第十五話〜たまにはのんびりと〜
〜イヴァ湖〜
『目標降下地点まで残り500、400、300、200、100、着水。減速開始』
<ドパァーン!>
俺は兄貴共の群れからブリッツランスで逃げ出し、近くの湖へダイブしていた。
コントロールに慣れたためか、着地の衝撃はなんとか軽減できた。
<ゴォォォォオオオオオ!>
ブレーキをかける物が無いので、湖の中を突き進み、湖底を滑走している。防護フィールドのおかげか水には濡れなかった。
『間もなく水面へ浮上します。3……2……1……浮上』
<ドパァーン!>
二度目の大きな水音。視界が開け、水が切れた俺が進む先には
「ちょ、待て待て待て待て待てぇーーーーーーー!」
巨岩がそびえ立っていた。方向転換?んなもんねぇよ。
<ゴガァーーーーン!>
岩をブチ割って減速、湖畔の地面を削りながらようやく止まった。
ブリッツランスを格納すると、すぐさま放熱モードに入る。
「アホみたいな威力だな……これならモビルスーツぐらいなら単騎で撃破できるんじゃねぇか?」
『対モビルスーツ用の小型パワードスーツにも使用例があります。非常に強力なので扱いには十分注意して下さい』
「おぉ怖い怖い……」
埃っぽくなった服をはたいて汚れを落とす。
「そういや水浴びをしたほうがいいんだっけな」
もうケツを狙われるのは懲り懲りだったので、服を脱いで湖へ入っていく。ついでなので服も洗濯してしまう。
「水に浸して洗うだけでも匂いは落ちるよな〜っと」
ジャバジャバとジャケットとズボンをすすぎ洗いする。
「そういや俺って向こうの世界の住人なのに電子機器を一つも持ってねぇな……」
『大抵の事は私と脳チップで事足りますので、携帯端末などは必要ありません』
「通話もできるんだっけ」
試しに電話帳から適当なアドレスを引き出して掛けてみる。しかし帰ってくるのは……
「Error: disconnected……ね」
当然通信不可能のメッセージ。
『第一、媒体となる有機AIがこの世界には存在しません』
「だよな」
すすぎ終わった服を絞ると、割れてしまった岩に貼り付ける。
「もう夕方だよなぁ……乾かないよな?これ」
『ブリッツランス使用を提案します』
「んなもん何に使う……そうか、ジェット噴射」
『肯定。ジェット噴射のみを遠距離から行い、熱せられた気流で乾燥を行います』
乱暴ではあるが効果的でもある。
「お前本当に戦術AIか?」
『学習効果です』
納得。
「これでいいか?」
『問題ありません。シェルブースター起動。出力を0.05%に抑え、噴出開始』
鵺を木に縛り付け、噴出口を濡れた服が張り付いた岩へ向ける。
噴出口から熱せられた風が吹き出され、岩に張り付いた服に当たる。
「これは手を離しても大丈夫なのか?」
『問題ありません。断続的に服を裏返せば乾燥効率が上がります』
俺は、洗濯物の張り付いた岩に座り込む。水で冷えた体に噴射熱が心地いい。
『警告、水中内に人間程度の動体反応確認。数1』
「ん?」
湖に目を向けると、
「うを!?」
頭を半分だけ出して三白眼がこちらを睨んでいた。
「……」
「……」
沈黙が流れる。確かに水面が揺れて時間が経過しているのがわかるのだが、まるで時が停止したかのように動くものがない。
「よ、よう?」
「……」
無視される。いや、視線は向けているのだが返事がない。
何だ?俺は何か強烈な核地雷でも踏んでしまったのか?
『図鑑データ照合…ヒット。水棲亜人型サハギン種。サハギンです。非常に寡黙な種族で意思疎通は基本的にボディランゲージで行います』
水中のハンターだったか……陸上にいれば危険はないだろう。
彼女は陸に上がり、物珍しそうに木に結わえ付けられている鵺を眺め始めた。
「触るなよ?火傷するぜ。物理的な意味で」
そーっと触れようとしていたので注意してやる。するとビクっと肩を震わせて手を引っ込めた。
それでも気になるらしく、飽きもせずに眺めている。
そして俺はそんな彼女を眺める。
ゆったりとした時間が流れる……
「お、乾いたみたいだ」
十分後、服はすっかり乾いていた。
俺は服に袖を通すと動作を終了させている鵺へと歩み寄る。
『了解。ブリッツランス格納。放熱モードに入ります』
長時間の稼働で熱が溜まってしまったのか推進装置と槍が消え、各所を展開させて放熱状態に入った。
「お〜……」
ゆらゆらと揺れる陽炎と放熱のための蒸気を見て、彼女は感嘆の声を上げる。
俺はこれからの事を少し思案する。もう既に日はどっぷりと暮れていた。
「今日はここで野宿にするか」
『食料はいかがしますか?』
どうしたものか……魚を釣るには竿がないし、動物を狩ろうにも鵺は放熱中だ。
携帯食料も今回は購入していない。
その時、くいくいと袖を引っ張られた。
「ん?」
サハギンが俺の袖を引っ張っていた。
「何だ?」
見ると、自分を指差し、それから湖を指差す。
そして、湖の中に入っていった。
「帰るって事か?」
『不明』
しばらくすると、銛に魚を二匹刺して湖から上がってきた。
「あぁ、魚を取ってきてくれるって事だったのか」
コクコクと頷く彼女。その表情は変わらなくともどこか誇らしげだ。
「そうか、ありがとうな」
頭を撫でてやると、気持よさそうに目を細めた。
少し濡れた髪が手に引っかかるがその手触りは上質な絹糸を触っているかのようだった。
いや、絹なんて触ったこと無いけどね。
「とは言え生で食べるのもアレだな……火でも起こすか」
『可燃物を集めたら報告を』
「あいよ」
薪を集めるために俺は森の中へ入っていった。
薪を集めて戻ってくると、鵺の放熱は完了していた。
『可燃物を組み、照準を向けてください』
薪を組んで、鵺の照準を向ける。
「危ないから下がってな」
彼女に警告すると、おとなしく下がってくれる。
『兵装選択。フレイムスロワー展開。チャージ完了』
「オーケー、バーベキューだ!」
こう言うのはノリが大事だよね。
引き金を引くと、炎が吹き出して薪に火が付く。あっという間に焚き火の完成だ。
「お〜……」
また彼女が感嘆する。やはり表情は変わらないが、感情は割と豊かなようだ。
「その魚を渡してもらえるかな?」
彼女は銛に刺さっている魚を引き抜くと渡してきた。それを湖の畔まで持っていく。
「ラプラス、パラケルスス展開」
『了解。パラケルスス展開。アポロニウスも同時展開』
右手が光に包まれ、応急救護用マニュピレーターが展開される。
空中には光を放つビットが1基。
「そろそろナイフぐらいは持っておいたほうがいいよなぁ……。どこかでいいナイフでも売ってないものか……」
メスを展開して魚の腹を捌いて内蔵を出し、水洗いをする。
ふと、光が揺れる。上を向くと彼女が銛でアポロニウスをつついていた。
「こらこら、突っつかない」
「?」
好奇心が強いのも困りものだ。
そこら辺に落ちていた木の枝の小枝をとっぱらって水で洗って魚に串を打ち、焚き火の側に突き刺す。
「あとは焼くだけだな」
焚き火彼女が焚き火の前に座ると、俺はその向かい側に座る。すると……
「……」
立ち上がって、テトテトとこちらに歩いてきて、
「……」
隣に座った。
「まぁ、いいけどさ」
拒絶する理由は無い。そのまま魚が焼けるのを待つ。
宵闇の中、赤々と燃え上がる焚き火の光が俺たちを包み込む。
『魚より先にマスターが食べられそうです』
黙ってろ。
焼けた魚を二人で頬張る。
「やっぱり塩気が欲しいな」
無い物ねだりをしても仕方が無いか。
彼女は無言で魚を食べていた。特に不満はないのだろう。
「……(はぐはぐ)」
「むぐ……うん、それでも結構美味いもんだ」
夜の時間は焚き火の音と共に静かに過ぎていく。
だんだんと睡魔が強くなってその場に寝転がる。
「ふぁ……あむ……」
焚き火の側で寝転がる俺と彼女。空には満天の星と三日月。
『大気中の汚染物質はほぼ0%。天気は快晴です』
「言われなくても見りゃわかる」
「?」
誰と喋っているのかと、彼女がこちらを見てくる。
「空が綺麗だね、って事だ」
適当に誤魔化す。最近ではこれももう慣れた。
「……」
彼女にとってはこの空は当たり前の物なのだろう。特に反応は示さなかった。
「疲れたな……寝よ。おやすみ」
俺は静かにまぶたを閉じ、夢の世界へ旅立った。
彼が寝てしまった。
ふしぎなトンカチをもって、ふしぎな服をきた、ふしぎな彼。
彼がつぶやくと、トンカチから魔法みたいにいろんなモノが出てくる。
「ん……」
最初はビックリした。空からおほしさまが落ちてきたのかと思った。
でも、おほしさまかと思ったら男の人だった。
ふしぎなトンカチから音がでていたから、さわろうとおもったら注意された。びっくりした。
おなかが空いているみたいだから、おさかなをとってきてあげた。ほめられた。うれしかった。
トンカチでおこした火で、いっしょにおさかなをやいて食べた。おいしかった。
いっしょにねころんで、おほしさまを見た。いつもと同じなのに、きれいだとおもった。
「……」
彼のうえにうつぶせになる。彼のかおがよくみえた。
「圧力のかけすぎだぁ……バルブをひねれぇ……バルブをぉ……」
苦しそうなのでどいてあげる。
「衝撃がくるぞぉ……何かにつかまれぇ……」
彼の服にしがみつく。なぜか楽しい。
「バッタがふってくるぞぉ……対閃光防御ぉ……」
どんな夢をみているんだろう。
彼がわたしをぎゅっとだきしめてくる。どきどきする。
「ウサギの鼻をみろぉ……すいこまれるぞぉ……」
いみがわからない。
彼のあたたかさにつつまれて、わたしも目をとじた。
「ふあぁ……何で外なんだ?」
目の前に広がる青空、高くそびえる木立。爽やかな風と朝日が気持ちいい。
木立の間から差し込んでくる陽の光は朝を少し過ぎた辺りだという事を物語っている。
「あぁ……野宿したんだっけ」
それにしては妙に体が温かい。
脇を見るとサハギンの彼女がしがみついていた。
『おはようございますマスター。昨日はお楽しみでしたね』
「いや、何もしてないから」
どこでそんな会話を覚えてくるんだこのAIは。
「……(ムクリ)」
「っと、起こしたか。おはよう」
「……(じー)」
こちらを見つめてくる。
「……どうした?」
襟元を掴まれる。
その顔がゆっくりと俺の顔へと迫ってきて……
「へ?」「ん……」
なぜか頬にキスをされた。
柔らかく、少し甘い匂いがする……ではなく。
「あー……おはようって言いたいのか?」
「……(コク)」
「そうかい……」
空ではトンビが飛んで甲高い鳴き声を上げていた。
『7又おめでとうございます』
増えていた。
「それじゃ、俺は行くわ」
鵺を肩にかけ、街へ向かって歩き出す。
この後もクエストを受けるかどうかは……帰ってから考えよう。
「……あ?」
裾を引かれる感触。彼女が引っ張っていた。
なんだか気恥ずかしくなって頬をポリポリと掻く。
「あ〜……暇になったらまた来るから、離してくれ。な?」
そう言うと、彼女は素直に離してくれた。
「ありがと。それじゃあまたな。今度は何か飯と釣竿でも用意してくるよ」
後ろ手に手を振り、湖を後にする。
彼女はいつまでも俺の後ろ姿を見ていた。
彼がかえっていった。
このおうちには旅人がたまにたちよる。あの人も、たぶん同じ。
でも、また来るっていってくれた。つぎに会うのが楽しみだった。
おうちへもぐる。みずうみのそこには、彼がつくったみぞがある。
彼がつくったみぞをたどると、みずうみのそこになにかがあった。
おおきくてふかい穴が、そこにあいていた。
『目標降下地点まで残り500、400、300、200、100、着水。減速開始』
<ドパァーン!>
俺は兄貴共の群れからブリッツランスで逃げ出し、近くの湖へダイブしていた。
コントロールに慣れたためか、着地の衝撃はなんとか軽減できた。
<ゴォォォォオオオオオ!>
ブレーキをかける物が無いので、湖の中を突き進み、湖底を滑走している。防護フィールドのおかげか水には濡れなかった。
『間もなく水面へ浮上します。3……2……1……浮上』
<ドパァーン!>
二度目の大きな水音。視界が開け、水が切れた俺が進む先には
「ちょ、待て待て待て待て待てぇーーーーーーー!」
巨岩がそびえ立っていた。方向転換?んなもんねぇよ。
<ゴガァーーーーン!>
岩をブチ割って減速、湖畔の地面を削りながらようやく止まった。
ブリッツランスを格納すると、すぐさま放熱モードに入る。
「アホみたいな威力だな……これならモビルスーツぐらいなら単騎で撃破できるんじゃねぇか?」
『対モビルスーツ用の小型パワードスーツにも使用例があります。非常に強力なので扱いには十分注意して下さい』
「おぉ怖い怖い……」
埃っぽくなった服をはたいて汚れを落とす。
「そういや水浴びをしたほうがいいんだっけな」
もうケツを狙われるのは懲り懲りだったので、服を脱いで湖へ入っていく。ついでなので服も洗濯してしまう。
「水に浸して洗うだけでも匂いは落ちるよな〜っと」
ジャバジャバとジャケットとズボンをすすぎ洗いする。
「そういや俺って向こうの世界の住人なのに電子機器を一つも持ってねぇな……」
『大抵の事は私と脳チップで事足りますので、携帯端末などは必要ありません』
「通話もできるんだっけ」
試しに電話帳から適当なアドレスを引き出して掛けてみる。しかし帰ってくるのは……
「Error: disconnected……ね」
当然通信不可能のメッセージ。
『第一、媒体となる有機AIがこの世界には存在しません』
「だよな」
すすぎ終わった服を絞ると、割れてしまった岩に貼り付ける。
「もう夕方だよなぁ……乾かないよな?これ」
『ブリッツランス使用を提案します』
「んなもん何に使う……そうか、ジェット噴射」
『肯定。ジェット噴射のみを遠距離から行い、熱せられた気流で乾燥を行います』
乱暴ではあるが効果的でもある。
「お前本当に戦術AIか?」
『学習効果です』
納得。
「これでいいか?」
『問題ありません。シェルブースター起動。出力を0.05%に抑え、噴出開始』
鵺を木に縛り付け、噴出口を濡れた服が張り付いた岩へ向ける。
噴出口から熱せられた風が吹き出され、岩に張り付いた服に当たる。
「これは手を離しても大丈夫なのか?」
『問題ありません。断続的に服を裏返せば乾燥効率が上がります』
俺は、洗濯物の張り付いた岩に座り込む。水で冷えた体に噴射熱が心地いい。
『警告、水中内に人間程度の動体反応確認。数1』
「ん?」
湖に目を向けると、
「うを!?」
頭を半分だけ出して三白眼がこちらを睨んでいた。
「……」
「……」
沈黙が流れる。確かに水面が揺れて時間が経過しているのがわかるのだが、まるで時が停止したかのように動くものがない。
「よ、よう?」
「……」
無視される。いや、視線は向けているのだが返事がない。
何だ?俺は何か強烈な核地雷でも踏んでしまったのか?
『図鑑データ照合…ヒット。水棲亜人型サハギン種。サハギンです。非常に寡黙な種族で意思疎通は基本的にボディランゲージで行います』
水中のハンターだったか……陸上にいれば危険はないだろう。
彼女は陸に上がり、物珍しそうに木に結わえ付けられている鵺を眺め始めた。
「触るなよ?火傷するぜ。物理的な意味で」
そーっと触れようとしていたので注意してやる。するとビクっと肩を震わせて手を引っ込めた。
それでも気になるらしく、飽きもせずに眺めている。
そして俺はそんな彼女を眺める。
ゆったりとした時間が流れる……
「お、乾いたみたいだ」
十分後、服はすっかり乾いていた。
俺は服に袖を通すと動作を終了させている鵺へと歩み寄る。
『了解。ブリッツランス格納。放熱モードに入ります』
長時間の稼働で熱が溜まってしまったのか推進装置と槍が消え、各所を展開させて放熱状態に入った。
「お〜……」
ゆらゆらと揺れる陽炎と放熱のための蒸気を見て、彼女は感嘆の声を上げる。
俺はこれからの事を少し思案する。もう既に日はどっぷりと暮れていた。
「今日はここで野宿にするか」
『食料はいかがしますか?』
どうしたものか……魚を釣るには竿がないし、動物を狩ろうにも鵺は放熱中だ。
携帯食料も今回は購入していない。
その時、くいくいと袖を引っ張られた。
「ん?」
サハギンが俺の袖を引っ張っていた。
「何だ?」
見ると、自分を指差し、それから湖を指差す。
そして、湖の中に入っていった。
「帰るって事か?」
『不明』
しばらくすると、銛に魚を二匹刺して湖から上がってきた。
「あぁ、魚を取ってきてくれるって事だったのか」
コクコクと頷く彼女。その表情は変わらなくともどこか誇らしげだ。
「そうか、ありがとうな」
頭を撫でてやると、気持よさそうに目を細めた。
少し濡れた髪が手に引っかかるがその手触りは上質な絹糸を触っているかのようだった。
いや、絹なんて触ったこと無いけどね。
「とは言え生で食べるのもアレだな……火でも起こすか」
『可燃物を集めたら報告を』
「あいよ」
薪を集めるために俺は森の中へ入っていった。
薪を集めて戻ってくると、鵺の放熱は完了していた。
『可燃物を組み、照準を向けてください』
薪を組んで、鵺の照準を向ける。
「危ないから下がってな」
彼女に警告すると、おとなしく下がってくれる。
『兵装選択。フレイムスロワー展開。チャージ完了』
「オーケー、バーベキューだ!」
こう言うのはノリが大事だよね。
引き金を引くと、炎が吹き出して薪に火が付く。あっという間に焚き火の完成だ。
「お〜……」
また彼女が感嘆する。やはり表情は変わらないが、感情は割と豊かなようだ。
「その魚を渡してもらえるかな?」
彼女は銛に刺さっている魚を引き抜くと渡してきた。それを湖の畔まで持っていく。
「ラプラス、パラケルスス展開」
『了解。パラケルスス展開。アポロニウスも同時展開』
右手が光に包まれ、応急救護用マニュピレーターが展開される。
空中には光を放つビットが1基。
「そろそろナイフぐらいは持っておいたほうがいいよなぁ……。どこかでいいナイフでも売ってないものか……」
メスを展開して魚の腹を捌いて内蔵を出し、水洗いをする。
ふと、光が揺れる。上を向くと彼女が銛でアポロニウスをつついていた。
「こらこら、突っつかない」
「?」
好奇心が強いのも困りものだ。
そこら辺に落ちていた木の枝の小枝をとっぱらって水で洗って魚に串を打ち、焚き火の側に突き刺す。
「あとは焼くだけだな」
焚き火彼女が焚き火の前に座ると、俺はその向かい側に座る。すると……
「……」
立ち上がって、テトテトとこちらに歩いてきて、
「……」
隣に座った。
「まぁ、いいけどさ」
拒絶する理由は無い。そのまま魚が焼けるのを待つ。
宵闇の中、赤々と燃え上がる焚き火の光が俺たちを包み込む。
『魚より先にマスターが食べられそうです』
黙ってろ。
焼けた魚を二人で頬張る。
「やっぱり塩気が欲しいな」
無い物ねだりをしても仕方が無いか。
彼女は無言で魚を食べていた。特に不満はないのだろう。
「……(はぐはぐ)」
「むぐ……うん、それでも結構美味いもんだ」
夜の時間は焚き火の音と共に静かに過ぎていく。
だんだんと睡魔が強くなってその場に寝転がる。
「ふぁ……あむ……」
焚き火の側で寝転がる俺と彼女。空には満天の星と三日月。
『大気中の汚染物質はほぼ0%。天気は快晴です』
「言われなくても見りゃわかる」
「?」
誰と喋っているのかと、彼女がこちらを見てくる。
「空が綺麗だね、って事だ」
適当に誤魔化す。最近ではこれももう慣れた。
「……」
彼女にとってはこの空は当たり前の物なのだろう。特に反応は示さなかった。
「疲れたな……寝よ。おやすみ」
俺は静かにまぶたを閉じ、夢の世界へ旅立った。
彼が寝てしまった。
ふしぎなトンカチをもって、ふしぎな服をきた、ふしぎな彼。
彼がつぶやくと、トンカチから魔法みたいにいろんなモノが出てくる。
「ん……」
最初はビックリした。空からおほしさまが落ちてきたのかと思った。
でも、おほしさまかと思ったら男の人だった。
ふしぎなトンカチから音がでていたから、さわろうとおもったら注意された。びっくりした。
おなかが空いているみたいだから、おさかなをとってきてあげた。ほめられた。うれしかった。
トンカチでおこした火で、いっしょにおさかなをやいて食べた。おいしかった。
いっしょにねころんで、おほしさまを見た。いつもと同じなのに、きれいだとおもった。
「……」
彼のうえにうつぶせになる。彼のかおがよくみえた。
「圧力のかけすぎだぁ……バルブをひねれぇ……バルブをぉ……」
苦しそうなのでどいてあげる。
「衝撃がくるぞぉ……何かにつかまれぇ……」
彼の服にしがみつく。なぜか楽しい。
「バッタがふってくるぞぉ……対閃光防御ぉ……」
どんな夢をみているんだろう。
彼がわたしをぎゅっとだきしめてくる。どきどきする。
「ウサギの鼻をみろぉ……すいこまれるぞぉ……」
いみがわからない。
彼のあたたかさにつつまれて、わたしも目をとじた。
「ふあぁ……何で外なんだ?」
目の前に広がる青空、高くそびえる木立。爽やかな風と朝日が気持ちいい。
木立の間から差し込んでくる陽の光は朝を少し過ぎた辺りだという事を物語っている。
「あぁ……野宿したんだっけ」
それにしては妙に体が温かい。
脇を見るとサハギンの彼女がしがみついていた。
『おはようございますマスター。昨日はお楽しみでしたね』
「いや、何もしてないから」
どこでそんな会話を覚えてくるんだこのAIは。
「……(ムクリ)」
「っと、起こしたか。おはよう」
「……(じー)」
こちらを見つめてくる。
「……どうした?」
襟元を掴まれる。
その顔がゆっくりと俺の顔へと迫ってきて……
「へ?」「ん……」
なぜか頬にキスをされた。
柔らかく、少し甘い匂いがする……ではなく。
「あー……おはようって言いたいのか?」
「……(コク)」
「そうかい……」
空ではトンビが飛んで甲高い鳴き声を上げていた。
『7又おめでとうございます』
増えていた。
「それじゃ、俺は行くわ」
鵺を肩にかけ、街へ向かって歩き出す。
この後もクエストを受けるかどうかは……帰ってから考えよう。
「……あ?」
裾を引かれる感触。彼女が引っ張っていた。
なんだか気恥ずかしくなって頬をポリポリと掻く。
「あ〜……暇になったらまた来るから、離してくれ。な?」
そう言うと、彼女は素直に離してくれた。
「ありがと。それじゃあまたな。今度は何か飯と釣竿でも用意してくるよ」
後ろ手に手を振り、湖を後にする。
彼女はいつまでも俺の後ろ姿を見ていた。
彼がかえっていった。
このおうちには旅人がたまにたちよる。あの人も、たぶん同じ。
でも、また来るっていってくれた。つぎに会うのが楽しみだった。
おうちへもぐる。みずうみのそこには、彼がつくったみぞがある。
彼がつくったみぞをたどると、みずうみのそこになにかがあった。
おおきくてふかい穴が、そこにあいていた。
12/03/06 11:57更新 / テラー
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