「我々はついに成し遂げた！
長き屈辱の日々は本日を以って終焉とする。
否、今日この日が始まりなのだ！
今こそ我らは悪魔どもと同胞としての仮面を脱ぎ、真の正義の執行者、神の兵へと戻るのだ！
我らの兵力はわずか三千…、されど誰もが一騎当千の兵であると余は信じて疑わぬ。
そして、我らには切り札がある！
諸侯よ、恐れることはない。
我らは神に命を捧げた真の信仰に生きる者。
さらにこの日のために開発された兵器を使えば、世界はやがて目を覚ますであろう。
真の敵は何なのか！
真に憎悪すべきは何なのか！
真に討ち滅ぼすべき悪魔を世界は知るのである！
さすれば我らは三千の兵ではない。
大司教の名の下に！
神の名の下に！
真の正義の名の下に！
地平は悪魔たちを滅ぼす神の兵で埋め尽くされる！
神に逆らう者を滅ぼすのだ。
この地上に神罰を打ち立てろ！
反逆者などに一片の情もくれてやるな。
剣を突き立てよ、槍で貫き通せ、杭を打ち込み晒して見せしめにせよ！
それは神が遣わす光のように、
それは神が放つ威光のように、
それは悪魔を討つ天使のように、
過激に、
過酷に、
苛烈に、
壮絶に、
凄惨に、
壮麗に、
荘厳に、
華麗に、
豪勢に、
慈悲深く、
無慈悲に、
絵画的に、
神話的に、
詩的に、
この世のすべての言葉を使っても足りぬ程、我らの偉業を後の世まで詠わせよ。
我らこそ神の代理人。
大司教に付き従う我らなくして真の正義は成就せぬ！
…アミット伯爵！」
「これに！」
「汝は五百の兵を先発隊と率いて、ヴァルハリア御国に出向き、大司教猊下及び教会騎士団の方々と連携を取り、砂漠のオアシス都市にて我らと合流せよ。粗相はならぬぞ。最高の礼を以って接し、大司教猊下に絶対の忠誠を誓うのだ。」
「御意。」
「残りの諸侯は私に付き従い、残り二千五百の兵を伴い行軍してもらう。中立地帯を次々落とし、その兵力を吸収し、まずは教会領を広げるのだ。そして砂漠を越え、オアシス都市にて猊下とも合流し、一気に怨敵を討つ！我らが勇者、オルファンを卑怯にも不意打ちで砕き、神の威光を傷付けし、あの男を生かしておいてはならない！良いか、戦線を名もなき町へ広げつつ勇壮無比の戦いを世界に見せ付けるのだ！
我、フウム王国国王フィリップ＝バーントゥスクルの名において宣誓する。
我らは神の国成就のために、決して降らず、決して進撃を緩めない。
諸侯らに神の御加護があらんことを！
兵よ、武器を取れ！
この世の不条理に鉄槌を！
あの朝日は我々のために存在するのだ！！！」

城のバルコニーから国王フィリップが放った演説である。
歓声が上がり、狂喜する声が城壁の中を埋め尽くした。
ある者は感動に打ち震え、
ある者は涙を流して、大地に接吻し、
ある者は神の書を抱きしめ、空に祈り、
ある者は抱き合って喜びを感じあう。
しかし、彼らは知らないのだ。
オアシス都市がすでに滅び、すでに廃墟となっていることを。
そして彼らがオアシス都市を選んだのも、すでに住人が反魔物派の手に落ちたという古い情報に則って、自分たちが軍を進めれば歓迎して受け入れるという安易な打算による宣戦布告であることも。
中立地帯を落とすという前提がすでに破綻していることも。
それによって兵力を削り、行軍速度が鈍り、兵糧を無駄に減らしていくだけであることも。
さらにヴァルハリア国内において、復讐に燃えたダオラが暴走し、その鎮圧のために繰り出した教会騎士団の、その約３割が戦死し、兵力的にもはや軍とも言えなくなっていることも。
そしてこの大々的な宣戦布告が、他の反魔物国家においてもあまりに軽率であると、参戦を敬遠されることなど、彼らは考えもしなかった。
サクラが町を旅立ち、砂漠が滅んでちょうど１年と３ヶ月経った夏の終わり。
サクラは教会領内でまもなくダオラと出会う、そんな季節のことであった。


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「……何だ、…この、…熱気は。」
男の名はファラ＝アロンダイト、３２歳。
王国所属ではなく本来拠点を置いていた地が十数年前に滅びたため、当時からの部下や仲間を引き連れ、王国の庇護の下で生き長らえる、沈黙の天使騎士団団長。
彼は元々熱心な信仰者だった。
見えもしない神へ忠誠を誓ったのではない。
彼は彼だけの神…、いや女神にかつて忠誠を誓った。
彼女はエンジェルだった。
彼女を守護するために騎士団を結成し、その身体を彼女のために盾とし、彼女のために剣を血に染めた。
それが、いけなかったのか、今となってはわからない。
そうした熱狂的な信仰がやがて彼女の良心に影を落とし始めた。
そうとも気付かず、ファラは盲目的に彼女の敵、神の敵を滅ぼし続けた。
そして、まだ若かった彼にとって、信仰はやがて愛へと変わるのに時間はかからなかった。
彼女もまた自らのために傷付く彼に心が惹かれていた。
それが、神の怒りに触れたというのだろうか。
たった一度の過ちが二人を引き裂いた。
エンジェルは彼との愛の中、堕天し黒いエンジェルとなり魔界へ。
彼もまた魔物と愛し合った男として３年間の幽閉の憂き目に遭った。
もっとも王国は当時も今も武将として足る人物が不足していたため、その命を助けられたのである。
彼女を失い、男は信仰を、その熱をなくした。
沈黙の天使騎士団、という名前も彼の贖罪意識から付けられた名前である。
誰もかつて彼が守護した天使の名も知らず、誰もその天使を敬うこともなく、ただ男の己が内のみ今も光り輝き、唯一絶対の存在として存在する彼女を彼は今も守り続けているのだ。
だからこそ、ファラ＝アロンダイトはこの場にいる誰よりも冷めていた。
「団長、参戦するつもりですか？」
部下が彼に問いかける。
「…戦わねば、…ならぬ…。」
それは彼女への贖罪なのだと、ファラは心で泣く。
彼女を穢し、彼女を魔物にしてしまった自分の後始末なのだとファラは言葉を噛み潰し、その場を後にした。


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まずいことになっている…。
俺は熱狂する兵士たちに混じって、同じように興奮するフリをして困っていた。
俺の名はアンブレイ＝カルロス。
本来は、中東聖勇士隊諜報部隊長として、その名を置くのだが、今はフウム王国内の動きを探るため、義勇兵と偽り、名前も偽ってこの地に入り、諜報活動を展開していたのだが、その矢先にこのようになってしまった。
うちのボスになんて言おう…、などと考えてみても所詮一介の諜報員。
同じようにフウム王国に潜入した仲間も、おそらくは困惑しているだろう。
諜報員は冷静な判断で行動しなければいけない。
だからこそ、この戦いに穴が見えてくる。
中立地帯の抵抗がない訳がない。
わずか三千の兵力で中立地帯すべてを平らげるなど不可能極まりない。
おそらくは途中戦線を維持出来ず、迂回して教会領内にて合流するだろう。
何故なら俺たちの情報網に寄れば、すでにオアシスは滅んでいる。
理由があまり明確に報告されていないのが気になるが、そこで合流するには自殺行為だ。
しかも…、こいつらが一騎当千？
笑わせるなよ…。
俺たちはこいつらよりも…、もっとめんどくさいあの野郎と戦ったんだよ。
何が弱い者を守るだ…、正義面しやがって…。
いや…、冷静になれ。
今はこのやばい状況をどう切り抜けるか。
「おい、アル。礼拝の時間だぜ。」
アルは俺の偽名。
礼拝の時間とは定時報告の隠喩、つまり暗号。
俺の仲間が声をかけてくる。
「ああ、もうそんな時間になっていたか。それじゃ、いっちょやつらの全滅を祈ろうかね。」
はてさて…、全滅するのは誰なのか…。
しかし、この国は楽だね。
日常的に礼拝を強要されてるから、わざわざ小難しい暗号もいらない。
これじゃあ、先が見えるってもんか…。
まぁ、いざとなったら…、俺の切り札を使えば良い。
生き残るのは俺たちなのだから、な………。


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教会領ヴァルハリア国内、大聖堂にて


大司教へ使者が来てから、国内は祝福ムード一色だ。
ドラゴンに襲われて、日々震えてすごした人々にとって、反魔物領土回復運動…、歴史の教科書通りなら第１６次レコンキスタと言うべき戦が始まる。
人も魔物も殺されて、僕らは不毛な螺旋から抜け出せないのだろうか…。
教会騎士団の仲間もだいぶ減った。
騎士たちの詰め所の椅子がどんどん寂しく空いていく。
ドラゴン討伐に向かったまま、戻らぬ仲間。
帰って来ても意識が戻らないまま、死んでいく仲間たち…。
せめて諸外国のように医学が発展していれば助かったかもしれない人々。
神は何も救わない。
手を差し伸べなければならないのは、神ではなく僕たちなのに…。
僕こと、リオン＝ファウストは苦悩する。
僕は仲間を失いたくないし…、彼女たち魔物を滅ぼす気もない。
それでも殺し合いの螺旋の中に身を投じなければならないのか…。
これが物語のような正義感に燃える騎士ならば…、何も迷わなくて良かったのに。
これが頭の隅々まで神に冒されていれば…、何も迷わなくて良かったのに。
もう神の言葉を受け入れる心を持ち合わせていない。
静寂の地に住む人々が、まるで酔っ払ったように声を上げて笑っている。
信仰心厚き人々が、魔物を滅ぼせと自ら志願し、義勇兵に、神の奴隷に成り下がる。
僕はどうするべきなのか…。
自らの信念に従うべきか、偽善的な仲間意識で守るべき者たちを討ち滅ぼすべきなのか…。
神よ…。
お前が全知全能であるのなら…、今すぐ僕の迷いを晴らしてくれ…！

■作者メッセージ
と、いう訳でさっそく参戦を表明してくださった方々のご登場です！
アンケートありがとうございます！
すでに詳細な設定もあったので書く方は実にやりやすかったです。
後は皆様の小説から、そのキャラの傾向を読み解く作業を延々と…ｗ
こんな感じで解釈させていただきました。
まだまだ募集中です。
おそらく本格的な戦闘になるともっと出てきますので
楽しみ（？）にしていてください。

では最後にここまで読んでいただいて、ありがとうございました！