鵺を取り上げられる。
『ブレイド展開。安全のため先端を地面に向けないでください。』
「こうか?」
なんでお前はそんなにノリ気なんだよ。ていうか喋る武器に少しは疑問持とうよ。
別れた部分から幅広の刀身らしきものが伸びる、伸びる、伸びる、伸びる……って。
「どんだけ伸ばすつもりだよ!?」
伸びに伸びた刀身は約10メートル。幅は50センチほどもあり、所々にブースターらしき物が取り付けられ、刀身に焼き付けられた模様が淡く光っている。
『BAGブレイドは反重力装置で重量を軽減し、ブースターによる推進力で敵勢力を薙ぎ払う斬艦刀です。先端重量が重いため高速では振り回せませんが、非常に威力のある『近接戦闘兵器』です。』
どう見てもそれ近接武器じゃねぇだろ。
「面白い剣だ。気に入った。」
「いや気に入っちゃ駄目だろ!?」
フィーも若干呆れ返っているようだ。
「武器の大きさが強さに直結する訳ではないのだが……まあいい。フェルシア=グリーン、参る!」
「私はミスト=ブラン。魔王軍第36騎士団副団長だ。いざ、勝負!」
もうやだこの脳筋達。
フィーとミストが大立ち回りを演じている間、俺はそこいらの木に寄りかかってボーっとしていた。
ワーシープ達も戻って来て各自昼寝を楽しんでいる。
「うまいもんだなぁ……初めて使った武器だろうに。」
ミストはその規格外の巨剣を自分の一部かのように振るっている。
重量を活かしてなぎ払い、振りあげて宙を舞い、反重力装置を使った長い滞空時間を活かして空中から縦横無尽に振り回す。
地面に叩きつけられた巨剣の上を走るようにフィーが接近するが、それを振り落として逆に攻撃のチャンスに変える。
「あれってラプラスが制御しているのかな……だとしたら二人の息ってぴったりだよな……」
俺が所有者なのに俺より使いこなすってどういう事なの。
「そういやあれも何とかしなきゃいけないんだよな……」
俺は積み上げられたバルーンを見る。
今は誰も通行していないから良いものの、馬車でも通りかかろうものならひどく邪魔になるだろう。
「どうしたもんかなぁ……こんだけ大量のバルーンを溶かすってなったら結構大量な水が必要になるぞ。」
頭を掻いて思案にくれていると、ジャケットの裾が引っ張られる。
「ん?あぁ、イヴか。」
そこにはサハギンの少女が立っていた。
「そういやイヴァ湖もすぐ近くだったな。様子でも見に来たのか?」
彼女はふるふると首を振るうと草原を流れる小川を指差す。
「何?昼寝をしていたら流された?」
「……(コク)」
河童の川流れならぬサハギンの川流れってか。分類上は大差ないだろうが。
「ふむ……イヴ、この風船を撤去したいのだが水を大量に運べる方法ってないだろうか?」
「……?」
首を傾げるイヴ。まぁ期待はしていなかったが。
「よし、イヴ!みずでっぽうだ!」
冗談で某懐怪物の技を叫んでみる。まぁ何もおこらな……
<ゴォォォォオオオオオ!>
イヴの口から水流が発射される。発射された水はみるみるうちにバルーンを溶かしていき……。
「無くなっちまった……マジかよ。」
バルーンはあっという間に溶け去って、後にはミストの剣だけが残っていた。
呆然とする俺。まだ首をかしげているイヴ。
ここは……アレだ。
「よし、こうしよう。」
俺は自分を指差す。
「見なかったことにしよう。」
イヴを指差し、
「特に何もしなかった事にしよう。」
両手を胸の前で打ち合わせる。
「これでオーケー?」
彼女は意味がわからなかったようだが、真似するように自分の胸の前で両手を打ち合わせる。
「よし、俺達は何も見なかったし何も知らなかった。」
全てをなかった事にした。
フィー達の方もどうやら終わったようだ。
どちらも力尽きてバッタリと倒れている。
「終わったか?」
俺は倒れている両者を覗き込む。イヴも真似をして覗き込んでいる。
「つ、……疲れた……」
「もう指一本動かせん……」
疲労によるダブルノックアウトと言ったところか。
「イヴ、こいつらを運ぶの手伝ってくれ。」
俺はミストを抱き上げようとするが……。
「ぐお……重……なんだこれ……」
持ち上がらない。鎧が重すぎる。
『ミスト様の鎧込み推定体重は80kg程度と予想。一人で持ち上げるのには無理があります。』
元の状態に戻って転がっているラプラスが大体の体重を言い当てる。
「な、そこまで重くは無いはずだ!確かに一般人より筋肉質で鎧も重いものを着ているが持ち上げられない程では……」
なんとか10センチ程度は持ち上げるが……。
「無理!上がらない!」
落としてしまう。重々しい音が地面から鳴り響いた。
「どうしたもんかな……これは。」
「私は重くなど……重くなど……!」
悔し涙を流すミスト。まぁ女性にとって致命的か。
「……(ひょい)」
と、近寄ってきたイヴが軽々とミストを持ち上げる。
「すげぇな。よし、そのまま街まで運んでくれ。」
俺は拾ってきたミストの剣をロープでぐるぐる巻きにし、余ったロープで背中に架ける。
鵺を肩に架け、フィーを抱き上げる。所謂お姫様抱っこという奴だ。
「うわ、アルテア!この格好は恥ずかしいぞ!」
「はいはい動けない人に反論する権利はありませんよ。」
しかし……。
「(鵺の重量が8キロに剣が5キロ……。フィーの体重が50キロ前後……。下手な完全装備より重いぞ。)」
それでもフルプレート装備のミストよりはまだマシであった。
イヴの横に並んで街を目指し歩く。
「(勝った……!)」
「(くっ……!)」
目の前でまた女の戦いが始まったが、無視する。下手に口を挟めば大火傷だ。
『状況が沈静化したので報告します。今回の回収により一部機能が回復しました。
オクスタンライフルの出力が微量回復。
ビームガトリングの出力が微量回復。
センサー類にサーモスキャンが回復。
報告を終わります。』
「あぁ、ご苦労さん。サーモが使えるようになったのはありがたいな。」
これでまた一歩元の鵺に近づいた。ただでさえこの世界の連中は化物揃いなんだ。早く強くならなくては……。
と、自分が強さを求めている事に皮肉を感じてしまう。
あれだけ偉そうに説教したのにな……。
街に着いた俺達はミストを宿屋に預けて宿泊料を置いていくと、ギルドへと帰って行った。
〜翌日 ギルドロビー〜
「で、だ。何故にお前がここにいる。」
対面に座っているミストを三白眼で睨みつける。その視線を毛ほども気にしていないのか、はたまた自分の恋人からの熱視線だとでも思っているのか、彼女は胸をはって曰う。
「自分の所属している軍のコネを少し使ってな。このギルドで暫く働くことになった。あとはお前のヘッドハンティングだな。その気になったら言ってくれ。我が騎士団はお前を歓迎するぞ。」
「俺どう見ても騎士ってナリじゃないよね?それとも何か?剣でも教え込むつもりか?」
「そうか、剣が習いたいか!ならばすぐに裏庭へ……」
「まて、誰も習いたいとは言ってないだろ。第一俺はここのほうが動きやすいから移籍するつもりは……」
「おにいちゃんはずっとここにいるの!あなたにはわたさないよ!」
俺の足にしがみついてくるアニスちゃん。気持ちは嬉しいが俺だってそのうち帰ると思うんだが……。
「お嬢ちゃんにはまだ早いんじゃないか?もう少し大人になってからでも……」
わがままな子供を諭すようになだめるミスト。だが……。
「わたしにじゅうごさいだもん!おとなだもん!」
「な!?年上!?」
誰でも最初は驚くよな。どう見たって幼女だし。
「実は経済力が俺よりあるというスペシャルなおまけ付きだ。」
「お前は自分で言っていて虚しくないのか!?」
「少し……な。」
あぁ、壁があんなに遠くに見える。
「それにの、兄様はわしのサバトが予約済みじゃ。同じ魔王陣営だからとて遠慮はせぬぞ?」
次から次へとかき混ぜる奴が出てくるもんだ……。
「それなら余計に我らに譲って欲しい。教団からの侵攻を防ぐ意味でも強力な人材は必要だ。もちろん私の伴侶としてだが。」
あんたまだ言うか。
「私との決着も着いていないだろう。私を倒すまではアルテアは諦めてもらう。」
いいかげんにしろ脳筋トカゲ。
「今度里帰りをしようと思っているんだけどその時に連れて言っちゃダメかなぁ?永住させるつもりで。」
チャルニ、お前もか。このブルータスめ。
「ダメだよ。アルは私達の群れの中心になってもらおうって思っているんだから。誰にも渡さないよ?」
「あら、私のギルドから彼を引き抜けると思っているの?まずは私を通してからにして頂こうかしら?」
「あに〜。いっしょにいろんなとこいく〜♪」
こうなってはもう収拾が付かない。俺は全てに無視を決め込み、置いてあるコーヒーを啜る。
「うん、今日もコーヒーがうまい。また仕事が頑張れそうな気がするよ。」
『完全に現実逃避を決め込みましたね、マスター』
コーヒーをテーブルに置くと、ミストが眩しそうな物でも見るように目を細めて俺を見ている。周りはあーでもないこーでもないと言い合いを続けている。
「俺の顔に何か付いているのか?」
「いや、お前は様々な者から好かれているのだなとな。」
俺は首を振って否定する。
「これは好かれているというより懐かれていると言うんだ。敵対したり助けたりしているうちにこうなっちまっただけだ。」
「それでも、これはお前の強さに惹かれて集まった者達だ。それは誇っていい。」
彼女は手を組んで頬杖を付き、幸せそうに俺を見ている。
「あんまり首を弄るなよ?取れるぞ。」
「それならそれでいい。皆に見せつけてやろうじゃないか。」
サラッと豪胆なことを言う彼女。公開逆レイプなんぞ願い下げなのだが。
「私は諦めないぞ。それが強さだと、お前に教わったからな。」
彼女の根の強さを見せつけられ、肩をすくめる俺。彼女の心は、もう折れないだろう。
俺から分けてもらった心の強さを糧に。
『私は……負けてはならない。』
声が聞こえてくる。いつもの黒い空間。
幾度も心の闇を照らし出したあの空間だ。
『幼い頃から私は、敗北を許されていなかった。』
剣を振るう少女、後ろには試合で打ち負かされたと思わしき少年少女たち。
彼女は傷つきながらも凛として立っている。
『常に強くあれ、常に負ける事なかれ。これが私の家の家訓だった。』
厳格そうな父親と、凛々しい母親。
『負けても叱られることは無かったが、その分鍛錬を増やされる。』
練兵場の光景だろうか。木偶に向かって木刀を振り下ろす少女。
『両親の目論見通り、私は強くなった。しかし……』
少女は女性になっていた。所々目玉があしらわれた鎧を着こみ、大剣を構えている。
『その時には私は、負けることは許されないという妄執に駆られていたのだ。』
彼女の周囲には、倒れ伏す兵士達。死んでこそいないものの、まともに動くことすら出来ないようだ。
『強くならなければいけない……負けてはならない……常に勝ち続けなければならない……』
返り血を浴びながらも進み続ける女性。
その姿はまるで修羅のようであった。
『勝たなければ……強くならねば……強く……強くつよくつよくつよくツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨク……』
景色がヒビ割れ、色褪せる。彼女の闇は、大体解った。
『大変なことだな。勝ち続けるってのは。』
俺が現れた途端、景色が修復されていく。城の中の練兵場のような場所だった。
彼女は何も言わない。
『でもよ、それでお前は満足なのか?』
俺は彼女に問いかける。彼女の求めるべき強さが何かを気付かせる為に。
『ナニ……?』
『お前は何のために勝とうとするんだ?お前にとっての強さって何だ?』
『ギャクダ、マケルコトニイミハナイ。ソシテツヨサトハチカラダ。』
これもほぼ予想通り。親父さん、おふくろさん。あんたら子育て苦手だったんですかい?
『ありがちだよな、それ。何も無いから負けられないとか、力こそが全てだとか。』
俺は言葉を続ける。彼女の両親が本当に伝えたかった強さを。
『じゃあさ、負けた奴が『負けなかった』場合ってのが何だかわかるか?』
『ソンナモノ、ソンザイシナイ。ハイシャハハイシャダ。』
『お前、小さい頃は負けたりもしたんだよな?悔しかったか?』
『アタリマエダ。マケタアトノタンレンモ、ワタシガノゾンデイタ。』
俺はしてやったりとほくそ笑む。
『じゃあ、お前はその負けた時でも負けなかったんだ。心が折れなかったからな。』
『ココロ……?』
『お前の親もそう言いたかったんじゃないかな。負けるなって事は、心を折るなって事だったんじゃないか?』
おそらく、彼女の両親が言いたかったのはそういう事なのだ。
『ソレデハ、ワタシガカチツヅケテイタノハマチガイダッタノカ?』
『勝つこと自体は悪くないさ。勝利を追い求めるのも生き物の常だ。でもな、勝つこと自体に意味を求めるのは間違っている。強さを誇って勝ち続けるのはただの自己満足だ。』
俺は彼女に歩み寄る。彼女はたじろいでいたが、構うものか。
『お前の親はさ、別に剣の腕とかが強くなって欲しかった訳じゃないと思うんだ。本当に必要なのは、これだ。』
彼女の胸元に拳を当てる。
人とは、心さえ折れなければどこまででも強くなれる物なのだ。
それは、魔物も同じ。
『ココロ……』
『そういう事だ。折れず、弛まず、真っ直ぐに。実際、力がなくてもどうにかなるもんだ。俺も訳あって一気にいろんな武器を失ったが、割と何とかなっているぜ?諦めていないからな。』
ま、そうなると色々と苦労はするだろうがね、と俺は肩をすくめて見せる。
『ワタシハ……ワタシハ……』
『勝つ必要なんて無い。問題は、敗北から何を学ぶか。どう立ち直るかだと思うぜ?』
彼女は地面に膝を付くと、さめざめと泣きはじめた。今まで堪えてきた分を流すように。
『私の負けだ。』
唐突に彼女が言う。その顔は屈辱とかではなく、妙に晴れ晴れしい。
『まだ勝ち負けにこだわるのか?』
『いや、そうではない。お前の心意気に、強さに、意志に負けたのだ。』
彼女は俺の前に跪く。
『心の底から慕わせて欲しい。生涯お前に尽くそう。』
いきなりプロポーズかよ。
『本心は?』
『本心も何もこれが私の』
<カポ>
首を外してやる。中から何かが漏れてきた。
『正直辛抱たまらんので抱いてもいいですか?』
<カポ>
『……』
『……』
沈黙が流れる。どうにも気まずい。こうなったら静寂を打ち破る一撃を……!
『……えっち。』
『お前が首を外すからだろうがああああ!』
照れてる照れてる。
『ええい、こうなったら……』
彼女の足がブレる。視界が回転し、仰向けになってから足を払われたことに気が付いた。
彼女は俺に馬乗りになると鎧を脱ぎ始める。
『あの〜?何をしていらっしゃるのでしょうか?』
『ここまで胸を熱くさせるような事を言われて我慢できると思うか?それにお前は一瞬でも私の首を外したのだ。その意味ぐらいは判るだろう?』
あぁ、精気補給ですね、わかります。
『あまり自分から動くなよ?』
彼女は俺の服を剥ぎ取りながら忠告してくる。頬は上気して息が荒くなり、息子に押し付けられたアソコからは濡れた感触が伝わってくる。
『そいつはまたどうしてだ?やられっぱなしは趣味じゃないんだが……』
『お前は首が取れて精気がダダ漏れになった私と延々交わりたいと。そういう事なら先に言え。』
『外さなくていいから!そのままでお願いします!動かないから!』
彼女が首を外しかけたのを慌てて引き止める。
いくら体の状態が現実に戻ったときにリセットされるとしてもそれは勘弁願いたい。
『そうか……私としても捨てがたいと……あ』
<ポロリ>
『……』
『ハァ……ハァ……』
生首だけでハァハァしている!?地味に不気味!?
『フ……フフフ……』
彼女は首を持つと、俺の胸の上に乗せた。丁度俺の顔がよく見えるようにだ。
『もうこうなったら我慢出来ないな。搾り尽くさせてもらおう。』
『ハハ……お手柔らかに……』
彼女は俺の胸板に手を置き、モノに手を添えて腰を落としてくる。
スムーズにめり込んでいき、奥まで届く感触がする。
『動くぞ……覚悟はいいか?』
『やめてくれとか言っても動くんだろうが……いつでも来い。』
俺はため息を吐いて彼女を迎える。まぁ嫌ではないんだがな。
<ぐちゅ……ずぷ……ぬちゅ……ぬち……>
卑猥な水音が鳴り響いている。結合部からは止めどなく愛液と精液の混合液が溢れ出し、白く泡立っている。
『うぁ……で、出る……!』
全身が痙攣し、モノから白濁が吐き出される。
もうこれで3度目くらいだろうか。しかし、1回1回の快感が強く、そのたびに意識が飛びそうになる。
『んっ……また沢山出したものだな……しかし、もっと出してくれるだろう?』
そう言うと休む暇も与えずにピストン運動。
激しい物ではく、射精直後のモノを労るようなゆっくりとした動き。
しかし、この動きが曲者だった。
最初から最後まで速度が変わらないのだ。
『っく……お……』
最初は出した直後の敏感さでむず痒く、射精直前は早くイきたいのにイく事ができない。
もどかしい分快感は2,3倍増しになっていた。
それに……。
『あまり……見ないで欲しいんだがな。』
『こんなに面白いものから目を逸らせるはずがないだろうが。』
先程からイく所を見られながらというのも快感に拍車を掛ける。
情欲で濡れた眼差しで情けない顔を見られるのは、羞恥と同時に快感をさらに増幅させる。
『こっちは……あまり気分が良いものじゃないんだが……』
『そのつもりで見ているのだから当たり前だろう?』
コイツは……。
『言った……だろうが……!やられっぱなしは趣味じゃないってな!』
彼女の頭を掴む。両手の平で耳をふさぐように持ち上げ……。
『何をするつもりだ?』
『こうする。』
ディープキス。べろちゅーでもいい。
耳を塞がれたままこれをされると頭の中で音の逃げ場がなくなり、通常より水音が大きく聞こえるのだ。
舌を絡ませ、歯茎をなぞり、上顎をくすぐる。
『んむぅ!?んむ……ちゅ……』
予想通り水音が頭の中に響くのか、徐々に抵抗が弱くなっていく。
モノを包む膣肉がビクビクと震え、彼女の肌に鳥肌が立っている。
『ふぅ……どうよ?』
『お前という奴は……。』
彼女が腰を持ち上げ……。
『もっと燃えてしまったではないか。』
深く叩きつけた。反動で自分も気持ちがいいのかビクビクしている。
『ふぅ……はぁ……♪』
『ぐぅ……逆効果か……』
彼女が蕩けた眼差しで俺を見つめてくる。
『まさか、最高の気分だぞ。もっともっと愛したくなる。』
彼女は先程より早いペースで動き始める。彼女も我慢が効かなくなってきたのだろう。
動くたびに柔らかい膣壁が窄まり、モノに絡みついてくる。
『私ももうすぐ……イきそうだ。一緒にイけるか?』
『もち……ろん。そのぐらいの……甲斐性は……残してある』
ふと思いつき、彼女の顔を結合部に向けてやる。
『こ、こら!何を見せている!』
『騎乗位版乱れ牡丹……ってね。結構……やらしいな。』
結合部は白い泡でぐちゃぐちゃになり、劣情をそそる光景となっている。
彼女も自分のものを見るのは恥ずかしいのか、耳まで真っ赤だ。
『元に……もど……』
『させないっての。』
彼女の手が伸びてきたのでひょいと避ける。
向こうは首と胴体が離れているので一人二人羽織状態だが、こちらは普通に見えているため、このやりとりはこちらのほうが有利だ。
『く……この……♪』
動きを甘くするためか、彼女がモノを締め付け、しごきあげて来る。
『見せられて興奮した?やらし〜。』
ケラケラ笑ってやるが、こちらもいい加減限界である。
下腹部に力を入れ、なんとか我慢しているが少しでも変な力が加わると爆発しそうだ。
『はぁ……もう、だめ……げんか……』
『あぁ、俺も……一緒に……!』
彼女のペースが早くなり、双方限界を迎え……。
『イ……く……ああああぁぁぁぁぁっ!♪』
『ぐ……ああああぁぁぁぁっ!』
快感が爆発。頭の中が真っ白になり、射精することしか考えられなくなる。
彼女は精液が漏れ出す自分の秘所を凝視していた。
『あぁ、こんなに出して……♪しょうがない奴だ……♪』
『はぁ……はぁ……』
彼女が倒れこんできたので支えてやり、首をはめ直した。
『疲れたな……暫くはこのまま休むか。』
『いいね。こうしてゴロゴロするのは嫌いじゃない。』
そして、俺達は抱き合いながらしばらくその場に寝そべるのだった。
空もないのに天井から差す光が強くなっていく。
『時間かな……。』
『む、何の時間だ?』
彼女も俺と同じように強い光に目を細める。
『目が覚めるって事。ここでお別れって訳じゃないが、ここであったことは大体忘れちまうだろうな。』
そう言うと彼女は笑う。
『まるで夢みたいな話だな。しかし、私は割と夢を覚えている質でな。そうそう忘れてはやらんぞ?』
『そうかい。そりゃ楽しみだ。』
強い光で周囲に何も見えなくなる。目覚めは近い。
『それでは、また夢の外でな。』
『おう、さよならじゃない。またな。』
拳を突き合わせ、互いにほほえむ。
俺は、暖かな光に包まれながら意識を手放した。
〜うたたねの草原〜
「っぐぅ!?……っげほ!……っえほ!」
強烈な頭痛と違和感。現実世界へ帰ってきた。
「おいアルテア!しっかりしろ!この場で死ぬなんて冗談が過ぎるぞ!」
フィーが俺を揺さぶってくるというか揺さぶり過ぎ頭がぐわんぐわんするってか
「やめろ!脳震盪でまた気絶させるつもりか!?」
彼女を無理矢理引き剥がす。俺の意識が戻ったことで彼女は落ち着いたようだ。
「良かった……死んでしまったかと思ったぞ。」
「あのまま揺さぶり続けていたら間違いなく死んでいたよ。」
皮肉も言える。問題ない。
「そうだ……あいつの怪我の具合を見ないと……。」
「あいつ?あいつとは……。なんと、あの騎士は……。」
騎士が纏っていた禍々しい空気は無くなり、捕らえていた檻の中には鎧を着た女性がバルーンによって磔状態になっていた。
「怪我は……皮膚表面だけか。これならダーマ貼っとけばすぐ治るな。」
むしろ皮膚表面だけであれだけの癒着力ってどうなっているんだろうな。
「鎧は……簡単には脱がせられないか。ラプラス。単分子カッターを。」
『了解。単分子カッター展開』
グリップを引きぬいて単分子カッターを取り出す。
「慎重に慎重に……」
金属を切り裂く轟音が辺りに響き渡り、聴覚が一瞬麻痺する。
「な、何だ!?一体何が……。」
その音で彼女が目を覚ます。
「動くなよ。腹ごと切りたくはない。」
鎧の腹部を切り取り、パラケルススを展開。傷口を消毒して手首からダーマを引っ張り出し、傷口へ貼り付ける。
「染みなかったか?特に何も言わなかったけど。」
「この程度の痛みは慣れている……が、お前は……。」
俺はバスケットの中から水の瓶を取り出して、水を接着部分に流していく。
「誰だろうな。俺は正気を失って暴れていたあんたを取り押さえただけだ。」
粘着剤はすぐに剥がれ、彼女は自由になる。
彼女は体が自由になった後も、俺の顔を凝視している。
「どこかで会ったことは無いか……?というよりどこかで会ったはずだ。」
こいつ、本当にうっすらとだが覚えていやがる。
「俺とあんたは初対面の筈だぜ?第一お互い名前も知らないじゃないか。」
あくまでシラを切り通す俺。俺に詰め寄る彼女。
「いや、会っている!そうだ、心だ。心の強さを教えてもらったはずだ!」
うわ、言われてみるとなかなか恥ずかしいなこれは。記憶を封印したくなる。
「アルテア……?お前はこの女と知り合いだったのか?」
後ろから聞こえて来る絶対零度の声。振り返ったらその場で斬り殺されそうな気がする。
「そうだ、私はお前を慕うと誓った筈だ!我が夫よ!」
何もかもすっ飛ばして結婚させられていた!
「ほう、そんな話は聞いたことも無いがな。少なくともアルテアの知り合いに親しかったデュラハンはいなかった筈だが?」
「心が通じれば、距離など関係ない!私は彼と添い遂げる!」
姉さん、事件です。俺は今熱血と冷血のサンドイッチになっています。
「私としても今アルテアを奪われる訳にはいかないからな。貴様も戦士を名乗るのであれば……これで取り合いと行こうではないか。」
剣を構えるフィーさん。あんた本当に脳筋ね。
対するデュラハンは。
「望むところだ!我が剣の錆に……錆……に……」
当の剣は大きさこそ元に戻っていたが、バルーンの粘着剤によりベトベトになっていてすぐには使い物にならなくなっていた。
「アルテア、と言ったな。すまないが何か剣になりそうな物を持っていないか?」
「わりぃ、俺ガンナー……」
『E-Weapon<BAGブレイド>展開。』
鵺の後方から80センチほどの柄が出て、砲身が剣の鍔になるように分かれる。
「ふむ、それは剣にもなるのか?ではそれを貸してはもらえないだろうか。」
答える暇もなく、柄を掴まれて鵺を取り上げられる。
『ブレイド展開。安全のため先端を地面に向けないでください。』
「こうか?」
なんでお前はそんなにノリ気なんだよ。ていうか喋る武器に少しは疑問持とうよ。
別れた部分から幅広の刀身らしきものが伸びる、伸びる、伸びる、伸びる……って。
「どんだけ伸ばすつもりだよ!?」
伸びに伸びた刀身は約10メートル。幅は50センチほどもあり、所々にブースターらしき物が取り付けられ、刀身に焼き付けられた模様が淡く光っている。
『BAGブレイドは反重力装置で重量を軽減し、ブースターによる推進力で敵勢力を薙ぎ払う斬艦刀です。先端重量が重いため高速では振り回せませんが、非常に威力のある『近接戦闘兵器』です。』
どう見てもそれ近接武器じゃねぇだろ。
「面白い剣だ。気に入った。」
「いや気に入っちゃ駄目だろ!?」
フィーも若干呆れ返っているようだ。
「武器の大きさが強さに直結する訳ではないのだが……まあいい。フェルシア=グリーン、参る!」
「私はミスト=ブラン。魔王軍第36騎士団副団長だ。いざ、勝負!」
もうやだこの脳筋達。
フィーとミストが大立ち回りを演じている間、俺はそこいらの木に寄りかかってボーっとしていた。
ワーシープ達も戻って来て各自昼寝を楽しんでいる。
「うまいもんだなぁ……初めて使った武器だろうに。」
ミストはその規格外の巨剣を自分の一部かのように振るっている。
重量を活かしてなぎ払い、振りあげて宙を舞い、反重力装置を使った長い滞空時間を活かして空中から縦横無尽に振り回す。
地面に叩きつけられた巨剣の上を走るようにフィーが接近するが、それを振り落として逆に攻撃のチャンスに変える。
「あれってラプラスが制御しているのかな……だとしたら二人の息ってぴったりだよな……」
俺が所有者なのに俺より使いこなすってどういう事なの。
「そういやあれも何とかしなきゃいけないんだよな……」
俺は積み上げられたバルーンを見る。
今は誰も通行していないから良いものの、馬車でも通りかかろうものならひどく邪魔になるだろう。
「どうしたもんかなぁ……こんだけ大量のバルーンを溶かすってなったら結構大量な水が必要になるぞ。」
頭を掻いて思案にくれていると、ジャケットの裾が引っ張られる。
「ん?あぁ、イヴか。」
そこにはサハギンの少女が立っていた。
「そういやイヴァ湖もすぐ近くだったな。様子でも見に来たのか?」
彼女はふるふると首を振るうと草原を流れる小川を指差す。
「何?昼寝をしていたら流された?」
「……(コク)」
河童の川流れならぬサハギンの川流れってか。分類上は大差ないだろうが。
「ふむ……イヴ、この風船を撤去したいのだが水を大量に運べる方法ってないだろうか?」
「……?」
首を傾げるイヴ。まぁ期待はしていなかったが。
「よし、イヴ!みずでっぽうだ!」
冗談で某懐怪物の技を叫んでみる。まぁ何もおこらな……
<ゴォォォォオオオオオ!>
イヴの口から水流が発射される。発射された水はみるみるうちにバルーンを溶かしていき……。
「無くなっちまった……マジかよ。」
バルーンはあっという間に溶け去って、後にはミストの剣だけが残っていた。
呆然とする俺。まだ首をかしげているイヴ。
ここは……アレだ。
「よし、こうしよう。」
俺は自分を指差す。
「見なかったことにしよう。」
イヴを指差し、
「特に何もしなかった事にしよう。」
両手を胸の前で打ち合わせる。
「これでオーケー?」
彼女は意味がわからなかったようだが、真似するように自分の胸の前で両手を打ち合わせる。
「よし、俺達は何も見なかったし何も知らなかった。」
全てをなかった事にした。
フィー達の方もどうやら終わったようだ。
どちらも力尽きてバッタリと倒れている。
「終わったか?」
俺は倒れている両者を覗き込む。イヴも真似をして覗き込んでいる。
「つ、……疲れた……」
「もう指一本動かせん……」
疲労によるダブルノックアウトと言ったところか。
「イヴ、こいつらを運ぶの手伝ってくれ。」
俺はミストを抱き上げようとするが……。
「ぐお……重……なんだこれ……」
持ち上がらない。鎧が重すぎる。
『ミスト様の鎧込み推定体重は80kg程度と予想。一人で持ち上げるのには無理があります。』
元の状態に戻って転がっているラプラスが大体の体重を言い当てる。
「な、そこまで重くは無いはずだ!確かに一般人より筋肉質で鎧も重いものを着ているが持ち上げられない程では……」
なんとか10センチ程度は持ち上げるが……。
「無理!上がらない!」
落としてしまう。重々しい音が地面から鳴り響いた。
「どうしたもんかな……これは。」
「私は重くなど……重くなど……!」
悔し涙を流すミスト。まぁ女性にとって致命的か。
「……(ひょい)」
と、近寄ってきたイヴが軽々とミストを持ち上げる。
「すげぇな。よし、そのまま街まで運んでくれ。」
俺は拾ってきたミストの剣をロープでぐるぐる巻きにし、余ったロープで背中に架ける。
鵺を肩に架け、フィーを抱き上げる。所謂お姫様抱っこという奴だ。
「うわ、アルテア!この格好は恥ずかしいぞ!」
「はいはい動けない人に反論する権利はありませんよ。」
しかし……。
「(鵺の重量が8キロに剣が5キロ……。フィーの体重が50キロ前後……。下手な完全装備より重いぞ。)」
それでもフルプレート装備のミストよりはまだマシであった。
イヴの横に並んで街を目指し歩く。
「(勝った……!)」
「(くっ……!)」
目の前でまた女の戦いが始まったが、無視する。下手に口を挟めば大火傷だ。
『状況が沈静化したので報告します。今回の回収により一部機能が回復しました。
オクスタンライフルの出力が微量回復。
ビームガトリングの出力が微量回復。
センサー類にサーモスキャンが回復。
報告を終わります。』
「あぁ、ご苦労さん。サーモが使えるようになったのはありがたいな。」
これでまた一歩元の鵺に近づいた。ただでさえこの世界の連中は化物揃いなんだ。早く強くならなくては……。
と、自分が強さを求めている事に皮肉を感じてしまう。
あれだけ偉そうに説教したのにな……。
街に着いた俺達はミストを宿屋に預けて宿泊料を置いていくと、ギルドへと帰って行った。
〜翌日 ギルドロビー〜
「で、だ。何故にお前がここにいる。」
対面に座っているミストを三白眼で睨みつける。その視線を毛ほども気にしていないのか、はたまた自分の恋人からの熱視線だとでも思っているのか、彼女は胸をはって曰う。
「自分の所属している軍のコネを少し使ってな。このギルドで暫く働くことになった。あとはお前のヘッドハンティングだな。その気になったら言ってくれ。我が騎士団はお前を歓迎するぞ。」
「俺どう見ても騎士ってナリじゃないよね?それとも何か?剣でも教え込むつもりか?」
「そうか、剣が習いたいか!ならばすぐに裏庭へ……」
「まて、誰も習いたいとは言ってないだろ。第一俺はここのほうが動きやすいから移籍するつもりは……」
「おにいちゃんはずっとここにいるの!あなたにはわたさないよ!」
俺の足にしがみついてくるアニスちゃん。気持ちは嬉しいが俺だってそのうち帰ると思うんだが……。
「お嬢ちゃんにはまだ早いんじゃないか?もう少し大人になってからでも……」
わがままな子供を諭すようになだめるミスト。だが……。
「わたしにじゅうごさいだもん!おとなだもん!」
「な!?年上!?」
誰でも最初は驚くよな。どう見たって幼女だし。
「実は経済力が俺よりあるというスペシャルなおまけ付きだ。」
「お前は自分で言っていて虚しくないのか!?」
「少し……な。」
あぁ、壁があんなに遠くに見える。
「それにの、兄様はわしのサバトが予約済みじゃ。同じ魔王陣営だからとて遠慮はせぬぞ?」
次から次へとかき混ぜる奴が出てくるもんだ……。
「それなら余計に我らに譲って欲しい。教団からの侵攻を防ぐ意味でも強力な人材は必要だ。もちろん私の伴侶としてだが。」
あんたまだ言うか。
「私との決着も着いていないだろう。私を倒すまではアルテアは諦めてもらう。」
いいかげんにしろ脳筋トカゲ。
「今度里帰りをしようと思っているんだけどその時に連れて言っちゃダメかなぁ?永住させるつもりで。」
チャルニ、お前もか。このブルータスめ。
「ダメだよ。アルは私達の群れの中心になってもらおうって思っているんだから。誰にも渡さないよ?」
「あら、私のギルドから彼を引き抜けると思っているの?まずは私を通してからにして頂こうかしら?」
「あに〜。いっしょにいろんなとこいく〜♪」
こうなってはもう収拾が付かない。俺は全てに無視を決め込み、置いてあるコーヒーを啜る。
「うん、今日もコーヒーがうまい。また仕事が頑張れそうな気がするよ。」
『完全に現実逃避を決め込みましたね、マスター』
コーヒーをテーブルに置くと、ミストが眩しそうな物でも見るように目を細めて俺を見ている。周りはあーでもないこーでもないと言い合いを続けている。
「俺の顔に何か付いているのか?」
「いや、お前は様々な者から好かれているのだなとな。」
俺は首を振って否定する。
「これは好かれているというより懐かれていると言うんだ。敵対したり助けたりしているうちにこうなっちまっただけだ。」
「それでも、これはお前の強さに惹かれて集まった者達だ。それは誇っていい。」
彼女は手を組んで頬杖を付き、幸せそうに俺を見ている。
「あんまり首を弄るなよ?取れるぞ。」
「それならそれでいい。皆に見せつけてやろうじゃないか。」
サラッと豪胆なことを言う彼女。公開逆レイプなんぞ願い下げなのだが。
「私は諦めないぞ。それが強さだと、お前に教わったからな。」
彼女の根の強さを見せつけられ、肩をすくめる俺。彼女の心は、もう折れないだろう。
俺から分けてもらった心の強さを糧に。
11/06/25 06:00更新 / テラー
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