モテない弟と勝ち気な姉
『悲しいことが、あった。
夕方、晩御飯の支度をしているといつものようにコウちゃんが帰ってきた、お帰りなさいと言うと、コウちゃんはいつものようにただいまと返してくれた。
今日の晩御飯はコウちゃんの好きな肉じゃがだよと言いながら振り返ると、いたんだ。
ちっちゃくて、体の所々を毛に包まれた、垂れ耳がかわいいコボルドがいたんだ。
その娘が、コウちゃんの右手を、握ってたんだ。
私がいるべきコウちゃんの右側で。
私がいつも握っている、右手を。
コウちゃんの手を握る毛皮、なんだか、その毛皮がコウちゃんの手にじわりじわりと侵食しているようで、私の居場所も侵食しているようで。
包丁を持った手がすこし震えていたのを覚えてる、そして言ったんだ、その娘はだれって。
その娘は恥ずかしがりながら、ユウカですって言ってた、私は笑顔を作りながら返事をした、正直、ここから先は頭の中がふわふわしてて良く覚えていない、でも、ぼんやりとしてた意識の中にはっきりと思う事があったのは覚えている。
全部侵食される前に、私の色に染めなくちゃ、と』
あ……ありのまま、今、起たことを話すぜ!
ミユ姉ちゃんの部屋を掃除してたら日記を見つけたんで、魔が差して読んだらカオス。
な……何を言っているのか、わからねーと思うが、おれも、何をされたのか、わからなかった……。
頭がどうにかなりそうだった……幻覚だとか夢日記だとか、そんなチャチなもんじゃあ、断じてねえ、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。
……いったい誰なんだユウカって、女の知り合いはいないし、第一家に女性を連れてきたことなんて、一度たりともありませんのよお姉様。
魔物娘にさえモテないってどういう事だよ、話しかけたら怯えた顔して逃げてくしよぉ……そんなに俺の顔面は酷いのか……ちくしょう……ふん、まぁいいや。
あと、あんたはいつ肉じゃがを作れるようになったんだい、最近やっと野菜炒めを焦がさずに作れるようになったのに、肉じゃがなんて作った日には皿に炭が転がってるんじゃないか。
そんで何だよコウちゃんて、いつもはコウとか、おぉいとか呼ぶのにコウちゃんて。
ミユ姉ちゃんの日記を見ながらあーだこーだと呟いていたら、周囲の警戒が緩んでいたようだ、まぁ、それに気がついたのは、開きっぱなしのドアから、音もなく入ってきた姉ちゃんに巻き付かれた時なんだが。
「おぉん? 弟よー? なーにーをーみーてーるーのーかーなー?」
俺が座ったまま、ミユ姉ちゃんの白い尾が体を包む、包むってか絞める、んんっこれは自白安定ですな。
「日記を見てました!」
「へぇー、どのページを見てたのかなー?」
「悲しいことがあった、と始まるページです!」
「よし忘れろ」
ギリギリギリギリギリギリッ!
「ノォォオオオオ!!!」
お姉様のアツい抱擁がっ! 体に染みるっ! 多分加減はしてるだろうけど、染みるっ!
「魔が差してしまったのですぅぅぅ! しません! もうしませんゆぇぇぇ! お許しをぉぉぉ! 」
「………ふんっ!」
「ニャァァァ!!!」
加減してるよねぇぇぇ!?
「許してぇぇぇ! おねえさまぁぁぁ!!!」
「…………本当に」
俺の必死な嘆願が届いたのか、少し拘束が緩くなった。
「本当に、もうしない?」
「本当にしません」
「目を見て、言って」
俺は見上げてミユ姉ちゃんの目を見つめて言う。
「本当にしません!」
「本当に?」
「本当に!」
ミユ姉ちゃんの目がすぅっと細まる、そして俺の喉を指先でゆっくりと撫でてきた、これをやる時は大体お許しが出る時だ、俺は生き延びる事ができたようだ。
「………………」
「………………」
後はミユ姉ちゃんの気がすむまで撫でられるだけだ。
「………………目をそらさないで」
「………………あいあい」
「………………」
「………………」
しっかし、不思議だなぁ、こうやって目を合わせながら巻かれてると安心するんだよなぁ、なんでだろ。
「………………」
「………………」
最初は窮屈で正直嫌だったんだけどなぁ、今は落ち着くけど。
「………………」
「………………」
姉ちゃんが俺の喉を撫でて二時間がたった、新記録だ、長い、長すぎる、いつもなら30分くらいで終わるのに終わらねぇ、新手のお仕置きか?
「………………」
「………………」
相変わらず目を細めて喉を撫でるミユ姉ちゃん、良くもまぁ飽きないもんだ。
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
まずい眠たくなってきた、耐えろ耐えるんだ、今、目を閉じたら、何されるかわかんねぇ。
「………………」
「………………」
必死にミユ姉ちゃんの目を見て眠気をこらえる、頭の中にその目を刷り込むように必死に見つめる、だけど悲しいかな、こうかがないよーだ。
「………………」
「………………」
まず、い、まぶたが、落ち、る。
「………………」
「……ん」
かくんと、頭が前に落ちる寸前に、ミユ姉ちゃんの手が俺のほほとあごに添えられる。
温かくて柔らかい感触を感じて、まぶたが落ちかけてうっすらと見えるミユ姉ちゃんの目を見ながら、俺は目を閉じた。
「…………んっ…………」
目を閉じてすぐに、唇に柔らかな物が当たったのは、気のせいかね。
「…………寝ちゃった」
私は唇を離して、私に巻かれて寝ているコウちゃんの頭をそっと、撫でる。
「はぁ、恥ずかしい物見られちゃったなぁ」
悲しいことがあった、これから始ま
るページはあのページしかない。
悪夢を忘れないように飛び起きてすぐに書き殴ったあのページ。
夢で見ただけで体が震えて頭がフラフラしたんだ、本当に起きちゃったらどうなるか私にも分からないし分かりたくもない。
とにかくコウちゃんは絶対に渡さない、誰にも、絶対に、渡さない。
「さて、と」
だからちゃんと名前を書いておくんだ、私の名前をコウちゃんの体に、誰がどう見ても分かるように。
そしてちょっとだけコウちゃんを縛るんだ、私の側が一番良いと感じるように。
「私だけに染まって? コウちゃん?」
「他の娘が入り込めないくらいに、ね?」
いつものように、唇を合わせて舌を入れた、そしてピチャピチャと僅かに音を唇から漏らしながら、より深く舌と舌を絡ませて、そこから、ゆったりと自分の魔力をコウちゃんの体に流し入れた。
夕方、晩御飯の支度をしているといつものようにコウちゃんが帰ってきた、お帰りなさいと言うと、コウちゃんはいつものようにただいまと返してくれた。
今日の晩御飯はコウちゃんの好きな肉じゃがだよと言いながら振り返ると、いたんだ。
ちっちゃくて、体の所々を毛に包まれた、垂れ耳がかわいいコボルドがいたんだ。
その娘が、コウちゃんの右手を、握ってたんだ。
私がいるべきコウちゃんの右側で。
私がいつも握っている、右手を。
コウちゃんの手を握る毛皮、なんだか、その毛皮がコウちゃんの手にじわりじわりと侵食しているようで、私の居場所も侵食しているようで。
包丁を持った手がすこし震えていたのを覚えてる、そして言ったんだ、その娘はだれって。
その娘は恥ずかしがりながら、ユウカですって言ってた、私は笑顔を作りながら返事をした、正直、ここから先は頭の中がふわふわしてて良く覚えていない、でも、ぼんやりとしてた意識の中にはっきりと思う事があったのは覚えている。
全部侵食される前に、私の色に染めなくちゃ、と』
あ……ありのまま、今、起たことを話すぜ!
ミユ姉ちゃんの部屋を掃除してたら日記を見つけたんで、魔が差して読んだらカオス。
な……何を言っているのか、わからねーと思うが、おれも、何をされたのか、わからなかった……。
頭がどうにかなりそうだった……幻覚だとか夢日記だとか、そんなチャチなもんじゃあ、断じてねえ、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。
……いったい誰なんだユウカって、女の知り合いはいないし、第一家に女性を連れてきたことなんて、一度たりともありませんのよお姉様。
魔物娘にさえモテないってどういう事だよ、話しかけたら怯えた顔して逃げてくしよぉ……そんなに俺の顔面は酷いのか……ちくしょう……ふん、まぁいいや。
あと、あんたはいつ肉じゃがを作れるようになったんだい、最近やっと野菜炒めを焦がさずに作れるようになったのに、肉じゃがなんて作った日には皿に炭が転がってるんじゃないか。
そんで何だよコウちゃんて、いつもはコウとか、おぉいとか呼ぶのにコウちゃんて。
ミユ姉ちゃんの日記を見ながらあーだこーだと呟いていたら、周囲の警戒が緩んでいたようだ、まぁ、それに気がついたのは、開きっぱなしのドアから、音もなく入ってきた姉ちゃんに巻き付かれた時なんだが。
「おぉん? 弟よー? なーにーをーみーてーるーのーかーなー?」
俺が座ったまま、ミユ姉ちゃんの白い尾が体を包む、包むってか絞める、んんっこれは自白安定ですな。
「日記を見てました!」
「へぇー、どのページを見てたのかなー?」
「悲しいことがあった、と始まるページです!」
「よし忘れろ」
ギリギリギリギリギリギリッ!
「ノォォオオオオ!!!」
お姉様のアツい抱擁がっ! 体に染みるっ! 多分加減はしてるだろうけど、染みるっ!
「魔が差してしまったのですぅぅぅ! しません! もうしませんゆぇぇぇ! お許しをぉぉぉ! 」
「………ふんっ!」
「ニャァァァ!!!」
加減してるよねぇぇぇ!?
「許してぇぇぇ! おねえさまぁぁぁ!!!」
「…………本当に」
俺の必死な嘆願が届いたのか、少し拘束が緩くなった。
「本当に、もうしない?」
「本当にしません」
「目を見て、言って」
俺は見上げてミユ姉ちゃんの目を見つめて言う。
「本当にしません!」
「本当に?」
「本当に!」
ミユ姉ちゃんの目がすぅっと細まる、そして俺の喉を指先でゆっくりと撫でてきた、これをやる時は大体お許しが出る時だ、俺は生き延びる事ができたようだ。
「………………」
「………………」
後はミユ姉ちゃんの気がすむまで撫でられるだけだ。
「………………目をそらさないで」
「………………あいあい」
「………………」
「………………」
しっかし、不思議だなぁ、こうやって目を合わせながら巻かれてると安心するんだよなぁ、なんでだろ。
「………………」
「………………」
最初は窮屈で正直嫌だったんだけどなぁ、今は落ち着くけど。
「………………」
「………………」
姉ちゃんが俺の喉を撫でて二時間がたった、新記録だ、長い、長すぎる、いつもなら30分くらいで終わるのに終わらねぇ、新手のお仕置きか?
「………………」
「………………」
相変わらず目を細めて喉を撫でるミユ姉ちゃん、良くもまぁ飽きないもんだ。
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
まずい眠たくなってきた、耐えろ耐えるんだ、今、目を閉じたら、何されるかわかんねぇ。
「………………」
「………………」
必死にミユ姉ちゃんの目を見て眠気をこらえる、頭の中にその目を刷り込むように必死に見つめる、だけど悲しいかな、こうかがないよーだ。
「………………」
「………………」
まず、い、まぶたが、落ち、る。
「………………」
「……ん」
かくんと、頭が前に落ちる寸前に、ミユ姉ちゃんの手が俺のほほとあごに添えられる。
温かくて柔らかい感触を感じて、まぶたが落ちかけてうっすらと見えるミユ姉ちゃんの目を見ながら、俺は目を閉じた。
「…………んっ…………」
目を閉じてすぐに、唇に柔らかな物が当たったのは、気のせいかね。
「…………寝ちゃった」
私は唇を離して、私に巻かれて寝ているコウちゃんの頭をそっと、撫でる。
「はぁ、恥ずかしい物見られちゃったなぁ」
悲しいことがあった、これから始ま
るページはあのページしかない。
悪夢を忘れないように飛び起きてすぐに書き殴ったあのページ。
夢で見ただけで体が震えて頭がフラフラしたんだ、本当に起きちゃったらどうなるか私にも分からないし分かりたくもない。
とにかくコウちゃんは絶対に渡さない、誰にも、絶対に、渡さない。
「さて、と」
だからちゃんと名前を書いておくんだ、私の名前をコウちゃんの体に、誰がどう見ても分かるように。
そしてちょっとだけコウちゃんを縛るんだ、私の側が一番良いと感じるように。
「私だけに染まって? コウちゃん?」
「他の娘が入り込めないくらいに、ね?」
いつものように、唇を合わせて舌を入れた、そしてピチャピチャと僅かに音を唇から漏らしながら、より深く舌と舌を絡ませて、そこから、ゆったりと自分の魔力をコウちゃんの体に流し入れた。
15/10/12 23:28更新 / ミノスキー
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