SS『始動、ダブルサモナー』
「……はい? 戦国?侍?」
「左様、これでも戦場では武神と呼ばれ怖れられた者であります」
私こと、天夜かぐやがこのふざけた世界で幸運にも巡り会った同郷の人は、残念なことに頭のイタイ人でした。
えと、突っ込んだ方がいいのかな……… いや、経験上この手の妄言は聞き流すに限る。
下手に突っ込むと聞いてもいないことを熱く語りだすかもしれないし……… よし、スルーしよう。
「さて、私は名乗りましたよ。 貴方のお名前を教えてはいただけませぬか?」
「え?ああ、私の名前ね。 天夜かぐや、見ての通りの女子高生よ」
促がされ私も彼女に名乗りを返す。
……頭の方はとりあえず置いておいて、一応話は通じる人のようね。
「えと……桜井さん、聞きたいことがあるんだけど………いいかしら?」
「ええ、構いませんよ。 それと……私の名前はアリーチェと、ここではそう呼んで貰いたい」
名前に関して、なにやらこだわりがあるらしい。
戦国の侍なのに名前が『アリーチェ』って………
いったいどーゆー設定なんだろうか? ……いや、気にしても仕方がないか。
「では天夜殿、立ち話もなんですし場所を変えるとしましょうか」
「ん、了解。 ああ、私のことはかぐやでいいよ、天夜殿なんて私のキャラじゃないし」
「そうですか。 では、かぐや殿とお呼びしましょう」
「いや、だからさ、その『殿』って言うのが………
はぁ…… まぁいいわよ、好きに呼んでちょーだい」
はぁ…… めんどくさい人だな………
どうせなら、もっとまともな人に会いたかった。
さて、私は自称:侍に連れられて町の酒場へとやってきました。
因みに、お金のない冒険者用に安宿も兼業しているそうだ。 冒険者ねぇ……
聞くところによると、この店はアリーチェさんの職場兼住居とのことで、表向きは調理師として身を置いているらしい。
『表向きは』って、なんか裏設定があるっぽいな。 ……いや、スルーするけどね。
「ンフフ、実は用心棒もやっているのですよ」
……だから聞いてないってば。
「……とりあえず、人目はできるだけ避けたいんだけど」
「そうですな、そのほうがいいでしょう。 ……では、こちらへ」
私は店の奥へと案内され、とある一室へと招かれた。
……どうやら従業員用の休憩所の様だ。
「さて、ここなら宜しいかな。 ……それで、聞きたいこととは?」
「そうね、いろいろあるんだけど………」
正直、いろいろあり過ぎてなにから聞けばいのかわからない。
ええと…… そうね、まずは………
「えと、あなたも召喚された人間……だよね?」
「そうですな。 こちらの住人からすれば、貴方と同じく異郷からの来訪者になります」
やっぱり! いや、その情報が何に役立つかと聞かれたら、まぁ役に立たないんだけど………
それでも、自分と同じ日本人がいるって言うのはなんか安心感がある。
これでイタイ人じゃなきゃもっとよかったんだけど。 ……あ、そうだ。
「ねぇ、私達の他にも召喚された人っている?」
「召喚された人ですか? ええ、いますよ」
ヤッター! やっぱいるんだ、私だけじゃないんだ!
他にもいるって聞いただけでなんだろう? すごく安心する。
異世界も皆で渡れば怖くない。 ……なんかそんな感じ。
さて、今度こそまともな人だったらいいな。
「じゃあさ、その人にあわせてくれない?」
「いえ、ここにはおりませぬが」
「………………ああ、そう。 そうですか」
期待させておいて、それはあんまりだ。
「一応、この店にもう一人いたのですが…… 先日、魔物に浚われてしまいましてな」
「魔物って…… やっぱ外って危険なの?」
「いえ、外が危険なのは確かにそうですが…… 浚われたのは店の中での出来事でして」
……はい? え?どーゆーこと? 魔物って店の中に出るものなの?
いや、確かに私も初エンカウントは町中だったけどさ………
うーん…… まぁ、ゲームじゃないんだしそーゆーこともあるか。
その後も、私はアリーチェさんから聞けるだけ『この世界』の情報を聞き出した。
この国のこと、他国のこと、教団のこと、冒険者のことを。
そして、中でも興味を引いたのが―――――
「魔物"娘"ねぇ…… なんてゆーか、吃驚だわ」
―――この世界で言う魔物……魔物娘のことだった。
なんてゆーか、このことだけが私の常識とあまりにもかけ離れ離れていた。
まさか人間と魔物が共に暮らす国があるとは……
「……それで、かぐや殿はこれからどうするつもりなのですかな?」
「これからって言われてもねぇ……」
行くあても帰る為の手がかりも無い。
何からすればいいのやら………
「ん〜、とりあえずこの町から逃げたいかな。
たぶんだけどさ…… 私、近いうちにお尋ね者になると思うのよ」
だって王様、ぶっ飛ばしちゃったし。
「ふむ、それでしたらここより東にある国、『ワルツアンデル』へと向かうのがよろしいかと。
あちらは親魔物国ですから、反魔物国であるこの国から身を隠すには最適でしょう。
ただ……」
「ただ、なによ? なにか問題でもあるの?」
「いえ、国境に関所がありましてな、国境を越える際には身元を証明できる物が必要でして……」
「あぁ、そーゆーことか」
当然だけど、私はこっちで使える身分証明書なんて持ってない。
かといって逃亡者が役所で国外逃亡の為の手続きなんかできるわけがないし………
……あれ? もしかして私、詰んだ?
「ど、どうしよう? な、何か方法はないのかな………」
「まぁまぁ、そう慌てずに落ち着いてくださいな。 一応、手がない訳ではないので」
「ほ、本当ですか!!!」
「ええ……では、少々お待ち下さいな」
アリーチェさんはそう言うと立ち上がり、この部屋を出ていく。
そして数分後……
アリーチェさんは一枚の地図を持ってこの部屋へと戻ってくると、テーブルの上にそれを広げた。
どうやら、この国と周辺の国の地形を描いた物のようだ。
「よろしいかな、現在私達がいるロンドグリム城とその城下町の位置がここだ」
アリーチェさんは地図上に描かれた記号(おそらく、城を示すもの)を指差した。
「ここから東の街道を真っ直ぐ進むと、『ワルツアンデル』の国境へと行き当たる。
………しかし、問題はここだ」
城から東へと延びる街道の上を走る指が、途中にある記号の上で止まる。
「ここに関所があるのだが、先程も言ったように身元を証明できるものが必要になる。
しかし、貴方はそれを持っていない。
そうなると関所を避けることになる。 ……つまりだ」
関所の上で静止していた指が南東へと滑り―――――
「この山を越えて国境を渡ればよろしい」
―――描かれた山を指差した。
「……………山越えですか?」
「ええ、山越えですな」
「てゆーかさ、山って越えられるの?」
「は? 何を言ってるんです、貴方は?」
「あ〜、ごめん聞かなかったことにして」
RPGだと山は迂回するもの………ってのが定番なんだけどね。
「それではかぐや殿。
マスターに頼んで一部屋空けておいて貰いますので、今日はひとまず休むとよろしい。」
「うん、そうする。 ……………ねぇ、アリーチェさん」
「はい? なんでしょう?」
「その……… いろいろとしてくれて、ありがとね」
「ンフフフ。 いえ、構いませんよこのくらい」
アリーチェさんか……… 変人だけど親切な人だなぁ。
とりあえず今日はもう休もうかな、いろいろとありすぎてなんかすごく疲れたし。
それにしても山越えか……… なんか、すごく疲れそうだなぁ。
そして翌日………
「さて、かぐや殿。 準備のほうはよろしいかな?」
出発の日の朝、私の隣にはアリーチェさんが並んでいた。
「え? アリーチェさんも一緒に行くの? え、なんで?」
「かぐや殿はこちらでの旅に不慣れでしょう。
ならば、その旅路に用心棒が一人くらいいてもよいではないですか」
「確かにそうだけど…… 私、人を雇えるほどお金持ってないよ?」
手持ちのお金は昨日浮浪者から巻き上げた分しかない。
とてもじゃないが人を長期間雇えるような余裕はない。
「いえ、雇い主はかぐや殿ではなくマスターなのですよ。
無事に隣国まで送り届けるようにと依頼されましてな。
それとコレをどうぞ、マスターからの餞別とのことです」
「餞別? 中身はなに?」
「衣服を数着と携帯食を幾つか、あとはナイフが一本入っております」
手渡された袋の中身を見ると、そこには確かに言われたとおりのものが入っていた。
「ありがたいけどさ、なんでここのマスターはこんなにも親切なの?
昨日だってなにも聞かずに泊めてくれたしさ」
「なに、あの人は人助けが好きなのですよ。 まぁ、それでもしいて理由を上げるとしたら……」
「したら?」
「マスターはこの国の王が嫌いなのです」
ああ、そうなんだ。
あの王様が嫌われてるってのはすごく納得できる。
「さて、かぐや殿。 それでは隣国へと行くとしましょうか」
「そうね、アリーチェさん。 それじゃあこれからよろしくね」
「左様、これでも戦場では武神と呼ばれ怖れられた者であります」
私こと、天夜かぐやがこのふざけた世界で幸運にも巡り会った同郷の人は、残念なことに頭のイタイ人でした。
えと、突っ込んだ方がいいのかな……… いや、経験上この手の妄言は聞き流すに限る。
下手に突っ込むと聞いてもいないことを熱く語りだすかもしれないし……… よし、スルーしよう。
「さて、私は名乗りましたよ。 貴方のお名前を教えてはいただけませぬか?」
「え?ああ、私の名前ね。 天夜かぐや、見ての通りの女子高生よ」
促がされ私も彼女に名乗りを返す。
……頭の方はとりあえず置いておいて、一応話は通じる人のようね。
「えと……桜井さん、聞きたいことがあるんだけど………いいかしら?」
「ええ、構いませんよ。 それと……私の名前はアリーチェと、ここではそう呼んで貰いたい」
名前に関して、なにやらこだわりがあるらしい。
戦国の侍なのに名前が『アリーチェ』って………
いったいどーゆー設定なんだろうか? ……いや、気にしても仕方がないか。
「では天夜殿、立ち話もなんですし場所を変えるとしましょうか」
「ん、了解。 ああ、私のことはかぐやでいいよ、天夜殿なんて私のキャラじゃないし」
「そうですか。 では、かぐや殿とお呼びしましょう」
「いや、だからさ、その『殿』って言うのが………
はぁ…… まぁいいわよ、好きに呼んでちょーだい」
はぁ…… めんどくさい人だな………
どうせなら、もっとまともな人に会いたかった。
さて、私は自称:侍に連れられて町の酒場へとやってきました。
因みに、お金のない冒険者用に安宿も兼業しているそうだ。 冒険者ねぇ……
聞くところによると、この店はアリーチェさんの職場兼住居とのことで、表向きは調理師として身を置いているらしい。
『表向きは』って、なんか裏設定があるっぽいな。 ……いや、スルーするけどね。
「ンフフ、実は用心棒もやっているのですよ」
……だから聞いてないってば。
「……とりあえず、人目はできるだけ避けたいんだけど」
「そうですな、そのほうがいいでしょう。 ……では、こちらへ」
私は店の奥へと案内され、とある一室へと招かれた。
……どうやら従業員用の休憩所の様だ。
「さて、ここなら宜しいかな。 ……それで、聞きたいこととは?」
「そうね、いろいろあるんだけど………」
正直、いろいろあり過ぎてなにから聞けばいのかわからない。
ええと…… そうね、まずは………
「えと、あなたも召喚された人間……だよね?」
「そうですな。 こちらの住人からすれば、貴方と同じく異郷からの来訪者になります」
やっぱり! いや、その情報が何に役立つかと聞かれたら、まぁ役に立たないんだけど………
それでも、自分と同じ日本人がいるって言うのはなんか安心感がある。
これでイタイ人じゃなきゃもっとよかったんだけど。 ……あ、そうだ。
「ねぇ、私達の他にも召喚された人っている?」
「召喚された人ですか? ええ、いますよ」
ヤッター! やっぱいるんだ、私だけじゃないんだ!
他にもいるって聞いただけでなんだろう? すごく安心する。
異世界も皆で渡れば怖くない。 ……なんかそんな感じ。
さて、今度こそまともな人だったらいいな。
「じゃあさ、その人にあわせてくれない?」
「いえ、ここにはおりませぬが」
「………………ああ、そう。 そうですか」
期待させておいて、それはあんまりだ。
「一応、この店にもう一人いたのですが…… 先日、魔物に浚われてしまいましてな」
「魔物って…… やっぱ外って危険なの?」
「いえ、外が危険なのは確かにそうですが…… 浚われたのは店の中での出来事でして」
……はい? え?どーゆーこと? 魔物って店の中に出るものなの?
いや、確かに私も初エンカウントは町中だったけどさ………
うーん…… まぁ、ゲームじゃないんだしそーゆーこともあるか。
その後も、私はアリーチェさんから聞けるだけ『この世界』の情報を聞き出した。
この国のこと、他国のこと、教団のこと、冒険者のことを。
そして、中でも興味を引いたのが―――――
「魔物"娘"ねぇ…… なんてゆーか、吃驚だわ」
―――この世界で言う魔物……魔物娘のことだった。
なんてゆーか、このことだけが私の常識とあまりにもかけ離れ離れていた。
まさか人間と魔物が共に暮らす国があるとは……
「……それで、かぐや殿はこれからどうするつもりなのですかな?」
「これからって言われてもねぇ……」
行くあても帰る為の手がかりも無い。
何からすればいいのやら………
「ん〜、とりあえずこの町から逃げたいかな。
たぶんだけどさ…… 私、近いうちにお尋ね者になると思うのよ」
だって王様、ぶっ飛ばしちゃったし。
「ふむ、それでしたらここより東にある国、『ワルツアンデル』へと向かうのがよろしいかと。
あちらは親魔物国ですから、反魔物国であるこの国から身を隠すには最適でしょう。
ただ……」
「ただ、なによ? なにか問題でもあるの?」
「いえ、国境に関所がありましてな、国境を越える際には身元を証明できる物が必要でして……」
「あぁ、そーゆーことか」
当然だけど、私はこっちで使える身分証明書なんて持ってない。
かといって逃亡者が役所で国外逃亡の為の手続きなんかできるわけがないし………
……あれ? もしかして私、詰んだ?
「ど、どうしよう? な、何か方法はないのかな………」
「まぁまぁ、そう慌てずに落ち着いてくださいな。 一応、手がない訳ではないので」
「ほ、本当ですか!!!」
「ええ……では、少々お待ち下さいな」
アリーチェさんはそう言うと立ち上がり、この部屋を出ていく。
そして数分後……
アリーチェさんは一枚の地図を持ってこの部屋へと戻ってくると、テーブルの上にそれを広げた。
どうやら、この国と周辺の国の地形を描いた物のようだ。
「よろしいかな、現在私達がいるロンドグリム城とその城下町の位置がここだ」
アリーチェさんは地図上に描かれた記号(おそらく、城を示すもの)を指差した。
「ここから東の街道を真っ直ぐ進むと、『ワルツアンデル』の国境へと行き当たる。
………しかし、問題はここだ」
城から東へと延びる街道の上を走る指が、途中にある記号の上で止まる。
「ここに関所があるのだが、先程も言ったように身元を証明できるものが必要になる。
しかし、貴方はそれを持っていない。
そうなると関所を避けることになる。 ……つまりだ」
関所の上で静止していた指が南東へと滑り―――――
「この山を越えて国境を渡ればよろしい」
―――描かれた山を指差した。
「……………山越えですか?」
「ええ、山越えですな」
「てゆーかさ、山って越えられるの?」
「は? 何を言ってるんです、貴方は?」
「あ〜、ごめん聞かなかったことにして」
RPGだと山は迂回するもの………ってのが定番なんだけどね。
「それではかぐや殿。
マスターに頼んで一部屋空けておいて貰いますので、今日はひとまず休むとよろしい。」
「うん、そうする。 ……………ねぇ、アリーチェさん」
「はい? なんでしょう?」
「その……… いろいろとしてくれて、ありがとね」
「ンフフフ。 いえ、構いませんよこのくらい」
アリーチェさんか……… 変人だけど親切な人だなぁ。
とりあえず今日はもう休もうかな、いろいろとありすぎてなんかすごく疲れたし。
それにしても山越えか……… なんか、すごく疲れそうだなぁ。
そして翌日………
「さて、かぐや殿。 準備のほうはよろしいかな?」
出発の日の朝、私の隣にはアリーチェさんが並んでいた。
「え? アリーチェさんも一緒に行くの? え、なんで?」
「かぐや殿はこちらでの旅に不慣れでしょう。
ならば、その旅路に用心棒が一人くらいいてもよいではないですか」
「確かにそうだけど…… 私、人を雇えるほどお金持ってないよ?」
手持ちのお金は昨日浮浪者から巻き上げた分しかない。
とてもじゃないが人を長期間雇えるような余裕はない。
「いえ、雇い主はかぐや殿ではなくマスターなのですよ。
無事に隣国まで送り届けるようにと依頼されましてな。
それとコレをどうぞ、マスターからの餞別とのことです」
「餞別? 中身はなに?」
「衣服を数着と携帯食を幾つか、あとはナイフが一本入っております」
手渡された袋の中身を見ると、そこには確かに言われたとおりのものが入っていた。
「ありがたいけどさ、なんでここのマスターはこんなにも親切なの?
昨日だってなにも聞かずに泊めてくれたしさ」
「なに、あの人は人助けが好きなのですよ。 まぁ、それでもしいて理由を上げるとしたら……」
「したら?」
「マスターはこの国の王が嫌いなのです」
ああ、そうなんだ。
あの王様が嫌われてるってのはすごく納得できる。
「さて、かぐや殿。 それでは隣国へと行くとしましょうか」
「そうね、アリーチェさん。 それじゃあこれからよろしくね」
10/12/27 19:31更新 / 植木鉢
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