連載小説
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創造者と創造物
 「ーーーーー!?!?!?」
モノリスは大きな目を瞬かせて快楽と困惑を味わっていた。
精通。
知っていたが体験はしたことがなかったもの。
今体験してしまったもの。
尚且つただの精通とは違う魔物の手による……正確には口による射精。
気持ちいい。命の危険を感じる程に。
(君は現場の経験に乏しい)
カナエの言葉が頭をよぎる。その通りだ。
知識として魔物娘が男をその肉体でもって篭絡するというのは知っていた。
抗いがたい魅力なのだろう、とも思っていた。
しかし今、体験を通じて改めて心から理解する。
(勝てない)
人間はこの快楽には抗えない、勝ちようがない。
教団がどれだけの研究を重ねようと、どれだけ精神を強く持とうとも。
生物の繁殖が抑制できないように、人が魔に堕ちるのは防ぎようがない事なのだと理解させられる。
「ごく……ごく……ごく……」
ベータは小さな体でしっかりとモノリスの腰にしがみついて主の精通を味わっていた。
半目になった目は潤み、その端からほろほろと涙さえ零れている。
至福、天国、極楽。
どんな言葉でも表せない多幸感にベータは包まれていた。
あんまりに幸せだからこう思った。
これを、一人で味わってはおけない。
「ええ、ええ、いいですとも、末妹が姉様を差し置くだなんて許されない事だったんですねわかります、って、ちょ、え?」
文字通り人形の目になってぶつぶつと呟いていた妹の方に手を伸ばし、その肩をぐいと掴む。
戸惑うガンマを引き寄せるとぐっぷりと咥え込んでいた陰茎をゆっくりと口から引き抜き始める。
「ン、んん、ん」
「……ごくっ」
その口元に釘付けになるガンマに顔を寄せる。
「ぐっ……ぽ」
「は、あ、あムっ」
口から解放すると同時にそれをガンマの口に受け渡す。
温かい体温に包まれていたモノリスの陰茎は一瞬だけ空気に触れた直後、また別の温かさに包まれる。
「んんむむっ!!」
(ふぁぁぁぁぁぁお姉さまぁぁぁぁぁぁありがとうございますぅぅぅぅぅ血も涙もないなんて思ってごめんなさい)
甘露のおすそ分けに感激しながらガンマは初めての主の精を貪る。
こきゅん、こきゅん……
初動の勢いは無いものの、とくんとくんと脈動する愛しい熱の塊からは湧き水のようにその甘露が溢れる。
(ああ……)
ベータが涙まで流した理由がわかった。
生まれてきてよかった。
生まれて間もないのにこんなに幸せでいいのだろうか。
「……」
頭の芯まで痺れるような幸福に浸っているガンマの視界にアルファの顔が映った。
一見すると相変わらずの無表情だ、だがその目にはとてもとても切なそうな光が宿っているのが見えた。
そう言えば最初は自分が、と言っていたはずだった。
しかし流れで妹達に順番を譲ったらいつの間にか最後になってしまった。
(ああ、なんてこと……)
無理に割り込む事もできないので切なく見つめるしかできないでいる姉を見て、ガンマはそっとアルファに向けて両手を伸ばす。
それを見たアルファは胸にモノリスを捉えたまま、ゆっくりと体を前に倒し……。
ぽろっ
首が落ちた。
ぱしっ
それをガンマがキャッチする。
「ぢゅっぴ……」
名残惜しげに陰茎から口を離し、受け取ったアルファの首を主の陰茎にそっと寄せる。
「ぐちゅっ……」
「っあ……」
長い髪に隠れて見えないがアルファの口元から淫猥な水音が響き、モノリスがまた身悶える。
そのモノリスをまたぎゅうっとアルファの腕が抱きしめ、豊かな胸に挟み込む。
胸に抱きしめながらの頭部を分離してのフェラチオ、という普通では有り得ない体位。
しかしこの体位は自分で首を動かす事ができない、よって……
「失礼します……」
ガンマが頭部に手を添えてゆっくりと上下させ始める。
「ちゅっ……ぬちゅっ……」
上下運動に合わせていやらしい音がなり始める。
「はっ……はっ……はっ……ああ、すごい……」
姉の頭部を使って主を愛撫する、というシチュエーションに倒錯した興奮を覚える。
「あっ……?」
夢中で上下運動させるガンマに、首の無いアルファが両手を伸ばす。
一瞬、自分の動かし方がよくないのかと思ったが、その指がちょいちょいと手招きをするのを見て思わず微笑む。
そっと、アルファの両手がガンマの頬に添えられる。

モノリスは温もりに包まれながら余りに強すぎる快感に身悶えるしかできなかった。
元々、肌への他人との接触が録にない人生を送ってきたのだ、それを差し引いても魔物の肌は触れているだけで男を昂ぶらせるのだ。
「マスター……♪」
「う、あ、あ……?」
目に若いシシー……つまり、ガンマのうっとりした顔が映る。
どういう体勢なのか一瞬混乱するが、その首から下がない事に気付く。
分離したガンマの首をアルファが持っているのだ。
何をするのかと思ううちにその顔が迫ってくる。
「はむっ……♪」
逃れられないキス、というような可愛いものではなく口を開いて舌にかぶりついて来る。
その頭を胸の谷間にアルファが抱き込む。
「ちゅっ……じゅるっ……ちゅぷっ……ちゅぴ」
「んんっ、んむっ、あむ、むぢゅっ」
分離した二人の頭部に口と陰茎を同時に責められるという状況。
もはや何が何だかわからない。
「っぷぁ、あぶっ……し、シシー、シシー、待ってくれ、待ってくれ」
三人のうちの誰でもなく、全員の事でもある名前を呼ぶ。
「ちゅぱ」
ふわ、と体の締め付けが緩み、アルファの手で支えられたガンマが口を外して至近距離で見つめて来る。
「ちゅぷ……ちゅぷ……」
しかし、アルファの首を上下させるガンマの手は止まらない。ゆっくりと陰茎を唇で扱かれながらなので声の上ずりが止まらない。
「か、感覚が、感覚が」
「うふふ……感覚が?」
「かんかく、がぁ……」
「ああ、いけませんマスター、そんな顔ぉ……いつも理知的で暗い目をしていたマスターがそんなに潤ませて……ふぁ!?」
「独り占め、ダメ」
ひょいとガンマの顔が上にどけられ、後ろからベータの顔が現れた。
そのままアルファの手から奪ったガンマの首をえいっと後ろに投げる。
「ちょわっ!」
慌ててガンマがアルファの首から手を離し、投げ渡された自分の首を受け取る。
「……ほんとうに、いい顔……」
ベータは他二体と比べてもっとも表情筋が硬く、感情が顔に出ない。しかしその目が幼さに見合わぬ情欲を伝えてくる。
モノリスはその視線から逃れようとするようにいやいやと首を振る。
「マスター……少し、考えるの……止めるのも、いいと思う……」
「考え……考える事……」
「考えないことも、大事、だと思う……」
惑乱するモノリスの頭を小さな手で撫でながらベータは言う。
「今は、考えないで……なんにも考えないで……体に任せて……気持ちに任せて……」
ちゅ、とつつくようなキスを唇の先にして言う。
「射精、して……」
モノリスはベータの言葉に導かれるように、アルファの口内に射精した。
「むんっ……んっ……」
アルファは小さくくぐもった声を上げると、注ぎ込まれる熱い液体を口内に溜め込む。
そのまま飲み込むと喉から外に出てしまうためだ。
「あっ、そのままです姉さま、そのままそのまま……」
渡された首を装着したガンマがアルファの首をそっと持ち上げる。
ちゅぷ、と音を立てて陰茎の先端から離れたその首を掲げ、かちりと体に戻す。
「んっ……」
繋がった喉がごくり、と動いて口に溜めていた精を飲み下す。
「はぁぁぁ……ぁ……」
モノリスの背中にふるふる、とアルファの体の震えが伝わる。
伝わったと同時にぎゅっと自分を抱きしめる力が強くなる、また頭が乳房に埋まり、魔物の匂いに包まれる。
思考が、蕩ける。
(……考えない事も、大事……)
その感覚に抗おうとしたモノリスの脳裏に、先ほどベータに言われた言葉がよぎる。
(考えなくてもいい……今はただ、この感覚に……)
「大丈夫ですか?マスター……」
ぐったりした様子のモノリスにガンマが声をかける。
モノリスの体は既にインキュバスだ、その精力は無尽蔵である。
しかしモノリスは元々身体が丈夫な方ではなく、普段の生活習慣も相まってかなり体力が低い。
精力がどれだけ無尽蔵であってもなりたてのインキュバスでは体の負担も大きいだろう。
そう思い、気を使ったガンマだったが……。
「もっと……」
「え?」
「もっと、したい……」
顔を上げたモノリスの目はいつものようにどろりと暗い。
しかしその奥底に生まれて初めての情欲の火が燻っている。
「シシーに、挿れたい……」
ビリビリッと三体の体に稲妻が走る。
同時に三体のメモリーに先ほどのモノリスの音声は厳重に保管され、ロックがかけられた。
「やりましょう」
「はい」
「すぐに」
完全に余裕を失った三姉妹の声が揃い、モノリスの体をひっくり返してアルファと対面する形にもっていく。
「待て……」
かりっ
「あっ」
乳房の根元に軽く歯を立ててアルファの動きを止めたモノリスが自ら身を起こす。
「僕も、雄だ……」
ぐい、とアルファの両膝裏に手を差し込んで持ち上げ、正常位の体勢になる。
長身のアルファは組み敷いていても見上げる形になる。
そのアルファを暗い目で見上げながらモノリスは低い声で言う。
「僕の欲望を満たせ」
「はい、マスター」
主従関係は破棄されたはずだった、だが、モノリスが命じるならばやはり三人は応える。自由意思で応える。
ましてそれが自らの欲望と重なる望みなら。
暗い目と濡れた人形の目が合わさり、細く繊細な科学者の指と機械仕掛けの指が絡み合う。
四つの人形の目に見守られながら、創造者と創造物が雄と雌として結ばれる。
「いくぞ」
「どうぞ」
モノリスはもう考える事はやめようと思った、少なくともこの一時は。
だが、そう思っても「好奇心」はまたべつものであるらしい。
この器官。
アルファのこの股関節部分に出来た女性器。
髪からつま先に至るまで、モノリスにとってアルファの体で知らない部分はない。
そのアルファの体に現れたイレギュラー。
魔力によって自然に発生した器官がこれだ。
一体どういうものなのか?それを自らの体で確かめるという行為に胸が沸き立ってしまう。
ぐちっ
みちみち、みち、みち

「がっ」

どぷっ

一秒も持ちはしなかった。
当然といえば当然の結果、触れられる刺激にすら慣れていないモノリスの肉体が魔物の肉体との性交に耐えられるはずもない。
だが腰は止まらない、性器が飲み込んでいくと同時にアルファの長い脚ががっちり腰をホールドして締め付けていく。
モノリス自身の腰も止まらない。
(ああ……そうか……)
火花が散る脳裏に走馬灯のように思考が巡る。
(繁殖というのはよくできている)
繁殖行為の合理性に想いを馳せ、自らの運命の数奇さに想いを馳せる。
(なあ、シシー)
歯をカチカチ鳴らしながらシシーの目を見る。
(はい、マスター)
大きく開いた目からはらはらと涙を零しながらアルファが目で応える。
なんとなくわかる、ずっと傍にいたのだから。生まれた時からずっと。
繋がって、強く抱き合う。
体格が違うのでまるでアルファが包み込むようになる。
胸の張り避けそうな充実感、そして感じる魔力の循環、肉の蠢き。
感動と同時に再び湧き上がる情欲に任せてその乳房に指を食い込ませる。
艶かしい嬌声が上がる、もはやその声にかつての機械的な響きはなく、一人の雌の声だった。







 「どのくらいかかると思う?」
暗くなった窓を見ながらカナエが言う。
「二人がか」
夕食のシチューを台所でかき混ぜながらノブオが答える。
「私たちの場合はどうだっけな、丸一日だったか」
「経過はそうだが、時間遅延を使っていたからもっとだ」
「そういえばそうか、二日くらいだったか」
「……だとすると、六日か」
「いや、一人にばかりかまけていられないだろうから同時進行で……もう少し短いだろう」
「そんなに気になるか?」
言いながら湯気の立つ二人分のシチュー皿をノブオがテーブルに運んで来る。
カナエはテーブルに置いてあったパンを切り分け始める。
「いやあ、新婚さんに負けてられないと思ってな」
「対抗心を燃やさなくても……」
「燃えるさ」
ポン、とワインの栓を抜く。
「今晩は寝かせない、くらいの意気込みをノブくんにも持ってもらいたいな」
とくとくと二つのグラスに注ぐ。
「そんな意気込みを持って望んでいいのか」
それぞれにグラスを持つ。
「寝れないだけでは済まなくなるぞ」
「ほほう、いつもは手加減していると?」
「いや、俺もいつもより少し高揚している、今夜は寝かせないぜ」
「ぶふっ」
いつもと変わらない仏頂面の棒読みで言うものだからグラスを合わせる直前に吹き出してしまう。
「意気込みを語れと言っただろう」
「いや、うん、ごめん、んふふふふ、期待しているよ、んふふふふ」
むすっとしかめっ面になったノブオのグラスと笑いの振動でゆらゆら水面を揺らすグラスがチン、と音を鳴らした。
18/01/15 01:02更新 / 雑兵
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■作者メッセージ
お久しぶりです、同人活動なんて始めてしまって自分は大丈夫なのか・・・遅筆のくせに・・・
それはともかくベータとガンマもじっくり書きたいと思います。

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