連載小説
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事実
私はいくつかの質問を王子に投げかけた。
今なら"事実"ならば王子は答えてくれると思ったのだ。

王子は階段を降りながら語る。


「 そうですね、集め始めて五年になります。
  一人では集められませんから、秘密裏に兄や部下、そして友人の力を借りました。 」

「 正確には譜面そのものでは無く、"チェス盤"を集めました。
  兄は魔法による学問に習熟していたため、物体の来歴を探ることが出来ます。
  いえ、少しくらいは集めることは出来ましたが、譜面なんてそうそう入手できません。 」

「 来歴探査そのものはそう難しい魔法ではありません。
  しかし、学術系の魔法ですから使い手は少なめで珍しい部類かもしれませんね。 」

「 そもそも"チェスは芸術です"。そしてこの国も芸術の国です。
  優れたプレイヤーにチェス盤を送るのは違和感のないことだとは思いますがね。 」

「 古い盤をわざわざ使う人はそう居ませんからね。廃品を回収しただけです。
  思い出の品、と言われるものでも大体倉庫に入れられることになりました。
  例えばそれを1日の間、主に気付かれずに拝借するのは不可能なことではありません。 」

「 父にも協力してもらいました、国外でチェスを行う人物にも同等の事をしました。
  国交を持つ国々への支援は父の戦略とも一致していたので問題はありませんでした。
  劇や絵画でも同等の事をしていたのでそれに違和感を覚えることは無いと思います。 」

「 兄から来歴探査の魔道具を譲ってもらいました。
  国の魔法研究を行っている兄ですから魔道具の一つや二つを作る事は可能でした。
  魔道具そのものは珍しいものでは無いですし、兄からも秘密にしてもらいました。
  私は譲ってもらったチェス盤に片っ端から魔法を唱えて実演してもらいました。 」

「 そうです、ここの棋譜の殆どを書いたのは私です。 」

「 この場所は元は古代遺跡ですからね。魔法的に可視しづらいとは兄から聞きました。
  更に王族の血を持つものが居なければ開けない魔法の扉になっているらしいです。
  いえ、高位の術者であれば突破できるかもしれませんが、間者には出さないでしょう?
  まぁ、逆に言えば私が入れば開いてしまうので戦いには向かない場所なのですが。 」

「 父は、私にこの広い蔵書室を与えてくれました。
  次期王になる長男でもなく、学問を追求する次男でもなく、三男のこの私にです。  
  父も兄二人も外に向く性質でを持っていましたが、私は内向的でしたからね。 」

「 宝物庫もありましたし、魔法の本などは兄の研究室が城の外にありますからね。
  一番上の兄はそもそも城に籠もる人物では無いです。
  父も財を貯めこむ性質があるわけではありません。
  お金の使い所も美術品のあるべき場所も正しく理解している王だと思います。
  腐らせておくよりは私のコレクションルームに使え、くらいの意味だったと思います。 」

「 コレクションルームにしては、少し暗すぎるのが欠点でしたがね。 」

王子はいつもの仮面の笑顔ではない、少し無邪気さを出した顔で笑った。
今夜の王子はまるで言い訳をするかのように多弁だ。
答え合わせをするかのように質問に答えてくれる王子は、それでも感情を挟まぬ回答をしていた。

明かりが揺れ動き、空間を照らす場所が徐々に下っていく。

「 私は他に劇や絵などに割く時間も必要でしたからね。
  ほとんどの棋譜は一回書き留めたあとは目を通していません。全て暗記しました。 」

そして、階段の一番下へ辿り着き、作りが違う一つの棚が現れた。



「 但しこの棚の棋譜だけは徹底的な研究を重ねました。 」



全て擦り切った程読み込まれたその棚の棋譜を一枚取り、ソフィリアは驚きを隠せなかった。


自分の棋譜だったからである。


「 もう一度言いますが、友人の力を借りました。 」


「 貴女が征服した国の、僕の親友とその妻です。 」

15/06/18 21:03更新 / うぃすきー
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■作者メッセージ
極めてマイナーな魔法だと思いますが来歴探査の魔法に関して簡単に説明します。

物体に対して掛ける魔法で出来事や使った人物がどんな姿かを知ることが出来ます。
ただし人物の名前を知ることは出来ません。
本来なら極めて昔のことを知ることが出来る調査系の魔法です。

魔法の難易度は普通の魔術師ならちょっと頑張れば覚えれる程度です。
ただし利用価値が薄いので、使う人の総数そのものは少ない系の魔法です。

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