Suggestion．
土の中に生きたまま埋められて、一体どれくらい経ったのだろう。
僕の周りを囲むのは硬く冷えきった鉄に似た手触りと、発光塗料のような薄い光だけ。
その光は決して僕に希望を与えず、僕がまだこの中で生きているということだけを教えてくる。
狭くて自由に伸ばせない両手と両足はもう痺れて感覚がなくなりかけている。
寝返りを打つことも、足を曲げることもままならない小さな箱の中に、僕は閉じ込められている。
まるで棺桶のように。
何故だ。
僕が何をしたというんだ。
どうして僕をここに閉じ込めたんだ。
こんな所で僕をただ「生きただけ」にして何がしたい？
もう壁を叩く力も、罵声を張り上げるための声も出せない。
もうどうでもいい、頼むから、頼むから終わらせてくれ。
そう思いながら僕は目を瞑る。
しかしどれだけ願っても、この現実から意識を手放すことは不可能だった。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊
「――であるからして、ゲイザーの”暗示”は本質的に魅了や幻惑といった魔法とは違う、まったく異なるべクトルのものである、と、前回の講義をまとめるとそういう事になる。
そもそも詠唱手段を用いないゲイザーの”暗示”は――」
魔法についての講義はおおよそ学生受けの良い講義だ。
派手さもあるし、知識を学ぶという学生の本分に少なからず即している。
「――と推定される。勿論被験者側にはその意識的な記憶はないが――」
その中でも心理系というのは決して不人気な学問ではないけれど、学ぶ学生の数は多くない。
特に僕が今受けている”暗示”魔法の講義はぶっちぎりで受ける人数が少ないだろう。
なぜか？ 理由は色々とあるけれど……
「――む、こらディング。 真面目に聞いているのか」
「は、はいもちろん」
「ではさっき説明した詠唱破棄について、オマエの持論を述べてみろ」
「……そうですね――実際には被験者に対し長時間に渡って刷り込む為の行為があって、それが飛躍的、もしくは超加速度的に進行している事により、詠唱そのものが存在しないように見えるのでは――と思いますが」
「ふむ、よそ見をしていた割にはそれなりの回答だ。
”暗示”という魔法の仕組みを隅々まで理解しようと思うならば、実際に体験を行うか、それを可視化するメカニズムが必要になるがおおむね――」
まず講義中に一瞬も気が抜けない。教授の視線は鋭く、そして全部で十一個もある。
比喩ではない。
単刀直入に言うと、教授が『ゲイザー』なのである。
顔には赤い一つ目の単眼、白い肌。背のどこからか伸びる触手とその先端に付いた目玉。
僕より頭一つは小さいであろう背の高さと、少女のように慎ましい胸の膨らみ。
教授とは思えないほど細っこい身体つきだがその眼光は威圧的で、気高い狼のようだ。
「――となる。残念ながらまだそれを証明する論文は提出されていないが――」
もちろん”暗示”を教えるのにこれ以上適した先生はいないのだが、それにしても異質である。
そもそも魔物娘が真面目に教鞭をとる事自体も珍しいとは思うが、しかもゲイザーなのだ。
更に言うと、彼女達の言う”暗示”を理解するために、一体どれほどの知識と勉強がいるのか。
そんな奥の知れない魔法を覚える学生は、よほどの物好きだけ。
「――だと私は考えている。では、今日はここまでにしておこう。
何か質問のある者は――」
「先生、後でよろしいでしょうか」
「……ふふっ。勉強熱心なのはいいが、ここまで来るとストーカーだな？」
「ははは、すいません」
つまり、この講義を受けているのは僕一人だけだった。
そういうわけで、僕と先生は教室を離れ、個室の教授室で二人だけで話をする。
普段は無骨な態度で授業をしているくせに、その部屋には犬猫のぬいぐるみがたくさん置いてあって分かりやすい。
僕にとっては授業の延長線上であり、マンツーマンで学習できるすばらしい機会だ。
勉強したいだけのために部屋を訪れている――かというと、嘘になるけれど。
「それでディング、質問というのは？」
「今回の講義の”被験者なら”暗示”という魔法の仕組みを理解できる”という部分だったんですが、本当なのですか？」
「むぅ……難しい質問だな。
もし被験者が居たとしても、心の中を明確にレポートして提出しろ、というようなものだ。
もちろんそれでデータとしては十分になる場合もあるが、正確であると私は思っていない」
「実際にデータとしてはあるんですね」
「非常に少ないが、ないわけではない。ま、する側もされる側も稀有なのは当然か」
それだけ”暗示”という魔法は特殊だからな、と教授は続ける。
二人分のコーヒーを淹れてくれた先生に軽く頭を下げ、それを一口飲んでから僕は口を開いた。
「先生も分かってくれているとは思いますが、僕は”暗示”に興味があります」
「ああ、見たとおりだな」
「ですから、もし”暗示”について少しでも理解が深められるなら僕は、」
「被験者にでもなる――と、そう言いたいわけだ」
流石にそれは察していたらしい、先生はにやにやと笑っている。
ひょっとすると、さっき質問をした時から分かっていたんじゃないだろうか。
一つ眼なので表情に乏しくも思えるが、先生の口元と目は言葉よりも大変に正直だ。僕にはそれがよく分かる。
「しかし」と先生はうってかわって渋い顔をした。
「……君が本気でそう言ってるとしても、勧めることは難しい。
私自身ゲイザーであるから造詣はまあ、それなりのつもりだが、それでも被験者の体験というのは予想がつかない。さっき言った実例から判断してもそうだ。
更に言うと、ゲイザー個体の”暗示”を受けた被験者は最低でも数秒間、長いときは一週間以上の心神耗弱状態を表している。
しかも被験者はその間の記憶を有しておらず、質問可能になった直後でも、ほとんどの場合現在の日時すら答えられない。 自分の名前を答えるのにすら時間を掛けた被験者もいる。
人間が使う”暗示”を目的とする魔法の場合、魔法暴走などの特殊事例を除くとそういった状態は前例がほとんどないのに、だ。
途方もない心因的作用が起きている、ということしか判明はしていない。
その兆候が見られるケースは、特に――」
「特に？」
「相手が偏見を持たない場合、だろうか」
どういうことですか、と僕は聞き返す。
先生は机の書類に目を通しながら――というふりにしか見えなかったが――横目で僕を見た。
「つ、つまり……だな。
相手に対して嫌悪感を持っていないかもしくはそれ以外――、と言うべきか、」
言葉尻を濁して、先生は手探りで机にあるペンスタンドを手に取る。
しまったというような表情で先生はスタンドを置き直し、急いでその横にあるマグカップを掴んだ。カップの取っ手を持つ余裕はなかったようだ。
「も、もちろん、君自身が望むなら被験者になること自体は自由であるとわたしは――」
「ぜひお願いします」
即答だった。
「も……もう一度、念を押しておくが……事象観測中に何が起きたとしても、私は責任を取れんぞ」
「いいえ、責任は取って頂きますよ。なんたって僕の先生なんですから」
僕が笑ってそう言うと先生は、
「……ふふっ、こいつめ。言うようになったな」
「では……準備はいいか？ ディング」
「ええ、被験者側、異常ありません」
迷い掛けた先生を説得して、”暗示”の体験は今ここの、教授室で行なう事にした。
集中するための防音環境と、寝転がれるぐらい大きな休憩用のソファーもある。
有事の際の連絡手段も用意はされているので問題はない。
「よし……始めるぞ」
「はい」
椅子に座り、先生と僕は視線を交わして向かい合う。
ルビーのように大きな赤い瞳が、僕をじっと見つめる。
「ゆっくりでいい、ワタシの目を、見てくれ」
――おおよそ三秒間の無刺激状態、そこから激しく意識が混濁する。
頭を大きく揺さぶられるような強烈な眩み。
酩酊とも睡魔ともとれない、夢に落ちそうで落ちない感覚の中で意識が揺れ、動き、
なのに身体はたおれることなく、不思議なほど冷静にすわったままで、
痛みもなくからだ中の、感覚が、きえていって、
だれが？ 僕のまえにいるのはだれだ？
そ に のは ？ っている なのか？
ぼくの、 に、 れかが、
……ここはどこだ？
僕はさっきまでどこにいた？ 何をしていた？
何も思い出せない。
分かるのは、僕がどこかに閉じ込められていることだけ。
狭くて身動きが取れない。頭を傾けても自分の腰から下は暗くて見えない。
なのに身体の感覚だけは確かに残っている。
皮膚に触れる壁は透けているが鉄のように冷たく、発光塗料のようなもので薄く光っている。
それでも僕自身の身体はまったく見えず、僕の周りに壁があることしか分からない。
そして壁の向こうに薄らと見える、土と石。
気づいてしまった。
僕は生きたまま、土の中に埋められたのだと。
上手く動かない手足で必死に壁を叩く。殴る。
力が入らない。壁はびくともせずに鈍い痛みが手に残るだけ。
もがき暴れることすら満足にできない。
恐怖が動悸を引き起こし、呼吸が極端に早まる。
息は？
息はいつまで持つ？
僅かな息苦しさを感じるが、それ以上の感覚はない。
まだ大丈夫だ。落ち着け。必死で心を落ち着かせる。
叫びだしそうな恐ろしさを必死で抑えてもう一度周りを見る。
今のところ身体に痛みやケガはない。
だが僕の意識を奪って閉じ込めた誰かが、きっといるのだ。どこかで生きているのだ。
今すぐにでもこの壁をぶち破って、そいつの顔を殴りつけてやりたかった。
荒れ狂う感情で壁が壊せないことが悔しかった。
ただ怒りだけが渦巻き、それが何の意味もない事に気づくまでかなり時間がかかったと思う。
記憶を辿る。
家族は両親に妹が一人。僕は学生で魔術を勉強していた。
それだけだ。どんなに考えたって人に恨まれる覚えはない。
犯罪なんて一回もしていないし、誰かを殴ったことだって数えるほどしかない。
誰が一体こんなことを。どうしてだ。どうして。
頭のおかしい奴にこんなふうにされたのか？
僕は何もしていないのに？
また怒りと、途方もない恐怖が僕を襲った。
誰の顔も頭に浮かばない、覚えていない。
どうして？ なぜ？
僕が覚えていたはずの人達の顔が何一つ思い出せない。
すっぽりと抜け落ちてしまったみたいに、忘れた事だけを覚えている。
どうにかしなければ。でも、どうやって？
この状況で僕にできることがあるのか？
転移魔法なんて超上級の魔法は僕に扱えない。
壁は壊せない。
これはもしかして夢？幻想？
いいや違う、そう思わせない生々しさが僕を包んでいる。
息苦しさも触れる壁の手触りも身体の感覚も夢なんかでは言い表せない。
嫌だ。死にたくない。まだ死にたくない。
助けて。助けてくれよ。誰でもいいから誰か返事をしてくれ。
声を上げても僕の声が反響するだけ。
息が詰まるより先に気が狂ってしまう。
誰か。
誰か、助けてくれ。
どれくらいの時間が経ったのか分からない。
まだ一分？一時間？一日？
僕にとってはまさしく気の遠くなる時間だった。
しかしどれだけ気が遠くなっても意識は失わない。失えない。
目を瞑っても眠りに落ちる感覚を一切感じない。
感情の荒波で気が疲れているはずなのに意識が寝ることを許さない。
空腹感も脱水症状の気も排泄の欲求もない。
頭がおかしくなりそうな静粛と単一な色の壁だけが僕を包んでいる。
いつしか荒げていた声は掠れていって、喉から胃から血が出そうなほどの痛みを伴っていく。
それでもただ痛いだけで血は出ない。
掠れた喉で叫べば喉が、壁を殴れば手が痛むのに、飢えや渇きは襲ってこない。
息苦しささえもある一定を超えることがない。
怖い。
飢えて乾いて死ぬことすら許されない。
舌をどれだけ強く噛んでもただ痛むだけで血は一滴も出ない。口に力が入らないのかもしれない。
壁を頭に打ちつけても血が出る様子も骨が歪む気配もない。意識もはっきりしたまま。
痛むだけ。
ひたすらに狭いこの壁の中で、ただ鈍い痛みに襲われるだけ。
その痛みは僕がここに生きている事を教える。気が付きたくないのに教えてくる。
わけのわからない時間がわけがわからず流れていくことを。
どれだけ時間が経っても意識は落ちない。眠ることができない。
自由に曲げられない身体の節々が痺れていって感覚がおかしくなっていく。
壁を殴る元気も叫ぶ元気も出てこない。体中が痛みと痺れでそれどころではない。
助けて。助けて。助けて。
痛みはほんの少しずつ治まっていく。慣れていく。
だが痛みに慣れ始めると今度は恐怖が襲ってくる。
それから必死で逃げ出そうとするように、また激しい痛みを求めだす。
誰か。
どれくらいの時間が経ったのか分からない。
恐ろしさから逃げきれない。
眠る事も出来ないから一瞬たりとも考えを手放せない。
死の恐怖ではない。
どうあがいてもここから出られないという恐怖。
死ぬことよりももっと恐ろしいような何か。
僕の小さな脳では到底受け入れきれない途方もない何か。
いっそのこと狂ってしまいたい。
しかしそれすらもできない。
どれくらいの時間が経ったのか分からない。
会いたい。誰かに、何かに会いたい。人でもいい人でなくてもいい、何だっていい。
そのすぐ後に僕が消えてしまっても良い。
怖い。誰かと会いたい。
その怖さから逃げ出すようにまた身体を暴れさせる。壁を殴る。叫び続ける。
どれくらいの時間が経ったのか分からない。
暴れ叫ぶ事を痛みに悶える事を繰り返して繰り返して繰り返して。
次第に繰り返す感覚は短くなって痛みと恐怖に慣れていく。
何をどれだけ感じても意識はなくならない。
どれくらいの時間が経ったのか分からない。
慣れるだけ。
どうしたって痛いものは痛い。怖いものは怖い。
意味のない平静を装う心と感覚に正直な身体が切り離されていくような感覚。
会いたい。
怖い。
誰かに会いたい。
痛みと恐怖はいつしかただの事象になる。
何も感じないわけではない。
それらを感じても、心がまるで別次元にいるみたいに意に介さない。
身体だけは正直に動いて狂気が産む暴力から逃げ出そうとした。
それもいつしかどうでもよくなった。
目を瞑る事さえ面倒になった。
時間という言葉が何だったか忘れかけたころ、声がした。
『目を、開けて』
聞き覚えのない声ではなかった。
でもどこで聞いたのかは分からない。
その状況を、狂った身体と心は驚くほど冷静に受け入れていた。
反応する何かが残っていたことにすら驚きだった。
『目を、開けて』
もう一度聞こえた。狂っているうちに聞いた幻聴とは何もかも違った。
目？ ちゃんと目を開けてこの薄く光る冷たい壁を見ている。
誰が？ これを聞いているのは誰だっけ？
どうしたらいい？
もう誰のかもわからない声が鳴った。
『そのまま、ゆっくり』
ゆっくり。
ゆっくりと視界が歪んでいく。
同時に体の感覚と重さがぱっと消える。
――意識も。
暗闇は姿を変えて、一部が少しずつ黒でない色を持ち始める。
重力。重力だ、重力を感じる。体全体でなく腰から。
座っている。
僕はどこかに座っているようだ。
僕？ そうだ、僕は『僕』だ、ディング。
こんなことさえも僕は忘れていたのか。
少しずつ視界に色が塗られはじめて、
「 」
目の前にある赤が一番に目に入る。
血に少し似ているけれど、もう少し気品のある色。宝石のように輝いている。
「 …… だ…… 」
水平線の向こうのようにとてつもない遠くから音がする。
「 ……じょうぶ ？ は ……か？」
悲鳴と物音以外はもう何年も何十年も聞いていなかった気がする。
聞こえた音はなにより懐かしくて、さらりと耳を流れていく。
それはひどく聞き覚えのある声。
そして少しずつ、体の感覚が戻りはじめる。
「……だいじょうぶか？ …… おい ……！」
宝石のような紅は瞳。目の前にいる誰かの瞳だった。
美しく煌くそれに視線と心を奪われながら、ただぼーっと僕はそれを眺めている。
僕は……僕はこれを見たことがある。何度もある。
「――ううん……もうそろそろ三分か？ 確か平均的な男性の場合は……」
先生。先生の目だ。真っ赤で綺麗な先生の瞳だ、そうだ。
黒くてぼさっとした長い髪、シルクみたいに白い肌、大きな口にぎざっとした歯。全部がそうだ。
ああ、また見れた。もう一度会えた。夢でも幻想でもなく確かにそこにいてくれている。
そうだ、助けてくれたのは先生なんだ。
あの虚無から僕を引きずり出してくれたのは、先生だったんだ。
「――いや、あれはデータの分母が不十分だったのかも……ううむ」
先生は顎に手を当てて考えるような仕草をして、少し横を向く。
昂揚感に僕の全身が沸騰していく。絶頂にも似た、感極まって何もかもを肯定したくなる感覚。
僕の右手は目の前にいる先生の柔らかな頬をそっと触った。無意識のうちに手が動いていた。
触れられた事に驚いた先生の無防備な表情は印象的で、幼い女の子のように無垢で。
「！ 気が戻ったか、ああ、安心したぞディング、ふう……ん？」
心の底から、というような安堵の吐息。
僕の心は安堵を通り越していた。目の前の先生を見て、そして触って、もう耐えきれなかった。
「先生……せんせえ……っ！」
「えっ、あ、んむっ――！？」
僕と先生の両方の気が付く前に僕はもうキスをしていた。両腕で先生の細い体を抱きしめていた。
温もりを感じたかった。柔らかさを確かめたかった。
先生の唇はとても柔らかくてほんのりと湿っていて貪るように味わいたくなる。ほのかな甘さと酸っぱい味がする。
抱いている身体も骨ばって少しだけ硬くて、けれど確かなふわっとした感触があって温かい。
ああ、温かい。とても気持ちいい。
「ふぐっ、んっ、むあっ、んんんっ」
夢中で舌を絡ませる。
せんせい、センセイ、先生。頭の中が先生を感じる事でいっぱいで、何も考えられない。
僕は今生きている。生きて確かに先生を、彼女を味わうことができている。
それが嬉しくて嬉しくて、泣いてしまそうになるのに涙は出ない。
心の何かがおかしくなっている。
僕は今、狂っているのだろうか。
でもそんなことどうでもいい。
それよりもっと、もっと先生を感じたい、先生を僕だけの物にしてしまいたい――。
「んっ、あぁっ、で、でぃむぐっ、らめっ、ひょんな、いきなひぃっ……」
先生の控えめに膨らんだ胸を乳首を舐め回す。吸い付く。
おっぱいをねだる赤ちゃんのようにちゅっと吸うと、黒いゲルと何かが混ざって口内に味が広がっていく。たとえようもなく美味しい。それは濃いミルクにも似てとても刺激的で。
「はっ、はひめて、なんらからっ、もっとっ、やはひふぅ……っ！」
いつしか僕は先生を床に押し倒して、強姦魔のように身体を押さえつけながら先生を味わい続ける。
小さな股間は特に味が濃くて、夢中になってしまう。
じゅるじゅる、にちゅっと大きな音を立ててこれ見よがしに体を舐めつくす。
両手両足と胸部と股間と身体のそこかしこにあった先生の黒いゲルはいつの間にか消えて、地肌である白一色だけになっていた。
「ふひゃぁっ？！あぁぁ、んふぅぅっ」
悲鳴に似た先生の嬌声さえも心地いい。
とろりと秘穴からとめどなくこぼれてくる蜜を舐めとるのに夢中になる。
もっと、もっと――。
……僕が先生とどれぐらいの時間、一つになっていたのか。
とりあえず、僕がまともな思考能力を回復させる頃には先生まで気を失っていた。
記録では十三時間を超えていたそうだが、それを僕が理解する頃、僕はもう全てを忘れていた。
つまり”暗示”を受けていたかどうかさえも僕には覚えがない。
まあ、そういう魔法であるのは確かなのだが――。
僕が起こした『心神耗弱後の行動』により、第三者である観測者、つまり先生まで記憶を無くしていて、先生が覚えていたのは”暗示”を掛けた直後からおよそ四分後ぐらいまでと――そして夜が明けてから僕が何回射精したか――ぐらいだろう。
そんな両方へのプライバシーも考慮して、というより先生に強引にそうさせられて、結局データとして残せたのは『暗示開始後、三分二十一秒の心神耗弱により錯乱状態へ移行』という所だけだった。
15/04/04 17:56更新 / しおやき