4月28日 僕と夜這いとおとしもの
暗く静まり返った部屋の中。真上では姉ちゃんが静かな寝息を立てている。
探しているものはなんとか見つかったものの、このままでは部屋から出ることすらままならない。なぜこんな事態になっているのか……
事の起こりは今朝まで遡る。
携帯電話に着信。ハレハレユカイって事は……晴彦か。どうしよう……出ようかな。でも面倒臭い。
それでも出なければ後々もっと面倒な事になるだろうからやはり出ておいたほうがいいかな。
「はいもしもし、この携帯は現在使われておりません」
『いやいや、思いっきり電話に出ておいて使われていませんはないだろ友よ』
「軽いジャブじゃないか。何か用?」
スピーカーから不気味な含み笑いが聞こえてきたので無言で通話を切る。
数秒もしない内に再びハレハレユカイが鳴り響いた。
『いきなり切るなよ!』
「ごめんごめん。あまりに気持ち悪かったから思わず切っちゃった」
『そこはせめてオブラートに包めよ!?』
「あまり聞きたくない声が聞こえてきたから思わず切っちゃったんだ」
『大して包めてねぇよ!?』
受話器の向こうがわからハァハァと気持ちの悪い息遣いが聞こえてくる。
もう一回通話を切ろうとパワーボタンを……
『待て、切るな。流石に2回目は冗談にならない』
「チッ」
『……今舌打ちしなかったか?』
「気のせいだよ。それより用事は何?」
そこでようやく本題に入る。僕と彼とのやり取りはいつも大体こんな感じだ。
『お前、今すぐ着替えて『アラビア』に来れるか?』
アラビアというのは僕と晴彦がよく利用する喫茶店だ。彼の宿題や課題を見てあげる時なんかは大抵そこを使う。
「ゴールデンウィークの課題で分からないところでもあるの?それだったら電話口でもいいと思うんだけど……」
『課題はどうでもいいんだ。すげぇもん手に入ったからお前にも見せてやろうと思ってよ』
なんだか胡散臭いなぁ……でもここで無視したら後でへそを曲げられそうだ。
「わかったよ。今から行くから先に向かってて」
『おう、期待してくれてもいいぜ?』
彼の言うすごいものというのは大抵の場合大したことがない。
貴重な休日の半日を悪友に付き合わされて潰される事に暗澹とした気持ちになりながら外出着に着替える。姉ちゃんは……別に付き合せなくていいか。晴彦も喜びそうもないし、喜ばせてあげる義理もないし。
「よう君お出かけ?」
「うぉぁう!?」
着替えている時に唐突に背後から声を掛けられたものだから思わず飛び上がる。声の主はもちろん姉ちゃんだ。
何故この人は僕が着替えていたりするとするりと音もなく部屋に入ってくるのだろうか。心臓に悪い事この上ない。
「晴彦に呼び出し食らってね。お昼には帰ってくるつもりだから作って待っていなくていいよ」
むしろ作らないでいて下さい。我が家の経済の寿命がマッハなので。
「お姉ちゃんもついて行っちゃだめ?」
「大して面白いこと無いから行かないほうがいいよ。多分家でゴロゴロしてたほうがマシ」
「ふ〜ん……」
大して興味がなさそうに返事をして部屋を出ていく姉ちゃん。
まぁ完全に私事だし下手に付き合わせるのも悪いしね。
そんな訳で財布をポケットにねじ込み、外出用のバッグを背負う。
家の外に止めてある自転車で喫茶店へと向かうことに。
この時、僕が面倒臭がっていかなければ……まぁいくら悔やんでも後の祭りなんだけどね。
────────────────────────────────────────
姉ちゃんは暇になると僕の頬をむにむにと弄り始める。
「あはは〜♪むにむに〜」
「…………」
お返しに脇腹をふにふにしてあげると……
─パシーン!─
真っ赤になっておもいっきり叩かれる。
一回脳震盪になりかけたことも。
────────────────────────────────────────
喫茶店『アラビア』は店内にジャズの静かなBGMが流れる落ち着いた雰囲気の店だ。
店主は健康的な褐色肌のお姉さん。たしか……玲衣奈(れえな)とかいう名前だったと思う。
ナーヴェさんと同じく帰化した人だ。なぜかこの近所って元々外国に住んでいた人が多い。
「こんにちは〜」
「あぁ、よう坊だね。晴彦ならいつもの奥のテーブルだよ。よう坊はいつものエスプレッソでいいかい?」
「おねがいします。」
彼女に一例すると奥のテーブルに座っている晴彦の下へ。さて……貴重な休日を潰してまで見せたいものというのは一体何なのだろうか。
くだらない物だったら勘定は晴彦持ちだな。
「おう、来たか」
「で、例のブツは何だ」
ノリでなんとなく密売人の会話っぽく。こういった妙なノリは彼も大好物だ。
「今回はサツの目を欺くのに苦労したぜ……何しろ正式な許可なんて降りるもんじゃないからな」
「晴彦、警察呼んだほうがいい?」
「お前そこで素に戻るなよ!」
まぁショートコントはさておき、彼がカバンの中から何かを取り出す。縦25、横15、厚さ1センチ程度の薄いプラスチック製の箱だ。表面にはビニールのカバーが掛けられているが、その内側にはなにも書かれておらず、真っ黒なままだ。
「何、これ」
「なんだと思う……?」
その箱を受け取り、開けて中身を確認してみる。中に入っていたのは……ディスク?
DVDの類……って、まさかこれって……。
「さる筋から手に入れた和ピン無修正だ。結構……すごいぜ、これ」
「晴彦、自首しよう。少なくとも今ならまだ間に合う。」
「いやいや、別に違法な物じゃねぇよ。単身赴任から帰ってきた親父が処分に困っていたのを譲り受けただけだ」
親父さん……欲求不満なんだろうか。
「で、それを僕に見せてどうしようってのさ」
「何、親友のよしみでおすそ分けを、と思ってな。2,3日貸してやるから存分に楽しんでいいぜ。」
確かにこういう物には興味はある。海外のサイトを回ればそれなりに手に入らなくはないが、やはり画質はDVDの方がはるかに上だ。
しかし、今うちには姉ちゃんがいる。そういう事をしている時のあの人のエンカウント率は異常だ。
それでも危険を侵してでも見る価値は……十分か。
「いただこう……」
「よし、それじゃあ3日後にここで」
「ふむ、健全で良いことだ」
油切れを起こしたような音を立てながら二人とも同じ方向を向く。
そこにはコーヒーを載せたトレイを片手にうんうんと頷く玲衣奈さんがいた。
「……ちなみに、いつから?」
「和ピン無修正からだね。いやはや、よう坊はそういう事に興味が無いのかと思っていたが……うん、お姉さん安心したぞ」
「……死にたい程恥ずかしい……」
テーブルに突っ伏す僕の直ぐ側に彼女がエスプレッソ入りのコーヒーカップを置く。
とにかくこの恥ずかしさをコーヒーの苦味でごまかしてしまおう……。
僕がコーヒーカップに口をつけると、彼女がそっと耳打ちしてきた。
「そこまで女性の体に興味が有るのであればいつでも見せたというのに。何を遠慮していたのかな?よう坊は」
「ぶぅぅぅうううう!?」
「うわっきたな!吹くならあっち向いて吹けよ!」
目の前の晴彦がコーヒーまみれに。あぁ……もったいない……コーヒーが。
「一体何言われたんだよ……あぁ、べったべただ」
「な、何でもないよ?何でも。」
もし彼に僕が誘惑(ただからかわれただけかもしれないが)されたことが知れたら目の前の友人は血の涙を流さんばかりにくやしがるだろう。
それはそれで面白いかも知れないが、今後の円滑な友人関係のために僕は口を閉ざすことにする。
口は災いの元、ってね。
────────────────────────────────────────
姉ちゃんは女の人の体が本物か偽物かをあっという間に見ぬく
「あ〜……この人整形してるね。胸と目元と鼻あたり」
「マジで。整形無しだって公言してるのに」
でもマジックを見ると……
「えぇ!?これどうやってんの!?ねぇねぇ!」
「姉ちゃんうるさいよ……」
全くタネがわからない。
────────────────────────────────────────
そんな訳で後生大事にDVDをバッグの中に詰め、家路を急ぐ。
僕だって健全な男の子だ。こういったいやらしいものには興味がある。
ただでさえ姉ちゃんが挑発的で(尤も何回か軽く手は出されてはいるが)欲求不満が溜まるのだ。
たまには彼女の存在を忘れておもいっきりセルフバーニングしたい所。
「ただいま〜っと」
リビングをそ〜っと覗き込むと、ソファの上で姉ちゃんが寝息を立てていた。
気持ちよさそうに眠っている。ソファの端からは彼女の綺麗な銀髪が流れるように垂れており、胸の上ではふるふると柔らかそうに上下し、お腹ではおへそがちらりと顔を覗かせている。
「あぁ、もう……お腹出して寝て……冷えちゃうでしょうが……」
仕方なしにテーブル近くに落ちていたタオルケットを掛ける。
少しむずがるように動いたが、特に起きることもなく再び寝息を立て始めた。
なんだかんだで僕も彼女を実際の姉として受け入れつつあるのかもしれない。
まぁ自分にとっては美人の姉が増えたようなものだし、別に損はないからいいのだけれど。
「(むしろ……得のほうが多いのかな?)」
今までゴールデンウィークといえば家でひとりきりの方が多かった。
少し前までは晴彦を家によんだりもしたが、最近はめっきり呼んでいない。
そういう意味では寂しくはなくなったと言うべきか。その辺は彼女に感謝したいと思う。
「(でも……それとこれとは話が別、っと)」
流石にこのDVDをリビングで見るわけにもいかないので、自室のPCで読み込んで見る事に。
姉ちゃんを起こさないようにそーっとリビングを出て階段を上がっていく。
姉ちゃんの部屋の前を通りすぎようとしたその時、事件は起きた。
バッグのファスナーが中途半端に閉まっていたのか、例のDVDの箱が転がりでてしまった。
不運はさらに続く。
その箱が衝撃で開き、中からDVDがコロコロと姉ちゃんの部屋の中へ転がっていってしまった。
DVDはそのまま転がり続け、姉ちゃんのベッドの下へと入っていく。
「やっば……!?」
慌てて取りに行こうとしたら下から誰かが上がってくる気配。
どうやら先ほど箱を落とした音で目が覚めて上がってきたらしい。
なんというバッドタイミング!慌てて箱をバッグの中にしまい込むと同時に姉ちゃんが上がってきた。
「あ〜……よう君おかえり〜♪タオルケットを掛けてくれたのってよう君だよねぇ?」
「うん。まぁ……そうだよ」
DVDの行方を気にしながらも肯定すると、姉ちゃんが感極まったように抱きついてくる。
お、おし!む、むねがおし!
「や〜さしいなぁよう君は!ちゅーしてあげよっか!」
「や〜め〜れ〜!てか胸!胸押し付けられてる!」
「あててんのよ♪」
「嬉しくねぇあててんのよだ!?」
実際は頭が茹だりそうなんだけどね。
なんとか姉ちゃんを引き剥がし、自室へ駆け込む。
さて……大変な事になったぞ……。
「〜〜♪」
「…………」
台所でフライパンを振りながらこの後の事を考える。ちなみに今日はそば飯チャーハン。
姉ちゃんはリビングのテレビでCSIなんか見ている。
「(あのDVD……回収しなきゃマズいよね……もし姉ちゃんが見つけて興味本位で再生なんかしたら大事になりそう)」
彼女はこちらに来てから1週間ほどで殆どの電化製品の使い方を覚えてしまった。
無論、DVDの見方も知っているので、リビングにあるDVDも見ることができる。
すなわち、あのDVDを再生される可能性は完全に0ではない……というより、ほぼ間違いなく再生される。そこに再生されるのは裸の女の人がくねくね踊る例のアレである。
「ホレイショさんかっけ〜!」
じゃあその元の持ち主は誰だ、という話になるだろう。
無論持ち主は晴彦なのだが、この場合借りてきたのは僕なので現在の持ち主は僕という事になる。
そうなると姉ちゃんの思考としては……
『やってみたい?やってみたい?じゃあやってみよ〜♪』
なんてことになりかねない。あの人ホント頭の中がドピンクだからなぁ。淫乱ピンク説どこいった。
まぁそんな訳で姉ちゃんがあのDVDを見つけてしまう前に回収し、目の届かない所に保管する必要がある。昼間は……無理だろう。
あの人の勘というのはときたまエスパーなのではないかと思うほどに鋭い。
僕が姉ちゃんの部屋を漁りだした0.1秒後に部屋に突入してこないとも限らない。
そうなると彼女にとって姉の部屋を漁る弟=捕食対象という理不尽な等式が成り立ってしまう事に。
そうなると部屋を漁るのは彼女が完全に外出中か、部屋にいながらも意識が無い時に限られてしまう。
「姉ちゃん、今日はどこか出かける用事とかある?」
「ん〜?なぁに、よう君はおねえちゃんとデートいきたいのかな〜?♪」
「寝言は寝てから言ってよ。夕飯の買い出しに行く時に姉ちゃんが締め出されるのを心配しての事だから」
「酷!?」
この様子だと特に出かける用事とかはなさそうだ。となると出かけている最中に探すという方法は完全に取れなくなる。
しかし、まだ取れる方法が全てなくなったという訳ではない。
チャンスは今夜……あの時だ。
────────────────────────────────────────
男子に人気の無い姉ちゃんだが、女子には割と人気があるらしい。
なんでも裏表の無い人柄に好感を持つ人は結構いるんだとか。
「お姉ちゃん学校じゃ人気者なんだよ!」
彼女に恋愛相談を持ちかけた場合、ほぼ100%の確率でくっつくんだとか、色々噂が絶えない。
「奥手なのが行けないのよ、奥手なのが」
「そういう姉ちゃんはどうなのさ?もう経験済みな訳?」
「…………」
どうやらまだのようです。
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「それじゃ、お風呂入ってくるね〜」
「いってら〜」
姉ちゃんが風呂に向かう。僕はこの時を待っていた!
姉ちゃんが脱衣所に入った隙を突いて音を立てないように二階へと猛ダッシュで駆け上がる。
姉ちゃんの部屋のドアは……半開き。角度を覚えておき、スッと姉ちゃんの部屋の中に侵入。ふわっと香る女性特有の部屋の香りが僕を包み込む……しかし匂いでぼーっとしている暇はない。
たしかDVDはベッドの下へと転がっていった筈。
素早くベッドに近寄り身を屈め……!?
「ぱ……ぱ……」
ベッドの上にパステルカラーのひらひらした何かが無造作に落ちている。
つい最近洗濯物の中の1種類になったそれ……しかも脱ぎたてっぽいそれは……
「〜〜〜〜〜〜〜っ!?!?!!?!?!」
あの姉ちゃんの履いていたパンティーだ。気恥ずかしさとかなんかいろんなもので頭に血が上り、そのまま鼻血を吹いてしまいそうだ。
<あ〜……下着忘れてきちゃった……
身悶えしていると階段下あたりから姉ちゃんの声が。独り言から察するに向かう先は……姉ちゃん自身の部屋!?
「(やばっ……!)」
即座に部屋を出てドアを元の角度へと戻す。後は息が上がっている理由が必要だ!
何を……どうする!?とっさに閃いたのは……この位の作戦しか無かった。
─ガッ!─
「〜〜〜〜〜〜ッ!」
「ってうわぁ!?よう君なにしてんの!?」
姉ちゃんの部屋の前の床で足を抱えながら身悶えして転げまわる。無論、演技などではない。素だ。
とっさに取った行動……それは足の小指で姉ちゃんの部屋の入口の角を蹴り上げるという物だった。後は本能の赴くがままに痛みに悶えればいい。衝撃でドアが揺れているのにも説明がつく。
「あ、あし……こゆび……ぶつけた……そこのかど……」
「こ、小指って……あぁ〜……痛いもんね、アレ」
姉ちゃんもごく最近それを知ったらしく、同意するようにうんうんと頷いていた。
とりあえずは緊急回避成功……か。
姉ちゃんが部屋の中に入っても特に何も気付くこと無くそのまま出てきた。
手には丸められた下着が握られている。……ヤバ、さっきの思い出してしまった。
「それじゃ、改めてお風呂行ってくるね」
「い、いってらっしゃい……」
僕はその場でぐったりと身を弛緩させる。なんだか侵入する度に姉ちゃんが戻ってきそうだったので、そこで侵入するのを諦めた。はてさて……一体どうしたものやら。
────────────────────────────────────────
姉ちゃんの悪ふざけは偶に度を越す。例えば……
「よう君よう君!」
「何さねえちゃ……」
姉ちゃんが上半身ブラ一枚で谷間にきゅうりを挟んで……
「ぱいずり!」
「…………」
偶に姉ちゃんの頭の構造が心配になるのでした。
────────────────────────────────────────
時刻は0時過ぎ……深夜バラエティを見ていた姉ちゃんがようやく寝静まった。
作戦開始はこれより15分後……作戦名『オペレーションYO・BAY』の開始だ。
作戦はこう。浅い睡眠から深い睡眠に切り替わる時を狙って姉ちゃんの部屋に侵入。
ベッドの下へと懐中電灯を持って潜り込み、DVDの回収。そのまま音を立てないようにして部屋から出ていく。実にシンプル。
腕時計を傾けて液晶のライトをつける。丁度十五分……作戦開始だ。
携帯電話をマナーモード、さらに振動をオフにしてポケットにねじ込む。流石に何も変更せずに持っていく愚は犯さない。
隣にある姉ちゃんの部屋のドアをそっと押し開く。ただし、ほんの少しだけ。
腰につけてあるポーチからあるモノを取り出す……潤滑スプレーだ。こいつを隙間から蝶番にそっと吹きつけると……ドアを開いた時のあの雑音がすっかりなくなるという寸法。
スプレーをポーチに戻してしっかりチャックを閉め、ゆっくりドアを押し開ける。ドアは音も立てずに開いてくれた。
部屋の中は真っ暗……カーテンも閉めてあるので本当に中の様子がわからない。
「(少しは明るかったら姉ちゃんの寝顔とか見れたかな……)」
まぁ姉ちゃんの寝顔は昼間無防備に昼寝をしている時に見ればいい。今見るのは流石にリスクが大きすぎる。
何かにつまずいて転ばないように四つん這いでベッドへ近づいていく。
カサリと、手に何かが当たった……?ぽふぽふとその物体を触って形状を確かめる……ってこれは……。
「(ぶ、ブラジャー……)」
ほんの一瞬、これを顔に当てておもいっきり匂いを嗅いでみたい衝動に駆られるが、今はそんな事をしている暇はない。いつ姉ちゃんが起きるかわからないのだ。
カーテンの隙間から漏れる僅かな月明かりを頼りにこっそりベッドに近づく。携帯を取り出し、ライトを起動する。ベッドの下が携帯のライトに照らされて浮かび上がった。
特にゴミは落ちていないが、少し埃っぽい。まぁ当たり前か。
そして、光に対してキラリと反射する何かを発見。DVDだ。
それに手を伸ばし……確保!急いでポーチへとしまい込む。その時だ。
上の方でゴソゴソと音がしたので慌ててベッドの下へと隠れる。どうやらトイレか何かに起きたらしい。上の方からにょっきり足が生えて床に立ち、歩いて部屋を出ていった。
「……チャンス!」
素早くベッドの下から脱出しようとして……
─ゴチン!─
「〜〜〜〜〜〜〜!?」
失敗。しこたま頭をベッドの枠にぶつけてしまった。悶絶している間に姉ちゃんがトイレから戻ってきて再びベッドの中へ。まいった……このまま暫く寝付くまでは動けないぞ。
「ん……はぁ……」
しかもいまだに何かゴソゴソとやっている。一体何を……。
「あん……んっ……」
……待て待て待て待て!これってもしかして……!
「よう、くん……ようくぅん……」
粘ついたような水っぽい音が先程からしきりに聞こえてくる。
断続的に衣擦れの音も聞こえて……絶賛オナニー中?
「はぁ……はぁ……ちくび、ちくびぃ……きもちいよぉ……」
上から聞こえてくるぬちゃぬちゃという音に股間が完全に硬くなってしまった。
心なしか漂ってくる甘い匂いに胸がドキドキする。頭に靄がかかったようにクラクラと視界が揺れる。
自然と手が股間に伸び……残った理性を総動員して無理やり止めた。
普段の生活を見ていると……姉ちゃんの性方面の嗅覚は滅茶苦茶鋭い。
以前パンツの中に暴発した精子をこっそりと風呂場で落とし、そのまま洗濯物に放り込んだことがあるのだが……後で姉ちゃんにものすごい顔で凝視された。
具体的に言い表すのであれば……
『何勿体無いことしてんだボケ』
的な表情である。ちなみにその日、部屋に押し入られた姉ちゃんに手で3回ぐらい搾り取られて滅茶苦茶疲れたというエピソードがある。
詰まるところ、ここで僕が自慰を始めようものなら姉ちゃんにあっというまに嗅ぎつけられて見つけられる事となる。
そんな訳で……ミッション追加。
姉ちゃんが自慰に疲れて寝るまで隠れろ。尚、ミッション中の自慰は禁止。
我々の世界でも拷問です。
「んっ……そこ、敏感だからそっと……強くしちゃやだよ……?」
姉ちゃんの実況付きなので何が起きているのかありありと想像できる。
多分今は皮の上からクリトリスをいじっている所だと思う。
静かな、しかし淫猥な水音がこちらへと聞こえて来る。ほんの少しだけど……甘酸っぱいような不思議な匂いも漂ってくる。
「ぁっ……指、入ってくるぅ……もっとくちゅくちゅしてぇ……かき回してぇ……」
浅く膣口に指が入っているようだ。多分処女膜破らないように気を使いながら弄っているんだろうなぁ……うぅ……僕も股間が……痛い……弄りたい……。
「んやぅ……!おっぱいとおまんこ同時ぃ……!気持よすぎておかしくなっちゃうよぉ……!」
あの形の良い胸と一緒に綺麗に毛が生えそろったアソコも弄っているんだろうな……
一度目にしてからはアレが焼き付いてしまっている……。正直何度オカズにしたかわからない。
「おちんちん欲しいよ……おまんこ寂しいよぉ……」
なんだろ……なんでこんなに罪悪感が……。
……あぁ、そうか……。僕がいつまでたっても名乗りでないから姉ちゃんは恋人を見つけられないんだっけ。で、僕は僕で姉ちゃんに連れ去られたくないから名乗り出ることができない……。
この場でベッドの下から這い出でて抱きつけたらどれだけ彼女が救われることか。
でもそんな事をしたら……残された父さんや母さんはどうなる?旅行から帰ってきたら娘と息子が行方不明。家出かも知れないと捜索願を出しても絶対に見つからない。
もし向こうでそんな両親を何かの手段を使って見られるとしたら……心苦しさに押しつぶされそうになるかもしれない。
だから……
「(我慢、するしかないんだ。僕の一時の欲望で父さんや母さんを苦しませないために)」
頭上の水音がさらに激しくなっていく。ベッドのスプリングはギシギシと加重に対するきしみを上げ、姉ちゃんの嬌声が増々激しいものとなっていく。
甘い匂いはさらに濃くなり、思考をさらにぼやけさせていく。
部屋の中に桃色の靄がかかっている。一体これは何だろう……吸っていると気持ちよくなってくる。
「ようくん、ようくんイっちゃうよぉ!みて、おねえちゃんのいくとこ見てぇ!」
何か液体のようなものがベッドの上からフローリングの上に撒き散らされている。
まさか……おしお?天からお塩?
気付かれないようにそっと手を伸ばして落ちてくる雫を受け止め、口元に持ってくる。
匂いは……殆ど無い。少し舐めてみるとしょっぱさと同時に背筋がゾクゾクと震えた。
「(変態だ……僕も……姉ちゃんも……)」
ベッドが一際強く軋みを上げ、何かに悶絶するような声が聞こえてくる。
しばらくするとそれが嘘のように静かになった。荒い息遣いが聞こえてくる。イっちゃったんだ……姉ちゃん。
「はぁ……はぁ……んっ……!ふぁ……」
「…………」
意識は朦朧としているだろうけれど、無いわけじゃない。
この静かな中で音を立てたらあっという間にバレるので、身動ぎは一つも許されない。
「……本当に、ゆうくんが恋人だったらいいのに……。」
「……っ!」
ドクンと心臓が跳ねる。姉ちゃんは……僕のことを弟ではなく一人の男として見ている……。
「ねぇ、ゆうくん……私、こんなにもドキドキしているんだよ?君は私の事をブサイクだなんて臆面も無く言うけど……私、一緒にいられて楽しいよ?運命の人探しなんてどうでも良くなっちゃうぐらい……」
独り言だ、というのはわかっている。でも、何でこんなに胸がしめつけられるように痛いんだろう。
……そうか、僕が姉ちゃんに嘘を吐いているからか……。
姉ちゃん、ごめんなさい。貴方に嘘を吐くことしかできなくて。
でも……僕はまだ僕が生きていた日常を手放したくないんです。
だから……僕の心に整理がつくまでは今しばらくそっとしておいて下さい。
────────────────────────────────────────
姉ちゃんとペットショップに行くと……
「や〜かわいい〜!こっち見てるこっち見てる!」
犬の展示前に釘付けになる。
「わんわん〜わんわん〜♪」
可愛い可愛い言う貴方が一番可愛いです。
────────────────────────────────────────
暫くして姉ちゃんが疲れて寝てしまった。音を立てないように這ってドアまで向かう。
……う、姉ちゃんが床にぶちまけた潮でTシャツがべっとりと……まぁこれは仕方がない。
可能な限り衝撃を抑えてドアを閉め、自室に帰ってミッション終了。
腰につけてあるポーチを撫でて戦果を確認。ガッツポーズを取った。
でも……
「下手なDVDなんかよりこっちのほうが凄そうだなぁ……」
そう、僕の手元には姉ちゃんの潮やらなんかわからない汁なんかで汚れたTシャツがある。
匂いを嗅いでみると自分の体臭の中にわずかながらだけど姉ちゃんの匂いがした。
「見つからないように隠しておかないと……」
使った後は目につかない所に保管しておこう。でも……あまり長いことは使えそうもないかなぁ。カビると嫌だし。明日洗濯する時に一緒に洗ってしまおう。少しもったいないけど。
結局その夜は姉ちゃんの汁で汚れたTシャツを顔に押し付けながら手に入れたDVDを見つつ自家発電に終わった。……DVDの内容なんかよりTシャツの方が興奮したのは言うまでもない。
僕の姉ちゃんは無駄にエロく、切ない。早く言ってあげたいな……。
探しているものはなんとか見つかったものの、このままでは部屋から出ることすらままならない。なぜこんな事態になっているのか……
事の起こりは今朝まで遡る。
携帯電話に着信。ハレハレユカイって事は……晴彦か。どうしよう……出ようかな。でも面倒臭い。
それでも出なければ後々もっと面倒な事になるだろうからやはり出ておいたほうがいいかな。
「はいもしもし、この携帯は現在使われておりません」
『いやいや、思いっきり電話に出ておいて使われていませんはないだろ友よ』
「軽いジャブじゃないか。何か用?」
スピーカーから不気味な含み笑いが聞こえてきたので無言で通話を切る。
数秒もしない内に再びハレハレユカイが鳴り響いた。
『いきなり切るなよ!』
「ごめんごめん。あまりに気持ち悪かったから思わず切っちゃった」
『そこはせめてオブラートに包めよ!?』
「あまり聞きたくない声が聞こえてきたから思わず切っちゃったんだ」
『大して包めてねぇよ!?』
受話器の向こうがわからハァハァと気持ちの悪い息遣いが聞こえてくる。
もう一回通話を切ろうとパワーボタンを……
『待て、切るな。流石に2回目は冗談にならない』
「チッ」
『……今舌打ちしなかったか?』
「気のせいだよ。それより用事は何?」
そこでようやく本題に入る。僕と彼とのやり取りはいつも大体こんな感じだ。
『お前、今すぐ着替えて『アラビア』に来れるか?』
アラビアというのは僕と晴彦がよく利用する喫茶店だ。彼の宿題や課題を見てあげる時なんかは大抵そこを使う。
「ゴールデンウィークの課題で分からないところでもあるの?それだったら電話口でもいいと思うんだけど……」
『課題はどうでもいいんだ。すげぇもん手に入ったからお前にも見せてやろうと思ってよ』
なんだか胡散臭いなぁ……でもここで無視したら後でへそを曲げられそうだ。
「わかったよ。今から行くから先に向かってて」
『おう、期待してくれてもいいぜ?』
彼の言うすごいものというのは大抵の場合大したことがない。
貴重な休日の半日を悪友に付き合わされて潰される事に暗澹とした気持ちになりながら外出着に着替える。姉ちゃんは……別に付き合せなくていいか。晴彦も喜びそうもないし、喜ばせてあげる義理もないし。
「よう君お出かけ?」
「うぉぁう!?」
着替えている時に唐突に背後から声を掛けられたものだから思わず飛び上がる。声の主はもちろん姉ちゃんだ。
何故この人は僕が着替えていたりするとするりと音もなく部屋に入ってくるのだろうか。心臓に悪い事この上ない。
「晴彦に呼び出し食らってね。お昼には帰ってくるつもりだから作って待っていなくていいよ」
むしろ作らないでいて下さい。我が家の経済の寿命がマッハなので。
「お姉ちゃんもついて行っちゃだめ?」
「大して面白いこと無いから行かないほうがいいよ。多分家でゴロゴロしてたほうがマシ」
「ふ〜ん……」
大して興味がなさそうに返事をして部屋を出ていく姉ちゃん。
まぁ完全に私事だし下手に付き合わせるのも悪いしね。
そんな訳で財布をポケットにねじ込み、外出用のバッグを背負う。
家の外に止めてある自転車で喫茶店へと向かうことに。
この時、僕が面倒臭がっていかなければ……まぁいくら悔やんでも後の祭りなんだけどね。
────────────────────────────────────────
姉ちゃんは暇になると僕の頬をむにむにと弄り始める。
「あはは〜♪むにむに〜」
「…………」
お返しに脇腹をふにふにしてあげると……
─パシーン!─
真っ赤になっておもいっきり叩かれる。
一回脳震盪になりかけたことも。
────────────────────────────────────────
喫茶店『アラビア』は店内にジャズの静かなBGMが流れる落ち着いた雰囲気の店だ。
店主は健康的な褐色肌のお姉さん。たしか……玲衣奈(れえな)とかいう名前だったと思う。
ナーヴェさんと同じく帰化した人だ。なぜかこの近所って元々外国に住んでいた人が多い。
「こんにちは〜」
「あぁ、よう坊だね。晴彦ならいつもの奥のテーブルだよ。よう坊はいつものエスプレッソでいいかい?」
「おねがいします。」
彼女に一例すると奥のテーブルに座っている晴彦の下へ。さて……貴重な休日を潰してまで見せたいものというのは一体何なのだろうか。
くだらない物だったら勘定は晴彦持ちだな。
「おう、来たか」
「で、例のブツは何だ」
ノリでなんとなく密売人の会話っぽく。こういった妙なノリは彼も大好物だ。
「今回はサツの目を欺くのに苦労したぜ……何しろ正式な許可なんて降りるもんじゃないからな」
「晴彦、警察呼んだほうがいい?」
「お前そこで素に戻るなよ!」
まぁショートコントはさておき、彼がカバンの中から何かを取り出す。縦25、横15、厚さ1センチ程度の薄いプラスチック製の箱だ。表面にはビニールのカバーが掛けられているが、その内側にはなにも書かれておらず、真っ黒なままだ。
「何、これ」
「なんだと思う……?」
その箱を受け取り、開けて中身を確認してみる。中に入っていたのは……ディスク?
DVDの類……って、まさかこれって……。
「さる筋から手に入れた和ピン無修正だ。結構……すごいぜ、これ」
「晴彦、自首しよう。少なくとも今ならまだ間に合う。」
「いやいや、別に違法な物じゃねぇよ。単身赴任から帰ってきた親父が処分に困っていたのを譲り受けただけだ」
親父さん……欲求不満なんだろうか。
「で、それを僕に見せてどうしようってのさ」
「何、親友のよしみでおすそ分けを、と思ってな。2,3日貸してやるから存分に楽しんでいいぜ。」
確かにこういう物には興味はある。海外のサイトを回ればそれなりに手に入らなくはないが、やはり画質はDVDの方がはるかに上だ。
しかし、今うちには姉ちゃんがいる。そういう事をしている時のあの人のエンカウント率は異常だ。
それでも危険を侵してでも見る価値は……十分か。
「いただこう……」
「よし、それじゃあ3日後にここで」
「ふむ、健全で良いことだ」
油切れを起こしたような音を立てながら二人とも同じ方向を向く。
そこにはコーヒーを載せたトレイを片手にうんうんと頷く玲衣奈さんがいた。
「……ちなみに、いつから?」
「和ピン無修正からだね。いやはや、よう坊はそういう事に興味が無いのかと思っていたが……うん、お姉さん安心したぞ」
「……死にたい程恥ずかしい……」
テーブルに突っ伏す僕の直ぐ側に彼女がエスプレッソ入りのコーヒーカップを置く。
とにかくこの恥ずかしさをコーヒーの苦味でごまかしてしまおう……。
僕がコーヒーカップに口をつけると、彼女がそっと耳打ちしてきた。
「そこまで女性の体に興味が有るのであればいつでも見せたというのに。何を遠慮していたのかな?よう坊は」
「ぶぅぅぅうううう!?」
「うわっきたな!吹くならあっち向いて吹けよ!」
目の前の晴彦がコーヒーまみれに。あぁ……もったいない……コーヒーが。
「一体何言われたんだよ……あぁ、べったべただ」
「な、何でもないよ?何でも。」
もし彼に僕が誘惑(ただからかわれただけかもしれないが)されたことが知れたら目の前の友人は血の涙を流さんばかりにくやしがるだろう。
それはそれで面白いかも知れないが、今後の円滑な友人関係のために僕は口を閉ざすことにする。
口は災いの元、ってね。
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姉ちゃんは女の人の体が本物か偽物かをあっという間に見ぬく
「あ〜……この人整形してるね。胸と目元と鼻あたり」
「マジで。整形無しだって公言してるのに」
でもマジックを見ると……
「えぇ!?これどうやってんの!?ねぇねぇ!」
「姉ちゃんうるさいよ……」
全くタネがわからない。
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そんな訳で後生大事にDVDをバッグの中に詰め、家路を急ぐ。
僕だって健全な男の子だ。こういったいやらしいものには興味がある。
ただでさえ姉ちゃんが挑発的で(尤も何回か軽く手は出されてはいるが)欲求不満が溜まるのだ。
たまには彼女の存在を忘れておもいっきりセルフバーニングしたい所。
「ただいま〜っと」
リビングをそ〜っと覗き込むと、ソファの上で姉ちゃんが寝息を立てていた。
気持ちよさそうに眠っている。ソファの端からは彼女の綺麗な銀髪が流れるように垂れており、胸の上ではふるふると柔らかそうに上下し、お腹ではおへそがちらりと顔を覗かせている。
「あぁ、もう……お腹出して寝て……冷えちゃうでしょうが……」
仕方なしにテーブル近くに落ちていたタオルケットを掛ける。
少しむずがるように動いたが、特に起きることもなく再び寝息を立て始めた。
なんだかんだで僕も彼女を実際の姉として受け入れつつあるのかもしれない。
まぁ自分にとっては美人の姉が増えたようなものだし、別に損はないからいいのだけれど。
「(むしろ……得のほうが多いのかな?)」
今までゴールデンウィークといえば家でひとりきりの方が多かった。
少し前までは晴彦を家によんだりもしたが、最近はめっきり呼んでいない。
そういう意味では寂しくはなくなったと言うべきか。その辺は彼女に感謝したいと思う。
「(でも……それとこれとは話が別、っと)」
流石にこのDVDをリビングで見るわけにもいかないので、自室のPCで読み込んで見る事に。
姉ちゃんを起こさないようにそーっとリビングを出て階段を上がっていく。
姉ちゃんの部屋の前を通りすぎようとしたその時、事件は起きた。
バッグのファスナーが中途半端に閉まっていたのか、例のDVDの箱が転がりでてしまった。
不運はさらに続く。
その箱が衝撃で開き、中からDVDがコロコロと姉ちゃんの部屋の中へ転がっていってしまった。
DVDはそのまま転がり続け、姉ちゃんのベッドの下へと入っていく。
「やっば……!?」
慌てて取りに行こうとしたら下から誰かが上がってくる気配。
どうやら先ほど箱を落とした音で目が覚めて上がってきたらしい。
なんというバッドタイミング!慌てて箱をバッグの中にしまい込むと同時に姉ちゃんが上がってきた。
「あ〜……よう君おかえり〜♪タオルケットを掛けてくれたのってよう君だよねぇ?」
「うん。まぁ……そうだよ」
DVDの行方を気にしながらも肯定すると、姉ちゃんが感極まったように抱きついてくる。
お、おし!む、むねがおし!
「や〜さしいなぁよう君は!ちゅーしてあげよっか!」
「や〜め〜れ〜!てか胸!胸押し付けられてる!」
「あててんのよ♪」
「嬉しくねぇあててんのよだ!?」
実際は頭が茹だりそうなんだけどね。
なんとか姉ちゃんを引き剥がし、自室へ駆け込む。
さて……大変な事になったぞ……。
「〜〜♪」
「…………」
台所でフライパンを振りながらこの後の事を考える。ちなみに今日はそば飯チャーハン。
姉ちゃんはリビングのテレビでCSIなんか見ている。
「(あのDVD……回収しなきゃマズいよね……もし姉ちゃんが見つけて興味本位で再生なんかしたら大事になりそう)」
彼女はこちらに来てから1週間ほどで殆どの電化製品の使い方を覚えてしまった。
無論、DVDの見方も知っているので、リビングにあるDVDも見ることができる。
すなわち、あのDVDを再生される可能性は完全に0ではない……というより、ほぼ間違いなく再生される。そこに再生されるのは裸の女の人がくねくね踊る例のアレである。
「ホレイショさんかっけ〜!」
じゃあその元の持ち主は誰だ、という話になるだろう。
無論持ち主は晴彦なのだが、この場合借りてきたのは僕なので現在の持ち主は僕という事になる。
そうなると姉ちゃんの思考としては……
『やってみたい?やってみたい?じゃあやってみよ〜♪』
なんてことになりかねない。あの人ホント頭の中がドピンクだからなぁ。淫乱ピンク説どこいった。
まぁそんな訳で姉ちゃんがあのDVDを見つけてしまう前に回収し、目の届かない所に保管する必要がある。昼間は……無理だろう。
あの人の勘というのはときたまエスパーなのではないかと思うほどに鋭い。
僕が姉ちゃんの部屋を漁りだした0.1秒後に部屋に突入してこないとも限らない。
そうなると彼女にとって姉の部屋を漁る弟=捕食対象という理不尽な等式が成り立ってしまう事に。
そうなると部屋を漁るのは彼女が完全に外出中か、部屋にいながらも意識が無い時に限られてしまう。
「姉ちゃん、今日はどこか出かける用事とかある?」
「ん〜?なぁに、よう君はおねえちゃんとデートいきたいのかな〜?♪」
「寝言は寝てから言ってよ。夕飯の買い出しに行く時に姉ちゃんが締め出されるのを心配しての事だから」
「酷!?」
この様子だと特に出かける用事とかはなさそうだ。となると出かけている最中に探すという方法は完全に取れなくなる。
しかし、まだ取れる方法が全てなくなったという訳ではない。
チャンスは今夜……あの時だ。
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男子に人気の無い姉ちゃんだが、女子には割と人気があるらしい。
なんでも裏表の無い人柄に好感を持つ人は結構いるんだとか。
「お姉ちゃん学校じゃ人気者なんだよ!」
彼女に恋愛相談を持ちかけた場合、ほぼ100%の確率でくっつくんだとか、色々噂が絶えない。
「奥手なのが行けないのよ、奥手なのが」
「そういう姉ちゃんはどうなのさ?もう経験済みな訳?」
「…………」
どうやらまだのようです。
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「それじゃ、お風呂入ってくるね〜」
「いってら〜」
姉ちゃんが風呂に向かう。僕はこの時を待っていた!
姉ちゃんが脱衣所に入った隙を突いて音を立てないように二階へと猛ダッシュで駆け上がる。
姉ちゃんの部屋のドアは……半開き。角度を覚えておき、スッと姉ちゃんの部屋の中に侵入。ふわっと香る女性特有の部屋の香りが僕を包み込む……しかし匂いでぼーっとしている暇はない。
たしかDVDはベッドの下へと転がっていった筈。
素早くベッドに近寄り身を屈め……!?
「ぱ……ぱ……」
ベッドの上にパステルカラーのひらひらした何かが無造作に落ちている。
つい最近洗濯物の中の1種類になったそれ……しかも脱ぎたてっぽいそれは……
「〜〜〜〜〜〜〜っ!?!?!!?!?!」
あの姉ちゃんの履いていたパンティーだ。気恥ずかしさとかなんかいろんなもので頭に血が上り、そのまま鼻血を吹いてしまいそうだ。
<あ〜……下着忘れてきちゃった……
身悶えしていると階段下あたりから姉ちゃんの声が。独り言から察するに向かう先は……姉ちゃん自身の部屋!?
「(やばっ……!)」
即座に部屋を出てドアを元の角度へと戻す。後は息が上がっている理由が必要だ!
何を……どうする!?とっさに閃いたのは……この位の作戦しか無かった。
─ガッ!─
「〜〜〜〜〜〜ッ!」
「ってうわぁ!?よう君なにしてんの!?」
姉ちゃんの部屋の前の床で足を抱えながら身悶えして転げまわる。無論、演技などではない。素だ。
とっさに取った行動……それは足の小指で姉ちゃんの部屋の入口の角を蹴り上げるという物だった。後は本能の赴くがままに痛みに悶えればいい。衝撃でドアが揺れているのにも説明がつく。
「あ、あし……こゆび……ぶつけた……そこのかど……」
「こ、小指って……あぁ〜……痛いもんね、アレ」
姉ちゃんもごく最近それを知ったらしく、同意するようにうんうんと頷いていた。
とりあえずは緊急回避成功……か。
姉ちゃんが部屋の中に入っても特に何も気付くこと無くそのまま出てきた。
手には丸められた下着が握られている。……ヤバ、さっきの思い出してしまった。
「それじゃ、改めてお風呂行ってくるね」
「い、いってらっしゃい……」
僕はその場でぐったりと身を弛緩させる。なんだか侵入する度に姉ちゃんが戻ってきそうだったので、そこで侵入するのを諦めた。はてさて……一体どうしたものやら。
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姉ちゃんの悪ふざけは偶に度を越す。例えば……
「よう君よう君!」
「何さねえちゃ……」
姉ちゃんが上半身ブラ一枚で谷間にきゅうりを挟んで……
「ぱいずり!」
「…………」
偶に姉ちゃんの頭の構造が心配になるのでした。
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時刻は0時過ぎ……深夜バラエティを見ていた姉ちゃんがようやく寝静まった。
作戦開始はこれより15分後……作戦名『オペレーションYO・BAY』の開始だ。
作戦はこう。浅い睡眠から深い睡眠に切り替わる時を狙って姉ちゃんの部屋に侵入。
ベッドの下へと懐中電灯を持って潜り込み、DVDの回収。そのまま音を立てないようにして部屋から出ていく。実にシンプル。
腕時計を傾けて液晶のライトをつける。丁度十五分……作戦開始だ。
携帯電話をマナーモード、さらに振動をオフにしてポケットにねじ込む。流石に何も変更せずに持っていく愚は犯さない。
隣にある姉ちゃんの部屋のドアをそっと押し開く。ただし、ほんの少しだけ。
腰につけてあるポーチからあるモノを取り出す……潤滑スプレーだ。こいつを隙間から蝶番にそっと吹きつけると……ドアを開いた時のあの雑音がすっかりなくなるという寸法。
スプレーをポーチに戻してしっかりチャックを閉め、ゆっくりドアを押し開ける。ドアは音も立てずに開いてくれた。
部屋の中は真っ暗……カーテンも閉めてあるので本当に中の様子がわからない。
「(少しは明るかったら姉ちゃんの寝顔とか見れたかな……)」
まぁ姉ちゃんの寝顔は昼間無防備に昼寝をしている時に見ればいい。今見るのは流石にリスクが大きすぎる。
何かにつまずいて転ばないように四つん這いでベッドへ近づいていく。
カサリと、手に何かが当たった……?ぽふぽふとその物体を触って形状を確かめる……ってこれは……。
「(ぶ、ブラジャー……)」
ほんの一瞬、これを顔に当てておもいっきり匂いを嗅いでみたい衝動に駆られるが、今はそんな事をしている暇はない。いつ姉ちゃんが起きるかわからないのだ。
カーテンの隙間から漏れる僅かな月明かりを頼りにこっそりベッドに近づく。携帯を取り出し、ライトを起動する。ベッドの下が携帯のライトに照らされて浮かび上がった。
特にゴミは落ちていないが、少し埃っぽい。まぁ当たり前か。
そして、光に対してキラリと反射する何かを発見。DVDだ。
それに手を伸ばし……確保!急いでポーチへとしまい込む。その時だ。
上の方でゴソゴソと音がしたので慌ててベッドの下へと隠れる。どうやらトイレか何かに起きたらしい。上の方からにょっきり足が生えて床に立ち、歩いて部屋を出ていった。
「……チャンス!」
素早くベッドの下から脱出しようとして……
─ゴチン!─
「〜〜〜〜〜〜〜!?」
失敗。しこたま頭をベッドの枠にぶつけてしまった。悶絶している間に姉ちゃんがトイレから戻ってきて再びベッドの中へ。まいった……このまま暫く寝付くまでは動けないぞ。
「ん……はぁ……」
しかもいまだに何かゴソゴソとやっている。一体何を……。
「あん……んっ……」
……待て待て待て待て!これってもしかして……!
「よう、くん……ようくぅん……」
粘ついたような水っぽい音が先程からしきりに聞こえてくる。
断続的に衣擦れの音も聞こえて……絶賛オナニー中?
「はぁ……はぁ……ちくび、ちくびぃ……きもちいよぉ……」
上から聞こえてくるぬちゃぬちゃという音に股間が完全に硬くなってしまった。
心なしか漂ってくる甘い匂いに胸がドキドキする。頭に靄がかかったようにクラクラと視界が揺れる。
自然と手が股間に伸び……残った理性を総動員して無理やり止めた。
普段の生活を見ていると……姉ちゃんの性方面の嗅覚は滅茶苦茶鋭い。
以前パンツの中に暴発した精子をこっそりと風呂場で落とし、そのまま洗濯物に放り込んだことがあるのだが……後で姉ちゃんにものすごい顔で凝視された。
具体的に言い表すのであれば……
『何勿体無いことしてんだボケ』
的な表情である。ちなみにその日、部屋に押し入られた姉ちゃんに手で3回ぐらい搾り取られて滅茶苦茶疲れたというエピソードがある。
詰まるところ、ここで僕が自慰を始めようものなら姉ちゃんにあっというまに嗅ぎつけられて見つけられる事となる。
そんな訳で……ミッション追加。
姉ちゃんが自慰に疲れて寝るまで隠れろ。尚、ミッション中の自慰は禁止。
我々の世界でも拷問です。
「んっ……そこ、敏感だからそっと……強くしちゃやだよ……?」
姉ちゃんの実況付きなので何が起きているのかありありと想像できる。
多分今は皮の上からクリトリスをいじっている所だと思う。
静かな、しかし淫猥な水音がこちらへと聞こえて来る。ほんの少しだけど……甘酸っぱいような不思議な匂いも漂ってくる。
「ぁっ……指、入ってくるぅ……もっとくちゅくちゅしてぇ……かき回してぇ……」
浅く膣口に指が入っているようだ。多分処女膜破らないように気を使いながら弄っているんだろうなぁ……うぅ……僕も股間が……痛い……弄りたい……。
「んやぅ……!おっぱいとおまんこ同時ぃ……!気持よすぎておかしくなっちゃうよぉ……!」
あの形の良い胸と一緒に綺麗に毛が生えそろったアソコも弄っているんだろうな……
一度目にしてからはアレが焼き付いてしまっている……。正直何度オカズにしたかわからない。
「おちんちん欲しいよ……おまんこ寂しいよぉ……」
なんだろ……なんでこんなに罪悪感が……。
……あぁ、そうか……。僕がいつまでたっても名乗りでないから姉ちゃんは恋人を見つけられないんだっけ。で、僕は僕で姉ちゃんに連れ去られたくないから名乗り出ることができない……。
この場でベッドの下から這い出でて抱きつけたらどれだけ彼女が救われることか。
でもそんな事をしたら……残された父さんや母さんはどうなる?旅行から帰ってきたら娘と息子が行方不明。家出かも知れないと捜索願を出しても絶対に見つからない。
もし向こうでそんな両親を何かの手段を使って見られるとしたら……心苦しさに押しつぶされそうになるかもしれない。
だから……
「(我慢、するしかないんだ。僕の一時の欲望で父さんや母さんを苦しませないために)」
頭上の水音がさらに激しくなっていく。ベッドのスプリングはギシギシと加重に対するきしみを上げ、姉ちゃんの嬌声が増々激しいものとなっていく。
甘い匂いはさらに濃くなり、思考をさらにぼやけさせていく。
部屋の中に桃色の靄がかかっている。一体これは何だろう……吸っていると気持ちよくなってくる。
「ようくん、ようくんイっちゃうよぉ!みて、おねえちゃんのいくとこ見てぇ!」
何か液体のようなものがベッドの上からフローリングの上に撒き散らされている。
まさか……おしお?天からお塩?
気付かれないようにそっと手を伸ばして落ちてくる雫を受け止め、口元に持ってくる。
匂いは……殆ど無い。少し舐めてみるとしょっぱさと同時に背筋がゾクゾクと震えた。
「(変態だ……僕も……姉ちゃんも……)」
ベッドが一際強く軋みを上げ、何かに悶絶するような声が聞こえてくる。
しばらくするとそれが嘘のように静かになった。荒い息遣いが聞こえてくる。イっちゃったんだ……姉ちゃん。
「はぁ……はぁ……んっ……!ふぁ……」
「…………」
意識は朦朧としているだろうけれど、無いわけじゃない。
この静かな中で音を立てたらあっという間にバレるので、身動ぎは一つも許されない。
「……本当に、ゆうくんが恋人だったらいいのに……。」
「……っ!」
ドクンと心臓が跳ねる。姉ちゃんは……僕のことを弟ではなく一人の男として見ている……。
「ねぇ、ゆうくん……私、こんなにもドキドキしているんだよ?君は私の事をブサイクだなんて臆面も無く言うけど……私、一緒にいられて楽しいよ?運命の人探しなんてどうでも良くなっちゃうぐらい……」
独り言だ、というのはわかっている。でも、何でこんなに胸がしめつけられるように痛いんだろう。
……そうか、僕が姉ちゃんに嘘を吐いているからか……。
姉ちゃん、ごめんなさい。貴方に嘘を吐くことしかできなくて。
でも……僕はまだ僕が生きていた日常を手放したくないんです。
だから……僕の心に整理がつくまでは今しばらくそっとしておいて下さい。
────────────────────────────────────────
姉ちゃんとペットショップに行くと……
「や〜かわいい〜!こっち見てるこっち見てる!」
犬の展示前に釘付けになる。
「わんわん〜わんわん〜♪」
可愛い可愛い言う貴方が一番可愛いです。
────────────────────────────────────────
暫くして姉ちゃんが疲れて寝てしまった。音を立てないように這ってドアまで向かう。
……う、姉ちゃんが床にぶちまけた潮でTシャツがべっとりと……まぁこれは仕方がない。
可能な限り衝撃を抑えてドアを閉め、自室に帰ってミッション終了。
腰につけてあるポーチを撫でて戦果を確認。ガッツポーズを取った。
でも……
「下手なDVDなんかよりこっちのほうが凄そうだなぁ……」
そう、僕の手元には姉ちゃんの潮やらなんかわからない汁なんかで汚れたTシャツがある。
匂いを嗅いでみると自分の体臭の中にわずかながらだけど姉ちゃんの匂いがした。
「見つからないように隠しておかないと……」
使った後は目につかない所に保管しておこう。でも……あまり長いことは使えそうもないかなぁ。カビると嫌だし。明日洗濯する時に一緒に洗ってしまおう。少しもったいないけど。
結局その夜は姉ちゃんの汁で汚れたTシャツを顔に押し付けながら手に入れたDVDを見つつ自家発電に終わった。……DVDの内容なんかよりTシャツの方が興奮したのは言うまでもない。
僕の姉ちゃんは無駄にエロく、切ない。早く言ってあげたいな……。
14/03/05 15:27更新 / テラー
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