連載小説
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準備万端
 荻須という青年がどういった人物かを今風に説明するなら「草食系」といのが当てはまる。
少子化に貢献する典型的な新しい世代の現代人である。
結婚願望は薄く、異性への興味はあれど積極的に動こうとはしない。例えアプローチを受けようともスルーする、してしまう。
そういう世代の人間だ。
現に三人からの相当にあからさまなアプローチもこれまでスルーしてきた。
しかし、ここで会場に来てからの荻須の状況を列挙してみる。
まず、この会場には数多くのレイヤー……の振りをした魔物達が大勢集結している。
魔物達は常に魔力を帯びているので、密集すると必然的にその空間の魔力の濃度は上昇していく。
無論、運営側にはここを魔界化しようという意図は無いので、入場者には魔力の放出は控えるようにお触れが出ている。
しかし魔界化に達する程でなくとも魔力は人間に催淫効果を及ぼす。
会場を訪れた人間達はすべからくこの影響を受け、普段よりも性欲が高まりやすい状態になっているのだ。
そして、三人のコスプレ衣装。
これらの貸し衣装にはすべからく魔力が込められており、魔物達が持つ基本的な魅了の力が備わっている。
すなわち「視線誘導」、ターゲットとした相手の視線を引きつける効果を持っている。
普段は無遠慮な視線は女性に送るまいとする男……荻須のような人物であっても、どうしてもその身体に目線を引き寄せられてしまうようになっている。
また、「堕落の使徒」のギルドブースで飲んだカクテル「テンプテーション」。
ゲーム内では「魅了」の効果を発揮するポーションの名前だが、このカクテルは魔界産の果実やハーブが使われたまさしくゲーム内と同じく「魅了」の効果を持っているのだ。
これを飲んだ荻巣は魔物の魔力や魅力に対する耐性が極端に下がった状態になっている。
極めつけは先ほど差し入れで貰ったチョコレート。
カカオの代わりに虜の果実の種子をふんだんに使ったこの「ダークマターショコラ」は、この現代にあるイベント「バレンタインデー」用に魔物達が開発した新製品。
食べた男性の精力を一時的にインキュバス並みに増強する効果があり、これまた魅了耐性を下げる効果もある。
つまり、今の荻須の状態は「魅了」を何重にも重ね掛けされたような状態であり、魔物に食べられるための下ごしらえをたっぷり施されているような状態といえるのである。







 「はあ……はあ……はあ……」
会場のトイレで荻巣は洗面台に手をついて荒く息をついていた。
プレイ会場に行く前にちょっと暇をもらったのだ。
ゲーム機には限りがあるので順番待ちが必要になる。
呼び出しのアラームを受付けから受け取り、しばらく各々自由に動く事にしたのだ。
「やべえ」
今の自分の状況を一言で現す言葉を呟くと、荻須は蛇口から水を流してじゃぶじゃぶと顔を洗う。
とにかく落ち着かなくてはいけない、クールダウンが必要だ。
しかし水道水如きではこの火照りは冷めそうもない、氷水にでも飛び込まなくては。
(こりゃちょっと異常だろ……)
ジーパンの中でギンギンになってる自分のムスコの事だ。
そりゃあ、皆がセクシーな格好をしているし、会場中が肌色でいっぱいだ。
それにしてもだ。
「……」
この場で見る訳にもいかないので洗面台を離れてトイレの個室に入り、ズボンのチャックを下ろす。
(……おまえ……随分立派に……すごい邪魔だと思ったら……)
自分のイチモツなんて見慣れたもののはずだがチャックの間から飛び出たそれは今まで見たことのないような状態になっている。
硬度もサイズも普段の最大状態のさらに一段階上というか、鉄パイプみたいだ。
どうりで下腹部が圧迫されて苦しい訳だ。
「はあ……くそっ……」
抜きたい。
脳裏に浮かぶのはあの三人、オカズには困らない。
ただ流石に施設のトイレで励む訳にもいかないので、ぐつぐつと煮え滾るような感覚を覚えながらぐいぐいと上着の裾を引っ張り下ろしてジーパンの膨らみを誤魔化し、トイレを後にした。
(あぁくそっ……ムラムラする……滅茶苦茶ムラムラする……)
知らずに荒くなる息を抑え、微妙に中腰になりながらブースを回っているとポケットの中のアラームが鳴った。







 「はい、Aの178ですねー」
巻き角の生えた悪魔のコスプレをした受付のお姉さんから言われ、カードキーのようなものを受け取ってプレイブース会場に足を踏み入れる。
「うぉ……」
涼しい、薄暗い、そして静かだ。
広々とした会場には見渡す限りに小さな個室タイプのブースが規則正しく並んでいる。
敷居とかでなく、しっかりと個室だ、よくこんなに大量に準備したものだ。
そこかしこに案内役のスタッフが立っており、ブース番号で迷う人の案内をしているようだ。
(……でかいネカフェみたいだ)
「ええと……」
手元のカード番号を見ながら割り当てられた部屋を探す。
あった。
カードキーを通すとカチャ、と音が鳴り、扉が開く。
(へえ、思ったより広い)
そして想像以上に密閉されている、ネットカフェのように通路から覗き込めば中が見えるというような構造ではなく、完全にプライベートな空間になっている。
(お〜あるある)
中にはゲーム機の本体とかなりサイズの大きい液晶モニター……画面にはお馴染みのログイン画面があり、入力を待ちわびている。それに四人分のコントローラー。
そして椅子……ではなく、大きめのマットとクッションが用意されていた。
確かに椅子四つに座るよりその上に座った方が場所は取らないだろう。
これだけの設備をあんなに用意できるとは、そんなに大きな企業がバックについているゲームではないはずなのだが……。
とりあえず、部屋の隅に荷物を置いて整理し始める。
(時間無制限って……本当にいいのかね)
ぐぐっと背筋を伸ばしながら荻須は思う。
そう、通常ならば時間に制限があるのが普通であるのに、この個室を使える時間は「限定ダンジョン攻略まで」という事。
攻略までの時間なんてパーティーによって違うだろうし、時間を使おうと思えばいくらでも使えるので実質無制限のようなものである。
下手すると回ってこない順番待ちが大量に発生しそうなものだが、不思議な事にそういう情報は入ってこない。
(まあ、これから発生するかもしれんけど、とりあえず俺達は入れたからいいや)
と、置いた荷物から着信音が鳴り、荻須は慌てて開いてメールを見る。
(お色直し完了、今から向かうよ、部屋番A178で合ってる?)
「合ってるよっと……」
返信を入れながら荻須は考える。
三人は一旦解散した時に「お色直し」をすると言っていた。
具体的に何をどうするかわからない、着替えるという事だとは思うが……。
コンコンと扉を叩く音がした。
と同時にメールが受信され(knock knock)というメッセージが届く。
苦笑しながら「どうぞ」と扉に声を掛けた。
カチャ、と扉の開く音を聞きながらスマホを閉じる。
「お色直しって」
最後までいい切る前に言葉が途切れ、手に持っていたスマホがゴトン、と地面に落ちた。
「おお、結構広い」
アリストレイが前髪を払いながら言うと、その手に施された豪奢な装飾がカチャ、と音を立てる。
手間のかかっていそうなその篭手、歩くたびに目を引く同じく豪奢な具足。
そこまではいい。
問題はその手足とはあまりにアンバランスな無防備極まる胴体部分。
そこは一番守るべき所じゃないのかという腹部や胸部がほぼむき出しになる構造になっており。
極薄のレザーのような謎の素材が辛うじて乳首と陰部を覆っているが、ぴっちりと密着するそれはボディラインを隠す役割を完全に放棄している。
「マットなんですね」
ポンポンとそのマットを叩く巴。
その胸元であまりに目立つ揺れる南半球。
着ているのは怪しげな呪文が全身に施された厚手の革のローブ……シルエットだけを見るとそうだ。
特異なのはその胸部。
構造上必要ないだろうというような装飾品が乳房をみっちりとくびり出して強調している、それだけならまだしも胸部の下部……いわゆる「下乳」の部位だけすっぱりと生地が無い。
厚手のローブの中で南半球だけがたっぷり露出する事になる、手を差し込んで揉みしだいて下さいとでも言うような構造だ。
「わー、モニターおっきー」
裸だと思った。一瞬絶対裸だと思った。
よく見ると違った、だが似たようなものだった。
何故ならるい子が身に付けているのは踊り子の衣装……いや、水着、いや、下着……紐?
着衣というより紐と称した方がいいものが下半身を際どいボンテージのように拘束し、食い込んでいる。
そして例によって全然体の前面を保護してくれていない上半身の構造。
乳房は完全に剥き出しになっており、その先端にキャップのような……いわゆるニプルカバーがくっ付く構造になっているらしい。
カバーの先端にはひらひらとした装飾と鈴が付いており、踊る度に鈴の音が鳴るように出来ている。
現行のパーティーの装備……つまり、「エロ衣装」を身に付けた三人を前に荻須は中途半端に口を開けたまま固まっているしかできなかった。
「どうしたんだいリーダー、スマホ落ちてるぞ」
その反応を予想していたかのような余裕の笑み、しかしやはり羞恥に白い頬を赤くしたアリストレイが荻須の足元に落ちたスマホを拾ってやる。
肩から背中にかけての美麗なラインを見せつけるようなゆっくりした動きで拾い、はい、と渡す。
「ああ……うん……」
「お疲れですか?ふふ、癒しの魔法をかけましょうか?」
冗談めかして言う巴は杖を掲げて見せる。
見える、見えてしまう。
そうして腕を上げるだけで下乳、というには露出が過ぎた胸部がぼろろんとまろび出るのではないかと見ている方が危惧してしまう。
癒しどころかレイジ状態待ったなしだ。
「どうだいリーダー!いやらしいだろう!」
もはや可愛いとか格好良いとかでなく、はっきりと「いやらしい」と言い切ってしまったるい子はやはり顔を赤く染めながらほぼ丸出しの乳房と尻を揺らし、チリンチリンと鈴を鳴らしてみせる。
恥ずかしいならしなければいいのに、いやらしいだろうって、もう下品なレベルだ、バカじゃないの、素晴らしいです。
「ちょうっとこう……ははっ……すごすぎない……?」
荻須は笑った、笑うしかなかった。
「すごすぎるからね、これはリーダーだけに見せようと思ったんだ」
「ここならリーダー以外いませんからね」
「リーダー専用衣装なのだ!」
「それはどうもありがとう」
と、言うしかなかった。
「さぁさぁぼんやりしてないでログインしようリーダー」
「あぁ、うん」
荻須は三人の身体をガン見しながらカクカク頷く。
いつもはならば下を向いてやり過ごすところだが、何故だか視線が引き寄せられる、見てはいけないと思うのに見てしまう。
(いや……いいのか……?俺の為に着ているというなら見ないのは逆に失礼なんじゃないか……!?)
魔力による視線誘導の効果だとは思いもしない荻須は、自分の視線にそう言い訳する事にした。
尚且つ視線を向けられた彼女達は嫌がるどころか恥ずかしげながらも嬉しそうにも見える。
そんな彼女達は備え付けのマットの上のクッションをいそいそと配置し、いつものポジションを作る。
いつものポジションというのは左にるい子、右に巴というポジション。
二人は互いの間に一人分の隙間を開けてクッションを用意し、マットをポンポン叩く。
その隙間がいつもより狭い気がする、いや、狭い。
それはしょうがない、思ったよりも広いとはいえこの個室は巴のマンションとは比べるべくもないのだから。
しかし狭いという事はいつもよりもさらに密着するという事であり……。
「ほーらリーダー、座ってくれなきゃ私も座れないぞ」
アリストレイがぐいぐいと荻須を押すと同時に二人も手を伸ばして引っ張り、マットに荻須を着席させる。
密着感に赤面する間もなく、アリストレイの美尻がぽすん、と荻須の上に乗った。そう、そこがアリストレイの指定席だ。
荻須は必死に息を抑えた。
温かく、しっとり汗ばんだ女体の感覚に隙間なく密着された荻須の興奮は極限に達している。
気をつけないと荒くなった息がアリストレイのうなじにかかってしまうからだ。
尚且ついつもよりも濃厚な女の香りを吸い込んでしまうとより一層危険だからだ。
グリグリグリ
(あっ……ちょっ……だっ……!)
アリストレイは座り心地を確かめるように腰をもじつかせる。
その度に極限に肥大した自分の獣欲の塊が桃尻に押し潰され、耐え難い快感になる。
ぴた、とアリストレイが腰を止めた、このポジションが一番いい、と言うように。
(そんっ……なっ……)
それは、ちょうど尻の谷間に荻須の鉄のようになった棒をみっちりと挟み込む形。
もう、絶対に意識してやっているとしか思えないフィット具合。
「さあ、リーダー」
さらりと金髪を揺らし、ついでにぴっちりスーツに包まれた美乳をぷるん、と揺らしてアリストレイが荻須を振り返る。

「楽しもうか」
「楽しみましょう」
「楽しみー♪」


18/09/02 15:20更新 / 雑兵
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■作者メッセージ
自分でもひどい寸止めだと思っている。
でも寸止めが一番キリがいいとも思っている。

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