連載小説
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7月24日 僕と姉ちゃんと海開き
照りつける太陽、漂う潮風。遠くからはさざなみの音が聞こえてくる。
季節は夏。開放的な空気に恋人たちはこぞって行楽へと繰り出し、ところかまわずイチャつき始める時期である。

僕ぐらいの年代であれば彼女の一人でも作って一夏のアバンチュールでも楽しもうというのが一般的なのだが……

「いやっほぉぉおおおう!海だーーー!」
「姉ちゃん、恥ずかしいからあまり大きな声を出さないで」
「いやはや、またこの季節がやってきたなぁ、母さん」
「えぇ、いくら月日が経ってもこれだけは欠かせないわねぇ」

そんな中、我が家は海開きになるとこぞって海水浴に行くことになっている。
本来であれば「彼女と行くからパス」なんて言ってみたい物なのだけれど、生憎と僕にはそんな洒落たものは存在しない。
いるのはいつでも僕にべったりヤンデレ気味の姉ちゃんだけだ。

「だって海だよ、海!おっきいんだよ!?青いんだよ!?気持ちいいんだよ!?あとおっきいんだよ!?」
「大きい二回言ってるよ」
「大事なことだから!」
「二回言いましたって?」

それはそうと姉ちゃんのテンションが海が見えてきた辺りから上がりっぱなしだ。もう少し歳というものを考えて欲しい。
近い年代だったとしてももう少し落ち着いた行動できるよね?

「ねねねね!クジラ!クジラいるかな!?」
「いない」
「じゃあ鮫さんは!?」
「いたら海水浴場閉鎖になってる」
「じゃあアザラシ君!」
「そんなニュース聞いたこと無いね」

まるで年下の子供を相手にしているようだ。周囲の視線を集めているから止めて欲しいんだけどなぁ……傍からみたら純粋に気持ち悪いだけだろうから。

「それじゃあ人魚!」
「いいね、捕まえて売ったらお金持ちになれそうだ」
「え〜……そんな事したらかわいそうだよ」
「いないから問題ないよ。言うだけならタダ」
「いるかもしれないよ?意外と」
んなアホな。

「陽介、パラソルを立てるのを手伝ってくれ」
「は〜い」

父さんに呼ばれてレジャーシートとパラソルを設置する。
砂の上に突き刺すから安定を取るのが難しいんだよね。

「クーラーボックス置いとくわね〜」
「はいよ母さん。由利はどうした?」
「海の家の更衣室で水着に着替えてくるって言ってたわよ」

姉さんの水着かぁ。どうせまた際どい水着でも……



際どい水着?



姉ちゃんが水着に着替えて戻ってくる→着るのはおそらく露出面積が多すぎる物→他の人から見た姉ちゃんの姿+際どい水着→周囲の人にメガ・クサル(精神全体魔法)

「やっばぁぁぁぁい!」
「な、なんだ陽介。いきなり叫びだして……」
「ちょっと姉ちゃんの様子見てくる!」
「あらあら、覗き?」

ドストレートに天然ボケをかます母さんは放置し、猛然と海の家に向かって駆け出す。
足元が砂地の上にビーチサンダルなので、走りにくいったら無いが……その程度で立ち止まる訳にはいかない!



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「…………(ドキドキワクワク)」

姉ちゃんがおとなのふりかけを買ってきた

「…………」(´・ω・`)

中身を見て滅茶苦茶がっかりしていた。

「あ、結構美味しいかも」
「やっぱりわさびだよね」

でも意外と気に入ってくれたようです。

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この辺りで海の家は一つしかなく、更衣室も施設の外に3つボックスがあるだけだ。
その内の一つ、真ん中のボックスの扉の上から姉ちゃんの顔が覗いている。
今正に僕を見つけ、身にまとう水着を見せようと扉に手を掛けている……!

「させるかぁぁぁぁああああ!」

姉ちゃんの体が見える寸前で扉を押さえ、外に出てくるのをなんとか阻止。
周囲から奇異の目で見られているが、兄弟だと言って愛想笑いを浮かべたら興味を失ってくれたようだ。

「どうしたの、よう君」
「外に出る前に……どんな水着を着たのか言ってみて」
「スリングsy」
「アウトぉぉぉおおお!」

僕にとってはいい意味で目に毒でも、周囲の人から見たら悪い意味で目に毒だ。

「チェンジチェンジ!もっと無難な奴にして!」
「え〜……せっかくお母さんと買ってきたのに……」
「母さんは後で絞め上げておくからもっと無難な奴をお願い……」

仕方ないなぁ、という声と共に扉の向こうから衣擦れの音が聞こえてくる。
これでとりあえずは一安心……。

「着たよ〜♪」
「やれやれ……フォローするこっちの苦労も……」

パカリとボックスの扉が開き、姉ちゃんがその姿を現す。
豊満な胸には申し訳程度の面積の黒い布と紐が局部を隠しており、股間に至っては少しでも動こう物なら色々隠すべき物が見えてしまいそうだ。

「マイクロビキn」
「ちぇすとぉぉぉおおおお!」

開いた扉を視認から約0.5秒で閉める。これはどう考えてもアウトだ。
こんな物を衆目の目に晒したら数秒でビーチが酸っぱい匂いでいっぱいになってしまう。

「僕無難な奴って言ったよね?なんで際どいもの持ってくるの?」
「やぁん♪怒らないでよ〜♪」
「怒らせたく無いならもっと露出面積の少ないやつを頼むよ……心臓に悪いから……」
「コーフンする?♪」
「吐く」
「ひどい!よう君の物言いが日に日にひどくなってるよ!」

姉ちゃんは自分に掛かっている魔法の事を忘れちゃいけないと思うんだ。
それは無自覚ながらにも人を傷つけてしまう残酷な魔法なのだから……

言い方はアレだけど間違っていないよね?

「じゃあ、これ!」

今度は閉められないようにするためか、いきなりドアを全開に開く姉ちゃん。
マズイ!すぐに閉められるようにしないと……

「白いスクール水着!」
「わざと?ねぇわざと?濡れたら物凄く危ないことになるよね?それ」

結局海の家で売っていた水着を僕が自腹で買って着てもらうことにした。
選んだのは黒っぽいタンキニ……別にそれが好きだったからではなく、一番露出が少ない奴だったから。色々と目に毒だしね。
あぁ、今月は欲しい小説がいっぱい出るのに……。
あとから分かったことだけど、あの時姉ちゃんのバッグの中にある水着の中で一番露出面積が少なかったのはその白スク一着だけだった……

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姉ちゃんの振ってくる話題は……

「最近話題の塩麹ってさ」
「嫌な予感がするけど一応聞くよ」

「苦い物混ぜたらせいえk」
「ストップ」

八割方下ネタだ。

「お姉ちゃんにぶっかけてみる?」
「食べ物を粗末にしないの」

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「ただいま……」
「ただいま〜♪」

すったもんだの挙句ようやく両親の元へと帰還。言うまでもなく前者の声が僕だ。
そういえば何で姉ちゃんは僕が買ってきた水着を嬉々として着ていたのだろうか。
確かに安い物ではなかったけれど、それほど高いものでも無かった筈なのだけれど……。

「あら由利、買ってきた水着は着なかったの?」
「よう君が水着買ってくれたからいいの♪」

母さん、あらあらうふふなんて感じで僕を見ないでください。あと父さん、何故無言で腕組んで頷いているんですか。

「陽介、将来も由利を守ってやるんだぞ?」
「父さんは一体何を言っているのさ」

これはアレだろうか。娘の貰い手が絶望的に無いことに悲観した父親が息子に託す的な事なのだろうか。
いいのか、それで。



現在の僕の装備

麦わら帽子
白いTシャツ
海パン

そして、割り箸に括りつけたそこら辺で拾った釣り糸と釣り針。

海に遊びに来た子供のような姿だけれど、潮溜まりに取り残された小魚を釣って遊ぶのはこれが一番適している。

「な〜にしてんのっ!」

適当に岩から引き剥がした巻貝を石で割ってエサにしようとしていると、頭の上に柔らかい物の感触が……。声から言ってこの人は間違いない。

「姉ちゃん、胸乗っかって重い」
「やだーおっぱいで誰か当てられちゃったー!よう君えっち〜♪」

最近はずっとこんな感じである。彼女の言う所の運命の人探しなぞほったらかしにして僕にべったりとくっついてはセクハラを敢行してくる。
もう、バレてたりして……まさかね。

「胸はともかくこんなセクハラしてくるのは姉ちゃんぐらいしかいないからね」
「むぅ……最近よう君の反応が薄くて面白く無いですよ?お姉ちゃんは」

別に姉ちゃんを楽しませるために生きている訳ではないので、そこの所はどうでもいいのだけれど。

釣り針に貝の身を引っ掛け、潮溜まりの岩陰に沈めてやる。
すると、エサの匂いにつられて岩陰から出てきた小指にも満たないようなハゼが食いつき、ビクビクと割り箸の先を震わせる。
引き上げてあげれば一丁上がりだ。

「……ものすごい地味な遊びしてるね」
「自分でもそう思う」

しかし海の上は他の海水浴客でごった返しており、泳ぐにも場所が無くて泳げない状況だ。
混雑に巻き込まれないように遊ぶとなると、必然的にこういった岩場などの人の少ない場所でひっそりとやることになる。

「あっちの方の浜辺だったら泳げない?人が一人もいないんだけど……」
「あぁ……あそこかぁ」

姉ちゃんが指さしたのはここから200メートルほど離れた場所の浜辺だ。
確かにあそこは人が来ない。それもそのはず、曰くつきという奴だ。

「実はちょっとした怪談があってね……」
「階段?」
「わかりやすいボケしないの」

曰く、その海岸には妖怪が出るらしい。
昼夜を問わずその海岸に近づく若い男を海の底へと引き摺り込んでしまうそうだ。
海難事故に注意しろ、という忠告として伝わっているというのが一般的な見解だが、その一方で明らかに不可思議な行方不明事件……それも海の穏やかな場合でも発生した事があり、地元では本当に妖怪が棲んでいると言われているらしい。

「事実あそこで行方不明になった人って結構いるらしいよ。新聞で取り上げられた事もあるとか……結局見つからなかったらしいけど」

無論、行方不明になった人の方だ。遺体すら上がってこないという事からネット上のオカルト掲示板では異世界への入り口がある、なんて憶測も立っている。
そんな場所に入り口があったら向こうは水圧の関係で水浸しになっている気がするんだけど。

「相手が妖怪なら心配いらないんじゃない〜?多分お姉ちゃんがいれば連れ去られる事は無いと思うよ」
「いや、何を根拠に言ってるのさ……」

と、思い返してみれば彼女も人間では無かった。
彼女との邂逅の一部である、あの夕焼けの屋上は記憶から消そうと思って消えるものではない。

「せっかく海に来たんだから泳がなきゃ損だよ!だから行こ!」
「わかったわかった……じゃあせめて釣具の後片付けだけでもさせてよ」

釣竿代わりの割り箸に糸を巻きつけて釣り針を割り箸に刺して固定し、腰につけてきたウェストポーチ(岩場ではいつ怪我をするかわからないので、常に救急用品が入っている)に仕舞いこむ。
元々かさばるものではないので後片付けも簡単だ。
準備を終えると二人で連れ立って目的の海岸まで向かう事にした。

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お菓子と姉ちゃん

「あ、銀のくちばし!」
「へぇ、珍しいね……。取っとくの?」
「もちろん!」

次の日……

「なくしちゃったぁ……」
「大体予想してたけれどやっぱりね」

姉ちゃんは期待を裏切らない。

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人が全く来ないためか、その海岸はゴミ一つ落ちていない綺麗な砂浜だった。
波も穏やかで比較的泳ぎやすそうではある。
海水浴場の喧騒から離れ、今ここには僕と姉ちゃんの二人だけしかいなかった。

「(流石に襲い掛かってくる……とかは無いよね?)」
「さ〜、泳ぐぞー!」

奥へ向かってバシャバシャと水をかき分けて走っていく姉ちゃん。体型とは裏腹に性格がまるっきり子供だ。
ある程度の深さまで来たのか、そのまま倒れこむように水の中へ飛び込む……あ、叩き付けるような結構大きな音がした……あれは痛そうだ。

「……あれ?」

姉ちゃんが浮かび上がってこない。5秒……10秒……15秒……

「ちょ、姉ちゃん!?」

慌てて彼女が沈んだ場所へ駆け寄り、水中に潜ると……姉ちゃんがジタバタしながら沈んでいた。




まだ足が立つ場所なのに。



半分呆れながら助け起こすように抱き上げて海面へと持ち上げる。
彼女は半狂乱になって僕にしがみついてくる訳で……

「べぶっ!おぼ、おぼれ……!」
「姉ちゃん、ここ足付くよ」

色々押し付けられているのはこの際無視。無視できないけど無視。
しばらくしてようやく状況が飲み込めたのか、恥ずかしそうに自分の足で立ち上がる姉ちゃん。

「おかしいなぁ……テレビの水泳だとあんな簡単そうに泳いでたのに……」
「プロと比べちゃだめでしょ」

海を見た時の反応、子供みたいなはしゃぎ様……もしかしてこの人。



泳いだ事が無いのでは?



確か学校のプールは藻だらけで掃除もしないので水泳の授業は行われていない。
つまり、学校でも泳ぐ機会はなかったと。
というかこの人、家族で毎年海に行っているという設定をぶち壊しにするつもりか。

「姉ちゃんまだ泳げるようになってなかったのか……」
「え? え〜と……うん、ゴメンナサイ……」

とにかくここで泳ぎを教えておこう。父さんや母さんが泳げない彼女を見たら流石に不審に思うだろうし。



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「むむむ……ここか!」

─ガタッ─

「あれぇ……無いなぁ」
「それじゃ、タンスの裏!」

─ズズッ─

「ホコリしか無い……」
「なら定番のベッドの下……」
「姉ちゃん、本人の目の前で部屋の家探ししないでくれないかな?」

姉ちゃんは放っておくと僕の部屋でいかがわしい物探しをし始める。
当然見つかるような場所には入っていない。(HDD内。ログイン時にパスワード付き)

「よう君!ぱそこんの中身の閲覧を要求する!」
「やなこった」

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「はい、水に顔付けてバタ足〜」
「はぷっ」

姉ちゃんは飲み込みが早い。
教えて数分も経たない内に水に浮けるようになり、もうバタ足の訓練だ。
元々の体が人間ではないため、しっかりと泳げるようになればアスリートも真っ青なスピードで泳げるようになる筈。多分。

「手離すからそのままバタ足続けて〜」

そっと手を離すと、バタ足の推進力が姉ちゃんの体を押して前に進んでいく。
2,3メートルも進むとその場で立ち上がり、目を輝かせて達成感に浸っていた。わかりやすい人だ。

ふと、背後に気配を感じて振り向いたが、誰もいない。
いや、誰もいなかった。代わりにあったのは……


どこから発生したのかも分からない程の高波。


その高波は僕と姉ちゃんを飲み込み、共にもつれ合わせながら岸まで押し流していく。
当然慣れていない姉ちゃんは死にものぐるいで僕に抱きついてくる。僕も僕でなんとか姉ちゃんに怪我をさせないように姉ちゃんをかばいながら転がっていく。
ようやく空気を吸えたのは浜辺に打ち上げられてからだった。

「けほっ……姉ちゃん、大丈夫?」
「うえぇ……死ぬかと思ったぁ……」

一体何が起こったのかと海の方を見ても特に波は荒れていない……ん?

「何だろ……今の」

波間にちらりと、薄桃色のひらひらした何かが垣間見えた気がする。
ビニール袋でも浮いていたのだろうか?

「変に波に揉まれたからちょっと疲れ……!!!!」
「……?どうしたの?」

どうしたの、ではない。姉ちゃんの水着の上が大きく開けて形の良い胸がまろびでている。
綺麗に言っては見たが要するにポロリしているのだ。
不意打ちにそんな物を見せられたらたとえ水に浸かって体が冷えていたとしても反応してしまうという物。

「な、なんでもないっ!」
「??……あ♪」

姉ちゃんが自分の胸元へと目線を移し、更に半立ちになっている息子に気付かれる。
ヤバい、バレた。

「何だかんだ言いながらよう君はお姉ちゃんの裸に欲情してくれるんだよね〜♪」
「〜〜〜〜!」

火が出そうな程頬が熱くなり、顔に血が上っていくのがわかる。
そう、僕はこの人の魅力に逆らうことができない。
お腹辺りにふっくらと押し付けられる色白の大きな胸。
わずかに素肌に触れてこそばゆい長い銀髪。
僕をじっと見つめる潤んだ瞳……もう、目が離せない。

「そうだ、こうしてあげるのは初めてだよね?」
「何を……って、水着脱がさないでよ!?」

もうこうなった姉ちゃんを止める術は無い。哀れなる捕食者はただ食べられるのみ……性的な意味で。

「ん〜……まだカチカチって訳じゃないかな?でもフニフニでちょっとおもしろいかも」
「あうあう……」

恥ずかしがりつつも殆どなすがままの僕。
押し付けられる柔らかい感触がじわじわと抵抗力を奪っていく。
そしてまだやわらかいモノが姉ちゃんの胸に挟み込まれる。これは……

「うわぁ……」
「挟んじゃった♥」

パイズリだ。

全ての男子の夢(一部ではそうではないかもしれないけれど)のアレだ。
海に浸かっていた為か少しひんやりしているけど、きめの細かい肌の間に挟まれた感触は凄まじく気持ちが良くて……。

「はっ……あっ……」
「ふふっ……♪女の子みたいな声出てるよ?」

魅惑の肌触りにあっという間に全開までモノが大きくなる。
姉ちゃんもそれで興奮したのかじんわりと体温が高くなってきて、汗ばんで肌の摩擦が減ってきた。
我慢汁が溢れてくることもあってか胸の間をスムーズに滑っていく僕のモノ。
かなり、限界が近い……

「……?」

ふと、視界に妙な物が映った。
位置関係としては姉ちゃんの背後に海……つまるところ僕の真正面が海に面している事になるのだけど、その海の中から女性の上半身が出ていた。
桃色の髪の、画家がかぶるようなベレー帽をかぶった女性。
その人が顔を赤らめ、息を荒げてこちらを凝視しているのだ。

「ちょ、姉ちゃん!後ろ、後ろ!」
「? 後ろがどうかしたの?」

姉ちゃんが振り返った時にはすでにその女性が海に潜った後で、何も見えなくなっていた。
行為を邪魔されたからか、少し頬をふくらませている姉ちゃん。

「我慢できないからって邪魔するのは良くないんじゃないかな?」
「でも、確かに女の人が……」
「……よう君?」


ゾクリ、と。背筋に悪寒が走った。


「女の子とこういう事している時はよそ見しちゃダメなんだよ?」
「……ごめんなさい」

謝ることしかできないよ。だって若干目が死んでるんだもの。
再び胸を動かし始める姉ちゃん。柔らかい胸がねちゃりと粘ついた水音を伴いながら上下に往復していく。
時偶互い違いに動かし、時に乳首を押し当てて刺激を変えながら、徐々に高まり合って行く……

「……!!??」

先ほどの女性が再び海面へと上がってきていた。
しかし、彼女だけではない……何故かもう一人、今度は青い髪のお姉さんまでもが増えていた。というか、何で貝殻のブラジャーなんてしているんだろう。

「(声を上げちゃだめだ声を上げちゃだめだ声を上げちゃだめだ!)」
「……?よう君、どうしたの?」
「い、いや……別に……」

視線を戻すと、やはり彼女達は海の中へと消えていた。不審に思ったのか、姉ちゃんが振り返ってもやはり誰もいない。

「ねぇ、よう君……お姉ちゃんってよそ見されるほど魅力無いかな……」
「ぁ……ぅ……」

ここでいつも通りに『無い』と言ってしまうのは簡単だ。
でもここでそれを言ってしまうと……今の状態が終わってしまう。後に待っているのは寸止めという地獄だけだ。これを一人で寂しく処理するのは想像以上の精神的苦痛を伴うだろう……。

逆に、『ある』と答えてしまうと、本来の姿が見えているという事になってしまい、終わった途端に拉致という結末が見えてしまう。必死に説得すれば思いとどまってくれるだろうか……

最終的に僕が下せた決断というのは、

「姉ちゃん、おっぱいは大きくて気持ちいいから……」

なるべく容姿には触れないように、それでいて彼女のプライドを傷つけないようにうまく言葉を選んで言う、というなんとも針の穴を通すような言葉を絞り出す事だった。

「……しょうがないなぁ」

そう言いつつも、姉ちゃんの顔がニヤけているのは隠しようが無いようで……。
誰だって褒められるのは嫌いじゃないよね。

「それじゃ、もっとサービス……ん、れろ……」

胸から出て余った先の方を舌を伸ばして一舐めされる。濡れてザラザラした感触が先端を擦る度に腰が砕けそうになるほどの強烈な快感が全身を貫く。何故舐めただけでこれほど気持ちがいいのだろうか。

「………………」

もう、僕は突っ込まない。
先ほどの女性達が海の中から息を荒げてこちらを凝視しても、手が下の方に伸びて何かもぞもぞしていても。



もう一人青白い肌のお姉さんが増えて同じような事をしていてもだ。



「姉ちゃん……もう、でそ……」
「ん、いいよ……お姉ちゃんのおっぱいにいっぱい白いのかけてぇ♥」

抑圧からの開放。熱く粘ついた精液が姉ちゃんの白い肌の上にさらに白い化粧を施していく。
胸の谷間に糸を引き、磯の香りと一緒にどこか青臭い甘さを含んだ匂いが二人を包み込む。
姉ちゃんは満足感からか深く呼吸をして、その匂いをいっぱいに吸い込んで恍惚としている。

「はぁ……」
「ぺろ……すこししょっぱい……」

疲労にぼやける意識をなんとかつなぎ止めて海の方を見ると、水しぶきと共に先ほどの女性達が海へと戻っていく所だった。
海へ潜っていく間際、僕が見たのは彼女達の足……ではなく、尾ひれと水かき。

「……人魚と半魚人一度に見ちゃった……」
「?」



帰りの車内。
遊び疲れてしまった姉ちゃんは僕の肩に頭をもたれかけさせてすやすやと寝息を立てている。
夕方に差し掛かっているためか、彼女の本来の姿である羽と尻尾、そして角はすでに露呈していた。……まぁ、見えるのは僕だけなのだけれど。

「ん……ようく〜ん……もうたべられないよぉ……」
「一体僕は夢のなかで何を食べさせているんだろう……」
「白いのもう「おっと」

寝言だろうがなんだろうがこの一言を家族に聴かせるのはマズイ。咄嗟に口を手で塞ぐ。
幸い両親は前の座席で互いの話に夢中だ。やれやれ、この歳になってもお熱いことで。

「えへへぇ……」
「全く、人の気も知らないで……」

きゅ、と。下ろした手が何かに掴まれる。見ると、姉ちゃんが……無意識になのだろうか。僕の手を握っていた。
気恥ずかしくなっても何故かその手を振り払う事ができず、家につくまでずっとそのままにしていた。



僕の姉ちゃんの水着姿はいろいろ刺激が強い。
故に他の人には見せたくないなぁ……。

……あれ?何で僕はこんな事を考えているのだろうか。


14/03/05 15:28更新 / テラー
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■作者メッセージ
〜あとがき〜

夏が過ぎた!

そんな訳で第八話をお送りしました。
この連載を続ける上での必須イベント、『夏の海できゃっきゃうふふ』の消化を完了。見た目にはあまりいちゃついてはいませんけど。

陽君のチョイスであるタンキニは彼の判断から。
露出少なめ、なおかつある程度見た目が良さそうなものを。



海岸にゴミが落ちていない理由

「こっちは終わったよ〜」
「こっちもお掃除終わりました〜」

真夜中の砂浜。
魔力で灯した灯りを頼りに一帯を掃除するマーメイドとメロウ達。ちらほらとネレイスの姿も見える。

「何でこんなに綺麗にしてあるのに人が来ないんだろうねぇ……」
「綺麗にしていればいつかきっと誰かが来てくれますよ!」

人が来ない理由が自分達にあることを、彼女達はまだ知らない。

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