連載小説
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なんでもない日


今日は何も無い日だ。



何もない休日、相変わらず早起きなアキトさんがご飯を用意してくれている。
僕はのそのそとベッドから這い出て、洗面所へ行き洗顔を済ませて朝ごはんの席に着く。
昨日もお盛んだったのにアキトさんは超人的な体力だなぁ!と思いつつ朝ごはんを食べる。
僕らの朝ごはんはパン派だ。パンも作れる炊飯器で作った食パンで安上がりに済ませてしまう。
好みの厚さにアキトがスライスしてくれていたので、それにバターを塗ってトースターに突っ込む。
耳が固くならないくらいのふにゃふにゃ具合の焼き方でバターを溶かすのが好きだったりする。
こぽこぽとコーヒーメイカーから珈琲を注いで、僕はミルクと角砂糖をブレンド。
トースターを二分半程にセットしてじりじり焼けていく食パンをぼんやり眺めながら珈琲を啜る。
喉が温まり、ほんわりした気分になる。

平和だ。

なんだか今日は物凄く穏やかな気分なので、朝食の時間を多くとろうと思った。
なんとなく、アキトさんも似たような気分なんじゃないかなと思う。
僕らは意外と似た者同士だしね。自然と気持ちがシンクロしちゃうようになってきた。
チン、とトースターが声を上げたのでまだ柔らかさが残るパンを取り出して皿に載せる。
その上にちょいちょいはちみつを掛けて、パン全体を湿らせる。
掛けてからちょっとの時間放置して染みこんでいく様を僕はぼーっと見届ける。
はちみつが染みこんだパンをやっと僕はかじってその食感と甘い味わいをやっと堪能した。

このしっとり具合がいいんですよ。異論は認める。でも僕に押し付けないで欲しい。

なおアキトさんは結構硬く焼いちゃう派だ。バターも後塗りだしね。
アキトさんがパンを焼いてくれた時はマジギレしたものだ。僕にだって譲れないものは有る。
さらっとプレーンの小さいオムレツを焼いてくれて、それを僕のお皿に乗っけてくれた。
こういう時のアキトさんは僕を甘やかすなぁ……もっとダメ彼女になっちゃうぞ。いいのか。
ああでもこの人働いてたい人だからなぁ。僕はアキトさんにごほーしされるのです。
もぐもぐ。目がしぱしぱするので目を薄めながらパンをむさぼる。
食べる様が小動物のようだとアキトさんに言われたが、確かにそう見えるかもしれない。
リスみたいな気持ちになって朝食を頬張り、もぐもぐもくもくと食べる。
今日の動作はだいぶ緩慢だ。気が抜けているというかなんというべきか。
時間の流れが遅い気がする。あるよね、そういう日。
パン一枚を食べ終えるのにたっぷりと時間を掛けて、ゆっくりとした朝を過ごした。
うーん。そうだなぁ。今日は、なんというか、そういう気分だ。


「アキトさん、今日はデートしよう」


何も無い日だから。
今日は、アキトさんと一緒にのんびり何処かへ行きたくなったのだ。


シャワーとかアキトさんと一緒に浴びてさっぱりして僕はお出かけ用の服に着替えた。
昨日たっぷりしたし、一緒にシャワー浴びてもスキンシップで留まった。
うん、今日はエロいこと無しでいいや。アキトさんもそんな感じだった。
今日のコーデはロングスカートとカーディガンで上品な感じ。中はパンストです。
パンストはアキトに破られるイメージしかないからあまり履かないんだけど、今日は良いや。
アキトさんは、カジュアルなすらっとしたイケメンさんに変貌していてもうやばい。萌える。
この人は行動しなければ超イケメンなんだ!喋ってもまだイケメン!変態さを出すと株暴落。
ま、いいのさ。今日のアキトさんはイケメンなのだ。普通のデートだしね。
そして僕もそんなアキトさんとお似合いな感じなのだ。ふふふ、可愛かろう。
でも二人で手を繋いで歩いてると、彼女というよりは兄妹に見られそうな気もするな……!?
気にしない気にしない。戸締まり確認してデートへ出発した。

とは言え完全ノープランなのでウィンドウショッピングくらいしかすることはないんだけどね。
手をつなぎながら駅ビルで賑わう所まで出て僕らは適当にお店巡りをする。
僕はアキトの左側をずっと占拠しながら、服屋や雑貨屋に気が向くままに入ってった。
とは言えあまりお出かけするわけでも無いし、アキトはスーツ勤務だから服の需要は余り無い。
アキトは全体的にセンスが良いし、安く仕入れたりもするから服の選びがいが本当に無い。
だから徐々に服屋よりも雑貨屋や文房具を探す旅になってきた。
ところで文房具屋ってなんであんなに楽しくなれるんだろうね。凄くおもちゃ屋感が有る。
使わないのに無性に欲しくなるあの感覚はなんだろう。

そんな誘惑に耐えながら僕らは雑談を交えて駅地下やデパートを転々と渡り歩いた。
休日は一緒だからアキトが話す内容は職場の話が中心になる。後は昔の交友関係か。
アキトは愚痴っぽくならないように気をつけているけどやっぱりストレスが溜まってるようだ。
ただ、大学の頃の友人たちと久しぶりに飲むという話になっているらしく楽しみにしているらしい。
僕の方は、最近の勉強の話になる。これでもリッチだし魔法関係の研究をやりなおしたのだ。
きっかけはだいぶ前に買った魔法のオナホだったりするのが何とも言えない。
通販で買ったんだけど意外と近所の人だと思ったら同級生の奥さんだった。しかもデーモン。
偶然、高校の頃の同級生に会ったと思ったら上級魔族も一緒にエンカウントしたあの衝撃。
いやぁビビったね!以前は気が付かなかったけどあれおかーさんとか言ってなかった!?
でも、意外と気さくな人で喋ってたらメルアドを交換していたくらい仲良くなれた。
そんな話を気楽にして、間が過ぎたらお昼時になってきたので何を食べたい?って話へ移行。
食欲はあるけど何を食べたいか、ってのは思い浮かばなかったので消去法。


「今日は辛いもの食べたくないなぁ。中華とかエスニック無しで!」
「俺は麺類の気分では無いかな。ユキもラーメンとかの気分じゃないでしょ?」
「ラーメンはヤダなぁ。麺でもスパや蕎麦とかならいいけど、うどんって気分でもないね」
「でも美味しい蕎麦屋を駅近くで探すのは難しいと思う。和食は?」
「うーん、良いけど混んでたよ。僕あんまり並びたくないからナシで!」
「……肉!魚!どっち!?」
「肉!今のユキちゃん肉食系だよ!」
「チェーンじゃないハンバーガーとかどう!?」
「いいよ!アキトさんそれで行こう!」


というわけでハンバーガーに決まりました。マックとかそういうのじゃない料理してる所のやつ。
我々は秘密結社マクドナルドに反旗を翻し日夜彼らに抵抗しつづけるレジスタンスなのです。
だから僕らは決して使わない。でもハンバーガーは嫌いじゃない。そして近くにモスは無い。
だからいいものを食べてみようと思ってアメリカンなお店に行ってみた事があったんです。

びっくりしたね。一度食べてみて。めっちゃ美味しい。
あとデカイから一個で相当ボリュームがあって満足できる。僕一つでお腹一杯になったもん。
そんなお店を見つけて以降そこがお気に入りのお店の一つになったわけです。
いや、駅ビルに入ってるやつだし実際はチェーン店かもしれないけど見たこと無いし!
だから僕らの間ではチェーンじゃないハンバーガーといえばそこになるのです。


さてそこでガッツリとランチを食べる僕ら。
オススメはメキシカンな味わいだけど今日はピリ辛な気分じゃないんだ。すまない。
チーズ&ベーコン&ハンバーグの王道で僕は攻める……!
意外とこういう時に期間限定に流されるタイプのアキトさんはさっきのを選んだ。
サイドメニューはドリンクとポテトのセットですよ。この何も考えない感じが良い。
僕は迷わずコーラ!この組み合わせならばジャンクの王様でしょう!
アキトさんはアイスコーヒーとかつまらないものを頼む。アキトさんはホント無難だなぁ!
注文した後、サイドメニューだけ先に到着して食べながら午後どうしようかという話になった。


「映画って今何やってる?」
「少女漫画原作のやつ。興味ないかな。気軽なアメコミなら見たいけど今やってないー」
「なら映画は無しだね。近場の美術館も良い展示してないし、水族館とかは?」
「ぶらっと外に出たのにあんまり遠くに行く気しないでしょ?」
「それもそうか。なら、天気良いし、公園にでもぶらつきに行こうか」
「賛成ー、アキトさんわかってるぅー」


そんなこんなしているうちにポテトが半分消費される。
ところでアキトさんはポテトの小さい奴がお気に入りで僕に大きいのをくれる。
小さいのをひょいぱくひょいぱく放り込んで残っていくのが大きいやつというだけなんだけどさ。
僕は長い奴の途中でくてって萎びてる感じのやつが好きだ。
揚げてあるのに妙なしっとりする舌触りがかなり好きなのだ。
この時点でコーラを飲んでしまうとハンバーガーを食べきれなくので口を湿らせるくらいに飲む。
僕の胃袋は体格相応です。入んないんです。でも工夫すれば食べきれる量なんです。
アキトはスマートなのにだいたいご飯大盛りにするからエネルギー消費量が大きいんだろうな。
僕は計画どおりに食を進めていくとお皿に乗ったハンバーガーが登場する。

写真詐欺など無い。とでも言うべきか。写真で見たのより大きくね?とでも言うべきか。
実際に見るとかなり大きい代物が僕らの前にでんと置かれるのです。
ジューシーな肉汁あふれるパティとレタスやチーズとベーコンがぎっしりパンズに挟まっている。
串で刺さったそれをバーガー袋の中にするっと入れて、がぶりと食べる。
ぬおおお……なんて事……肉に届いてない!口の中にあるのはパンとチーズと少しのレタス!
自分の口の小ささが恨めしい……アキトさんは普通に食べてるし……ちくせう。
……うんアキトさんちょっと待って。僕もそれ食べたいけど、僕まだこっち食べてない。
目と手振りだけでこっち食べる?と聞いてきたアキトさんを待たせながら僕はもう一口食べる。
お肉の肉汁が口の中に広がる。塩気と旨味の豪快かつ絶妙なバランス。ああやっと辿りつけた!
僕はそれをもっしゃもっしゃと咀嚼して、ごくりと飲み込んだ。
ふおおお!うまあああいーぞおおおー!肉喰ってる感が凄い!
次の一口を食べる前に僕はアキトさんの手にあるメキシカンなバーベキュー味に食らいつく。
僕もハンバーガーを手に持ったままアキトさんの口の近くに持って行きアキトさんに食べさせる。
もしゃもしゃもしゃ……うん、鼻に抜けるこのタコスに似た感じ!メキシカン!何言ってんだ僕!
タバスコが掛かってるのかな、ちょっと辛いや。でも見事な味わいです。
一旦口直しとしてコーラを流し込んでリセット。はああああ……幸せぇ……
脳裏には目の前の肉が挟まったハンバーガーと僕しか存在しない。
ハンバーガーに向き合い、食材と語り合うだけです。
僕は女子で有ることを一瞬捨てて目の前にある肉を求める野獣へと変貌した!
ひゃあ肉汁だ!我慢できねぇ!



はあああーん。肉々しかった………ユキさん大満足ですよ。
満足とともに女子力戻ってきました。お腹ぱんぱんですよ。珍しく胃の方のおなかです。
でも動くのが辛い程じゃないので、お店を出てだらだらと公園を目指しました。
駅からいくつか公園はあるんだけど、大きい方の公園を目指す感じなのです。
慎ましい淑女の顔でしゃなりとアキトさんの左側に陣取る。先ほどの肉食獣?別人です。
しかし、いい天気だなぁ。秋の陽気というかそんな感じで実に。
溶けそう……暑いとかじゃなくて……眠くなってくる……
そんな状態になってしまったのでゆったりまったり、アキトさんと公園までお散歩です。
途中でコンビニに寄って、100円のホットコーヒーを淹れてそれもってぶらぶら。
他愛もない話をしながら公園を目指す、そんなのんびりした午後のお散歩です。
余り近くも無い公園なので30分くらい掛かってしまった。
急ぐ理由は一つも無いし、このゆっくりとした時間の流れを僕は楽しんでいた。
僕の歩幅は小さいから相当遅いのだけれどアキトはそれに合わせてくれる。
いつものことだけど、それが無性に嬉しかった。



そうして歩いているうちに公園に到着。
僕は速攻でベンチを確保、結構歩いたしちょっと落ち着きたかった。
アキトさんも隣に座って、一緒に公園で遊んでる子供とかを眺めていた。
僕はアキトさんの肩に頭を乗せて、少し甘えた。それを受け入れたアキトも甘えてきた。
手を握ったまま、特に何か話すことも無く、自然といちゃいちゃしてた。
冷えきったコーヒーをたまに飲んで、ぼーっと腕を絡めたり、すりすりしたりしてた。
アキトさんも同じく、僕の色んな所を撫で始めた。
互いを確認しあうようなスキンシップ。それが凄い落ち着く。
頭とか髪とかお腹とかふとももとか撫でてきたけどあんまりエッチな感じじゃない。
むしろ触れてきてくれて嬉しい気がする。うーん。もっと撫でれ。
どのくらいそんなことをしていたのだろうか。立ち上がった時には3時位になっていた。
このまま公園を一周して散歩したら帰ろう、とアキトさんが言った。
僕はアキトさんに手を引かれてベンチから立ち上がった時になんとなく言ってしまった。
でも、結果が分かるまで待つつもりも無いし、さっさと言おうと思っていたし。
躊躇いはあんまり無かった。



「あ、そうだ。アキトさん」

「どしたの、ユキ」

「結婚しようー」



固まったアキトさんは見てて面白かった。
なんでもない日が、僕らの記念日になったとだけは告げておこう。
15/11/09 23:23更新 / うぃすきー
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■作者メッセージ
一区切り、といったところで彼らの日常は続いて行くという辺りで完結という形にさせて頂きます。
短編集なので完結した後に平然とまた短編を投稿する可能性が高いですがその時はまたよろしくお願いしますね。

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