連載小説
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9月7日 もうすぐ文化祭ですが姉ちゃんのテンションがヤバいです
AM7:30
僕がいつも起きる時間。いつもであれば……たとえそれが夏休み明けでいつもの感覚が戻っていないとしてもある程度は爽やかに起きられた筈。

そう、筈だったんだ。

目覚まし時計の音を聞きつけて廊下からドタドタという足音が聞こえてくる。この時点で先に見える憂鬱な出来事が簡単に予想できた。

「ようくーん!朝だよー!文化祭の準備いこー!」

部屋の中に姉ちゃんのメガホンクラスの叫び声が響き渡る。
寝起きの頭がガンガンと揺らされて若干気分が悪くなった。

「……姉ちゃん、目覚ましが鳴るまで待っていてくれるようになったのは有難いけどできればその大絶叫で起こしに来るのもやめてもらえないかな?」
「だって早くしないと朝の準備が終わっちゃうよ!そうなると放課後まで悶々とした気分を抱えながら授業受ける事になるんだよ!?」

始業式からこっち、文化祭があると聞いた日から姉ちゃんのテンションが天元突破し、宇宙の果てまで到達した。
そしてその翌日の朝五時に叩き起こされ、無理やり着替えさせられて学校まで全速力で走らされ、閉まっている校門の前で待たされたのが5日前。
というか、そもそも準備はそのその日の5日後ぐらいから始まる予定だったのだ。当然朝練の連中も含めて学校には誰も来ていない。
その日の懇願(と言う名のかわいくおねだり。死ぬほど恥ずかしかった)の甲斐あって一昨日には七時半までは待っていてくれるようになった物の、やはりそのままのテンションで部屋に突撃して来るのだから始末に負えない。

「そもそも朝早く来てまで文化祭の準備に奔走する人なんていないし、授業も半日で終わって後は準備に当てられるよう授業時間も調整してあるから放課後まで待つ必要無いし、準備の資材を買い出しに行く店は10時まで開いていないし、ついでに言うのであればいくら大声を上げながら僕の部屋に突入したとしても出発する時間は変わらないからね?」
「ぶーぶー!」

いくら頬をふくらませてブーイングしたとしても何もかわりませんよ姉ちゃん。

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姉ちゃんと一緒にホラー映画を見る。

─ヴぉぉぉぉぁぁぁあああ……─

「ひっ!?」
「…………」

─ぁ“ぁ”ぁ“ぁ”ぁ“あ”あ“あ”あ“あ”─

「怖いよ〜!よう君こわいよ〜!」
「…………」

そんな事より姉ちゃんが強く腕を締め付けてくるせいで僕の腕がホラーっぽくなっている。
これ以上絞め上げられたらホラーを通り越してスプラッターになりそうなのだけれどどうしたものだろう。

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「……姉ちゃん」
「なぁによう君?」

ズカズカと早足で通学路を進んでいく姉ちゃん。
元々モデルもビックリなスタイルの持ち主である姉ちゃんが全速力で歩くとその歩幅も相まって滅茶苦茶速い。まぁそれはいい。問題は……

「周りの視線が痛いです」

今の状況を客観視してみると、『地味ブサ女子高校生に男子が腕を組まされてものすごい速度で引き摺られている』という状況に。一体何があったんだと僕ですら聞きたくなる。いや、むしろ関わりたくなくなる。

「細かい事は気にしない!」
「全然細かくありませんけどね」

自分の足で立って走ろうとしても姉ちゃんの歩幅の方が長く、簡単に足がもつれて再び引き摺りに。僕は首を咥えられて連れて行かれる猫の子供か。

「姉ちゃん、自分で走りたいから手を離してもらえないかな?」
「ん、そう?それじゃあはい」

そう言うとあっさりと手を離して開放してくれる姉ちゃん。いつも以上に聞き分けがいいなぁ……

「それじゃ、れっつごー!」

そう一言言うと凄まじい速度で……それこそボルトも真っ青な速度で走って行ってしまった。

「どう着いて行けって言うのかなぁ……」

というよりあれで手加減してたんだ……。せめて人間の範疇を超えた身体能力は発揮しないでね。後で言い訳して正体を隠すはめになるのは僕なんだから。

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姉ちゃんは自分の正体を隠すことに関して割りとズボラだ。

「ようく〜ん♪」
「くぁwせdrftgyふじこlp;@!?」(※学校の二階の窓です)

「それでね〜」
「(尻尾で荷物を持つなぁぁぁあああ!)」

「学校疲れた〜……」
「(浮いたまま移動しないでぇぇぇぇええええ!)」

気苦労が絶えません。

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「ねぇねぇ、よう君のクラスはどんな出し物をするの?」

昼休みの屋上。僕の日常に組み込まれた姉ちゃんとのお弁当タイム。
初めの頃はどうやって鍵を開けているのだろうと疑問に思っていたけれど、最近では気にするだけ無駄という事を学習して深く詮索はしなくなっていた。藪をつついて蛇を出すとも言うしね。

「喫茶店。クラスの女子がバイト先から制服借りてきてそれを着てやるんだって」
「ふ〜ん……よう君もそれ着てやるの?」
「男子用の制服は無いから僕は裏方だよ」
「なんだ、よう君もウェイトレスの格好するんじゃないんだ」
「姉ちゃんは僕の事を何だと思っているのかな?」

確かに童顔だし背は割りと低めだし、クラスの女子からは女装させられそうになった事は
あるけれど、女装をして喜ぶ趣味はもっていないつもりだ。

「姉ちゃんの方は何をするの?」
「お化け屋敷だって〜。暗幕で教室暗くしたり、机やダンボールで迷路作ったりで結構面白いよ♪」

姉ちゃんにとっては生まれて初めての文化祭なのだろう。ありきたりな物でも楽しそうにしている。はしゃぎながら出し物の事について話す姉ちゃんを微笑ましく思いながら、昼休みは過ぎていく……。

………………
…………
……

時は流れて三日後の金曜日。この日から二日間掛けて文化祭が行われる。
一日目は純粋に学園内のみで行う。二日目は一般参加が可能な開放日だ。

「陽介く〜ん!アイスティー3つとショートケーキ2つ、チョコレートケーキ一つね〜」
「りょーかい」

僕は教室の4分の1を区切って作られた厨房に立ってオーダー通りに飲み物とお茶菓子を用意していく。……といってもお茶はティーパックかペットボトル、お菓子も予め買ってきてある物を紙皿に乗せて出すだけなんだけれどね。

「ようく〜ん、よう君一つおねが〜い」
「はいよ〜……って何その注文!?」

思わず返事をして、何故自分が注文されるのかという根本的な疑問と共に声の発生源に目を向けると……

「やほ♪」
「姉ちゃん……お客として来てるならちゃんとテーブルに着いてよ……」

オーダー受付から姉ちゃんがひょっこりと顔を出していた。
クラスメイトがクスクスと笑ってこちらを見ている……見世物じゃないよ?

「もうすぐお昼で午後の連中と交代になるからそれまで待ってて。お茶とケーキの代金は僕が出しておくから……」
「やた♪それじゃあ紅茶のホットとショートケーキね♪」
「はいはい……」

うきうきと開いている席へ歩み寄る姉ちゃんを尻目に受けているオーダーを黙々とこなしていく。
こういうお茶とかお菓子を用意する……というより食べ物全般を作ったり人に出したりするのは割りと好きな方だ。そのうち喫茶店のバイトでもしてみようかなぁ……。

「面白いお姉さんだね」
「一緒にいると疲れるけどね〜……」

オーダーを取りに来たクラスメイトと二言三言言葉を交わす。普段は交流を持たないクラスメイトとも話題ができる学園祭が故、このイベントでくっつく男女も結構多い。
僕は……うん、多分姉ちゃんに監視されている。だから無理。

「そう?一緒にいると陽介くん随分と楽しそうにしているけど」
「……僕が?」

そんなにニヤけたり態度に出ていたりしたかな?第一相手はあの天下無双……もとい、奇想天外なあの姉ちゃんである。そういう特別な感情は……。

「あまりに好きすぎて手を出さないようにね〜♪」
「あ、ちょっと!」

僕が呼び止めて訂正する暇もなく、彼女はトレーを持って配膳に行ってしまった。
手を出す……かぁ。

…………
……………………
………………………………

『どうしたの?よう君……遠慮しなくてもお姉ちゃんは逃げないよ?』
『で、でもこういうことってしたこと無いし……!』
『それじゃ、お姉ちゃんでいっぱい教えてあげる♪』
『教えてあげるって……ぅぁ……!』
『どーお?気持ちいでしょ〜♪』
『アソコが擦り付けられて……ぬるぬるする……それに凄く熱い……』
『それじゃ、そのまま入れちゃおうか♥』
『ま、まって!まだ心の準備が……!』
『いただきま〜す♪』

………………………………
……………………
…………

「う、うわぁ……」

顔から火が出るほど恥ずかしくなると同時に、姉ちゃんならやりかねないというある意味確信めいた予感までしてきた。
しかも普段身近にいる人物であるがゆえに妄想の質が恐ろしく高い。

「陽介く〜ん!次のオーダー入るよ〜!」
「は、はーい!」

僕はこの時相当慌てていたのだろう。

─ゴッ─

振り向き様に駆け出した時に隅においてあった椅子にスネを打ち付け……

「いって!」

─ガッ─

足を庇った勢い余って膝で机を蹴り上げ……

「おぅ……!」

─ドバシャァ─

「あっづぁぁぁぁぁあああ!」

紙コップに入れてあった熱々の紅茶がズボンに掛かって大やけどをし……

─ズルッ、ベキャ─

「───────」

濡れた床で滑って後頭部をしこたま打ち付けて失神した。
それを見ていた悪友晴彦曰く、

「まるで人間ピ○ゴラスイッチを見ていたようだったぜ」

だそうな。


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クラスメイトとのゲームで負けて罰ゲームをした訳だけど……

「(罰ゲームで買わされたこれ……どうしよう……)」

僕の手には白いふわふわした猫耳が付いているカチューシャ……と、セットの尻尾(with アナルパール)

「(……いいや、そっと隠しておこ)」

僕はその黒歴史(?)をタンスの一番奥へと仕舞った。

次の日……

「よう君よう君」
「ん〜……なぁ……に……」

姉ちゃんに呼ばれて振り向いた僕の目に飛び込んできたのは……

「に、にゃ〜ん……?」

ネコミミと尻尾を付けて若干顔を赤らめながらネコのポーズを取っている姉ちゃんだった。
人間って本当に興奮で鼻血が出るのか、と僕は身を持って知ることになった。

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頭がズキズキと痛む。
それと同時に、何か柔らかい物が僕の頭の下に敷かれているのが分かった。
目は……まだ開いていない。痛みをこらえてなんとか目を開けると、青空をバックに姉ちゃんの顔が覗き込んでいた。
という事は……この柔らかいのは……姉ちゃんの膝?膝枕?

「あ、起きた」
「……うん、起きた」

まだ頭がぼんやりとしていて体に力が入らない。
周りの目は無いだろうから厚意に甘えてしばらくこのままにしておいてもらおう……。

「……姉ちゃん」
「何かな?」
「顔が近づいてきているんですけど」

体の力を抜いたのが分かったのか、徐々に姉ちゃんの顔が下に……具体的に言うなれば僕の顔の方に近づいてきている。

「ここ、誰も見てないよ?」
「見ていなくても姉弟でする事じゃないよね?」

ここまで来ても僕は慌てていない……というより、大体結末が予想できるので何もしない。
姉ちゃんはというと僕が無抵抗な事をいいことにさらに顔を下ろしてくる……が。

「……あれ?う〜ん……!ん〜〜〜〜〜!」

いかに姉ちゃんが人間ではないとしても、身体構造を無視して動かす事は不可能な訳で……。

「よう君、もう少し体を下の方にずらして?」
「やだ」

姉ちゃんが体を折り曲げた時の腰から唇までの距離>姉ちゃんのお腹から僕の唇までの距離なので、どうあがいても姉ちゃんは僕にキスなんてできない。
その後もさせろ、嫌だの応酬で傍から見ればイチャついていたようにしか見えなかったけど……うん、楽しかったかな。



二日目の一般開放日は鉄火場かというぐらいの忙しさで姉ちゃんの方も流石に顔を見せなかった。
後に聞くと姉ちゃんのクラスに本物の幽霊が出た的な噂が流れてきたのだけど……姉ちゃんの正体が正体だけに全否定ができなかった。

「終わったね〜」
「ん、疲れたね」

文化祭の後片付けも終わり、とっぷりと日が沈んだ頃。
後夜祭(という名の文化祭メインイベント)がグラウンドで行われていた。
キャンプファイヤーの周りで持ち寄った菓子や飲み物をぱくつきながらどんちゃん騒ぎをするのだが……僕と姉ちゃんはその輪から少し離れた場所で赤々と燃える炎を眺めていたのだ。

「姉ちゃんはクラスの所に行かないの?」
「あはは……お姉ちゃんがいるとクラスの男の子が微妙な雰囲気になっちゃうから……。よう君は?」
「元々大人数でわいわい騒ぐのが苦手だから……」
「あ〜わかるわかる。どっちかというと居酒屋で宴会より喫茶店でコーヒー飲んでいる方が似合いそうだもん」

二人して持ってきた飲み物を呷りながら遠くで浮かれ騒ぐ生徒を眺めている。
なんとなくだけど……喧騒から切り離されて二人きりのような錯覚を感じる。
それと同時に、ある事も聞いてみたくなった。

「ねぇ、姉ちゃん」
「ん、なぁに?」

これは、聞いていい事なのだろうか。
これを聞いてしまうと今までおぼろげだった物がはっきりと輪郭を持ってしまいそうで怖い。
しかし、これを聞かないのは……自分の中でもやもやが収まらない。

「梅雨の頃に二人で喫茶店に行った事は覚えてる?」
「うんうん、覚えてるよ〜。あのワンちゃんの驚いた顔面白かったな〜♪」
「まぁ玲衣奈さんの事はひとまず置いておいて……」

置いておいたらかわいそうな気もするけれど、置いておく。話が進まない。

「姉ちゃんは……何であの時僕にキスなんてしたの?」

そう、この一点が聞きたかった。
元々他人なため、お互いに性欲処理をする名目で僕が姉ちゃんにされてきた数々のセクハラ(?)は目をつぶるとしよう。
でも、キスだけは……何か違う気がする。だからこそ僕も我に返ってあれほど慌てたのだ。

「……知りたい?」
「………………」

その紅い目で見つめられる。瞳の表面にキャンプファイヤーの炎が反射し、揺らめいていた。
顔が近い。頭の中を直接揺さぶるような甘い香りが僕の理性にヒビを入れる。
ぞっとするほど美しい、そして艶やかな目から、妖しく光を反射する唇から視線を外すことができない。

「じゃあ……よう君からキスしてくれたら教えてあげる」
「────」

分かっている、明らかな誘いだと。
でも、顔を逸らすことができない。
この時僕は、完全に、完璧に、疑う余地も無い程に、姉ちゃんに魅了されていた。

「んっ……」

触れるだけの、つたない口づけ。
底抜けに柔らかく、温かく、ほのかに花のような匂いが鼻腔を擽ってくる。
そして背筋に怖気にも似た快感がビリビリと駆け抜ける。腰砕けになりそうな程に気持ちがいい。
そして止せばいいのに、その場で離れればいいのに……僕はそれだけでは満足できず、姉ちゃんの唇に下を這わせて割り込ませ、舌同士を絡ませ合わせる。
口を合わせる間に息が苦しくなり、わずかに口を離すものの舌はずっと絡み合っていた。
意識もせずに自分の腕が姉ちゃんの体を掻き抱く。……いや、この時確かに僕の腕の中にいるのは自分の姉などという存在ではなかった。



一人の女性だったんだ。



「………………」
「んへへへ〜……よう君にちゅーしてもらっちゃった〜♪」

暗くてよく見えないが、おそらく僕の隣には顔がだらしなく緩みきった姉ちゃんがいるのだろう。
そして僕はというと凄まじい後悔とか恥ずかしさとか興奮とかないまぜになったような表情をしているのだろう。実に度し難い。

「ねね、自分からするちゅーはどうだった?ねぇねぇ?」
「恥ずかしくてものすごく死にたいです……」

いやはや、自分が童貞だという事をまざまざと思い知らされるね。
もっと凄い事はいろいろして(されて)いるのに、キス一つでこれだ。
異常な体験にはなれているであろう筈なのに、今僕はそれ以下の行為の筈のキス一つで完全に参ってしまっているのだ。

「はぁ〜……しばらく歯とか磨きたくないな〜」
「いや、そこは磨いてよ」

自分の中でまだまだ整理が付いていないものの、以前程パニックにはならなかったのは不意打ちではなかったからかな。

「とにかく……キス、したよ」
「ん、そーだね……じゃああの時なんでしたのかって言うのはね……」

予想は、付いていた。
こんな事を女性からするのなんて、大体一つぐらいしか理由が無いから。
自分から求める理由なんて、一つぐらいしか無いから。
ある意味での『答え合わせ』。結果が分かり切っている『出来レース』。

「お姉ちゃんは、よう君の事が好きになってしまったのです」
「………………」

ほら、やっぱり。

「好きで好きでたまらなくて、よう君の事を考えると胸がきゅうきゅう苦しくなるのです」
「………………」

そんなにストレートにぶつけてこられたら、困る。

「一緒にいられるとふわふわしてとっても楽しい気持ちになってしまうのです」
「………………」

そんな気持ちをぶつけられたら、嫌でも意識してしまうから。

「よう君は、どうかな?」
「僕──は───」

このままじゃ、取り込まれる。
どんなに抵抗しても、どんなに口をつぐんでいても、わかってしまう。
そして、そのあとは……

『もちろんその人を連れて私の世界へ戻るつもり♪』

知らない、世界。

「っ!」

気付け代わりに持ってきたコーラの残りを一気に喉へと流し込み、その場から逃げるように走りだす。
情けないと笑えばいい。ヘタレだと後ろ指を指せばいい。
その時僕は……知らない世界がこの上なく怖かったのだ。



「はぁっ!はぁっ!はぁっ!……っ!」

どこをどう走ったのか、まるで覚えていない。
ぐちゃぐちゃになってしまった頭でどうにか下駄箱までたどり着いたものの、気力が根こそぎ折れてしまって立っていられなくなり、下駄箱に背を預けてずるずると座り込む。

「何……やってんだろ……僕……」

キスをした時よりも深い後悔が僕に襲い掛かってくる。
精神の均衡を揺るがすほどの激しい後悔。怖かったから告白から逃げたなんて……どこまで最低なのだろうか、僕は。

「よう君」

そこに姉ちゃんがいた事にすら気付かなかった。それほどまでに疲弊していたのだろう。

「……帰ろっか」
「……ん」

各々教室に置いてきた荷物を取りに行き、一緒の家路へと就いた。
姉ちゃんは……先ほどの事に関しては触れてこなかった。
その事に涙が出るほどありがたかったのと同時に、ものすごく申し訳なくなってしまったのは言うまでもない。

僕の姉ちゃんは時々ストレートすぎて困る。……これから先どうしよう。
14/03/05 15:28更新 / テラー
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■作者メッセージ
〜あとがき〜
リリム様ってストレートなエロよりも学園純愛物に向いている気がする。性質的に。
キスの時の描写をもっと艶かしく書きたかったけれど今の自分ではこれが限界かなぁ……

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