連載小説
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機が熟すまで溜めててね
 「ゴアルルルル!」
「そっちに行きました!道を塞いで下さい!」
ぷるるん♪
ミステラの放った炎が一体を火の海にし、炎を嫌う巨大なオーガは斧を振り回しながら後ずさる。
最初の頃はいざという時になるとよく操作ミスで戦況を引っ掻き回したミステラも今では冷静に戦況をコントロールしている。
「おっけーい、パラライズ♪」
たぷたぷん♪
出会った当初はよく役割を忘れて敵に突っ込んで一人消し飛んでいたルビイも既に援護の動きが身についている。
炎を嫌って下がったオーガに麻痺をかけるタイミングも完璧だ。
「よし……」
ぷりりん♪
実はこの中でもっともヘビーなプレイヤーであるアストレイの動きは堂に入っている。
麻痺の効果時間を見切り、限界まで連撃を叩き込むと解ける寸前で離脱する。
「……っ」
オギスもこの中ではかなりの熟練者だが……。
「さ、三段斬りっ!」
「あらっ」
「はにゃっ」
「うん?」
目にも留まらぬ斬撃でオーガは吹き飛ぶ。
しかし残り体力を考慮すると今の場面はスキルではなく通常攻撃でよかった場面だ、スキルゲージの無駄遣いと言える。
「ちょっと力んでますねオギスさん?」
「ぬふふー、らしくないねー?」
「しっかりしなよ?」
そう言ってオギスを囲む三人。
「いやあははは……」
(集中できる訳ないだろおお……)
オギスの前に並ぶそれぞれの膨らみ。
「女神の肢体」の全く隠されていない体の前面に実る手の平サイズの美乳。
「蠱惑のローブ」からはみ出る爆弾みたいな代物。
「スポイルダンサー」は……もう、着てるというか出てるというか、とりあえず乳首さえ隠れていればいいという考えはいかがなものか。
それら自己主張の激しいもの達が戦闘のたびに百花繚乱するのである、集中力も乱されようというものである。
いや、こういう事態がゲーム画面の中だけならばまだよかったのだが……。







 「リーダーどんまい♪」
荻須の左側からコーラのボトルを持った手が伸びてきて荻須の前にあるグラスに注ぐ。
「もう少し進んでみましょうか……」
荻須の右側に感じる温かくて柔らかい感触がぴったりと寄り添いながら言う。
「ちょっと待って物資チェックする……」
荻須の足の間に陣取る温もりがもそもそと身じろぎしながら言う。
(……何で?……何このポジション……?)
四人はソファーに座って画面に向かっている。
最初に荻須が座った後るい子と巴が素早く両隣りを占拠したのだ。立ち遅れたアリストレイは一瞬迷ったのち荻須の膝の間に割り込んで座ってしまったのだ。
まさに温もり包囲網。
でも「どうしてこの体勢に……?」とは言わない、気持ちいいから言わない。
「しかし揺れるね〜」
「揺れ揺れですねえ〜」
「んぐっ」
触れまいとしていた話題にアリストレイと巴があっさり触れる。
しかし話題にしない方が不自然な程に目に付くのは事実だ。
揺れる、というのは言うまでもなく三人のプレイヤーの胸元で緻密な物理演算で再現される局地的な地震の事である。
あけすけに言うと「乳揺れ」である。
「やあ、技術の進歩ってスゴいね、それ、それ、それ、それ」
アストレイがオギスの目の前で身体を小刻みに左右に振って見せると、その光沢ある極薄の生地に包まれた膨らみが左右にたゆたゆと揺れる。
「あはは、ほんとだぁ、おりゃおりゃおりゃ♪」
「うふふふ……」
他の二人までも悪ノリして小さくジャンプを繰り返し、そのほとんどむき出しになっている膨らみの揺れを見せつけはじめる。
「うぉぉぉいぉいぉいやめなさいったら」
荻須は苦笑いするしかない。実は心拍数が急上昇して体に寄りかかっているアリストレイにバレないか内心冷や汗をかいていたが。
「ところで、皆のキャラのスタイルって実値なのかな?」
(えっ)
アリストレイがまたも際どい話題を降る。
「ダークネス」のキャラコンフィグは顔かたちだけではなく、体型も詳細に弄る事ができる。
「実値」……ということは……。
「大体そうですねー」
背後の巴の声に思わず画面の中のミステラの身体に見入る。
つまり本物の中身もあんな……。
「あー、わたしもほぼ同じ数値で作ったねー」
「実はぼくもなんだ」
画面の中で揺れる弾けるような肢体に思わず釘付けになる。
ついでに画面外にある身体にも目を向けそうになって慌てて視線を戻す。
「それだけサイズがあると大変そうだね」
「ええ……ブラなんかも普通の店で手に入らなくって、わざわざ取り寄せないといけないですからね……」
巴は肘でぐい、とセーターを押し上げる膨らみを持ち上げて見せる。
「わかるー、わたしなんか背が低いのにコレだから全然雑誌みたいにファッションキマらないしー」
言葉通り、体格に不釣り合いなはち切れんばかりの自らの膨らみをつんつんとつつきながらるい子が言う。
「ふふ……ぼくくらいがファッションには丁度いいんだよね」
両手でふか、と膨らみを持ち上げながらアリストレイが言う。
頼むから男一人を置き去りにガールズトークを繰り広げないで欲しい。
「ねえ、リーダーは誰のが一番好き?」
訂正する、巻き込むのはもっとやめて欲しい。
ぽすん、と胸に背中を預けるとアリストレイは真上を向いて荻須の顔を見上げる。蜜色のブロンドから何とも言えないいい匂いが立ち上ってきた。
「手にフィットするようなサイズが一番だと思わないかい、ねえ?」
「は、ははは、は」
ぷに、と肩に何か暖かくて柔らかいものが触れた。
「大は小を兼ねる、とも言いますけどね?」
何が当たっているかは見るまでもない。
と、ぽよ、と逆側の腕に弾力のある塊が当たった。
「ちっちゃいけど大きいっていうのはどうかな〜?」
「あは、あは、あははは……」
からかわれているのだろうか、厳しすぎる、どうやっていなせばいいというのか。
「ほ、ほら、まだ回復も残ってるし、もっと先に進もう」
何とか話題を逸らそうと画面に集中するしかなかった。
三人はふふ、と笑い合うとゲームに意識を戻す。
荻須が誰を選ぶかは重要な問題ではない、いや、誰が好みなのかというのは大いに気になるところだが誰を選んだとしても結果は変わらない。







「んー、そろそろいい時間ですねー」
言われて見上げてみると結構な時間だ、そろそろおいとまする頃だ。
(今日も楽しかったなあ……心臓に悪かったけど)
「お風呂沸かしてありますからねー」
「ありがとう」
「ふふ、巴ちゃんちのお風呂広いんだよー」
「それは楽しみ」
(二人は泊まりか……)
「あ、リーダー着替え持ってきてます?」
「うん?いや?」
「でしたらうちの使って下さいな、お仕事関係で男性用の下着ありますので」
「え?」
「ふふ、こう見えてクラブの経営を任されてるんですよ」
違う、疑問に思ったのはそこじゃない。
「いや、今日その……泊まり……っすか?」
「あら、明日何か予定入ってます?」
ない、ないけど問題はそこじゃない。
「一緒に入ろっか」
「お背中流しますよー♪」
「サービスしちゃうぞー♪」
「イヤイヤイヤイヤ」
残像が見えるほど手をぶんぶん振る。
「ふふ、冗談ですよ、それじゃリーダーが一番頂いて下さいな」
「はい」
男女が一晩泊まるのはどうなんだという疑問を挟む前に決定済みという流れになってしまった。







 「すげえ、マジ広い……」
浴室を見回してホテルか何かかと思う。ジャグジーまで付いてる。
生活レベルの違いを感じて止まない。
「……」
そして見下ろすと見えるのが鉄の如くギンギンな自分のイチモツ。
困る。
ここに来てからはずっと半立ちくらいの状態だった。何故か分からないが強いて言うなら匂いだろうか。
巴さんのいい匂いが部屋の空気にほんのり溶けているような感じがしていたのだ。
その上プレイ中の密着によってさらに硬度は増すばかり。そしてこの浴室である。
いつもこの場所であの巴さんのワガママボディが磨かれているのかと思うとそれはもう威力が半端じゃない。
男というのは不便だ、最も悟られたくない精神状態がすごく目立つ形で身体に発露する。
気付かれたら気まずいなんてものではない。
その上この後一緒に寝る……いや、流石に部屋を分けてくれる……はずだが……。
ともかく精神を落ち着けないといけない。
身と同時に精神も清めんと早速石鹸を手に取る。
「あ……この石鹸巴さんの匂い……」
駄目だった。







 一方、リビングでは一人の少女……魔物が荒ぶっていた。
「ふぉぉぉぉとうとうこの時がっ!今行くよりぃぃぃだぁぁぁぁ!」
すぽーん、と上着を脱ぎ去りながら洗面所に突入しようとするのがるい子。
しゅぱっ
「ふきゃっ!?」
冷静にそのるい子の足を払って転ばすのがアリストレイ。
ギリギリギリギリ
「どーこーにー行く気かしら?るーちゃん」
「あみゃみゃみゃみゃギブギブギブ!」
そのるい子の腕を極めながら笑顔で言うのが巴。
「どどどどこって、リーダーのお背中流しに……」
「角、出てるわよ?」
「はう!?」
慌てて頭に手をやるとニョッキリとるい子の正体が頭を覗かせていた。
「ご、ごめん……でもでもリーダーが……せっかくのチャンスがあ……」
「気持ちはわかりますよ、でもまだ駄目」
「そう」
組み伏せられるるい子の前にすっとアリストレイが腕組みをして立つ。
その目は爛々と紅い輝きを放っている。
「機はまだ熟してない、私たちの事をもっともっと意識してもらって、もっともっと心の敷居を取り払ってからじっくり頂く事にしよう」
「うううう……」
それでも納得のいかない顔をするるい子の前にそっと屈むとアリストレイは笑う。
「焦らなくても心配無用だと思うよ……リーダーの……」
と、そこで瞳と同じ色に頬を染めた。
「背中にその……当たってたし……すごく反応してたし……」
「……」
「……」
「ポジションチェンジ!ポジションチェンジを要求するーっ!」
るい子はばたばたとゴネをこね始める。







 「いや〜三人共仲いいなあ〜」
その頃浴室の荻須は湯船に浸かってうっとりしながら居間から聞こえる騒々しい音に呑気な感想を述べていた。
無論、勃起に気付かれているとは夢にも思っていないし、自分の貞操が今しがた危機に晒されていたなどとは露知らずである。
17/06/11 10:57更新 / 雑兵
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