第二十六話〜HEAD LESS〜
※地味な寝取られ(笑)要素あり。
〜冒険者ギルド ロビー〜
「首無し騎士?デュラハンじゃなくてか?」
俺は朝のギルドロビーでニータから噂話を聞く。こいつは何気に顔が広いので、いい情報源になったりする。
「うん、なんでも旧世代のデュラハンに近い容貌なんだって。でも纏っている雰囲気が何と言うか……異常にどす黒いなんて言われているよ。」
デュラハンならギルドのメンバーにも何人かいるが、そこまで危ない雰囲気を纏っている奴はいない。
「そいつが何か騒ぎでも起こしているのか?」
噂になるぐらいなら何かしでかしていそうだ。
「ところがね、そいつに出会った人って全員生還しているって話なんだ。話は通じないけど、いきなり剣を構えてくるんだって。それで戦ってそいつが勝ちそうになったら剣を収めて去っていくとか。」
特に命を奪う訳ではないのか。
「そいつに勝った奴は?」
「いないよ。なんでも剣も魔法も全然効かないんだって。ディスペルとかの解呪呪文も効かないから魔道障壁の類じゃないらしいけど。」
旧世代の容貌に物魔両耐性ね……。
「どう見てもアレだな。」
『間違いありませんね。』
俺らが一人納得しているとニータが手を差し出してきた。
「あぁ、情報料だな。ほら。」
俺はニータに銀貨を数枚と……。
「特別ボーナスだ。」
ある料理屋の割引券を渡す。
「ラクトキッチンの優待券!?これ殆ど手に入らないのに!」
乳製品メインの料理屋だ。ホルスタウロスが経営しているため、その味は格別だとか。
「さっきみたいな旧世代の魔物の情報があれば渡すよ。今はそれ一枚しか無いけどな。」
こいつはエサみたいなものだ。
これが手に入るならニータ、いや殆どのラージマウスは血眼になって情報を探すだろう。
「こうしちゃいられない!早く行かなきゃ!」
ニータは脱兎……ではなく脱鼠の如くギルドを飛び出して行った。
と、ズボンを引っ張る感触が。
「あに〜」
メイだった。メイは物欲しそうな目でこちらを見ている!
「ほれ。」
俺はズボンのポケットから飴を取り出すとメイに渡す。
「わ〜♪」
彼女は嬉しそうに飴を頬張ると俺の膝の上に座った。
『メイが仲間になりました。』
「もう既に仲間だろ。」
〜クエスト開始〜
―首無し騎士の正体―
『首無し騎士の噂についてはもう知っているわね?実はそいつはギルド内でも問題になっていて、近場のクエストを受けた冒険者がよく巻き込まれるのよ。命は奪われなくても戦った後はボロボロだからその日は仕事にならないの。__________________________
私としても頭が痛いし、例のアレの可能性もあるから調査して欲しいの。__________
あと、行くときは必ず誰かを連れていくこと。この間みたいに動けなくなったりしても知らないわよ?
_______________モイライ冒険者ギルド支部 ギルド長 ミリア=フレンブルク』
「ミリアさんってこの噂知っていたのか……。」
「ギルド内じゃ割と有名な話ですよ?知りませんでした?」
優待券無駄にしたかもしれん。
「よく出没する場所はモイライ近辺の草原ですね。でも現れる場所は一定ではなくて、森へ続く道だったり、別の町へ続く街道だったりと色々です。前兆があればいいのですが……」
「前兆……ね。」
「フィー、今は暇か?」
俺はギルドで暇を持て余していたらしいフェルシアに声を掛ける。
「む、今日は丁度よさそうな仕事が無かったからな。試合ならばいつでも受けるぞ?」
こいつはまだ俺と戦うつもりでいるらしい。
「試合といえば試合だが、相手は俺じゃない。一緒に来てほしいクエストがあるんだ。」
俺はクエストの内容をフィーに話す。
「(ここで共に行くと言えば好感度アップ……しかしもう一捻りが欲しい。)」
彼女は何かを考え込んでいる。
「例の騎士の話か。一度私も手合わせをしてみたいと思っていたのだ。だが……。」
「だが?何か条件があるのか?」
「うむ、クエストが終わったら……その、だな。どこかに一緒に出かけて欲しいのだ。」
これは……。
「デートか?」
「いや、そうではなくてだな、ええと……」
要領を得ない。いや、プライドの高いフィーの事だ。
「次のクエストに付き合って欲しいって事か?なら別に構わないぞ?」
助け舟を出す俺。うん、優しい。
「あ、あぁそうだ。何か大きなクエストを受けてみたいと思っていたところなんだ。(何を言っているんだ私は!そういう事ではないだろうが!)」
結局わたわたと何かを言いたそうだったが、付いて来てくれる事になった。
〜モイライ郊外 うたたねの草原〜
「なんだか結局デートっぽくなってないか?」
武器こそ携行しているものの、俺の右手にはバスケット。中はハードブレッド(フランスパンのようなもの)で作ったサンドイッチが入っている。
空はよく晴れて、うららかな日差しが眠気を誘う。
草原の名前の由来通り、あちこちではホルスタウロスやワーシープ、放牧された羊や牛が昼寝を楽しんでいる。
何をしている?と言われたらピクニックとでも答えられそうだ。
「どこで遭遇するかわからんからな。昼食は必要だろうし、長期戦の覚悟で挑むぞ。」
遭遇しなきゃこれがあと何日も続くのか……。
昼になり、昼食を食べる。例の騎士は姿を表す気配がない。
「これは……意外といけるな。」
フィーは俺の作ったサンドイッチを美味そうに頬張っている。
トカゲの気持ちも尻尾に表れるのだろうか、終始ウネウネと動いていた。
「おかしいな……血なまぐさい修羅場が繰り広げられると覚悟していたのに物凄く平和だぞ?」
どす黒いオーラを放つ騎士は出てこない。馬車が何台かと、旅人が通り過ぎたぐらいのものだ。
昼食を食べて一休みしていた頃、一匹のワーシープがごろごろとこちらに転がってきた。
寝相が悪いワーシープなのだろうか?俺にぶつかるとようやく止まった。
「……ふぁ……」
急に眠くなる。
『シープ族獣人型ワーシープ。彼女たちの毛には催眠効果があり、接触すると睡眠状態に陥ることがあります。』
「あぁ……そうかい。」
もう答えるのも億劫だ……寝よ。
あぁ、仕事の最中なのにデート気分が止まらない。お前はどう思っているのだ?アルテア。楽しいのか?嬉しいのか?
「なぁ、アルテア。今日はもう調査はやめてこのままのんびり過ごしても……」
彼の方へ振り返る。さぞ穏やかの表情で……
「ぐご〜……」
昼寝をしているワーシープに抱きついて惰眠を貪っていた。
「……」
『フェルシア様には寝取られ属性はおありでしたか?』
「無い!」
「(痛い……)」
時刻は夕暮れ時。
何故か頭がガンガンし、頬がヒリヒリする。服も若干乱れているのだが、そこまで寝相が悪かっただろうか?
「なぁ、フィー。俺って寝ている間ゴロゴロ転がりまくってた?」
「知らん。私に聞くな。」
何故かフィーは物凄く不機嫌だ。
「あぁ、悪かったな。勝手に寝た事を怒ってるんだろ?」
アイツって結構真面目だしな。一応謝っておこう。
「別に怒っている訳ではない。ただ……」
「仕事中に寝るのは良くないよな。今度から気をつけるよ。」
何故かガックリ肩を落とすフィー。何か気に触ったのだろうか?
「あ、あぁ。気をつけてくれ。あそこまでグッスリ寝られると何かに襲われたときに抵抗出来ない。(そうだ、抵抗できないならその隙に既成事実を作ってしまえばよかったのに……バカか私は……!)」
今度は頭を掻き毟り始めた。見ている分には面白いが、何を考えているかがよくわからない。
結局この日は何も見つからず、ギルドへ引き返して行った。
〜翌日〜
「さぁ今日も張り切って調査開始だ!」
「テンション高いな……あんた。」
意気揚々と先頭を歩くフィー。
その後ろにバスケットをぶら下げながら歩く俺。
「今日は聞き込みもやってみないか?もしかしたら何かヒントが掴めるかもしれない。」
「それは言えてるな。」
ますます昨日がただのピクニックだったように思えてきた。
「……聞き込みをするんじゃなかったのか?」
「仕方が無いだろう。話が通じるどころか話もできないのだから……。」
ホルスタウロス、ワーシープ共にグースカ眠り込んでいて返答なし。
無論ただの牛や羊に話を聞く訳にもいかず、かといって今日は馬車も旅人も見かけなかった。
昼食を取り、聞き込みを開始するも成果は芳しくない。旅人も通りかかるにはかかったが、有用な情報は持っていなかった。
「手詰まりだな……。」
「ていうか第一、このだだっ広い草原の中から出現地点特定しろとか無理だろ。」
辺り一面に広がる草原。気持よく吹きつける風。
起きだして移動を開始するホルスタウロスとワーシープ達。
「……へ?」
これだけ気持よく昼寝ができそうな環境なのに、『起きだして』いる。
「お、おいちょっと。」
そこいらを歩いていたワーシープを呼び止める。
「はい〜?なんですか〜?」
非常にのんびりと、しかしどこか焦っている感じがする。
「何でいきなり起きだしたんだ?さっきまで寝ていたのに。」
彼女は口元に手を当てて、考えこむように首を傾げると、何かに思い当たったように手を叩いた。
「寝にくいんです〜。」
万年安眠魔獣のワーシープが寝にくいと申すか。
「いつも〜、あれが来る前は〜、眠れなくなっちゃうんですよ〜?」
あれ?まさか……。
「あれってのは……」
「もうすぐ〜くると〜思いますよ〜?」
そう言うと彼女はよたよたと去っていった。
草原には、魔物はおろか、動物や虫達までもいなくなっていた。
「こいつは……来るか?」
「むしろ来ないほうがおかしいだろう。いやはや、野生の勘というのは恐ろしいものだな。」
急に辺りの空気が重くなる。高度な意思のある生物が放つプレッシャー。全ての物を凍りつかせる殺意。まとわりつくように漂う不気味な空気。
<カツ……カツ……カツ……>
後ろの方から足音が聞こえてくる。この草原には隠れるような場所など無いはずなのに死角をついて現れたのだ。
「これは、振り返るべきだよな?」
「むしろ振り返らないと殺されそうだな。」
意を決して振り返ると、
「…………」
禍々しい鎧に身を包み、自らの首を小脇に抱え、身の丈ほどの大剣を片手で持つ黒騎士が立っていた。
戦慄と恐怖の権化が、そこにいた。
騎士は俺達の前で仁王立ちを決め込んでいる。今の所襲いかかってくる気配はないのだが……。
「よ、よう。お前、話はできるか?」
「……。」
無言。
「出来ればなぜいろんな奴に戦いを挑んでいるのか聞きたいんだが……。」
「……。」
寡黙。
「人にだって事情があるだろ?誰彼構わず襲いかかっちゃ迷惑だと思わないか?」
「……。」
黙秘。
「だんだんと壁に話しかけたほうがマシに思えてきたぞ……。」
げんなりとする俺。それに対しフィーはというと……。
「戦士ならば語るに言葉はいらぬ。そういうことだろう?騎士の。」
フィーが剣を抜いて構えると、騎士も剣を構えた。片手で。
「君ら肉体言語しかできんのか!?」
フィーが浅く腰を落とし、攻撃態勢を取る。
「我はフェルシア=グリーン。戦士ガルド=グリーンとマリア=グリーンの娘。いざ尋常に、勝負!」
旧時代的な名乗りと共にフィーが突っ込んでいく。
「あぁ、もう。これだから頭の中が古い人ってのは!」
『どうしますか?』
フィーは騎士を相手に大立ち回りをしているが……。
「なぜだ!?なぜ鎧に傷ひとつつかぬ!」
強固なフルプレート+バリアフィールドには傷など付くはずもなく。
「脳筋はどうにもならないとして、あのフルプレートはどうにかしたいな。あれじゃおそらくゴーレムの装甲みたいにかち割らないとHHシステムは使えないだろう。」
『分厚い装甲を貫くのであればパイルバンカーなどの強力な貫通兵器や単分子カッターなどの切断兵器などが使えると推測します。』
ラプラスが武器の提案をしてくる。勝手に出さないのは俺と審議中だからだろう。
「んなこと言ってもあれじゃ近づいただけでなます切りにされるぞ?うまく受け流したところで弐の太刀でお陀仏だ。」
俺が後方で何を使うか話し合っていると、
「おいアルテア!そこで呆けていないで手伝ってくれ!こいつ剣が効かない!」
「それを効くようにするために考えているんだろうが。もう少し押さえていてくれ。」
「無茶を……」
殺しとくか。
「愛しているぜ、フィー」
サムズアップ。
「やってみよう。全力を尽くすぞ、私は。」
『これは酷い女たらし。』
「要するに身動きさえ取れなければ近接兵器は打ち込み放題な訳だな。」
『肯定。E-クリーチャー化したデュラハンがどれほどの腕力を秘めているかは不明ですが、拘束が可能であればそれに越したことは無いと思われます。』
となると……。
「バインディングネットで足元を拘束してアンカーバルーンで動きを封じるか?網はともかく、粘着性のボールにまで腕力で対処できるとは思えない。」
『作戦を審議…承認しました。E-Weapon<バインディングネット>展開。』
作戦が決まれば、ラプラスの行動は早い。すぐさま武器の展開と調整が始まる。
『拘束網の展開角は40度程度。相手の足元より2メートルほど手前に撃ち込んでください。拘束確認後、すぐさまアンカーバルーンの展開を開始します。』
展開された砲身を騎士に向ける。
「フィー、もういいぞ。離れてろ。」
彼女が離脱体勢に入る前に発射。
「離れる前に撃つ馬鹿がいるか!?」
そう言いながらもきっちり逃げているフィー。流石である。
着弾したネットは騎士の方向にのみ広がり、足を絡めとっていく。
「……!」
騎士はネットを切り払うが、足に残った分が絡みついてうまく歩けなくなっている。
「もたもたしているともっと動けなくなるぜ?」
『アンカーバルーン展開。』
バインディングネットの砲身が引込み、代わりにバルーンの射出口が出てくる。
「べったべたにしてやるぜ!」
バルーンを連射。フィールドの影響でくっつかないことは分かっている。狙いは直接の拘束ではない。
辺りにバルーンが積み重なっていき、バルーンの檻が出来上がった。剣はフィールドで護られていないのか、粘着剤が付着している。
「さてと……大人しくしていろよ?今元に戻してやるか……ら?」
その時、騎士の持つ剣が巨大化する。元々巨大だった剣は、10メートルに届かんとしていた。
「んなもんどうやって振り回……うぇ!?」
持ち上げて、地面に叩き付ける。衝撃でめくり上がった石畳が俺の体を打ち据える。
「ってぇ……。死にはしないが青タンになるぞ、これ。」
騎士はダダをこねるように巨大な剣を持ち上げては振り下ろしている。そのたびに近くの木がへし折れ、地面が割れ、石畳が破壊される。
「あぁ、もう!駄々っ子禁止だ!」
地面に打ち下ろされる軌道を見切って、アンカーバルーンを直線に配置していく。その上に打ち下ろされた剣はバルーンから抜けなくなった。
『スキャン完了。腹部にエクセルシア反応あり。』
「今度こそ大人しくしていろよ?ちょっと痛いかもしれないけど……な!」
『パイルバンカー』
鵺の先端に付いている杭を騎士の腹に当てる。トリガーを引いて炸薬を炸裂させ、バリアごと鎧を打ち破る。
「このぐらいの出力があれば破れるものなんだな。」
『それが目的で作られた兵器ですから。』
貫いた鎧の奥に黒い肉体―といっても筋肉らしきものは見当たらない―があり、そこにエクセルシアが食い込んでいる。
色は燃えるような赤だ。
「毎回このぐらい簡単ならいいんだがな。」
『そうも行かないでしょう。HHシステム起動。フィールド干渉率100%。ボルトショットシークエンス省略。』
砲身が展開し、純白の杭が出てくる。
『コード『HELL-AND-HEAVEN』発動。You have control。いつでもどうぞ。』
「アイハブ。よっと。」
動けない騎士の腹を杭で突く。見た目的にアレだが、立派な救済活動なんだぜ?
杭の先端がエクセルシアが絡みつき、固定される。
「あらよ……あれ?んぐ……!」
しかし、抜けない。硬い。
「うぐぐぐぐぐぐぐ……!」
片足を押し付けて引き抜こうとするが、抜けない。
「んぐぐぐぐぐぐぐ!」
両足を使って引きぬいてみようとするが、抜けない。
「何をしている?」
俺の不審行動にフィーが近寄ってきた。
「こいつ引き抜くの手伝ってくれ。俺の力じゃ抜けそうもない。」
「ふむ……」
フィーが鵺を片手でつかみ……
「こうか?」
<ブチブチブチブチィ!>
何か致命的な音をさせながら引き抜いた。
「エグ!音がエグ過ぎるよ!」
「お前が引き抜けと言ったのだろうが……。」
あれだけ何かを引き千切る音がしていたにも関わらず、エクセルシアに肉片は一切付いていなかった。
『エクセルシアの回収を確認。格納を行います。』
「おう、こいや!」
気合を入れる俺。
「お前は何をしているんだ……。」
『格納用空間に挿入完了。任務の第一段階、フェーズ5を終了します。』
今回もまともだが……。
『――。エ#セルシア84シ$pm中にha食―――。アリw――pmhbを変質――――シャ。メkバイgae食開ongae。精マla#l!ma?の危険hfgggggg。』
所々文章が途切れている。一体……
「ぐ……があああああああああ!」
頭に莫大な情報が流し込まれ、俺は意識を手放す。
かすれ行く視界の中、フィーの目が見開かれているのを見た。
〜冒険者ギルド ロビー〜
「首無し騎士?デュラハンじゃなくてか?」
俺は朝のギルドロビーでニータから噂話を聞く。こいつは何気に顔が広いので、いい情報源になったりする。
「うん、なんでも旧世代のデュラハンに近い容貌なんだって。でも纏っている雰囲気が何と言うか……異常にどす黒いなんて言われているよ。」
デュラハンならギルドのメンバーにも何人かいるが、そこまで危ない雰囲気を纏っている奴はいない。
「そいつが何か騒ぎでも起こしているのか?」
噂になるぐらいなら何かしでかしていそうだ。
「ところがね、そいつに出会った人って全員生還しているって話なんだ。話は通じないけど、いきなり剣を構えてくるんだって。それで戦ってそいつが勝ちそうになったら剣を収めて去っていくとか。」
特に命を奪う訳ではないのか。
「そいつに勝った奴は?」
「いないよ。なんでも剣も魔法も全然効かないんだって。ディスペルとかの解呪呪文も効かないから魔道障壁の類じゃないらしいけど。」
旧世代の容貌に物魔両耐性ね……。
「どう見てもアレだな。」
『間違いありませんね。』
俺らが一人納得しているとニータが手を差し出してきた。
「あぁ、情報料だな。ほら。」
俺はニータに銀貨を数枚と……。
「特別ボーナスだ。」
ある料理屋の割引券を渡す。
「ラクトキッチンの優待券!?これ殆ど手に入らないのに!」
乳製品メインの料理屋だ。ホルスタウロスが経営しているため、その味は格別だとか。
「さっきみたいな旧世代の魔物の情報があれば渡すよ。今はそれ一枚しか無いけどな。」
こいつはエサみたいなものだ。
これが手に入るならニータ、いや殆どのラージマウスは血眼になって情報を探すだろう。
「こうしちゃいられない!早く行かなきゃ!」
ニータは脱兎……ではなく脱鼠の如くギルドを飛び出して行った。
と、ズボンを引っ張る感触が。
「あに〜」
メイだった。メイは物欲しそうな目でこちらを見ている!
「ほれ。」
俺はズボンのポケットから飴を取り出すとメイに渡す。
「わ〜♪」
彼女は嬉しそうに飴を頬張ると俺の膝の上に座った。
『メイが仲間になりました。』
「もう既に仲間だろ。」
〜クエスト開始〜
―首無し騎士の正体―
『首無し騎士の噂についてはもう知っているわね?実はそいつはギルド内でも問題になっていて、近場のクエストを受けた冒険者がよく巻き込まれるのよ。命は奪われなくても戦った後はボロボロだからその日は仕事にならないの。__________________________
私としても頭が痛いし、例のアレの可能性もあるから調査して欲しいの。__________
あと、行くときは必ず誰かを連れていくこと。この間みたいに動けなくなったりしても知らないわよ?
_______________モイライ冒険者ギルド支部 ギルド長 ミリア=フレンブルク』
「ミリアさんってこの噂知っていたのか……。」
「ギルド内じゃ割と有名な話ですよ?知りませんでした?」
優待券無駄にしたかもしれん。
「よく出没する場所はモイライ近辺の草原ですね。でも現れる場所は一定ではなくて、森へ続く道だったり、別の町へ続く街道だったりと色々です。前兆があればいいのですが……」
「前兆……ね。」
「フィー、今は暇か?」
俺はギルドで暇を持て余していたらしいフェルシアに声を掛ける。
「む、今日は丁度よさそうな仕事が無かったからな。試合ならばいつでも受けるぞ?」
こいつはまだ俺と戦うつもりでいるらしい。
「試合といえば試合だが、相手は俺じゃない。一緒に来てほしいクエストがあるんだ。」
俺はクエストの内容をフィーに話す。
「(ここで共に行くと言えば好感度アップ……しかしもう一捻りが欲しい。)」
彼女は何かを考え込んでいる。
「例の騎士の話か。一度私も手合わせをしてみたいと思っていたのだ。だが……。」
「だが?何か条件があるのか?」
「うむ、クエストが終わったら……その、だな。どこかに一緒に出かけて欲しいのだ。」
これは……。
「デートか?」
「いや、そうではなくてだな、ええと……」
要領を得ない。いや、プライドの高いフィーの事だ。
「次のクエストに付き合って欲しいって事か?なら別に構わないぞ?」
助け舟を出す俺。うん、優しい。
「あ、あぁそうだ。何か大きなクエストを受けてみたいと思っていたところなんだ。(何を言っているんだ私は!そういう事ではないだろうが!)」
結局わたわたと何かを言いたそうだったが、付いて来てくれる事になった。
〜モイライ郊外 うたたねの草原〜
「なんだか結局デートっぽくなってないか?」
武器こそ携行しているものの、俺の右手にはバスケット。中はハードブレッド(フランスパンのようなもの)で作ったサンドイッチが入っている。
空はよく晴れて、うららかな日差しが眠気を誘う。
草原の名前の由来通り、あちこちではホルスタウロスやワーシープ、放牧された羊や牛が昼寝を楽しんでいる。
何をしている?と言われたらピクニックとでも答えられそうだ。
「どこで遭遇するかわからんからな。昼食は必要だろうし、長期戦の覚悟で挑むぞ。」
遭遇しなきゃこれがあと何日も続くのか……。
昼になり、昼食を食べる。例の騎士は姿を表す気配がない。
「これは……意外といけるな。」
フィーは俺の作ったサンドイッチを美味そうに頬張っている。
トカゲの気持ちも尻尾に表れるのだろうか、終始ウネウネと動いていた。
「おかしいな……血なまぐさい修羅場が繰り広げられると覚悟していたのに物凄く平和だぞ?」
どす黒いオーラを放つ騎士は出てこない。馬車が何台かと、旅人が通り過ぎたぐらいのものだ。
昼食を食べて一休みしていた頃、一匹のワーシープがごろごろとこちらに転がってきた。
寝相が悪いワーシープなのだろうか?俺にぶつかるとようやく止まった。
「……ふぁ……」
急に眠くなる。
『シープ族獣人型ワーシープ。彼女たちの毛には催眠効果があり、接触すると睡眠状態に陥ることがあります。』
「あぁ……そうかい。」
もう答えるのも億劫だ……寝よ。
あぁ、仕事の最中なのにデート気分が止まらない。お前はどう思っているのだ?アルテア。楽しいのか?嬉しいのか?
「なぁ、アルテア。今日はもう調査はやめてこのままのんびり過ごしても……」
彼の方へ振り返る。さぞ穏やかの表情で……
「ぐご〜……」
昼寝をしているワーシープに抱きついて惰眠を貪っていた。
「……」
『フェルシア様には寝取られ属性はおありでしたか?』
「無い!」
「(痛い……)」
時刻は夕暮れ時。
何故か頭がガンガンし、頬がヒリヒリする。服も若干乱れているのだが、そこまで寝相が悪かっただろうか?
「なぁ、フィー。俺って寝ている間ゴロゴロ転がりまくってた?」
「知らん。私に聞くな。」
何故かフィーは物凄く不機嫌だ。
「あぁ、悪かったな。勝手に寝た事を怒ってるんだろ?」
アイツって結構真面目だしな。一応謝っておこう。
「別に怒っている訳ではない。ただ……」
「仕事中に寝るのは良くないよな。今度から気をつけるよ。」
何故かガックリ肩を落とすフィー。何か気に触ったのだろうか?
「あ、あぁ。気をつけてくれ。あそこまでグッスリ寝られると何かに襲われたときに抵抗出来ない。(そうだ、抵抗できないならその隙に既成事実を作ってしまえばよかったのに……バカか私は……!)」
今度は頭を掻き毟り始めた。見ている分には面白いが、何を考えているかがよくわからない。
結局この日は何も見つからず、ギルドへ引き返して行った。
〜翌日〜
「さぁ今日も張り切って調査開始だ!」
「テンション高いな……あんた。」
意気揚々と先頭を歩くフィー。
その後ろにバスケットをぶら下げながら歩く俺。
「今日は聞き込みもやってみないか?もしかしたら何かヒントが掴めるかもしれない。」
「それは言えてるな。」
ますます昨日がただのピクニックだったように思えてきた。
「……聞き込みをするんじゃなかったのか?」
「仕方が無いだろう。話が通じるどころか話もできないのだから……。」
ホルスタウロス、ワーシープ共にグースカ眠り込んでいて返答なし。
無論ただの牛や羊に話を聞く訳にもいかず、かといって今日は馬車も旅人も見かけなかった。
昼食を取り、聞き込みを開始するも成果は芳しくない。旅人も通りかかるにはかかったが、有用な情報は持っていなかった。
「手詰まりだな……。」
「ていうか第一、このだだっ広い草原の中から出現地点特定しろとか無理だろ。」
辺り一面に広がる草原。気持よく吹きつける風。
起きだして移動を開始するホルスタウロスとワーシープ達。
「……へ?」
これだけ気持よく昼寝ができそうな環境なのに、『起きだして』いる。
「お、おいちょっと。」
そこいらを歩いていたワーシープを呼び止める。
「はい〜?なんですか〜?」
非常にのんびりと、しかしどこか焦っている感じがする。
「何でいきなり起きだしたんだ?さっきまで寝ていたのに。」
彼女は口元に手を当てて、考えこむように首を傾げると、何かに思い当たったように手を叩いた。
「寝にくいんです〜。」
万年安眠魔獣のワーシープが寝にくいと申すか。
「いつも〜、あれが来る前は〜、眠れなくなっちゃうんですよ〜?」
あれ?まさか……。
「あれってのは……」
「もうすぐ〜くると〜思いますよ〜?」
そう言うと彼女はよたよたと去っていった。
草原には、魔物はおろか、動物や虫達までもいなくなっていた。
「こいつは……来るか?」
「むしろ来ないほうがおかしいだろう。いやはや、野生の勘というのは恐ろしいものだな。」
急に辺りの空気が重くなる。高度な意思のある生物が放つプレッシャー。全ての物を凍りつかせる殺意。まとわりつくように漂う不気味な空気。
<カツ……カツ……カツ……>
後ろの方から足音が聞こえてくる。この草原には隠れるような場所など無いはずなのに死角をついて現れたのだ。
「これは、振り返るべきだよな?」
「むしろ振り返らないと殺されそうだな。」
意を決して振り返ると、
「…………」
禍々しい鎧に身を包み、自らの首を小脇に抱え、身の丈ほどの大剣を片手で持つ黒騎士が立っていた。
戦慄と恐怖の権化が、そこにいた。
騎士は俺達の前で仁王立ちを決め込んでいる。今の所襲いかかってくる気配はないのだが……。
「よ、よう。お前、話はできるか?」
「……。」
無言。
「出来ればなぜいろんな奴に戦いを挑んでいるのか聞きたいんだが……。」
「……。」
寡黙。
「人にだって事情があるだろ?誰彼構わず襲いかかっちゃ迷惑だと思わないか?」
「……。」
黙秘。
「だんだんと壁に話しかけたほうがマシに思えてきたぞ……。」
げんなりとする俺。それに対しフィーはというと……。
「戦士ならば語るに言葉はいらぬ。そういうことだろう?騎士の。」
フィーが剣を抜いて構えると、騎士も剣を構えた。片手で。
「君ら肉体言語しかできんのか!?」
フィーが浅く腰を落とし、攻撃態勢を取る。
「我はフェルシア=グリーン。戦士ガルド=グリーンとマリア=グリーンの娘。いざ尋常に、勝負!」
旧時代的な名乗りと共にフィーが突っ込んでいく。
「あぁ、もう。これだから頭の中が古い人ってのは!」
『どうしますか?』
フィーは騎士を相手に大立ち回りをしているが……。
「なぜだ!?なぜ鎧に傷ひとつつかぬ!」
強固なフルプレート+バリアフィールドには傷など付くはずもなく。
「脳筋はどうにもならないとして、あのフルプレートはどうにかしたいな。あれじゃおそらくゴーレムの装甲みたいにかち割らないとHHシステムは使えないだろう。」
『分厚い装甲を貫くのであればパイルバンカーなどの強力な貫通兵器や単分子カッターなどの切断兵器などが使えると推測します。』
ラプラスが武器の提案をしてくる。勝手に出さないのは俺と審議中だからだろう。
「んなこと言ってもあれじゃ近づいただけでなます切りにされるぞ?うまく受け流したところで弐の太刀でお陀仏だ。」
俺が後方で何を使うか話し合っていると、
「おいアルテア!そこで呆けていないで手伝ってくれ!こいつ剣が効かない!」
「それを効くようにするために考えているんだろうが。もう少し押さえていてくれ。」
「無茶を……」
殺しとくか。
「愛しているぜ、フィー」
サムズアップ。
「やってみよう。全力を尽くすぞ、私は。」
『これは酷い女たらし。』
「要するに身動きさえ取れなければ近接兵器は打ち込み放題な訳だな。」
『肯定。E-クリーチャー化したデュラハンがどれほどの腕力を秘めているかは不明ですが、拘束が可能であればそれに越したことは無いと思われます。』
となると……。
「バインディングネットで足元を拘束してアンカーバルーンで動きを封じるか?網はともかく、粘着性のボールにまで腕力で対処できるとは思えない。」
『作戦を審議…承認しました。E-Weapon<バインディングネット>展開。』
作戦が決まれば、ラプラスの行動は早い。すぐさま武器の展開と調整が始まる。
『拘束網の展開角は40度程度。相手の足元より2メートルほど手前に撃ち込んでください。拘束確認後、すぐさまアンカーバルーンの展開を開始します。』
展開された砲身を騎士に向ける。
「フィー、もういいぞ。離れてろ。」
彼女が離脱体勢に入る前に発射。
「離れる前に撃つ馬鹿がいるか!?」
そう言いながらもきっちり逃げているフィー。流石である。
着弾したネットは騎士の方向にのみ広がり、足を絡めとっていく。
「……!」
騎士はネットを切り払うが、足に残った分が絡みついてうまく歩けなくなっている。
「もたもたしているともっと動けなくなるぜ?」
『アンカーバルーン展開。』
バインディングネットの砲身が引込み、代わりにバルーンの射出口が出てくる。
「べったべたにしてやるぜ!」
バルーンを連射。フィールドの影響でくっつかないことは分かっている。狙いは直接の拘束ではない。
辺りにバルーンが積み重なっていき、バルーンの檻が出来上がった。剣はフィールドで護られていないのか、粘着剤が付着している。
「さてと……大人しくしていろよ?今元に戻してやるか……ら?」
その時、騎士の持つ剣が巨大化する。元々巨大だった剣は、10メートルに届かんとしていた。
「んなもんどうやって振り回……うぇ!?」
持ち上げて、地面に叩き付ける。衝撃でめくり上がった石畳が俺の体を打ち据える。
「ってぇ……。死にはしないが青タンになるぞ、これ。」
騎士はダダをこねるように巨大な剣を持ち上げては振り下ろしている。そのたびに近くの木がへし折れ、地面が割れ、石畳が破壊される。
「あぁ、もう!駄々っ子禁止だ!」
地面に打ち下ろされる軌道を見切って、アンカーバルーンを直線に配置していく。その上に打ち下ろされた剣はバルーンから抜けなくなった。
『スキャン完了。腹部にエクセルシア反応あり。』
「今度こそ大人しくしていろよ?ちょっと痛いかもしれないけど……な!」
『パイルバンカー』
鵺の先端に付いている杭を騎士の腹に当てる。トリガーを引いて炸薬を炸裂させ、バリアごと鎧を打ち破る。
「このぐらいの出力があれば破れるものなんだな。」
『それが目的で作られた兵器ですから。』
貫いた鎧の奥に黒い肉体―といっても筋肉らしきものは見当たらない―があり、そこにエクセルシアが食い込んでいる。
色は燃えるような赤だ。
「毎回このぐらい簡単ならいいんだがな。」
『そうも行かないでしょう。HHシステム起動。フィールド干渉率100%。ボルトショットシークエンス省略。』
砲身が展開し、純白の杭が出てくる。
『コード『HELL-AND-HEAVEN』発動。You have control。いつでもどうぞ。』
「アイハブ。よっと。」
動けない騎士の腹を杭で突く。見た目的にアレだが、立派な救済活動なんだぜ?
杭の先端がエクセルシアが絡みつき、固定される。
「あらよ……あれ?んぐ……!」
しかし、抜けない。硬い。
「うぐぐぐぐぐぐぐ……!」
片足を押し付けて引き抜こうとするが、抜けない。
「んぐぐぐぐぐぐぐ!」
両足を使って引きぬいてみようとするが、抜けない。
「何をしている?」
俺の不審行動にフィーが近寄ってきた。
「こいつ引き抜くの手伝ってくれ。俺の力じゃ抜けそうもない。」
「ふむ……」
フィーが鵺を片手でつかみ……
「こうか?」
<ブチブチブチブチィ!>
何か致命的な音をさせながら引き抜いた。
「エグ!音がエグ過ぎるよ!」
「お前が引き抜けと言ったのだろうが……。」
あれだけ何かを引き千切る音がしていたにも関わらず、エクセルシアに肉片は一切付いていなかった。
『エクセルシアの回収を確認。格納を行います。』
「おう、こいや!」
気合を入れる俺。
「お前は何をしているんだ……。」
『格納用空間に挿入完了。任務の第一段階、フェーズ5を終了します。』
今回もまともだが……。
『――。エ#セルシア84シ$pm中にha食―――。アリw――pmhbを変質――――シャ。メkバイgae食開ongae。精マla#l!ma?の危険hfgggggg。』
所々文章が途切れている。一体……
「ぐ……があああああああああ!」
頭に莫大な情報が流し込まれ、俺は意識を手放す。
かすれ行く視界の中、フィーの目が見開かれているのを見た。
12/06/07 20:48更新 / テラー
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