第七記 -クノイチ-
…さて、ここはどこだろう。
シー・スライムと別れてから、とりあえず海岸沿いを歩いているけれど、
見えるのは砂浜と、海と、森。道らしい道も、開けた場所もない。
月もだいぶ高く昇ってきている。おなかも空いた。服もない。早く家に帰りたい。
………変わらない景色。
月に光に砂粒が淡く応える、幻想的なそれはとてもきれいではあるけれど。
でも、おなかは満たされない。気持ちもどんどん沈んでいく。
そして追い打ちのように吹く突風。吹き飛ぶものなんて何もないのに。
…あぁ、ごはんが食べ―
「………」
…口と、首に、感触。風に…森が、ざわめく。
「…異国の者か」
…手で塞がれて、しゃべれない。
首には…ナイフのような、見慣れない刃物が添えられている。
胸の前にも、しっぽ?の先端が鋭い刃のようになったものが、突きつけられている。
「我らの里に近付き…何の企みか」
魔物…、図鑑で見たことがある。
ジパングにしか生息しない、サキュバスの亜種…クノイチ。
…横目が、鋭く、冷たい瞳と、交差する。
「答えろ」
ぐい、と強く引き寄せられる。
刃が近付き、ぞわ…とした寒気が、首から肩に抜ける。
より鋭さを増す眼光。
「………」
…恐い。あの人たちと…村のみんなと…似た、恐さ…。
「…?」
………………………………。
「………脅えるな。お主を殺める気はない」
すっ、と離れる、二つの刃。
押さえる力も弱まり…乱れた呼吸が、少しだけ楽になる。
…泣いてしまっていた。腰も抜けて…支えられている状態だった。
「…ただの子供か…。恐がらせてしまったな…」
…張り詰めていた空気が、和らいでいくのを感じる。
霞んだ目に、先程とは違う瞳が映る。
「…話せるか? 住まいは何処だ? 何故裸でいる?」
……………
………
…
「…ふむ」
表情は読み取れないけれど、悩んでいるのかな…と思った。
ジパングと、私の住んでいるところは、距離自体は遠くない。
ただ、それは海を隔てての話。陸路だと1週間は掛かる。
迷子を家に送るには、とても遠い道のり。
……服に関しては、溺れている最中に脱げた、ということにしておいた。
「………」
…図鑑によると、ジパングの魔物は他の魔物と違うところがあるらしい。
それは、人間とごく自然に共存できているということ。
否定とか、強引とか、そうしてお互いの考えをぶつけ合うんじゃなくて、
相手がどうしてほしいか…それに応えたい、って考え方。歩み寄り。
独占欲が強い種が多いのも、理由の一つ…とも書いてあった。
…ただ、クノイチは特殊、ともあったけれど…。
「…友に乞えば、明日には帰せるやもしれぬ」
クノイチが、視線を合わせる。
「今宵は休め。…だが、里には連れてゆけぬ」
そのまま、お姫様だっこ。
「少し先に空き家がある。ゆくぞ」
トンッ、と、机を指で叩いたような、小さく弾く音。
ふわっ…と…地面が、遠く。思わず身をすくめる。
「ん…、こら」
はだける、たわわな乳房。
…無意識に服を掴んで、ずらしてしまった。咎められる。
風のような速さの中…何事もないような素振りで、乱れを直すしっぽ。
そのまま手首に絡まり、引っ張られ…マフラー部分に招かれる。
…引っ張りすぎてしまわないよう、掴む。
「………」
枝から枝へ。木の葉を縫い、闇の森を吹き抜ける。
横切っていく景色。反して、静かな、静かな夜。
影だけが荒々しく。
「あそこだ」
先を見る。
…一際大きな樹の影に、ぽつんと、隠れるように立つ小屋。
見た目は、初めて見た時の我が家よりひどい。廃屋だ。
…地面に降り立つ、クノイチ。
「…立てるか?」
はっとして、頷く。
ゆっくりと地面に立つと…足元が、ふわふわしておぼつかない。
バランスが取れず、クノイチに寄り掛かってしまう。
「じきに慣れる」
私の肩を抱いて、廃屋に向けて歩き出す。千鳥足で、懸命に合わせる。
…それにしても…間近で見ると、更にひどい。玄関戸がほぼ骨組みのみ。吹き抜けだ。
そこから見える中の様子は、虫食いの壁に、蜘蛛の巣、毛布と、薄いマットレス。
文句なんて言えるわけもないけれど…、抵抗が、ある。
…軋む音と共に開く玄関戸。
「ソラはまだ上がるな」
言われて、立ち止まる。
サンダルを脱ぎ、一段高いところへ上がるクノイチ。
「座れ。足を出してみろ」
上がり場に座り、体育座りの体勢で、足を地面から浮かす。
クノイチに目を向けると、私からは顔が見えない向きでマスクをずらし、
口元にマフラーの先端をあてがい…放して、元に戻した。
「………」
屈んで…マフラーで、ごしごしと足の裏を拭き始める。
それは、私にとって…とても罪悪的な感じがして、逃げるように足を離した。
「大人しくしていろ」
叱られ…従う。
…汚れていくマフラー。胸が、ちくちく、する。
「…よし、上がっていい」
綺麗になった足で、クノイチと同じ床を踏む。
ぎし…と、唸り。歩くたびに、ぎし…、ぎし…。
「裸は冷えるだろうに。…さぁ」
言われて、改めて気付く。
…毛布を持ち上げ、私を待つクノイチ。
………今更ではあるけれど、隠すようにしつつ…横になった。
「………」
それを確認して、毛布を被せ、立ち、背を向け……服を脱ぎ始める、クノイチ。
え?と、口に出る。あまりに予想外。
「…気にするか?」
手を止め、問われる。
………答えられずにいると、また、布擦れの音。
「肌を合わせた方が、温い」
…マスクとマフラーだけを残して、こちらに振り返る。
暗い、暗い廃墟の中に、虫食いの穴から差し込む月光。
ほとんどが影の身体…。でも………きれい、だった…。
「………」
何も言わず、表情一つ変えず、隣に寝そべる。
そっと掛かる毛布。クノイチは口の位置、私は目の位置。
…クノイチが、寄り添い……少しだけ私の身体も引いて…お互いが密着する。
………沈黙が、続く…。
「…やはり、気にするか?」
…問われる。………答えられない…。
「………」
少しだけ毛布が浮き、冷たい風が入ってくる。
目線を下にやる、クノイチ。反射的に、身体を屈める。
「………」
隠しているから…見えないとは、思う。
どうなってるかなんて、気付かれてるとは思うけれど…。
それでも、隠すことで、もしかしたら…という、期待。
「………」
ひやっ…と、おへそ辺りに感じるもの。びくん、となる。
そのまま下に、隙間に指先が滑り込んできて……先端に、触れる。
また、びくん。
「………」
…感触が途切れる。
「…甘えていい」
肩を押され、背が付く。
馬乗りにされ…視線が、また、絡む…。
「子供が、気使うな」
………男の子を隠している指が、ひとつ、ひとつ…解かれていく。
ぴと、と、さっきの感触。きもちを表すような…小さな声が、漏れる。
「………」
中指で、裏側の中ほどを小刻みに撫でられる。
それに合わせて、人差し指と薬指が、側面を擦り上げて刺激する。
…すぐにおつゆがこぼれ…絡みつき…音を立て…おなかに垂れ…。
「………」
…脇腹をやさしく愛撫する手が…滑り…胸へ。
先端に触れないように、その周りを指先がくるくる回る。
誘われるように…先端が熱を帯び……固くなっていく…。
「…敏感だな…」
男の子への刺激が止まる。
細い指が髪留めに伸び…何かを、取り出した。
暗くて、よく見えない。
「痛くない…」
指が胸へ降りる。
月明かりに反射する細いもの…。
…針。血の気が、引く。
「痛くない」
瞬間、上げようとした顔に手が被さり、目を覆われる。
高鳴る胸。何も見えない恐怖と、針で刺される恐怖。
手が置かれた場所に…そこに刺されるという思考だけが、巡り、巡る。
………冷たい、先端。
「…期門」
ちく。
「………」
……………。
「………」
……………。
「………痛いか?」
…………感触は…ある…。
でも…本当に、不思議だけれど…まだ恐いけれど………痛く、ない…。
…むしろ…。
「…大包」
ちく。
「………」
…お尻の、横。太ももとの境目くらいに…クノイチの、手の、感触。
「…会陰」
ちく。
…右腕…掌を上に、肘の外側…。
「…尺沢」
ちく。
…耳の後ろ…。
「…完骨」
ちく。
…おへその、下…。
「…関元」
ちく。
「………終わりだ」
すっ…と、覆いが外れる。
…身体の震えに合わせて…ゆらめく、何本もの針…。
…自分の身体じゃないみたいに…思えた…。
「………」
…どきん、どきん…って…心臓が、どんどん、強く、大きく…。
じわじわ…身体が、針の場所を中心に…熱くなっていく…。
じわじわ……じわじわ……。熱に、うなされたみたいに…。
…あそこも…じわ、じわ………。
―………ぁっ…。
「………」
…どろっ……と…男の子から、漏れた…。
いつもみたいな勢いはなくて…おつゆみたいに…どろ、どろ…って…。
…止まらない…。クリームの詰まったチューブを、摘まんだり、放したりするみたいに…。
…男の子のヨロコビ……じんわりと……とめどなく………。
「…玉は無くとも、出るのか…」
垂れ落ちて、おへそに溜まるそれを…クノイチが、マスクを外し、ぺろぺろと舐める。
おへそ下の針にもかかって…間を結ぶ。針と、液が、鈍く反射する…。
「…れろ……ちゅ、んくっ…、れろ…」
…髪に隠れて、顔はよく見えない。
でも…どきどきする、光景だった。
男の子のが、びくんびくんって、よろこんだ。女の子のも、うずうずって、急かした。
「…ふ……」
…顔の位置を、女の子のところへ変えるクノイチ。
「ん…」
何かに気付いたような声。何なのかは…分からない。
………その少し後に、ちょん、と女の子と、お尻の間に、指。
「…まことに敏感だな、お前は……」
……ぬらりとしたものが…すくいあげた、クノイチの指に見える。
それを私の胸の…固くなっていた部分に、塗り付けた。
―ひゃぅっ…!
電気を流されたみたいな…びりっ、とした感覚。
シーツを裏手に掴み、腰を浮かして…収まりきらない快感を、逃がす。
それでも…それでも全然、足りないほど…強い刺激…。
「助平だ…。好ましいな」
ぬちゃぬちゃと塗りたくられ……頂を…擦られる。
強く掴んでも…腰を浮かしても……たまらなくて、たまらなくて…。
我慢できなくて………名前と…嬌声が…洩れた。
「…九乃、だ」
ふと…呟く、クノイチ。
クノ……、クノ。…名前…?
―………クノ、さん…。
「…ソラ」
ぐい、と、浮く腰を更に高く持ち上げられ、膝は肩に…。
つま先も床に届かないような、不安な体勢。
「今宵は…一夜の、過ち故」
女の子の…一番敏感な部分が、口で、覆われ、
「溺れたもう」
強く………吸われ…っ―
「んんっ…♥♥♥ ………ふふ…、ちゅっ…ごくっ、こく…ん…♥ こく…♥」
「…甘い味だ…。子供ゆえ、か…、ソラゆえ、か……」
「………」
「………ソラ…」
「残りは、夢でいい…」
「…蜜を求める…胡蝶の夢で……」
……………
………
…
………からだが…うごかない…。
「ソラ…これはどうだ? ……あぁ…♥ たくさん出るな…♥ はむ…っ♥」
………なにも…かんがえられない…。
「もう一本、増やすぞ…。……ふふ…♥ ほら…、こんなに勃起した…♥」
………わからない……きもちいい……。
「んっ…♥ 接吻が好きなのだな…。こんなに熟らして…はしたない…。…ちゅ…っ♥」
……………
………
…
………海の、匂い…。
「ハク、後何里ほどだ?」
「ええと…5里くらい、かと」
…聞き覚えのある声と、知らない声。
「九乃」
「何だ」
「具体的ではないといえ、その子は貴女の里の場所を知ったのでしょう…?」
「………」
「普通なら…前後の記憶を消したり、外の魔物の贄にしたり…」
「………」
「可哀想なのは分かります…。でも、貴女も里のしきたりが…」
「ハク」
「…はい」
「お前は水神と称えられるほど、高貴で、強く、慕われた存在だ」
「………」
「しからば、何故私のような者と、友と呼び合い、こうしているのか」
「…九乃……」
「…それと、似たものだ…」
…風が、頬を撫ぜる…。
「………あるいは…」
「あるいは…?」
「………一夜の過ち、だ…」
「………」
………音が、遠くなる…。
「ソラ」
近付く、声。
「お前とはもう、二度と会うことはないだろう」
「………だが」
「ゆめゆめ…忘れるなかれ」
凪がぬ、風。
「風は届く…。お前のもとに」
……………
………
…
シー・スライムと別れてから、とりあえず海岸沿いを歩いているけれど、
見えるのは砂浜と、海と、森。道らしい道も、開けた場所もない。
月もだいぶ高く昇ってきている。おなかも空いた。服もない。早く家に帰りたい。
………変わらない景色。
月に光に砂粒が淡く応える、幻想的なそれはとてもきれいではあるけれど。
でも、おなかは満たされない。気持ちもどんどん沈んでいく。
そして追い打ちのように吹く突風。吹き飛ぶものなんて何もないのに。
…あぁ、ごはんが食べ―
「………」
…口と、首に、感触。風に…森が、ざわめく。
「…異国の者か」
…手で塞がれて、しゃべれない。
首には…ナイフのような、見慣れない刃物が添えられている。
胸の前にも、しっぽ?の先端が鋭い刃のようになったものが、突きつけられている。
「我らの里に近付き…何の企みか」
魔物…、図鑑で見たことがある。
ジパングにしか生息しない、サキュバスの亜種…クノイチ。
…横目が、鋭く、冷たい瞳と、交差する。
「答えろ」
ぐい、と強く引き寄せられる。
刃が近付き、ぞわ…とした寒気が、首から肩に抜ける。
より鋭さを増す眼光。
「………」
…恐い。あの人たちと…村のみんなと…似た、恐さ…。
「…?」
………………………………。
「………脅えるな。お主を殺める気はない」
すっ、と離れる、二つの刃。
押さえる力も弱まり…乱れた呼吸が、少しだけ楽になる。
…泣いてしまっていた。腰も抜けて…支えられている状態だった。
「…ただの子供か…。恐がらせてしまったな…」
…張り詰めていた空気が、和らいでいくのを感じる。
霞んだ目に、先程とは違う瞳が映る。
「…話せるか? 住まいは何処だ? 何故裸でいる?」
……………
………
…
「…ふむ」
表情は読み取れないけれど、悩んでいるのかな…と思った。
ジパングと、私の住んでいるところは、距離自体は遠くない。
ただ、それは海を隔てての話。陸路だと1週間は掛かる。
迷子を家に送るには、とても遠い道のり。
……服に関しては、溺れている最中に脱げた、ということにしておいた。
「………」
…図鑑によると、ジパングの魔物は他の魔物と違うところがあるらしい。
それは、人間とごく自然に共存できているということ。
否定とか、強引とか、そうしてお互いの考えをぶつけ合うんじゃなくて、
相手がどうしてほしいか…それに応えたい、って考え方。歩み寄り。
独占欲が強い種が多いのも、理由の一つ…とも書いてあった。
…ただ、クノイチは特殊、ともあったけれど…。
「…友に乞えば、明日には帰せるやもしれぬ」
クノイチが、視線を合わせる。
「今宵は休め。…だが、里には連れてゆけぬ」
そのまま、お姫様だっこ。
「少し先に空き家がある。ゆくぞ」
トンッ、と、机を指で叩いたような、小さく弾く音。
ふわっ…と…地面が、遠く。思わず身をすくめる。
「ん…、こら」
はだける、たわわな乳房。
…無意識に服を掴んで、ずらしてしまった。咎められる。
風のような速さの中…何事もないような素振りで、乱れを直すしっぽ。
そのまま手首に絡まり、引っ張られ…マフラー部分に招かれる。
…引っ張りすぎてしまわないよう、掴む。
「………」
枝から枝へ。木の葉を縫い、闇の森を吹き抜ける。
横切っていく景色。反して、静かな、静かな夜。
影だけが荒々しく。
「あそこだ」
先を見る。
…一際大きな樹の影に、ぽつんと、隠れるように立つ小屋。
見た目は、初めて見た時の我が家よりひどい。廃屋だ。
…地面に降り立つ、クノイチ。
「…立てるか?」
はっとして、頷く。
ゆっくりと地面に立つと…足元が、ふわふわしておぼつかない。
バランスが取れず、クノイチに寄り掛かってしまう。
「じきに慣れる」
私の肩を抱いて、廃屋に向けて歩き出す。千鳥足で、懸命に合わせる。
…それにしても…間近で見ると、更にひどい。玄関戸がほぼ骨組みのみ。吹き抜けだ。
そこから見える中の様子は、虫食いの壁に、蜘蛛の巣、毛布と、薄いマットレス。
文句なんて言えるわけもないけれど…、抵抗が、ある。
…軋む音と共に開く玄関戸。
「ソラはまだ上がるな」
言われて、立ち止まる。
サンダルを脱ぎ、一段高いところへ上がるクノイチ。
「座れ。足を出してみろ」
上がり場に座り、体育座りの体勢で、足を地面から浮かす。
クノイチに目を向けると、私からは顔が見えない向きでマスクをずらし、
口元にマフラーの先端をあてがい…放して、元に戻した。
「………」
屈んで…マフラーで、ごしごしと足の裏を拭き始める。
それは、私にとって…とても罪悪的な感じがして、逃げるように足を離した。
「大人しくしていろ」
叱られ…従う。
…汚れていくマフラー。胸が、ちくちく、する。
「…よし、上がっていい」
綺麗になった足で、クノイチと同じ床を踏む。
ぎし…と、唸り。歩くたびに、ぎし…、ぎし…。
「裸は冷えるだろうに。…さぁ」
言われて、改めて気付く。
…毛布を持ち上げ、私を待つクノイチ。
………今更ではあるけれど、隠すようにしつつ…横になった。
「………」
それを確認して、毛布を被せ、立ち、背を向け……服を脱ぎ始める、クノイチ。
え?と、口に出る。あまりに予想外。
「…気にするか?」
手を止め、問われる。
………答えられずにいると、また、布擦れの音。
「肌を合わせた方が、温い」
…マスクとマフラーだけを残して、こちらに振り返る。
暗い、暗い廃墟の中に、虫食いの穴から差し込む月光。
ほとんどが影の身体…。でも………きれい、だった…。
「………」
何も言わず、表情一つ変えず、隣に寝そべる。
そっと掛かる毛布。クノイチは口の位置、私は目の位置。
…クノイチが、寄り添い……少しだけ私の身体も引いて…お互いが密着する。
………沈黙が、続く…。
「…やはり、気にするか?」
…問われる。………答えられない…。
「………」
少しだけ毛布が浮き、冷たい風が入ってくる。
目線を下にやる、クノイチ。反射的に、身体を屈める。
「………」
隠しているから…見えないとは、思う。
どうなってるかなんて、気付かれてるとは思うけれど…。
それでも、隠すことで、もしかしたら…という、期待。
「………」
ひやっ…と、おへそ辺りに感じるもの。びくん、となる。
そのまま下に、隙間に指先が滑り込んできて……先端に、触れる。
また、びくん。
「………」
…感触が途切れる。
「…甘えていい」
肩を押され、背が付く。
馬乗りにされ…視線が、また、絡む…。
「子供が、気使うな」
………男の子を隠している指が、ひとつ、ひとつ…解かれていく。
ぴと、と、さっきの感触。きもちを表すような…小さな声が、漏れる。
「………」
中指で、裏側の中ほどを小刻みに撫でられる。
それに合わせて、人差し指と薬指が、側面を擦り上げて刺激する。
…すぐにおつゆがこぼれ…絡みつき…音を立て…おなかに垂れ…。
「………」
…脇腹をやさしく愛撫する手が…滑り…胸へ。
先端に触れないように、その周りを指先がくるくる回る。
誘われるように…先端が熱を帯び……固くなっていく…。
「…敏感だな…」
男の子への刺激が止まる。
細い指が髪留めに伸び…何かを、取り出した。
暗くて、よく見えない。
「痛くない…」
指が胸へ降りる。
月明かりに反射する細いもの…。
…針。血の気が、引く。
「痛くない」
瞬間、上げようとした顔に手が被さり、目を覆われる。
高鳴る胸。何も見えない恐怖と、針で刺される恐怖。
手が置かれた場所に…そこに刺されるという思考だけが、巡り、巡る。
………冷たい、先端。
「…期門」
ちく。
「………」
……………。
「………」
……………。
「………痛いか?」
…………感触は…ある…。
でも…本当に、不思議だけれど…まだ恐いけれど………痛く、ない…。
…むしろ…。
「…大包」
ちく。
「………」
…お尻の、横。太ももとの境目くらいに…クノイチの、手の、感触。
「…会陰」
ちく。
…右腕…掌を上に、肘の外側…。
「…尺沢」
ちく。
…耳の後ろ…。
「…完骨」
ちく。
…おへその、下…。
「…関元」
ちく。
「………終わりだ」
すっ…と、覆いが外れる。
…身体の震えに合わせて…ゆらめく、何本もの針…。
…自分の身体じゃないみたいに…思えた…。
「………」
…どきん、どきん…って…心臓が、どんどん、強く、大きく…。
じわじわ…身体が、針の場所を中心に…熱くなっていく…。
じわじわ……じわじわ……。熱に、うなされたみたいに…。
…あそこも…じわ、じわ………。
―………ぁっ…。
「………」
…どろっ……と…男の子から、漏れた…。
いつもみたいな勢いはなくて…おつゆみたいに…どろ、どろ…って…。
…止まらない…。クリームの詰まったチューブを、摘まんだり、放したりするみたいに…。
…男の子のヨロコビ……じんわりと……とめどなく………。
「…玉は無くとも、出るのか…」
垂れ落ちて、おへそに溜まるそれを…クノイチが、マスクを外し、ぺろぺろと舐める。
おへそ下の針にもかかって…間を結ぶ。針と、液が、鈍く反射する…。
「…れろ……ちゅ、んくっ…、れろ…」
…髪に隠れて、顔はよく見えない。
でも…どきどきする、光景だった。
男の子のが、びくんびくんって、よろこんだ。女の子のも、うずうずって、急かした。
「…ふ……」
…顔の位置を、女の子のところへ変えるクノイチ。
「ん…」
何かに気付いたような声。何なのかは…分からない。
………その少し後に、ちょん、と女の子と、お尻の間に、指。
「…まことに敏感だな、お前は……」
……ぬらりとしたものが…すくいあげた、クノイチの指に見える。
それを私の胸の…固くなっていた部分に、塗り付けた。
―ひゃぅっ…!
電気を流されたみたいな…びりっ、とした感覚。
シーツを裏手に掴み、腰を浮かして…収まりきらない快感を、逃がす。
それでも…それでも全然、足りないほど…強い刺激…。
「助平だ…。好ましいな」
ぬちゃぬちゃと塗りたくられ……頂を…擦られる。
強く掴んでも…腰を浮かしても……たまらなくて、たまらなくて…。
我慢できなくて………名前と…嬌声が…洩れた。
「…九乃、だ」
ふと…呟く、クノイチ。
クノ……、クノ。…名前…?
―………クノ、さん…。
「…ソラ」
ぐい、と、浮く腰を更に高く持ち上げられ、膝は肩に…。
つま先も床に届かないような、不安な体勢。
「今宵は…一夜の、過ち故」
女の子の…一番敏感な部分が、口で、覆われ、
「溺れたもう」
強く………吸われ…っ―
「んんっ…♥♥♥ ………ふふ…、ちゅっ…ごくっ、こく…ん…♥ こく…♥」
「…甘い味だ…。子供ゆえ、か…、ソラゆえ、か……」
「………」
「………ソラ…」
「残りは、夢でいい…」
「…蜜を求める…胡蝶の夢で……」
……………
………
…
………からだが…うごかない…。
「ソラ…これはどうだ? ……あぁ…♥ たくさん出るな…♥ はむ…っ♥」
………なにも…かんがえられない…。
「もう一本、増やすぞ…。……ふふ…♥ ほら…、こんなに勃起した…♥」
………わからない……きもちいい……。
「んっ…♥ 接吻が好きなのだな…。こんなに熟らして…はしたない…。…ちゅ…っ♥」
……………
………
…
………海の、匂い…。
「ハク、後何里ほどだ?」
「ええと…5里くらい、かと」
…聞き覚えのある声と、知らない声。
「九乃」
「何だ」
「具体的ではないといえ、その子は貴女の里の場所を知ったのでしょう…?」
「………」
「普通なら…前後の記憶を消したり、外の魔物の贄にしたり…」
「………」
「可哀想なのは分かります…。でも、貴女も里のしきたりが…」
「ハク」
「…はい」
「お前は水神と称えられるほど、高貴で、強く、慕われた存在だ」
「………」
「しからば、何故私のような者と、友と呼び合い、こうしているのか」
「…九乃……」
「…それと、似たものだ…」
…風が、頬を撫ぜる…。
「………あるいは…」
「あるいは…?」
「………一夜の過ち、だ…」
「………」
………音が、遠くなる…。
「ソラ」
近付く、声。
「お前とはもう、二度と会うことはないだろう」
「………だが」
「ゆめゆめ…忘れるなかれ」
凪がぬ、風。
「風は届く…。お前のもとに」
……………
………
…
12/03/07 00:04更新 / コジコジ
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