前篇
薄暗い部屋で一組の男女が交わっている。
男女の喘ぎ声と激しく肉がぶつかり合う音がどっぷりと更けた夜の寝室に響く。
「おら、もっとアタシを満足させてくれよ…。」
「くぅ…激し、い!」
「まだまだ、お前には頑張ってもらうぞ。」
インキュバスである夫の上に跨り、激しく腰を振っている魔物娘は親魔物領の代名詞とも言われるジパングにおいても「怪物」として恐れられているウシオニ。見るものによっては嫌悪感すら抱かせてしまう禍々しい蜘蛛の下半身と腰につけられた髑髏、それとは対照的に緑色の肌をした美しい人間の姿をした上半身と端正な顔。人間型の魔物娘にはないその強烈なギャップや魔物らしさを見る者に印象付ける。
「アタシの、疼きを沈めてくれ…」
ウシオニはそのグロテスクな八本の蜘蛛の脚を器用に使って夫を圧倒的な力で組み伏せ、全身の筋肉を使って叩きつけるように夫の腰に自身の腰を押し当てる。腰がぶつかり合うたびに生々しい音と、溢れでる愛液がペニスによって撹拌される淫猥な水音が聞こえてくる。彼女の蜜壺に差し込まれたインキュバスの男性器が折れてしまうかのようなその強く激しい腰使いは愛情を確かめ合うようなものではない、ただ一心に己の性欲を解消するだけに行っているに等しいものだった。
「ごめっ…もう、出る!!」
「あぁん?相変わらず情けねえ…だが、出るってんならアタシが徹底的にしぼってやるよ…♪」
まるで嵐のように迫る快感と抗うことすら無駄だと悟らせる力で翻弄するウシオニに男は情けなく降伏を宣言する。
既に数え切れないほど褥を共にしていてもこの快感と人外の力にインキュバスが勝てるわけがない。情けないが性交が始まったその瞬間から人間であろうがインキュバスであろうが男は彼女たちが満足するまで精液を吐き出し続けるだけの存在、まるで捕食者と被捕食者のような一方的に貪られるような関係になってしまう。
一方のウシオニは愛しいオスを降伏するまで追い込んだことが嬉しいのか、見る者に恐怖すら感じさせる怜悧な笑顔を顔に張り付けながら上機嫌に腰をくねらせる。その動きに連動するように膣内はよりいっそうきつくペニスを締め上げ、夫の射精を誘う。その動きには一切の容赦は無くただただ組み伏せたオスから精液を搾り取ると言う目的のためだけに動いていた。
「あぁっで、でるっ!!」
びゅるっ…びゅくっびゅく
「はあ…お前はだらしねえのに、本ッ当に精液の味は一級だよ。うめえ♪」
ウシオニは目を瞑り剛直から弾けた子種を子宮で受け止めつつ、その味をかみしめる。愛する妻に魂まで吐き出したかのような射精を終えた夫は身動きの取れないままぜえぜえと荒い息を吐く。今夜七回目の射精を妻の胎内に終え、じんわりと全身に疲労が男を襲っていた。いくら性に特化したインキュバスにとってはいえ、常に人外の力にさらされ文字通り“犯され”つづけることで体力は確実に減っていた。
「よ〜し、アタシの体も温まって来たし、今晩も楽しもうぜ♡」
だが、魔物娘の中でも並外れて強い性欲を誇るウシオニにとってこれくらいの性行為はまだまだ序の口。やっとエンジンがかかって来たにすぎない。その証拠に未だに一回も彼女は深い絶頂には達しておらず、夫の精液を楽しむ余裕さえある。むしろその性欲に火が付き、今まで以上に好色で嗜虐性に満ちた熱い視線を身動き一つ取れない夫に向けている。
「まあ、例えお前が嫌だと言っても無理矢理アタシが犯してやるがな♡」
こうしていつものようにウシオニの激しい行為は一晩中続けられるのであった。
ドォンという低い爆発音が辺り一面に響き渡り、『銅島花火工房』と楷書で書かれた木製の看板がびりびりと振動する。工房の受付で書類をまとめていた銅島武志はまたかと思いつつ、目線を上げて窓から見えるプレハブへと視線を移した。
爆発が聞こえてきたのは年季の入った自宅兼販売所に使用しているこの建物とは違い、庭にいかにも最近建てられたといった風貌の簡易なプレハブからだ。そこは花火師であり妻である銅島葵の作業場である。
「あ〜ちっくしょう、またやっちまった!!」
プレハブから様々な色の煙と共に葵が元気な様子で出てくる。本来であればこのような爆発は危険な事故であるし作業者の安全や辺りへの被害を気にするものなのだが、いかんせん妻はこの程度の爆発で傷つく様なやわな魔物娘ではない。なんといっても葵はこのジパングでさえ恐れられることのあるウシオニなのだから。苦々しい顔をしながらこちらに向かって厳めしい八本の脚で歩いてくる妻はまるで何も無かったかのようだ。
花火師である銅島葵と武志が出会ったのは三年前の夏。
武志が何気なく遊びに行った隣の市で開かれた祭りで、葵の作った花火を見たのが切掛けだった。
ジパングでは魔物娘によって作られる花火がとても人気がある。魔物娘が作る花火は人間やインキュバスが作ったものとは一線を画していて、打ち上げる工程など大まかな部分は変わらないが、美しさや独自性、安全性は比べ物にならないほど魔物娘が作る花火の方が優れている。
ではなぜそこまでの違いが出るのかというと、彼女たちが作る花火の火薬には魔力が込められているからだ。最初にこの方法を考案したのは白蛇だと言われているが、この方法で作られた花火は爆発のタイミングも自由自在で例え不意に爆発しても決して延焼しない。その上、魔力には個々の固有な色が存在し、炎色反応だけでは決して作り出せない、作り手だけが見せる事の出来る色を作り出すことができる。その色合いによって花火師一人一人のオリジナリティーを生み出す事ができ、さらに同じ制作者でも含有させる魔力量を調整することによって、自身の色が濃くなるように、その逆にぎりぎりまで魔力量を抑えて自然本来の炎色反応を際立たせるなどバリエーションを生み出す事が出来るのだ。
武志が参加したその祭りでも魔物娘が制作した花火が披露された。
大玉の中にいくつもの小玉をこめたもの、爆発した後に散った花火がまるで龍のように一つに合わさり力強く空をかけるもの、愛するパートナーへの公開告白をするものなど演出も凝っているものばかりで、花火が打ち上げられるたびに観客から歓声が起こった。
そんな中で、武志が心奪われたのが葵の作った花火だった。葵の作った花火は別段、凝った動きもしなければ特別な仕掛けがしているわけでもない、菊や牡丹、柳と呼ばれる昔ながらの花火だった。
「なんて美しいんだ…。」
だが、その花火はいままで武志が見た花火の中で一番美しかった。派手な演出があるわけではないが、花火そのものを楽しませるといった信念が感じられるような、荒っぽいけど繊細で…独特な緑がかった花火はいつまでも武志の心に残った。それから祭りが終わるまでの間どうしていたとかどうやって祭りから帰宅したとかが思い出せない位、武志はその花火に心奪われてしまっていた。
祭りが終わって数日後、武志は『銅島花火工房』と可愛らしい字で書かれた看板が下げられた洞窟の前に立っていた。
葵の花火を見て以来、仕事をしている時、食事をしている時、人と会話をしている時、そんなふとした瞬間にあの日見た夜空に美しく咲き誇る花火が頭に浮かんでは武志を魅了した。それは日が経つほどに薄れるどころかますます拍車がかかり、仕事や日常生活に支障をきたし始めていた。
このままではいけないと悩んだあげく、思い切って制作者に会いに行こうと武志は思い立った。制作者に会って何ができるわけではないとも思ったが、自分の中で膨らむ花火への想いを伝えたかったのだ。あと僅かではあるが、あの美しい花火を作りだしたのはどんな花火師なのだろうという好奇心も行動の原動力となっていた。
そこであの花火の制作者が『銅島花火工房』の銅島葵であることと花火工房の住所を祭りの責任者に教えて貰い、会社の休みを利用して工房へと足を延ばしたのだった。訪問する前日と当日の朝に訪問の意図を伝えようと電話をかけたが、留守にしているのか繋がらなかった。
教えて貰った住所にあった『銅島花火工房』は、武志が想像していたものとは全く違っていた。てっきり以前テレビで見たような、何棟もの堅牢な火薬庫が立ち並び火薬が厳重に管理されているような場所であの美しい花火は作られていると思っていた。だが、目の前にあるのは確かに頑丈そうではあるが、無造作に入口に看板が下げられたただの洞窟だ。
「ここで間違いないんだよな…。」
思わずケータイのマップで現在住所を確認するが、やはりここは教えられた住所で間違いなかった。
「こんにちは…あの、銅島葵さんはいらっしゃいますか…?」
「………グォ〜。」
何にせよこのまままごまごしていても何もならないと覚悟を決めて暗い洞窟内に向かって声をかける。だが返事は無く、風が通り抜けるような音がするばかり。この洞窟がどの程度の深さや構造を有しているかは分からないが、もしかしたらどこかにつながっているのかもしれない。
「すみません、失礼しますよ!」
返事が無く留守かもしれないと思ったが、このまま入口で立ちつくすのも嫌だったので武志はゆっくりと目を暗闇に慣らしつつ洞窟内へと歩を進めていった。手ぶらで訪れるのも悪いと思い途中で買ったタルトを落としてしまわないようにしっかりと脇に抱える。
「ん?」
洞窟の内部は天井が高いうえに横幅も予想以上に広く、地面がむき出しの床はしっかりと踏み固められ平らになっている。自然のまま洞窟を利用しているのだと思っていたが、しっかり人の手が入っているようだ。それに感心しつつしばらく慎重に歩いているとこつんと何かが足先にぶつかった。足元にあったそれはカラカラと軽い音をたてながらそのまま転がっていき、大きな“岩”にぶつかって動きを止めた。
「酒瓶、か?」
蹴飛ばしてしまったのは空の酒瓶だった。よくよく目を凝らして見るとそこには数本の空き瓶が転がっている。そういえばこのあたりは何種類かの酒が入り混じった独特の匂いが満ちていて、不思議なもので一度意識すると今までとは比べないものでアルコールの匂いが鼻をついた。ふと耳をすませると先ほどまで聞こえていた風が通るような音も聞こえてこないので、洞窟内に匂いが籠っているのかもしれない。
そんなことを考えつつ“岩”に当たって止まった酒瓶を拾い上げながら久しぶりに触れ合った人工物に奇妙な懐かしさを感じていると、真っ暗な洞窟内の大きな“岩”が突然―――動き始めた。
「…なんだ、てめえは。何しに来やがった…。」
「え!?」
武志が岩だと思っていたものは電池式のランプを片手に持ち、眩しそうに目を細めながら不機嫌そうにむくりと起き上がった。ランプによって照らしだされたのは針金の様な剛毛を生やした厳めしい蜘蛛の下半身に場違いのように美しい緑色の肌をした人間の上半身、そして名前の由来にもなっている二本の鋭い角を持ち合わせた魔物娘、ウシオニ。腰には鼻輪をつけた牛の頭蓋骨、肌には何かの模様なのか特徴的な文様が浮かび、顔の左半分が赤い札に覆われている。まさに彼女は伝承どおりのウシオニだった。そして彼女は横になっていても武志が岩だと思い込むほど大きかったが、気だるそうに大きな乳房を震わせながら立ち上がると、ジパングに住む男性の平均身長より少し大きい武志が見上げてしまうくらい大きかった。
「……何しに来たんだって聞いてんだよ、オイ。」
今までウシオニに出会った事のなかった武志は想像もしていなかった事態に放心してしまっていたが、彼女はそれが気に食わないのか、一層不機嫌そうに声のトーンを落とした。ランプで下から照らされる右半分の、目じりにやや赤みがさした切れ長の美しい目が彼女の不機嫌さや不審さを表すように狭められ、可憐な眉間に皺が寄っていく。ウシオニは気性が荒く暴れ出したら手がつけられないと聞いていたので、これ以上怒らせてはまずいと思い武志はなんとか口を開いた。
「あの、あなたは銅島葵さん…ですか?」
「…質問を質問で返すなんていい度胸じゃねえか、兄ちゃん。確かにアタシは銅島葵さ。」
「『銅島花火工房』の…?」
「面に看板が掛けてあんだろうが。」
「じゃああなたが…この間の祭りで七組目に披露された花火を制作されたんですよね?」
「そうだよ。花火屋なんだから花火拵えて何か悪い事でもあんのか、コラ。」
「僕はあなたの花火に感動したんです!!」
「あん!?」
「あの花火を見てから片時も忘れられなくて、いてもたってもいられずに来たんです!」
「!?」
・
・
・
「…というわけで自分の中でどうしようもなくなって、あなたに直接この想いを伝えたかったんです!!」
武志は花火に関する拙い知識を振りしぼりながら、あの花火がどんなに美しかったか、綺麗だったか、他のどの花火よりも自分が今まで見てきたものよりも素晴らしかったか、あの日見た花火がいつまでも忘れられないといった自身の思いの丈を彼女にぶつけた。
「………。」
それまで自信の姿を見て挙動不審だった見ず知らずの人間が急に鼻息荒く彼女が作った花火について語り出したことに、始めはさすがの葵も面喰っているようだった。だが、見開かれた目からは不審や不機嫌な様子は消えていた。
「あ、すみません。急に押し掛けた上に一方的に話しちゃって…。」
今まで興奮のあまり一方的に話しかけていたが彼女が口をつぐんでいることでやっと武志は我に返り、自分がどれだけ一人で盛り上がっていたのかを自覚して恥ずかしさがこみあげてきた。
「……。」
「これ、つまらないですがどうぞ」
彼女が一言もしゃべらずに仁王立ちでこちらを見つめてくることもあって、恥ずかしさが限界に達した武志は照れ臭さと手持無沙汰をごまかすためにタルトを差しだした。
「…オイ。」
「ひぃ!?何でしょうか?」
だが、葵はタルトを受け取らず脇にランプを置き、熊の様なでかい手で抵抗するのが無駄だとわかる強い力を込めて武志の両肩を掴んでぐいっと自分の方へ引き寄せた。あまりの力に武志は驚き、持っていたタルトを床に落としてしまった。それを拾おうとするが、まるでナイフのような冷たくずっしりと重い彼女の大きい爪が首筋にぐいっと押し当てられ、これ以上動くのは危険だと武志の直感が判断し、そのままの姿勢で恐る恐る葵の顔を見上げた。
「今お前が言ったことは本気なのか?」
「え?本気です、本当にそう思ったんです!!」
「じゃあ、その見惚れたアタシの花火をこれからも見たい、よな?」葵はその端正な顔を武志の顔ぎりぎりまで近付け迫る。
「それは勿論そうです。だから、今度はどこであなたの花火を見ることができるか教えていただければ…嬉しいです。」
その言葉を聞いた葵は眼を閉じて一つ大きくうーんと唸り、何かを思案した後、とんでもない事を口にした。
「ところでお前は童貞か?」
「はあ?」
今までと全然関係のない質問に思わず武志は素っ頓狂な声をあげてしまうが、彼女の表情は真剣そのものだった。
「大事な質問だ、答えろ。」
「童貞…ですが、何か?」
「よしよし青臭い匂いは間違いじゃないな…実に良いぞ、お前。」
「ちょっと、何を!?」
そう言うと今までの不機嫌な顔が嘘のようににんまりと笑顔を浮かべ、肩に置いていた手をゆっくりと武志の下半身に移動させていった。武志は先ほどから恐怖したり羞恥したりと自分の感情がころころ変わっている現状にいまいち追い付けず、葵のなすままにされていた。
「何をってお前さんも野暮だねえ。セックスだよ、セックス。」
当り前の事を何故聞くのかと武志を訝しみながら葵はきっぱりと答える。
「はあ!?何を言ってるんですか?」
「大体なあ、あんなに熱くアタシの花火を褒めにわざわざここまで来るってことはこうなることも覚悟してきたんだろ?」
「覚悟ってなんですか!!」
「あの祭りの責任者にアタシの居場所を聞いたんだろ?」
「…。」何が何やら分からず、武志は無言で頷く。
「そしてアタシがウシオニって分かっていてお前さんはここに来た。」
ならこういうふうに犯されるってことも覚悟の上でここに来たんだよな―――にこやかな笑顔のまま武志が思ってもいなかったことを口にしつつ、彼女は武志のズボンを強引に引き下げる。彼女の力に安物のズボンやベルトが叶うわけがなく、まるで紙のように生地は裂けバックルははじけ飛び、下着と肌が露出する。
「自分はあなたがウシオニだなんて知らなかったんです!!あの責任者さんは一言もウシオニだなんて言ってませんでしたよ!?」
「…本当か?」
「本当ですよ!!」電話で対応してくれたのんびりした口調の責任者の声を内容と共に思い出すが、ウシオニなんて言葉は再生されなかった。
「……なら、今覚悟を決めるんだな。どうあがいたってもうアタシからは逃げることは出来ないんだからな。」
「そんな無茶…ぐぇ!!ごほっごほ。」
子供が駄々をこねるような口調で無茶な提案をする葵に反論しようとするが、あっけにとられ隙だらけの喉元を太い腕で鷲掴みにされ、首を掴んだまま勢いよく床へ押し倒されてしまった。背中に衝撃が走り呼吸が乱れる。
「よいしょっと。」
倒れ込んだ武志の上に葵がのしかかり、完全に逃げ場は失われた。首にかけられた左手ですらどかすのは不可能としか思えない。
「では御開帳。ふっふ〜ん。なんだ、童顔なのにえらいもんぶらさげてんじゃないか♪」
マウントポジションを奪った葵は空いた右手でゆっくりと邪魔なパンツをおろしていき、武志の男性器を露出させる。先程から目の前でゆれる豊満な乳房を見ていたことに加え、葵に抑え込まれほとんど全裸に近い彼女が目と鼻の先に迫ったことで、武志のペニスはどんどんと硬さを増していた。
「くっ…見るなあ!!」
「往生際がわるいなあ、もうあきらめちまえよ。ん、ちゅう…じゅるじゅるぅ…。」
「ん!?ぢゅっちゅう、むちゅう…」
何時までも観念しない武志に引導を渡すかのように、葵が荒々しく唇を奪う。唇にむしゃぶりつき呆然とした口を舌でこじ開け、舌を差し込み唾液を舐め取っていく。長く器用な舌は丁寧に歯や歯肉を舐めていき、一通り歯に自分の唾液をマーキングや愛撫をした葵は本丸である武志の舌に襲いかかる。
「おら、んちゅ…抵抗なんて無駄なんだから、っちゅ…さっさと舌を出せ…舌、じゅっちゅ。」
武志はなすすべなく彼女の言う通りに舌を出す。すると葵はフェラをするようにのばされた舌を扱き始める。それは武志にとって初めての経験だった。先程丁寧に口内をねぶられた際も彼女の甘い唾液と共に快感に襲われたが、今現在武志がさらされている快感はその比ではない。性器以外で感じる強烈な性の刺激は武志の思考に一気に白い靄をかけていった。
「じゅぼ、じゅぷぷぷぅ…ぷはっ。ふふふ、すっかり蕩けた顔になったな♪そしてここも。」
硬くおったててよ―――葵はそう言って完全に勃起した武志のペニスを掴み激しく上下に扱き始める。すると途端に鈴口からはカウパー腺液が漏れ始め、ぐちゃぐちゃと葵の肉球と柔毛を濡らしていく。
「あ、ああ…ひぃん!!」
「情けない声と我慢汁をだらしなく出しやがって…。じゃあそろそろ本番に行こうか!」
そう言うが早いか、葵は体制を整え男性器の真上に自身の女性器を構え、その様を見せつけるために武志の後頭部を持ち上げた。武志の眼前には今までに見た事が無いほど充血した自分のペニスと、まさに今すぐにでもそれを咥えこもうとだらだろと蜜を吐き出すヴァギナが広がっている。
「よーく、見てろよ…。お前の純潔が奪われる瞬間ってヤツをよ♪」
葵は生粋のサディスティックな性格なのか、焦らすようにゆっくりと武志の性器を飲みこんでいった。一瞬だけ何かに引っかかったが、彼女は顔色一つ変えずにそのまま武志のペニスを咥えこんでいった。
「は、かっは…な、何これ?」
「アタシの中へようこそ、お兄さん♡」
彼女の蜜壺は経験したことの無い感触と快感に満ちていた。
鈴口には子宮口らしき硬くコリコリとした吸盤の様なものが吸いつき、子宮口付近に多く集まる細かい襞が奥へ奥へと導くように愛撫しながら亀頭を包みこむ。それだけでも強烈な射精欲にかられるが、膣全体がまるで発熱しているかのような熱さで迫り、痛くなる一歩手前のなんとも絶妙な力加減で締め上げる感触も堪らなかった。
「じゃあ、そろそろ腰をふろうか、ね!!」
「ああぁ…駄目、ダメ!!やめて!!!」
葵がゆっくりと大きいグラインドすることで先ほどまでなんとか我慢していた射精をしたいという欲望を一気に加速させる。出会ったばっかりの葵の膣に射精することへの恐怖から武志の口からは行為の中止を求める言葉が自然と漏れる。
「ふふふ…ヤだね。」
だが、性欲に火がついた魔物娘がその願いを聞き入れるはずがない。特にこのウシオニに関しては結果など火を見るよりも明らかだった。葵はいやらしい笑みを浮かべつつ武志の申し出を一蹴してさらに強く腰を打ちつけ始める。
「出せ、出して…アタシのモノになれよ、なあ?」
「くあっ…も、ダメだ!!で、出ちゃう!!!」
びゅるっ!びゅぐっびゅるびゅるるる!!
射精の兆候に気がついたのか、葵は痛みすら感じるほど強くペニスを搾り上げて膣内射精を強要させる。一方の武志は既に理性も精神もそして肉体も限界に達し、遂に葵の膣内、子宮内へと射精してしまった。
「はあ、はあお前の精液…美味しかったよ♡あー……?」
「…?」
胎内に吐き出された精液を恍惚の表情で味わっていた葵は蕩けた笑顔を向けていたが、不意に何かを思い出そうとしているような不思議な顔つきになってじっと武志の顔を見つめてくる。その表情の意味が分からず射精直後でぼんやりとしたまま武志は葵を見つめる。すると葵は武志の眼を見ながらバツが悪そうにしながら質問してきた。
「悪い、お前の名前ってなんだっけ?」
「…。」
「そう怒るなって、勢いに任せてお前を犯したけど、これからちゃんと愛してやるから!!」
「……。」
「ちなみにアタシは銅島葵だ…ってアタシの名前は知ってるか。ははは。」
「………。」
「な、なあ…臍を曲げないで教えておくれよ、イケメンなお兄さん♡」
それまで恐怖すら抱かせて武志を凌辱した本人とは思えないほどの茶番な空気を醸し出す葵に沸き上がった怒りや恐れは消え、代わりにこの可笑しく可愛い人をもっとよく知りたいとさえ不覚にも思ってしまった。
「…武志です、近藤武志。」
だけど、そんな心中を葵に知られるのはなんだか癪だったので、わざと憮然な表情と態度を装い無愛想に答える。
「タケシ…か。良い名前じゃないかタケシ。で、漢字ではどう書くんだい、タケシさん♡」
「武士の武に志で武志。」
「よ〜し、覚えた。しっかり覚えたよ、武志。さて、本題だ。」
「え?」
武志の名前を聞いた瞬間から再び先ほどまでの様なサディスティックな表情が葵に浮かぶ。
「初めてだったアタシの純情を散らしてくれた責任はしっかりと取ってくれるんだろうな?」
「は?」
「おいおい、お兄ちゃん。あんた生娘の処女を奪っておきながらその態度は無いんじゃないかい?」
「や、やくざだー!!」
「まあまあ時間はたっぷりあるんだし、これからゆっくるとお話しましょうか、事務所で♡」
「え、事務所なんてあるんですか?」
「言葉の綾じゃ!様式美じゃ!!このすけこまし!!!」
「だ、誰か助けてーーー!!」
そこからの記憶は曖昧だった。
結局やくざなやり方でいちゃもんをつけてきた葵に時間の感覚がなくなるほど犯し尽くされ、泣き叫んでも辞めては貰えなかった。
今思えば、自分の軽率さが全ての原因だったと思う。童貞で女を知らない自分、魔物娘にとって極上の獲物が男に飢えている独り者のウシオニの住処に何も知らなかったとはいえひょいひょいと乗りこんでいくのは、鴨が葱を背負ってくるようなもの、はっきりいって自殺行為だ。
武志は何日もかからず葵の魔力によってインキュバスとなり、すっかり彼女の虜になった。
犯された当初は恐怖で悲鳴を上げていたが、今では快感や愉悦で悲鳴をあげるほど葵に調教されている。そんな絶対の支配者である彼女からの結婚の提案を断るわけがなく、武志はそれまでの近藤武志として生きてきた人生を捨て、銅島武志として生きる選択をした。
そして現在、客の応対やマネジメントを武志が担当し、花火の制作を一手に葵が担う体制で『銅島花火工房』は動いている。
「まったく情けねえったらあらしねえ…」
まるで料理に失敗したかのように軽く愚痴をこぼしつつ、巨体を揺らしながら葵は武志のいる店内に入って来た。葵が入って来た瞬間、むわっと濃い火薬の匂いが武志の鼻孔をかすめる。そんな火薬の匂いを纏った葵の美しく玉の様な緑色の肌には傷一つ、火傷一つついてはいないが爆発の際についた火薬や黒い煤で汚れていた。
「お疲れさん。やっぱり新作は難しい?」
武志は水で湿らせたタオルを葵に手渡しながら声をかける。暑いこの季節に合わせてタオルはよく冷やしている。
「ありがとう。ふぃ〜気持ちいい♡ああ、アタシと違ってアイツらはかなり繊細だよ。少しでも集中力を切らすとすぐ駄目になりやがる。」
大きくため息をつきつつ、椅子にどっかりと座りながら葵は武志から受け取ったタオルで気持ちよさそうに体をふき始める。まず顔を一通り噴き、右の乳房の下から拭ういつもの彼女どおりの順番だ。
「でも、楽しみだな〜葵の新作。」
「おう、楽しみにしていてくれ。今までに見た事のないような…そんな花火を」
アタシの夢の舞台で最高の出来で武志に見せてやるからよ―――そう言って葵は店内の壁に下げられた額をきっと睨めつけた。
そこに下げられている額に収められているのは一枚の招待状、現魔王が主催するジパング最大の競技会であり花火師の夢である『ジパング花火競技大会』への招待状だった。
男女の喘ぎ声と激しく肉がぶつかり合う音がどっぷりと更けた夜の寝室に響く。
「おら、もっとアタシを満足させてくれよ…。」
「くぅ…激し、い!」
「まだまだ、お前には頑張ってもらうぞ。」
インキュバスである夫の上に跨り、激しく腰を振っている魔物娘は親魔物領の代名詞とも言われるジパングにおいても「怪物」として恐れられているウシオニ。見るものによっては嫌悪感すら抱かせてしまう禍々しい蜘蛛の下半身と腰につけられた髑髏、それとは対照的に緑色の肌をした美しい人間の姿をした上半身と端正な顔。人間型の魔物娘にはないその強烈なギャップや魔物らしさを見る者に印象付ける。
「アタシの、疼きを沈めてくれ…」
ウシオニはそのグロテスクな八本の蜘蛛の脚を器用に使って夫を圧倒的な力で組み伏せ、全身の筋肉を使って叩きつけるように夫の腰に自身の腰を押し当てる。腰がぶつかり合うたびに生々しい音と、溢れでる愛液がペニスによって撹拌される淫猥な水音が聞こえてくる。彼女の蜜壺に差し込まれたインキュバスの男性器が折れてしまうかのようなその強く激しい腰使いは愛情を確かめ合うようなものではない、ただ一心に己の性欲を解消するだけに行っているに等しいものだった。
「ごめっ…もう、出る!!」
「あぁん?相変わらず情けねえ…だが、出るってんならアタシが徹底的にしぼってやるよ…♪」
まるで嵐のように迫る快感と抗うことすら無駄だと悟らせる力で翻弄するウシオニに男は情けなく降伏を宣言する。
既に数え切れないほど褥を共にしていてもこの快感と人外の力にインキュバスが勝てるわけがない。情けないが性交が始まったその瞬間から人間であろうがインキュバスであろうが男は彼女たちが満足するまで精液を吐き出し続けるだけの存在、まるで捕食者と被捕食者のような一方的に貪られるような関係になってしまう。
一方のウシオニは愛しいオスを降伏するまで追い込んだことが嬉しいのか、見る者に恐怖すら感じさせる怜悧な笑顔を顔に張り付けながら上機嫌に腰をくねらせる。その動きに連動するように膣内はよりいっそうきつくペニスを締め上げ、夫の射精を誘う。その動きには一切の容赦は無くただただ組み伏せたオスから精液を搾り取ると言う目的のためだけに動いていた。
「あぁっで、でるっ!!」
びゅるっ…びゅくっびゅく
「はあ…お前はだらしねえのに、本ッ当に精液の味は一級だよ。うめえ♪」
ウシオニは目を瞑り剛直から弾けた子種を子宮で受け止めつつ、その味をかみしめる。愛する妻に魂まで吐き出したかのような射精を終えた夫は身動きの取れないままぜえぜえと荒い息を吐く。今夜七回目の射精を妻の胎内に終え、じんわりと全身に疲労が男を襲っていた。いくら性に特化したインキュバスにとってはいえ、常に人外の力にさらされ文字通り“犯され”つづけることで体力は確実に減っていた。
「よ〜し、アタシの体も温まって来たし、今晩も楽しもうぜ♡」
だが、魔物娘の中でも並外れて強い性欲を誇るウシオニにとってこれくらいの性行為はまだまだ序の口。やっとエンジンがかかって来たにすぎない。その証拠に未だに一回も彼女は深い絶頂には達しておらず、夫の精液を楽しむ余裕さえある。むしろその性欲に火が付き、今まで以上に好色で嗜虐性に満ちた熱い視線を身動き一つ取れない夫に向けている。
「まあ、例えお前が嫌だと言っても無理矢理アタシが犯してやるがな♡」
こうしていつものようにウシオニの激しい行為は一晩中続けられるのであった。
ドォンという低い爆発音が辺り一面に響き渡り、『銅島花火工房』と楷書で書かれた木製の看板がびりびりと振動する。工房の受付で書類をまとめていた銅島武志はまたかと思いつつ、目線を上げて窓から見えるプレハブへと視線を移した。
爆発が聞こえてきたのは年季の入った自宅兼販売所に使用しているこの建物とは違い、庭にいかにも最近建てられたといった風貌の簡易なプレハブからだ。そこは花火師であり妻である銅島葵の作業場である。
「あ〜ちっくしょう、またやっちまった!!」
プレハブから様々な色の煙と共に葵が元気な様子で出てくる。本来であればこのような爆発は危険な事故であるし作業者の安全や辺りへの被害を気にするものなのだが、いかんせん妻はこの程度の爆発で傷つく様なやわな魔物娘ではない。なんといっても葵はこのジパングでさえ恐れられることのあるウシオニなのだから。苦々しい顔をしながらこちらに向かって厳めしい八本の脚で歩いてくる妻はまるで何も無かったかのようだ。
花火師である銅島葵と武志が出会ったのは三年前の夏。
武志が何気なく遊びに行った隣の市で開かれた祭りで、葵の作った花火を見たのが切掛けだった。
ジパングでは魔物娘によって作られる花火がとても人気がある。魔物娘が作る花火は人間やインキュバスが作ったものとは一線を画していて、打ち上げる工程など大まかな部分は変わらないが、美しさや独自性、安全性は比べ物にならないほど魔物娘が作る花火の方が優れている。
ではなぜそこまでの違いが出るのかというと、彼女たちが作る花火の火薬には魔力が込められているからだ。最初にこの方法を考案したのは白蛇だと言われているが、この方法で作られた花火は爆発のタイミングも自由自在で例え不意に爆発しても決して延焼しない。その上、魔力には個々の固有な色が存在し、炎色反応だけでは決して作り出せない、作り手だけが見せる事の出来る色を作り出すことができる。その色合いによって花火師一人一人のオリジナリティーを生み出す事ができ、さらに同じ制作者でも含有させる魔力量を調整することによって、自身の色が濃くなるように、その逆にぎりぎりまで魔力量を抑えて自然本来の炎色反応を際立たせるなどバリエーションを生み出す事が出来るのだ。
武志が参加したその祭りでも魔物娘が制作した花火が披露された。
大玉の中にいくつもの小玉をこめたもの、爆発した後に散った花火がまるで龍のように一つに合わさり力強く空をかけるもの、愛するパートナーへの公開告白をするものなど演出も凝っているものばかりで、花火が打ち上げられるたびに観客から歓声が起こった。
そんな中で、武志が心奪われたのが葵の作った花火だった。葵の作った花火は別段、凝った動きもしなければ特別な仕掛けがしているわけでもない、菊や牡丹、柳と呼ばれる昔ながらの花火だった。
「なんて美しいんだ…。」
だが、その花火はいままで武志が見た花火の中で一番美しかった。派手な演出があるわけではないが、花火そのものを楽しませるといった信念が感じられるような、荒っぽいけど繊細で…独特な緑がかった花火はいつまでも武志の心に残った。それから祭りが終わるまでの間どうしていたとかどうやって祭りから帰宅したとかが思い出せない位、武志はその花火に心奪われてしまっていた。
祭りが終わって数日後、武志は『銅島花火工房』と可愛らしい字で書かれた看板が下げられた洞窟の前に立っていた。
葵の花火を見て以来、仕事をしている時、食事をしている時、人と会話をしている時、そんなふとした瞬間にあの日見た夜空に美しく咲き誇る花火が頭に浮かんでは武志を魅了した。それは日が経つほどに薄れるどころかますます拍車がかかり、仕事や日常生活に支障をきたし始めていた。
このままではいけないと悩んだあげく、思い切って制作者に会いに行こうと武志は思い立った。制作者に会って何ができるわけではないとも思ったが、自分の中で膨らむ花火への想いを伝えたかったのだ。あと僅かではあるが、あの美しい花火を作りだしたのはどんな花火師なのだろうという好奇心も行動の原動力となっていた。
そこであの花火の制作者が『銅島花火工房』の銅島葵であることと花火工房の住所を祭りの責任者に教えて貰い、会社の休みを利用して工房へと足を延ばしたのだった。訪問する前日と当日の朝に訪問の意図を伝えようと電話をかけたが、留守にしているのか繋がらなかった。
教えて貰った住所にあった『銅島花火工房』は、武志が想像していたものとは全く違っていた。てっきり以前テレビで見たような、何棟もの堅牢な火薬庫が立ち並び火薬が厳重に管理されているような場所であの美しい花火は作られていると思っていた。だが、目の前にあるのは確かに頑丈そうではあるが、無造作に入口に看板が下げられたただの洞窟だ。
「ここで間違いないんだよな…。」
思わずケータイのマップで現在住所を確認するが、やはりここは教えられた住所で間違いなかった。
「こんにちは…あの、銅島葵さんはいらっしゃいますか…?」
「………グォ〜。」
何にせよこのまままごまごしていても何もならないと覚悟を決めて暗い洞窟内に向かって声をかける。だが返事は無く、風が通り抜けるような音がするばかり。この洞窟がどの程度の深さや構造を有しているかは分からないが、もしかしたらどこかにつながっているのかもしれない。
「すみません、失礼しますよ!」
返事が無く留守かもしれないと思ったが、このまま入口で立ちつくすのも嫌だったので武志はゆっくりと目を暗闇に慣らしつつ洞窟内へと歩を進めていった。手ぶらで訪れるのも悪いと思い途中で買ったタルトを落としてしまわないようにしっかりと脇に抱える。
「ん?」
洞窟の内部は天井が高いうえに横幅も予想以上に広く、地面がむき出しの床はしっかりと踏み固められ平らになっている。自然のまま洞窟を利用しているのだと思っていたが、しっかり人の手が入っているようだ。それに感心しつつしばらく慎重に歩いているとこつんと何かが足先にぶつかった。足元にあったそれはカラカラと軽い音をたてながらそのまま転がっていき、大きな“岩”にぶつかって動きを止めた。
「酒瓶、か?」
蹴飛ばしてしまったのは空の酒瓶だった。よくよく目を凝らして見るとそこには数本の空き瓶が転がっている。そういえばこのあたりは何種類かの酒が入り混じった独特の匂いが満ちていて、不思議なもので一度意識すると今までとは比べないものでアルコールの匂いが鼻をついた。ふと耳をすませると先ほどまで聞こえていた風が通るような音も聞こえてこないので、洞窟内に匂いが籠っているのかもしれない。
そんなことを考えつつ“岩”に当たって止まった酒瓶を拾い上げながら久しぶりに触れ合った人工物に奇妙な懐かしさを感じていると、真っ暗な洞窟内の大きな“岩”が突然―――動き始めた。
「…なんだ、てめえは。何しに来やがった…。」
「え!?」
武志が岩だと思っていたものは電池式のランプを片手に持ち、眩しそうに目を細めながら不機嫌そうにむくりと起き上がった。ランプによって照らしだされたのは針金の様な剛毛を生やした厳めしい蜘蛛の下半身に場違いのように美しい緑色の肌をした人間の上半身、そして名前の由来にもなっている二本の鋭い角を持ち合わせた魔物娘、ウシオニ。腰には鼻輪をつけた牛の頭蓋骨、肌には何かの模様なのか特徴的な文様が浮かび、顔の左半分が赤い札に覆われている。まさに彼女は伝承どおりのウシオニだった。そして彼女は横になっていても武志が岩だと思い込むほど大きかったが、気だるそうに大きな乳房を震わせながら立ち上がると、ジパングに住む男性の平均身長より少し大きい武志が見上げてしまうくらい大きかった。
「……何しに来たんだって聞いてんだよ、オイ。」
今までウシオニに出会った事のなかった武志は想像もしていなかった事態に放心してしまっていたが、彼女はそれが気に食わないのか、一層不機嫌そうに声のトーンを落とした。ランプで下から照らされる右半分の、目じりにやや赤みがさした切れ長の美しい目が彼女の不機嫌さや不審さを表すように狭められ、可憐な眉間に皺が寄っていく。ウシオニは気性が荒く暴れ出したら手がつけられないと聞いていたので、これ以上怒らせてはまずいと思い武志はなんとか口を開いた。
「あの、あなたは銅島葵さん…ですか?」
「…質問を質問で返すなんていい度胸じゃねえか、兄ちゃん。確かにアタシは銅島葵さ。」
「『銅島花火工房』の…?」
「面に看板が掛けてあんだろうが。」
「じゃああなたが…この間の祭りで七組目に披露された花火を制作されたんですよね?」
「そうだよ。花火屋なんだから花火拵えて何か悪い事でもあんのか、コラ。」
「僕はあなたの花火に感動したんです!!」
「あん!?」
「あの花火を見てから片時も忘れられなくて、いてもたってもいられずに来たんです!」
「!?」
・
・
・
「…というわけで自分の中でどうしようもなくなって、あなたに直接この想いを伝えたかったんです!!」
武志は花火に関する拙い知識を振りしぼりながら、あの花火がどんなに美しかったか、綺麗だったか、他のどの花火よりも自分が今まで見てきたものよりも素晴らしかったか、あの日見た花火がいつまでも忘れられないといった自身の思いの丈を彼女にぶつけた。
「………。」
それまで自信の姿を見て挙動不審だった見ず知らずの人間が急に鼻息荒く彼女が作った花火について語り出したことに、始めはさすがの葵も面喰っているようだった。だが、見開かれた目からは不審や不機嫌な様子は消えていた。
「あ、すみません。急に押し掛けた上に一方的に話しちゃって…。」
今まで興奮のあまり一方的に話しかけていたが彼女が口をつぐんでいることでやっと武志は我に返り、自分がどれだけ一人で盛り上がっていたのかを自覚して恥ずかしさがこみあげてきた。
「……。」
「これ、つまらないですがどうぞ」
彼女が一言もしゃべらずに仁王立ちでこちらを見つめてくることもあって、恥ずかしさが限界に達した武志は照れ臭さと手持無沙汰をごまかすためにタルトを差しだした。
「…オイ。」
「ひぃ!?何でしょうか?」
だが、葵はタルトを受け取らず脇にランプを置き、熊の様なでかい手で抵抗するのが無駄だとわかる強い力を込めて武志の両肩を掴んでぐいっと自分の方へ引き寄せた。あまりの力に武志は驚き、持っていたタルトを床に落としてしまった。それを拾おうとするが、まるでナイフのような冷たくずっしりと重い彼女の大きい爪が首筋にぐいっと押し当てられ、これ以上動くのは危険だと武志の直感が判断し、そのままの姿勢で恐る恐る葵の顔を見上げた。
「今お前が言ったことは本気なのか?」
「え?本気です、本当にそう思ったんです!!」
「じゃあ、その見惚れたアタシの花火をこれからも見たい、よな?」葵はその端正な顔を武志の顔ぎりぎりまで近付け迫る。
「それは勿論そうです。だから、今度はどこであなたの花火を見ることができるか教えていただければ…嬉しいです。」
その言葉を聞いた葵は眼を閉じて一つ大きくうーんと唸り、何かを思案した後、とんでもない事を口にした。
「ところでお前は童貞か?」
「はあ?」
今までと全然関係のない質問に思わず武志は素っ頓狂な声をあげてしまうが、彼女の表情は真剣そのものだった。
「大事な質問だ、答えろ。」
「童貞…ですが、何か?」
「よしよし青臭い匂いは間違いじゃないな…実に良いぞ、お前。」
「ちょっと、何を!?」
そう言うと今までの不機嫌な顔が嘘のようににんまりと笑顔を浮かべ、肩に置いていた手をゆっくりと武志の下半身に移動させていった。武志は先ほどから恐怖したり羞恥したりと自分の感情がころころ変わっている現状にいまいち追い付けず、葵のなすままにされていた。
「何をってお前さんも野暮だねえ。セックスだよ、セックス。」
当り前の事を何故聞くのかと武志を訝しみながら葵はきっぱりと答える。
「はあ!?何を言ってるんですか?」
「大体なあ、あんなに熱くアタシの花火を褒めにわざわざここまで来るってことはこうなることも覚悟してきたんだろ?」
「覚悟ってなんですか!!」
「あの祭りの責任者にアタシの居場所を聞いたんだろ?」
「…。」何が何やら分からず、武志は無言で頷く。
「そしてアタシがウシオニって分かっていてお前さんはここに来た。」
ならこういうふうに犯されるってことも覚悟の上でここに来たんだよな―――にこやかな笑顔のまま武志が思ってもいなかったことを口にしつつ、彼女は武志のズボンを強引に引き下げる。彼女の力に安物のズボンやベルトが叶うわけがなく、まるで紙のように生地は裂けバックルははじけ飛び、下着と肌が露出する。
「自分はあなたがウシオニだなんて知らなかったんです!!あの責任者さんは一言もウシオニだなんて言ってませんでしたよ!?」
「…本当か?」
「本当ですよ!!」電話で対応してくれたのんびりした口調の責任者の声を内容と共に思い出すが、ウシオニなんて言葉は再生されなかった。
「……なら、今覚悟を決めるんだな。どうあがいたってもうアタシからは逃げることは出来ないんだからな。」
「そんな無茶…ぐぇ!!ごほっごほ。」
子供が駄々をこねるような口調で無茶な提案をする葵に反論しようとするが、あっけにとられ隙だらけの喉元を太い腕で鷲掴みにされ、首を掴んだまま勢いよく床へ押し倒されてしまった。背中に衝撃が走り呼吸が乱れる。
「よいしょっと。」
倒れ込んだ武志の上に葵がのしかかり、完全に逃げ場は失われた。首にかけられた左手ですらどかすのは不可能としか思えない。
「では御開帳。ふっふ〜ん。なんだ、童顔なのにえらいもんぶらさげてんじゃないか♪」
マウントポジションを奪った葵は空いた右手でゆっくりと邪魔なパンツをおろしていき、武志の男性器を露出させる。先程から目の前でゆれる豊満な乳房を見ていたことに加え、葵に抑え込まれほとんど全裸に近い彼女が目と鼻の先に迫ったことで、武志のペニスはどんどんと硬さを増していた。
「くっ…見るなあ!!」
「往生際がわるいなあ、もうあきらめちまえよ。ん、ちゅう…じゅるじゅるぅ…。」
「ん!?ぢゅっちゅう、むちゅう…」
何時までも観念しない武志に引導を渡すかのように、葵が荒々しく唇を奪う。唇にむしゃぶりつき呆然とした口を舌でこじ開け、舌を差し込み唾液を舐め取っていく。長く器用な舌は丁寧に歯や歯肉を舐めていき、一通り歯に自分の唾液をマーキングや愛撫をした葵は本丸である武志の舌に襲いかかる。
「おら、んちゅ…抵抗なんて無駄なんだから、っちゅ…さっさと舌を出せ…舌、じゅっちゅ。」
武志はなすすべなく彼女の言う通りに舌を出す。すると葵はフェラをするようにのばされた舌を扱き始める。それは武志にとって初めての経験だった。先程丁寧に口内をねぶられた際も彼女の甘い唾液と共に快感に襲われたが、今現在武志がさらされている快感はその比ではない。性器以外で感じる強烈な性の刺激は武志の思考に一気に白い靄をかけていった。
「じゅぼ、じゅぷぷぷぅ…ぷはっ。ふふふ、すっかり蕩けた顔になったな♪そしてここも。」
硬くおったててよ―――葵はそう言って完全に勃起した武志のペニスを掴み激しく上下に扱き始める。すると途端に鈴口からはカウパー腺液が漏れ始め、ぐちゃぐちゃと葵の肉球と柔毛を濡らしていく。
「あ、ああ…ひぃん!!」
「情けない声と我慢汁をだらしなく出しやがって…。じゃあそろそろ本番に行こうか!」
そう言うが早いか、葵は体制を整え男性器の真上に自身の女性器を構え、その様を見せつけるために武志の後頭部を持ち上げた。武志の眼前には今までに見た事が無いほど充血した自分のペニスと、まさに今すぐにでもそれを咥えこもうとだらだろと蜜を吐き出すヴァギナが広がっている。
「よーく、見てろよ…。お前の純潔が奪われる瞬間ってヤツをよ♪」
葵は生粋のサディスティックな性格なのか、焦らすようにゆっくりと武志の性器を飲みこんでいった。一瞬だけ何かに引っかかったが、彼女は顔色一つ変えずにそのまま武志のペニスを咥えこんでいった。
「は、かっは…な、何これ?」
「アタシの中へようこそ、お兄さん♡」
彼女の蜜壺は経験したことの無い感触と快感に満ちていた。
鈴口には子宮口らしき硬くコリコリとした吸盤の様なものが吸いつき、子宮口付近に多く集まる細かい襞が奥へ奥へと導くように愛撫しながら亀頭を包みこむ。それだけでも強烈な射精欲にかられるが、膣全体がまるで発熱しているかのような熱さで迫り、痛くなる一歩手前のなんとも絶妙な力加減で締め上げる感触も堪らなかった。
「じゃあ、そろそろ腰をふろうか、ね!!」
「ああぁ…駄目、ダメ!!やめて!!!」
葵がゆっくりと大きいグラインドすることで先ほどまでなんとか我慢していた射精をしたいという欲望を一気に加速させる。出会ったばっかりの葵の膣に射精することへの恐怖から武志の口からは行為の中止を求める言葉が自然と漏れる。
「ふふふ…ヤだね。」
だが、性欲に火がついた魔物娘がその願いを聞き入れるはずがない。特にこのウシオニに関しては結果など火を見るよりも明らかだった。葵はいやらしい笑みを浮かべつつ武志の申し出を一蹴してさらに強く腰を打ちつけ始める。
「出せ、出して…アタシのモノになれよ、なあ?」
「くあっ…も、ダメだ!!で、出ちゃう!!!」
びゅるっ!びゅぐっびゅるびゅるるる!!
射精の兆候に気がついたのか、葵は痛みすら感じるほど強くペニスを搾り上げて膣内射精を強要させる。一方の武志は既に理性も精神もそして肉体も限界に達し、遂に葵の膣内、子宮内へと射精してしまった。
「はあ、はあお前の精液…美味しかったよ♡あー……?」
「…?」
胎内に吐き出された精液を恍惚の表情で味わっていた葵は蕩けた笑顔を向けていたが、不意に何かを思い出そうとしているような不思議な顔つきになってじっと武志の顔を見つめてくる。その表情の意味が分からず射精直後でぼんやりとしたまま武志は葵を見つめる。すると葵は武志の眼を見ながらバツが悪そうにしながら質問してきた。
「悪い、お前の名前ってなんだっけ?」
「…。」
「そう怒るなって、勢いに任せてお前を犯したけど、これからちゃんと愛してやるから!!」
「……。」
「ちなみにアタシは銅島葵だ…ってアタシの名前は知ってるか。ははは。」
「………。」
「な、なあ…臍を曲げないで教えておくれよ、イケメンなお兄さん♡」
それまで恐怖すら抱かせて武志を凌辱した本人とは思えないほどの茶番な空気を醸し出す葵に沸き上がった怒りや恐れは消え、代わりにこの可笑しく可愛い人をもっとよく知りたいとさえ不覚にも思ってしまった。
「…武志です、近藤武志。」
だけど、そんな心中を葵に知られるのはなんだか癪だったので、わざと憮然な表情と態度を装い無愛想に答える。
「タケシ…か。良い名前じゃないかタケシ。で、漢字ではどう書くんだい、タケシさん♡」
「武士の武に志で武志。」
「よ〜し、覚えた。しっかり覚えたよ、武志。さて、本題だ。」
「え?」
武志の名前を聞いた瞬間から再び先ほどまでの様なサディスティックな表情が葵に浮かぶ。
「初めてだったアタシの純情を散らしてくれた責任はしっかりと取ってくれるんだろうな?」
「は?」
「おいおい、お兄ちゃん。あんた生娘の処女を奪っておきながらその態度は無いんじゃないかい?」
「や、やくざだー!!」
「まあまあ時間はたっぷりあるんだし、これからゆっくるとお話しましょうか、事務所で♡」
「え、事務所なんてあるんですか?」
「言葉の綾じゃ!様式美じゃ!!このすけこまし!!!」
「だ、誰か助けてーーー!!」
そこからの記憶は曖昧だった。
結局やくざなやり方でいちゃもんをつけてきた葵に時間の感覚がなくなるほど犯し尽くされ、泣き叫んでも辞めては貰えなかった。
今思えば、自分の軽率さが全ての原因だったと思う。童貞で女を知らない自分、魔物娘にとって極上の獲物が男に飢えている独り者のウシオニの住処に何も知らなかったとはいえひょいひょいと乗りこんでいくのは、鴨が葱を背負ってくるようなもの、はっきりいって自殺行為だ。
武志は何日もかからず葵の魔力によってインキュバスとなり、すっかり彼女の虜になった。
犯された当初は恐怖で悲鳴を上げていたが、今では快感や愉悦で悲鳴をあげるほど葵に調教されている。そんな絶対の支配者である彼女からの結婚の提案を断るわけがなく、武志はそれまでの近藤武志として生きてきた人生を捨て、銅島武志として生きる選択をした。
そして現在、客の応対やマネジメントを武志が担当し、花火の制作を一手に葵が担う体制で『銅島花火工房』は動いている。
「まったく情けねえったらあらしねえ…」
まるで料理に失敗したかのように軽く愚痴をこぼしつつ、巨体を揺らしながら葵は武志のいる店内に入って来た。葵が入って来た瞬間、むわっと濃い火薬の匂いが武志の鼻孔をかすめる。そんな火薬の匂いを纏った葵の美しく玉の様な緑色の肌には傷一つ、火傷一つついてはいないが爆発の際についた火薬や黒い煤で汚れていた。
「お疲れさん。やっぱり新作は難しい?」
武志は水で湿らせたタオルを葵に手渡しながら声をかける。暑いこの季節に合わせてタオルはよく冷やしている。
「ありがとう。ふぃ〜気持ちいい♡ああ、アタシと違ってアイツらはかなり繊細だよ。少しでも集中力を切らすとすぐ駄目になりやがる。」
大きくため息をつきつつ、椅子にどっかりと座りながら葵は武志から受け取ったタオルで気持ちよさそうに体をふき始める。まず顔を一通り噴き、右の乳房の下から拭ういつもの彼女どおりの順番だ。
「でも、楽しみだな〜葵の新作。」
「おう、楽しみにしていてくれ。今までに見た事のないような…そんな花火を」
アタシの夢の舞台で最高の出来で武志に見せてやるからよ―――そう言って葵は店内の壁に下げられた額をきっと睨めつけた。
そこに下げられている額に収められているのは一枚の招待状、現魔王が主催するジパング最大の競技会であり花火師の夢である『ジパング花火競技大会』への招待状だった。
13/07/20 09:09更新 / 松崎 ノス
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