連載小説
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田中さんとサトウ
 「眠い」

 夏の涼しい昼下がり、開いた窓から見える広い空にのんびり流れる雲を寝転がりながら眺めていると、我が家のブチ猫、田中さんが隣に座ってそう言った。

 「胸、かしてー」

 脇腹に柔らかい感触、田中さんの手だろう。

 「はいはい」

 田中さんの脇に手を通して持ち上げて胸の谷間に置くと少しの間モゾモゾと体を動かして止まった。
 目を閉じて、ゴロゴロと喉を微かに鳴らす、ゆったりと田中さんのお腹がふくらんでしぼむ、田中さんのにつられて自分も目を閉じてゆっくりと息を吐く。
 穏やかな風が窓から流れて、どこかで風鈴が鳴る音が聞こえた、セミが遠くで鳴いていて、子供の声が近くで聞こえる。
 非日常だったモノを胸に乗せて、夏の日常を耳で感じる。

「田中さん……?」

「……なにー? サトウ?」

「夏ですね」

「……そう、だなー」 

「あなたが家に来たときも夏でしたっけ?」

「……さぁ、なー」

「あなたの呪いはいつ解けるのでしょうかね?」

「……さぁ……なぁ……」

 田中さんは夢の世界へ旅立ったようです、さて私も後を追いますか。






 カラスの鳴き声が聞こえて、息苦しくて目が覚めた、長い髪がアタシの顔にかかっている、うっとうしいなぁ、匂いはいいけど。

 しっかしまぁ寝苦しいと思ったら、赤ん坊抱くみてぇにサトウが私を抱き枕にしてやがる、こいつの胸で寝るといつもこうだ、どうにかならんもんかね。
 体をこれでもかと捻って、谷間から脱出しようとしたけど駄目だった、どこに手をかけてもふにふにしてて力が入らない。

「駄目ですよぉ……田中さん……そこ……は駄目ですよぉ」

 こいつは夢の中のアタシとナニやってんだろなぁ?

「カワイイ……菊門ですね……」

「本当にナニやってんだっ!」

 お尻が少しそわっとした、こいつにお尻を向けないように気を付けよう。
 
「んぅ……ふぅ……田中……さん?」

「サートーウー離してくれー」

「ん……すいません……」

 アタシを解放してサトウはまた目をつぶった、二度寝するみたいだけどさせないよ。

「はーらーへっーたー」

「…………」

 反応なし、のんきに寝てやがる。

「おーきーろー」

 額に両手をおいて軽く頭を揺すってみる。

「………………」
 
 起きねぇ、どうしよ。

「田中さん」

「っ…………サトウーはらへったぞー」

 起きてたのかよ、ちょっと驚いたけどまぁいい、さぁアタシにご飯を……。

「んん……ふぅ、少し待って下さいねー」

 ごっはん! ごっはん! ごっはん!
15/06/16 09:00更新 / ミノスキー
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