悦楽よ、我が魂を震わせたまえ
ダークスライムが失神から目覚めると、そこは見知らぬ空間だった。
「……どれくらい寝てたんだろ」
全身を蝕む倦怠感と疲労感が、彼女の体内時計を著しく狂わせていた。
魔力が枯渇しているせいか、ただ身動ぎするのも覚束ない。かろうじて粘液質の体を少女の形に留める程度には残っているようだが、しかしそれだけの事だった。魔法を使ったり、積極的に動き回ったりするにはまるで足りない。
今はただ、仰向けに寝転がってぼんやりと天井を眺めているだけである。
「……なんだろう、あれ」
視線だけを動かして、自らの置かれている環境を確認する。
天井から前後左右に至るまでを、透明なガラスで囲われていた。その向こう側には白で統一された壁と、使い道の解らない様々な実験機材が所狭しと並べられている。医者の診療室か、はたまた科学者の研究室か……どちらにせよ無機質な光景である。どうやら彼女が居るのは室内に設けられたガラス張りの小部屋であるらしい。
まるで動物園の見世物にでもなったような気分だった。
距離に換算すれば10メートル四方といったところだろうか。部屋の内部には自分の他に誰も居ない。そのせいか、やたらに広々とした印象をダークスライムは感じていた。同居人はおろか椅子やテーブルといった調度品さえもが取り払われ、何処までも薄ら寒い虚無感に満たされている。出口が見当たらないのもまた不気味だった。
「お目覚めのようですね」
不意に投げ掛けられた声に、一瞬だけ少女の体が硬直する。
じろりと半眼を向けると、いつの間にかガラスの向こう側に見知った人影が立っていた。
「ご気分はいかがですか?」
「最高だよ。趣味の悪いスーツ着た眼鏡のお兄さんをヒぃヒぃ言わせる夢が見られたから」
「それは良かったですねぇ」
皮肉をたっぷりとブレンドした返答に、しかし純白のスーツで身を固めた男性……コンラッドは余裕たっぷりに相槌を打った。彼我の置かれた現状を鑑みれば当然の反応だろう。
「ねぇ、ここは何処? 新手のラブホテルにしては雰囲気ないけど」
「私の住まいです。正確にはその地下に設えた研究施設のひとつですね」
「ふぅん。まあ何でも良いけど。さっさと出してくれない?」
「お客様をお迎えしておいて、歓待もせずに帰すような無作法は出来ませんよ」
「堅苦しいなぁ。私とお兄さんの仲じゃない、そんな畏まらなくて良いのに」
圧倒的に不利な立場と彼の気取った物言いに、ダークスライムは心中で渋面を浮かべる。
出会いこそ好意的だった――互いに目的は異なっていたが――両者の関係は、今ではその形骸が会話の上辺に浮かぶのみとなっていた。捕食する側とされる側は完全に逆転し、ガラスで造られた奇妙な檻が明確に2人の立場を具現化している。
緩慢に身を起こしたダークスライムに出来たのは、驕慢な空気を纏うインキュバスの魔術師を、真っ向から睨み付ける事だけだった。
「で。こんなガラス部屋に女の子を閉じ込めて、お兄さんは私をどうしたいの?」
「魔術師が興味深い素材を手に入れてする事と言えば、決まっているでしょう?」
「……成る程ね。私の体を隅々まで弄り回したいってわけか」
「色々と誤解を招きやすい物言いではありますが、まぁそうです」
好色な魔物娘らしい解釈に、思わずコンラッドは苦笑した。
ただ単に魔法を扱う者を魔術師とは呼ばない。彼らの本分とはあくまでも真理の探究であり、魔法とはそれを成し得る為の手段あるいは副産物でしかないのだ。『魔物狩り』と呼ばれ、自身の存在を人ならざる者――インキュバスへと変質させるまでに対魔物戦闘へ特化したコンラッドであっても、内包する未知への興味は不変だった。
「私は魔術師協会からの要請を受けて、効率的な魔物の無力化について研究しています」
「は? なにそれ、どういう事?」
「どういう事だと思います?」
「質問に質問を被せるのはマナー違反なんじゃない?」
「おっと。これは失礼」
気障ったらしい仕草でコンラッドが謝罪する。いちいち繰り出される貴族のような挙動に辟易しながらも、ダークスライムは続きを促した。
「では話を戻しましょう。現在、魔物は積極的に人間と関係を持ち、人間社会というシステムに組み入ろうとしています。目的は種の存続、あるいは糧として『精』を得る為にです」
朗々と語り始めたコンラッドの弁に、ダークスライムは無言で頷いた。魔物である彼女にしてみれば常識以前の話だ、わざわざ説明される程の事ではない。
魔物の殆どは、今や人間との関わりなくしては次世代に命を繋ぐ事が出来なくなっている。現魔王であるサキュバスの放つ魔力が、遺伝子レベルから魔物の生態を造り変えてしまったからだ。何故そうしたのかは、誰もが首を傾げざるを得なかったが。
「魔物の多くは人間に対して友好的で、そのうえ好色です。『性欲』という根元の欲望を刺激してくる為に人間の男性からすれば非常に都合が良く、最近は異種族で婚姻を結ぼうとする者が少なくありません。こればかりは、流石に看過できない大問題です」
「……?」
黙って聞いていたダークスライムが、ここで初めて眉を潜めた。コンラッドの言葉は概ね理解できるのだが、魔物と人間が家庭を持つ事の何が問題なのかが解らない。
虚空を眺めながら、コンラッドは語り続けた。
「魔物と人間。異なるふたつの種族が交わった所で、生まれるのは必ず魔物です。ハーフという可能性はその一切が排除されています。今は未だ良いでしょう、魔物を伴侶とする人間などはマイノリティの極致ですから。しかし、やがてその数が増えればどうでしょうか?」
「魔物ばかりが生まれる事で、人間の人口が減る……?」
「その通り。よく出来ました」
教師のような口調でコンラッドは肯定した。
「それだけではありません。人間の総数が減少する事により、今度は魔物も減少していきます。なにしろ伴侶となるべき次世代の男性が居ないのですからね。今は未だ近隣各国や『教団』が相互に協力し合い、迂遠な滅びを避けるべく様々に活動していますが……どれだけ情報統制を行ったところで限界があります」
兼ねてより有識者――人間と魔物の区別なく――によって囁かれていた問題であった。
ある者はこれを、魔王による『世界を巻き込んだ自殺』であると嘆いた。
ある者はこれを、原因たる魔王にすら予測不可能だった『事故』ではないかと主張した。
いずれも根拠に乏しい推論でしかなく、未だに万人が納得する統一見解には至っていない。連合国が主催する国際会議において新たな学説が気泡の如くに発表されては検証不足というレッテルを張られては消えていく。解っているのは、原因が魔王にあるという一点だけだ。その真意を推し量ろうという作業は、まさしく手詰まりの状態だった。
今や学者達の間では『無意味な探求』を指して『魔王の計画』と呼んでいる程である。
「予防はあくまでも予防でしかなく、いつまでも後手に回らざるを得ません。人類は種の存続の為に先手を取る必要があるのです。かつて新たに王座へ腰掛けた魔王がそうしたように、魔物の存在を人間にとって都合の良い存在に改変する事でね」
「…………」
コンラッドの言葉に、ダークスライムは目を見開いた。
しかし、それは決して驚愕が引鉄になったからではない。
単純に、呆れたからだ。
「お兄さんさ……自分がどれだけ無茶な事を言ってるか、解ってる?」
彼の語った計画は、まさしく机上の空論でしかなかった。
世界全体まで波及し、魔物の形状・思考・文化・食性……ありとあらゆる全てを変貌させるに至った現魔王の行為を模倣する。それを実現させる為には、それこそ現魔王に相応する魔力のキャパシティを有する事が前提となる。仮に魔法理論の構築は可能だったとしよう。しかし実際に発動させる為に、どれ程の魔力が消費されるのか……生まれながらにして高い魔力容量を与えられたダークスライムであっても計り知れない。
個人レベルは元より、国家レベルを以てしても、まず間違いなく不可能だろう。
魔術師たるコンラッドが、それに気付いていないとは考え辛かった。
「ふふ――もちろん普通に考えれば、貴女の仰る通り無茶なのでしょうねぇ」
コンラッドはしかし、にんまりと笑みを深めた。
「ですが。それを打破する光明を、貴女は既に体験している筈ですよ?」
「………………もしかして、インキュバス化!?」
「ご名答」
もはやダークスライムには返す言葉が見付からない。
つまりこの男は、世界の改変に必要な魔力を自らインキュバス化する事で、問題の魔物から奪い取ってしまおうというのだろう。
確かに魔物はすべからく体内に魔力を持っている。それらを根こそぎ横取りして蓄積すれば一時的ではあるが強大な魔力を貯め込むことは可能かもしれない。途方も無い時間と労力が必要だろうが、その問題もインキュバス化が解決してくれる。魔物の要素が加わった人間は、等しく長寿を得る事が出来るからだ。
「ただまぁ、この技術も完成形とは言い難いものでして」
実用化されれば個人が国家に喧嘩を売る事も不可能ではなくなるであろう壮大な計画を、しかしコンラッドはあっさりと未完成と断じた。
「人間が恒常的に有する魔力と魔物のそれとは、本質としては同じものですが方向性は大きく異なります。例えるならプラスとマイナスの関係でしょうか。より効率的に、より短い期間で魔力を高める為にはマイナスの魔力を魔物から奪うだけでなく、人間の男性が自己生産するプラスの魔力をマイナスに変換する必要があるのです。ベクトルの異なる魔力は同時に消費する事が出来ませんからね」
言いながらコンラッドはダークスライムから視線を外すと、手近なデスクにあった魔法装置を操作し始めた。
「その問題を解決する為に、貴女は捕獲された――という訳です」
ほっそりとした指先が文字盤を叩くたびに、魔道強化されたガラスの壁面が微細に振動する。何が始まるのか解らない恐怖にダークスライムは身を竦めた。
「……拷問でもする積もり? そんなことしたって無駄、あたしはお兄さんの欲しがる技術なんて知らないよ。魔女かサキュバスでも捕まえて閉じ込めた方が良いんじゃない?」
「問題ありませんよ。例え貴女が知らなくても、貴女の体が知っている筈です」
「体が……?」
異変が訪れたのは、ダークスライムが呟いたのとほぼ同時だった。
ガラスの壁に、無数の魔法陣が浮かび上がる。赤、青、黄色……彩りも豊かなそれらは激しく明滅を繰り返すと、突如ぐにゃりとその形を変えた。
「…………ひっ!?」
「そう怯えないでください。何も殺して解剖しよう等とは思っていませんから」
魔法陣から生み出されたのは、数え切れない程の触手だった。
各国の調査員が編纂した魔物図鑑を紐解けば、それはローパーと呼ばれる生命体によく似た形状をしていた。とはいっても、人間の女性に寄生して宿主を操るローパー本来の特徴は全て排除されており、無機質なガラスの壁と魔法陣が苗床となっている。材料となった素材の色調を引き継いだ無色透明な外観には生物としての躍動や呼吸といったものの一切が感じられず、むしろ精緻に造り込まれた工芸品といった印象を携えていた。
ダークスライムを取り囲むようにして四方の壁からうじゃうじゃと触手の生えたその光景は、まるで動物の腸壁に生きたまま放り込まれたような錯覚を彼女に与える。
「ご紹介します。ゴーレム技術を応用して製作した魔法生物で、私の助手です」
緊張感のないコンラッドの声が、歪曲した壁面の向こうから響いてくる。
「プラスの魔力をマイナスに変質する為に、貴女の肉体のどういった部分がどのような反応を起こすのか。どういう仕組みで無駄なくベクトルを転換させるのか。それをつぶさに観察する事で、私の研究は更なる躍進を遂げる事でしょう」
主人の言葉に感応しているのか、触手がじわじわとダークスライムに伸びていく。
「……じょ、冗談でしょ。ねぇ、お兄さん……?」
「触手にはたっぷりと、精液に『よく似た』成分が練り込んであります。魔力が枯渇した肉体は面白いくらいに騙されてくれるでしょう」
無意識のうちに後退するものの、すぐに立ち止まった。触手は背後にも迫っていたからだ。
「――ねぇ、ねぇったら! こんなの止めてよ、気持ち悪いよ!」
「全身を貫かれる快楽。輪姦にも似た魔性の遊戯を……どうか存分にお楽しみください」
触手の先端が、彼女の手足にゆっくりと巻き付いていく。
「お兄さんっ、聞いてよお兄さん! 止めてくれたらフェラでも鞭でも露出プレイでも好きなようにして良いからさぁ! 出して、ここから出して!!」
命を持たない人形から一方的にレイプされるという、恐怖。
人間を相手取った性行為で今まで完全な優位に立ち続けてきた魔物の娘にとって、それは完全に未知の代物だった。
「やだよ……やだ、来ないで! 私の中に入って来ないでよぉ!」
少女の拒絶など聞く耳を持たず、触手は淡々と少女の秘部へと突き進む。
そして。
「あっ……あっ……あひゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
全身に肉棒が突き込まれるというスライム種ゆえの快感に、少女は絶叫する他なかった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「大尉。西街区の下水道に出没したダークスライムの討伐、滞りなく完了しました」
「おう、ご苦労さん」
酒場『ロッドウェル』――自警団の拠点として機能する古びた飲食店に立ち寄ったクリミアは、カウンター席の隅で売り上げ計算をしていたドミニクにきびきびと報告した。
時刻は既に早朝である。東の空には太陽が登り始め、オルネスト市は今日もまたいつもと変わらぬ平穏な日常を迎えようとしていた。
「予想より早く片付いたな。これなら少しは眠れそうだ」
「あまり無理はしないでください。今夜も店は普段通りに営業するのでしょう?」
「当然よ。年中無休がうちの売りだからな」
四十代も半ばを過ぎようとしているこの大男だが、軍で培った体力はミノタウロスにも引けを取らない。夜通し自警団の動向を見守り続ける事など、彼にとって大した苦ではなかった。
「コンラッドに依頼して正解だったな。相変わらず腕の良い野郎だ」
「ええ、本当に……腕だけは、ですが」
含みを持った口調でクリミアは答える。手際そのものは認めるものの、かの魔術師に作戦を委ねた事そのものについては、あまり歓迎していないようだった。
「気にいらねぇか?」
「……はい」
嘘をついても仕方がないので、クリミアは正直に頷いた。
「ま、仕方ねぇわな。あの野郎の嫌味は今に始まった事じゃねえ。例え国王陛下の御前でも同じような態度を取るだろうよ。人格はどうあれ優秀な魔術師だ、そう毛嫌いしてやるな」
「…………」
ドミニクの取り成しにも、しかしクリミアは積極的に頷く事が出来なかった。
どんな手段を使ったのかは知らないが、ダークスライムを失神させてから地上へ戻ってきたコンラッドは、自警団をそれこそ従卒のように使い倒した。皮肉たっぷりに自警団を無能集団と罵りながら勝利を告げると、彼はクリミアに馬車を用意するように要求した。ダークスライムを自分の屋敷に運び込み、研究素材として扱うのだという。発信器を埋め込んでから人気のない山奥に離すか、転送魔法の得意な魔術師に依頼して魔界へ送り返すべきだと主張したのだが……それらはにべもなく却下されてしまった。
「何の研究をしているのかは知りませんが、あまりにも非人道的に思えます」
討伐の様子を語るクリミアは、未だ納得のいかない表情で床を睨み付けた。ドミニクは顎髭を揉みながら困ったような顔を浮かべて報告を聞いていたが、結局は彼女の意見に追従する事なく無言で嘆息するのみだった。確かにコンラッドの性格を考えれば、人心にもとるような行為を楽しげに行っていたとしても不思議ではなかったが。
しかし、だからといって彼らには今更どうしようもない。
そもそもコンラッドと契約を結ぶ際には必ず『討伐した魔物の身柄は一旦、研究素材として引き取り、データ採取の後に解放する事に同意すること』という条件を飲まなければならなかった。
「……魔術師の研究ってのがどんなものかは俺も解らねぇがな。今まで奴が捕縛した魔物は必ず傷ひとつない状態で解放されてた。今回もそうだと信じるより他あるめぇ」
「はい……」
そんな期待など慰めにすらならない事を両者は痛い程によく知っていた。軍人という生物はどこまでもプラグマティックな思考のみをその根幹に根付かせているからだ。確固たる情報とそれに基づいた判断しか彼らは重視しないし納得もしない。単なる希望的観測を後生大事に持ち歩いていたところで戦局は彼らの有利になど動いてくれないからだ。
店の外で、朝早くから仕事を始める郵便屋の駆け足が聞こえてくる。
2人はそれ以上なにを言うでもなく、緩慢な足取りで酒場を後にするのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あひいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃっ!!!」
ダークスライムへの容赦ない責めは、討伐から一夜が明けてからも延々と続いていた。
「あはぁぁぁっ、おっぱい触手でズコズコされるの気持ち良いぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
粘液質の肉体には、次から次へと触手が潜り込んでいた。人間や他の魔物と異なり明確な肉体の線引きがない彼女は、いわば全身が女性器のようなものだった。通常の性交では考えられないような部位を触手が暴れ回っても、それらの刺激は全て快楽として還元される。
「あやはぁぁぁぁぁっ! お尻っ、おしり入ってくるぅぅぅぅ! イクっ、イクぅぅぅぅぅ!!」
ガラス部屋の内部は、空間の殆どが触手によって占められていた。既に彼女の視界には、透明な触手の群れしか見えていない。その向こう側を覗こうとしても歪曲した模造品のペニスには意味を持った風景など望める訳もなく、更に別の触手がかろうじて伺えるのみだった。
「ああんっ! あうんっ! もっとぉぉ! もっと弄ってぇ! 私の体ほじくってぇぇ!」
触手は彼女の股といわず臀部といわず、ありとあらゆる部分で蠢いている。
「はひぃぃぃん!! もっともっとぉぉぉ! 腕も脚もおしりも耳も口もぉぉぉぉ! 全部っ、全部犯してよぉぉ! 体が疼いて止まらないのぉ! 気持ち良くなりたいのぉぉ!!」
彼女のリクエストに応えるように、新たな触手が爪先に捩じ込まれる。卵子に群がる精子を思わせる動きで身をくねらせながら、それは更に奥へ奥へと前進していった。
「あはぁ、また入って来たぁ! 良いよ、遠慮なんかしないでぇ! 私の体、どこでも良いから穴だらけにしてぇぇぇ! ひぎぃぃぃ! イクっイクっイクぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
触手で貫かれるたびに、ダークスライムは絶頂する。魔力に餓えた体は本能的に男の情欲を誘うべく乱れるのだが、当然ながら肝心の『精』は一向に送り込まれる事が無い。
「イクイクッ……イクゥゥゥぅ!! おまんこジュポジュポ抉られてイクぅぅぅぅぅ!!」
吐き出されるのは精液に似た、しかし『精』を含まぬまがい物ばかりだ。
「いいぃぃぃぃ、腕ファックも背中ファックも凄く気持ち良いぃぃぃぃ!」
既に理性の吹き飛んだ彼女にとって、それは些細な問題に堕しているのだろう。今はただ、与えられる快楽に身を任せ、白痴顔で触手に弄ばれる事のみに支配されていた。
「足りないのぉ、まだ足りないのぉぉ! ほらっほらっ! ここまだ空いてるぅぅ、空いてるからその太いペニスで抉り回してよぉぉ! 気持ち良くさせてよぉぉぉ!!」
抵抗したのは最初だけだった。喉が裂けんばかりに泣き叫び、迫り来る触手を払い除けて無機物との性交を拒否した彼女の姿はもう此処に無い。自ら触手を引き寄せ空いたスペースに誘っては張り型によがり狂う、一匹の愚かな雌がいるだけだった。
「気持ち良すぎるぅぅぅぅぅぅ! 気持ち良すぎてもうどうなっても良いいぃぃぃぃ! もっと乱暴に犯してっ、激しく突いてぇ! もっと欲しいの! もっとたくさん貫いて欲しいのぉ! 体中でイかせてよぉ! 滅茶苦茶にしてよぉ! イきたいからぁ! もうどうなっても良いからぁ! 壊れるまで犯して良いからぁ! ああまたイクッ、イクイクイクぅぅ!!」
どこまでも淫らに啼きながら、少女は延々と全身を痙攣させて絶頂する。
彼女の痴態をBGMに、コンラッドは触手から送り込まれる貴重なデータを、歓喜しながら眺めるのだった。
「……どれくらい寝てたんだろ」
全身を蝕む倦怠感と疲労感が、彼女の体内時計を著しく狂わせていた。
魔力が枯渇しているせいか、ただ身動ぎするのも覚束ない。かろうじて粘液質の体を少女の形に留める程度には残っているようだが、しかしそれだけの事だった。魔法を使ったり、積極的に動き回ったりするにはまるで足りない。
今はただ、仰向けに寝転がってぼんやりと天井を眺めているだけである。
「……なんだろう、あれ」
視線だけを動かして、自らの置かれている環境を確認する。
天井から前後左右に至るまでを、透明なガラスで囲われていた。その向こう側には白で統一された壁と、使い道の解らない様々な実験機材が所狭しと並べられている。医者の診療室か、はたまた科学者の研究室か……どちらにせよ無機質な光景である。どうやら彼女が居るのは室内に設けられたガラス張りの小部屋であるらしい。
まるで動物園の見世物にでもなったような気分だった。
距離に換算すれば10メートル四方といったところだろうか。部屋の内部には自分の他に誰も居ない。そのせいか、やたらに広々とした印象をダークスライムは感じていた。同居人はおろか椅子やテーブルといった調度品さえもが取り払われ、何処までも薄ら寒い虚無感に満たされている。出口が見当たらないのもまた不気味だった。
「お目覚めのようですね」
不意に投げ掛けられた声に、一瞬だけ少女の体が硬直する。
じろりと半眼を向けると、いつの間にかガラスの向こう側に見知った人影が立っていた。
「ご気分はいかがですか?」
「最高だよ。趣味の悪いスーツ着た眼鏡のお兄さんをヒぃヒぃ言わせる夢が見られたから」
「それは良かったですねぇ」
皮肉をたっぷりとブレンドした返答に、しかし純白のスーツで身を固めた男性……コンラッドは余裕たっぷりに相槌を打った。彼我の置かれた現状を鑑みれば当然の反応だろう。
「ねぇ、ここは何処? 新手のラブホテルにしては雰囲気ないけど」
「私の住まいです。正確にはその地下に設えた研究施設のひとつですね」
「ふぅん。まあ何でも良いけど。さっさと出してくれない?」
「お客様をお迎えしておいて、歓待もせずに帰すような無作法は出来ませんよ」
「堅苦しいなぁ。私とお兄さんの仲じゃない、そんな畏まらなくて良いのに」
圧倒的に不利な立場と彼の気取った物言いに、ダークスライムは心中で渋面を浮かべる。
出会いこそ好意的だった――互いに目的は異なっていたが――両者の関係は、今ではその形骸が会話の上辺に浮かぶのみとなっていた。捕食する側とされる側は完全に逆転し、ガラスで造られた奇妙な檻が明確に2人の立場を具現化している。
緩慢に身を起こしたダークスライムに出来たのは、驕慢な空気を纏うインキュバスの魔術師を、真っ向から睨み付ける事だけだった。
「で。こんなガラス部屋に女の子を閉じ込めて、お兄さんは私をどうしたいの?」
「魔術師が興味深い素材を手に入れてする事と言えば、決まっているでしょう?」
「……成る程ね。私の体を隅々まで弄り回したいってわけか」
「色々と誤解を招きやすい物言いではありますが、まぁそうです」
好色な魔物娘らしい解釈に、思わずコンラッドは苦笑した。
ただ単に魔法を扱う者を魔術師とは呼ばない。彼らの本分とはあくまでも真理の探究であり、魔法とはそれを成し得る為の手段あるいは副産物でしかないのだ。『魔物狩り』と呼ばれ、自身の存在を人ならざる者――インキュバスへと変質させるまでに対魔物戦闘へ特化したコンラッドであっても、内包する未知への興味は不変だった。
「私は魔術師協会からの要請を受けて、効率的な魔物の無力化について研究しています」
「は? なにそれ、どういう事?」
「どういう事だと思います?」
「質問に質問を被せるのはマナー違反なんじゃない?」
「おっと。これは失礼」
気障ったらしい仕草でコンラッドが謝罪する。いちいち繰り出される貴族のような挙動に辟易しながらも、ダークスライムは続きを促した。
「では話を戻しましょう。現在、魔物は積極的に人間と関係を持ち、人間社会というシステムに組み入ろうとしています。目的は種の存続、あるいは糧として『精』を得る為にです」
朗々と語り始めたコンラッドの弁に、ダークスライムは無言で頷いた。魔物である彼女にしてみれば常識以前の話だ、わざわざ説明される程の事ではない。
魔物の殆どは、今や人間との関わりなくしては次世代に命を繋ぐ事が出来なくなっている。現魔王であるサキュバスの放つ魔力が、遺伝子レベルから魔物の生態を造り変えてしまったからだ。何故そうしたのかは、誰もが首を傾げざるを得なかったが。
「魔物の多くは人間に対して友好的で、そのうえ好色です。『性欲』という根元の欲望を刺激してくる為に人間の男性からすれば非常に都合が良く、最近は異種族で婚姻を結ぼうとする者が少なくありません。こればかりは、流石に看過できない大問題です」
「……?」
黙って聞いていたダークスライムが、ここで初めて眉を潜めた。コンラッドの言葉は概ね理解できるのだが、魔物と人間が家庭を持つ事の何が問題なのかが解らない。
虚空を眺めながら、コンラッドは語り続けた。
「魔物と人間。異なるふたつの種族が交わった所で、生まれるのは必ず魔物です。ハーフという可能性はその一切が排除されています。今は未だ良いでしょう、魔物を伴侶とする人間などはマイノリティの極致ですから。しかし、やがてその数が増えればどうでしょうか?」
「魔物ばかりが生まれる事で、人間の人口が減る……?」
「その通り。よく出来ました」
教師のような口調でコンラッドは肯定した。
「それだけではありません。人間の総数が減少する事により、今度は魔物も減少していきます。なにしろ伴侶となるべき次世代の男性が居ないのですからね。今は未だ近隣各国や『教団』が相互に協力し合い、迂遠な滅びを避けるべく様々に活動していますが……どれだけ情報統制を行ったところで限界があります」
兼ねてより有識者――人間と魔物の区別なく――によって囁かれていた問題であった。
ある者はこれを、魔王による『世界を巻き込んだ自殺』であると嘆いた。
ある者はこれを、原因たる魔王にすら予測不可能だった『事故』ではないかと主張した。
いずれも根拠に乏しい推論でしかなく、未だに万人が納得する統一見解には至っていない。連合国が主催する国際会議において新たな学説が気泡の如くに発表されては検証不足というレッテルを張られては消えていく。解っているのは、原因が魔王にあるという一点だけだ。その真意を推し量ろうという作業は、まさしく手詰まりの状態だった。
今や学者達の間では『無意味な探求』を指して『魔王の計画』と呼んでいる程である。
「予防はあくまでも予防でしかなく、いつまでも後手に回らざるを得ません。人類は種の存続の為に先手を取る必要があるのです。かつて新たに王座へ腰掛けた魔王がそうしたように、魔物の存在を人間にとって都合の良い存在に改変する事でね」
「…………」
コンラッドの言葉に、ダークスライムは目を見開いた。
しかし、それは決して驚愕が引鉄になったからではない。
単純に、呆れたからだ。
「お兄さんさ……自分がどれだけ無茶な事を言ってるか、解ってる?」
彼の語った計画は、まさしく机上の空論でしかなかった。
世界全体まで波及し、魔物の形状・思考・文化・食性……ありとあらゆる全てを変貌させるに至った現魔王の行為を模倣する。それを実現させる為には、それこそ現魔王に相応する魔力のキャパシティを有する事が前提となる。仮に魔法理論の構築は可能だったとしよう。しかし実際に発動させる為に、どれ程の魔力が消費されるのか……生まれながらにして高い魔力容量を与えられたダークスライムであっても計り知れない。
個人レベルは元より、国家レベルを以てしても、まず間違いなく不可能だろう。
魔術師たるコンラッドが、それに気付いていないとは考え辛かった。
「ふふ――もちろん普通に考えれば、貴女の仰る通り無茶なのでしょうねぇ」
コンラッドはしかし、にんまりと笑みを深めた。
「ですが。それを打破する光明を、貴女は既に体験している筈ですよ?」
「………………もしかして、インキュバス化!?」
「ご名答」
もはやダークスライムには返す言葉が見付からない。
つまりこの男は、世界の改変に必要な魔力を自らインキュバス化する事で、問題の魔物から奪い取ってしまおうというのだろう。
確かに魔物はすべからく体内に魔力を持っている。それらを根こそぎ横取りして蓄積すれば一時的ではあるが強大な魔力を貯め込むことは可能かもしれない。途方も無い時間と労力が必要だろうが、その問題もインキュバス化が解決してくれる。魔物の要素が加わった人間は、等しく長寿を得る事が出来るからだ。
「ただまぁ、この技術も完成形とは言い難いものでして」
実用化されれば個人が国家に喧嘩を売る事も不可能ではなくなるであろう壮大な計画を、しかしコンラッドはあっさりと未完成と断じた。
「人間が恒常的に有する魔力と魔物のそれとは、本質としては同じものですが方向性は大きく異なります。例えるならプラスとマイナスの関係でしょうか。より効率的に、より短い期間で魔力を高める為にはマイナスの魔力を魔物から奪うだけでなく、人間の男性が自己生産するプラスの魔力をマイナスに変換する必要があるのです。ベクトルの異なる魔力は同時に消費する事が出来ませんからね」
言いながらコンラッドはダークスライムから視線を外すと、手近なデスクにあった魔法装置を操作し始めた。
「その問題を解決する為に、貴女は捕獲された――という訳です」
ほっそりとした指先が文字盤を叩くたびに、魔道強化されたガラスの壁面が微細に振動する。何が始まるのか解らない恐怖にダークスライムは身を竦めた。
「……拷問でもする積もり? そんなことしたって無駄、あたしはお兄さんの欲しがる技術なんて知らないよ。魔女かサキュバスでも捕まえて閉じ込めた方が良いんじゃない?」
「問題ありませんよ。例え貴女が知らなくても、貴女の体が知っている筈です」
「体が……?」
異変が訪れたのは、ダークスライムが呟いたのとほぼ同時だった。
ガラスの壁に、無数の魔法陣が浮かび上がる。赤、青、黄色……彩りも豊かなそれらは激しく明滅を繰り返すと、突如ぐにゃりとその形を変えた。
「…………ひっ!?」
「そう怯えないでください。何も殺して解剖しよう等とは思っていませんから」
魔法陣から生み出されたのは、数え切れない程の触手だった。
各国の調査員が編纂した魔物図鑑を紐解けば、それはローパーと呼ばれる生命体によく似た形状をしていた。とはいっても、人間の女性に寄生して宿主を操るローパー本来の特徴は全て排除されており、無機質なガラスの壁と魔法陣が苗床となっている。材料となった素材の色調を引き継いだ無色透明な外観には生物としての躍動や呼吸といったものの一切が感じられず、むしろ精緻に造り込まれた工芸品といった印象を携えていた。
ダークスライムを取り囲むようにして四方の壁からうじゃうじゃと触手の生えたその光景は、まるで動物の腸壁に生きたまま放り込まれたような錯覚を彼女に与える。
「ご紹介します。ゴーレム技術を応用して製作した魔法生物で、私の助手です」
緊張感のないコンラッドの声が、歪曲した壁面の向こうから響いてくる。
「プラスの魔力をマイナスに変質する為に、貴女の肉体のどういった部分がどのような反応を起こすのか。どういう仕組みで無駄なくベクトルを転換させるのか。それをつぶさに観察する事で、私の研究は更なる躍進を遂げる事でしょう」
主人の言葉に感応しているのか、触手がじわじわとダークスライムに伸びていく。
「……じょ、冗談でしょ。ねぇ、お兄さん……?」
「触手にはたっぷりと、精液に『よく似た』成分が練り込んであります。魔力が枯渇した肉体は面白いくらいに騙されてくれるでしょう」
無意識のうちに後退するものの、すぐに立ち止まった。触手は背後にも迫っていたからだ。
「――ねぇ、ねぇったら! こんなの止めてよ、気持ち悪いよ!」
「全身を貫かれる快楽。輪姦にも似た魔性の遊戯を……どうか存分にお楽しみください」
触手の先端が、彼女の手足にゆっくりと巻き付いていく。
「お兄さんっ、聞いてよお兄さん! 止めてくれたらフェラでも鞭でも露出プレイでも好きなようにして良いからさぁ! 出して、ここから出して!!」
命を持たない人形から一方的にレイプされるという、恐怖。
人間を相手取った性行為で今まで完全な優位に立ち続けてきた魔物の娘にとって、それは完全に未知の代物だった。
「やだよ……やだ、来ないで! 私の中に入って来ないでよぉ!」
少女の拒絶など聞く耳を持たず、触手は淡々と少女の秘部へと突き進む。
そして。
「あっ……あっ……あひゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
全身に肉棒が突き込まれるというスライム種ゆえの快感に、少女は絶叫する他なかった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「大尉。西街区の下水道に出没したダークスライムの討伐、滞りなく完了しました」
「おう、ご苦労さん」
酒場『ロッドウェル』――自警団の拠点として機能する古びた飲食店に立ち寄ったクリミアは、カウンター席の隅で売り上げ計算をしていたドミニクにきびきびと報告した。
時刻は既に早朝である。東の空には太陽が登り始め、オルネスト市は今日もまたいつもと変わらぬ平穏な日常を迎えようとしていた。
「予想より早く片付いたな。これなら少しは眠れそうだ」
「あまり無理はしないでください。今夜も店は普段通りに営業するのでしょう?」
「当然よ。年中無休がうちの売りだからな」
四十代も半ばを過ぎようとしているこの大男だが、軍で培った体力はミノタウロスにも引けを取らない。夜通し自警団の動向を見守り続ける事など、彼にとって大した苦ではなかった。
「コンラッドに依頼して正解だったな。相変わらず腕の良い野郎だ」
「ええ、本当に……腕だけは、ですが」
含みを持った口調でクリミアは答える。手際そのものは認めるものの、かの魔術師に作戦を委ねた事そのものについては、あまり歓迎していないようだった。
「気にいらねぇか?」
「……はい」
嘘をついても仕方がないので、クリミアは正直に頷いた。
「ま、仕方ねぇわな。あの野郎の嫌味は今に始まった事じゃねえ。例え国王陛下の御前でも同じような態度を取るだろうよ。人格はどうあれ優秀な魔術師だ、そう毛嫌いしてやるな」
「…………」
ドミニクの取り成しにも、しかしクリミアは積極的に頷く事が出来なかった。
どんな手段を使ったのかは知らないが、ダークスライムを失神させてから地上へ戻ってきたコンラッドは、自警団をそれこそ従卒のように使い倒した。皮肉たっぷりに自警団を無能集団と罵りながら勝利を告げると、彼はクリミアに馬車を用意するように要求した。ダークスライムを自分の屋敷に運び込み、研究素材として扱うのだという。発信器を埋め込んでから人気のない山奥に離すか、転送魔法の得意な魔術師に依頼して魔界へ送り返すべきだと主張したのだが……それらはにべもなく却下されてしまった。
「何の研究をしているのかは知りませんが、あまりにも非人道的に思えます」
討伐の様子を語るクリミアは、未だ納得のいかない表情で床を睨み付けた。ドミニクは顎髭を揉みながら困ったような顔を浮かべて報告を聞いていたが、結局は彼女の意見に追従する事なく無言で嘆息するのみだった。確かにコンラッドの性格を考えれば、人心にもとるような行為を楽しげに行っていたとしても不思議ではなかったが。
しかし、だからといって彼らには今更どうしようもない。
そもそもコンラッドと契約を結ぶ際には必ず『討伐した魔物の身柄は一旦、研究素材として引き取り、データ採取の後に解放する事に同意すること』という条件を飲まなければならなかった。
「……魔術師の研究ってのがどんなものかは俺も解らねぇがな。今まで奴が捕縛した魔物は必ず傷ひとつない状態で解放されてた。今回もそうだと信じるより他あるめぇ」
「はい……」
そんな期待など慰めにすらならない事を両者は痛い程によく知っていた。軍人という生物はどこまでもプラグマティックな思考のみをその根幹に根付かせているからだ。確固たる情報とそれに基づいた判断しか彼らは重視しないし納得もしない。単なる希望的観測を後生大事に持ち歩いていたところで戦局は彼らの有利になど動いてくれないからだ。
店の外で、朝早くから仕事を始める郵便屋の駆け足が聞こえてくる。
2人はそれ以上なにを言うでもなく、緩慢な足取りで酒場を後にするのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あひいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃっ!!!」
ダークスライムへの容赦ない責めは、討伐から一夜が明けてからも延々と続いていた。
「あはぁぁぁっ、おっぱい触手でズコズコされるの気持ち良いぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
粘液質の肉体には、次から次へと触手が潜り込んでいた。人間や他の魔物と異なり明確な肉体の線引きがない彼女は、いわば全身が女性器のようなものだった。通常の性交では考えられないような部位を触手が暴れ回っても、それらの刺激は全て快楽として還元される。
「あやはぁぁぁぁぁっ! お尻っ、おしり入ってくるぅぅぅぅ! イクっ、イクぅぅぅぅぅ!!」
ガラス部屋の内部は、空間の殆どが触手によって占められていた。既に彼女の視界には、透明な触手の群れしか見えていない。その向こう側を覗こうとしても歪曲した模造品のペニスには意味を持った風景など望める訳もなく、更に別の触手がかろうじて伺えるのみだった。
「ああんっ! あうんっ! もっとぉぉ! もっと弄ってぇ! 私の体ほじくってぇぇ!」
触手は彼女の股といわず臀部といわず、ありとあらゆる部分で蠢いている。
「はひぃぃぃん!! もっともっとぉぉぉ! 腕も脚もおしりも耳も口もぉぉぉぉ! 全部っ、全部犯してよぉぉ! 体が疼いて止まらないのぉ! 気持ち良くなりたいのぉぉ!!」
彼女のリクエストに応えるように、新たな触手が爪先に捩じ込まれる。卵子に群がる精子を思わせる動きで身をくねらせながら、それは更に奥へ奥へと前進していった。
「あはぁ、また入って来たぁ! 良いよ、遠慮なんかしないでぇ! 私の体、どこでも良いから穴だらけにしてぇぇぇ! ひぎぃぃぃ! イクっイクっイクぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
触手で貫かれるたびに、ダークスライムは絶頂する。魔力に餓えた体は本能的に男の情欲を誘うべく乱れるのだが、当然ながら肝心の『精』は一向に送り込まれる事が無い。
「イクイクッ……イクゥゥゥぅ!! おまんこジュポジュポ抉られてイクぅぅぅぅぅ!!」
吐き出されるのは精液に似た、しかし『精』を含まぬまがい物ばかりだ。
「いいぃぃぃぃ、腕ファックも背中ファックも凄く気持ち良いぃぃぃぃ!」
既に理性の吹き飛んだ彼女にとって、それは些細な問題に堕しているのだろう。今はただ、与えられる快楽に身を任せ、白痴顔で触手に弄ばれる事のみに支配されていた。
「足りないのぉ、まだ足りないのぉぉ! ほらっほらっ! ここまだ空いてるぅぅ、空いてるからその太いペニスで抉り回してよぉぉ! 気持ち良くさせてよぉぉぉ!!」
抵抗したのは最初だけだった。喉が裂けんばかりに泣き叫び、迫り来る触手を払い除けて無機物との性交を拒否した彼女の姿はもう此処に無い。自ら触手を引き寄せ空いたスペースに誘っては張り型によがり狂う、一匹の愚かな雌がいるだけだった。
「気持ち良すぎるぅぅぅぅぅぅ! 気持ち良すぎてもうどうなっても良いいぃぃぃぃ! もっと乱暴に犯してっ、激しく突いてぇ! もっと欲しいの! もっとたくさん貫いて欲しいのぉ! 体中でイかせてよぉ! 滅茶苦茶にしてよぉ! イきたいからぁ! もうどうなっても良いからぁ! 壊れるまで犯して良いからぁ! ああまたイクッ、イクイクイクぅぅ!!」
どこまでも淫らに啼きながら、少女は延々と全身を痙攣させて絶頂する。
彼女の痴態をBGMに、コンラッドは触手から送り込まれる貴重なデータを、歓喜しながら眺めるのだった。
10/02/12 03:55更新 / クビキ
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