6月13日 僕と姉ちゃんと雨の日と
カチカチと時計の音が静かな室内に響いている。外ではしとしとと梅雨に降る静かな雨が窓から見える景色を濡らしている。
その他の音と言えば僕がリビングのテーブルでノートにシャーペンを走らせる乾いた音と、姉ちゃんが寝返りを打つたびに聞こえる衣擦れの音だけ。
何も話さないからといって喧嘩をしている訳ではない。ただ単に僕が課題に集中しているだけ。
姉ちゃんも流石に勉強をしている僕の邪魔をする事もなく……
「ようく〜ん！暇すぎるよぅ！かまってかまってかまってかまってかまってかまってかまってかまってかまってかまって〜！」
前言撤回。この人はこういう時に限ってやたらちょっかいを掛けてくる人だった。
背後から抱きついてガクガクと前後に激しく揺さぶられる。
体が前後に揺れるたびに背中に柔らかいものがががが
「ほらほら、ボール投げてあげるから取りに行って来なさい」
靴下を丸めたボールを部屋の隅へ投げてあげる。
「わ〜い！……って、わたしは犬じゃないよ！？」
「猫のつもりだったんだけど」
「あ〜、猫かわいいもんね〜♪って、そうじゃなくて」
どうやら姉ちゃんにとっては余程この退屈は堪えるらしい。
「しょうがないな……それじゃ、この季節の取って置きの場所にでも行こうか」
「おでかけ！？行く行く！ちょっとまってて！」
目をキラキラと輝かせて自室に駆け上がっていく姉ちゃん。どっちが年上なのか今一度問いたくなる。
僕はと言うと廊下に掛かっている外出用バックパックに勉強道具一式を詰め込んで玄関で待つ。気に入って静かにしてくれるといいんだけどな……
────────────────────────────────────────
Gが出た時に姉ちゃんがその場にいると……
「……」
人差し指をGに向けて何かをつぶやく。
次の瞬間にはGが灰になっていたり……。
当然見なかった事にした
────────────────────────────────────────
以前映画館に行った時の服装で出てきた姉ちゃんと一緒に雨の街を傘を差して歩く。
行き先はアラビアだ。……別に海外に行くわけではない。喫茶店の方。
「喫茶店？」
「ん、この季節のあそこが一番好きなんだ」
駅前の商店街から少し離れた場所にある静かな佇まい。
おしゃれな木製のドアを押し開けて入るとカラカラと耳障りの良いベルが来訪を告げる。
「いらっしゃい……あぁ、よう坊か。いつもの席は空いてるよ」
「ありがと、玲衣奈さん。僕はいつもので……と、姉ちゃんは何にする？」
喫茶店の窓際のボックス席につきながら姉ちゃんにメニューを渡す。
ここに来ても基本的にコーヒーぐらいしか頼まないので、あまり見ないんだよね。
「よう坊のお姉さん、ね。」
「初めまして。『よう君の』姉です」
なぜそこで僕を強調するのだろうか。しかも玲衣奈さんの目もどこか笑っていないような気がする。
「玲衣奈だ。この喫茶店のマスターで、よう坊と『個人的に』親しくさせてもらっている」
おかしいな……何この空気。というか玲衣奈さん？僕は貴方とそこまで親しくなった覚えが無いのですが。
このままにらみ合いをさせていても埒が明かないので、姉ちゃんには僕と同じものを頼んで彼女には下がってもらった。
「お姉ちゃんわかるよ。あの子絶対よう君を狙ってる」
「え〜……？」
あの人は絶対僕のことをからかっているだけだと思うんだけどなぁ……
あの人かなり美人だから彼氏がいないなんて思えないし。からかうたびにご満悦になるし。
「今度からここに来る時は絶対お姉ちゃんも連れてくること！いい？」
「なんでそうなるのさ……」
僕はこの先もこの姉ちゃんに知人関係をすべて管理されながら生きることになるのだろうか。
彼女の本当の姿が見える人に出会えればいいのだろうが、なんの運命の悪戯かその相手は僕なのだから始末に負えない。
ばらしてもばらさなくても彼女の性格上同じ道を辿るのだろうなぁ……。
唯一の幸いは僕が思いを寄せる相手がいないという事だろうか。
多分この姉は僕に好きな人ができたら真っ先に嗅ぎつけて抹殺に掛かるかもしれない。できればその方法に物理的な手段が加わらないことを祈ろう。
「所で……ここのどこがよう君は気に入ったの？確かにお洒落な喫茶店だとは思うけど……」
「窓の外。見てみなよ」
僕に言われて窓の外に目線を向けた姉ちゃんがハッと息を飲む。
そう、僕はこの季節の雨の日の……この窓から見える景色が好きなのだ。
「紫陽花……？」
「ん……綺麗でしょ？」
しとしとと降る雨に色鮮やかに咲いた紫陽花が濡れ、その雨粒を弾いている。
時偶店の前を通る車が発するタイヤの音がその景色にアクセントを加える。
店の中に流れるジャズを聞きながらコーヒーを啜る。この季節の僕のささやかな楽しみだ。
姉ちゃんもその光景に暫し見とれていたのか、彼女が隣にいるにも関わらず静かな時間が流れていた。
まぁ、それもあまり続かなかったのだけれど。
────────────────────────────────────────
姉ちゃんと外を歩くと……
「……」（ピトッ）
「……」（ススッ）
何故かくっついてくる。
何度も繰り返していると……
「ニヤリ」
「……」（ダラダラダラダラ）
壁際に追い詰められてしまった。
────────────────────────────────────────
店内のジャズの音楽をBGMに課題へシャーペンを走らせる。
窓の外からはしとしとと静かな雨の音が流れ、香ばしいエスプレッソの香りが鼻腔をくすぐっている。
しかし……
「飽きた」
「早いね……」
姉ちゃんはあっという間に飽きが来たようで、テーブルの下で足をぶらぶらと退屈そうに揺らしていた。
「確かに雰囲気はいいと思うけどさぁ……お姉ちゃんが求めていたのはこういうものでは無いのですよ？」
「それじゃあせめて課題が終わるまでは待っててよ。終わったらゲームセンターに付き合ってあげるから」
ゲームセンターでメダルの預かりカードを作ってからというもの、休みの日は必ずといっていいほどゲームセンターでメダルゲームなんてやっている姉ちゃん。
風のウワサではそのゲームセンターでメダルクイーンなんて二つ名が通っているとかいないとか……
「よう君は私を暇で殺す気！？」
「暇で人が死ぬなら今頃人類絶滅しているよ」
再び辺りに静寂が戻り、シャーペンを走らせるカリカリという音が時間のリズムを刻んでいく。
不意に、僕の股間に何かが押し当てられる感覚。目線を上げると、姉ちゃんがコーヒーを啜りながら薄ら笑いを浮かべている。間違いない……
この今ズボンのチャックを引き下ろしている何かは姉ちゃんの足だ。
「姉ちゃん」
「な〜に〜？♪」
あくまで白を切るか。そこまでして邪魔をしたいか。
チャックを器用に引き下ろした足の指はさらに僕の下着をも引きずり下ろし、まだ柔らかい僕のモノをつまんで引きずり出してくる。
「人が何かに集中している時に邪魔をするのってどう？」
「面白ければ良し♪」
最悪だ。
思案している間にも姉ちゃんの足は僕のモノをこねまわし、擦り上げ、亀頭を押しつぶして的確に刺激を与えてくる。その刺激に抗えるわけもなく、あっという間に固く反り返ってしまった。
股を開いたり閉じたりする程度では追い払えないだろう。
かと言って手で直接妨害してもうまくかわされそうだ……何しろ姉ちゃんのこういうことに関するスキルというのは凄まじいものがある。
ふと目に入ったのは長方形の籐籠の中に入った何本かのフォーク。
頭の中にフォークを高々と振り上げる同年代の男子生徒が浮かんだが……流石にそれはマズイだろう。イタズラしてきても女性だし。
「（引いてダメなら……押すのみだ！）」
自分の靴の踵をもう片足で押さえつけ、足を靴から引き抜く。
これから行う行為は一歩踏み間違えば自爆にもなりかねない事だけど……このままじゃ一方的に射精されて終わり……ならば！
「（いっけぇぇぇぇぇえええええ！）」
若干上体を落とし込み、靴を脱いだ方の足を思い切り前に押し出す。
方向さえ間違っていなければこの足は『あそこ』に押し付けられる……筈。
「んっ！？」
「（ビンゴ！）」
僕の足は柔らかい布に包まれたむにむにした何かに押し付けられていた。
つま先の方向を変え、若干下の方へ。
触覚のみを頼りにお目当ての場所を足の先だけでこねくり回す。
「ようっ……君？手、止まってるよ？」
「ちょっと休憩だよ……ぅっ……。コーヒーを飲む……タイミングくらいは好きにさせてほしいな」
これで諦めてくれればいいんだけ───
──くちゅ……──
わぁお、泥沼。姉ちゃんしっかりと感じて濡れてきてしまってますよ？
ここで諦めるわけにも行かず、かといってこれ以上責め立てると余計その気になられてしまいそうで……
「（選択ミスった……！）」
「はぁ……はぁ……んっ♥」
訂正。もう出来上がってる。頬は赤みを帯びているし、息は荒いし、目は潤んでいるし……。
姉ちゃんの足使いがさらにねちっこくなり、意図しないにも関わらず腰が浮いてしまう。
反撃のために伸ばした足もまともに動かず、苦し紛れに動かした指も空を切る始末。
Lv９９サキュバスVS童貞の図はまさにこの事だろう。翻弄される事は既に決定事項……泣けてくる。
「っ……！ぅく……！」
「よう君こんな所でイッちゃうんだ……変態さんだ♪」
周囲にはまず聞こえないほどの小声で姉ちゃんが責めてくる。
それだけで……その状況だけで僕のモノが狂ったように痙攣を繰り返す。
僕はと言うとテーブルに顔を伏せて快感と声を押し殺すのに必死だ。
「ふふっ、か〜わい♪」
「ねえちゃ……っ！やめてぇ……！」
「いいよ……いっぱい射精しちゃって。どんな変態さんでもお姉ちゃんはよう君の事を嫌いになったりしないから」
誰かに見られるかもしれないという異常な事態が自分の意志と関係なしに性感を高めていく。
僕はと言うと羞恥ととめどなく与えられ続ける快感とでまるで女の子みたいな声しか出せなくなっていた。
「っーーー！っく……！んーーーーー！」
「っ！……ふふふ♪」
クスクスと含み笑いをする姉ちゃんのニーソックスに僕の欲望の塊がどぷどぷと撒き散らされる。
辺りに青臭い匂いが漂い始め、姉ちゃんはその匂いに酔いしれたように表情をとろけさせていた。……反面僕は真っ青になっていたけど。
「はぁ……はぁ……はぁ……ね、姉ちゃん……」
「っふふ……♪すっごぉいどろどろ〜。靴下が妊娠しちゃいそうだよ？」
テーブルの下からはにちにちと粘性のあるものが擦れ合わさるような音がしている。
姉ちゃんが靴下をこすりあわせて精液を塗り伸ばしているのだろうか。なぜこの人はやる事なす事いちいちいやらしいんだろ。
「んんっ！」
「っっっっっっ！！」
「あら」
気がつくと本当にすぐ近くに玲衣奈さんが頬を若干染めて立っていた。うわぁ……バレてるよ、これ。
「店内でそういった行為は謹んでいただきたい物だが……？」
「さすがワンちゃん。お鼻が利くわねぇ？」
全く悪びれもせず、コロコロと楽しげに笑う姉ちゃん。この人は罪悪感って物がないのだろうか。というか、ワンちゃん？何かの隠語？
「よう坊、そういうのが溜まっているなら相談してくれれば良かったものを……なんなら私が……」
「私が……何？ワンちゃん？」
ゾクリ──と、背筋が凍る。声は笑っているのに、そこに隠された感情は全く笑っていない。
その威圧感に身を硬直させていると、姉ちゃんに襟首を掴まれて引き寄せられた。
何事かと理解が追いつく暇もなく、唇に柔らかい物が押し当てられる……って、え？
「はぷっ、ちゅうぅぅぅ……れろ……あむ」
「………………？ん？……！？？！？！？！？！？！？！」
ちょ、何事！？ていうか口の中になんか、なんかぬめぬめして柔らかい物が！？這いまわってる！這いまわってるよ！？
「ぷはぁ！うふ……ふふふふふ……」
「───────」
「な……あ……」
口の中にまだ生温かい感触が残ってる……自分の口の中なのにまだ何か自分の物とは違う液体が残っている気がする。
口の周りからなんだか甘い匂いが立ち上っている。
少し唇を拭ってみてみると薄いピンク色の塗料が付着していた。
「よう君、はいバッグ。勉強道具とか全部入れておいたよ」
手を引っ張られて引きずるように足が動く。
一瞬だけ視界に壁にかけてある時計が見えた。でも、そこに記されている時刻がわからない。
それどころか視界に入ってくる文字の意味が頭に入ってこない。
「お勘定はここに置いとくね〜。お釣りはいいや。んじゃ、ばいば〜い♪」
カラカラと甲高い何かの音が聞こえてくる。
若干湿気った空気と冷たい何かが小さく何回か、頬に触れる。
「さ〜て、ゲームセンターでもいこっか！今日は何枚増やせるかな〜？」
────────────────────────────────────────
某ヒゲオヤジカートを姉ちゃんとやると……
「とっとっとっとっと……」
─ヒーハー！─
「落ちる落ちる落ちる落ちる！」
─アワワワワワワ！─
「逆に走っちゃってるー！」
─ピッピッピッピッピ─
………………
…………
……
「おぅえ……」
「体を揺らしまくるから……」
乗り物酔いをする。
「つ、つわり……」
こんな時でもシモネタを忘れない。
────────────────────────────────────────
「……っは！？」
窓の外から赤い光が差し込んでくる。時刻は……５時半ぐらい。
雨はもう上がっているらしく、赤く暮れなずむ空が雲間から垣間見えている。
どうやら長いことぼーっとしていたらしく、少しおしりが痛くなっている。
場所は……自宅らしい。
「夢……？」
姉ちゃんと出かけた記憶はあるのだけれど……そこからの記憶があやふやだ。
しかし……唇に微かだけれど違和感が残っている。
すっと、指でなぞってみると、薄ピンクの塗料が付着する。
途端、記憶がフラッシュバックする……
「う、わぁぁぁぁぁあああああ！？ゆｍうぇじゃなあばばばばあああ？！」
ぼぼぼ、僕、玲衣奈さんの前で、んべえちゃん、じゃなかった！姉ちゃんとキキキキ
「ようく〜ん！お母さんがご飯何いいかって〜」
「きゃぁぁぁぁああああああ！？」
自分でも一体どこから出しているんだという程高い声で僕の口から悲鳴が上がる。
その悲鳴に何事かと母さんまでもが駆けつけてきた。
「今の悲鳴誰？陽介？」
「なんだろーね？何をテンパってるんだろ」
「あじゃじゃじゃじゃばばばブゥェェェェええええ？！」
思考が混乱しすぎてまともな言葉が出てこない。まずは深呼吸をして落ち着かないと！
「ヒッヒッフー、ヒッヒッフー……」
「陽介、それラマーズ法よ……？何を産むつもり？」
「私の赤ちゃん♪」
「あら、息子が娘で娘が息子になっているの？いつの間に変わったのかしら？」
「ツッコむ所はそこじゃネェェェェェエエエエ！」
どうやら下手に深呼吸などをするよりは姉ちゃんと母さんのコントにツッコミを入れていたほうが思考能力が回復するみたいだ。難儀な体だなぁ……僕。
「ゼェ……ハァ……ゼェ……ハァ……」
「あ、そうそう。夕飯何にする？一応鶏肉は買ってきてあるけど……」
「と、トマト煮……トマトの缶詰はあったよね……？」
「りょーかい。テーブルにお皿とスプーン出しておいてね〜」
どこまでも天然ボケ＆マイペースな母は鼻歌なんぞを歌いながら再びキッチンに戻っていった。
「ね、姉ちゃん……」
「ん〜？何かなよう君」
あくまで確認の意味も込めて聞いてみる。
「き、キス……」
「もっかいしたい？」
「ちっがぁぁぁぁあう！」
この反応だとどうやら本当にしてしまったようだ。
初めてではないというものの、人前でしたわけではない。
しかし、今回は……玲衣奈さんの前で……。
「うっぎゃぁぁぁあああああ！？ハズイ！死にたい！もう喫茶店行けないよぉぉぉぉおおおお！」
「大丈夫だよ、よう君！」
錯乱する僕の方にぽすんと姉ちゃんが手を置く。
恐る恐る顔を上げ、彼女の顔を見上げる……
「これで言い寄られる心配ナッシン！」
「そういう問題じゃなぁぁぁぁあああい！！」
僕の姉ちゃんは独占欲が強い……のかなぁ？というか絶対ロックオンされているよね、これ。
どーしよ。
〜おまけ〜
〜魔王城〜
「イリア殿、まだアーシェ様は戻ってきていないのですか？」
「思いの外意中の相手を仕留めるのに手こずっておるようじゃのぉ……はてさて……相手のガードが硬いのか凄まじく鈍いのか……」
ここは櫻井由利……もとい、アーシェお抱えの魔術師であるバフォメットのイリアの研究室。そこにこれまた彼女の近衛兵であるデュラハンのレイスが、彼女が帰ってきていないか確認しにきた所だった
「意中も何も相手を見つけられなければ意味が無いのでは？」
「お主……本当に運命の相手しか本当の姿が見えないなどというピンポイントな呪いが存在すると思っておるのかの？」
「と、言いますと……？」
イリアは半分呆れた様子で肩をすくめてため息を吐く。
その様子は後悔というよりは諦観といった所だろうか。
「あの呪いは一目惚れした相手か既に結ばれている相手以外は本来の姿を晒さないようにするための呪いじゃよ。つまり……」
「彼女が誰かを好いた時点で相手は既に見つかっている……と？」
「本来であれば人間が生み出した浮気防止用の呪いなんじゃがの……。ま、こういった使い方もアリじゃろ」
真実を伝えられないままに向こう側へ行ってしまった自分の主は……はたして無事に思いを遂げられるのだろうか……。と、今更ながらに不安が募るレイスだった。
その他の音と言えば僕がリビングのテーブルでノートにシャーペンを走らせる乾いた音と、姉ちゃんが寝返りを打つたびに聞こえる衣擦れの音だけ。
何も話さないからといって喧嘩をしている訳ではない。ただ単に僕が課題に集中しているだけ。
姉ちゃんも流石に勉強をしている僕の邪魔をする事もなく……
「ようく〜ん！暇すぎるよぅ！かまってかまってかまってかまってかまってかまってかまってかまってかまってかまって〜！」
前言撤回。この人はこういう時に限ってやたらちょっかいを掛けてくる人だった。
背後から抱きついてガクガクと前後に激しく揺さぶられる。
体が前後に揺れるたびに背中に柔らかいものがががが
「ほらほら、ボール投げてあげるから取りに行って来なさい」
靴下を丸めたボールを部屋の隅へ投げてあげる。
「わ〜い！……って、わたしは犬じゃないよ！？」
「猫のつもりだったんだけど」
「あ〜、猫かわいいもんね〜♪って、そうじゃなくて」
どうやら姉ちゃんにとっては余程この退屈は堪えるらしい。
「しょうがないな……それじゃ、この季節の取って置きの場所にでも行こうか」
「おでかけ！？行く行く！ちょっとまってて！」
目をキラキラと輝かせて自室に駆け上がっていく姉ちゃん。どっちが年上なのか今一度問いたくなる。
僕はと言うと廊下に掛かっている外出用バックパックに勉強道具一式を詰め込んで玄関で待つ。気に入って静かにしてくれるといいんだけどな……
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Gが出た時に姉ちゃんがその場にいると……
「……」
人差し指をGに向けて何かをつぶやく。
次の瞬間にはGが灰になっていたり……。
当然見なかった事にした
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以前映画館に行った時の服装で出てきた姉ちゃんと一緒に雨の街を傘を差して歩く。
行き先はアラビアだ。……別に海外に行くわけではない。喫茶店の方。
「喫茶店？」
「ん、この季節のあそこが一番好きなんだ」
駅前の商店街から少し離れた場所にある静かな佇まい。
おしゃれな木製のドアを押し開けて入るとカラカラと耳障りの良いベルが来訪を告げる。
「いらっしゃい……あぁ、よう坊か。いつもの席は空いてるよ」
「ありがと、玲衣奈さん。僕はいつもので……と、姉ちゃんは何にする？」
喫茶店の窓際のボックス席につきながら姉ちゃんにメニューを渡す。
ここに来ても基本的にコーヒーぐらいしか頼まないので、あまり見ないんだよね。
「よう坊のお姉さん、ね。」
「初めまして。『よう君の』姉です」
なぜそこで僕を強調するのだろうか。しかも玲衣奈さんの目もどこか笑っていないような気がする。
「玲衣奈だ。この喫茶店のマスターで、よう坊と『個人的に』親しくさせてもらっている」
おかしいな……何この空気。というか玲衣奈さん？僕は貴方とそこまで親しくなった覚えが無いのですが。
このままにらみ合いをさせていても埒が明かないので、姉ちゃんには僕と同じものを頼んで彼女には下がってもらった。
「お姉ちゃんわかるよ。あの子絶対よう君を狙ってる」
「え〜……？」
あの人は絶対僕のことをからかっているだけだと思うんだけどなぁ……
あの人かなり美人だから彼氏がいないなんて思えないし。からかうたびにご満悦になるし。
「今度からここに来る時は絶対お姉ちゃんも連れてくること！いい？」
「なんでそうなるのさ……」
僕はこの先もこの姉ちゃんに知人関係をすべて管理されながら生きることになるのだろうか。
彼女の本当の姿が見える人に出会えればいいのだろうが、なんの運命の悪戯かその相手は僕なのだから始末に負えない。
ばらしてもばらさなくても彼女の性格上同じ道を辿るのだろうなぁ……。
唯一の幸いは僕が思いを寄せる相手がいないという事だろうか。
多分この姉は僕に好きな人ができたら真っ先に嗅ぎつけて抹殺に掛かるかもしれない。できればその方法に物理的な手段が加わらないことを祈ろう。
「所で……ここのどこがよう君は気に入ったの？確かにお洒落な喫茶店だとは思うけど……」
「窓の外。見てみなよ」
僕に言われて窓の外に目線を向けた姉ちゃんがハッと息を飲む。
そう、僕はこの季節の雨の日の……この窓から見える景色が好きなのだ。
「紫陽花……？」
「ん……綺麗でしょ？」
しとしとと降る雨に色鮮やかに咲いた紫陽花が濡れ、その雨粒を弾いている。
時偶店の前を通る車が発するタイヤの音がその景色にアクセントを加える。
店の中に流れるジャズを聞きながらコーヒーを啜る。この季節の僕のささやかな楽しみだ。
姉ちゃんもその光景に暫し見とれていたのか、彼女が隣にいるにも関わらず静かな時間が流れていた。
まぁ、それもあまり続かなかったのだけれど。
────────────────────────────────────────
姉ちゃんと外を歩くと……
「……」（ピトッ）
「……」（ススッ）
何故かくっついてくる。
何度も繰り返していると……
「ニヤリ」
「……」（ダラダラダラダラ）
壁際に追い詰められてしまった。
────────────────────────────────────────
店内のジャズの音楽をBGMに課題へシャーペンを走らせる。
窓の外からはしとしとと静かな雨の音が流れ、香ばしいエスプレッソの香りが鼻腔をくすぐっている。
しかし……
「飽きた」
「早いね……」
姉ちゃんはあっという間に飽きが来たようで、テーブルの下で足をぶらぶらと退屈そうに揺らしていた。
「確かに雰囲気はいいと思うけどさぁ……お姉ちゃんが求めていたのはこういうものでは無いのですよ？」
「それじゃあせめて課題が終わるまでは待っててよ。終わったらゲームセンターに付き合ってあげるから」
ゲームセンターでメダルの預かりカードを作ってからというもの、休みの日は必ずといっていいほどゲームセンターでメダルゲームなんてやっている姉ちゃん。
風のウワサではそのゲームセンターでメダルクイーンなんて二つ名が通っているとかいないとか……
「よう君は私を暇で殺す気！？」
「暇で人が死ぬなら今頃人類絶滅しているよ」
再び辺りに静寂が戻り、シャーペンを走らせるカリカリという音が時間のリズムを刻んでいく。
不意に、僕の股間に何かが押し当てられる感覚。目線を上げると、姉ちゃんがコーヒーを啜りながら薄ら笑いを浮かべている。間違いない……
この今ズボンのチャックを引き下ろしている何かは姉ちゃんの足だ。
「姉ちゃん」
「な〜に〜？♪」
あくまで白を切るか。そこまでして邪魔をしたいか。
チャックを器用に引き下ろした足の指はさらに僕の下着をも引きずり下ろし、まだ柔らかい僕のモノをつまんで引きずり出してくる。
「人が何かに集中している時に邪魔をするのってどう？」
「面白ければ良し♪」
最悪だ。
思案している間にも姉ちゃんの足は僕のモノをこねまわし、擦り上げ、亀頭を押しつぶして的確に刺激を与えてくる。その刺激に抗えるわけもなく、あっという間に固く反り返ってしまった。
股を開いたり閉じたりする程度では追い払えないだろう。
かと言って手で直接妨害してもうまくかわされそうだ……何しろ姉ちゃんのこういうことに関するスキルというのは凄まじいものがある。
ふと目に入ったのは長方形の籐籠の中に入った何本かのフォーク。
頭の中にフォークを高々と振り上げる同年代の男子生徒が浮かんだが……流石にそれはマズイだろう。イタズラしてきても女性だし。
「（引いてダメなら……押すのみだ！）」
自分の靴の踵をもう片足で押さえつけ、足を靴から引き抜く。
これから行う行為は一歩踏み間違えば自爆にもなりかねない事だけど……このままじゃ一方的に射精されて終わり……ならば！
「（いっけぇぇぇぇぇえええええ！）」
若干上体を落とし込み、靴を脱いだ方の足を思い切り前に押し出す。
方向さえ間違っていなければこの足は『あそこ』に押し付けられる……筈。
「んっ！？」
「（ビンゴ！）」
僕の足は柔らかい布に包まれたむにむにした何かに押し付けられていた。
つま先の方向を変え、若干下の方へ。
触覚のみを頼りにお目当ての場所を足の先だけでこねくり回す。
「ようっ……君？手、止まってるよ？」
「ちょっと休憩だよ……ぅっ……。コーヒーを飲む……タイミングくらいは好きにさせてほしいな」
これで諦めてくれればいいんだけ───
──くちゅ……──
わぁお、泥沼。姉ちゃんしっかりと感じて濡れてきてしまってますよ？
ここで諦めるわけにも行かず、かといってこれ以上責め立てると余計その気になられてしまいそうで……
「（選択ミスった……！）」
「はぁ……はぁ……んっ♥」
訂正。もう出来上がってる。頬は赤みを帯びているし、息は荒いし、目は潤んでいるし……。
姉ちゃんの足使いがさらにねちっこくなり、意図しないにも関わらず腰が浮いてしまう。
反撃のために伸ばした足もまともに動かず、苦し紛れに動かした指も空を切る始末。
Lv９９サキュバスVS童貞の図はまさにこの事だろう。翻弄される事は既に決定事項……泣けてくる。
「っ……！ぅく……！」
「よう君こんな所でイッちゃうんだ……変態さんだ♪」
周囲にはまず聞こえないほどの小声で姉ちゃんが責めてくる。
それだけで……その状況だけで僕のモノが狂ったように痙攣を繰り返す。
僕はと言うとテーブルに顔を伏せて快感と声を押し殺すのに必死だ。
「ふふっ、か〜わい♪」
「ねえちゃ……っ！やめてぇ……！」
「いいよ……いっぱい射精しちゃって。どんな変態さんでもお姉ちゃんはよう君の事を嫌いになったりしないから」
誰かに見られるかもしれないという異常な事態が自分の意志と関係なしに性感を高めていく。
僕はと言うと羞恥ととめどなく与えられ続ける快感とでまるで女の子みたいな声しか出せなくなっていた。
「っーーー！っく……！んーーーーー！」
「っ！……ふふふ♪」
クスクスと含み笑いをする姉ちゃんのニーソックスに僕の欲望の塊がどぷどぷと撒き散らされる。
辺りに青臭い匂いが漂い始め、姉ちゃんはその匂いに酔いしれたように表情をとろけさせていた。……反面僕は真っ青になっていたけど。
「はぁ……はぁ……はぁ……ね、姉ちゃん……」
「っふふ……♪すっごぉいどろどろ〜。靴下が妊娠しちゃいそうだよ？」
テーブルの下からはにちにちと粘性のあるものが擦れ合わさるような音がしている。
姉ちゃんが靴下をこすりあわせて精液を塗り伸ばしているのだろうか。なぜこの人はやる事なす事いちいちいやらしいんだろ。
「んんっ！」
「っっっっっっ！！」
「あら」
気がつくと本当にすぐ近くに玲衣奈さんが頬を若干染めて立っていた。うわぁ……バレてるよ、これ。
「店内でそういった行為は謹んでいただきたい物だが……？」
「さすがワンちゃん。お鼻が利くわねぇ？」
全く悪びれもせず、コロコロと楽しげに笑う姉ちゃん。この人は罪悪感って物がないのだろうか。というか、ワンちゃん？何かの隠語？
「よう坊、そういうのが溜まっているなら相談してくれれば良かったものを……なんなら私が……」
「私が……何？ワンちゃん？」
ゾクリ──と、背筋が凍る。声は笑っているのに、そこに隠された感情は全く笑っていない。
その威圧感に身を硬直させていると、姉ちゃんに襟首を掴まれて引き寄せられた。
何事かと理解が追いつく暇もなく、唇に柔らかい物が押し当てられる……って、え？
「はぷっ、ちゅうぅぅぅ……れろ……あむ」
「………………？ん？……！？？！？！？！？！？！？！」
ちょ、何事！？ていうか口の中になんか、なんかぬめぬめして柔らかい物が！？這いまわってる！這いまわってるよ！？
「ぷはぁ！うふ……ふふふふふ……」
「───────」
「な……あ……」
口の中にまだ生温かい感触が残ってる……自分の口の中なのにまだ何か自分の物とは違う液体が残っている気がする。
口の周りからなんだか甘い匂いが立ち上っている。
少し唇を拭ってみてみると薄いピンク色の塗料が付着していた。
「よう君、はいバッグ。勉強道具とか全部入れておいたよ」
手を引っ張られて引きずるように足が動く。
一瞬だけ視界に壁にかけてある時計が見えた。でも、そこに記されている時刻がわからない。
それどころか視界に入ってくる文字の意味が頭に入ってこない。
「お勘定はここに置いとくね〜。お釣りはいいや。んじゃ、ばいば〜い♪」
カラカラと甲高い何かの音が聞こえてくる。
若干湿気った空気と冷たい何かが小さく何回か、頬に触れる。
「さ〜て、ゲームセンターでもいこっか！今日は何枚増やせるかな〜？」
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某ヒゲオヤジカートを姉ちゃんとやると……
「とっとっとっとっと……」
─ヒーハー！─
「落ちる落ちる落ちる落ちる！」
─アワワワワワワ！─
「逆に走っちゃってるー！」
─ピッピッピッピッピ─
………………
…………
……
「おぅえ……」
「体を揺らしまくるから……」
乗り物酔いをする。
「つ、つわり……」
こんな時でもシモネタを忘れない。
────────────────────────────────────────
「……っは！？」
窓の外から赤い光が差し込んでくる。時刻は……５時半ぐらい。
雨はもう上がっているらしく、赤く暮れなずむ空が雲間から垣間見えている。
どうやら長いことぼーっとしていたらしく、少しおしりが痛くなっている。
場所は……自宅らしい。
「夢……？」
姉ちゃんと出かけた記憶はあるのだけれど……そこからの記憶があやふやだ。
しかし……唇に微かだけれど違和感が残っている。
すっと、指でなぞってみると、薄ピンクの塗料が付着する。
途端、記憶がフラッシュバックする……
「う、わぁぁぁぁぁあああああ！？ゆｍうぇじゃなあばばばばあああ？！」
ぼぼぼ、僕、玲衣奈さんの前で、んべえちゃん、じゃなかった！姉ちゃんとキキキキ
「ようく〜ん！お母さんがご飯何いいかって〜」
「きゃぁぁぁぁああああああ！？」
自分でも一体どこから出しているんだという程高い声で僕の口から悲鳴が上がる。
その悲鳴に何事かと母さんまでもが駆けつけてきた。
「今の悲鳴誰？陽介？」
「なんだろーね？何をテンパってるんだろ」
「あじゃじゃじゃじゃばばばブゥェェェェええええ？！」
思考が混乱しすぎてまともな言葉が出てこない。まずは深呼吸をして落ち着かないと！
「ヒッヒッフー、ヒッヒッフー……」
「陽介、それラマーズ法よ……？何を産むつもり？」
「私の赤ちゃん♪」
「あら、息子が娘で娘が息子になっているの？いつの間に変わったのかしら？」
「ツッコむ所はそこじゃネェェェェェエエエエ！」
どうやら下手に深呼吸などをするよりは姉ちゃんと母さんのコントにツッコミを入れていたほうが思考能力が回復するみたいだ。難儀な体だなぁ……僕。
「ゼェ……ハァ……ゼェ……ハァ……」
「あ、そうそう。夕飯何にする？一応鶏肉は買ってきてあるけど……」
「と、トマト煮……トマトの缶詰はあったよね……？」
「りょーかい。テーブルにお皿とスプーン出しておいてね〜」
どこまでも天然ボケ＆マイペースな母は鼻歌なんぞを歌いながら再びキッチンに戻っていった。
「ね、姉ちゃん……」
「ん〜？何かなよう君」
あくまで確認の意味も込めて聞いてみる。
「き、キス……」
「もっかいしたい？」
「ちっがぁぁぁぁあう！」
この反応だとどうやら本当にしてしまったようだ。
初めてではないというものの、人前でしたわけではない。
しかし、今回は……玲衣奈さんの前で……。
「うっぎゃぁぁぁあああああ！？ハズイ！死にたい！もう喫茶店行けないよぉぉぉぉおおおお！」
「大丈夫だよ、よう君！」
錯乱する僕の方にぽすんと姉ちゃんが手を置く。
恐る恐る顔を上げ、彼女の顔を見上げる……
「これで言い寄られる心配ナッシン！」
「そういう問題じゃなぁぁぁぁあああい！！」
僕の姉ちゃんは独占欲が強い……のかなぁ？というか絶対ロックオンされているよね、これ。
どーしよ。
〜おまけ〜
〜魔王城〜
「イリア殿、まだアーシェ様は戻ってきていないのですか？」
「思いの外意中の相手を仕留めるのに手こずっておるようじゃのぉ……はてさて……相手のガードが硬いのか凄まじく鈍いのか……」
ここは櫻井由利……もとい、アーシェお抱えの魔術師であるバフォメットのイリアの研究室。そこにこれまた彼女の近衛兵であるデュラハンのレイスが、彼女が帰ってきていないか確認しにきた所だった
「意中も何も相手を見つけられなければ意味が無いのでは？」
「お主……本当に運命の相手しか本当の姿が見えないなどというピンポイントな呪いが存在すると思っておるのかの？」
「と、言いますと……？」
イリアは半分呆れた様子で肩をすくめてため息を吐く。
その様子は後悔というよりは諦観といった所だろうか。
「あの呪いは一目惚れした相手か既に結ばれている相手以外は本来の姿を晒さないようにするための呪いじゃよ。つまり……」
「彼女が誰かを好いた時点で相手は既に見つかっている……と？」
「本来であれば人間が生み出した浮気防止用の呪いなんじゃがの……。ま、こういった使い方もアリじゃろ」
真実を伝えられないままに向こう側へ行ってしまった自分の主は……はたして無事に思いを遂げられるのだろうか……。と、今更ながらに不安が募るレイスだった。
14/03/05 15:28更新 / テラー
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