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第二十一記 -サイクロプス-
「…これが……オリハルコン…」

青い手の上に転がる、小さな石を食い入る様に見つめる3つの目。

「…ソラちん、これ、なんぼ?」

………言葉の意味に気付き、慌てて、売る気は無いことを伝える。

「ん〜…50万! どや?」

…首を横に振ると…開いた掌に添えられる、立てた人差し指。
諦めない商売人。それがポコさん。

「とは言うても…ぷーちん、こんな小石から何か作れるん?」

「………」

青く透き通る石を、じっと見つめ……ぼそっ、と呟き声。

「…指輪なら…」

「おぉ、それええやん!」

まるで自分の物のように話を進めるポコさん。
その手はすごい勢いでソロバンの珠を弾いている。
あれは無意識なのかもしれない。

…と、今度は何かを思い出したように、慌てて懐中時計を取り出し見る。

「あかん! もう出ぇへんと次のお客ンところに間に合わへん!」

「とゆーわけで、ぷーちん、ソラちん、ほなまたっ!」

しゅっ、と片手をあげて、厚底下駄をかっこんかっこん、爽快に去っていく。

…嵐が去り…改めて石を見直す、私とぷーさん。

「………」

……静かだけれど…ぷーさんのその大きな目は、光り輝いているようにも見えた。
きっと、この石はサイクロプスにとって特別なものなんだと…それを見て、感じる。

「…ありがとう」

私の手を取り…その平に、そっと石を返すぷーさん。

…石を見つめ……考える。
今日ここに来たのは、単に…石を見せてあげたいというのと、
ぷーさんと他愛のないお話をしたい、という想いから。
でも今、もうひとつの想いが生まれている。

この石を、どうしようか…という、想い。

「………ソラ」

と…隣に座ったぷーさんが、顔を近付ける。

「…良い匂い」

「……香水?」

…頷く。ばれちゃった。
ほほをかきながら、ちょっと背伸び…、とお返事。

「………」

顔を離し…机に手を組み置いて、一言。

「…似合ってる」

小さな声だけれど、まっすぐな意見。
…うまい返事が見つからなくて、照れ隠しで誤魔化した。

「…好きな人の、ため?」

頷く。

―もっと好きになってほしいから…。

「…うん」

―…ぷーさんは、好きな人…いる?

「………」

―……ヒミツ?

「…ううん」

「…いる」

―どんな人?

「……秘密…」

―気になるなぁ。

「………」

―…私の知ってる人?

「…ううん」

―じゃあ、さっぱり分からないや…。

「………」

―うーん…。

「………」

―………。

「………」

―………。

「………ソラ…」

―んっ?

「……内緒…」

―内緒…?

「…うん…」

―……教えてくれるの?

「…うん…」

―約束! 内緒にするっ!

「………」

―どんな人? ここに来たお客さん?

「…うん」

「…騎士の、人」

―王宮の騎士さん?

「…うん」

「…長髪の…青い鎧を着た人」

―ふんふん。

「……書く物、持ってる…?」

―書く物? んと……手帳とペンで大丈夫?

「…うん」

「………こんな…鋭角の多い鎧で…」

「……身体は……がっしり…」

「……頬に…傷……」

―………。

「……こんな人…」

―……えっと……この腰?にあるのは…剣?

「…うん」

―ぷーさんが作った剣?

「…うん」

「…とても…大事に使ってくれてる…」

―いつ見ても、傷一つ付いてない…ってくらい?

「…ううん」

「…その逆…」

「…いつも、ボロボロ」

「…研いでほしい、って…いつも持ってくる」

―…ね、ぷーさん。

「…ん…」

―それって…いっぱい使ってもらえて、嬉しかったから…。

―だから、その………好き、って思うようになったの?

「……うん…」

―そうなんだ〜。

「…胸の中が…」

「…炉に…くべられたみたいになる…」

―うん、うんっ。わかる。顔を見たりしちゃうと…ね?

「…うん…」

―どきっ、て、なる。

「…うん」

―この人は、ぷーさんのことをどう思ってるんだろう?

「………」

―ぷーさん、優しいし、スタイルもいいから…。

「………」

―きっと、好きなんじゃないかな。

「………」

―うん。好きって思ってる。

「………そう、かな…」

―そうだよ。私がこの人だったら、今すぐプロポーズしちゃうもんっ。

「………」

―『騎士の誓いに懸けて』…なんて、言ったりしちゃって。

「……でも…」

―?

「………」

「……ソラ」

―はいっ。

「……ソラは…」

「…私を見て……どう思う…?」

―ぷーさんを見て…?

「…うん」

―…んー……、思ったままでいいの?

「…うん」

―…優しくて…静かで…美人で…力持ちで…鍛冶が上手で…。

「………」

―コーヒーが好きで…ぁ、ブラックが特に好きで……角が生えてて…。

「………」

―目がひとつで…。

「っ……」

―他の人よりキラキラ潤ってて…見つめられるとドキドキして…。

「!」

―…あとはー……肌が青くて…つやつやで……筋肉が硬くて…。

「………」

―髪を結んでいて……解いたのも見てみたくて………あと〜……。

「……もう、大丈夫…」

―あ、うんっ。

「………」

―…?

「……私…」

―うん。

「…ソラに……プロポーズ…しようかな…」

―ぶっ!?

「………」

―ど、どうしたの!? 急に…!

「……私の目…」

「…会った時から…一度も気にしない人…」

「…ポコさんと、ソラだけ…」

―………。

「…褒めてくれたのは…」

「……ソラだけ…」

―………。

「………」

―……ぷーさんっ。

「…ん…」

―この人にも、今の質問…してみようよっ。

「……それ、は…」

―大丈夫!

―ぷーさんが好きになった人だもん、大丈夫!

「………」

―この人が、ぷーさんの目を褒めたら…。

―絶対、ぜーったい私が褒めた時より、嬉しくなるよ!

「っ…!」

―ぽかぽかするよ! すっごく、どきどきする!

―たまらなくなるって! 絶対…、絶対、ぜぇーったいっ!!

―私も、ユニちゃん達にお菓子の味とか褒めてもらうと………ぁ……。

「………」

―……ご、ごめん…。…勝手に盛り上がっちゃった…。

「………」

―………ごめんね…?

「……ううん…」

「…ありがとう……ソラ」

―えっ。………えへへっ…♪

「………」

―…あ、そうだっ。

「…?」

―ぷーさん。このオリハルコンで、指輪なら作れるんだよね?

「…うん」

―何個くらい?

「……小さくしても…3個」

―じゃあ、2個作ってもらえないかな?

「…プレゼント?」

―うんっ。

「…貰う人…きっと、喜ぶ…」

―本当?

「…うん」

―ぷーさん、喜んでくれる?

「…え…?」

―指輪。ぷーさんと、騎士さんへのプレゼント。

「………」

―…あれ? ぷーさーんっ?

「………」

「………」

「……………ソ、ラ…」

―ぷ、ぷーさんっ!? 大丈夫!? 目にゴミ入った!?

「……ソラ…」

―何!? 痛い!?

「…ずっと……ずっと…、私の…」

「………友達で………いて……」

―……ぷーさん…。

「……ソラが……いないと…」

「…きっと……この人が…一緒でも……」

「…鍛冶を………失くすよりも……」

「………耐えられない……から………」

―………。

「………」

―……ね…、ぷーさん…。

「………」

―今度は……私の内緒話、聞いてくれる…?

―私も、ぷーさんのこと…。

―今より、もっと…もーっと…大事な人にしたい。

「………」

―…いい…?

「……うん」

「…私も……もっと……」

「…ソラの…大事な人になりたい…」

―うんっ…♪

「……教えて」

「…内緒の話…」

―うんっ。えっとね…私の初恋の話なんだけれど……。

……………

………

12/03/21 00:02更新 / コジコジ
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