読切小説
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猫せんせーと疲れ目リーマン
 
 定時だ。

 会社の定めた終業時刻、定時だ。

 もはや定時という言葉など虚飾と言うにもおこがましいと思うのだが、それでも形式上はこの時間が定時であると決められている。

 もちろん今日も仕事は終わらない。
 1つキータイプしては部署のため、1つメール送っては会社のため。
 具体的なノルマとしては、週明けの新商品プレゼンのための資料作成などといった、大層な名目のお仕事が残っている。

 適当なところで切り上げて、残りは家でやらないとなぁ、などと思っていたのだけれど。

 それを遮ったのは、隣の席からの声。

「ヒロさん、今日部長が飲み行こうって言ってましたよ」

 ……残念、自分のプランは全ておじゃんになってしまった。

 なぜこの鬼も裸足で逃げ出すような忙しい時期に、また、明日にも出勤を控えているのに、そういう要らん事を考えてついてしまうのだろうか。

 皆をねぎらいたい? 無礼講?
 いやはや部長、なんと部下思いなんでしょうか。
 しかし、それならばもう少し思いやりかたを選んでほしかったところですな。
 
 それから隣の席の後輩くんと、なにがプレミアムフライデーだなどと世の意味不明な新ルールについて、愚痴を言いあいながら時間いっぱいまで可能な限り作業を進めること、およそ4時間ほど。
 実に遅い『定時』に仕事を切り上げた我々は、部長に連れられて駅裏の彼の行きつけの飲み屋に連れていかれてしまったのであった。

 皆で部長をねぎらう会は夜遅くまで続き、その二次会は丁重に固辞。

 離脱する権利を得た幸運に感謝しつつ、自分の身代わり羊となった後輩くんへここに哀悼の念を捧げておく。








 家に辿り着いたのは、時計の短針がてっぺんに至る少し前といったところ。
 終電に間に合ったのは僥倖だった。

 築18年という微妙に若さを失ったアパートを前に、これまた若いと主張するには少しムリが出てきたサラリーマンが1人、買い物袋をぶら下げて立っている。
 言うまでもなく、自分のことである。

 近所のスーパーはなんと深夜2時まで営業してくれているので、自分のような人間には大変ありがたい。
 スーパーの方角に足を向けて寝たことがないくらいである。

 袋を揺らすと、ガラガラっという金属音。
 念のため、胸ポケットから出した臭い消しのタブレットをもう一口。
 酔って…………は、いないはずだ。たぶん。

 よし、ぬかりはない。

 そうして一通りのチェックを済ませてから、アパート2階の廊下の奥、つまり自分の部屋のドアを開ける。

 ……うむ、暗いな。
 しかも、雨戸もまだ閉まっていないぞ。
 これはいったいどうしたことか。

 少しへたった革の靴を脱ぎ捨て、お姿を探す。

 探す。

 探す。

 念のため、トイレのフタまで開けてみる。

 どこにもいない。

 こりゃああれかな、お外に出てらっしゃるのだろうかな、と思いつつ、ひとまず窮屈なスーツを脱いでしまおうと考える。

 そしてクローゼットを開けてみれば、そこにいた。

「……んゅ…………ぷふぅ…………」

 まるっとしたネコっぽい顔に、とてもしなやかで小柄なネコっぽい身体つき。
 時たまピクリとはねる至極ネコっぽい耳に、むゆむゆといった感じでネコっぽく動く口が愛らしい。
 というか、わりとネコ成分多めのお姿である。

 実にネコっぽい容姿に振る舞いの、人型の魔物……いや、魔物娘。

 種族としては、ケット・シーにあたる。

 しかしまあ、なんとも平和な寝息を立てて、クローゼットの下部にある棚の中に入っておられる。

 ただ、引き出しをガン開けしたまま、自分の男くさい靴下が詰め込まれた棚に潜り込んでいるのはいかがなものか。
 雑に畳まれた靴下の間からお顔だけニュッと出てるから、少し驚いてしまったじゃあないか。

 脱ぎかけだったスーツはハンガーに掛けて脱臭スプレーを噴霧し、さらに室内干しの刑に処し、自分はワイシャツ一丁の姿になる。

 それからクローゼットに陣取ったお方をどうにかすべく、開いていた棚から覗いている寝顔をふにふにと突っつく。
 とてもやわらかい。
 アゴの下辺りとか、特にふにふにだ。
 …………だが、起きない。

 これは、仕方あるまい。
 あまり本意ではないのだが、と棚をゆっくり開け、ふさぁっとした毛並みの両ワキを掴んで引っ張り上げさせてもらう。

 うわ、身体がにょーんと伸びた!
 ネコってすごいな!

 しかしそれでも起きる様子がないため、当社比1.5倍くらいにだらーんと伸びきったのを、奥の居間までUFOキャッチャーのクレーンのように運んでいく。

 最近新しく変えた柔らかい毛のカーペットにうやうやしく横たえてから、自分はPCを取り出してちゃぶ台の上へ置く。
 ついでに買い物袋も置く。

 その買い物袋の中身は、何を隠そうネコ缶……ではない。
 普通のヒト用の缶詰めである。
 なんならガメて自分の夜食にもできるだろう。
 そんな無礼なこと絶対しないけれども。

 と、ちゃぶ台に向かって座っていた自分の足に、肉球つきの手がいつの間にか置かれていた。
 このお方は寝相が悪いのがちょっとした難点であり、実にかわいらしい特徴でもある。

 丸めるように首後ろとお尻を支えて持ち上げ、あぐらをかいた自分の両脚の真ん中に載せてみる。
 すると、自然と丸まって寝こける姿勢になった。

 しかし、この位置からだとご尊顔がよく見える。

 何を夢見ているのか、もしょもしょもぞもぞ動いている口に、シワひとつ寄せずに弛緩しきった眉間。
 髪といい毛といい、ふかふかでない所など一切存在しない、柔らかくさわり心地バツグンな黒白模様の毛並み。
 おデコのところをよく観察すれば、見ようによっては黒い毛がハテナマークを描いているように見えなくもない。

 ついでにアゴの下を撫でてみれば、ぷすりと小さく鼻息をたてて喉を鳴らす。

 そんな愛らしい生き物が、両脚の間に収まってころんと丸まっているのだ。
 すこぶる心が癒される光景だった。

 だが、なごんでばかりもいられない。
 心を鬼にして起こさなければ。

 カシュ、と音をわざと大きく立てて缶詰めのフタを開ける。

「………………ごはんかな?」

 効果はめざましく、一瞬で起きていた。
 それはそれはもう素早いもので、缶詰めを開けるか開けないかの一瞬で起きていた。

 ただいま、と頭上から呼びかけてみる。
 コハク色の目の真ん中にある、縦長の黒い瞳がこちらの姿を捉えた。

 我が家の同居人である猫せんせー、ついにお目覚めの時。

「ふむ……? ヒロ、今日はずっと家にいたのかな?」

 寝起きではあるが、それでも理知的で落ち着いた雰囲気の、穏やかな声音。

 いいえ、猫せんせー。
 こちらはいつも通り出勤して、どうにかこうにか働いてましたよ。

「そうかぁ。本日はひがな一日こうして膝の上で過ごしていたのかと錯覚してしまったよ」

 ずっとヒロの匂いがしてたからね、と猫せんせー。

 おそらくそれはクローゼットの中にある自分の靴下のせいだと思うのだが、なんとなく本人ではないのに猫せんせーにそう言わしめた靴下が妬ましくなったため、敢えて詳細な言及は避けることにした。

 そんな内心をよそに、猫せんせーはあくびを1つ。

「それでそれで、今日のごはんはなにかな?」

 さあさあ早く出したまえよ、と催促する猫せんせーに、喜んで献上させていただく。

 今日はホタテの貝柱と、つぶ貝の缶詰めです。
 あと、焼き鳥のレバーもご用意しておりまする。

「にゃるほど! ……な、なるほど。レバーは塩だろうね?」

 もちろんです。
 焼き鳥はタレだと味が濃すぎますからね。

 ……あと猫せんせー、ねこ口調がたまに隠せてないところがすごく良いと思います。
 これは絶対に本人には言わないけど。
 驚喜した時に耳がピーンと立つのも、本人には決して言わないけど。

「では、吾輩はハシをとってこようかな。ヒロは?」

 途端にウキウキし始めた彼女はしゅるりと膝から抜け出すと、二本足で立ち上がってもこちらの座高に満たない背丈で上目遣いに訊いてくる。

 しかし、残念なことに自分は晩餐を共にすることができないのです、猫せんせー。
 なぜなら、飲んできてしまったから。

「飲んで、きた………………?」

 おもむろに小さな顔が近づき、鼻先がこちらの口元に迫る。

 …………と思った瞬間、猫せんせーは飛びのいた。

「く、臭い! ヒロが臭い!!」

 大変傷ついた。

 ……が、仕方ない。自分の猫せんせーの嗅覚への配慮が不十分だったということなのだろう。

 お詫びにと、こちらも立ち上がって冷めかけの焼き鳥を温めてさしあげることにする。

「ヒロ、あまり酒精は控えておいたほうがいい。我を失うぞ。もっと飲むなら、理性ある飲み物を選択するべきだ」

 とてとて、と歩く猫せんせーが戒めるようにおっしゃる。

 猫せんせーは、理性のとか、理性ある、と付く物や事を好んでいる。
 ちなみに彼女の言う理性の飲み物とはなにか、と訊いてみると、

「ミルクだ、特にホットミルクだね」

 だそうだ。

 コーヒーとかは駄目なのかと尋ねれば、あれは苦すぎるとのことだった。
 なんともネコ基準の好みのような気がする。
 酒が理性の飲み物ではない、というのは両手を挙げて賛同できるのだけれど。

 レンジが鳴り、温まった焼き鳥を串から外して皿に盛ってからちゃぶ台へと戻る。
 もう猫せんせーは待機していた。

 横に座ろうとすると、再び膝に載ってくる。
 自分とパソコンに挟まれて、猫せんせーと彼女の食事が位置する格好だ。

 はぐはぐ、と器用に箸を使って食べ進める猫せんせーを眺めつつ、明日のための作業を行う。
 正直もうパソコンの画面は眺めたくない。
 同じ眺めるのであればもっと、猫せんせーの頭頂のツヤっとした毛並みとか、ぴこぴこ揺れる耳とかをずっと眺めていたい。

「大変そうだね」

 心配してくれるのですか、猫せんせー。

「そりゃあね。ヒロの目がいつもよりも死んでれば、せんせーとしては多少心配にもなるさ」

 猫は傍若無人のきらいがあるらしいが、猫せんせーはどうやら例外に位置するようだった。
 自分としてもこの疲れ目からくる魚の死骸のような目つきは気になっていたところだが、猫せんせーいわく今日はことさらヒドい様子のようだ。

「あ、これふーして、ふーって。いっぱいね」

 焼き鳥の皿を拝領し、全力で息を吹きかけて冷却に努めさせていただく。
 これくらいならば、可愛いらしいワガママ程度のものだ。
 上司が終業が近い時に限ってなぜか渡してくる「あ、これ悪いけどやっといてくれる?」という追加ノルマ等と比べると、天地の差であると断言できる。

 というより、今こうしてやっている仕事もそうして部長に預けられた類のものだった。
 なんで明日〆切のを今日渡すかなホントに。

「にゃ、あまりアゴの下を撫でないでおくれ。今はごはん中だからちょっとイヤだな」

 あっ、と。マズい。
 猫せんせーが嫌がってらっしゃる。
 なんとなく手持ちぶさただった手が自然と猫せんせーの方へ向かってしまっていたようだった。

 猫せんせーは愛でるべきお方ではあるが、決して愛玩動物ではない。大変立派な一個の人格なのである。
 彼女の意に沿わない行動は極力控えなければ。

「あとでだ、あとでたくさんナデナデしたまえよ」

 そう言ってはぐはぐと貝柱を小さな口に一生懸命放り込んでいく猫せんせー。

 それとなくペットボトル茶を横に置いておくと、すぐに手を伸ばして飲み始める。
 喉に詰め込みすぎてつかえたらしい。とてもかわいい。

「……はふ。ヒロ、ヒロ、今日のぱそこんは何をやっているんだい?」

 内容をざっと説明する。

 猫せんせーはすぐに理解した。

「なるほどねぇ、好きなものを他の人にどれくらい好きなのかを説明したい、ということかな?」

 新商品プレゼンを、猫せんせーはそのように解釈したらしい。

 ……確かに、今回の企画を推して他の社内の人々に、さらにいずれは消費者に向けてアピールする、その本質は猫せんせーの言う通りだった。

 しかし、その方法に少し迷っているのです、猫せんせー。
 今のこの資料のアピールだと、どうにも商品企画の魅力が伝わり辛い。
 このままだと企画案は通らず、生産に乗らないかもしれないのです。

「ふーむぅ……」

 ジャギーショートの横髪をいじり、黙りこむ猫せんせー。
 思索に沈んでいるサインだ。

 そして、少ししてから。

「吾輩にはよく分からないのだけれどね、ヒロ」

 そう言って猫せんせーは、口元に食べカスを付けたまま振り向いた。
 こちらも手を止め、ティッシュでお口を拭かせてもらいつつ猫せんせーの話を聴く姿勢になる。
 この距離だと、頭のハテナマーク模様までクッキリと見える。

「自分が好きなものは、あくまで自分が好きなものだろう? それを他の人に教授するというのは、なんだか吾輩からすれば損をしている気分だ」

 …………むむ? 猫せんせー、つまり?

「だって…………それがあんまり良いものだとすると、それのありかを教えてしまったら他の者が吾輩の分まで取っていくかもしれないだろう? だから吾輩はヒロのことを周りの輩に喧伝しないし、ヒロはずっと吾輩のものなのだ」

 な、なんと有難いお言葉だろうか。

 言われてみれば、自分ももし猫せんせーが他の人の家に行ってしまったら、およそ数年単位で体調崩して寝込む可能性があるし、心がぽっくりと折れてしまうかもしれない。

 つまり良い物とは、希少価値と限定性がどこかしらに伴ってくるものなのか。

 …………そうか、その辺りを資料の中に組み込んでしまえば良いんじゃないか?
 今の自分のプレゼンは少し淡白であるから、購買層をもっと刺激するような、部署内向けの説明でもこう、欲を煽るようなやり方でも良さそうだぞ。

 あまりゴテゴテと飾るよりも、そうした見せ方のほうが単純で効果的かもしれない。

「んむ? ヒロの目がすこし生きかえった感があるな」

 はい、猫せんせー。
 なんとなく活路が見えてきましたよ。
 さすが猫せんせーの助言です。

「吾輩は哲学するネコだからね。この程度は造作もないことだよ」

 そう、猫せんせーの趣味は1番にお昼寝、そして2番目が思索なのである。
 思索、あるいは哲学。

 だから猫せんせーは、たまに自らのことを哲学するネコと呼称している。
 ごちゃごちゃしたヒトの考え方を解きほぐし、より物事を自分の理性の中で噛み砕いてシンプルに考えるというのが、猫せんせーの常の生き方なのだそうだ。

 全く、浅慮な自分も見習いたいところです。

「にゃふ、それはほめすぎだが、しかし悪い気分ではないね。じゃあ……ヒロ、今日もあとで吾輩の毛並みをとかしてもらえるかな?」

 そんな役目を仰せつかった。
 もちろん選択肢はハイかイエスしかない。

 猫せんせーのお食事が終わるまでにこちらも必要な分の作業を済ませ、猫せんせーを抱えて備え付けの風呂へと向かう。

「うむ、ご苦労だ。今日はしゃわーがいいな」

 猫せんせーはネコではあるが、大層なキレイ好きでもある。
 艶やかな毛並みは良いトリートメントから成る、というのが猫せんせーの持論だ。

「さ、はやくはやく」

 催促されて自分もワイシャツを脱ぎ、猫せんせーの待つ風呂に入る。

 もう猫せんせーは湯椅子に座って背中を向けていた。
 座った時に足が風呂の床タイルに若干届いていないのが、とてもとても愛らしい。

「さ、流して流して」

 ぷしー、と緩くシャワーを流すと、猫せんせーがふにゃー、と鳴く。
 もうだいぶ一緒に暮らしているが、こうした流水はまだ少し慣れないらしい。
 シャワーの出始めはびっくりしてしまうのだそうだ。

 その後、シャワーの湯と猫せんせーお気に入りのシャンプーで猫せんせーの毛並みを全力でお手入れし、充分温まってから風呂を出るのであった。









 ぶおおおおおお、とドライヤーが音を立てる。
 自分の手持ちであるワイシャツを羽織った猫せんせーの毛並みが少しずつ乾き、つやつやモフモフとした感触に変わっていく。
 これが結構癖になる感触なのだ。

 そうして今でくつろぐこと、十数分。
 ふと気づけば、猫せんせーが鼻先をこちらの着ているシャツへと寄せてきていた。

「ようやくヒロが吾輩と同じ匂いに戻ったね」

 うむうむ、と頷いている。
 それはそうだ。全く同じシャンプーに、同じボディソープを使っているのだから。

「さっきまでは変なけむりっぽい匂いと、よそのヒトらの匂いが混じっていたからなぁ」

 タバコや香水の匂いですね、それ。

「香水……まさか、他のメスに言い寄られていたとかじゃあるまいね?」

 メス…………。

 いや、一応会社の同僚には女も男も居ますけれど。

 そう言ってみたが、猫せんせーはそのような答えを求めていたわけではないらしかった。

「さっきの『良い物』の話じゃあないが、あまりいい気分ではないね、その話は。これは……もっとマーキングしておく必要があるかな?」

 おもむろに頭の位置を下げると、こちらの股間の方へと顔を寄せていく。

「ヒロは吾輩が所有している。他の者が目をつけ、間に入る余地はまったくないのだと理解してもらわないと❤」

 言うが早いか、下着をめくってまだ柔らかい男性器を咥えてしまった。

 あぐらをかいたこちらの脚にぺたりと身体を擦りつけ、くぽくぽとペニスを咥えて前後に頭を揺する。

「それじゃ…………にゃふっ❤ ふぅっ❤ にゃっ❤」

 猫せんせーの熱い口内に包み込まれ、たちまちペニスは彼女の小さな口では咥えるのが難しいほどに膨張した。

 それでも猫せんせーは口を開けて陰茎を受け入れ、ぬろぬろとヌメった唾液をまぶしていく。

 こういう時は猫せんせーが自分でしたい時なのであって、あまりこちらからされることは望んでいないことが多い。
 猫せんせーからの施しであるとイメージすれば分かりやすい。

「あぐ……あぐ……じゅっ❤ ずず❤」

 甘噛みしたり、口をすぼませて吸い上げてみたり。

 それからペニスの大きさに馴染んでくると、徐々に動きが大きなものになってくる。

「はぶっ❤ ぐぶっぐぶっ❤ じゅぶっ❤」

 猫せんせーの身体は小さく、よって咥内もそこまで大きくはない。
 よって奥へとペニスを咥えるたびに猫せんせーのノドがぼこりぼこりと膨れるようにして、通過している様子が生々しく見えるのだ。

 たまに失敗して陰茎が横にずれると、猫せんせーの頬がぐにっと内側から大きく伸びる。
 それに伴い、猫せんせーの咥内のとろけるような柔らかさの粘膜の感触が伝わってくる。

「はぐ……んごぼっ❤ んぶっ❤ んぶっ❤ んぶっ❤」

 叶うことなら、こちらから力一杯押し付け、頬袋の中でどばっと射精してしまいたい。
 もしくはノドの奥にまで突き込んでから、猫せんせーのお腹に自分の精を注ぎこんでしまいたい。

 前にそうした時の猫せんせーはすごかった。
 縦長の瞳をうるうるとさせ、彼女自身の性器に指を深く差し込みながら、無言のままごくりごくりと精液を嚥下してくれたのだ。
 そして飲み終えた途端、猫せんせーもびくびくと耳をはねさせながらイッていた。

「だ、出すの禁止だからなっ……? もう少しだけガマンしたまえっ…………んぶ❤」

 しかし、今日はダメらしかった。
 言われた通りにガマン、必死に腰に力を込めてペニスの先を閉じようと努力する。

 いや、でも猫せんせー、これ結構キツいんですけど!

「ぶじゅっ❤ ぶじゅっ❤ ぶじゅっ❤ …………しかたないヒロだなぁ、もう限界なのかね?」

 ホント無理です、これ以上は!
 というか猫せんせー、ガマンしろってわりに容赦なさすぎませんか!?

「…………にひ。じゃあヒロ、『自分は猫せんせーのモノです、猫せんせーの中に自分の種をどばどば注ぎ込みたいです』と言うのだ❤」

 じゃないとこのまま生殺しの刑に処してしまうぞ、と猫せんせー。

 慌てて、一言一句間違えずに言葉を反復する。
 猫せんせーはまさにネコのように目を細めると、満足げに頷いた。

 そして唐突に口を離し、こちらの腹に艶毛の背中を押し付け、すとっと腰を下ろしてきた。

「ほぉら、入ってしまう、ぞっ……❤」

 猫せんせーの宣言どおり、下ろした腰の先にあったペニスは彼女の股の中心へと沈みこんでいく。

 ペニスはフェラの時の唾液が、猫せんせーの股間は愛液がそれぞれ潤滑剤となり、あっさりの陰茎は彼女の肉をかきわけるようにずぶずぶと埋まっていってしまった。

 そして半分ほど沈んだあたりで、ペニスの先にこつんと当たるものがあった。

 これは、猫せんせーの…………。

「ん、あふっ❤ 知ってるとは思うのが、吾輩のナカはせまいからな、やはりこの体勢だときみのモノがあまってしまうっ❤」

 猫せんせーがこちらに体重を預け、肩で息をしながら一生懸命解説しようとする。

 しかし、もう限界だった。

 ペニスが、どくどくと跳ねて猫せんせーの膣内に精液をぶちまける。

「なっ、もう射精してしまったのかっ❤」

 頭の中では猫せんせーに謝罪しつつも、身体は勝手に彼女の胸を後ろから掴んで寄せ、ぐいぐいと猫せんせーのナカにペニスをねじ込んでしまう。

「あ、あぅっ、あ゛あ゛あ゛あ゛っっ❤❤❤」

 何度も何度もペニスを脈動させて精液を注ぎ込んでいると、猫せんせーが発情期のネコそのものな声をあげて背すじをピーンと反らした。
 自分だけでなく、彼女も挿れられた途端に、あるいは精を受けた途端にイッてしまったらしい。

 達してしまった猫せんせーをまた強く抱きしめ、後ろから彼女の首の横、柔らかいうなじに顔をうずめるようにして精を放つ。

「やめっ、にゃっ❤ に゛ゃあ゛っっ❤❤」

 フェラで我慢させられたためか、たっぷり10秒以上は射精が続いてしまった。

 狭いナカを肉茎で塞いだうえで先端が猫せんせーの子宮口に触れていたため、結構な量の精が子宮へと流れ込んでしまっただろう。

「あ゛う゛っ❤ あ゛お゛お゛っっ❤」

 射精の間、終始猫せんせーは身体を痙攣させ、天井の電灯を仰ぐようにして目を見開いていた。

 平時は落ち着いた声で物事を語る猫せんせーが今や、ドロドロにとろけきった顔で下品な喘ぎ声をあげている。

 その姿にたまらなくなり、うなじから目の下まで舌を這わせ、快楽により猫目から流れ出ていた涙を舐めとった。

「に゛ゃっ❤ な、にゃんで、舐めるっ❤」

 舌先から塩っぽい感覚を鮮明に感じながら、平たい腰を両手で掴んで上下に大きく揺さぶる。
 揺さぶるというよりは、もっと奥へ奥へと膣を引き伸ばすぐらいの勢いで猫せんせーの腰をスライドさせる。

「ま、またっ、あ゛っ、あ゛お゛お゛っっ❤」

 勤め疲れとか、猫せんせーへの気遣いなどはもはや全て頭の外に押し出されてしまっていた。

 そして、ガクガクと身悶える猫せんせーを後ろから支え、頭とネコ耳を撫でながら必死に腰を動かし続ける。

 そう時間は掛からず、一度射精してからむしろ先ほどよりも硬くなっていたイチモツの奥から、再び熱いものが込み上げてきた。

「も゛っ、もういいっ、出せっ❤ ああ゛っ❤ わがはいがっ、きょか、しゅるかりゃっ❤」

 猫せんせーが喘ぎながらそう訴えたことで決壊し、どぼっというような勢いで猫せんせーの膣内へと2度目の射精。

「あ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛っっ❤❤❤」

 猫せんせーは最後に一際大きく絶頂しながら鳴き声をあげたかと思うと、全身をびんっと硬直させる。

 そして、不明瞭な言葉を発しながら前のちゃぶ台へと身体を倒してしまった。










 結局あれからさらに数度、少し休んでは犯し、また少し休んでは犯しと、猫せんせーの中に注ぎ込み続けてしまった結果。

「見ろ、ヒロ。きみが出した精で吾輩のおなかがパンパンになってしまった」

 裸にぶかぶかのワイシャツを羽織ったまま倒れていた猫せんせーが、こちらへと力無く寝返りをうつ。

 仰向けからうつぶせになった猫せんせーを見ると、へその下辺りが本当にぽこりと大きくなっていた。

 思わずさするように撫でてしまう自分。

「にゃっ! やめるんだ、ヒロ!」

 ごろーんとカーペットを転がり、猫せんせーが距離を取ってしまう。
 横向きになり、身体も丸まってしまった。

 もしかして猫せんせー、おかんむりなのでしょうか。
 さすがにちょっとやり過ぎた感があり、こちらとしても反省を…………。

「……そうではないよ」

 あれ?

「イヤ……ではないよ。始めたのは吾輩の方だからな。それにヒロにいっぱい出してもらうのは、とてもしあわせな気持ちになれる。きみが吾輩のモノであるということも、その、はっきり感じられるのだからね……❤」

 そして、顔だけくるっと振り返る猫せんせー。
 猫せんせーは、少し困ったような顔をしていた。

「だが、あんまりナカにだされ続けると、なんというか…………受け止めきれずにあふれてきてしまって、少しもったいないのだよ」

 見ると、横寝の姿勢になった猫せんせーの両脚の間から、ジワリとどろどろした白濁が漏れてきていた。

「いずれは吾輩を孕ませるオスの子種をこれ以上外にもらしてしまっては、少々メスとしては申し訳なく……」

 ……猫せんせー、あの…………。

 お股をドロドロにしながらそんな殊勝な感じで仰られる猫せんせーを見てしまうと、こちらとしてもまたこう、あそこにクると言いますか……!

「にゃ、にゃっ!? ヒロ、どうしてにじり寄ってくるのかな!? おい、もうさすがにっ、にゃーーーーーーーー!!」

 そうして、最終的には『う、上の口ならばどうにか』という猫せんせーのお言葉に甘えさせていただくことになった。
 具体的には数度ほど甘えてしまった。

 全て終わった後の処理の時にはちょっと咎めるような目をして距離を置かれていたが、それでも就寝時にはこちらの布団へと潜り込んでくる猫せんせーの姿があった。

 同じ枕に載せられたネコ耳付きの小さな頭を見つつ、徐々にまどろみに落ちながら彼女のアゴ下辺りを撫でる。
 このなでなでは毎日の日課であり、欠かせない儀式であるというのが猫せんせーの言だ。

 お互いに無言のまま、しばらく穏やかな時間の中でアゴ下をさすりさすり。
 すると、猫せんせーの身体からくたぁっと力が抜けていくのが分かった。

「ふにゃ…………あふ。いいぐあいに思考が鈍ってきたな、もう満足だよ……にゃ」

 猫せんせーのどこかふにゃふにゃしたお礼を受け取りつつ、自分からもいつも通りの感謝を寝に入る彼女へと伝えておく。

 こちらこそありがとうございます、猫せんせー。

 猫せんせーのおかげで、また明日の朝早くからの出勤も頑張れそうな気がします。
 
 
17/05/18 00:31更新 / しっぽ屋

■作者メッセージ
 
そんなこんなで、猫せんせーでした。
本当のネコには話中の食事をあげちゃダメですぜ。

名前の由来としては、猫せんせーはあの有名すぎる大正の小説から、ヒロは先生に対して教えを受ける生徒の意味で、『尋ねる』からとっております。

もしかしたら長編化できるかも……?

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