第十八話〜潮風と共に〜
<冒険者ギルド ロビー>
「……(シクシク)」
キサラギ医院に避難する前にギルドの連中に捕まった俺は、ギルドのロビーのいつものテーブルでボロボロに傷ついていた。主に精神が。
あの後キサラギ医院にいるところを捕まって夢の内容を暴露させられた俺は、ニータに抱きつかれ、チャルニやフィーに呆れられ、ミリア女史やギルドの連中にひやかされ、ヒロトに何故か肩を叩かれ、アニスちゃんにロリコンがどういうものかを懇切丁寧に説明させられ、エルファにサバトまで引きずられそうになって、今に至る。
ちなみにラプラスは、『全く』フォローを入れなかった事をここに記しておく。
どうやらあいつの生命を護るという事にこれは含まれていないらしい。
「災難だったわね〜♪」
そう言って俺を覗き込んでくるのは先程の桃髪人魚。
「お前が皆を焚きつけたんだろうが……」
突っ込む精神力さえ残されていない俺はガックリとうなだれるだけだった。
「ていうか……誰だお前は?ギルドではお前を見かけたことは無かったはずだが……」
『図鑑データ照会…ヒット。魚類型マーメイド種メロウ。マーメイド種の中でも特に好色で、男女交際の話題に強い興味を持つ種族です』
「あたし?あたしはここに依頼を持ってきただけよん♪まだ誰も受けていないみたいだから良かったら受けてみてね〜♪」
絶対受けたくねぇ……。
〜クエスト開始〜
―消えたシービショップを探して―
『あたしが住んでいる街の近くにはよくシービショップが立ち寄る入江があるのね?
でもここ数カ月、彼女達の姿を見た人っていないのよ。
このままだとどこか遠くの方へ行ってまで彼女たちに会うか、海の魔物達と人は結婚を諦めるしかなくなっちゃうのね。
そこで、彼女たちが来なくなった理由を調べるか、もし彼女たちが何者かに囚われているなら助け出してあげて欲しいの。
もし希望するなら、報酬に人魚の血を上乗せしてあげてもいいわよ♪
サンライズハーバー在住海の魔物一同代表 ピスケス』
「……なぁ、依頼ってこれしか残ってないのか?」
「はい、今日は依頼が割と少なくって他の依頼は全て別の人が受けちゃってます」
マジかよ……。
「逃げまわってた俺が悪いとはいえ……よりによってこいつか」
「私としては嬉しいんですよ?アルテアさんがロリコンなら私に目が向く可能性も……」
「黙ってろモブキャラ」
「酷い!?」
改めて依頼を眺める。
「でも基本的にこれって調査だけだろ?しかも報酬に人魚の血が付くっていったら破格の条件だ。もし原因が誘拐犯の集団とかだったらギルドに協力を要請すりゃ助けを呼べるだろうに。何で残ってたんだ?」
「調査を行う場所が水中も含まれていますからね。水中活動手段も必要ですし、向こうにはギルドもありませんから応援を呼ぶのも難しい、行き帰り以外での転送魔法はお金がかかりますからこちらのギルドに応援要請の手紙を送るのも難しいんですよ。そもそもギルドがありませんからギルド間ミミック通信網は使えませんし……」
「なんじゃそりゃ?」
また聞き慣れない単語が出てくる。
「ボクの事だよー!」
「どわ!?何だぁ!?」
いつもギルドカウンター脇に置かれている宝箱の中から女の子が飛び出す。
「ギルド間ミミック通信網担当のシアちゃんです」
「よろしくー!」
いつも何が入っているんだろうと思ったら魔物だったのか、あれは。
「他のギルドに送りたい手紙とか物資があるならボクに任せてね!通信網用の宝箱が置いてある場所ならどこでも物を送れるから!」
『物資転送用のポータルみたいな物ですか。どの世界でも考えることは同じのようですね』
「基本的にこの宝箱以上の大きさの物は運べないけどね〜……でも箱に入る大きさの物なら一瞬で運べるよ!」
そいつは有り難い。
「そいつは冒険者ギルド以外の場所にも設置されているのか?」
「この街だと一部の商会と魔術師ギルドだね。他の街でも大きいギルドや施設なら置いていることがあるよ。しかも冒険者ギルドに所属しているのなら送料はタダ!ギルドが出してくれているから問題なし!」
彼女は胸を張り、ここが最大のセールスポイントだとでも言うように話す。
「使いたくなったらいつでも宝箱を開けてね〜待ってるから!」
自分で蓋の端っこを掴んで、箱の中に入って閉めてしまった。
「……結構騒がしい奴だったな」
『第一の感想がそれですか』
―ギルド間ミミック通信網が使用可能になりました―
〜魔術師ギルド ギルドマスター執務室〜
「よう、エルファ。今朝は世話になったな」
魔術師ギルドのエルファの執務室に入る。彼女は必死に書類と格闘していた。
「兄様!?遂にサバトへ入る気になったのじゃ!?」
目がキラキラしまくっている。前日比50%アップだ。
「今日はそれとは別件だ。……と思ったが忙しそうだな。他を当たるよ」
水中行動用にエルファを頼ろうと思ったのだが、どうやら事務仕事に追われてそれどころではないらしい。
「大丈夫なのじゃ!兄様の頼みなら仕事を放り出してでも……」
「バフォ様〜追加の書類持ってきました〜」
魔女が執務室にヨロヨロ入ってきて、書類の塔をエルファの机に打ち建てる。
「……」
「……じゃあな」
俺は踵を返すと執務室を後にした。
中からは……エルファの悲痛な叫びが聞こえた。
〜サンライズハーバー〜
「ご利用有難う御座いました。またのご利用をお待ちしております」
「あいよ」
後ろ手にテンプレ魔女に手を振り、旅の館を後にする。
施設を出ると、潮風特有の塩辛い空気が辺りを包み込む。
「海に来た……って感じがするな」
『湿度80%。気温21度。風速5.7m/s。過ごしやすい気候ですが、金属製品の錆に注意しなくてはなりません』
機械のお前にとっちゃ致命的か。
『なお、私の材質は強化プラスチック製なので心配は無用です』
「純粋にただの気象情報だったのか……」
「あ、ヤッホー!」
波止場に行くと、ギルドで会ったメロウ―ピスケスとか言ったか―が泳いでこちらまで近づいてきた。
「依頼受けてくれたんだ。ありがとね♪」
「全く不本意だったんだがな……」
頭が痛くなってきた。思わず頭をガシガシ掻く。その様子が照れ隠しに見えたらしい。
「またまた照れちゃって〜♪あ、もしかして私に気がある気があるんだへぇということで抱きしめる!」
水面からハイジャンプして俺に襲いかかるメロウ。
><その辺に歩いていた奴を適当に捕まえて身代わりにする。><
<投げ技で海へたたき返す。>
<そのまま抱きしめ返す。>
俺はその辺に歩いていた白いフードの男の腕を掴むと、身代わりにしようと前に引っ張り出そうとして……。
<ズン>
脇腹を貫通して何かが突き刺さっている。男の表情は変わらない。
脇腹から赤い何かが溢れ出してくる。あぁ……これは……俺の……血……か……。
―You are Die!!―
なんてことがあるかもしれない。やめておこう。
<その辺に歩いていた奴を適当に捕まえて身代わりにする。>
<投げ技で海へたたき返す。>
><そのまま抱きしめ返す。><
俺は腕を広げて彼女を迎え入れた。
この事がきっかけで、俺は彼女と付き合うことになった。
周りは騒然としたが、誰もが祝福してくれた。
しかし、エクセルシアを回収することが出来ず、現世界の事は諦めざるを得なかった。
―終末の記憶『幸せの代償』―
てことがあるかもしれない。危ない危ない。
<その辺に歩いていた奴を適当に捕まえて身代わりにする。>
><投げ技で海へ叩き返す。><
<そのまま抱きしめ返す。>
俺は彼女の腕を掴み、腰を抱えると自分を軸に一回転させて海へ投げ込んだ。
<ザパァーン!>
「あぁん、もう照れ屋さん♪そんなに恥ずかしがらなくてもいいのにぃ♪」
駄目だこの桃髪人魚。もうどうにもならない。
〜道具屋『潮風』〜
「海中を行動するならやっぱ水中で息ができるような物が欲しいよなぁ……」
商業区にある道具屋を物色する。隣には何故かピスケスがいる。器用に足ヒレを使って歩く様子は純粋に感心した物だが……。
「ねぇねぇ、これ持っていかない?」
棚から取り出したのは……。
「精力剤なんて何に使うんだよ……」
「それを言わせるつもりぃ?もう、エッチ♪」
誰かコイツを止めてくれ。
『前回はエルファ様がいましたが、今回は別途に手段を用意する必要がありそうです』
「ま、それは追々考えよう。他に何が必要だと思う?」
俺が質問を投げかければ、ラプラスは必ず応えてくれる。
いつも弄られるが、基本的には頼れる相棒なのだ。
『岩礁激突時の負傷、海洋生物の毒に対してはパラケルススで十分に対応可能。海水の誤飲時による脱水症状対策および、創傷洗浄用の真水を所持することを提案します』
「んだな」
俺は保冷ボックスからビンに詰められた水をいくつか籠に入れると、カウンターへ持っていく。
「え〜と、水入りのボトルが3つに精力剤が一つね。銀貨28枚だよ」
俺は道具屋の主人に商品の入った紙袋と交換に銀貨と銅貨を渡す。
「まいど。またどうぞ」
道具屋を出た時点で違和感に気づく。
「って何で精力剤が入ってんだよ!?あまりにも違和感がなくて思わず払っちまったよ!」
『気付くのが遅すぎです。マスター』
お前も止めろよ。
隣で奴がニヤニヤしている。こいつの仕業か。
「今すぐ返品……!」
《返品お断り》
「はぁ……」
神様、見ているなら助けてください。
「君、名前は?」
問題の入江を下見するために移動している途中、彼女が訪ねてきた。
「アルテア。アルテア=ブレイナーだ。ただの冒険者だよ」
いつもの名乗り。ただし、特に何も付け加えない。
「ふ〜ん。アルテア君か。あっくんって呼んでいい?」
いきなり砕けすぎだろ。
「好きに呼べばいい」
もうどうでも良くなってきた。彼女は依然ニヤニヤしている。
「んふふ〜♪あ〜っくん♪」
「何だよ」
「呼んだだけ〜♪」
もう嫌だ。
『あっくん』
黙ってろ。
〜縁結びの入江〜
今回使うホテルのチェックインを済ませ、荷物を置いて歩くこと30分。
問題の入江に着いた。現在時刻は夕方の4時半。今は干潮なのか、砂浜が広くなっている。その広い砂浜の波打ち際に近い場所に平たい岩が一つ顔を覗かせている。
「ここはね〜、縁結びの入江って言われているんだよ」
彼女は嬉々として語り出す。
「あの結び岩の上に乗って二人で愛を誓い合うとその二人は永遠に結ばれるって言い伝えがあるんだ〜♪」
「結び岩……ねぇ」
よくある観光地の人寄せ資源だろう。
誰が広めたのかは知らないが、今も何組かのカップルが岩の前で順番待ちをしているところを見るとその目論見は外れていないということなのだろう。
「夕日が照らす海!打ち寄せるさざ波!見つめ合う二人は永遠の愛を誓い合いそして……!きゃ〜!♪」
クネクネと身をわななかせる桃髪人魚。しかし、その言葉の中に違和感を覚えた。
「あの岩は夕方じゃないと出てこないのか?」
「ううん。朝方にも出てくるよ。でも人気は断然夕方の方がいいわね〜」
彼女の言葉を反芻する俺。朝夕二回の満ち干き。夕方に集まる人。結び岩。
「ラプラス、UAVだ。ここらへん一帯の航空写真を撮るぞ」
『了解。UAV展開』
鵺の砲身が開き、中から小型のエアプレーンが覗く。それを上空に射出する。
「うわぁ……なにあれ?鳥?」
「航空監視用の無人探査機だ」
射出されたUAVを通して映像がウィンドウに表示される。
砂浜の全景を写真に収め、UAVを呼び戻して格納する。
「なんだか手品みたいね」
「残念ながら出るのは鳩じゃなく鉄砲玉だがな」
やることを一通り終えた俺は踵を返し入江を後にする。
「あれ?もう行っちゃうの?」
「やることはやった。後は作戦会議だ」
俺が背を向けて歩き始めると、彼女が俺の裾を引っ張ってくる。
「ねねねね!折角来たんだから結び岩の上に乗ってみない?海綺麗だし夕日綺麗だしていうか連れて行く!」
彼女が俺の裾を引っ張ってズルズルと引きずる。ってか力強いな!
「何が折角だからだよ!別にその気ないし朝の件で疲れているし明日も動くだろうから宿取って寝たいんだよ!」
「えぇ!?いきなり寝るのでもあたしはいつでもオールオッケーっていうか今夜は寝かせませんというかそれならさっさといきまsy」
「マテコラ!お前俺の部屋まで上がりこんでくるつもりか!?」
「当然でしょっていうか今日で子供出来ちゃうかも今日危険日だしそうなったら責任取ってもらわなくちゃ子供は何人欲しい私は何人でも全然もんだいn」
「人の話を聞けええええええええ!」
暴走する彼女を押さえつけながらどうやって宿屋に一人で入ろうかと思案する俺だった。
『今回は鎮静剤を所持していません』
おばちゃん助けて。
〜宿屋『波止場のランデブー』〜
「なぜこうなったし」
結局俺は彼女を振り切ることが出来ず、戻って来た部屋も何故かラブホテルじみていて、部屋の中には海の魔物用と思われる水槽が付いていた。というか最初来たときはこんな物置いてなかった筈なのだが。
「〜〜〜〜っ!〜〜〜〜っ!」
俺はつい先程、彼女に襲われないようになぜか部屋に置かれていたロープで縛り付け、水槽に放りこんで放置プレイを決めたところだ。
水槽の中では彼女がもがいている。
『水中緊縛放置プレイですか』
「だまらっしゃい」
俺はベッドに寝転がり、撮影した航空写真を呼び出した。
「この入江の満潮時の海面予想図は出せるか?」
『可能。満潮時の海面予想図を計算中…描写完了。モニターに表示します』
ウィンドウが開き、海面予想図が航空写真に重ねられる。
「あの岩は完全に海の中か……」
海面予想図は結び岩を完全に覆い隠し、その姿を海の底へと沈めている。
『結び岩水没時の水深は約2メートル。人間がすっぽりと覆い隠される深さです』
「ふむ……」
確証は持てないが、朧気ながらにも事件の全容が見えてきた気がする。
「何はともあれ行動は明日の朝だ。5時ぐらいに起こしてくれ」
『了解。タイマーセット完了。おやすみなさいませ、マスター』
「あぁ、おやすみ」
俺は毛布を引き寄せて目を瞑ると、夢の世界へと旅立っていった。
「……ん……?」
時刻は真夜中。下半身を襲う違和感に目を覚ます。
「ん……ちゅ……じゅる……」
毛布の下半身の部分が異常に盛り上がっている。嫌な予感しかしない。
毛布を勢い良く引き剥がすと、
「おい、何をしているんだ」
ピスケスが俺の息子を咥えていた。
「ん?ほふぃふぁ?」
結構前から舐めまわしているのだろうか。俺の息子は今にもはち切れそうなほどいきり立っている。
「起きた?じゃねぇ。お前縛って水槽の中に入れておいたはずだろう」
「ぷはっ!えへへ〜、縄抜けの術〜なんちゃって♪」
水槽にはバラバラに切られたロープ。底のほうにはカミソリが沈んでいる。
「剃毛用のカミソリがあったから縄を切ってみました♪ザ・大脱出!」
「ねぇ」
「何だ」
これ以上拘束しても多分無駄だと悟った俺はとりあえずの応急措置を取った。
自分でも情けないというか、なぜこんな物が宿屋に置いてあるのかとかいろいろ疑問は尽きないが、一応こいつ相手には十分効果を発揮するようだ。
「痛くない?」
「……正直、ちょっと痛い」
俺の股間に貞操帯!勃起すると地味にいてぇ!
尚、鍵は鵺の中に放り込んだ。俺が許可しないと取れないぞザマァミロ。
「……もういい、寝るもん」
「はいよ、おやすみ」
彼女はかぶせてあった毛布を引き剥がすと早々に寝てしまった。
……俺の分の毛布はない。軽く肩をすくめてそのまま寝る事にした。
「……(シクシク)」
キサラギ医院に避難する前にギルドの連中に捕まった俺は、ギルドのロビーのいつものテーブルでボロボロに傷ついていた。主に精神が。
あの後キサラギ医院にいるところを捕まって夢の内容を暴露させられた俺は、ニータに抱きつかれ、チャルニやフィーに呆れられ、ミリア女史やギルドの連中にひやかされ、ヒロトに何故か肩を叩かれ、アニスちゃんにロリコンがどういうものかを懇切丁寧に説明させられ、エルファにサバトまで引きずられそうになって、今に至る。
ちなみにラプラスは、『全く』フォローを入れなかった事をここに記しておく。
どうやらあいつの生命を護るという事にこれは含まれていないらしい。
「災難だったわね〜♪」
そう言って俺を覗き込んでくるのは先程の桃髪人魚。
「お前が皆を焚きつけたんだろうが……」
突っ込む精神力さえ残されていない俺はガックリとうなだれるだけだった。
「ていうか……誰だお前は?ギルドではお前を見かけたことは無かったはずだが……」
『図鑑データ照会…ヒット。魚類型マーメイド種メロウ。マーメイド種の中でも特に好色で、男女交際の話題に強い興味を持つ種族です』
「あたし?あたしはここに依頼を持ってきただけよん♪まだ誰も受けていないみたいだから良かったら受けてみてね〜♪」
絶対受けたくねぇ……。
〜クエスト開始〜
―消えたシービショップを探して―
『あたしが住んでいる街の近くにはよくシービショップが立ち寄る入江があるのね?
でもここ数カ月、彼女達の姿を見た人っていないのよ。
このままだとどこか遠くの方へ行ってまで彼女たちに会うか、海の魔物達と人は結婚を諦めるしかなくなっちゃうのね。
そこで、彼女たちが来なくなった理由を調べるか、もし彼女たちが何者かに囚われているなら助け出してあげて欲しいの。
もし希望するなら、報酬に人魚の血を上乗せしてあげてもいいわよ♪
サンライズハーバー在住海の魔物一同代表 ピスケス』
「……なぁ、依頼ってこれしか残ってないのか?」
「はい、今日は依頼が割と少なくって他の依頼は全て別の人が受けちゃってます」
マジかよ……。
「逃げまわってた俺が悪いとはいえ……よりによってこいつか」
「私としては嬉しいんですよ?アルテアさんがロリコンなら私に目が向く可能性も……」
「黙ってろモブキャラ」
「酷い!?」
改めて依頼を眺める。
「でも基本的にこれって調査だけだろ?しかも報酬に人魚の血が付くっていったら破格の条件だ。もし原因が誘拐犯の集団とかだったらギルドに協力を要請すりゃ助けを呼べるだろうに。何で残ってたんだ?」
「調査を行う場所が水中も含まれていますからね。水中活動手段も必要ですし、向こうにはギルドもありませんから応援を呼ぶのも難しい、行き帰り以外での転送魔法はお金がかかりますからこちらのギルドに応援要請の手紙を送るのも難しいんですよ。そもそもギルドがありませんからギルド間ミミック通信網は使えませんし……」
「なんじゃそりゃ?」
また聞き慣れない単語が出てくる。
「ボクの事だよー!」
「どわ!?何だぁ!?」
いつもギルドカウンター脇に置かれている宝箱の中から女の子が飛び出す。
「ギルド間ミミック通信網担当のシアちゃんです」
「よろしくー!」
いつも何が入っているんだろうと思ったら魔物だったのか、あれは。
「他のギルドに送りたい手紙とか物資があるならボクに任せてね!通信網用の宝箱が置いてある場所ならどこでも物を送れるから!」
『物資転送用のポータルみたいな物ですか。どの世界でも考えることは同じのようですね』
「基本的にこの宝箱以上の大きさの物は運べないけどね〜……でも箱に入る大きさの物なら一瞬で運べるよ!」
そいつは有り難い。
「そいつは冒険者ギルド以外の場所にも設置されているのか?」
「この街だと一部の商会と魔術師ギルドだね。他の街でも大きいギルドや施設なら置いていることがあるよ。しかも冒険者ギルドに所属しているのなら送料はタダ!ギルドが出してくれているから問題なし!」
彼女は胸を張り、ここが最大のセールスポイントだとでも言うように話す。
「使いたくなったらいつでも宝箱を開けてね〜待ってるから!」
自分で蓋の端っこを掴んで、箱の中に入って閉めてしまった。
「……結構騒がしい奴だったな」
『第一の感想がそれですか』
―ギルド間ミミック通信網が使用可能になりました―
〜魔術師ギルド ギルドマスター執務室〜
「よう、エルファ。今朝は世話になったな」
魔術師ギルドのエルファの執務室に入る。彼女は必死に書類と格闘していた。
「兄様!?遂にサバトへ入る気になったのじゃ!?」
目がキラキラしまくっている。前日比50%アップだ。
「今日はそれとは別件だ。……と思ったが忙しそうだな。他を当たるよ」
水中行動用にエルファを頼ろうと思ったのだが、どうやら事務仕事に追われてそれどころではないらしい。
「大丈夫なのじゃ!兄様の頼みなら仕事を放り出してでも……」
「バフォ様〜追加の書類持ってきました〜」
魔女が執務室にヨロヨロ入ってきて、書類の塔をエルファの机に打ち建てる。
「……」
「……じゃあな」
俺は踵を返すと執務室を後にした。
中からは……エルファの悲痛な叫びが聞こえた。
〜サンライズハーバー〜
「ご利用有難う御座いました。またのご利用をお待ちしております」
「あいよ」
後ろ手にテンプレ魔女に手を振り、旅の館を後にする。
施設を出ると、潮風特有の塩辛い空気が辺りを包み込む。
「海に来た……って感じがするな」
『湿度80%。気温21度。風速5.7m/s。過ごしやすい気候ですが、金属製品の錆に注意しなくてはなりません』
機械のお前にとっちゃ致命的か。
『なお、私の材質は強化プラスチック製なので心配は無用です』
「純粋にただの気象情報だったのか……」
「あ、ヤッホー!」
波止場に行くと、ギルドで会ったメロウ―ピスケスとか言ったか―が泳いでこちらまで近づいてきた。
「依頼受けてくれたんだ。ありがとね♪」
「全く不本意だったんだがな……」
頭が痛くなってきた。思わず頭をガシガシ掻く。その様子が照れ隠しに見えたらしい。
「またまた照れちゃって〜♪あ、もしかして私に気がある気があるんだへぇということで抱きしめる!」
水面からハイジャンプして俺に襲いかかるメロウ。
><その辺に歩いていた奴を適当に捕まえて身代わりにする。><
<投げ技で海へたたき返す。>
<そのまま抱きしめ返す。>
俺はその辺に歩いていた白いフードの男の腕を掴むと、身代わりにしようと前に引っ張り出そうとして……。
<ズン>
脇腹を貫通して何かが突き刺さっている。男の表情は変わらない。
脇腹から赤い何かが溢れ出してくる。あぁ……これは……俺の……血……か……。
―You are Die!!―
なんてことがあるかもしれない。やめておこう。
<その辺に歩いていた奴を適当に捕まえて身代わりにする。>
<投げ技で海へたたき返す。>
><そのまま抱きしめ返す。><
俺は腕を広げて彼女を迎え入れた。
この事がきっかけで、俺は彼女と付き合うことになった。
周りは騒然としたが、誰もが祝福してくれた。
しかし、エクセルシアを回収することが出来ず、現世界の事は諦めざるを得なかった。
―終末の記憶『幸せの代償』―
てことがあるかもしれない。危ない危ない。
<その辺に歩いていた奴を適当に捕まえて身代わりにする。>
><投げ技で海へ叩き返す。><
<そのまま抱きしめ返す。>
俺は彼女の腕を掴み、腰を抱えると自分を軸に一回転させて海へ投げ込んだ。
<ザパァーン!>
「あぁん、もう照れ屋さん♪そんなに恥ずかしがらなくてもいいのにぃ♪」
駄目だこの桃髪人魚。もうどうにもならない。
〜道具屋『潮風』〜
「海中を行動するならやっぱ水中で息ができるような物が欲しいよなぁ……」
商業区にある道具屋を物色する。隣には何故かピスケスがいる。器用に足ヒレを使って歩く様子は純粋に感心した物だが……。
「ねぇねぇ、これ持っていかない?」
棚から取り出したのは……。
「精力剤なんて何に使うんだよ……」
「それを言わせるつもりぃ?もう、エッチ♪」
誰かコイツを止めてくれ。
『前回はエルファ様がいましたが、今回は別途に手段を用意する必要がありそうです』
「ま、それは追々考えよう。他に何が必要だと思う?」
俺が質問を投げかければ、ラプラスは必ず応えてくれる。
いつも弄られるが、基本的には頼れる相棒なのだ。
『岩礁激突時の負傷、海洋生物の毒に対してはパラケルススで十分に対応可能。海水の誤飲時による脱水症状対策および、創傷洗浄用の真水を所持することを提案します』
「んだな」
俺は保冷ボックスからビンに詰められた水をいくつか籠に入れると、カウンターへ持っていく。
「え〜と、水入りのボトルが3つに精力剤が一つね。銀貨28枚だよ」
俺は道具屋の主人に商品の入った紙袋と交換に銀貨と銅貨を渡す。
「まいど。またどうぞ」
道具屋を出た時点で違和感に気づく。
「って何で精力剤が入ってんだよ!?あまりにも違和感がなくて思わず払っちまったよ!」
『気付くのが遅すぎです。マスター』
お前も止めろよ。
隣で奴がニヤニヤしている。こいつの仕業か。
「今すぐ返品……!」
《返品お断り》
「はぁ……」
神様、見ているなら助けてください。
「君、名前は?」
問題の入江を下見するために移動している途中、彼女が訪ねてきた。
「アルテア。アルテア=ブレイナーだ。ただの冒険者だよ」
いつもの名乗り。ただし、特に何も付け加えない。
「ふ〜ん。アルテア君か。あっくんって呼んでいい?」
いきなり砕けすぎだろ。
「好きに呼べばいい」
もうどうでも良くなってきた。彼女は依然ニヤニヤしている。
「んふふ〜♪あ〜っくん♪」
「何だよ」
「呼んだだけ〜♪」
もう嫌だ。
『あっくん』
黙ってろ。
〜縁結びの入江〜
今回使うホテルのチェックインを済ませ、荷物を置いて歩くこと30分。
問題の入江に着いた。現在時刻は夕方の4時半。今は干潮なのか、砂浜が広くなっている。その広い砂浜の波打ち際に近い場所に平たい岩が一つ顔を覗かせている。
「ここはね〜、縁結びの入江って言われているんだよ」
彼女は嬉々として語り出す。
「あの結び岩の上に乗って二人で愛を誓い合うとその二人は永遠に結ばれるって言い伝えがあるんだ〜♪」
「結び岩……ねぇ」
よくある観光地の人寄せ資源だろう。
誰が広めたのかは知らないが、今も何組かのカップルが岩の前で順番待ちをしているところを見るとその目論見は外れていないということなのだろう。
「夕日が照らす海!打ち寄せるさざ波!見つめ合う二人は永遠の愛を誓い合いそして……!きゃ〜!♪」
クネクネと身をわななかせる桃髪人魚。しかし、その言葉の中に違和感を覚えた。
「あの岩は夕方じゃないと出てこないのか?」
「ううん。朝方にも出てくるよ。でも人気は断然夕方の方がいいわね〜」
彼女の言葉を反芻する俺。朝夕二回の満ち干き。夕方に集まる人。結び岩。
「ラプラス、UAVだ。ここらへん一帯の航空写真を撮るぞ」
『了解。UAV展開』
鵺の砲身が開き、中から小型のエアプレーンが覗く。それを上空に射出する。
「うわぁ……なにあれ?鳥?」
「航空監視用の無人探査機だ」
射出されたUAVを通して映像がウィンドウに表示される。
砂浜の全景を写真に収め、UAVを呼び戻して格納する。
「なんだか手品みたいね」
「残念ながら出るのは鳩じゃなく鉄砲玉だがな」
やることを一通り終えた俺は踵を返し入江を後にする。
「あれ?もう行っちゃうの?」
「やることはやった。後は作戦会議だ」
俺が背を向けて歩き始めると、彼女が俺の裾を引っ張ってくる。
「ねねねね!折角来たんだから結び岩の上に乗ってみない?海綺麗だし夕日綺麗だしていうか連れて行く!」
彼女が俺の裾を引っ張ってズルズルと引きずる。ってか力強いな!
「何が折角だからだよ!別にその気ないし朝の件で疲れているし明日も動くだろうから宿取って寝たいんだよ!」
「えぇ!?いきなり寝るのでもあたしはいつでもオールオッケーっていうか今夜は寝かせませんというかそれならさっさといきまsy」
「マテコラ!お前俺の部屋まで上がりこんでくるつもりか!?」
「当然でしょっていうか今日で子供出来ちゃうかも今日危険日だしそうなったら責任取ってもらわなくちゃ子供は何人欲しい私は何人でも全然もんだいn」
「人の話を聞けええええええええ!」
暴走する彼女を押さえつけながらどうやって宿屋に一人で入ろうかと思案する俺だった。
『今回は鎮静剤を所持していません』
おばちゃん助けて。
〜宿屋『波止場のランデブー』〜
「なぜこうなったし」
結局俺は彼女を振り切ることが出来ず、戻って来た部屋も何故かラブホテルじみていて、部屋の中には海の魔物用と思われる水槽が付いていた。というか最初来たときはこんな物置いてなかった筈なのだが。
「〜〜〜〜っ!〜〜〜〜っ!」
俺はつい先程、彼女に襲われないようになぜか部屋に置かれていたロープで縛り付け、水槽に放りこんで放置プレイを決めたところだ。
水槽の中では彼女がもがいている。
『水中緊縛放置プレイですか』
「だまらっしゃい」
俺はベッドに寝転がり、撮影した航空写真を呼び出した。
「この入江の満潮時の海面予想図は出せるか?」
『可能。満潮時の海面予想図を計算中…描写完了。モニターに表示します』
ウィンドウが開き、海面予想図が航空写真に重ねられる。
「あの岩は完全に海の中か……」
海面予想図は結び岩を完全に覆い隠し、その姿を海の底へと沈めている。
『結び岩水没時の水深は約2メートル。人間がすっぽりと覆い隠される深さです』
「ふむ……」
確証は持てないが、朧気ながらにも事件の全容が見えてきた気がする。
「何はともあれ行動は明日の朝だ。5時ぐらいに起こしてくれ」
『了解。タイマーセット完了。おやすみなさいませ、マスター』
「あぁ、おやすみ」
俺は毛布を引き寄せて目を瞑ると、夢の世界へと旅立っていった。
「……ん……?」
時刻は真夜中。下半身を襲う違和感に目を覚ます。
「ん……ちゅ……じゅる……」
毛布の下半身の部分が異常に盛り上がっている。嫌な予感しかしない。
毛布を勢い良く引き剥がすと、
「おい、何をしているんだ」
ピスケスが俺の息子を咥えていた。
「ん?ほふぃふぁ?」
結構前から舐めまわしているのだろうか。俺の息子は今にもはち切れそうなほどいきり立っている。
「起きた?じゃねぇ。お前縛って水槽の中に入れておいたはずだろう」
「ぷはっ!えへへ〜、縄抜けの術〜なんちゃって♪」
水槽にはバラバラに切られたロープ。底のほうにはカミソリが沈んでいる。
「剃毛用のカミソリがあったから縄を切ってみました♪ザ・大脱出!」
「ねぇ」
「何だ」
これ以上拘束しても多分無駄だと悟った俺はとりあえずの応急措置を取った。
自分でも情けないというか、なぜこんな物が宿屋に置いてあるのかとかいろいろ疑問は尽きないが、一応こいつ相手には十分効果を発揮するようだ。
「痛くない?」
「……正直、ちょっと痛い」
俺の股間に貞操帯!勃起すると地味にいてぇ!
尚、鍵は鵺の中に放り込んだ。俺が許可しないと取れないぞザマァミロ。
「……もういい、寝るもん」
「はいよ、おやすみ」
彼女はかぶせてあった毛布を引き剥がすと早々に寝てしまった。
……俺の分の毛布はない。軽く肩をすくめてそのまま寝る事にした。
14/01/27 13:49更新 / テラー
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