愛しさは腐敗につき…
ザクッ……
ザクッ……
冷たい雨が降る中、僕は土を掘り続ける。
ザクッ……
ザクッ……
深く深く埋められたアレを掘り出さなければ。
ザクッ……
ザクッ……
一度掘り起こされた土を、何度もシャベルで掘り返す。
ザクッ……
ザクッ……
段々と腕が重くて持ち上がらない。
ザクッ……
ザクッ……
肉体労働などしたことがないというのに、僕は一心不乱に土を掘り返す。
ザクッ……
ザクッ……
…………ガッ
ぶつかった。
やっと目的の物へと辿り着いた。
僕は喜び、さっきまでの疲れなど忘れて周囲の土を掘り返し、その目的の物の形がハッキリとわかるまで掘り続ける。
現れたのは、蓋に教会の祝福の施された縦長の匣。
ここは村の共同墓地。
冷たい雨。
冷たい風。
無音、静寂。
ただ僕の荒い呼吸だけがやけに耳に付く。
鼓動が耳の傍で聞こえるくらいに大きく聞こえている。
怖い。
ただ一人、墓場にいることが怖いのではない。
今この瞬間に道徳観念を取り戻して引き返してしまうことが何よりも怖かった。
僕は、この棺の中にいる者を想像して、期待に胸を膨らませている。
抑えられなくなった性欲に、股間を大きく膨らませている。
ガッ……、バキッ…、ベキッ……
僕は乱暴にシャベルを叩き付けて、棺の蓋を抉じ開けようと試みる。
釘でしっかりと封印された棺はなかなか開かない。
乱暴にしすぎたせいか、いつの間にか手を切ってしまって血が流れていたが、僕は自分のことを気にしていられる余裕など、すでになかったのである。
どれくらい、時間が経っただろうか。
やっと蓋が持ち上がり、苦労の末に棺の蓋を開けることが出来た。
掘り返す時や蓋を外す作業と同じように、乱暴に棺の脇に蓋を投げると僕はカンテラの灯りで棺の中を照らして、その中で眠っている者を確認すると、自分でも気味が悪いと思ってしまうくらいににやけてしまった。
中に眠っていたのは女性。
僕より確か5つ年上の美女。
二度と目を覚ますことない死者。
それは冒涜。
だけど僕には神聖な儀式。
この眠れる永遠の美女を犯したい。
募る想いは、墓荒しという行為で現実のものとなった。
―――――――――――――――――――――――
彼女、エルザと生前に会話をしたことはない。
むしろ生きている頃には何の魅力を感じなかった。
村で擦れ違う程度なら何度か数えるくらいはあったような気がする。
その程度しか印象のない彼女の墓を、掘り起こすに至ったのは至極簡単な理由だ。
彼女が暴漢に襲われて命を落とし、その葬儀に僕も参列したからだ。
彼女を襲った男は逮捕され、つい先日に簡単な裁判の後に首を吊るされた。
そんな慰みと悲しみの中で行われた葬儀に参加した僕は、事件の簡単なあらましと、どのように彼女が死んでいったのかを村人同士の噂話を頼りに聞き、密かに欲情していた訳なのだが、最後のお別れの時、棺の中で眠るエルザに僕は心を奪われた。
後は朽ちていくだけの永遠の美女。
乱暴された跡だとわかる唇の傷。
首に残された男の手形。
その痛々しい抜け殻に僕は、初めて恋をした。
葬儀が終わって数日経っても、僕の頭の中に彼女の死に顔が焼き付いていた。
何度も彼女の最期を想像し、彼女の死に顔を思い出しては、勃起した分身を自分で慰めてはみたものの、何度精を吐き出しても治まる気配はなかった。
寝ても覚めても、絶望のうちに死んだ彼女を思い出して欲情する僕は、ついに日常生活すら困難になり、家に閉じ篭って色々な手を尽くして自分を慰め続けた。
無論、そんな生活が長続きするはずもなかった。
そして、ついに雨の降る夜。
僕はエルザを掘り起こすことを決意し、今こうしてエルザと対面したのであった。
持って来たナイフで彼女の死に装束を胸元から切り裂く。
慣れない作業に時間がかかってしまったのだが、時間をかけて人生を終えた彼女を生まれたままの姿に戻していく。
「嗚呼……、なんて…。」
綺麗なんだろう、と僕は感嘆の声を上げた。
死後数日経って土気色になった肌。
生気をまったく感じさせないパサパサの髪の毛。
筋肉の張りがなくだらしなく垂れている大きな胸。
そして服の上からではわからなかった腹部の大きな刺し傷。
「ここを……、ここを刺されたんだね。」
エルザに寄り添い、物言わぬ彼女に刻まれた傷に指を突っ込む。
まるで愛撫するかのように周囲をなぞり、やさしく傷口の感触を指で確かめる。
ぬるり、ぬるりと血液とも体液とも付かない感触に背筋がゾクゾクした。
僕は今、彼女に触れている。
その事実だけで、僕は射精してしまいそうなくらいに勃起していた。
服を着ていれば、その摩擦だけで往ってしまう。
そう思った僕はその場で服を脱ぐ。
冷たい雨と風に、身体が震えたけど、そんなことはもうどうでも良かった。
これから彼女と性交する。
これからのことを考えると、喜びで寒さなど感じている余裕はなかった。
棺の中で眠るエルザに覆い被さる。
傷付いた唇を無理矢理抉じ開けキスをする。
死臭が少し鼻に付くが、臭いが雨に流されてそう気にならなくなる。
大きく垂れた胸の感触を楽しむ。
弾力というものは皆無だが、ぶよぶよとした独特の感触に、油断してうっかり射精していまった。
それから様々な場所を愛撫した。
見知らぬ男に汚された秘所を。
深々と抉られた傷口を。
足の先から耳の中まで、僕はこの舌で嘗め尽くした。
これで性交をしやすくなる訳ではない。
むしろこれはただの自己満足。
こうしてあげたいから、死体の君を愛撫する。
君は快楽に身を捩ることはないけれど、僕は君で快楽に身を委ねるよ。
「はぁ………、はぁ……!」
我慢は、とうに限界を迎えていた。
一度射精したものの、それで治まりが付くはずもなかった。
ついに、彼女の中へと入る。
僕は持って来た潤滑油を自分の分身に塗りたくる。
そして決して濡れることのない彼女の秘所の入り口から中身にかけて、丹念に丹念に潤滑油を指で滑らせ、準備を整える。
塗り終わると彼女の秘所は、ヌラヌラと妖しいぬめりを宿した肉壺に変わる。
僕は、見たこともない殺人者に感謝した。
あなたのおかげで、僕は彼女と結ばれる、と…。
「……挿れますね。」
死んだことで重さを増した彼女の下半身を持ち上げ、脚を開いて棺の外枠に引っ掛ける。
死後硬直など、すでに終わっているから身体はグニャグニャ。
少しでも力加減を間違えてしまえば、彼女の身体はズタズタに崩れてしまうだろう。
そうなっても構わないが、せめて最初の瞬間くらいは原形を留めたままでいてほしいものだ。
腰を浮かせて、潤滑油でヌルヌルする秘所に分身の先が触れる。
死者特有の冷たい感触にブルッと背筋に寒いものが走る。
これで膣に挿れたらどうなってしまうのだろう。
想像しただけでビクビクと分身は待ち焦がれていた。
ここは焦らさず一気に………。
ずにゅ……
「うわぁ…。」
熱を感じない膣。
冷たく、それでいて潤滑油のぬめりと、腐敗によるぬめりという未知の快感に思わず僕は声を上げ、彼女の一番奥まで突っ込んだまま打ち震えて、その感触を楽しんでいた。
やがて震えが治まると僕はあることに気が付いた。
ビクン、ビクンと何度も痙攣する僕の分身。
「あ……、挿れただけで…。」
情けない話ではあるが、強すぎる快感と過剰な期待の前には無理もないことだと思う。
やがて射精が治まった。
どれだけ出したのか検討も付かないが、冷たい彼女の膣の感触が暖かく感じられるようになった。
吐き出した精液が潤滑油と腐敗と交わって、不快な死臭と扇情的な淫臭を僕の鼻に届け、射精し終えて萎えかけた分身に再び硬さを甦らせる。
とはいえ、二度射精したばかりで敏感になりすぎていた僕は、ゆっくりと彼女の膣を行き来し、何とも言えぬぬめった感触を楽しんでいた。
そう、その時までは…………。
―――――――――――――――――――――――
「ふぅん……、そうやって私のことを殺したんだ。」
「…………!?」
見られた!
慌ててあたりを見回したけど、どこにもそんな姿は見受けられない。
どこだ、どこに消えたんだ。
「ここよ。」
その声が聞こえた途端、棺の淵にかけて広げていた脚が閉じ、蟹挟みのように僕の腰に絡みつくように、僕を拘束した。
僕は信じられなかった。
今、目の前で犯している死体が目を見開いた。
ニタリと笑うと、ダラリとした身体に力が入り、筋肉の張りが甦った。
そして信じられない程強い腹筋操作で膣の奥に入り込んだ僕の分身を押し潰した。
「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「あら、痛かった?私はもっと痛かったわ。頬を叩かれて、首を絞められて…。気が付いたら初めてを奪われて、抵抗したらナイフで刺してくれたわね。まさか死体になっても犯しに来てくれるなんて、よくもありがとう。どういう訳だかわからないけど、おかげ様で生き返ることが出来たわ。」
「痛い……!痛い…!!」
懇願するように泣き叫んだ。
そんな僕を見て、彼女は目を細める。
「そう、痛いわね。でもお生憎様。私はもう痛くも何ともないの。憎くて憎くて恋焦がれていた分だけ、苦しみなさい。気が済んだら、殺してあげる。」
「違う……!君を殺したのは僕じゃ…、な……、ない…!」
痛みに泣きながら僕は白状した。
彼女を殺した男はすでに死刑になったこと。
そして彼女を犯しているのは、死体となった彼女に欲情して、死体の彼女と関係を持ちたいと思った、僕の事件とはまったく関係のない行動だと。
「……そう、あいつは死んでいたのね。」
「…そうです。」
「そしてあなたは、死んだ私に欲情した。救いようのない変態ね。」
「すみません。」
「ま、その変態のおかげで私は生き返った訳か。まぁ、死後レイプは不問にしてあげる。でもそろそろ抜いてくれないかしら。もう妊娠したりすることはないけど、さすがに寒空の下で裸でいるのは居心地良くないわ。」
そう言ってから、やっと僕は彼女から解放される。
ずるり、と音を出して、膣から引き抜かれた分身はまだ硬いまま。
そして引き抜く時の感触で、射精しながら抜いてしまったせいで何度も激しく痙攣して、精液を撒き散らして彼女の身体に零してしまった。
「………ごめんなさい。」
「本当に救いようのない変態ね。まぁ、良いわ。その代わりにあなたの家に連れて行ってよ。死んだ人間が自分の家族の下に帰る訳にはいかないし、どこかに行くにもこんな格好じゃどこにも行けないわ。それに随分と死んでから時間が経ったみたいだし、少しは身体を洗いたいわ。あ、私のお墓は綺麗に直しておいてね。自分の不始末は自分で片付けなさい。」
―――――――――――――――――――――――
エルザと暮らし始めて1週間。
ゾンビとやらになって生き返った彼女は生前、貞淑とした人生を送っていた反動なのか非常に好色になってしまっていた。
彼女を連れて帰ったその日も、シャワーを浴びてベッドに腰掛けると状況を未だ整理し切れていない僕に向かって股を開いて誘惑してきた。
「何だか、まだ燻ってるの。」
そう言って、指で開いた膣はドロドロで僕の放った精液がドロリと流れ落ちていた。
そこだけは洗い流さなかったらしく、ようやく萎え始めた分身が硬さを取り戻すのに然程時間を必要とせず、彼女に誘われるまま、今日まで腐敗臭と淫臭の漂う彼女の身体に僕は虜になっていた。
もっとも彼女は僕のことを『ネクロファリア』と蔑んで、蔑まれるたびにビクビクと暴れる僕の分身を楽しんでいるようなところもあったのだが…。
この日も僕は夜遅くに帰宅した。
雨が降る中、仕事に疲れてクタクタになって家に帰り着くと、エルザがテレビの明かりだけの暗い室内で、いつものようにソファーに深く腰掛けて僕を待っていた。
今日も裸で。
「電気、点けても良かったのに。」
「そんな気分じゃないの。」
どうやら不機嫌な彼女。
僕はそんなエルザの気配を感じつつ、部屋着に着替えようと服を脱ぎ始める。
するとエルザは言った。
「シャツに血が着いているわ。」
「えっ!?」
思わず、シャツに目を向ける。
だが、どこにも血など着いてはいない。
「う・そ♪」
「………ビックリしたよ。突然、そんなことを言うもんだから…。」
「そうね、ビックリするわよね。血なんか着けるような殺し方はしないものね。」
「……………………!?」
エルザが溜息を吐く。
「結局、あなたも同罪。あの男と寸分違わぬ下種だったのね。」
「エルザ、何を言って…………。」
ピッ
エルザがテレビのチャンネルを変えた。
何のドラマかわからない番組から、報道番組にチャンネルが変わる。
『今日の午後5時頃、また娼婦が殺されて数日経ってから発見される
という事件がバンブータウンストリートで起きました。
犯行の手口はこれまで起こった4件の事件と同様で、
首を絞められて殺された後、
死後数日経ってから何度もレイプされた後に発見されるというもの。
警察は近隣の住民から聞き込みをして、犯人像を絞り込むと同時に……』
ブツッ
エルザがテレビを消し、部屋に重苦しい静寂と暗闇が舞い降りる。
「僕は…!」
「私の責任ね。そうでなければ、あなたはずっとこの小さな部屋の中で妄想と自慰で誰にも迷惑をかけずに生きることが出来た。なのに、ただの死体だった私を犯して、運悪く生き返った私にあなたはさらに欲情した。それだけじゃ飽き足らず、ついにはまた一から私を作り出したいと思ったあなたは見ず知らずの他人を殺して、腐敗が進み出してから死体をレイプして、死体が生き返ることを望んだ。でも……、生き返らなくて、死体の処分に困ったあなたは誰にも見付からないように細心の注意を払って死体を捨てた。それも堂々と大通りに。」
「僕を、警察に売るのか…。」
暗闇の中でエルザが笑っている。
楽しそうに、そして僕を犯す時のように蔑むように。
「売りはしないわ。だって私、もう人間じゃないんだもの。」
「それなら…。」
「私はあなたがあの下種と変わらないことに怒ってはいるけど、別に許せないって程じゃないんですもの。でもね、私はそうでも……。」
パチン、と暗闇の中で彼女は指を鳴らした。
「彼女たちはそうでもないみたいよ。」
部屋の明かりが一斉に点いて、僕は腰を抜かした。
部屋の四隅、エルザと僕を中心に、僕が殺したはずの彼女たちが立っていた。
腐敗で崩れ落ちた顔で怨めしそうな恐ろしい形相のジャクリーン。
体内のガスで風船のように膨れ上がって目や鼻から体液を垂れ流すミシェル。
うっかり首の骨を圧し折ってしまって、首が伸びて垂れ下がっているナンシー。
そして何度もレンガで殴り付けられて潰れた顔の僕が始めて殺したジョアンナ。
フラフラとした足取りで死体たちが僕に近付いてくる。
「怖くはないんでしょう?だってそうよね。死体を犯したと願って、腐敗していようがしていまいがお構いなしに勃起するような変態にとっては、まさに待ち望んだ結果なんでしょ。さぁ、お望み通り死体は甦ったわ。」
ガクガクと足が震えている。
うまく立っていられなくて、僕は尻餅を突いて床に座り込んでしまっていた。
「ああ、そうそう。彼女たち、別にゾンビとして生きたくはないんだって。だからあなたの精液もいらない。欲しいのはあなたの命だけなんだって。仕方ないわよね。そうされるだけのことを、あなたやってしまったのだもの。」
もう一度、エルザが指を鳴らすと明かりが消えた。
何かが近付いてくる足音だけがギシリ、またギシリと部屋に響く。
「た……助け…!!」
懇願する僕。
しかし、エルザは暗闇の中から無邪気な声を出して笑っていた。
「嫌よ。もうあなたに情けをかける価値なんて欠片もないんだから。」
『次のニュースです。
郊外の東ダイタオ村の民家で男性1人、5人の腐乱死体が発見されるという
奇妙な事件が発見されました。
男性はこの家に住む、無職のエドワード=レクターさん22歳。
5人の腐乱死体のうち4人は、近頃発生した連続殺人事件の被害者で
警察の方で調査中であったり、すでに埋葬されていたはずだったのですが、
突然煙のように消え失せ、エドワードさん宅で発見されたとのことです。
そして御許不明のもう1人の腐乱死体は死後2ヶ月以上経過しており、
警察の捜査の結果、付着した体液などの状況から
エドワードさんは死ぬ寸前まで性交をしていたということが判明しております。
またエドワードさんも死体に首を絞められたり、
顔が判別し難い状態まで殴られていたりと奇妙な点が多く、
警察ではこれまでの殺人事件との関連性を調査していく方針です。
では、以上でこの時間のニュースを終わります。
この時間のお相手は、エルザでした。』
ザクッ……
冷たい雨が降る中、僕は土を掘り続ける。
ザクッ……
ザクッ……
深く深く埋められたアレを掘り出さなければ。
ザクッ……
ザクッ……
一度掘り起こされた土を、何度もシャベルで掘り返す。
ザクッ……
ザクッ……
段々と腕が重くて持ち上がらない。
ザクッ……
ザクッ……
肉体労働などしたことがないというのに、僕は一心不乱に土を掘り返す。
ザクッ……
ザクッ……
…………ガッ
ぶつかった。
やっと目的の物へと辿り着いた。
僕は喜び、さっきまでの疲れなど忘れて周囲の土を掘り返し、その目的の物の形がハッキリとわかるまで掘り続ける。
現れたのは、蓋に教会の祝福の施された縦長の匣。
ここは村の共同墓地。
冷たい雨。
冷たい風。
無音、静寂。
ただ僕の荒い呼吸だけがやけに耳に付く。
鼓動が耳の傍で聞こえるくらいに大きく聞こえている。
怖い。
ただ一人、墓場にいることが怖いのではない。
今この瞬間に道徳観念を取り戻して引き返してしまうことが何よりも怖かった。
僕は、この棺の中にいる者を想像して、期待に胸を膨らませている。
抑えられなくなった性欲に、股間を大きく膨らませている。
ガッ……、バキッ…、ベキッ……
僕は乱暴にシャベルを叩き付けて、棺の蓋を抉じ開けようと試みる。
釘でしっかりと封印された棺はなかなか開かない。
乱暴にしすぎたせいか、いつの間にか手を切ってしまって血が流れていたが、僕は自分のことを気にしていられる余裕など、すでになかったのである。
どれくらい、時間が経っただろうか。
やっと蓋が持ち上がり、苦労の末に棺の蓋を開けることが出来た。
掘り返す時や蓋を外す作業と同じように、乱暴に棺の脇に蓋を投げると僕はカンテラの灯りで棺の中を照らして、その中で眠っている者を確認すると、自分でも気味が悪いと思ってしまうくらいににやけてしまった。
中に眠っていたのは女性。
僕より確か5つ年上の美女。
二度と目を覚ますことない死者。
それは冒涜。
だけど僕には神聖な儀式。
この眠れる永遠の美女を犯したい。
募る想いは、墓荒しという行為で現実のものとなった。
―――――――――――――――――――――――
彼女、エルザと生前に会話をしたことはない。
むしろ生きている頃には何の魅力を感じなかった。
村で擦れ違う程度なら何度か数えるくらいはあったような気がする。
その程度しか印象のない彼女の墓を、掘り起こすに至ったのは至極簡単な理由だ。
彼女が暴漢に襲われて命を落とし、その葬儀に僕も参列したからだ。
彼女を襲った男は逮捕され、つい先日に簡単な裁判の後に首を吊るされた。
そんな慰みと悲しみの中で行われた葬儀に参加した僕は、事件の簡単なあらましと、どのように彼女が死んでいったのかを村人同士の噂話を頼りに聞き、密かに欲情していた訳なのだが、最後のお別れの時、棺の中で眠るエルザに僕は心を奪われた。
後は朽ちていくだけの永遠の美女。
乱暴された跡だとわかる唇の傷。
首に残された男の手形。
その痛々しい抜け殻に僕は、初めて恋をした。
葬儀が終わって数日経っても、僕の頭の中に彼女の死に顔が焼き付いていた。
何度も彼女の最期を想像し、彼女の死に顔を思い出しては、勃起した分身を自分で慰めてはみたものの、何度精を吐き出しても治まる気配はなかった。
寝ても覚めても、絶望のうちに死んだ彼女を思い出して欲情する僕は、ついに日常生活すら困難になり、家に閉じ篭って色々な手を尽くして自分を慰め続けた。
無論、そんな生活が長続きするはずもなかった。
そして、ついに雨の降る夜。
僕はエルザを掘り起こすことを決意し、今こうしてエルザと対面したのであった。
持って来たナイフで彼女の死に装束を胸元から切り裂く。
慣れない作業に時間がかかってしまったのだが、時間をかけて人生を終えた彼女を生まれたままの姿に戻していく。
「嗚呼……、なんて…。」
綺麗なんだろう、と僕は感嘆の声を上げた。
死後数日経って土気色になった肌。
生気をまったく感じさせないパサパサの髪の毛。
筋肉の張りがなくだらしなく垂れている大きな胸。
そして服の上からではわからなかった腹部の大きな刺し傷。
「ここを……、ここを刺されたんだね。」
エルザに寄り添い、物言わぬ彼女に刻まれた傷に指を突っ込む。
まるで愛撫するかのように周囲をなぞり、やさしく傷口の感触を指で確かめる。
ぬるり、ぬるりと血液とも体液とも付かない感触に背筋がゾクゾクした。
僕は今、彼女に触れている。
その事実だけで、僕は射精してしまいそうなくらいに勃起していた。
服を着ていれば、その摩擦だけで往ってしまう。
そう思った僕はその場で服を脱ぐ。
冷たい雨と風に、身体が震えたけど、そんなことはもうどうでも良かった。
これから彼女と性交する。
これからのことを考えると、喜びで寒さなど感じている余裕はなかった。
棺の中で眠るエルザに覆い被さる。
傷付いた唇を無理矢理抉じ開けキスをする。
死臭が少し鼻に付くが、臭いが雨に流されてそう気にならなくなる。
大きく垂れた胸の感触を楽しむ。
弾力というものは皆無だが、ぶよぶよとした独特の感触に、油断してうっかり射精していまった。
それから様々な場所を愛撫した。
見知らぬ男に汚された秘所を。
深々と抉られた傷口を。
足の先から耳の中まで、僕はこの舌で嘗め尽くした。
これで性交をしやすくなる訳ではない。
むしろこれはただの自己満足。
こうしてあげたいから、死体の君を愛撫する。
君は快楽に身を捩ることはないけれど、僕は君で快楽に身を委ねるよ。
「はぁ………、はぁ……!」
我慢は、とうに限界を迎えていた。
一度射精したものの、それで治まりが付くはずもなかった。
ついに、彼女の中へと入る。
僕は持って来た潤滑油を自分の分身に塗りたくる。
そして決して濡れることのない彼女の秘所の入り口から中身にかけて、丹念に丹念に潤滑油を指で滑らせ、準備を整える。
塗り終わると彼女の秘所は、ヌラヌラと妖しいぬめりを宿した肉壺に変わる。
僕は、見たこともない殺人者に感謝した。
あなたのおかげで、僕は彼女と結ばれる、と…。
「……挿れますね。」
死んだことで重さを増した彼女の下半身を持ち上げ、脚を開いて棺の外枠に引っ掛ける。
死後硬直など、すでに終わっているから身体はグニャグニャ。
少しでも力加減を間違えてしまえば、彼女の身体はズタズタに崩れてしまうだろう。
そうなっても構わないが、せめて最初の瞬間くらいは原形を留めたままでいてほしいものだ。
腰を浮かせて、潤滑油でヌルヌルする秘所に分身の先が触れる。
死者特有の冷たい感触にブルッと背筋に寒いものが走る。
これで膣に挿れたらどうなってしまうのだろう。
想像しただけでビクビクと分身は待ち焦がれていた。
ここは焦らさず一気に………。
ずにゅ……
「うわぁ…。」
熱を感じない膣。
冷たく、それでいて潤滑油のぬめりと、腐敗によるぬめりという未知の快感に思わず僕は声を上げ、彼女の一番奥まで突っ込んだまま打ち震えて、その感触を楽しんでいた。
やがて震えが治まると僕はあることに気が付いた。
ビクン、ビクンと何度も痙攣する僕の分身。
「あ……、挿れただけで…。」
情けない話ではあるが、強すぎる快感と過剰な期待の前には無理もないことだと思う。
やがて射精が治まった。
どれだけ出したのか検討も付かないが、冷たい彼女の膣の感触が暖かく感じられるようになった。
吐き出した精液が潤滑油と腐敗と交わって、不快な死臭と扇情的な淫臭を僕の鼻に届け、射精し終えて萎えかけた分身に再び硬さを甦らせる。
とはいえ、二度射精したばかりで敏感になりすぎていた僕は、ゆっくりと彼女の膣を行き来し、何とも言えぬぬめった感触を楽しんでいた。
そう、その時までは…………。
―――――――――――――――――――――――
「ふぅん……、そうやって私のことを殺したんだ。」
「…………!?」
見られた!
慌ててあたりを見回したけど、どこにもそんな姿は見受けられない。
どこだ、どこに消えたんだ。
「ここよ。」
その声が聞こえた途端、棺の淵にかけて広げていた脚が閉じ、蟹挟みのように僕の腰に絡みつくように、僕を拘束した。
僕は信じられなかった。
今、目の前で犯している死体が目を見開いた。
ニタリと笑うと、ダラリとした身体に力が入り、筋肉の張りが甦った。
そして信じられない程強い腹筋操作で膣の奥に入り込んだ僕の分身を押し潰した。
「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「あら、痛かった?私はもっと痛かったわ。頬を叩かれて、首を絞められて…。気が付いたら初めてを奪われて、抵抗したらナイフで刺してくれたわね。まさか死体になっても犯しに来てくれるなんて、よくもありがとう。どういう訳だかわからないけど、おかげ様で生き返ることが出来たわ。」
「痛い……!痛い…!!」
懇願するように泣き叫んだ。
そんな僕を見て、彼女は目を細める。
「そう、痛いわね。でもお生憎様。私はもう痛くも何ともないの。憎くて憎くて恋焦がれていた分だけ、苦しみなさい。気が済んだら、殺してあげる。」
「違う……!君を殺したのは僕じゃ…、な……、ない…!」
痛みに泣きながら僕は白状した。
彼女を殺した男はすでに死刑になったこと。
そして彼女を犯しているのは、死体となった彼女に欲情して、死体の彼女と関係を持ちたいと思った、僕の事件とはまったく関係のない行動だと。
「……そう、あいつは死んでいたのね。」
「…そうです。」
「そしてあなたは、死んだ私に欲情した。救いようのない変態ね。」
「すみません。」
「ま、その変態のおかげで私は生き返った訳か。まぁ、死後レイプは不問にしてあげる。でもそろそろ抜いてくれないかしら。もう妊娠したりすることはないけど、さすがに寒空の下で裸でいるのは居心地良くないわ。」
そう言ってから、やっと僕は彼女から解放される。
ずるり、と音を出して、膣から引き抜かれた分身はまだ硬いまま。
そして引き抜く時の感触で、射精しながら抜いてしまったせいで何度も激しく痙攣して、精液を撒き散らして彼女の身体に零してしまった。
「………ごめんなさい。」
「本当に救いようのない変態ね。まぁ、良いわ。その代わりにあなたの家に連れて行ってよ。死んだ人間が自分の家族の下に帰る訳にはいかないし、どこかに行くにもこんな格好じゃどこにも行けないわ。それに随分と死んでから時間が経ったみたいだし、少しは身体を洗いたいわ。あ、私のお墓は綺麗に直しておいてね。自分の不始末は自分で片付けなさい。」
―――――――――――――――――――――――
エルザと暮らし始めて1週間。
ゾンビとやらになって生き返った彼女は生前、貞淑とした人生を送っていた反動なのか非常に好色になってしまっていた。
彼女を連れて帰ったその日も、シャワーを浴びてベッドに腰掛けると状況を未だ整理し切れていない僕に向かって股を開いて誘惑してきた。
「何だか、まだ燻ってるの。」
そう言って、指で開いた膣はドロドロで僕の放った精液がドロリと流れ落ちていた。
そこだけは洗い流さなかったらしく、ようやく萎え始めた分身が硬さを取り戻すのに然程時間を必要とせず、彼女に誘われるまま、今日まで腐敗臭と淫臭の漂う彼女の身体に僕は虜になっていた。
もっとも彼女は僕のことを『ネクロファリア』と蔑んで、蔑まれるたびにビクビクと暴れる僕の分身を楽しんでいるようなところもあったのだが…。
この日も僕は夜遅くに帰宅した。
雨が降る中、仕事に疲れてクタクタになって家に帰り着くと、エルザがテレビの明かりだけの暗い室内で、いつものようにソファーに深く腰掛けて僕を待っていた。
今日も裸で。
「電気、点けても良かったのに。」
「そんな気分じゃないの。」
どうやら不機嫌な彼女。
僕はそんなエルザの気配を感じつつ、部屋着に着替えようと服を脱ぎ始める。
するとエルザは言った。
「シャツに血が着いているわ。」
「えっ!?」
思わず、シャツに目を向ける。
だが、どこにも血など着いてはいない。
「う・そ♪」
「………ビックリしたよ。突然、そんなことを言うもんだから…。」
「そうね、ビックリするわよね。血なんか着けるような殺し方はしないものね。」
「……………………!?」
エルザが溜息を吐く。
「結局、あなたも同罪。あの男と寸分違わぬ下種だったのね。」
「エルザ、何を言って…………。」
ピッ
エルザがテレビのチャンネルを変えた。
何のドラマかわからない番組から、報道番組にチャンネルが変わる。
『今日の午後5時頃、また娼婦が殺されて数日経ってから発見される
という事件がバンブータウンストリートで起きました。
犯行の手口はこれまで起こった4件の事件と同様で、
首を絞められて殺された後、
死後数日経ってから何度もレイプされた後に発見されるというもの。
警察は近隣の住民から聞き込みをして、犯人像を絞り込むと同時に……』
ブツッ
エルザがテレビを消し、部屋に重苦しい静寂と暗闇が舞い降りる。
「僕は…!」
「私の責任ね。そうでなければ、あなたはずっとこの小さな部屋の中で妄想と自慰で誰にも迷惑をかけずに生きることが出来た。なのに、ただの死体だった私を犯して、運悪く生き返った私にあなたはさらに欲情した。それだけじゃ飽き足らず、ついにはまた一から私を作り出したいと思ったあなたは見ず知らずの他人を殺して、腐敗が進み出してから死体をレイプして、死体が生き返ることを望んだ。でも……、生き返らなくて、死体の処分に困ったあなたは誰にも見付からないように細心の注意を払って死体を捨てた。それも堂々と大通りに。」
「僕を、警察に売るのか…。」
暗闇の中でエルザが笑っている。
楽しそうに、そして僕を犯す時のように蔑むように。
「売りはしないわ。だって私、もう人間じゃないんだもの。」
「それなら…。」
「私はあなたがあの下種と変わらないことに怒ってはいるけど、別に許せないって程じゃないんですもの。でもね、私はそうでも……。」
パチン、と暗闇の中で彼女は指を鳴らした。
「彼女たちはそうでもないみたいよ。」
部屋の明かりが一斉に点いて、僕は腰を抜かした。
部屋の四隅、エルザと僕を中心に、僕が殺したはずの彼女たちが立っていた。
腐敗で崩れ落ちた顔で怨めしそうな恐ろしい形相のジャクリーン。
体内のガスで風船のように膨れ上がって目や鼻から体液を垂れ流すミシェル。
うっかり首の骨を圧し折ってしまって、首が伸びて垂れ下がっているナンシー。
そして何度もレンガで殴り付けられて潰れた顔の僕が始めて殺したジョアンナ。
フラフラとした足取りで死体たちが僕に近付いてくる。
「怖くはないんでしょう?だってそうよね。死体を犯したと願って、腐敗していようがしていまいがお構いなしに勃起するような変態にとっては、まさに待ち望んだ結果なんでしょ。さぁ、お望み通り死体は甦ったわ。」
ガクガクと足が震えている。
うまく立っていられなくて、僕は尻餅を突いて床に座り込んでしまっていた。
「ああ、そうそう。彼女たち、別にゾンビとして生きたくはないんだって。だからあなたの精液もいらない。欲しいのはあなたの命だけなんだって。仕方ないわよね。そうされるだけのことを、あなたやってしまったのだもの。」
もう一度、エルザが指を鳴らすと明かりが消えた。
何かが近付いてくる足音だけがギシリ、またギシリと部屋に響く。
「た……助け…!!」
懇願する僕。
しかし、エルザは暗闇の中から無邪気な声を出して笑っていた。
「嫌よ。もうあなたに情けをかける価値なんて欠片もないんだから。」
『次のニュースです。
郊外の東ダイタオ村の民家で男性1人、5人の腐乱死体が発見されるという
奇妙な事件が発見されました。
男性はこの家に住む、無職のエドワード=レクターさん22歳。
5人の腐乱死体のうち4人は、近頃発生した連続殺人事件の被害者で
警察の方で調査中であったり、すでに埋葬されていたはずだったのですが、
突然煙のように消え失せ、エドワードさん宅で発見されたとのことです。
そして御許不明のもう1人の腐乱死体は死後2ヶ月以上経過しており、
警察の捜査の結果、付着した体液などの状況から
エドワードさんは死ぬ寸前まで性交をしていたということが判明しております。
またエドワードさんも死体に首を絞められたり、
顔が判別し難い状態まで殴られていたりと奇妙な点が多く、
警察ではこれまでの殺人事件との関連性を調査していく方針です。
では、以上でこの時間のニュースを終わります。
この時間のお相手は、エルザでした。』
11/04/06 00:38更新 / 宿利京祐