番外編〜こども経済学教室〜
〜クエスト開始〜
―先生の代役を頼みます―
『急に風邪をこじらせてしまって授業に出られなくなってしまいました。
出来ることならば自習ではなくきちんとした授業を行いたいのですが、その日はどの先生も手が空いていないようで誰も受け持つことができないようなのです。
授業内容は何でもかまいませんので、どなたか代役として教鞭を執ってもらえないでしょうか?
モイライ教育区画第一教育所教諭 エレナ=スティングレイ』
「こりゃまた変わった依頼が届いているな」
本来冒険者ギルドというのは肉体労働が主で、届くクエストは倉庫整理や盗賊の討伐、護衛や特定区域の調査がほとんどだ。
そこに頭を使うような教師の仕事が届くというのはなかなか見られることではない。
「緊急依頼を受け付けているのは冒険者ギルドだけですからね。興味はお有りですか?」
「無い事もないが教員免許は必要ないのか?」
「一日だけの臨時教師だそうですから特に必要ないそうです。実のある授業をすることが条件だそうですけれど」
なるほど。
「そうだな、受けてみるか。判を頼む」
「はい、わかりました」
俺は依頼を貼り付けてあるボードから依頼書を取ると受付へと差し出す。
受領の判を押せば契約成立だ。
「受領いたしました。場所は依頼書に書いてある通り教育区画の第一教育所です。頑張ってくださいね」
「おう、行ってくる」
そうだな、この間図書館で見たアレを噛み砕いてやってみるか。
〜モイライ教育区画 第一教育所〜
「よ〜しお前ら席に付け〜。出席取るぞ〜」
教室に出席簿を持って入るとザワザワと騒がしくなる。
ちなみに言うと鵺は置いてきた。
「エレナせんせいは〜?」
予想通りというか何というか担任の事を聞いてくる。
「エレナ先生は風邪で一日休むそうだ。で、代わりに冒険者ギルドから臨時教師として派遣されたアルテアだ。今日一日よろしく頼む」
黒板に自分の名前を書こうと思ったが、この世界の字を書くことは出来ない。
仕方なく現世界の文字で自分の名前を書く。
「先生が休みだから自習だ〜とか思った奴、残念だったな。普通に授業するから覚悟しておけ」
数人がガックリとうなだれて忍び笑いが起きる。
「んじゃ、呼ばれたら返事しろ〜。アイリア〜」
「は〜い」
「んじゃ後は省略。授業始めるぞ〜」
ガタガタと後ろで椅子からずっこける音がする。
「冗談だ。きちんと呼んでやるから心配するな」
その後は真面目に出席を取った。本当だぞ?
「でだ、今日は君らに経済について勉強してもらうと思う」
教室のあちこちでガヤガヤと騒ぎ出す。まぁこの年代なんてそんなもんだな。
「はいはい静かに。別に難しい事を話すつもりはない。君らは親からお小遣いは貰っているよな?そのお小遣いの貨幣、つまり銅貨や銀貨がどうやって決まったかについてだ」
財布の中から銀貨と銅貨を一枚ずつ出す。
「実はこの銀貨や銅貨の種類、昔はそれこそ領主の数と同じか、それより多くあったらしい。しかし今現在この大陸はおろかジパングですら流通しているのはこの銅貨と銀貨、それに金貨の三種類。それ以外の貨幣はほぼ無くなっている」
銀貨を親指で弾いて空中で掴み取る。
「その理由に付いて何か思うところはあるか?わかる奴はなんとなくでいいから答えてみろ」
すると、すっと細い手が挙がった。あれはメデューサの……
「サティちゃんか。どうしてだと思う?」
「そんなにあったらめんどうくさいじゃない」
子供たちは口々にえ〜とか違うだろ〜とか好き勝手な事を言っている。
「いや、大体合っている。この3種類の貨幣に統一された理由は『面倒くさかった』からだ」
俺は教材入れから紙を切り抜いて作った貨幣をいくつも取り出す。
「ここで少しゲームをしてみよう」
黒板にチョークでそれぞれの貨幣の変換レートを書く。
変換レートと言っても小数点は無く、硬貨Aは硬貨B何枚分とかそんな感じの物だ。
「君らにはこの硬貨で隣の席同士で買い物をしてもらう。買うものは別に何だって良い。羽ペンだろうがノートだろうが構わない。買い物が終わったら持ち物を元に戻して、今度は前後の席で同じことをする」
それぞれの机に硬貨を何枚か乗せていく。
「ただし値段提示は自分の持っている硬貨の単位のみで行うこと。買う側は黒板に書いてあるレートから計算して払う事。持ち物は返しても硬貨は返さなくて構わない」
硬貨を配り終わり、教壇へと戻る。
「それじゃ、やってみて欲しい。俺がそこまでと言ったらそこでおわりにするように。んじゃ、始め!」
俺の掛け声と同時にそれぞれの子供達があちこちでやりとりを始めた。
〜五分経過〜
「はい、そこまで!持ち物はきちんと元の持ち主へ返すように」
とはいえ取引のたびに自分のもとへ持ち物が帰ってくるのだからさほど時間はかからない。
「で、やってみてどうだった?」
<めんどくさ〜い!>
<あたまがいたい……>
<ケタケタケタケタ>
若干一名が壊れかけている。
「んじゃ、今度はコイツで同じことをしてみよう」
それぞれの机から配った硬貨を回収し、教材入れから別の硬貨を取り出す。
今度は大きめの袋に同じデザインの硬貨が山ほど入っている。
それを配ってまた教壇に戻る。
「今度は誰と買い物をしても構わないことにしよう。席を立っていろんな人と買い物をしてみて欲しい。では始め!」
今度は皆席を立ってあちこちで取引を進めている。
というかあのゴブリンの子すげぇな……あっという間に色んな奴から硬貨巻きあげてやがる。
〜五分後〜
「はい、そこまで!今度はどうだった?」
<かんた〜ん!>
<らくち〜ん>
<ていうかリノちゃんどれだけ集めたの……>
大体予想通りの答えが帰ってくる。
「ま、そういう事だ。種類が多いとそれだけ計算が複雑になって面倒この上ない。しかし、貨幣が統一されるとその分計算が楽になる。これによって買い物がより多く行えるようになり結果として……」
俺はゴブリンのリノちゃんの隣まで歩いていき、山となっているおもちゃの硬貨を掴み上げる。
「巨大な市場が誕生する。それこそ世界規模のね」
おもちゃの硬貨を回収して教壇に戻る。リノちゃんはどことなく不満そうだ。
「この『貨幣統一による交易活性化』を考えたのは今から数十年前の大商人で経済学者の『マーク=ロレンツォ』。彼は有力な周辺諸侯……つまり住んでいる所の近くの偉い人達だな、彼らと話しあって同じ貨幣を使い、互いに交易をやりやすくしようという取り決めを作った」
黒板にいくつか丸を書いて、それを線で結ぶ。
「当然その国の中で使われるのは統一された貨幣のみだ。彼らと交易するには同じ貨幣を手に入れる必要がある」
さらに外側にいくつか丸を書いて、その中心の丸と線でつなぐ。
「そこで彼らは中心となった国々から流通する貨幣を自国の貨幣で買わざるをえない。もちろん集めた貨幣は改鋳……つまり溶かして統一された貨幣を作るのに使われた」
黒板にさらに丸を書いていく。
「そして統一された貨幣を使わない国家は交易ができずにどんどん干されていく。結果的に国を持続させるために彼らも自国の貨幣を統一された貨幣へと換えていった」
俺はここで一旦切り、別の切り口を見せる。
「さて、統一された貨幣を使う国々で起こる事とは?」
つながれた線同士をさらに太く書き直す。
「流通の活性化、つまりいろんな人が色んな物を沢山売り買いすることだな。それを見た他の国はどうなると思う?」
まだ繋いでいない丸に目を書き入れる。
「流通が活性化するってことは国力が増えるという事だ。それに目をつけた国はこぞって自国の貨幣を統一された貨幣へと換えた」
全ての丸がどこかしらの丸とつながり、黒板が丸と線で埋め尽くされる。
「さて、この図に思い当たる事は?リノちゃん」
先程のゴブリンの子が手を挙げたので指名してあげる。
「さっきのわたしたち?」
「そういう事。複数ある貨幣でやりとりをしようとするとその流れには限界が出てくる。しかし貨幣を統一すれば例え全ての人が相手だとしても問題なく回ってくれる」
俺は黒板をコンコンと叩き、もう一つの側面について語る。
「さて、こうして統一された貨幣は全世界へと広まったわけだが……この流れに見覚えがある奴はいるか?」
まぁいるとは思え……
「戦争に似ていますね。それも非常に強い勢力が国家を統一するかのように」
アヌビスの子がドンピシャで答えを言ってくれた。
「そうだ。これは別名『貨幣戦争』なんて言わている。長く続く歴史の中で唯一、『まったく血が流れなかった』戦争だ」
授業で解説するために用意したノートをたたみ、道具を袋の中へしまう。
「今回の授業は大体このぐらいかな。余談だが、大手パン工房で発売しているミートブレッド。実はどの地域に行っても銀貨一枚で同じ味、同じ量なのだそうだ。これもある種の統一なのかもしれないな」
黒板に書かれた図を消して向き直る。
「それじゃ、今日の授業はここまで。別にテストに出すとかそういう事はエレナ先生とは話し合っていないから家に帰って自慢する程度でもいいぞ」
<きりーつ、れーい>
<ありがとうございましたー!>
「おう、寄り道しないでまっすぐ帰れよ」
俺はノートや道具を抱えると教室を後にした。
「そういや……アニスちゃんは学校にいないみたいだな……」
もう帰ったか、それとも学校に通っていないのか。
「ま、詮索する必要もないか」
俺は借りた教材を返すと学校を後にした。
まぁ、たまにはこういう経験も悪くない。そう思った。
―先生の代役を頼みます―
『急に風邪をこじらせてしまって授業に出られなくなってしまいました。
出来ることならば自習ではなくきちんとした授業を行いたいのですが、その日はどの先生も手が空いていないようで誰も受け持つことができないようなのです。
授業内容は何でもかまいませんので、どなたか代役として教鞭を執ってもらえないでしょうか?
モイライ教育区画第一教育所教諭 エレナ=スティングレイ』
「こりゃまた変わった依頼が届いているな」
本来冒険者ギルドというのは肉体労働が主で、届くクエストは倉庫整理や盗賊の討伐、護衛や特定区域の調査がほとんどだ。
そこに頭を使うような教師の仕事が届くというのはなかなか見られることではない。
「緊急依頼を受け付けているのは冒険者ギルドだけですからね。興味はお有りですか?」
「無い事もないが教員免許は必要ないのか?」
「一日だけの臨時教師だそうですから特に必要ないそうです。実のある授業をすることが条件だそうですけれど」
なるほど。
「そうだな、受けてみるか。判を頼む」
「はい、わかりました」
俺は依頼を貼り付けてあるボードから依頼書を取ると受付へと差し出す。
受領の判を押せば契約成立だ。
「受領いたしました。場所は依頼書に書いてある通り教育区画の第一教育所です。頑張ってくださいね」
「おう、行ってくる」
そうだな、この間図書館で見たアレを噛み砕いてやってみるか。
〜モイライ教育区画 第一教育所〜
「よ〜しお前ら席に付け〜。出席取るぞ〜」
教室に出席簿を持って入るとザワザワと騒がしくなる。
ちなみに言うと鵺は置いてきた。
「エレナせんせいは〜?」
予想通りというか何というか担任の事を聞いてくる。
「エレナ先生は風邪で一日休むそうだ。で、代わりに冒険者ギルドから臨時教師として派遣されたアルテアだ。今日一日よろしく頼む」
黒板に自分の名前を書こうと思ったが、この世界の字を書くことは出来ない。
仕方なく現世界の文字で自分の名前を書く。
「先生が休みだから自習だ〜とか思った奴、残念だったな。普通に授業するから覚悟しておけ」
数人がガックリとうなだれて忍び笑いが起きる。
「んじゃ、呼ばれたら返事しろ〜。アイリア〜」
「は〜い」
「んじゃ後は省略。授業始めるぞ〜」
ガタガタと後ろで椅子からずっこける音がする。
「冗談だ。きちんと呼んでやるから心配するな」
その後は真面目に出席を取った。本当だぞ?
「でだ、今日は君らに経済について勉強してもらうと思う」
教室のあちこちでガヤガヤと騒ぎ出す。まぁこの年代なんてそんなもんだな。
「はいはい静かに。別に難しい事を話すつもりはない。君らは親からお小遣いは貰っているよな?そのお小遣いの貨幣、つまり銅貨や銀貨がどうやって決まったかについてだ」
財布の中から銀貨と銅貨を一枚ずつ出す。
「実はこの銀貨や銅貨の種類、昔はそれこそ領主の数と同じか、それより多くあったらしい。しかし今現在この大陸はおろかジパングですら流通しているのはこの銅貨と銀貨、それに金貨の三種類。それ以外の貨幣はほぼ無くなっている」
銀貨を親指で弾いて空中で掴み取る。
「その理由に付いて何か思うところはあるか?わかる奴はなんとなくでいいから答えてみろ」
すると、すっと細い手が挙がった。あれはメデューサの……
「サティちゃんか。どうしてだと思う?」
「そんなにあったらめんどうくさいじゃない」
子供たちは口々にえ〜とか違うだろ〜とか好き勝手な事を言っている。
「いや、大体合っている。この3種類の貨幣に統一された理由は『面倒くさかった』からだ」
俺は教材入れから紙を切り抜いて作った貨幣をいくつも取り出す。
「ここで少しゲームをしてみよう」
黒板にチョークでそれぞれの貨幣の変換レートを書く。
変換レートと言っても小数点は無く、硬貨Aは硬貨B何枚分とかそんな感じの物だ。
「君らにはこの硬貨で隣の席同士で買い物をしてもらう。買うものは別に何だって良い。羽ペンだろうがノートだろうが構わない。買い物が終わったら持ち物を元に戻して、今度は前後の席で同じことをする」
それぞれの机に硬貨を何枚か乗せていく。
「ただし値段提示は自分の持っている硬貨の単位のみで行うこと。買う側は黒板に書いてあるレートから計算して払う事。持ち物は返しても硬貨は返さなくて構わない」
硬貨を配り終わり、教壇へと戻る。
「それじゃ、やってみて欲しい。俺がそこまでと言ったらそこでおわりにするように。んじゃ、始め!」
俺の掛け声と同時にそれぞれの子供達があちこちでやりとりを始めた。
〜五分経過〜
「はい、そこまで!持ち物はきちんと元の持ち主へ返すように」
とはいえ取引のたびに自分のもとへ持ち物が帰ってくるのだからさほど時間はかからない。
「で、やってみてどうだった?」
<めんどくさ〜い!>
<あたまがいたい……>
<ケタケタケタケタ>
若干一名が壊れかけている。
「んじゃ、今度はコイツで同じことをしてみよう」
それぞれの机から配った硬貨を回収し、教材入れから別の硬貨を取り出す。
今度は大きめの袋に同じデザインの硬貨が山ほど入っている。
それを配ってまた教壇に戻る。
「今度は誰と買い物をしても構わないことにしよう。席を立っていろんな人と買い物をしてみて欲しい。では始め!」
今度は皆席を立ってあちこちで取引を進めている。
というかあのゴブリンの子すげぇな……あっという間に色んな奴から硬貨巻きあげてやがる。
〜五分後〜
「はい、そこまで!今度はどうだった?」
<かんた〜ん!>
<らくち〜ん>
<ていうかリノちゃんどれだけ集めたの……>
大体予想通りの答えが帰ってくる。
「ま、そういう事だ。種類が多いとそれだけ計算が複雑になって面倒この上ない。しかし、貨幣が統一されるとその分計算が楽になる。これによって買い物がより多く行えるようになり結果として……」
俺はゴブリンのリノちゃんの隣まで歩いていき、山となっているおもちゃの硬貨を掴み上げる。
「巨大な市場が誕生する。それこそ世界規模のね」
おもちゃの硬貨を回収して教壇に戻る。リノちゃんはどことなく不満そうだ。
「この『貨幣統一による交易活性化』を考えたのは今から数十年前の大商人で経済学者の『マーク=ロレンツォ』。彼は有力な周辺諸侯……つまり住んでいる所の近くの偉い人達だな、彼らと話しあって同じ貨幣を使い、互いに交易をやりやすくしようという取り決めを作った」
黒板にいくつか丸を書いて、それを線で結ぶ。
「当然その国の中で使われるのは統一された貨幣のみだ。彼らと交易するには同じ貨幣を手に入れる必要がある」
さらに外側にいくつか丸を書いて、その中心の丸と線でつなぐ。
「そこで彼らは中心となった国々から流通する貨幣を自国の貨幣で買わざるをえない。もちろん集めた貨幣は改鋳……つまり溶かして統一された貨幣を作るのに使われた」
黒板にさらに丸を書いていく。
「そして統一された貨幣を使わない国家は交易ができずにどんどん干されていく。結果的に国を持続させるために彼らも自国の貨幣を統一された貨幣へと換えていった」
俺はここで一旦切り、別の切り口を見せる。
「さて、統一された貨幣を使う国々で起こる事とは?」
つながれた線同士をさらに太く書き直す。
「流通の活性化、つまりいろんな人が色んな物を沢山売り買いすることだな。それを見た他の国はどうなると思う?」
まだ繋いでいない丸に目を書き入れる。
「流通が活性化するってことは国力が増えるという事だ。それに目をつけた国はこぞって自国の貨幣を統一された貨幣へと換えた」
全ての丸がどこかしらの丸とつながり、黒板が丸と線で埋め尽くされる。
「さて、この図に思い当たる事は?リノちゃん」
先程のゴブリンの子が手を挙げたので指名してあげる。
「さっきのわたしたち?」
「そういう事。複数ある貨幣でやりとりをしようとするとその流れには限界が出てくる。しかし貨幣を統一すれば例え全ての人が相手だとしても問題なく回ってくれる」
俺は黒板をコンコンと叩き、もう一つの側面について語る。
「さて、こうして統一された貨幣は全世界へと広まったわけだが……この流れに見覚えがある奴はいるか?」
まぁいるとは思え……
「戦争に似ていますね。それも非常に強い勢力が国家を統一するかのように」
アヌビスの子がドンピシャで答えを言ってくれた。
「そうだ。これは別名『貨幣戦争』なんて言わている。長く続く歴史の中で唯一、『まったく血が流れなかった』戦争だ」
授業で解説するために用意したノートをたたみ、道具を袋の中へしまう。
「今回の授業は大体このぐらいかな。余談だが、大手パン工房で発売しているミートブレッド。実はどの地域に行っても銀貨一枚で同じ味、同じ量なのだそうだ。これもある種の統一なのかもしれないな」
黒板に書かれた図を消して向き直る。
「それじゃ、今日の授業はここまで。別にテストに出すとかそういう事はエレナ先生とは話し合っていないから家に帰って自慢する程度でもいいぞ」
<きりーつ、れーい>
<ありがとうございましたー!>
「おう、寄り道しないでまっすぐ帰れよ」
俺はノートや道具を抱えると教室を後にした。
「そういや……アニスちゃんは学校にいないみたいだな……」
もう帰ったか、それとも学校に通っていないのか。
「ま、詮索する必要もないか」
俺は借りた教材を返すと学校を後にした。
まぁ、たまにはこういう経験も悪くない。そう思った。
12/03/06 11:56更新 / テラー
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