連載小説
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田中さんと猛暑
「うあー……」

「にぃ……」

 太陽が頑張り過ぎてる今日この頃、暑さのせいでやる気が起きず田中さんと共に大の字に転がります、窓を全開にしているのに風を感じません、クーラー? 扇風機? 贅沢は敵です、この暑さこそ私の本能を活性化させ、より高度なサトウへと変容するきっかけとなる……いけない、頭が溶けてきました……あーもう、北風仕事しろ、太陽休め。
 
「サートーウー」

「なんですかー田中さーん?」

「ドッグフードのさぁ、生肉タイプを食べてみたい」

 どうやら田中さんの頭もとろけているようです。

「そんなものありませんよー……第一あなたは猫ですよー……」

「そうだったなー」

「そうですよー」

「……………」

「……………」

 沈黙した部屋の中が、セミの鳴き声で満たされます、窓を閉めたくなる衝動が沸き上がりますが、熱で蒸発する水滴のように一瞬で消え失せます、
 セミを黙らせる方法を……早く発見して、誰か偉い人、近くでこの音を聞くと体温が上がってきます、せめてこのデススピーカーを遠くへ行かせて下さい……。
 口を開けるのもめんどくさくなってきました。

「…………あーつーいー」

「田中さーん、夕方までの辛抱ですよ」

 横目で時計をちらり、ただいまの時刻は1時ちょうど、憎き太陽が沈むまであと7時間、それまで私たちはただひたすら畳の上に転がるしかありません、鳥に、ハーピーになって青空を飛びたい。

 そんな事を思いながら窓の向こうに広がる空を見つめていると、近くをハーピーがよろよろと飛んでいました、顔をグシャグシャにして汗をダラダラたらして飛んでいます、あのハーピーの下にいたらちょっとした小雨に見舞われるでしょう。

「むーかーしーギリシャーのーイカロスはー………………はぁ」

 空を飛べてもこの暑さから逃げられないようです、見知らぬハーピーさん、頑張れー。

「そういやさー……近くに図書館できたってさー」

「へー、そうですかー」

「歩いて五分くらいのとこにさー」

「そうですかー」

 図書館ですか、いいですねー、館内でのんびりと読書して、ひんやりしたソファーに座って寝たりしたいですねー、クーラー効いてるからとても気持ち良いですねー…………ん? クーラー? クーラー、クーラー。

「クーラー!!!」

「ふにゃ!」

 半分溶けた脳内に閃光がほとばしって、勢いよく身を起こして叫んでしまいました。

「ど、どした?」

 困惑してる田中さんに向かって私は原始人のように言います。

「クーラー!」

「そ、それがなに?」

「図書館! クーラー!」

「…………ああっ!」

「図書館! クーラー! 」

「図書館! クーラー! 」

「行きますか、図書館へ!」

「行くぞ! 図書館へ!」

 いざ! 楽園へ!








 とある新しい図書館の前にバフォメットが一人、休館日と書かれた看板を前にして落ち込んでいたそうな。
 その後、一人と一匹が風のように現れて、この世の終わりのような表情を浮かべて亀のようにのろのろと帰ったそうな。
15/06/18 12:33更新 / ミノスキー
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■作者メッセージ
暑い……溶ける……溶ける

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