連載小説
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第二話〜「装備の使い方解ってんのか?」「大丈夫だ、問題ない」〜
夕焼けの空にカラスが鳴いている。あの後少女は身体中が真っ白になるほど俺を絞りつくした後、満足そうに立ち去っていった。

「……腹ぁ減ったな」

身体中何かの液体まみれで脱力する俺。指1本動かせない。
しかしこのまま倒れていては次に何に襲われるかわからない。
先程のように命を取らないような相手ばかりとは限らない。狼でも出てきたら即アウトである。
何とかして気力を振り絞り、脱ぎ散らかされた衣服を着ていく。

「この服……」

青いジャケットを拾い上げる。胸のワッペンにはカドクラ運輸の文字。

「フェンリルのジャケット……?」

待て、俺は今何と言った?

「……フェンリルって何だ?」

フェンリル。北欧神話に出てくる狼の怪物。しかしそれとは別の意味を俺は知っている?しかしそれ以上何も浮かんでくる事はなく……。

「気にしていても仕方がない、か」

不意に背後から足音が聞こえてくる。振り向くと……。

「トカゲ女?」
「失敬な」

鱗でできた鎧を着込んだ女性が歩いて来ている。尻尾付きの。
手には例の銃を片手に無造作に掴んでいる。

「これは君のか?」

そのまま銃を差し出してくる女性。て言うか片手ですか。それなりに重量があったはずなのだけれど。

「あ、あぁ済まない。拾ってくれてありがとう」
「随分と変わった杖……いや、棍棒か?それは」

尻尾を揺らしながら怪訝そうに銃を見つめてくる彼女。その尻尾は本物だったのか。

「確かに棍棒にはなるけれど」

受け取り、両手で構えて見せる。

「これは銃……といっても型番がわからないが、とりあえず弾を飛ばして相手に当てる武器だな」
「銃?弾を飛ばす?」
「……多分」

正直自信がない。なんせ火を吹いたし杭撃ち出したし。

「武器ということは、君は戦士か?」

うわ、目がすげぇキラキラしているよこの人。

「コレを持っていたってことは少なくとも戦う人だったのだろうな、俺は」
「強いのか?」

さらに詰め寄ってくる。少し暑苦しい。

「知らないよ。戦った記憶なんて無いから」
「記憶がない?」

また怪訝そうな顔に戻る彼女。まぁよくもころころと表情が変わる人だ。

「記憶喪失って奴かな?空から落ちてくる前の記憶が無いんだ」
「空から?」
「空から」

コラ、不審人物を見るような目をするんじゃありません。

「ハーピーか何かにでも落とされたのか?」
「ハーピー?物語か何かに出てくるアレ?」
「どの物語かは知らないが人と鳥を足して2で割ったようなそれだ」
実在するのか。

「まぁ何はともあれ君の話を聞くのは後回しにしよう。ここはまだ街から遠い」

彼女は背負っていた荷を地面に置くと、色々と取り出し始めた。

「どの道そろそろ野宿の準備をしようと思っていたところだ。君も……あ〜」
「アルテアだ。アルテア=ブレイナー」
「アルテアか。フェルシア、フェルシア=グリーンという」

話す間にも鍋だの三脚だの色々と取り出していく。あの鞄はどういう構造をしているのやら。

「一緒に夜を明かすといい。夜中にスライムに襲われて干からびたくはないだろう」
「……」

フェルシアさん、もう手遅れです。

「話し相手がいれば夜も一人より寂しくないだろうしな」
「それは同感」

苦笑しつつ、野宿の準備を手伝う。不思議なほど自然と手が動いたのはこういう経験を何度もしているからだろうか。



「――という訳」

俺はナイフを貸してもらい、脱いだ靴底のゴムを削って溝を彫りながら経緯を説明した。

「それはまぁ……災難だったな」

同情するなら……別に何もいらないか。
ひと通り顛末を話し終え、この世界の事―魔物や現魔王、この世界の仕組みや教会連中の事など―を説明してもらい、改めて自分の境遇に溜息をつく。

「なんというか……自分の中の常識が音を立てて崩れていくのを感じるよ」

某極東の国の石頭議員が聞いたら真っ先に潰しに掛かりそうな世界ですこと。

「極稀に別の世界から来た人間の話を聞くが、皆似たような反応をするらしいな」
「でも俺はまだ別の世界から来たと決まったわけじゃないぞ?」

そう、その「別の世界から来た」という人達は「別の世界」の記憶を持っているから自分とは違う世界だと認識できた訳だが、自分には「前にいた世界」の記憶がない。

「少なくとも君の持つその武器はこの世界では見たことがない、というよりこの世界の技術では作れないだろう」
「ふむ……」

確かに剣とか魔法とかの純ファンタジー世界ではこんなオーバーテクノロジーの産物は作れないだろう。

「そもそもその武器は一体何が出来るのだ?」
「何って弾を……」
「しかし私は実際にそれを見たことがない。ならば実際に使ってみてもらえないだろうか」

それならば、ということでウィンドウを開く。

「(どれを使ったものか……)」

試しに砲身に意識を集中してみると兵装のリストが開く。

「(火炎放射器に地対地ミサイル……大口径レーザーライフルにガトリングガン……って物騒なものばかりだな)」

第一どこにそんなものを搭載するスペースがあるというのだ。
リストをスクロールしていくうちに一つの項目が目に留まる。

「こいつなら大丈夫か……」

兵装を選択。砲身を真上に向け、トリガーを引く。
<バシュ!>

何かを噴射するような音を響かせながら光の帯が空へと向かい伸びていく。光の帯?
その発射された何かは数十メートルの距離を上がった後、強烈な光をまき散らしながら炸裂した。
辺りはさながら昼間のように照らし出され、面食らうフェルシアの顔がよく見えた。

「今のは何だ?ジパングの花火のようだったが……」

驚きながらもその表情は好奇心で輝いていた。

「照明弾って奴だ。上空に打ち上げて辺りを照らす奴」

数十秒も経つとその光は薄れていき、そして消えていった。

「これは凄いな……まるで魔法みたいだ」

実際はただの照明用の兵装なのだが驚いてくれたみたいなのでこれでよしとしよう。

「で、それの銘は何というのだ?」

そういえば詳しい型番を見ていない。
焚き火の頼りない光であちこち探して見つけた文字が

「……鵺?」
「ヌエ?」

銃の側面に漢字が一文字。正体不明の化物の名前が彫りこんであった。

「どういう意味だ?」
「正体不明、謎の未確認生命体」
「それはまた言い得て妙だな」

確かに言えている。性能不明、製作元不明であれば使用技術も不明。

「それを使ってお前はどのように戦うのだろうな……」

怪しい笑みを浮かべながら―それも舌なめずりをせんという勢いで―彼女はそう呟いた。



翌朝

「どうしてこうなった……」

俺は例の武器『鵺』を構えてフェルシアと対峙していた。
彼女曰く『戦士ならばその力量を見てみたい』との事だったが、

「(あの目は三十路を前に結婚相手を見つけようと必死になっている女の目だ……!)」

10メートルほど離れた場所で彼女は軽く準備運動をしている。というか目が怖い。

「どうしてもやるのか?」

あまり乗り気ではない俺。
なんというかうっかり勝ってしまうと大変な目に遭いそうな気がする。

「当然。目の前に戦士がいて力比べをせずして何が戦士か」

ノリノリである。
彼女の得物はショートソードだ。
短い剣と侮るなかれ。短いと言うことはその分取り回しが良いという事だ。リーチに劣るが、その分搦め手や高速斬撃、隙の少ない刺突などがしやすい武器である。
俺は『鵺』の装備を軽くチェックする。

「(さすがに対人でミサイルはまずいよな……)」

いくつかあるリストをスクロールしていく

「(人に向けても問題ない武器は……と)」
『模擬戦闘用の非殺傷兵器を設定しますか?』

新たにダイアログボックスが立ち上がり、メッセージが表示される。

「賢いもんだなぁ……」

しかし承認のためのボタンらしきものが見当たらない
試しに音声による回答を試みることにする。

「た、頼む」
『了解。兵装を模擬戦闘用に設定しました。』

今まで立ち上げていたリストが閉じ、新しくリストが表示される。

「(跳弾を主目的に置いたゴム弾にテイザーに……コレはフラッシュバンか?)」

現状を認識して自動で兵装を切り替える兵器とかどんだけ高性能だよ。

「準備はできたか?」

視線を戻すと準備運動を終えた彼女が半身の体勢で構えていた。

「とりあえずはOK。これで当たり所が悪くても死ぬことはない……はずだ」

電気ショックに極端に弱いとか無いよな?

「それでは行くぞ。合図は……このコインが地面に落ちたらにしよう」

彼女がコインを拳の上に置くと、それを親指で弾き上げた。
弾き上げられたコインが放物線を描き……地面に落ちる。

「行くぞ!」
「っ!」

コインの落下地点にフラッシュバンを撃ち込む。

「何っ!?」

まさか『自分以外を狙う弾がある』とは思わなかったのだろう。
銃口をよく見ていた彼女はフラッシュバンの閃光に対して無防備に目を晒してしまった。
強い光に目を焼かれればしばらくは身動きが取れなくなる。

「(しっかりと狙いを定めて……)」

銃口を彼女に向け、トリガーを引く。

「当たれぇ!」

ゴム弾が連射され、彼女に命中する……と思われたその瞬間。
<ガガガガガガガガッ!>
吐き出された弾丸が『全て叩き落とされた』。

「ウソだろオイ……」

呆然とする間もなく、彼女が突進してくる。

「クソッ!」

苦し紛れにテイザーを撃ちこむが、間に合わない。

「南無三!」

テイザーを切り離し、グリップを逆手に持ち換えウィンドウを表示。砲身上部に意識を集中し兵装を呼び出す。

『MA社製複合兵器用近接格闘刃 ヴァイスリッパー展開』

トンファーのごとく鵺を振り回し、剣を弾きバックステップで距離をとる。

「この打ち合わせた感覚……剣か何かでも出したのか?」
「どうにも体が勝手に動いてね。これが何かを『思い出せない』だけで使い方はしっかりと叩き込まれているらしい」

実際自分でも驚いている。この反応速度は一日二日じゃつけられるものではない。
まるで自分の体の一部かのような一体感。しかし……

「(そう何度も振れるものじゃないな……こりゃ)」

とにかく重い。一応近接用の装備が付いているとはいえ本来は近距離戦で使う物ではないのだろう。

「まるで手品だな。ますます面白くなってきた」

視力が回復してきたのかうっすらと目を開けつつ獰猛に笑う彼女。

「いい顔してるなぁオイ……思わずドン引きしそうになるぜ」

冷や汗と脂汗が同時に出てきた。

「久々に本気が出せそうだ。この一撃、止めて見せろ!」

彼女が身を屈めた瞬間、『世界が停止した』。
世界が動き出した時には既に俺の首筋に剣が押し当てられていた。
彼女が元々立っていた場所には足の形の焦げ跡が付いている。

「(テレポート……じゃないな。純粋に速度のみで距離を詰めたのか……?)」

もはや勝負は付いた。これ以上抗っても無駄というものだろう。

「あ〜……負けだ、負け。こうさ〜ん」

俺は両手を上げて降伏のポーズを取る。しかし……

「お前は……手を抜いていたんじゃないか?」
「……」

確かに、非殺傷兵器の縛りを付けなければ様々な装備が使えただろう。弾も重量のあるものを使えただろうし、昨日使ったような火炎放射も使えたはずだ。しかし

「生憎と試合で殺しができる武器を使うつもりは無いよ」

そう、非殺傷兵器以外は『明らかに』威力が高すぎる。それこそ装甲車や戦車に撃ち込むような物の方が多い。そんなモノを殺し合い以外で使う意味はない。

「それは私を低く見ていたと」
「だから生身に撃ち込むには危なすぎるんだって!」

理解してくれなかったようです。

「私がそう簡単に死ぬとでも思っていたのか!」
「だ〜からこれじゃ危なすぎるんだって!」
「戦士ならば武器を全て使いこなしてみせろ!」

彼女が『鵺』をガンガン叩いてくる。そんなに叩いたら……。

『エラー発生。暴発防止の為、引き金から指を掛けないでください。』

ウィンドウが開いてエラーメッセージが吐き出される。びっくりして思わずトリガーに指が掛かった途端、ガスの噴射音のような音と共に何かが発射された。
白い煙をたなびかせながら飛んでいくアレは……

<ッドオオオオオオォォォォン>

ジャベリン(地対地ミサイル)だった。

「まぁ……何だ、ソレが危ない代物だと言うことはよく解った」
「解ってもらえてよかったよ……」

若干青ざめた顔で両者が意見を一致させる。まさかミサイルが出てくるとは……。



「ここから東へ向かうとモイライという新魔物派の街があるのだが付いてくるか?」

野宿で使った道具を片付け終えると彼女は訪ねてきた。
この世界で過ごす上で何かと入用にもなるだろう。といことで俺は二つ返事で首肯した。

「資金が必要ならば町にある冒険者ギルドに登録して仕事を受けるといい。全部が全部安全な仕事というわけでもないが、それなりに稼ぎにはなるはずだ」
「ありきたりなRPGみたいだな」
「何だそれは?」
「何でもない」

その後は特に取り留めもない事を話しながら街まで歩くのだった。



〜交易都市 モイライ〜

「それでは私は寄る所があるからこれで。所属するギルドが同じだからいつか顔も合わせるだろう」
「あぁ、そうだな。また会えるのを楽しみにしている」

彼女と握手を交わすと、二手に別れて歩き出した。

「当面の目標は……」

冒険者ギルドで登録を済ませ、宿を仲介してもらうことと、仕事を見つけること。

「ま、やるだけやってみますか」

俺は街を行く。この先で巻き込まれる騒動も知らずに。



一方そのころフェルシアはというと……
「あ、ギルド登録に保証人が必要なことを忘れていた……」

彼の知らないところで冷や汗を流す人もいた。
12/02/21 20:28更新 / テラー
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■作者メッセージ
〜メタが通じる後書きコーナー〜

「極めて近く限り無く遠い世界、二話目はいかがだっただろうか?」
『二話も使ってまだまだ導入部というのはどういう事ですか。』
「いろいろと準備がいるんだよ。主人公に世界のことを説明しなきゃならんし食い扶持の確保もさせなきゃならん。」
『いきなり人が一人増える訳ですからね。多少は手間取るということですか。』
「そういう事。」

「前回は殆どさわりだけだったから今回からキャラ紹介いくぜ〜。」
アルテア=ブレイナー
異世界から転移してきたPMC所属の傭兵。
エクセルシア回収の任に就いているが、次元転移の際のショックで任務内容を含む殆どの記憶を忘却している。
しかし体に染み付いた戦闘機動と知識のみは自然と出てくる。なんというご都合主義。
亜空間接続式統合兵装『鵺』を使う。

『着いたら記憶を無くしてたというのはありきたり過ぎますね。』
「どう見てもAの人だよな、俺。ロボットの操縦もできるけど、この話には「全く」出てこないから安心して欲しい」
『無限の……』
「それも言っちゃだめ……」

フェルシア=グリーン
比較的初期に出会ったリザードマン。
高速移動や心眼などチート級の技術を持つ反面、どこか抜けている。パワー型ドジっ娘。
強すぎて旦那ができないのが悩みだとか。
御年二十(ピー)歳

「私の紹介が酷過ぎないか?しかも間もなく婚期を逃しそうな熟女系なのか。」
「手ぇ抜けばいいだろ?そんなに焦るならさ。」
「それは相手に失礼というものだ。常に全力なのは私のモットーだ!」
「(コイツ絶対30過ぎても結婚できんわ……)」
「何か言ったか?」
「いえ、別に。」

「大抵の力を持つ主人公は私たちリザードマンに勝つ話が多いんだが……なぜアルテアは負けたのだ?」
「あんたが強すぎるんだよ。俺は訓練を受けているとはいえあくまで普通の人間だぞ?勇者とか英雄とかそんなバケモノと身体能力を比べられても困るぜ?」
「しかしだな、お前が本当に全ての武器を使えば……」
「今頃あんたは肉塊か消し炭になっているだろうな。」
『メタルストーム(分間数万発の弾丸発射装置)搭載済みです。』
「お前の世界の住人は一体何を開発しているんだ……」

「やたら強いクセにあんた意外とドジっ子なのな。」
「母上からもよく言われる……」
「何かの拍子に転んで剣を投げつけてくれるなよ?その豪腕で投げられたら回避できそうもない。」
『マスターの開きができますね。』
「冗談になってないからマジでやめろ。」

「しかし投稿し始めたSSってのはまるで生き物だね。今回だけでも書いた時から結構な修正点が入っているよ。」
『キャラクターの設定をしっかり固めないからです。』
「ぐぅの音も出ねぇ……。」

「次の更新も来週日曜日あたりだ。」
『筆者は忘れっぽいですからその内すっぽかす気がしてなりません。』
「カレンダーにでも書いておけば大丈夫だろ。それじゃあまた来週の更新を楽しみにしていてくれよな!」

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