連載小説
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act20・うろこ日和〜おとなのじかん〜
「犯人確保、犯人確保しました。カジノで大勝ちしすぎて動けなくなっていたところを、午後7時08分に逮捕。アルフォンス総長が到着次第、即刻留置場に連行します。共犯者と見られる稲荷は未だ逃走中。尚、逃げた稲荷は変化の術が得意とのことで、捜索が非常に困難になることが予想されます。また個人武力もアスティア隊長、マイア副長を遥かに凌ぐため、各員油断しないように。」
自警団の赤色灯を頭に乗せたリザードマンが無線機に向かって話しかけていた。
傍らには簀巻きにされたイチゴが転がっている。
「ワシの〜…、ワシの金が〜…!」
「あなたのお金ではないでしょうに。しかし、煩悩は無限大とはよく言ったものですね。まさか一度見回ったはずのカジノに姿を現し、それでいて元金の5倍もの金額を稼いでしまうとは…。」
「仕方がないのじゃ。大首領め、ワシが命懸けで盗った金を、ワシの気付かぬうちに全部木の葉にすり替えて持ち逃げするんじゃもん。気が付いて2割くらいは取り戻したのじゃが、その程度の金ではワシの野望は達成出来ぬ。そんな訳でカジノに来たのじゃ。一度見回ったところは、なかなかもう一度は来ないものじゃからのぅ。」
リザードマンはこめかみに手を当て、困った表情を浮かべる。
「それで勝ちすぎて、カジノ側から連絡が来たという訳ですか…。しかし、当初の目的を忘れてカジノ側を泣かせるとは、まだまだでしたね。」
「だがワシは満足しておる。人生で初めてジャックポットを出したし、ロイヤルストレートフラッシュで勝てたし、九蓮宝燈を天和で出したり、スロットでラオウが昇天したのを見れただけで、今日死んでも構わんと思ったのじゃ。」
「……隊長の旦那様を襲撃したのですから、隊長が半殺しにするとおっしゃっていましたよ?」
「………………………フッ。良い人生であったわ。」
イチゴは死を覚悟した。
ロウガとサクラを撃破した以上、アスティアとマイア両名が黙っている訳はなかった。
アスティアは半殺しなどと言ってはいるが、間違いなく全殺しだろう。
本能寺で果てる信長の如く、イチゴは自分の最期くらいはジタバタせずに高潔に幕を閉じようと心に決めていた。

ザッ

その時、イチゴを捕縛したリザードマンの無線に応答があった。
「はい、こちら警邏隊。どうぞ。」
『あー、俺だ。』
「これは…、学園長!?」
無線から聞こえてきたのはロウガの声だった。
『状況はさっき聞いた。頭割られて正直、魔力解放版の全開鎧通しを一発や二発かましてやりたいが、あのクソババアに騙し取られたんだってな?そんで騙し取られた分、稼いだとも聞いた。だからイチゴに伝えておけ。元々テメエの金遣いの荒さが原因でこんなことを起こしやがったが、元金だけ返したら稼いだ分はテメエの取り分にして良いってな。アスティアやマイアの説得は俺がやっておくから、イチゴは即時釈放しておけ。学園をクビにすることもないから安心しろって伝えておけ。居眠りしたとはいえ油断していた俺が悪い。以上、通信終わり。』
「はっ、ご苦労様でした!!」

ザッ

無線機の通信が切れ、リザードマンは誰もいない場所に敬礼する。
そしてロウガの命令通りに簀巻きにしたイチゴを解放した。
「…た、助かった?」
「はい、被害届けは取り下げられた模様ですので釈放致します。私が言うのも何ですが、二度とこのようなことはなさらぬように。おそらく二度目はないと思われますので…。では、私はまだ職務がありますので失礼します。」
それだけ言うとリザードマンはイチゴに敬礼すると、踵を返して去っていく。
機嫌が良いのだろうか、尻尾を揺らして。

そうリザードマンらしからぬフサフサの黄金色の尻尾を。

「……………はっ!?その尻尾!!!」
「おほほ♪やっと気が付きましたね。」
「大首領ー!!!!」
リザードマンが振り向くと、その顔はまさに宗近。
「せっかくあなたが頑張ってくれたというのに、騙すような真似をしてごめんなさいね、イチゴ。でも仕方がなかったの。私も娼館や居酒屋でのツケが溜まっていましまっていましたの。おかげさまでツケは全部払い終わりましたし……、さて。奢りますからルゥさんのお店に行きませんか?ディオーレ嬢は辞めてしまいましたが、今私が目に付けている娘もなかなか有望株ですよ♪」
「もしや、ある意味希少種の…!?」
「ええ、リザードマンの娼婦なんて、それだけで珍しいですよね♪私も久し振りに股間アタッチメントを解放して思う存分楽しみたいのですよ。」
「ワシは基本に戻ってサキュバスに相手してもらいたいのじゃ〜♪」
おっぱい、おっぱい♪と二人は、はっぱ隊の踊りで喜びを表現する。
だが、この時二人が気が付いていなかった。
イチゴは無事に釈放されたものの、未だ宗近は指名手配中。
ルゥの店からの通報で駆け付けたロウガと宗近の壮絶な戦いが始まるなど、特に宗近は想像出来ない程、浮かれていたのであった。


――――――――――――――――――


う〜〜〜〜〜〜ん…。
私の手札は3のワンペア……。
あ、こんばんは、ガーベラです。
私、今真剣勝負の最中です。
アルバイトでお世話している天使様とポーカーをしているんだけど、どうも私の手札があまり良くありません。
「ガーベラさん、何枚チェンジしますか?」
やさしく微笑んでくれるのは私が天使様って呼んでるネヴィアさん。
本人は自分をダークエンジェルって言っているんだけど、翼が片方しか黒くないし、真っ白な肌と眩しいぐらい綺麗な金髪だから、私にはエンジェルにしか見えない。
「えっと…、じゃあ…。勝負かけます!3枚チェンジで!!」
「はい、3枚ですね。」
配られたカードをドキドキしながら手札の中に入れていく。
ダイヤの3…。
やった、スリーカードだ。
クローバーのK…。
はずれか…、いやまだ一枚ある!
ハートの………K…!?
嘘、フルハウスが出来ちゃった!!
しかもハートのキングが来てくれるなんて…。
もう勝ったも同然だよ♪
「ネヴィアさん!飴玉、残り全部賭けます!!」
「あらあら、大物手?尻尾が真っ直ぐになっているところを見ると、賭けるだけの良い手が入ったのですね。では私も、賭けに乗りましょう。同じく飴玉全部で♪」
天使様は私の尻尾を見て、勝負に乗るか、降りるかを決めている。
うふふふ…、それでも今回は負ける気がしないんだ。
尻尾でも何でも読んでくださいな♪
ちなみに私たちのポーカーはお金は賭けない。
天使様の暇潰しだったり、遊び相手、話し相手になるのがお仕事だから、お金なんて賭けたらお仕事にならないよ。
それに天使様、かなり強いし…。
チェス、太刀打ち出来ず。
オセロ、盤の上が真っ黒に染まった。
人生ゲーム、何故か序盤で破産した。
だから、せめて運ぐらいは勝ちたかったけど…。
「先程の、エースのフォーカードは出来すぎでしたね。」
そう、劣勢気味。
むしろ、竹槍一本で東南アジア戦線を逆転しろっていうくらい無理な話。
でも、これなら…!
これなら逆転出来る!!
「うふふふふふふ…♪」
「ご機嫌ですね。では、オープン。」
「やっとネヴィアさんに勝てるよ!私はテーブルの上に3のスリーカードとキングのツーペアを提示して、合体怪獣フルハウスを召喚!ネヴィアさんの手札を粉砕して、ダイレクトダメージ!私の勝利でターンエンド!!」
「ふふ、そういうカードゲームが学校で流行っているのかしら。」
天使様が自分の手札を伏せて、微笑んだ。
手札を伏せているってことは…。
「やった、私の勝ちだー♪」
「勝ち名乗りをするのは、少しだけ早い、ですよ♪」
端の一枚を天使様が捲る。
スペードの………エース…。
また捲る。
スペードの…、10……!?
まさか!
「そういうことです。」
慣れた手付きで、天使様が残り三枚を開いていく。
そこに現れたのは…。
「同じスペードのジャック、クイーン、キングを召喚。役は……、言わなくても良いですね。」
ロ、ロイヤルストレートフラッシュ…!?
そんな最強大物手がノーチェンジで来るなんて…!
「切り札は最後まで取っておくものですよ♪」
「え……、あああ!?」
天使様がまるで手品師のように、パッと勢い良く手の平を振ると、何もないはずの指の間から、一枚、また一枚とカードが増えていく。
つまりこれって…。
「イ、イカサマ!?」
「本当は、私の手はブタでした。でもあなたの反応が楽しかったので、昔、騎士団でお世話になっていた頃に、団員の方々から巻き上g…、じゃなくて貢物をしていただいていた頃の手品などを少々♪」
「まさか…、さっきから何度か使っていたとかないですよね?」
「………あ、あら?いつの間にか外が暗くなってしまいましたね。」
……つ、使っていたんだ。
天使様がダークエンジェルだってことがちょっぴりわかったような気がする。
大人って……。
大人って…!




「それではまた明日もお願いしますね。」
「はい♪」
そう言って私たちはお仕事が終わった時の儀式をする。
儀式なんて大袈裟に言っているけど、何のことはない。
天使様に私はハグしてもらっている。
お姉ちゃんにハグしてもらうのも大好きだけど、天使様にハグしてもらうと死んだお母さんみたいに良い匂いがして、懐かしくて、暖かくて、大好きな時間。
私、まだ背が低いから天使様にハグしてもらうとちょっと苦しいんだけどね。
天使様もスタイル良いから、胸の中で窒息しちゃう時があるんだ。
でも……。
「ど、どうしました?」

むにむに…

最近、ちょっとだけ気が付いたことがある。
ハグしてもらっているついでに、天使様の胸を揉んでみる。
私も大きくなりたいなぁって願望を込めて、前から触らせてもらっていたけど、こうして触っていて気が付いちゃった。
「ネヴィアさん…。」
「どうしました?お母さんが恋しくなりましたか?それでしたらいつでも…。」
お姉ちゃんの方が大きい。」

ピクッ

天使様の身体が硬直する。
「………な、何が大きいと言っているのですか?」
天使様の顔は笑顔のままだったけど、よくわからない迫力が…。
「な・に・が・お・お・き・い・と・いっ・て・い・る・の・で・す・か?」
「おっぱい。」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

天使様の背中に女のプライドって文字が見える…。
「他には何かありますか?」
「えっと…、あ、あ、ありません!」
「………そうですか♪」
言えない。
実は腰もお姉ちゃんの方が細いなんて…。
私は天使様の中に潜む『女』を覗いてしまったような気がした。


――――――――――――――――――


天使様のお部屋を後にして、私は雇い主のルゥさんのお部屋に足を運んだ。
やっぱり帰る前にキチンと挨拶しておかないといけないよね。

コンコンッ

「ルゥさ〜ん、ガーベラで〜す。」

ガタガタッ

ガシャーン

うわ、ルゥさん!
だめぇ、急に動かないでぇ…!

あん、ジャック♪
ビックリして出しちゃったの?
待ってて、すぐに戻ってくるからね。

ガチャ

「ガーベラちゃん、お疲れ様♪」
「お先に上がらせてもらいます。」
ルゥさんは、薄着だった。
白い肌が桜色に染まって、たくさんの汗を掻いていた。
何で、ドアから少し身を乗り出すくらいしか開けないんだろう。
もしかして新作の執筆中だった?
「どうしたんですか?そんなに汗を掻いちゃって。」
「え、あ、ああ、これね?ちょっと暖房が壊れちゃって♪本当に困った暖房よ。激しいし、可愛いし、何度でも……あん♪」
「?」
「い、良いのよ、何でもないわ。それじゃあ、日も沈んじゃったから気を付けてね。私は劇場からの依頼が片付かないから、このまま失礼させてもらうわ。あー、忙しい忙しい♪」
やけに早口でルゥさんは部屋の中に消えて言った。
忙しいと言いつつ、楽しそうな口調のルゥさんを見て、いつの日か私もそんな大人になりたいと心に決めていた。
忙しいって口には出しても、自分のやるべきことに責任と楽しみを持てるカッコいい大人に。
いつか。


もう、バレちゃうとこだったじゃないの!
そんなに我慢出来なかった?
この後、あなたもお仕事残っているのに……え?
お店の女の子の熱気に当てられた?
ふふ、じゃあ私の熱も下げてほしいな。
ほら、あなたの出したばかりのココで……ね♪

ル、ルゥさぁ〜〜〜〜ん!!!





「………………あれ?お姉ちゃん?」
時計をチラリと見ると7時20分…?
おかしい…。
まだお仕事の途中のはずなのに…。
何でルゥさんのお店にいるんだろう……ん?
あ、誰か走ってきた。
「ア、アルフォンス!!すまない、遅くなった!!!」
「大丈夫ですよ、龍雅。私も今来たところですから。」
……お姉ちゃん、嬉しそう。
お姉ちゃんもあんなに可愛い笑顔が出来るんだ。
あの人がお姉ちゃんの恋人かぁ…。
うんうん、将来の私のお兄ちゃん候補としては合格だねぇ。
なかなかハンサムだし、強そうだし。
ま、私のドライグさんには敵わないけど♪
「文句は沢木に言ってくれよ…。あいつと将棋していたんだが、俺に勝てないからってあの手この手で俺を負かそうとしやがってさ…。地方ルールか何だか知らねぇが、何だあのルールは!将棋にもチェスにも、援軍もなけりゃ伏兵なんてルールもねぇ!!まぁ、圧倒的兵力差でも勝てるから、俺はあいつより戦上手な用兵家だと証明出来た訳ではあるがな。」
「ふふふ、それはご苦労様でした。あ、あの……、龍……雅…?私も無理言って同僚に勤務を代わってもらってあまり時間がないのです…。妹を遅くまで一人にしておく訳にはいかないし……、その……。」
「あ…………、ご、ごめん…。」

妹は見た!!!

むぅ、これが噂に聞く逢引か…。
知っているのか、ガーベラ!
何て一人ツッコミしている場合じゃないよね。
ほほぅ、これからお二人でお楽しみ、ですか〜♪
うんうん、最近の少女漫画って馬鹿に出来ないよね。
こんな展開が多いから知識だけは得られちゃうもんね。

(妄想中)
「良かったのか?ホイホイ付いて来てしまって。俺はロリだって構わず喰っちまうような社会不適合者のマザコンなんだぜ?」
「良いんです。私……、ドライグさんみたいな人、好きですから。」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないか。よし、今日はとことんママンのことは忘れて愛し抜いてやるぜ。ところで、ガーベラ。俺のシークレットソードを見てくれ。お前、これをどう思う?」
「すごく……、大きいです…。」
(妄想終了)

……何だろう。
果てしなく駄目な電波を受信しちゃった。
てゆーか、これって前回もやったネタじゃん!!
くそみそネタはいつまでも出来ると思わない方が良いよ!
おっと誰に話しかけているんだろう。
あ、お姉ちゃんたち、腕を組んでエレベーターの方に行っちゃった。
ふむふむ、あっちのエレベーターは宿泊用だったねぇ。
………………………うふ♪
(にやにやにやにやにやにや)
帰ったら、『今夜はお楽しみでしたね』とか『ぱふぱふ』とか言ってからかおうかな♪

ぐぅ〜

お腹減った…。
よし、幸せそうなお姉ちゃんも堪能出来たし、晩御飯食べて帰ろう♪
かっらあっげ、かっらあっげ〜♪
フラン軒に行って、好きなだけ食べて良いなんて、本当に素敵なアルバイトだよ。
天使様に抱き締めてもらえるし、遊んでもらえるし、食べ放題だし♪
「うふふふふふ♪先に帰っているから楽しんで来てね〜♪」
お姉ちゃん、お幸せに♪

こうして私のお仕事は終わり、楽しい楽しいお食事の時間が訪れるのでした。






11/03/26 01:40更新 / 宿利京祐
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■作者メッセージ
PCのメンテナンスをしていたら2日かかってしまいました。
おかしいなぁ…。
こんばんわ、お久し振りです。
やっとこさ、ファンタシースターP2∞のエピソード1をクリアした宿利です。
結局S武器の長剣が出なかったので、ど根性でクリアしました。
リアルラック低い自分にはかなりつらかったです。
それはさておき……、この場を借りて謝罪致します。
3部構成などと銘打っていましたが
4部構成になりました!
次回、フラン軒〜おやすみまでを収録予定。
フラン軒にあいつやこんなやつが勢揃い?

では最後になりましたが、
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
次回もお楽しみに^^。

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