レア★ドロップ
「……よし……」
荻須は固唾を飲んでデスクトップにある「ダークネスロード」のアイコンをクリックした。
いつもしているログインにどうしてこんなに緊張するのか。原因はわかっている。
あのオフ会以来、互いの顔を知った上で初のログインだからだ。
無論、オフ会で顔を合わせながらプレイはしたが、その時は目の前に相手が居る故の社交辞令的な意識も働くだろう。
いや、そんなに裏表のある人々には見えなかったがあれから期間を置くうちに荻須の中で勝手に不安が増幅してしまったのだ。
いつもと同じに接してくれるだろうか?よそよそしい態度を取られたらどうしよう?三人から一人ハブられたらどうしよう……?
こういう時、自分の対人関係における臆病さがつくづく嫌になる。
画面上に広がるメインタイトル。自分のキャラクター「オギス」が読み込まれ、いつもの街角に降り立つ。
冒険の拠点になる場所なので周囲は自分と同じように待ち合わせをしているプレイヤー達で賑わっている、とりあえず見回してみてもその中に三人は見当たらない。
(まだ来てないのか……うん?)
その喧騒の中から一人のプレイヤーがこちらに向かって歩いてきた。
見覚えのないキャラクターだ。長い髪を後ろに纏めた金髪碧眼の女性。純白の鎧にマント、腰に下げている剣を見るに騎士であるようだが……。
「……えっ……まさか」
表示されている名前をみた瞬間思わず声が漏れた。
「アストレイ」
言われてみれば顔立ちはあのアストレイそのものだ、元々が中性的な美少年というデザインだったので女性になっても全く違和感がない。
呆然とするオギスの前に立ってアストレイは声をかけてきた。
アストレイ:こんばんは
オギス :こんばんは……アストレイだよな?あの
アストレイ:そう、そのアストレイだ、驚いたかい?
オギス :驚いたも何も……キャラの性別って途中で変更できないはずだろ?
アストレイ:ふふふ、実はね……最初から女性だったんだよ、このアストレイってキャラ
荻須は思い出す。そういえばこのゲームは装備品に男性用女性用という括りがなく、見た目がどんな物でも誰でも装備できる。
お陰でウケ狙いの変態装備キャラも見かけたりするが……。
オギス :装備品で男装してたって訳か……何でそんな手の込んだ事を
アストレイ:まあ、ナンパ避け、かな?でも最近ずっとオギスとペア組んで男避けの必要もなくなったし……リアルもバラしたからイメチェンしようかなーって
アストレイはオギスの前でくるくるっと回って見せる、纏めた金髪が小動物の尻尾のように揺れる。可愛い。
アストレイ:どうだい新生アストレイは、あ、勿論ステータスも以前と遜色ない物を揃えたからゲームに影響はないぞ。
オギス :何というか……
荻須はそのアストレイの姿に既視感を覚えていたが、一瞬考えてその正体に思いついた。
オギス :リアルそっくり
アストレイ:だろう?意識して作ったんだ、リアルと同じく超絶美少女だろう?
オギス :自分で言うかね
アストレイ:HAHAHAHA
話の流れで突っ込んだが超絶美少女というのは実際その通りだと荻須は頭の中で思った。無論、そんな歯が浮くようなセリフは実際には吐けないが。
ミステラ :こんばんは
ルビィ :あー!アストレイちゃんイメチェンしてる!ずるい!
と、アストレイと会話していると残りの二人も到着して会話に加わってきた。
アストレイ:ふふふ、悔しいか、普段とのギャップで攻めるという長年温めてきたアイデアだ、これでオギスもイチコロって寸法よ
オギス :イチコロてw
ミステラ :イメチェン……いいですね、私ももうちょっとお洒落な装備探してみようかな
ルビィ :じゃあわたしももっとセクシーなの探す!
オギス :今でも既に下着より露出しとるがなw
(よかった……)
荻須はパソコンの前で胸をなで下ろしていた、皆いつもと変わらない。
実のところは今までとは違って皆アプローチが積極的になっているのだが、そこのあたりの経験値も鋭さも足りない荻須は全て冗談として受け取っているのだった。
・
・
・
オギス :ルビィは、まだいける?
ルビィ :明日は休みなのであります
オギス :じゃ、もうちょっと素材集めするか
ルビィ :おけーぃ
その日の狩りを終えて皆が解散した後、オギスは次の日が休みでまだ眠気もなかったのでもう少し続けようと考えた。
それに付き合ってくれたのがルビィだ、一人でやるよりは当然二人の方が効率がいいので一緒にせっせと素材集めに精を出す。
ルビィ :ねえ、リーダー
オギス :うん?
二人で鍾乳洞の壁をツルハシでカンカン叩いているとルビィが話してきた。
ルビィ :ダクネ始めてどのくらいだっけ?
オギス :三年くらいだったかな
ルビィ :じゃさ、このモーションって知ってる?
そう言うとルビィはツルハシを締まうとオギスの方に向き直る。
見ていると画面上のルビィはくねくねと身体をくねらせて両手を自分の身体に這わせて見せた。
いつもの踊りとは違う、その他のどのアピールとも違う、初めて見る動きだった。
ストリッパーか何かのようなその動きは衣装も相まって非常に妖艶だ。
オギス :なにそれ始めてみた
ルビィ :えへへ、実はこれ女キャラにしか実装されてないアピールなんだよね
オギス :まあ、男がやっても気持ち悪いだけだなw
ルビィ :このゲーム、女キャラのモーションが男キャラよりずっと多いんだってー
オギス :それは知らなんだ
最初にエディットしたこの「オギス」一本で今までやってきた荻須にとっては初耳だ、ちょっと悔しい気がする。
しかしちょっぴり男性向けを意識したこのゲームならさもありなんとも思った。
ルビィ :他にもねー、人に向けてできるアピールもあるんだー
オギス :へえ、どんな?
ルビィ :例えばこう……はぐはぐー!
と、突然画面上のルビィがオギスに抱き付いた、周囲にぽわわん♪という効果音と共にハートが散る。
「うおおう」
思わずリアルに声を上げてしまった。
オギス :うはwwwビビったwww
ルビィ :はぐはぐー♪はぐはぐー♪
抱きついたルビィはぎゅうぎゅうとオギスに身体を押し付けるようなモーションを取る。
……何というか、異様に出来のいいモーションだ、腰を擦り付けるような動きが性的すぎる
それに普通3D上で二キャラが重なるとポリゴンがめり込みそうなものだが、豊満な房がオギスの着ている防具に当たってむにゅむにゅと変形する様までよくできている。
キャラクターの表情もとろん、と蕩けるような表情が再現されている。
(ぐおおおおおおお!)
パソコンの前でオギスは悶絶する、これ程このゲームの出来の良さを再確認した瞬間はない。
何より自分にそのモーションをかけている相手がリアルで美少女だという事実が興奮に拍車をかける。
ルビィ :実はねー、これ隠しステータスあるって噂あるんだー
オギス :隠しステータス?
ルビィ :うん、愛情メーター的なのが設定されててー、こういうアピールを特定の二人で繰り返すと上がっていって、経験値にボーナス付いたりドロップ率上がったりするらしいよー?
オギス :胡散臭い話だなあ、お手軽すぎるだろ……でもイイゾーこれ
ルビィ :えへへー♪
暫くの間、二人のキャラは薄暗い鍾乳洞の中でぽわぽわとピンク色のハートを散らしてイチャイチャと抱き合い続けた。
ルビィ :はい、しゅーりょー
オギス :えがった……
ルビィ :じゃ、そろそろ時間だからわたしも落ちるねー
オギス :おう、お疲れ様
ルビィ :ね、隠しステータスの噂本当かどうかわかんないけど、もしあったら便利だからさ……ちょくちょくやって効果確認しない?
オギス :いいね、俺でよければ協力するぜ
ルビィ :えへへ、ありがとー、それじゃばいばーい
・
・
・
「……」
ルビィが落ちた後、荻須はしばらくぼんやりとしていた。
ふと見下ろしてみると愚息が大変元気な事になっている。その時点になって惜しい事をした、と思った。
どうせ向こうからは見えていないんだから抱きつかれている時に一発抜いておけば……。
・
・
・
「はっ……はっ……はっ……」
るい子はパソコンの前で荒い息をつきながらぐったりとキーボードに突っ伏していた。
「はぁ、ぅぅ……」
顔が酔っ払ったように紅潮しており、肌はしっとりと汗ばんでモニターの光を照り返している。
部屋着である薄手のシャツを押し上げる乳房の先端は痛いくらいに尖って生地からぷっくりと浮いて見えている。
ジーンズに包まれた足はかたかたと細かく震え、腰は時折引き攣れたようにびく、びく、と痙攣を繰り返す。
「ふっ……ふっ……ふぅ……んぐ……」
全身から濃厚なメスの匂いを立ち上らせながらルビィはかり、と人差し指の関節を噛んで衝動に耐えた。
・
・
・
「テリチキ頼もテリチキ」
「期間限定のにしよう……この四種チーズのやつ」
るい子とアリストレイはピザのメニュー表を頭を突き合わせて覗き込み、あれがいいこれがいいと議論している。
「ふふ……リーダーは何か要望ないんですか?」
微笑みながら席に座っている荻須に伺うのは部屋着の巴。
「あ、いや、俺は別に……みんなの好きなやつで……」
(やべ……やっぱ緊張する)
場所は都内の高層マンションの一室、巴が住んでいる部屋だ。
かなり階層は高い、ベランダから地上を見下ろすと目眩がする。
インテリアに詳しくない荻須から見ても部屋の内装はセンスがよく、高級感がある。
明らかに高所得者しか住むことを許されない場所。安アパートの荻須の一室とは比べるべくもない。
そんな一室にどうして荻須とゲーム仲間がいるのかと言うと……
「それにしても、意外……巴さんがゲーム機持ってるなんて……しかも最新の」
荻須も思っていた事をアリストレイが呟く。
そう、今日は「ダークネスロード」のコンシューマー版の発売日。PC版からデータを引き継いだプレイヤーには様々な特典が付くと言うので是非欲しいところだったが、生憎と持っていない最新機種でしか発売されなかったため諦めようと思っていた所。
「あ、私、持ってます」
と言う巴の一言からトントン拍子に話が進み、二回目のオフ会を巴の自宅で開催することが決定してしまったのだ。
流石に自宅にお邪魔する訳には……と、荻須は難色を示したのだが他二人の強い勧めもあって押しきられる形で荻須も参加する事になった。
「むむう、テリチキがいーの!」
「いいや、期間限定のがいいね」
「それでしたら二枚とも頼んでしまいましょうか?」
いつまでもああだこうだと結論の出ないピザ選びを見かねた巴が言う。
「あ、いーの?さっすが太っ腹ー!」
「それは、流石に……」
「ぼ、僕も出しますよ」
「いいんですよ、私の家にいるんですからもてなしさせて下さいな」
呑気に賛同するるい子と遠慮する二人に笑って巴は言う。
電話で注文を済ませた巴はいそいそとゲーム機の電源を入れる。
「それじゃ、始めましょうか♪」
・
・
・
「おおー、いつものロゴも印象違うねー」
「ですねー」
「すごい綺麗……殆どPC版と遜色ないくらい、最新機種すげえ」
皆で画面の前にコントローラーを持ってスタンバイし、大画面に映る映像に感想を付ける。
先陣を切って荻須がログインを試みる。画面上にいつものオギスの姿が出てひと安心する
「よっしゃ、新たなステージに降臨っと……」
「普段パソコンに記憶させてるからパスが合ってるかどうか不安ですよねー」
「あるある……」
と、オギスの前に軽快な効果音と共に宝箱が出現する。
「あ、来た!これが目当てだったんだ」
「特典ってランダムでしたっけ」
「そうそう、開けてのお楽しみってやつ」
「来い来い来い、できれば水属性の防具……!」
宝箱が開かれ、煌びやかな光と共に装備品が現れる。
火トカゲの篭手
レア度★★★★
「あーっ……!火属性また被ったっ……!」
「あ、でも現装備よりもランク高いですよ」
「そうっすねー、それで良しとするかぁー……」
ハズレでなかっただけマシと考える事にした。
「よし、ぼくだ」
アリストレイがコントローラーをぐっと握って気合を入れてログインする。
画面上に現れる金髪碧眼の少女騎士。
「ふふふ、新たなステージでもぼくの美貌は変わらないな……最新機種万歳」
ほくそ笑むアリストレイ、そして少女騎士の前に出現する宝箱。
「オープンセサミ」
輝く宝箱が開かれ……。
「お……」
「まあまあ……」
「これはーっ!」
「ほほう」
荻須は失念していた、このゲームがいわゆる「お色気」もウリの一つであるゲームである事を……。
(うわちゃぁ……これって……)
「女神の肢体」
レア度★★★★★
光属性の鎧だ。
かなりいい部類に入る装備品なのだが問題はその外観。
神々しい装飾が施された重厚な篭手と具足、そこまではいい。
問題はその手足とはあまりにアンバランスな無防備極まる胴体部分。
そこは一番守るべき所じゃないのかという腹部や胸部がほぼむき出しになる構造になっており。
極薄のレザーのような謎の素材が辛うじて乳首と陰部を覆っているが、ぴっちりと密着するそれはボディラインを隠す役割を完全に放棄している。
無論、現装備よりも格段にステータスは上なのだが、女の子が好んで装備するデザインでは断じてない。
(よりによって「エロ装備」が……!空気読めよ宝箱!)
と、荻須が心の中で叫ぶ横でアリストレイは微笑んだ。
「ふふふ、素敵……」
(ええ!?)
「最高の収穫じゃないか、ねえ、オギス?」
「あー……そ、装備すんのこれ?」
「するとも、何を言うのさ」
「あ、いや、まあ……いいって言うならいいけど……」
「問題ある?」
「ななななな何も、何もないとも、うん!」
どうやらアリストレイは少々常人と感性がズレているらしい。
荻須としてもそれを装備したアストレイは是非見てみたいので異論はない。
「いいなー」
「当たりですねえ」
(二人ともマジ?……い、いや、ゲーム内の事に俺が過敏になりすぎか……)
ゲーム内のキャラが装備するものであって別にリアルに自分が着る訳ではない、そう考えるとステータスの高さに素直に喜ぶ二人が普通で自分が意識しすぎなのかもしれない。
(気にしすぎだな、うん……)
「それでは、私が入りますねー」
にこにこしながら巴がコントローラーを握る。
ログインしたミステラの前に出現する宝箱。
「アストレイさんよりいい装備が出ますように♪」
「そうだ!いいやつ出ますように!」
「なにおう、このレベルは中々出ないぞ!出ないはずだ!」
「ははは……」
張り合うメンバーの前で宝箱が開き……。
「蠱惑のローブ」
レア度★★★★★
「きゃっ♪」
「おーっ」
「むむむ」
(おいィ!?)
出現したのは炎属性のローブ……と、呼んでいいものかどうか分からないものだった。
怪しげな呪文が全身に施された厚手の革のローブ……シルエットだけを見るとそうだ。
特異なのはその胸部。
構造上必要ないだろうというような装飾品が乳房をみっちりとくびり出して強調している、それだけならまだしも胸部の下部……いわゆる「下乳」の部位だけすっぱりと生地が無い。
厚手のローブの中で南半球だけがたっぷり露出する事になる、手を差し込んで揉みしだいて下さいとでも言うような構造だ。
「ふふふ、同格ですね」
「やるな……」
「つぎー!つぎ私ー!」
密かに頭を抱える荻須をよそにるい子がログインする。
出現する宝箱。
「何が出るかな♪何が出るかな♪」
「一番しょぼいのが出るのに100ピア掛ける」
「一番いいのを引いて下さいな♪」
眩い光と共に装備品が現れる。
「スポイルダンサー」
レア度★★★★★★
「うひゃああああ」
「なんだと……!」
「まあまあ♪」
(うわあああああああ)
出現したのは踊り子の衣装……いや、水着、いや、下着……紐?
着衣というより紐と称した方がいいものが下半身を際どいボンテージのように拘束し、食い込んでいる。
そして例によって全然体の前面を保護してくれていない上半身の構造。
乳房は完全に剥き出しになっており、その先端にキャップのような……いわゆるニプルカバーがくっ付く構造になっているらしい。
カバーの先端にはひらひらとした装飾と鈴が付いており、踊る度に鈴の音が鳴るように出来ている。
これで鋼の鎧よりも防御力が高いというのが理不尽である。
コントローラーを持ってぐったりする荻須をよそに女子メンバー達はぱちぱちと手を打ち合わせて喜んでいる。アストレイはぐぬぬ、と唸っている。
「でも……結果的にリーダーの装備が一番ハズレっぽくなっちゃったね……」
「いや、俺は、まあ……いいよ……俺はいいけどその……」
「うん?」
荻須は画面に映る破廉恥な装備品達を指差して言った。
「ほ、本当にあれ装備するの?」
「勿論だとも」
「あったりまえジャン!」
「戦力大幅アップですね♪」
荻須は固唾を飲んでデスクトップにある「ダークネスロード」のアイコンをクリックした。
いつもしているログインにどうしてこんなに緊張するのか。原因はわかっている。
あのオフ会以来、互いの顔を知った上で初のログインだからだ。
無論、オフ会で顔を合わせながらプレイはしたが、その時は目の前に相手が居る故の社交辞令的な意識も働くだろう。
いや、そんなに裏表のある人々には見えなかったがあれから期間を置くうちに荻須の中で勝手に不安が増幅してしまったのだ。
いつもと同じに接してくれるだろうか?よそよそしい態度を取られたらどうしよう?三人から一人ハブられたらどうしよう……?
こういう時、自分の対人関係における臆病さがつくづく嫌になる。
画面上に広がるメインタイトル。自分のキャラクター「オギス」が読み込まれ、いつもの街角に降り立つ。
冒険の拠点になる場所なので周囲は自分と同じように待ち合わせをしているプレイヤー達で賑わっている、とりあえず見回してみてもその中に三人は見当たらない。
(まだ来てないのか……うん?)
その喧騒の中から一人のプレイヤーがこちらに向かって歩いてきた。
見覚えのないキャラクターだ。長い髪を後ろに纏めた金髪碧眼の女性。純白の鎧にマント、腰に下げている剣を見るに騎士であるようだが……。
「……えっ……まさか」
表示されている名前をみた瞬間思わず声が漏れた。
「アストレイ」
言われてみれば顔立ちはあのアストレイそのものだ、元々が中性的な美少年というデザインだったので女性になっても全く違和感がない。
呆然とするオギスの前に立ってアストレイは声をかけてきた。
アストレイ:こんばんは
オギス :こんばんは……アストレイだよな?あの
アストレイ:そう、そのアストレイだ、驚いたかい?
オギス :驚いたも何も……キャラの性別って途中で変更できないはずだろ?
アストレイ:ふふふ、実はね……最初から女性だったんだよ、このアストレイってキャラ
荻須は思い出す。そういえばこのゲームは装備品に男性用女性用という括りがなく、見た目がどんな物でも誰でも装備できる。
お陰でウケ狙いの変態装備キャラも見かけたりするが……。
オギス :装備品で男装してたって訳か……何でそんな手の込んだ事を
アストレイ:まあ、ナンパ避け、かな?でも最近ずっとオギスとペア組んで男避けの必要もなくなったし……リアルもバラしたからイメチェンしようかなーって
アストレイはオギスの前でくるくるっと回って見せる、纏めた金髪が小動物の尻尾のように揺れる。可愛い。
アストレイ:どうだい新生アストレイは、あ、勿論ステータスも以前と遜色ない物を揃えたからゲームに影響はないぞ。
オギス :何というか……
荻須はそのアストレイの姿に既視感を覚えていたが、一瞬考えてその正体に思いついた。
オギス :リアルそっくり
アストレイ:だろう?意識して作ったんだ、リアルと同じく超絶美少女だろう?
オギス :自分で言うかね
アストレイ:HAHAHAHA
話の流れで突っ込んだが超絶美少女というのは実際その通りだと荻須は頭の中で思った。無論、そんな歯が浮くようなセリフは実際には吐けないが。
ミステラ :こんばんは
ルビィ :あー!アストレイちゃんイメチェンしてる!ずるい!
と、アストレイと会話していると残りの二人も到着して会話に加わってきた。
アストレイ:ふふふ、悔しいか、普段とのギャップで攻めるという長年温めてきたアイデアだ、これでオギスもイチコロって寸法よ
オギス :イチコロてw
ミステラ :イメチェン……いいですね、私ももうちょっとお洒落な装備探してみようかな
ルビィ :じゃあわたしももっとセクシーなの探す!
オギス :今でも既に下着より露出しとるがなw
(よかった……)
荻須はパソコンの前で胸をなで下ろしていた、皆いつもと変わらない。
実のところは今までとは違って皆アプローチが積極的になっているのだが、そこのあたりの経験値も鋭さも足りない荻須は全て冗談として受け取っているのだった。
・
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オギス :ルビィは、まだいける?
ルビィ :明日は休みなのであります
オギス :じゃ、もうちょっと素材集めするか
ルビィ :おけーぃ
その日の狩りを終えて皆が解散した後、オギスは次の日が休みでまだ眠気もなかったのでもう少し続けようと考えた。
それに付き合ってくれたのがルビィだ、一人でやるよりは当然二人の方が効率がいいので一緒にせっせと素材集めに精を出す。
ルビィ :ねえ、リーダー
オギス :うん?
二人で鍾乳洞の壁をツルハシでカンカン叩いているとルビィが話してきた。
ルビィ :ダクネ始めてどのくらいだっけ?
オギス :三年くらいだったかな
ルビィ :じゃさ、このモーションって知ってる?
そう言うとルビィはツルハシを締まうとオギスの方に向き直る。
見ていると画面上のルビィはくねくねと身体をくねらせて両手を自分の身体に這わせて見せた。
いつもの踊りとは違う、その他のどのアピールとも違う、初めて見る動きだった。
ストリッパーか何かのようなその動きは衣装も相まって非常に妖艶だ。
オギス :なにそれ始めてみた
ルビィ :えへへ、実はこれ女キャラにしか実装されてないアピールなんだよね
オギス :まあ、男がやっても気持ち悪いだけだなw
ルビィ :このゲーム、女キャラのモーションが男キャラよりずっと多いんだってー
オギス :それは知らなんだ
最初にエディットしたこの「オギス」一本で今までやってきた荻須にとっては初耳だ、ちょっと悔しい気がする。
しかしちょっぴり男性向けを意識したこのゲームならさもありなんとも思った。
ルビィ :他にもねー、人に向けてできるアピールもあるんだー
オギス :へえ、どんな?
ルビィ :例えばこう……はぐはぐー!
と、突然画面上のルビィがオギスに抱き付いた、周囲にぽわわん♪という効果音と共にハートが散る。
「うおおう」
思わずリアルに声を上げてしまった。
オギス :うはwwwビビったwww
ルビィ :はぐはぐー♪はぐはぐー♪
抱きついたルビィはぎゅうぎゅうとオギスに身体を押し付けるようなモーションを取る。
……何というか、異様に出来のいいモーションだ、腰を擦り付けるような動きが性的すぎる
それに普通3D上で二キャラが重なるとポリゴンがめり込みそうなものだが、豊満な房がオギスの着ている防具に当たってむにゅむにゅと変形する様までよくできている。
キャラクターの表情もとろん、と蕩けるような表情が再現されている。
(ぐおおおおおおお!)
パソコンの前でオギスは悶絶する、これ程このゲームの出来の良さを再確認した瞬間はない。
何より自分にそのモーションをかけている相手がリアルで美少女だという事実が興奮に拍車をかける。
ルビィ :実はねー、これ隠しステータスあるって噂あるんだー
オギス :隠しステータス?
ルビィ :うん、愛情メーター的なのが設定されててー、こういうアピールを特定の二人で繰り返すと上がっていって、経験値にボーナス付いたりドロップ率上がったりするらしいよー?
オギス :胡散臭い話だなあ、お手軽すぎるだろ……でもイイゾーこれ
ルビィ :えへへー♪
暫くの間、二人のキャラは薄暗い鍾乳洞の中でぽわぽわとピンク色のハートを散らしてイチャイチャと抱き合い続けた。
ルビィ :はい、しゅーりょー
オギス :えがった……
ルビィ :じゃ、そろそろ時間だからわたしも落ちるねー
オギス :おう、お疲れ様
ルビィ :ね、隠しステータスの噂本当かどうかわかんないけど、もしあったら便利だからさ……ちょくちょくやって効果確認しない?
オギス :いいね、俺でよければ協力するぜ
ルビィ :えへへ、ありがとー、それじゃばいばーい
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ルビィが落ちた後、荻須はしばらくぼんやりとしていた。
ふと見下ろしてみると愚息が大変元気な事になっている。その時点になって惜しい事をした、と思った。
どうせ向こうからは見えていないんだから抱きつかれている時に一発抜いておけば……。
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「はっ……はっ……はっ……」
るい子はパソコンの前で荒い息をつきながらぐったりとキーボードに突っ伏していた。
「はぁ、ぅぅ……」
顔が酔っ払ったように紅潮しており、肌はしっとりと汗ばんでモニターの光を照り返している。
部屋着である薄手のシャツを押し上げる乳房の先端は痛いくらいに尖って生地からぷっくりと浮いて見えている。
ジーンズに包まれた足はかたかたと細かく震え、腰は時折引き攣れたようにびく、びく、と痙攣を繰り返す。
「ふっ……ふっ……ふぅ……んぐ……」
全身から濃厚なメスの匂いを立ち上らせながらルビィはかり、と人差し指の関節を噛んで衝動に耐えた。
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「テリチキ頼もテリチキ」
「期間限定のにしよう……この四種チーズのやつ」
るい子とアリストレイはピザのメニュー表を頭を突き合わせて覗き込み、あれがいいこれがいいと議論している。
「ふふ……リーダーは何か要望ないんですか?」
微笑みながら席に座っている荻須に伺うのは部屋着の巴。
「あ、いや、俺は別に……みんなの好きなやつで……」
(やべ……やっぱ緊張する)
場所は都内の高層マンションの一室、巴が住んでいる部屋だ。
かなり階層は高い、ベランダから地上を見下ろすと目眩がする。
インテリアに詳しくない荻須から見ても部屋の内装はセンスがよく、高級感がある。
明らかに高所得者しか住むことを許されない場所。安アパートの荻須の一室とは比べるべくもない。
そんな一室にどうして荻須とゲーム仲間がいるのかと言うと……
「それにしても、意外……巴さんがゲーム機持ってるなんて……しかも最新の」
荻須も思っていた事をアリストレイが呟く。
そう、今日は「ダークネスロード」のコンシューマー版の発売日。PC版からデータを引き継いだプレイヤーには様々な特典が付くと言うので是非欲しいところだったが、生憎と持っていない最新機種でしか発売されなかったため諦めようと思っていた所。
「あ、私、持ってます」
と言う巴の一言からトントン拍子に話が進み、二回目のオフ会を巴の自宅で開催することが決定してしまったのだ。
流石に自宅にお邪魔する訳には……と、荻須は難色を示したのだが他二人の強い勧めもあって押しきられる形で荻須も参加する事になった。
「むむう、テリチキがいーの!」
「いいや、期間限定のがいいね」
「それでしたら二枚とも頼んでしまいましょうか?」
いつまでもああだこうだと結論の出ないピザ選びを見かねた巴が言う。
「あ、いーの?さっすが太っ腹ー!」
「それは、流石に……」
「ぼ、僕も出しますよ」
「いいんですよ、私の家にいるんですからもてなしさせて下さいな」
呑気に賛同するるい子と遠慮する二人に笑って巴は言う。
電話で注文を済ませた巴はいそいそとゲーム機の電源を入れる。
「それじゃ、始めましょうか♪」
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「おおー、いつものロゴも印象違うねー」
「ですねー」
「すごい綺麗……殆どPC版と遜色ないくらい、最新機種すげえ」
皆で画面の前にコントローラーを持ってスタンバイし、大画面に映る映像に感想を付ける。
先陣を切って荻須がログインを試みる。画面上にいつものオギスの姿が出てひと安心する
「よっしゃ、新たなステージに降臨っと……」
「普段パソコンに記憶させてるからパスが合ってるかどうか不安ですよねー」
「あるある……」
と、オギスの前に軽快な効果音と共に宝箱が出現する。
「あ、来た!これが目当てだったんだ」
「特典ってランダムでしたっけ」
「そうそう、開けてのお楽しみってやつ」
「来い来い来い、できれば水属性の防具……!」
宝箱が開かれ、煌びやかな光と共に装備品が現れる。
火トカゲの篭手
レア度★★★★
「あーっ……!火属性また被ったっ……!」
「あ、でも現装備よりもランク高いですよ」
「そうっすねー、それで良しとするかぁー……」
ハズレでなかっただけマシと考える事にした。
「よし、ぼくだ」
アリストレイがコントローラーをぐっと握って気合を入れてログインする。
画面上に現れる金髪碧眼の少女騎士。
「ふふふ、新たなステージでもぼくの美貌は変わらないな……最新機種万歳」
ほくそ笑むアリストレイ、そして少女騎士の前に出現する宝箱。
「オープンセサミ」
輝く宝箱が開かれ……。
「お……」
「まあまあ……」
「これはーっ!」
「ほほう」
荻須は失念していた、このゲームがいわゆる「お色気」もウリの一つであるゲームである事を……。
(うわちゃぁ……これって……)
「女神の肢体」
レア度★★★★★
光属性の鎧だ。
かなりいい部類に入る装備品なのだが問題はその外観。
神々しい装飾が施された重厚な篭手と具足、そこまではいい。
問題はその手足とはあまりにアンバランスな無防備極まる胴体部分。
そこは一番守るべき所じゃないのかという腹部や胸部がほぼむき出しになる構造になっており。
極薄のレザーのような謎の素材が辛うじて乳首と陰部を覆っているが、ぴっちりと密着するそれはボディラインを隠す役割を完全に放棄している。
無論、現装備よりも格段にステータスは上なのだが、女の子が好んで装備するデザインでは断じてない。
(よりによって「エロ装備」が……!空気読めよ宝箱!)
と、荻須が心の中で叫ぶ横でアリストレイは微笑んだ。
「ふふふ、素敵……」
(ええ!?)
「最高の収穫じゃないか、ねえ、オギス?」
「あー……そ、装備すんのこれ?」
「するとも、何を言うのさ」
「あ、いや、まあ……いいって言うならいいけど……」
「問題ある?」
「ななななな何も、何もないとも、うん!」
どうやらアリストレイは少々常人と感性がズレているらしい。
荻須としてもそれを装備したアストレイは是非見てみたいので異論はない。
「いいなー」
「当たりですねえ」
(二人ともマジ?……い、いや、ゲーム内の事に俺が過敏になりすぎか……)
ゲーム内のキャラが装備するものであって別にリアルに自分が着る訳ではない、そう考えるとステータスの高さに素直に喜ぶ二人が普通で自分が意識しすぎなのかもしれない。
(気にしすぎだな、うん……)
「それでは、私が入りますねー」
にこにこしながら巴がコントローラーを握る。
ログインしたミステラの前に出現する宝箱。
「アストレイさんよりいい装備が出ますように♪」
「そうだ!いいやつ出ますように!」
「なにおう、このレベルは中々出ないぞ!出ないはずだ!」
「ははは……」
張り合うメンバーの前で宝箱が開き……。
「蠱惑のローブ」
レア度★★★★★
「きゃっ♪」
「おーっ」
「むむむ」
(おいィ!?)
出現したのは炎属性のローブ……と、呼んでいいものかどうか分からないものだった。
怪しげな呪文が全身に施された厚手の革のローブ……シルエットだけを見るとそうだ。
特異なのはその胸部。
構造上必要ないだろうというような装飾品が乳房をみっちりとくびり出して強調している、それだけならまだしも胸部の下部……いわゆる「下乳」の部位だけすっぱりと生地が無い。
厚手のローブの中で南半球だけがたっぷり露出する事になる、手を差し込んで揉みしだいて下さいとでも言うような構造だ。
「ふふふ、同格ですね」
「やるな……」
「つぎー!つぎ私ー!」
密かに頭を抱える荻須をよそにるい子がログインする。
出現する宝箱。
「何が出るかな♪何が出るかな♪」
「一番しょぼいのが出るのに100ピア掛ける」
「一番いいのを引いて下さいな♪」
眩い光と共に装備品が現れる。
「スポイルダンサー」
レア度★★★★★★
「うひゃああああ」
「なんだと……!」
「まあまあ♪」
(うわあああああああ)
出現したのは踊り子の衣装……いや、水着、いや、下着……紐?
着衣というより紐と称した方がいいものが下半身を際どいボンテージのように拘束し、食い込んでいる。
そして例によって全然体の前面を保護してくれていない上半身の構造。
乳房は完全に剥き出しになっており、その先端にキャップのような……いわゆるニプルカバーがくっ付く構造になっているらしい。
カバーの先端にはひらひらとした装飾と鈴が付いており、踊る度に鈴の音が鳴るように出来ている。
これで鋼の鎧よりも防御力が高いというのが理不尽である。
コントローラーを持ってぐったりする荻須をよそに女子メンバー達はぱちぱちと手を打ち合わせて喜んでいる。アストレイはぐぬぬ、と唸っている。
「でも……結果的にリーダーの装備が一番ハズレっぽくなっちゃったね……」
「いや、俺は、まあ……いいよ……俺はいいけどその……」
「うん?」
荻須は画面に映る破廉恥な装備品達を指差して言った。
「ほ、本当にあれ装備するの?」
「勿論だとも」
「あったりまえジャン!」
「戦力大幅アップですね♪」
15/12/21 10:00更新 / 雑兵
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