連載小説
[TOP][目次]
12月24日 姉ちゃんと聖夜と追い詰められた僕
「ぱーどぅん?」

12月。学校も冬休みに入り、出された課題をちまちまと進めつつのんびりと日々を過ごし、あ〜もうすぐクリスマスだな〜なんてぼーっと考えていたらいつの間にか前日になっていた。
そしてその日の朝に告げられた事に僕は少々混乱していた。

「だから、母さんとお父さんは今日デートに行ってきます♪」

父さんはというと恥ずかしげに新聞紙を盾のように広げて顔を隠している。

「なんでまた急に……」
「夫婦が水入らずでデートを楽しむのがそんなに変かしら?」
「……いえ、別に」

果てさて……これは困った……。こうなってしまうと今夜は……。

「だから今日のご飯は何か適当に作って由利と二人で食べていてね」
「母さんたちは何食べてくるの?」
「ホテルのレストランで豪華なディナー♪」
「シット!ガッデム!」

姉ちゃんと二人きりである。恨むぞ、父よ母よ。レストランで二人だけ美味しそうなもの食べるのも込みで。

「……ちなみに帰宅の予定は?」
「泊りに決まっているじゃない何言っているの?」
「ですよねー」

前々から二人共仲睦まじい夫婦だとは知っていたけれどここ最近はそれに輪をかけて仲良くなっている。この歳で兄弟追加とか勘弁して下さい。僕にはやたら手のかかる血の繋がっていない姉がいるんです。これ以上面倒を見る相手が増えたら死んでしまいます。

「それじゃ、行ってくるからお留守番よろしくね〜♪」
「ちょ、ま……!」

反射的に伸ばした手も虚しく虚空を掻き、するりと居間から抜けだした二人はいそいそと出かけていった。

「……どーしよ」

あぁ、わかる。後ろから視線がグサグサ刺さっているのがわかる。
多分姉ちゃんが爛々とした目で僕の事を見ているのだろう。

「……ご飯の材料買いに行こうか」
「うん♪」

やれやれ。



───────────────────────────────────────────────────────

姉ちゃんがパソコンの使い方をほんのちょっとだけ覚えた。

「ようくんがいつも見ているエッチなサイトはどこかな〜?」

勝手にお気に入りの中の物を漁っていて困る……が。

『ヴァァァァァアアアアアア!』
「いやぁァァァァああああああ!?」

時たま僕が混ぜた精神ブラクラへのリンクを踏んでしまったりしている。
面白いからやめてあげない。

───────────────────────────────────────────────────────



「人参とじゃがいもは家にあったかな……あ、セロリ安いから買っとこ」

昼ご飯はチャーハンでもいいかな……夕ごはんはミネストローネに鶏の唐揚げでクリスマスっぽくできるかな〜……。七面鳥の丸焼きは量が多すぎるし作るのが面倒くさいから却下。というか、そんな物を作る為の器具がない。

「ようk「はいはいポアロチョコポアロチョコ」

もはや慣れたもので姉ちゃんが何か言い出す前に棚からさっと取って買い物籠の中へと放り込む。
二品だけじゃちょっと寂しいかなぁ……ポテトサラダでも作ろうか。でも最近キュウリ高い……タマネギで代用してもいいか。

「だからようk「チョコとアイスはどっちかにしてって前も言ったよね?今日はチョコ入れたからまた今度ね」

ケーキも買っておこうか。確かパンの売り場の近くにケーキもあったはず。
二切れでいいよね?流石にホールで買うほど入らないし、人数もいない。

「だからようくん!」
「うわぁ!?な、何?」

肩を強く掴まれて振り向かされる。姉ちゃんは……若干涙目になって頬をふくらませていた。あ、ちょっとかわいいかも。

「クリスマスにはプレゼントを交換しあうと聞きました!」
「聞くまでもなくそうだよね?」

一応僕も姉ちゃんへあげるものは数日前に買ってある。
そこまで高いものでも無いけど……喜んでくれるよね?

「どうしよう!お姉ちゃん何も用意してません!」
「困っている割にはやたらテンション高いよね」
「あげられる物と言ったら……」
「スタップ。ここ公衆の面前。おーけー?」
「下ネタ禁止?」
「そゆこと」

こういうやり取りが出来るぐらいには互いに慣れたという事なのだろう。
少し前の僕であれば止めることも出来ずにいきなり奇行に走り始める姉ちゃんにあたふたしていたに違いない。

「でも本当にあげられる物が無いのです」
「何も買っていないのは計画的犯行だったりしてね」
「なぜバレた」

計画的だったんですか姉者よ。

「ま、気持ちだけでいいよ。と言うより、姉ちゃんの気持ちだけで僕は一杯なのです」
「わ、一杯受け取ってくれた」
「重すぎる物を押し付けられている感じなのだけどね」
「何故か私が押し売りの人みたいな位置づけになってる!」

漫画か何かであれば大なり小なりの記号で目が描けるぐらいにショックを受けた様子の姉ちゃん。
……多分ならずとも僕の照れ隠しが入っているのは否めないけど。



姉ちゃんがいない。
つい先程までリビングでテレビを見ていた筈なのだけれど、ふと目を離した隙に忽然と姿を消していた。
トイレの中には気配は無し。風呂場からも音はしないし、姉ちゃんの部屋にも僕の部屋にもいない。
そろそろ夕飯の準備をしようっていう時に一体どこへ行ったのだろうか。

「……ん?」

散々家の中を探しまわった挙句、最終的にキッチンにある冷蔵庫をごそごそと漁っているのを発見した。

「姉ちゃん、ケーキは夕食後まで食べちゃだめだよ」
「よ、よよよようくん!?」

僕の名前はよよよようすけではない。

「もうすぐ夕食なんだから何かつまむのはやめてね。ご飯入らなくなっちゃうよ?」
「う、うん。わかった」

なんだかえらく簡単に引き下がった。いつもなら『え〜』とか言いながら食い下がってくるのに。

「あ、ようくん。私も夕食作るの手伝っていい?」
「ん、助かる。それじゃあ野菜の皮剥きをお願いしようかな。」

ご飯は昼の時点で炊いてあるし……唐揚げの下ごしらえでもしようか。
という訳で手分けして夕飯の支度をする事になった。
姉ちゃん、一人で作らなければ普通の料理つくれるのにな。何故一人で作るとあんな値段インフレ料理になっちゃうんだろう。

───────────────────────────────────────────────────────

姉ちゃんに膝枕をしてもらった

「〜♪」

今は特にムラムラ来ていないみたい。優しそうなほほ笑みを浮かべて聞いたことのない鼻歌を歌っている。



十分後

「あ、脚、しびれた……」

慣れない正座をするからこうなる。つんつん

「にゃぁぁぁあああああ!つ、つっつかないでぇ!」

───────────────────────────────────────────────────────



夕食時、テーブルには普段よりもちょっとだけ豪華な夕食の数々。
フライドチキン代わりに鶏の唐揚、ポテトサラダとミネストローネ。それと、白ご飯。
ミネストローネからはトマトの爽やかな香りとコンソメの芳醇な香りが溢れだし、唐揚は表面がサクっと、中はジューシーに仕上がっている。間隔を置いて二度揚げするのがコツなのだ。
そしてなにより白ご飯。唐揚にはやっぱこれだよね。

「「いただきまーす」」

すっかり馴染んだ食前の挨拶。実はこれ、姉ちゃんが家に来たばかりの時は分からずにまごまごしていたっけ。すぐに直ったけど。
ミネストローネをスプーンで一口掬う……ん?

「(……あれ、キノコなんて入れたっけ?)」

掬ったスプーンの中には明らかにエリンギか何かのキノコが入っていた。
何を隠そう僕はキノコ系統が苦手だ。故に自分で作る場合は大抵の料理にキノコが入っていない。無論今日もキノコの類は買ってきていない筈なのだけど……

「(いいや、端っこに除けちゃえ)」

多分姉ちゃんが勝手に入れたのだろう。偶に妙な方向でお姉さんぶりたがるからね、あの人。

「おいし〜♪ようくんいいお嫁さんになれそうだよね」
「男だけどね。」
「ねね、あーんしてあーん♥」

母さん達がいなくなった途端やたらベタベタと甘えてくる姉ちゃん。一応父さんには遠慮しているのだろうか。
姉ちゃんの皿に箸を伸ばして唐揚げを小さめに切り取り、吹いて冷ましてから口元へと持っていく。……自分でも世話やき女房だと思うよ、ホント。

「はいはい……あーん」
「あ〜ん♪」

ぱくりと箸ごと咥えられ、もぐもぐと美味しそうに咀嚼する姉ちゃん。
間接キス……は、今更気にする必要もないか。もっとディープなのしちゃってるし。

「しあわせ〜♪」
「はいはい」

やれやれ、一々仕草が可愛らしいというかなんというか。というか、姉ちゃんって実際はいくつなのだろうか。
やっぱりファンタジー一般で見るように実年齢は物凄い年月を経ているのだろうか。
そんなことをうねうねと嬉しそうにうねる尻尾を眺めながら考えていた。



夕飯の後、お風呂に入って自室に戻って一息。
姉ちゃんには……未だに気持ちを打ち明けられないでいる。
その一番の要因としては、姉ちゃんの言う異世界の話がある。



全く知らない世界。



僕が一番怖いもの。

未だに僕の記憶に強く根付いているあの事件は忘れようと思っても忘れられる物ではない。
姉ちゃんは……僕が気持ちを打ち明けたら向こうの世界へと連れて行ってしまうのだろうか?
それだけは……絶対に嫌だ。

「…………ん」

姉ちゃんの事を思い浮かべていたら無性にムラムラしてきた。というか、無性に出したい。
パソコンの電源を入れて操作可能になるまで数十秒。その短い時間が妙にじれったい。
ようやく操作できるようになり、お目当てのフォルダを開こうとしたその時だ。
部屋のドアがノックされた。続いて僅かな軋みを伴って開いたドアからは姉ちゃんが入ってきた。

「姉ちゃん?どうか、した……の?」

ドクン、と。心臓がひっくり返ったように脈打つ。姉ちゃんの恰好は先程見た時となんら変わりはない。
でも……

「(何、これ……)」

目線が姉ちゃんの体から外せない。艶かしく光を照り返す唇から、服の下から生地を押し上げる柔らかな胸から、スカートから伸びる肉感的な太ももから……
僕の目線を受け止めながら、姉ちゃんが僕のベッドへと向かい、腰掛ける。
その頬はかすかに上気しており、息もほんの少しだけど荒かった。

「ね、ようくん……」

耳の奥にこだまするように姉ちゃんの声が頭に響いてくる。

「今日、お父さんもお母さんもいないよね」
「……うん」

そうだ、今日は両親がいないのだ。

「大きな声を出しても、誰も気づかないよね」
「……うん」

この家に、僕と姉ちゃんが二人きり。

「……ドキドキ、するね」
「……うん」

もはや、まともに姉ちゃんの声が届いていなかった。ほとんど条件反射で返事をする僕の目線は姉ちゃん以外を見ていなかった。

「……シちゃおうか」
「姉ちゃん……!」

その言葉と同時に僕は姉ちゃんを押し倒した。
自分でもどこにそんな力があったのかわからないほどに乱暴に姉ちゃんを押し倒すと、震える手でベルトを外そうとする。……しかし、上手く外せない。
それでもなんとか外すと、下着の中で破裂しそうなほど僕のペニスが硬くなっていた。

「ようくん……はやくぅ……♥」

姉ちゃんのショーツを剥ぎ取るように脱がせると、彼女の秘部も糸を引く程に濡れそぼっていた。二人共、もはや我慢の限界だ。
自分も下着を脱ぎ捨てると、覚束ない手付きでペニスを支えて中へと入れようとする……

「はぁ……はぁ……」

しかし、興奮と焦りで上手く入って行かない。もどかしい……はやく、はやく気持ちよくなりたい!

「ようくん、はやく……はやくちょうだい……せつないよぉ」

姉ちゃんの催促でさらに焦りが募る。無論そんな状態ではまともに入るわけがない。
ずるずると先端があちらこちらに擦り付けられ……

「っく……っは……ぁ……ぁぁ……」

ビクビクと全身が痙攣する。射精してしまったのだと気づいたのは姉ちゃんの股の間に精液が撒き散らされているのを見てからだった。もちろん、挿入などできていない。

「ようくん……大丈夫?」

ぐったりとしている僕の背中を姉ちゃんが優しく撫でてくれた。しかし、その気遣いが逆に痛い……。

「でも、まだできる……よね?」
「そんなに早く復活する訳が無いでしょうが……」

しかし……勢いに任せて姉ちゃんを襲ってしまった。妙にムラムラしていたとはいえ、どこかいつもの自分では無かったような気がする。

「え、でも……ここはギンギンに……あれ?」
「姉ちゃん?」

一度射精して腑抜けてしまったペニスに触れて首を傾げる姉ちゃん。一体何がそこまで不思議だと言うのだろうか。

「タケリダケをスープに入れておいたのに何でこんなにすぐ終わっちゃうんだろ……」
「あのキノコ……勝手に入れたの姉ちゃんだったんだ……。……あれ?」

そこで、姉ちゃんが言ったキノコの名前にふと思い至る。次の瞬間全身から一気に血の気が引いた。慌てて起動しっぱなしになっていたパソコンに駆け戻り、検索をかける。

「どうしたの?」
「ちょっと待って……さっき、タケリダケって……」
「う、うん……」

そして、その一文を見つけてしまった。

ヒポミケス属
他の菌類に寄生して宿主であるキノコを別の形へと変えてしまうカビの一種。
テングタケ属のキノコに寄生した場合、その男性器のような形状から俗称としてタケリダケと呼ばれる。

……つまり、姉ちゃんがミネストローネに入れたのは……テングタケ?
テングタケ属は毒を持つ種類が多く、テングタケ=毒キノコと考えてもほとんど語弊は無いほどだ。
いや、考察している暇は……無い!というか、食べてからどの位時間経った!?

「吐き気、無い!幻覚は!?って、そもそも何が幻覚なのか分からない!?とりあえずどうしよ、吐くか!?吐くのか?というか胃洗浄!?医者、救急車呼ばなきゃ、っていうかもう1,2時間経ってるよね!?解毒剤、ってフィゾスチグミンなんてどこで手に入るの!?うぎゃー!」
「ちょ、よう君!?落ち着いて!」
「というか姉ちゃんも食べたもの吐いて!テングダケ毒!毒キノコ!」
「だ、大丈夫。タケリダケは別に毒ってわけじゃ……」
「その元になるキノコが毒だっつってんのていうか救急車呼んでくる!」
「ま、待ってよう君!ようくーーーん!」

結局救急車まで呼んで検査してもらったものの、僕からも姉ちゃんからも毒は検出されず、姉と僕の勘違いと言うことで処理された。病院の皆様方、お騒がせしてご迷惑をお掛けしました。



……あれ?でも姉ちゃんがミネストローネに入れたキノコって何だったんだろ?
14/03/05 15:28更新 / テラー
戻る 次へ

■作者メッセージ
〜あとがき〜
リアルタケリダケは食べちゃ駄目、ゼッタイ

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33