連載小説
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絆の試練

 オギスの目の前にあるのは巨大な門だった。
両端に豊満な女性の像が寄り添うように立つ豪奢な作りをしている。
しかしこの門の向こうにあるのは城でも砦でもない。
地下へと続く通路が真っ暗な口を開けている。
そう、これこそは噂に聞いたダンジョン、「絆の試練」
「よーし、準備はいい?」
東洋の装備で身を固めたオギスは振り返って言う。
「もちろんだ」
「いいですよ」
「おっけー♪」
頼れる三人の仲間が返答する。
実力は頼れるのだが、見た目はすごく頼りない、物理的に。
「よ、よし!行くぞ!」
三人の身体から無理やり視線を引き離してオギスは門を開いた。
ゴゴォン、という重厚な音と共に現れたダンジョンの入口は……。
「うわっ!?」
思わずオギスは身構える。
大広間のような空間の中央に誰かが立っていたからだ。
まさかしょっぱなからボスが現れるはずはないと思っていたが、その立っている人物はどう見ても味方という風には見えない女性型の魔物だった。
恐ろしく整った美貌に、扇情的で禍々しい装いの白髪の魔物。
もっとも、扇情的という意味ではオギスのパーティーも大概だが……。
「いきなりラスボスっぽいの来たぞ!?」
「リリムとはね」
「まぁまぁ」
「まだ心の準備がー!」
慌てて武器を構えるオギス達をリリムは色っぽい佇まいのまま、戦闘態勢を取るでもなくただ微笑んで見つめている。
「……あれ……イベントっぽい?」
「よく来たわね」
「うお、イベントだ」
喋り始めたリリムを見てオギス達も武器を収める。
「喋るモンスターって初めてだな……流石限定……」
「この「絆の試練」は文字通り、絆が試される試練……貴方たちは強い絆を示さなくてはいけない」
脳に染み入るような美声でリリムは語る。魅了を司る魔物に相応しい声だ。
(……聞いたことない声優だ……やっぱり安い新人使ってるのかな?でもすげぇいい声……)
後でチェックしてみよう、とこっそり考えるオギスの前でリリムはふわりと浮き上がった。
「試練を超えた者には報酬が与えられる……このゴージャスな特典を是非ゲットして欲しいわ」
「急にフランクになった」
「これが貴方たちに与えられる試練よ!」
宙に浮いたリリムから眩い紫色のオーラが放たれ、オギス達パーティーを包み込んだ。
「うわっちょっ……何?攻撃!?」
「でもダメージはないね」
「これは……デバフ?でもないようですが……」
「何これー!?何この状態異常!?」
四人の身体にオーラが染み入るようにして消え、ふと見てみると三人のステータスを現すゲージ……体力、魔力、スタミナの下にもう一つのゲージが追加されているのがわかった。
表記の部分にハートマークが記されたピンク色のゲージ……初めて見る状態だ。
「それは「絆」を現すゲージ……これが尽きると貴方たちは寂しさの余り体力と魔力が徐々に減少していく事になるわ」
「うさぎかよ」
「それを回復する手段は……ふふ、貴方たちならばもう知っているはず……そしてそれは扉を開く鍵にもなっているわ」
「もう知っている……?」
「私は奥で待っているわ……豪華特典を隠し持って……!是非倒しに来てね、頑張って♪」
両手でグッとサムズアップし、舌を出してウインクしながらリリムは紫色のオーラに包まれて姿を消した。
「待ってるって事はやっぱあれがボスなのか……すごいファンキーなボスだ……」
「ゲージ尽きたらやばいって言ってたね、どうやったら減るのかな……あれ、これ……」
「あら……もう減り始めていますね、少しですが……」
「え、マジ?」
ミステラに言われて確認してみると、確かにそのピンクのゲージの端に僅かに空白ができ始めているのが見えた。
「時間経過で減少ー?厄介ー!」
「空腹ゲージみたいなもんだね」
「回復手段によっちゃすげえ難易度高くなるぞ……どうすりゃ回復すんだろ」
「えーと、アイテム……?一通り使ってみる?」
「効果なかったら損だなぁ……いや、待て、もしかしてチェックポイント形式かも」
「チェックポイント?」
オギスは広間の奥を指差す。
奥の方には恐らくここを潜ると本番が始まるであろう、ダンジョンの入口の扉があった。
……中央に大きなハートマークの宝石が嵌っているデザインがちょっとラブホみたいだと思ったのは内緒だ。
「ダンジョンの中にこのゲージを回復できる補給所みたいな所があって……その経由地にゲージが尽きる前にたどり着くタイムアタック的な要素かも」
こう考えたのには根拠もある、このブースのプレイ時間が無制限であるという点だ。
補給所が無限に使えるのでなければ、このダンジョンの攻略は必然的にゲージの減少に追われながらのスピードランという事になる。
結局プレイ時間はゲージによって制限される事になるのだから、ブースの回転もある程度読めるという事だ。
「つまりー……」
「とっとと急ごうって事だ!」
「大変大変」
「ひょー!落ち着かない!」
オギスを先頭に、奥の扉に走り込むパーティー、だったが……。

(扉は不思議な力で封印されている)

「あるぇ!?」
「開かないねぇ」
オギスがドンドンと扉を叩いても切っても、返ってくるのは無情なメッセージのみである。
「っかしーな、完璧な推理だと思ったのにな……」
「ん、横にメッセージあるよ」
アストレイが言うように、扉の横にある石版にメッセージが掘られていた。

(絆を示せ)

「絆を示せっ……て言われてもな……」
「待って下さい、先程のリリムのセリフを思い出して見ましょう」
「……なんてったっけ、ログ、ログ……」
オギスがセリフのログを立ち上げ、リリムの言葉を再度確認する。

(それを回復する手段は……ふふ、貴方たちならばもう知っているはず……そしてそれは扉を開く鍵にもなっているわ)

「……回復手段と、扉を開く鍵が一緒?……で、絆を示せ……」
オギスは俯き、天を仰ぎ、ウロウロと扉の前で歩き回り……。
「だぁ!悩んでる間もゲージ減ってくぞ!?ここで飢え死にしちまう!」
「……飢え……?」
と、アストレイが声を上げた。
「あ」
「何?なんか気付いた?」
「これ……」
アストレイが立ち上げたログの一部を指さした、先程のヒントの前の文章。

(それは「絆」を現すゲージ……これが尽きると貴方たちは寂しさの余り体力と魔力が徐々に減少していく事になるわ)

「絆を満たして飢えを防ぐ……あー、あー、あー、そうだこれ、実際の魔物の習性に寄せたシステムなんだ!」
「あ、なるほど」
「わかったわかった!」
三人の女性は互いに頷き合う、オギスも頷く。
「……うん?え?魔物の習性に寄せたシステムって?」
よく考えると何を言っているかわからない。
「つまり、こういう事なんだね……」
アストレイはオギスに近付くと、突然抱きついた。
「ちょっ」
戸惑うオギスをよそに、残りの二人も頷き合うとオギスにしなだれかかる。
たちまち周囲にはポワワン♪ポワワン♪と大量のハートが撒き散らされる。
「ちょちょちょ、こんな事してる場合では……!あ、あれ?」
と、そのハートがゲージに吸い込まれ、三人の絆ゲージがみるみる回復していくのが見えた。
尚且つ……。
「え、これも!?」
三人のゲージが満タンになったところで、ハートは行く先を変え、ドアの装飾のハートに次々吸い込まれていく。
そうすると、鈍い赤だった宝石がみるみる輝きを増し、鮮やかなピンクに色を変えた。
ピキーン♪という効果音と共にその扉が開いたのだった。
「ええ……エモートで回復と開錠って……使用制限ないのに……どういう意味があるんだこのシステム……」

ポワワン♪ ポワワン♪ ポワワン♪ ポワワン♪ ポワワン♪

「ええと……あの……」

ポワワン♪ ポワワン♪ ポワワン♪ ポワワン♪ ポワワン♪

「もうゲージ……一杯で……」

ポワワン♪ ポワワン♪ ポワワン♪ ポワワン♪ ポワワン♪

「扉も開いたんだけど……」

ポワワン♪ ポワワン♪ ポワワン♪ ポワワン♪ ポワワン♪

「……」

ポワワン♪ ポワワン♪ ポワワン♪ ポワワン♪ ポワワン♪

結局ゲージも満タンになり、扉が開いてからも三分近くその「ハーレムエモート」を三人は続けた。
「……」
「……」
「……」
「……」
ようやく気が済んだのか、三人がオギスから離れる。
……よく見てみると、三人のキャラクターの頬には赤みが差し、目も少しとろん、としたままだ。
以前は離れればすぐに元通りだったのが、効果が尾を引くように反映されているらしい。
無駄に凝ったアップデートだ。
あと、流石にこれは気のせいかと思うが……。
(乳首……勃ってない……?)
極薄の生地にぷっくりと浮き上がるアストレイの乳首。
そんなにくっきりと生地を押し上げていただろうか……。








「……」
ふと、荻須は自分がゲーム画面のアストレイと、リアルのアリストレイを見比べている事に気付いた。
つまり、胸の突起を。
(……勃って……)
くる、とアリストレイがこちらを振り返ったので素早く画面に視線を戻す。
いけない、ゲームに意識を集中させてこのリアルの状況を意識しないように努めていたのが、今ので現実に立ち返ってしまった。
現実とは、つまりゲーム内と同じくハレンチな格好をした三人にハーレムエモートよろしくぴったりと密着されているという現実。
画面の中の状況をそのままリアルに持ってこられたような状態を意識してしまうと、左右にのしかかる柔らかさ、弾力、温かさ、鼓動、匂いがゴリゴリと理性を削ってくる。
そして、相変わらず鉄の棒のようにガチガチの自分の陰茎はアリストレイの桃尻にぴったりと捕らえられてその柔らかさを堪能している。
(集中!集中!集中!集中!)







 「つまりこまめにこのエモートを挟みつつ進めば問題ないって事だな!楽勝楽勝」
「そう、なるべくこまめにね」
「頻繁にしないとですね」
「沢山ね!」
やたらと念を押す三人を連れて開いた扉を進み、本格的にダンジョンに足を踏み入れる。
薄暗く、ボロボロのタイルで構成された地面。
壁に掛かった篝火がいかにもダンジョンという感じだ。
頭上にこの階層のタイトルが浮かび上がる。

(大破の間)

「怖い名前のとこだな……」
「大破って……何だろ」
「罠の特徴でしょうか?」
「爆発するのかな?」
「キシシシシ」
「……何の声だ」
会話の間にモンスターのものらしき声が挟まった。
「あそこ、何か見える」
アストレイが剣を抜いて差すと、確かに暗闇の中に何か小さな光がともって揺れている。
「キッシッシッシ」
どうやら声はそこから聞こえてくる。間違いなく……。
「接敵!」
「フェアライト!」
すかさずミステラが光の魔法を放ち、暗いダンジョンを照らす光源が生まれる。
「キシシシ……うおっ眩しっ」
光に照らされて現れたのはグレムリン……グレムリン……?
「じょ、女性型!?」
パンキッシュな髪型に肉付きの薄い身体を覆うジャケット。
何より特徴的なのはその背後から伸びる機械のアーム。
機械を操り、冒険者に嫌らしい妨害を行う魔物「グレムリン」
ダークネスでも見たことのある種族だが女性型というのは初めて見る、随分と可愛らしい見た目をしているうえ、普通のタイプと違って人語を喋るらしい。
しかしそのロボットアームに持っているのは……。
「ちょ、マジ……」
黒くてまん丸で導火線のついたクラシックな見た目の「爆弾」。
暗闇に光って見えた小さな光はその導火線から散る火花だったのだ、しかも四本の腕に四つ。
「きゃっはー!」
笑いながらグレムリンがぽいぽいっと爆弾を投げ付ける。
「回避回避回避!」
準備が出来ていればミステラの防壁で防げたろう、しかしこの不意打ちでは詠唱が間に合わない。
オギスの必死の声と共に四人は蜘蛛の子のように散る。
BOOOM!というコミカルな爆破エフェクトで画面が埋め尽くされ、体力がゴリッと削られる。
「いきなりとか!卑怯!」
「ヒッヒー!戦いに卑怯もくそないんだゼー!」
笑いながらグレムリンは素早く距離を取る、爆弾を補充するつもりのようだ。
つまりその間は無防備という事だ。
「みんな!リカバリーより攻撃……を……」
最後まで言い切る前にオギスは口をあんぐり開けて立ち尽くしてしまう。
「いたた……不意打ちとは……おや」
頭を振っていたアストレイは自分の身体を見下ろして目を丸くする。
極薄スーツのそこかしこがやぶけ、中から眩しい肌が露出してしまっているのだ。
尻に近い腰のサイドや乳房の脇など、かなり際どい破れ方だ。
「……特殊デバフかな、リーダーの視線が熱いのはいいんだけど」
「あ、いや、ぶふっ」
慌てて目を逸らした先にはミステラがいた。
胸元以外の露出は控えめだったそのローブはアストレイと同じく色々露出が激しくなっている。
際どいところで大事な部分が見えない、突っ込むのも野暮だが爆発でそんな破け方しないだろう。
「くっ……いっそ殺しなさい」
ミステラは胸元を抑えてそんな事を言ったりしている、ノリノリか、何でくっころネタ知ってるんだ。
「わ、私も装備がー!」
「ええ!?」
ルビィの声に思わずそっちを向く、あの装備で変化するってそれはもう。
「……」
「……」
「……」
「……腰布が……ちょっと破けてる、かな?」
まあ、あれを豪快に破壊したら真っ裸になる以外ないので致し方ない。
「チクショー!」
「何で悔しがるんだ」
グレムリンは最初の不意打ち以外は爆弾の補充を妨害すればそれほどの強敵でもなかった。
「ぐえー!装備はイベントが終わったら元通りになるから安心しなー!がくっ……」
すごく説明的なセリフを吐いて床に長々と伸びたグレムリンを尻目に次の扉の前に四人は立つ。
「……しないと駄目だよな」
「ゲージも減ってるし、扉は開かないし、しない理由がどこにあるんだい?」
「いいじゃないですか減るもんでもなし」
「減るもんでもなし」
元々のスケベ衣装からより露出の増えた(ルビィ以外)三人はオヤジみたいな事をいいながらオギスにまとわりつく。
口では何と言っててもやっぱり嬉しいオギスもせっせとハートの生産に勤しんだ。
(あ……そう言えばここ「大破の間」ってそういう……)







 「よく来たわね……」 
 禍々しい玉座に座る白髪の悪魔リリムは紫の篝火に照らされながら妖艶な笑みで四人を迎えた。
その四人の姿というと色々とひどい有様であった。
「大破の間」でグレムリンに装備はボロボロにされ。
「花の間」でアルラウネに全身を蜜まみれにされ。
「欲情の間」でサキュバスに絆ゲージの減少を早める「発情」を付与され……。
それらをクリアするたびにゲージの回復と扉の開錠の為いちゃいちゃと絡み合った四人はもはや目も虚ろで息も荒く、足元もふらついているような状態だった。
「はあ……はあ……このダンジョン……ふざけてる……」
「……」
「……」
「……」
オギスはどうにかリリムに答えたが、他三人はもはや何も言わない。
「さあ、へこたれている暇はないわよ?最後は私が相手なんだからね……♪」
すっくと立ち上がるリリムに対してオギスは武器を構える。
これまでの連戦はそれほど難度が高かった訳ではなかったので体力、魔力が消耗している訳ではない。
しかし発情が余りに強烈すぎる、頭の中は三人の体の感触で一杯、勃起が激しすぎてうまく動けない……。
(あれ……?いや、何を考えてるんだ、これはゲームだ、あのピンクのゲージ以外にステータスに問題はない、現実の俺がどれだけ興奮しててもゲームには影響ない……ないんだ……)
「はあ……はあ……はあ……はあ……」
何が何だかわからなくなってくる、画面の向こうのオギスと画面の前の荻須の境界が曖昧になるような……ゲームの中でかけられた発情が現実にも影響しているような……。
「しっかりしろ……!来るぞ!」
紫のオーラを揺らめかせながら玉座から立ち上がったリリムに剣先を向けながらオギスが言う。
「みんな……!え!?あれ!?みんな何してんの!?」
気付いた。
いつもなら前衛の二人……アストレイが自分の横に並び立ち、その後ろにルビィとミステラの後衛が立つ。
ところが今にもボス戦が始まろうとしているのに、三人は陣形を取るどころか武器も抜かずに棒立ちになっている。
相手のリリムの方を見てさえいない。
ただ、オギスを見ている。
オギスを取り囲むようにして立ち、露出した肌を蜜でぬらぬらと光らせ、どろりとした目でただオギスを見ている。
オギスが戸惑っている間にもリリムは全身にオーラを漲らせゆっくりと手を掲げる。
「そおれ♪」
防ぐための動きを一切出来ないまま、リリムの手から放たれたオーラがパーティーを包み込んだ。
「何で!どうして……!?」
全身をそのオーラで焼かれるような感覚がする、三人もそのオーラを受けて身を竦める。

パリーン!

何かが砕ける音がした。
ゲージだ、絆ゲージが砕け散る音だ。
体力ゲージには一ミリも変化がないが、絆ゲージが枠ごと壊れた。
そのゲージから大量のハートが溢れ出し、次々と体力ゲージに吸い込まれていく。
(何だ……!?何なんだこれ!?)
体力ゲージがハートに侵食され、黄色だったその色を変えていく。
オギスのゲージは青色に、三人のゲージは絆ゲージと同じピンク色に……。
「ん、んんっ……あっ……」
「んくぅっ」
「ふ、ふゃぁぁあああ……」
と、オーラに巻かれた三人が身をくねらせ始めた。
苦痛にもがいている様子ではない、何か、身の内から溢れる衝動を堪えるような動き。
「ふふ……これはぁ「不可逆」の状態変化……♪」
「なっ……!?」
リリムが聞き捨てならない事を言った。
「魔物化♪」
アストレイの瞳が赤く輝く。
ミステラの背後から翼と尻尾が覗く。
ルビィの頭部から一対の角が生える。
見知った仲間の姿が異形に変じていく。
オギスは下半身にどうしようもない力を漲らせながらその様を見ていた。
(綺麗だ)
忌むべき魔物の姿に変えられているというのに、その三人の姿の美しさにオギスはただ目を奪われるしかなかった。
「ああ……リーダー……」
「……ふふふっ」
「リーダー♪」
変異の完了した三人はその目にピンク色の火を灯しながらオギスに近づいてくる。
その背後でリリムが微笑む。
三人は、距離を詰めてくる。

(ーーーーーーーー落ち着け!!俺はダンジョンにいる訳じゃない!ゲームイベントの会場にいるんだ!これは画面の向こうの出来事だ!俺はプレイブースでコントローラーを握っているだけだ!)

荻須は強く目を閉じ、いつの間にか画面の向こうの世界に引き込まれていた自分を取り戻そうとする。
「ーーーーーーーっはぁっ」
目を開いた。
紅い瞳と目が合った。
「え?」
夢から覚めたのにまだ夢の中にいるような感覚だった。
膝の上に座っていたアリストレイはいつの間にかこちらを向いて座り直している。
その瞳が真紅に光っていたのだ。
(カラコン?)
入れるにしたってどのタイミングだ。
「うふふふ」
「くすくすくす」
両側から笑い声が聞こえる。
右を見るとミステラが……巴がいる、その背後に揺れる翼と尻尾はいつ取り付けたんだろう。
それを言うなら左のるい子の頭についている左右非対称の角も。
そっと、るい子の方を向いていた荻須の顎に手が添えられ、正面を向けなくされる。
アリストレイの手だ。
何をするのか、と思う間もなくアリストレイの顔が近付いた、耳にさらさらと髪が触れる、首筋に、熱い息を感じる。

かぷ

むちゅっ

「はぁっっむっっっ」
首筋から流れてきた感覚。
想像だにしなかった快感が電流のように流れ、荻須は声を上げた、上げようとした。
その声を飲み込むようにるい子が唇を塞いだ。

むにゅぅ

右手に信じられないような柔らかさを感じた。
しっとりとした人肌、沈み込む指。
人間の身体でそんな感触を返す部位といったらもう、女性特有のその膨らみ以外にない。

「ふふふあはははは♪」

耳元で巴の声が響く。

余りに同時に物事が起こり過ぎた。
首筋から流れてくる未知の快感、ぬるり、と侵入してきたるい子の舌、右手に感じる膨らみ。
いつもの荻須ならば戸惑うばかりの場面だっただろう。
だが荻須は限界だった。
ずっと、限界だったのだ。
この会場に来てから受けてきた仕打ちに度重なる抑制、お預け、誤魔化し、すかし、いなし。
荻須の雄の本能はいい加減限界だった。

ぶちん

と脳の中で太い何かが切れたような気がした。
知るか、もう知った事か。
この人達が悪い、そんな衣装着て、ベタベタ密着して、気のある言動をして、美人で可愛くてスタイル抜群で。
ゲームの中でまで誘惑してきやがって。
この人らのせいだ、俺は悪くない、この後どうなったってそれは全部向こうのせいだ。
責任とってこの溜まりに溜まりに溜まりに溜まりに溜まりに溜まりに溜まりに溜まりに溜まった精子を。
ぶちまけさせろ。
普段からは想像もできない凶暴な獣性に支配された荻須は空いていた左手でるい子のほぼ丸出しの乳房を力いっぱい掴む。
同時に右手に掴まされた巴の巨乳にも指を食い込ませる。
「んくっ♪」
「はぁん♪」
乱暴な扱いにも関わらずるい子は思わず口を外して甘い声を上げ、巴は快感に息を乱す。
荻須の理性に止めを刺す。
「フーッ!」
獣のように息を荒げた荻須はいっそ三人に分身して三人とも同時に襲いたい気分だったが身体は一つだ、とにもかくにも目の前の獲物に狙いを定めた。
先程からずっと首筋に吸い付いて謎の快楽を流し込んでくる、極薄スーツに身を包んだ金髪の少女に。
きゅうっぎゅうっと一揉み二揉み両手の花を堪能した後に手を離し、アリストレイの肩を掴んで引き剥がす。
「ちゅぱっ」
蕩けた紅い瞳、普段よりもさらに鋭く長くなった八重歯に血痕が残っている。
吸血鬼、そうか、アリストレイは吸血鬼だったか、どうでもいい、犯してやる。
ぴったりとその肌に密着する薄い素材を掴み、グイグイ引っ張る。
ゲームの中と同じように破いてやろうと思ったのだが伸びる、伸びるが破れない、意外と丈夫だ。
「ん、ん♪」
紅い目を輝かせながらアリストレイが伸ばされた生地に自ら指をかけ、力を込める。
自身に迫るレイプまがいの行為に喜んで加担する。
ビリリ!
音を立てて胸元から腹まで裂け目が入る。
ほんの一瞬、レンタル品が……と頭をよぎったが、露になった胸の谷間と愛らしいへそを見てまた理性が飛んだ。
谷間から下腹部まで露出したスーツは余りに扇情的だが、今の荻須はそれだけでは満足できない。
そのまま裂け目に指を突っ込み、胸元を強引に開く。
ぷるん、と、プリンのように少女の膨らみが外気に晒される。
神が作ったような造形美も、真っ白な肌に生える桜色も、今の荻須には欲情の燃料にしかならない。
無我夢中でその谷間に顔ごとダイブし、押し倒す。
両手で鷲掴み、顔を擦り付け、少女の匂いを嗅ぐ。
未経験丸出しの荻須の貪欲さをアリストレイは心底嬉しそうに受け入れ、獣欲の受け皿になろうとする。
ビリリ!
「あ、や、あん♪」
荻須がおっぱいに夢中になっている間にるい子と巴の二人が重なる二人の横から手を伸ばし、スーツの裂け目を引っ張ってさらにズタズタにしていく。
荻須の中の獣を見せられて完全に発情した二人は、その極上の肉体をきゅんきゅん疼かせながらも荻須がスムーズにアリストレイをレイプできるように手伝う。
アリストレイも恥ずかしげに身をよじらせてそれを手伝う。
三人の意思は一つだった。
荻須に最高の初体験を、最高の快感を、最高の射精を。
そのためには犯してもらう順番も何も二の次だった。
「ふううっ、ふううっ」
ようやくアリストレイの膨らみから顔を上げた荻須は欲望の赴くままにスーツの下半身に手をかけ……ようとして既にそこが破られ、アリストレイの最も女の子の部分が剥き出しになっているのに一瞬躊躇した。
初めて見る女性器。
ぴったりと閉じ、幼ささえ感じる……無毛のクレバス。
しかしはしたないくらいにぬらぬらと愛液を分泌している。
淫乱性と処女性を同時に表しているその部分に見とれる。
「りーだー、りーだー」
興奮のあまり震えて掠れて殆ど声になっていないアリストレイの声が届く。
「だいじょぶだいじょぶ、準備万端おっけー、ばっちこいばっちこい」
そう言って荻須の理性に止めを刺す、また刺す、何度も刺す。
折れそうな細腰を掴み、自分の信じられない程に肥大した陰茎をあてがう。

みちみちみちぷちぷちぷち

「んぎぃぃぐっ」
「ん゛ん゛ん゛ーーーーーーーーー」
はっきりと純潔の抵抗を感じながら、それを突き破る感触を感じながら、荻須は雄になった。
まだ、まだ入る、破ったのにまだまだ奥に侵入していく、長い、自分のがそんなに長いとは思わなかった。
そんなになった自分を受け入れられるアリストレイの細い身体が信じられなかった。

とちゅんっ

「ふぅぅぅぅぅぅ」
「はぉっ……ぉっ……」
恥骨同士がぶつかった。
最も深いところまで到達した。
例えようのない充実感と征服感に包まれ、荒れ狂っていた獣欲がほんの少し、落ち着く。
「りーだー」
「……あっ……アリスト、レイ」
自分の繋がった相手の顔を改めて見下ろすと、当たり前だがアリストレイの顔があった。
初めて会った時に人形のように綺麗だと思った顔、多分、こんな形で出会っていなければ生涯自分には縁が無いすこぶるつきの美少女。
その少女が目尻に涙を浮かべ、真紅の目で自分を見ている。
「脱童貞おめ、処女ゲットおめ」
ぺろ、と舌を出し、その美貌に似合わない軽い調子で荻須を祝った。
こんなにも、こんなにも愛しい女の子と、自分は繋がっている。
自分の一番醜く、浅ましく、恥ずべき部分を、この女の子の一番大事な所で迎えられている。

ド ビ ュグッ

夢のような現実を認識した瞬間、荻須の陰茎は壊れた蛇口と化した。

18/09/16 23:15更新 / 雑兵
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