第二十九記 -リリム-
…愛おしいモノとは、どうあるべきか。
至極簡単な問い。
愛される存在であるべき。
愛される形を、動作を、言葉を持つ存在であるべき。
しかして、それは皆々に愛される存在でなくともよい。
あぁ、季節外れの梔子の蕾よ。
未だ花は咲かぬ。咲かぬのだ。
芽吹いているのに、咲かぬのだ。
咲かぬ花に、蜜蜂共が寄りてくる。
幾重にも閉じた花弁を破りて。
まだ熟れぬ蜜を啜るか。啜り狂うか。
花咲く季節すら知らぬのか。
一匹の蜜蜂が囀る。
どうか、私だけに花を咲かせてください。
もう一匹の蜜蜂が囀る。
いいえ、私だけに花を咲かせてください。
全ての蜜蜂が囀る。
私だけに、私だけに、私だけに。
愚者の群れが覆いを食い破る。
梔子は頬笑み、幸せだと囁く。
蜜を与える事が、何より幸せだと考える。
梔子は知らぬ。
己が身は、蝶々により育まれた事を知らぬ。
蝶々が飲むための蜜と知らぬ。
無知故に知らぬ。
だが、蜜は涸れぬ。
蜜蜂共の口吻では吸い切れぬ。
飲み、酔いて、覚め、その繰り返し。
花弁もまた、甦る。その繰り返し。
蜜蜂も、梔子も。
飲もうと、飲ませようと。
必死。狂いて必死。必死に狂い。
繰り返し。繰り返し。繰り返し。
蝶々は笑う。
愚かな蜜蜂。愛しい梔子。
滑稽かな、絶景かな。
花咲く夏は近いというに。
咲けば、もう、蜜蜂は寄らせぬ。
優雅に咲き誇る梔子に似合うは、誰か。
五月蝿い羽音を撒き散らす虫ではあるまいて。
煌びやかな身衣と、気品薫る杓を持つ、私。
もう一度言おう。
五月蝿い羽音を撒き散らす虫ではあるまいて。
あぁ、愛しの梔子。
あぁ、愛しの梔子。
早く蜜を飲ませておくれ。
熟れた蜜を飲ませておくれ。
渇いた喉に潤いをおくれ。
待ち焦がれた胸に安らぎをおくれ。
貴方は私のもの。
私は貴方のもの。
寄れぬ蜜蜂達は何を思う。
渇け。渇け。渇いて狂え。
野花の蜜吸い渇きを癒せ。
さすれば野花は蜜蜂のもの。
構いはせぬ。構いはせぬ。
梔子だけが我が手に在れば。
野花を愛おしめ、蜜蜂よ。
いずれ梔子の味も忘れよう。
我らは本能に抗えぬ。
虫の生き方に抗えぬ。
我らは虫。
蜜を求めて、彷徨う虫。
御前達は蜜蜂。私は蝶々。
同じ虫。違う虫。
同じ花。違う花。
蜜蜂。蝶々。
野花。梔子。
蕾。花。
あぁ、愛しの梔子。
「うふふ…♪」
…愛おしいモノとは、どうあるべきか。
至極簡単な問い。
蝶々に蜜を吸われる存在であればよい。
「…さぁ」
梔子の許へ、蝶々は飛び立つ。
「そろそろ迎えに行きましょう」
夏を報せに、蝶々は飛び立つ。
……………
………
…
至極簡単な問い。
愛される存在であるべき。
愛される形を、動作を、言葉を持つ存在であるべき。
しかして、それは皆々に愛される存在でなくともよい。
あぁ、季節外れの梔子の蕾よ。
未だ花は咲かぬ。咲かぬのだ。
芽吹いているのに、咲かぬのだ。
咲かぬ花に、蜜蜂共が寄りてくる。
幾重にも閉じた花弁を破りて。
まだ熟れぬ蜜を啜るか。啜り狂うか。
花咲く季節すら知らぬのか。
一匹の蜜蜂が囀る。
どうか、私だけに花を咲かせてください。
もう一匹の蜜蜂が囀る。
いいえ、私だけに花を咲かせてください。
全ての蜜蜂が囀る。
私だけに、私だけに、私だけに。
愚者の群れが覆いを食い破る。
梔子は頬笑み、幸せだと囁く。
蜜を与える事が、何より幸せだと考える。
梔子は知らぬ。
己が身は、蝶々により育まれた事を知らぬ。
蝶々が飲むための蜜と知らぬ。
無知故に知らぬ。
だが、蜜は涸れぬ。
蜜蜂共の口吻では吸い切れぬ。
飲み、酔いて、覚め、その繰り返し。
花弁もまた、甦る。その繰り返し。
蜜蜂も、梔子も。
飲もうと、飲ませようと。
必死。狂いて必死。必死に狂い。
繰り返し。繰り返し。繰り返し。
蝶々は笑う。
愚かな蜜蜂。愛しい梔子。
滑稽かな、絶景かな。
花咲く夏は近いというに。
咲けば、もう、蜜蜂は寄らせぬ。
優雅に咲き誇る梔子に似合うは、誰か。
五月蝿い羽音を撒き散らす虫ではあるまいて。
煌びやかな身衣と、気品薫る杓を持つ、私。
もう一度言おう。
五月蝿い羽音を撒き散らす虫ではあるまいて。
あぁ、愛しの梔子。
あぁ、愛しの梔子。
早く蜜を飲ませておくれ。
熟れた蜜を飲ませておくれ。
渇いた喉に潤いをおくれ。
待ち焦がれた胸に安らぎをおくれ。
貴方は私のもの。
私は貴方のもの。
寄れぬ蜜蜂達は何を思う。
渇け。渇け。渇いて狂え。
野花の蜜吸い渇きを癒せ。
さすれば野花は蜜蜂のもの。
構いはせぬ。構いはせぬ。
梔子だけが我が手に在れば。
野花を愛おしめ、蜜蜂よ。
いずれ梔子の味も忘れよう。
我らは本能に抗えぬ。
虫の生き方に抗えぬ。
我らは虫。
蜜を求めて、彷徨う虫。
御前達は蜜蜂。私は蝶々。
同じ虫。違う虫。
同じ花。違う花。
蜜蜂。蝶々。
野花。梔子。
蕾。花。
あぁ、愛しの梔子。
「うふふ…♪」
…愛おしいモノとは、どうあるべきか。
至極簡単な問い。
蝶々に蜜を吸われる存在であればよい。
「…さぁ」
梔子の許へ、蝶々は飛び立つ。
「そろそろ迎えに行きましょう」
夏を報せに、蝶々は飛び立つ。
……………
………
…
12/03/29 00:30更新 / コジコジ
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