act21・うろこ日和〜おやすみなさい〜
暖簾を潜って、
ガラリと戸を開ければ…。
「いらっしゃいませ…あら、ガーベラちゃん。今日は遅かったわね。」
「こんばんわ、アケミさん♪」
やってきました、フラン軒。
本当だったらお姉ちゃんと一緒じゃなかったら、居酒屋のフラン軒には子供一人で来ちゃいけないんだけど、学園長先生から店長のアケミさんに話が行っているおかげで、好きなだけ大好物の鶏の唐揚げを食べることが出来る。
もちろん、お金は学園長先生持ち♪
「カウンターで良いかしら?」
私の指定席、カウンターの端っこの席に座ってアケミさんに注文をする。
もちろん唐揚げ定食、ご飯大盛り♪
飲み物はウーロン茶。
「へぇ、こんな子供もお店に来るんだね。良い店を作ったじゃないか、アケミ。」
「作ったんじゃないの。そういうお店になったのよ。」
あれ?
この人、誰だろう?
見たことがないけど、すごく綺麗で、天使様とは別の何だか妖しい感じの女の人。
たぶん、サキュバスだよね。
何だかアラビアンナイトに出て来そうな服装…。
「ああ、気にしないでおくれ。この格好は趣味みたいなものだよ。私の名は……、そうだね…。ルシィと呼んでくれないかな?色んな名前がありすぎて何と名乗ったら良いかわからないものでね。」
「えっと…、色んな名前ってもしかして役者さんなんですか?」
「そうだね。そうかもしれないね。ルシフェル、アンリ=マユ、ノブナガ、サタ…、いやいや。私がこれまで名乗った芸名を数えればキリがないよ。確かに役者かもしれないな。今の職業に就くまで何でもやったね。ゴミ掃除、後片付け屋、今じゃプログラマーとして日々忙しい毎日さ。ああ、昔はポルノ女優もやったことがあったなぁ…。」
こつん
ルシィお姉さんの頭をアケミさんが小突いた。
「こぉら、こんなお嬢さん捕まえて何を語ってるの。ごめんねぇ、ガーベラちゃん。この人、私の幼馴染なんだけど酔っ払うと昔話したり、訳のわからない言い回しで話し出す悪い癖があるのよ。それにルシィなんて、何世紀前の名前を名乗るつもり?」
「ひどいじゃないか、親友。わざわざ君を訪ねて遠方から来たというのに、そう邪険にしなくても…。せっかく口煩い部下から解放されたと思っていたのに、君まで昔のように口煩く私を諌めるのかい?」
「………はぁ。ロウガもそうだけど、あなたって相変わらずなのね。」
何だかよくわからないけど、お姉さんとアケミさんは昔話をしている。
よくわからないから、とりあえず持って来てもらった定食を食べちゃおう♪
じゅ〜っと揚げたての唐揚げにレモンをかけて〜♪
ついでに塩胡椒を私好みにパッパッとかけちゃって♪
ご飯、よーし!
味噌汁、よーし!
アケミさんお手製の漬物、よーし!
「では、いっただっきまーす!!」
ぱくっ
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪
モモ肉のジューシーさと、レモンのサッパリ具合が堪りませんな〜♪
やっぱりお仕事やった後の、フラン軒名物、しょっぱい味噌汁もか・く・べ・つ♪
ご飯が進むよ〜♪
特製ドレッシングのかかったキャベツの千切りもウマーーー♪
まいう〜ってやつだよ♪
「………アケミ、おつまみに私にも唐揚げを単品で頼む。この子を見ているとお腹が空いてしまった。それとお酒のお代わりを頼むよ。テキーラをピッチャーで持って来てくれ。」
「ガーベラちゃんは本当においしそうに食べるからねぇ。唐揚げとテキーラね。」
「そこのボトルを開けてくれよ。」
「……これ、ロウガのよ?」
「大丈夫。あいつの物は私の物、私の物は私の物という格言がジパングにはあるというじゃないか。しかし……、うちの中将のアルヴァロスの嫁…。あのバフォメット、名前は何だっけかな?私も昔はあの娘みたいにジパングの着物を着ていた時期があったんだが、どうも私は似合わないらしい。」
学園長先生の名前の入ったお酒の瓶を、お姉さんは遠慮なくピッチャーの中に入れていく。
あっという間に空になった瓶をアケミさんに渡すと、お姉さんはまたピッチャーが溢れんばかりになるまで注ぎ続けていた。
「請求書は、ロウガ行きっと♪」
「あいつの方が最近稼いでいるしね。」
あ、悪(あく)い…。
そういえば、たまに学園長先生や他の先生たちとフラン軒で鉢合わせすることがあるんだけど、みーんな学園長先生宛で支払いをしていたような…。
アヤノ先生も。
宗近お姉さんも。
ダオラお姉さんも。
アキ先生も、ルナ先生も、マロウ先生も、アスク先生も…。
それで学園長先生はいつもベロベロに酔っ払わされていたっけ。
「お嬢さん、お飲み物のお代わりはよろしいでしょうか?」
「え、あ、それじゃあ……。」
ウーロン茶をお願いします、と言おうと見上げるとどこかで見た顔が…。
フラン軒の従業員の制服。
綺麗な顔しているけど男の人で、土気色の肌をしているからゾンビだってのはわかる。
いや、むしろ……、忘れるはずのない人じゃん。
「あの時の殺し屋さん!!!」
「嬉しいですね。覚えていていただきましたか?」
「忘れるはずがないでしょう!!!」
天使様を狙った殺し屋。
本編でいうと第69話で登場したゲストさん。
ドライグさんがボロボロになって倒して、自殺しちゃった人。
えっと……、名前は確か…。
「読者の皆様、お久し振りです。代行者アルスタイト、地獄の淵より戻って参りました。もっとも、完全復活ではありませんけれどね。腰は金属ボルトで固定中ですし、復活するに当たって女将さんにタマタマを捻じり切られて、ルシィさんの手で色々と身体の内部を改造されちゃいました。いやぁ、麻酔なしで改造するものだから、痛覚がなくって本当に良かった♪」
「誰に話しかけているんです?こっち向いて話してくださいよ。」
そう、天使様を狙った大悪党…、のはずだったんだけど…。
何だか性格軽くなってない?
「ふふふ、そう身構えないでください。私はこれでも立派に更生したのですよ。今まで培った殺しの技術をそっくりそのまま料理にぶつけることによって、私の特殊性癖も満たされ、さらに元々役立たずの股間を失ったことで、フラストレーションが溜まることはなくなったのです。そう、私はある意味新種のアルプ!」
「「「それはない。」」」
殺し屋さんの主張に、アケミさんもルシィお姉さんも私も同時に即否定をした。
謝れ。
ここ最近、アルプに萌えて、ショタ最高って喜んでいる人たちに大いに謝れ。
「そんな訳で、今はしがない居酒屋の店員なのです。私を倒したあの男もこの店で働いていたそうですね。何故だか死体とは言え女の身体を手に入れて以来、急に彼を身近に感じるようになってしまったのですよね…。身体的にも精神的にも不感症だったはずなのに、どうも彼のことを考えると最近身体が疼いてしまって…。」
………私の女の勘が言っている。
この男?は私の敵だと。
私の彼氏を寝取る気満々の殺し屋ならぬ泥棒猫だと!
「も、元男なんかに負けてたまるかぁーーーっ!!!!」
私はまだ子供だけど。
こいつには敵いっこないけど。
リザードマンとして、
何より最愛の彼氏を守りたいという一人の女として!
すべてのプライドを賭けて、私と元殺し屋さんとの戦いの火蓋は切って落とされた。
「へっくし!へっくし!へくちん!」
「汚え!大丈夫か、ウェールズ?最近、クシャミ鼻水ばかりじゃないか。ほら、ティッシュ使えよ。ゴミ箱を妊娠させない程度に使うんだぜ。」
「……すまぬ、クック。ついでで悪いが風邪薬などないか?どうやらインフルエンザらしい。」
「来るな!季節外れにインフルエンザを移されてたまるか!!」
「…ならば、力尽くで移すのみ。」
「やめてくれ、マジで!今倒れてみろ。せっかく盛り上がった本編での出番もなくなるし、何より看病と称してうちの連中が面白がって、あいつらから太ネギを何本もケツに挿されてしまう!!」
「……………………え?い、入れないのか!?俺の母さんはいつも…。」
「…………………………………え?」
――――――――――――――――――
かぽーん……
ぴちゃん…
シャカシャカシャカシャカ…
「一瞬だったんだよ、お姉ちゃん。私と殺し屋さんとのデュエルが始まる瞬間、アケミさんが物凄いスピードで割って入ってきて、私のおでこにデコピンで弾いたら、殺し屋さんをあっという間に倒しちゃったんだよ!」
「あの人はこの町の裏番長だって聞いたことがあるから納得してしまうね。」
自警団のお仕事が終わったお姉ちゃんと一緒にお風呂♪
今はお姉ちゃんに頭を洗ってもらっているんだ♪
お姉ちゃんは自分の頭を洗い終わって、長い髪をタオルで巻いている。
…お姉ちゃんみたいに綺麗になるかわからないけど、私も伸ばそうかなぁ。
私って結構動き回るからショートカットも楽で良いんだけど、もしもドライグさんがロングヘアの方が好きだったらどうしよう…。
「ふふ、お客さん。痒いところはありませんかぁ?」
「耳の裏が痒い〜。」
「かしこまりました。では、こちょこちょ♪」
「〜〜♪」
う〜ん、気持ち良い♪
「本当に凄かったんだよ。強烈なレバーブローで動きを止めたかと思ったら、ガゼルパンチで殺し屋さんの顎を完璧に打ち抜いたんだよ。それでね、それでね。顎を打ち抜かれてぼんやりしていた殺し屋さんに、とどめって感じにこう、身体全体で∞の軌道を描いて何発もフックを叩き込んだんだ。まるで竜巻だったね。」
「……それって幕之内が千堂をKOしたコンビネーションじゃないか。」
「ところでお姉ちゃん。げんすい、って何?アケミさんのお友達のお姉さんがアケミさんのことを、さすが元げんすいって嬉しそうに拍手していたんだけど…。お姉ちゃんは意味がわかる?」
ピタッ
あ、お姉ちゃんの手が止まった。
「た、確かにそう言ったの!?」
「うん、アケミさんのことをげんすいって呼んで、アケミさんはそのお姉さんのことを……、えっと…、ルシィって言ってたよ。お姉さんの芸名の一つでルシフェルって名前を縮めたって言っていたような…?」
お姉ちゃんは蒼褪めた顔をした。
私、何か不味いことを言ったのかな?
「そ、それは他の人に言わない方が良いよ。」
「お姉ちゃん、凄い!意味がわかったの!?」
「わかったからこそ、絶対に他の人に言っちゃいけないよ。人は誰にでも知られたくない過去ってものがあるんだからね。ましてやアケミさん程の人物であれば人に知られたくない秘密の一つや二つはあるんだからね。」
ざばー
洗面器で波々と掬ったお湯でシャンプーを落とされる。
「ほら、綺麗になった。」
頭を振って、お湯を振り払う。
お姉ちゃんは柔らかいタオルで私の頭をスッポリ包むと、やさしく髪の毛を拭いてくれた。
「後は身体を洗って……ん?」
「お姉ちゃん……、抱っこ。」
「どうしたんだい?」
「ん〜、何となく。」
時々、私はお姉ちゃんに甘えたくなる。
天使様にしてもそうだけど、死んだお母さんみたいにやさしくされると、何だか思い出してしまって、急に寂しくなって、抑えようがないくらいに甘えたくなってしまう。
「……おいで。」
お姉ちゃんもそれがわかっている。
だから、そうなってしまった私を黙って抱き寄せてくれる。
お姉ちゃんのやわらかい胸の中で、私は離れてしまわないようにぎゅっと抱き付いた。
髪を撫でてくれる手が優しくて、気持ちが良くて、うっかり眠りそうになる。
「……大きな赤ちゃん。私はまだ子供はいないけど、君が一緒にいてくれるだけで、実は私も嬉しいんだよ。砂漠にしがみ付いていれば、お互いにこういう温もりも知らなかったし、きっと家族にもなれなかったんだからね。だから私は嬉しい。こうして甘えてくれる君がいてくれて…。君を生んでくれたお母様、私たちを受け入れてくれた人々にどれだけ感謝しても足りないくらいに感謝している。時々、こうしてお互いに慰め合おうね。私たちは、家族なんだから。さぁ、そろそろ温まらないと身体が冷えて、風邪を引いてしまうよ。」
そう言って、お姉ちゃんは私にお湯をかけて頭を撫でてくれた。
いつも迷惑かけているんだけど、やさしい笑顔でお姉ちゃんは応えてくれる。
私もお姉ちゃんと出会えて良かった。
そうでなかったら、きっとこんな暖かな暮らしは出来なかったんだから。
お金とか、そんなんじゃないよ。
心が暖かい暮らしなんて、砂漠でも忘れていたんだから…。
だから、お姉ちゃん。
本当に、ありがとう。
私と、出会ってくれて…。
ずっと、仲良くしようね。
『お揃いね、私たち
お揃いね、ああ幸せ〜♪
……。
…。
はい、今回も始まりました、ステラのラジオ キラキラ…』
お布団敷いて、ラジオを付けて、日記を書いて今日という日を終わる。
ラジオの録音もバッチリ♪
うちって電波状況が良いから雑音が入らなくて、本当に助かるな〜♪
でも、録音カセット代が結構かさむんだよね。
私、お休みの日は劇場で何度も同じ劇を見るからお小遣いのやりくりが大変だよ…。
そろそろ録音した古いテープを上書きするべきかな?
えっと、あれは…、駄目だ!
アレは学園ラジオの初回放送を録音したやつじゃん!
アッチもキラキラ☆星の初回放送と0回放送のレアなやつ!
他にも色んなラジオのレアな回ばかりだから消せないよぅ。
『ロリ巨乳を売りにしておるとは貴様。
ワシに対する嫌がらせか?
ああん?』
『え、きゃあぁぁぁぁぁーーーっ!!!
何で、何でイチゴちゃんがテーブルの下に潜んでいるのー!!!
ゲストで呼んだ覚えもないのにぃーっ!?』
『イチゴ先生!
打ち合わせ抜け出してどこに逃げたかと思えば!!
ごめんなさい、ステラちゃん。
すぐにこの外道を連れ出すから!!
変身!
魔女っ娘!
わんわん!
ネフェル!
ティー!
タァァァァァァーッ!!!』
『やーめーてー!!
こんなところで暴れないでぇー!!!』
(ぴんぽんぱんぽ〜ん♪
しばらくお待ちください)
………間違いなく、これも消せない。
きっとラジオCDが出されても、この回だけは封印されそうな気がする…。
伝説の目撃者になっちゃったかも♪
「ガーベラ、そろそろ寝ないと明日も学校でしょ?」
「うん、わかっているよー。」
ラジオのボリュームを落として、私は部屋の明かりを消して布団に入り込む。
お姉ちゃんがお仕事に行く前に、ちょっとだけ干していてくれたおかげで、ほんのり暖かくて、お日様の良い匂いがする。
お姉ちゃんは髪の毛を乾かして、香油を塗ったり、念入りに櫛を通している。
明日もあのお兄ちゃん候補の人とデートするんだってさ♪
もうすぐ3人家族かぁ…。
いや、違うね。
4人にも5人にも増えて、賑やかで楽しい家になるんだ♪
お姉ちゃんとあの人の子供なら…。
きっと可愛い子が生まれるんだろうな♪
………………………うふ♪
これにドライグさんが加わって、姉妹でハッピーライフも夢じゃないね♪
そんな夢を描きつつ、不本意だけど今日も早く眠る。
学校さえなかったらなぁ、という贅沢な悩みを口に出してみる。
でもお友達に会える学校が好きで、色んなことを学べる学校が好きだから、しょうがないなぁってぼやいて今日も一日を終わらせる。
宿題?
そんなのあったっけ…?
…………………………………えへ♪
それでは、おやすみなさい。
また明日ね♪
ガラリと戸を開ければ…。
「いらっしゃいませ…あら、ガーベラちゃん。今日は遅かったわね。」
「こんばんわ、アケミさん♪」
やってきました、フラン軒。
本当だったらお姉ちゃんと一緒じゃなかったら、居酒屋のフラン軒には子供一人で来ちゃいけないんだけど、学園長先生から店長のアケミさんに話が行っているおかげで、好きなだけ大好物の鶏の唐揚げを食べることが出来る。
もちろん、お金は学園長先生持ち♪
「カウンターで良いかしら?」
私の指定席、カウンターの端っこの席に座ってアケミさんに注文をする。
もちろん唐揚げ定食、ご飯大盛り♪
飲み物はウーロン茶。
「へぇ、こんな子供もお店に来るんだね。良い店を作ったじゃないか、アケミ。」
「作ったんじゃないの。そういうお店になったのよ。」
あれ?
この人、誰だろう?
見たことがないけど、すごく綺麗で、天使様とは別の何だか妖しい感じの女の人。
たぶん、サキュバスだよね。
何だかアラビアンナイトに出て来そうな服装…。
「ああ、気にしないでおくれ。この格好は趣味みたいなものだよ。私の名は……、そうだね…。ルシィと呼んでくれないかな?色んな名前がありすぎて何と名乗ったら良いかわからないものでね。」
「えっと…、色んな名前ってもしかして役者さんなんですか?」
「そうだね。そうかもしれないね。ルシフェル、アンリ=マユ、ノブナガ、サタ…、いやいや。私がこれまで名乗った芸名を数えればキリがないよ。確かに役者かもしれないな。今の職業に就くまで何でもやったね。ゴミ掃除、後片付け屋、今じゃプログラマーとして日々忙しい毎日さ。ああ、昔はポルノ女優もやったことがあったなぁ…。」
こつん
ルシィお姉さんの頭をアケミさんが小突いた。
「こぉら、こんなお嬢さん捕まえて何を語ってるの。ごめんねぇ、ガーベラちゃん。この人、私の幼馴染なんだけど酔っ払うと昔話したり、訳のわからない言い回しで話し出す悪い癖があるのよ。それにルシィなんて、何世紀前の名前を名乗るつもり?」
「ひどいじゃないか、親友。わざわざ君を訪ねて遠方から来たというのに、そう邪険にしなくても…。せっかく口煩い部下から解放されたと思っていたのに、君まで昔のように口煩く私を諌めるのかい?」
「………はぁ。ロウガもそうだけど、あなたって相変わらずなのね。」
何だかよくわからないけど、お姉さんとアケミさんは昔話をしている。
よくわからないから、とりあえず持って来てもらった定食を食べちゃおう♪
じゅ〜っと揚げたての唐揚げにレモンをかけて〜♪
ついでに塩胡椒を私好みにパッパッとかけちゃって♪
ご飯、よーし!
味噌汁、よーし!
アケミさんお手製の漬物、よーし!
「では、いっただっきまーす!!」
ぱくっ
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪
モモ肉のジューシーさと、レモンのサッパリ具合が堪りませんな〜♪
やっぱりお仕事やった後の、フラン軒名物、しょっぱい味噌汁もか・く・べ・つ♪
ご飯が進むよ〜♪
特製ドレッシングのかかったキャベツの千切りもウマーーー♪
まいう〜ってやつだよ♪
「………アケミ、おつまみに私にも唐揚げを単品で頼む。この子を見ているとお腹が空いてしまった。それとお酒のお代わりを頼むよ。テキーラをピッチャーで持って来てくれ。」
「ガーベラちゃんは本当においしそうに食べるからねぇ。唐揚げとテキーラね。」
「そこのボトルを開けてくれよ。」
「……これ、ロウガのよ?」
「大丈夫。あいつの物は私の物、私の物は私の物という格言がジパングにはあるというじゃないか。しかし……、うちの中将のアルヴァロスの嫁…。あのバフォメット、名前は何だっけかな?私も昔はあの娘みたいにジパングの着物を着ていた時期があったんだが、どうも私は似合わないらしい。」
学園長先生の名前の入ったお酒の瓶を、お姉さんは遠慮なくピッチャーの中に入れていく。
あっという間に空になった瓶をアケミさんに渡すと、お姉さんはまたピッチャーが溢れんばかりになるまで注ぎ続けていた。
「請求書は、ロウガ行きっと♪」
「あいつの方が最近稼いでいるしね。」
あ、悪(あく)い…。
そういえば、たまに学園長先生や他の先生たちとフラン軒で鉢合わせすることがあるんだけど、みーんな学園長先生宛で支払いをしていたような…。
アヤノ先生も。
宗近お姉さんも。
ダオラお姉さんも。
アキ先生も、ルナ先生も、マロウ先生も、アスク先生も…。
それで学園長先生はいつもベロベロに酔っ払わされていたっけ。
「お嬢さん、お飲み物のお代わりはよろしいでしょうか?」
「え、あ、それじゃあ……。」
ウーロン茶をお願いします、と言おうと見上げるとどこかで見た顔が…。
フラン軒の従業員の制服。
綺麗な顔しているけど男の人で、土気色の肌をしているからゾンビだってのはわかる。
いや、むしろ……、忘れるはずのない人じゃん。
「あの時の殺し屋さん!!!」
「嬉しいですね。覚えていていただきましたか?」
「忘れるはずがないでしょう!!!」
天使様を狙った殺し屋。
本編でいうと第69話で登場したゲストさん。
ドライグさんがボロボロになって倒して、自殺しちゃった人。
えっと……、名前は確か…。
「読者の皆様、お久し振りです。代行者アルスタイト、地獄の淵より戻って参りました。もっとも、完全復活ではありませんけれどね。腰は金属ボルトで固定中ですし、復活するに当たって女将さんにタマタマを捻じり切られて、ルシィさんの手で色々と身体の内部を改造されちゃいました。いやぁ、麻酔なしで改造するものだから、痛覚がなくって本当に良かった♪」
「誰に話しかけているんです?こっち向いて話してくださいよ。」
そう、天使様を狙った大悪党…、のはずだったんだけど…。
何だか性格軽くなってない?
「ふふふ、そう身構えないでください。私はこれでも立派に更生したのですよ。今まで培った殺しの技術をそっくりそのまま料理にぶつけることによって、私の特殊性癖も満たされ、さらに元々役立たずの股間を失ったことで、フラストレーションが溜まることはなくなったのです。そう、私はある意味新種のアルプ!」
「「「それはない。」」」
殺し屋さんの主張に、アケミさんもルシィお姉さんも私も同時に即否定をした。
謝れ。
ここ最近、アルプに萌えて、ショタ最高って喜んでいる人たちに大いに謝れ。
「そんな訳で、今はしがない居酒屋の店員なのです。私を倒したあの男もこの店で働いていたそうですね。何故だか死体とは言え女の身体を手に入れて以来、急に彼を身近に感じるようになってしまったのですよね…。身体的にも精神的にも不感症だったはずなのに、どうも彼のことを考えると最近身体が疼いてしまって…。」
………私の女の勘が言っている。
この男?は私の敵だと。
私の彼氏を寝取る気満々の殺し屋ならぬ泥棒猫だと!
「も、元男なんかに負けてたまるかぁーーーっ!!!!」
私はまだ子供だけど。
こいつには敵いっこないけど。
リザードマンとして、
何より最愛の彼氏を守りたいという一人の女として!
すべてのプライドを賭けて、私と元殺し屋さんとの戦いの火蓋は切って落とされた。
「へっくし!へっくし!へくちん!」
「汚え!大丈夫か、ウェールズ?最近、クシャミ鼻水ばかりじゃないか。ほら、ティッシュ使えよ。ゴミ箱を妊娠させない程度に使うんだぜ。」
「……すまぬ、クック。ついでで悪いが風邪薬などないか?どうやらインフルエンザらしい。」
「来るな!季節外れにインフルエンザを移されてたまるか!!」
「…ならば、力尽くで移すのみ。」
「やめてくれ、マジで!今倒れてみろ。せっかく盛り上がった本編での出番もなくなるし、何より看病と称してうちの連中が面白がって、あいつらから太ネギを何本もケツに挿されてしまう!!」
「……………………え?い、入れないのか!?俺の母さんはいつも…。」
「…………………………………え?」
――――――――――――――――――
かぽーん……
ぴちゃん…
シャカシャカシャカシャカ…
「一瞬だったんだよ、お姉ちゃん。私と殺し屋さんとのデュエルが始まる瞬間、アケミさんが物凄いスピードで割って入ってきて、私のおでこにデコピンで弾いたら、殺し屋さんをあっという間に倒しちゃったんだよ!」
「あの人はこの町の裏番長だって聞いたことがあるから納得してしまうね。」
自警団のお仕事が終わったお姉ちゃんと一緒にお風呂♪
今はお姉ちゃんに頭を洗ってもらっているんだ♪
お姉ちゃんは自分の頭を洗い終わって、長い髪をタオルで巻いている。
…お姉ちゃんみたいに綺麗になるかわからないけど、私も伸ばそうかなぁ。
私って結構動き回るからショートカットも楽で良いんだけど、もしもドライグさんがロングヘアの方が好きだったらどうしよう…。
「ふふ、お客さん。痒いところはありませんかぁ?」
「耳の裏が痒い〜。」
「かしこまりました。では、こちょこちょ♪」
「〜〜♪」
う〜ん、気持ち良い♪
「本当に凄かったんだよ。強烈なレバーブローで動きを止めたかと思ったら、ガゼルパンチで殺し屋さんの顎を完璧に打ち抜いたんだよ。それでね、それでね。顎を打ち抜かれてぼんやりしていた殺し屋さんに、とどめって感じにこう、身体全体で∞の軌道を描いて何発もフックを叩き込んだんだ。まるで竜巻だったね。」
「……それって幕之内が千堂をKOしたコンビネーションじゃないか。」
「ところでお姉ちゃん。げんすい、って何?アケミさんのお友達のお姉さんがアケミさんのことを、さすが元げんすいって嬉しそうに拍手していたんだけど…。お姉ちゃんは意味がわかる?」
ピタッ
あ、お姉ちゃんの手が止まった。
「た、確かにそう言ったの!?」
「うん、アケミさんのことをげんすいって呼んで、アケミさんはそのお姉さんのことを……、えっと…、ルシィって言ってたよ。お姉さんの芸名の一つでルシフェルって名前を縮めたって言っていたような…?」
お姉ちゃんは蒼褪めた顔をした。
私、何か不味いことを言ったのかな?
「そ、それは他の人に言わない方が良いよ。」
「お姉ちゃん、凄い!意味がわかったの!?」
「わかったからこそ、絶対に他の人に言っちゃいけないよ。人は誰にでも知られたくない過去ってものがあるんだからね。ましてやアケミさん程の人物であれば人に知られたくない秘密の一つや二つはあるんだからね。」
ざばー
洗面器で波々と掬ったお湯でシャンプーを落とされる。
「ほら、綺麗になった。」
頭を振って、お湯を振り払う。
お姉ちゃんは柔らかいタオルで私の頭をスッポリ包むと、やさしく髪の毛を拭いてくれた。
「後は身体を洗って……ん?」
「お姉ちゃん……、抱っこ。」
「どうしたんだい?」
「ん〜、何となく。」
時々、私はお姉ちゃんに甘えたくなる。
天使様にしてもそうだけど、死んだお母さんみたいにやさしくされると、何だか思い出してしまって、急に寂しくなって、抑えようがないくらいに甘えたくなってしまう。
「……おいで。」
お姉ちゃんもそれがわかっている。
だから、そうなってしまった私を黙って抱き寄せてくれる。
お姉ちゃんのやわらかい胸の中で、私は離れてしまわないようにぎゅっと抱き付いた。
髪を撫でてくれる手が優しくて、気持ちが良くて、うっかり眠りそうになる。
「……大きな赤ちゃん。私はまだ子供はいないけど、君が一緒にいてくれるだけで、実は私も嬉しいんだよ。砂漠にしがみ付いていれば、お互いにこういう温もりも知らなかったし、きっと家族にもなれなかったんだからね。だから私は嬉しい。こうして甘えてくれる君がいてくれて…。君を生んでくれたお母様、私たちを受け入れてくれた人々にどれだけ感謝しても足りないくらいに感謝している。時々、こうしてお互いに慰め合おうね。私たちは、家族なんだから。さぁ、そろそろ温まらないと身体が冷えて、風邪を引いてしまうよ。」
そう言って、お姉ちゃんは私にお湯をかけて頭を撫でてくれた。
いつも迷惑かけているんだけど、やさしい笑顔でお姉ちゃんは応えてくれる。
私もお姉ちゃんと出会えて良かった。
そうでなかったら、きっとこんな暖かな暮らしは出来なかったんだから。
お金とか、そんなんじゃないよ。
心が暖かい暮らしなんて、砂漠でも忘れていたんだから…。
だから、お姉ちゃん。
本当に、ありがとう。
私と、出会ってくれて…。
ずっと、仲良くしようね。
『お揃いね、私たち
お揃いね、ああ幸せ〜♪
……。
…。
はい、今回も始まりました、ステラのラジオ キラキラ…』
お布団敷いて、ラジオを付けて、日記を書いて今日という日を終わる。
ラジオの録音もバッチリ♪
うちって電波状況が良いから雑音が入らなくて、本当に助かるな〜♪
でも、録音カセット代が結構かさむんだよね。
私、お休みの日は劇場で何度も同じ劇を見るからお小遣いのやりくりが大変だよ…。
そろそろ録音した古いテープを上書きするべきかな?
えっと、あれは…、駄目だ!
アレは学園ラジオの初回放送を録音したやつじゃん!
アッチもキラキラ☆星の初回放送と0回放送のレアなやつ!
他にも色んなラジオのレアな回ばかりだから消せないよぅ。
『ロリ巨乳を売りにしておるとは貴様。
ワシに対する嫌がらせか?
ああん?』
『え、きゃあぁぁぁぁぁーーーっ!!!
何で、何でイチゴちゃんがテーブルの下に潜んでいるのー!!!
ゲストで呼んだ覚えもないのにぃーっ!?』
『イチゴ先生!
打ち合わせ抜け出してどこに逃げたかと思えば!!
ごめんなさい、ステラちゃん。
すぐにこの外道を連れ出すから!!
変身!
魔女っ娘!
わんわん!
ネフェル!
ティー!
タァァァァァァーッ!!!』
『やーめーてー!!
こんなところで暴れないでぇー!!!』
(ぴんぽんぱんぽ〜ん♪
しばらくお待ちください)
………間違いなく、これも消せない。
きっとラジオCDが出されても、この回だけは封印されそうな気がする…。
伝説の目撃者になっちゃったかも♪
「ガーベラ、そろそろ寝ないと明日も学校でしょ?」
「うん、わかっているよー。」
ラジオのボリュームを落として、私は部屋の明かりを消して布団に入り込む。
お姉ちゃんがお仕事に行く前に、ちょっとだけ干していてくれたおかげで、ほんのり暖かくて、お日様の良い匂いがする。
お姉ちゃんは髪の毛を乾かして、香油を塗ったり、念入りに櫛を通している。
明日もあのお兄ちゃん候補の人とデートするんだってさ♪
もうすぐ3人家族かぁ…。
いや、違うね。
4人にも5人にも増えて、賑やかで楽しい家になるんだ♪
お姉ちゃんとあの人の子供なら…。
きっと可愛い子が生まれるんだろうな♪
………………………うふ♪
これにドライグさんが加わって、姉妹でハッピーライフも夢じゃないね♪
そんな夢を描きつつ、不本意だけど今日も早く眠る。
学校さえなかったらなぁ、という贅沢な悩みを口に出してみる。
でもお友達に会える学校が好きで、色んなことを学べる学校が好きだから、しょうがないなぁってぼやいて今日も一日を終わらせる。
宿題?
そんなのあったっけ…?
…………………………………えへ♪
それでは、おやすみなさい。
また明日ね♪
11/03/27 20:27更新 / 宿利京祐
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