前章
「今日の奴隷たちの様子はどう?」
「はは……生かさず殺さず、苦しめに苦しめております」
「そう、それでいいわ」
女の口がにぃっと釣り上がる。その口角はよく見ればシワがあり、彼女が決して若くはないことを物語っていた。必死で化粧などでごまかしてはいるが、時というものは無情だ。歳を重ねた物はそれ相応の深みのある美が備わるものだが、この女にそれはない。執事の報告の内容に口をいやらしく歪めているそのことが、彼女の過剰なまでに嗜虐的で陰湿な性格を物語っていた。
ここはガディアノ王国。主神教団の息がかかった国の一つである。ガディアノ王国は決して大きな国ではないし、土地も痩せてはいるが、鉄鉱山を持っていた。これによって作られた武器を主神教団国に輸出することで成り立っている。この女の名前はテレジア・ガディアノ。ガディアノ王国の后だ。歳はそろそろ四十に手が届く。昔は絶世の美女と言われていたが寄る年波には勝てない。もし、夫が自分に飽きて側室など迎えた日には……そのときはもうテレジアは立ち上がれなくなるだろう。女として屈辱的なことこの上ない。すでに王子が三人いて世継ぎには困っていないが……国王が何人も妻を娶ることは、主神教団の国であってもありうることだ。
焦るテレジアが国一の美女、国王の后というプライドを保つためにとった行動……それは夫である国王が自分よりも夢中になってしまいそうな美しい女性を全員「男を誑かす魔物」として牢屋に入れることであった。計画が実行するよう、そしてこの横暴が夫に怪しまれぬよう、彼女のやり方は徹底していた。部下達に「国に魔物が紛れ込んだ」と噂を流させ、国を挙げて美女を探すように仕向けたのだ。テレジアの思惑通り、美女は集まった。自分のプライドのためもはや鬼女となった王后は女達を牢屋に叩き込み、奴隷として強制労働をさせた。女が結婚している場合は、魔物に誑かされて穢れた者としてその夫も牢に入れた。
テレジアの常軌を逸した策が施行されて、そろそろ二週間になる。上下関係が厳しいガディアノ王国だ。テレジアの行動を諌める者は誰もいなかった。肝心の王も、自分の妻が裏で流した偽りの噂に振り回され、この愚策の施行を許してしまった。
「引き続き頼むわよ」
寝る前の肌のケアのための道具を準備しながら、背後で控えている執事にテレジアは冷酷に言う。了承の返事を短くして、執事は下がった。
しかし、この時テレジアは重大なミスをおかしていた。いや、この時に限らずここ数日ずっとしていた。テレジアは今のように執事の報告を聞くときは背中を向けている。今回の謀略を実行する前から。だが本当であれば執事の顔を見るべきであったのだ。そうすれば異変に気付けたのかもしれないが……もう遅かった。
満月が高く登った頃、一人ベッドで寝ていたテレジアは妙な胸騒ぎがして目を覚ました。下からだろうか。大勢の人間が騒いでいる物音がする。騒々しさにテレジアは眉を寄せ、身体を起こした。
「ありゃりゃ? 起きちゃったなの?」
不意に部屋に声が響いた。少し舌足らずで高音な、少女の声であった。テレジアは震え上がる。この部屋には自分ひとりしかいない。残念ながら夫は別室、そして親衛隊は部屋の外で見張っている。この部屋には自分しかいないはずなのだ。それなのに声がしたと言うのはどういうことなのか。
「まぁ、起こすつもりだったから結局ノープロブレム、なのね」
部屋の隅の暗がりから声の主が姿を現した。声の通り少女だ。身長は4フィートと少し。ヴァイオレットの髪をツインテールにしている。くりくりとした大きな目、薄汚れていてもすべすべとしていそうな美しい肌と可愛らしい顔立ちをしていた。服装はシーツを身にまとっただけのようなボロボロな代物だ。おそらくテレジアの謀略で捕らえられた女の一人だろう。だが捕らえた女をいちいち記憶するようなテレジアではない。
「無礼者! 奴隷がこんなところで何をしている!? 誰か! この者を……」
「近衛兵呼んでいるの? 近衛兵は私の新しい仲間に伸されてお楽しみの最中、なの! いひひひ♪」
外見通りの、少女らしい意地悪な笑みをその者は浮かべる。それがテレジアの精神を混乱させ、さらに逆立たせた。精一杯虚勢を張る怯えた犬のように、ガディアノの王妃は吠える。
「どういうこと!? 新しい仲間って……あなたは一体……!?」
「いひひ! そう聞かれたら教えてあげなきゃいけないのね!」
テレジアの咆哮に怯えることなく笑った少女の身体が、光に包まれる。眩しさに思わずテレジアは目を覆った。
光が収まったであろうころに彼女は目から手をどけて少女を見た。その目が大きく見開かれる。
確かにそこには先ほどいた少女がいた。髪や顔、肌などは変わっていない。だが普通の人間であれば絶対にないような物が彼女にはついていた。頭からは大きな狼のような耳、腰のあたりから伸びるコウモリのような翼と、鞭のようにしなる尾……良く見れば手も大きくなっており、まるで獣だ。
「ま……魔物……!」
「ご名答なの! 私はファスネット・サバト所属、ファミリアのヘンネアなの!」
ヘンネアと名乗った魔物娘は両手を腰に当てて軽く反り返ってみせた。服も先ほどのみすぼらしい服から、ノースリーブのブラウスとフリルの短い黒スカートと言った、幼い見た目の彼女に合っているお嬢様しかりとした格好に変わっている。
「魔物がどうしてこんなところに……!?」
「ありゃりゃ? 『魔物がこの国に紛れ込んだ』なんて噂を流したのはどこの誰だった、なの〜?」
そうだ、その噂を流したのはテレジアだ。だがもちろんそれは偽りだ。本人の中では。なのに、本物の魔物が今、目の前にいる。
「正直、その噂を聞いた時はヘンネアたちもびっくりしたの。潜伏がバレちゃったかなと思ったの。でもでもぉ、調べてみたらなんのことはない、お妃様の嫉妬に狂った策略だっただけなの」
ニヤニヤと笑いながらヘンネアは近づく。彼女によるとどうやらこのガディアノには多くの魔物が潜んでいるらしい。そしてこの国の動向を監視し、少しでも周囲の国や魔物娘に戦争をしかける素振りでも見せれば阻止するつもりだったとのこと。
「でも今回の件は戦争と同じくらいいただけないことなの……なーんの罪もない女の人達をひっ捕まえて、牢屋に放り込んで奴隷扱いなんて……これにはさすがにヘンネアも他の魔物娘も、そしてヘンネアのボスのラファラナ様も黙っていられなかったの!」
そしてヘンネアたち、魔物娘は行動を起こしたのだ。階下の騒ぎは魔物娘が男女を襲っている音なのだろう。しかし、なぜ見張りは魔物娘の侵入に気付けなかったのか。そこまで考えてテレジアはハッとした。
「まさかあなた……わざと捕まって……」
「話が早くて助かるなの!」
ヘンネア曰く、ファミリアと言うのは膨大な魔力を持つ魔法生物であり、その魔力を使って女性を幼い魔物娘に、多くは魔女に、変えることができる。今回、ヘンネアはわざと捕まって牢に入り、捕らえられていた女性達を次々に魔女にして仲間にしていった。
「牢屋の中は酷い有様だったのね。絶望して何もかもやる気を失っている子、理不尽に捕まえられて怒っている子……ああ、ヘンネアが魔物だと分かると『魔物のせいで私達はこんあ目にあっているんだ』って物凄く怒ってきた子もいたのね」
だが、概してファミリアという魔物は口が上手い。それに陽気で人を元気づける才能もある。ヘンネアも類に漏れずそうであった。そして牢では娘たちの怒りを躱し、絶望している女には勇気と希望を持たせ、仲間にしていったのだ。こうした事態に牢番が気づかないはずがないが、そこは新たに魔女に生まれ変わった女が籠絡した。籠絡した者の一人が、テレジアの秘書だ。秘書の報告の際、正面から向き直って見ていれば彼が傀儡化していたことを見抜けたはずだったのだ。これがここ数日、テレジアが踏み続けていたミスであった。
こうしてヘンネアは城の内部で仲間を増やしていったが、これにはさらにもうひとつの利点があった。それは牢内に立ち込める魔力が濃くなっていくことだ。魔力の濃度は魔女が増えるに連れて上昇し、昨日ついにヘンネアが属するファスネット・サバトの本拠地との直送ワープルートを作ることができるほどになった。今、城内で暴れまわっているのは牢にいた魔女だけでない。ワープを通ってきた未婚の魔女たちもいるのだ。城の内側からの襲撃、人数も相当な物。もはやこの城、この国は魔物の手に落ちたような物であった。
「だけどそれだけじゃダメなのね。やっぱり大将首を取らないと、なの♪」
人ならざる手をわきわきと蠢かしながらヘンネアはテレジアににじり寄る。テレジアは歯をカチカチと鳴らしながら許しと助けを請う。だが無駄であった。
「人を散々捕まえて酷いことをしてきたのに、自分は酷いことをされるのはイヤなのぉ? 随分わがままなのね! でも大丈夫なの♪ お妃様も気持ちいいし、若さも手に入るし、そっちにも悪い話じゃないと思うのね♪」
若さが手に入る……この言葉に思わずテレジアは動揺する。その隙にヘンネアは跳びかかった。ベッドの上に座っているテレジアの背後に回り、脚と左腕を絡みつかせて自由を奪う。空いている右手で寝間着を破いた。熟れきり、崩れ始めた身体が露わになる。それなりに大きかった胸は力なく垂れ始め、腹にも少し肉がついていた。だがそれでも女を捨ててはいないらしく、努力のあとは見られる。
「うんうん。いい身体なのねぇ♪ これが魔物化するともっと良くなるなのね♪」
「魔物化!?」
ファミリアの言った言葉に女は驚愕する。そうだ、そう言えばさっきからファミリアは言っていた。牢にいた女達を魔女に変えたと。この魔物は自分も同じように魔物娘にするつもりなのだ。主神教団が唾棄している、淫らで汚らわしい魔物娘に。
「や、やめて……魔物化なんて……」
テレジアはもがくがヘンネアはビクともしない。笑いながらファミリアは手を王后の鼻先に後ろから突きつける。テレジアの顔がさらに恐怖に引きつる。ヘンネアの手から黒い、タールのような物が滲み出ていたのだ。黒い粘体はどんどんその体積を増し、そして手からテレジアの身体へこぼれ落ちた。
「ひいぃいい! いや、いやぁあああ!」
「そう騒いじゃダメなの。すぐに良くなるの♪」
「何を言って……!?」
やけどでもしたかのようにテレジアは暴れるが徐々にその力が弱くなった。疲れたと言うのもあるが、ヘンネアの言う「良くなる」と言っていた効果が現れたのだ。
ヘンネアが手から生じさせた黒い粘体……それは魔物の魔力を凝集させた物だ。触れれば発情し、人間がそれに曝露され続けていたら魔物になってしまう。魔力濃度が濃い土地で見受けられたりもするが、高位の魔物であれば簡単に作り出すことができる。ダークマターやリリムもしかり。サバトを束ねる、魔物の中でも最高クラスの魔物であるバフォメットなど朝飯前で作る。そして、バフォメットの魔力を分け与えられているファミリアもまた、その能力を持っていた。
その魔力塊をヘンネアはテレジアの身体に垂らしているのだ。粘体はまるで乾いた大地に染みこむ水のように、テレジアの肌に入り込んでいく。魔力はあっという間に全身に回り、熟れた女の身体を官能の炎で加熱した。
「そ、そんな……私……ふあぁあ……」
子を産んだ経験のあるテレジアは当然、生娘ではない。それなりに性の快感も知っている。久しく味わっていなかったが。その感覚を揺り起こされ、テレジアは戸惑いながらも甘い吐息を漏らし始めた。
獲物が発情し始め、抵抗する気力もほぼ失ったことを感知し、ヘンネアはにやりと笑った。拘束に使っていた左手からも魔力の粘液を発生させる。そして黒い粘液まみれの手を乳房に這わせた。
「もみもみもみ〜っとね〜♪ 人間、大きいと歳取った時に垂れちゃうよねぇ……でも幼女な魔物になればそんな心配はないのね!」
「あ、ああっ! や、やめ……はうっ!」
黒い魔力に加え、床上手な魔物娘の愛撫は女の抵抗をさらに削いでいく。ヘンネアに抱かれているテレジアはぞくぞくと身体を震わせ、嬌声を上げた。
ハリは失われつつあるがそれ故の独特の柔らかさを持つ乳房を揉みほぐしながらヘンネアはニヤニヤと笑う。ニチャニチャとわざと粘液の音を立て、テレジアの羞恥心を煽る。
「う〜ん、ちっぱいもいいし巨乳も良いんだけどぉ、子持ちおばさんのおっぱいと言うのも捨てがたい物なのねぇ♪」
テレジアからの応えはない。魔物からもたらされる快楽に溺れつつあった。手はすでに抵抗をやめている。獲物の様子を見てヘンネアはさらにテレジアを攻略すべく、次のステップへと進む。
右手が胸から離れ、つつつと下に向かっていく。快感にとろけていたテレジアもさすがに驚いて脚を閉じようとしたが、指であっさりと開かれてしまう。そしてついに、ファミリアの指が王后の秘裂を捉えた。にぃとファミリアの口が歪む。
「もうぬるぬる! なのね♪ このねちょねちょの魔力の影響もあるけど、やっぱり子持ちは違うなのね♪」
「や、やめ……言わないで……!」
自分より美しいと思った娘を牢に放り込むなどという非道な行動をしたテレジアであるが、それでも主神教団の人間だ。性に対しては厳しい姿勢で臨もうとしている。それだと言うのに後ろで自分を嬲っている魔物に淫乱だと言われたようで、テレジアは恥じ入るしかなかった。
「でもでもぉ、もしかしてイクってこと、知らないんじゃないの?」
「え……?」
「オーガズム、アクメ、エクスタシー……ダメなのね……冗談半分で訊いただけなのに、これじゃあ本当に知らなそうなのね……イクこと知らないって、女の人生半分くらい損をしているのね……」
どんな言い換えをしてもきょとんとしているテレジアを見て、ヘンネアは呆れ悲しむように首を横に振った。いや、実際に悲しんでいるようだ。その目から涙がぽろりと一筋こぼれた。
「し、しかもその歳で子どももいるのに、イッたことないなんて……悲しすぎるのね……どんだけ淡泊なセックスだったなの……」
夫とのセックスは、苦痛に思ったことはなかった。今でこそ求められることはなかったが、昔は世継ぎのため、数えきれないほど王と寝所を共にした。あの温かな手や、自分の中を満たす夫の存在は悪くはないとは思っている。だが、確かに淡泊なセックスではあった。二人とも主神の教えに忠実であろう、国の頂点に立つ者としてふさわしい人物であろうとする気持ちが、そうさせてしまっていたのだ。
悲しんでいたヘンネアであったが、涙を拭ってから雰囲気が一転した。ファミリアは歯を見せてにやりと笑う。肉食獣が獲物をいたぶるかのような、恐ろしげな笑みであった。
「それじゃ、ヘンネアが教えるしかないのね……気持ち良くなっちゃって、イッちゃうのね♥」
「ひぅうう!? な、何これ……ひあっ!? あああああ!」
テレジアの声が大きく、露骨な物になった。ファミリアの指が王后の陰核をこねまわしていた。最初は魔力粘液を塗りこむように優しく。ただ力任せにするのではない、女ならではの攻めにテレジアは悶える。
「気持ちいい? 答えるのね♪」
「き、気持ちよくなんか……!」
強がって見せるが、感じているのは明確だ。少しくすんだ膣孔からとろりと粘液がこぼれ落ちる。ファミリアは見ていないがそのくらい濡れていることなど見通していた。
「正直に言うのね〜♪ 言ったらもっと気持ちよくしてあげるのね♥」
クリトリスへの攻めを少し激しくしながらヘンネアは言う。彼女の指と魔力粘液と、掬い取られたテレジアの愛液がにちゃにちゃと音を立てた。その音を再現するかのようにヘンネアはテレジアに耳に舌を這わせて舐める。わざと音を立てて。同じく主神の教えを守る夫から、このような攻めを受けたことはなかった。王后の身体が面白いように跳ねる。
「あっ、あっ、ああああ!」
「んちゅ……ほらほら気持ちいいんでしょう? 素直に言っちゃうのね♪ 気持ちいいんでしょう? 気持ちよくなりたいんでしょう?」
子守唄のように囁きかけるヘンネアの声に、テレジアの目から徐々に力がなくなっていく。
クリトリスと言うのは感じるためだけの器官と言われている。そこを重点的に責められてはたまらない。一国の王后の精神は、ファミリアの指がクリトリスを一撫でするごとにのこぎりで切られていくかのように、摺り切れていく。
「まぁ、言わなくても一回はイカせてあげるのね♪ どんなものか教えてあげるまでが教育なのね。そこから先を求めるかどうかはお妃様次第なのね〜」
「いやっ! いやっ! んぁああああ!」
いよいよ本格的にヘンネアがクリトリスに愛撫を仕掛けた。尖ったクリトリスを円を描くようにこねまわし、弾く。その間、左手は胸を揉みしだき続け、乳首を摘みひねるように愛撫していた。絶叫に近い声を上げるテレジアの身体がビクビクと震える。種族は違えど同性であるヘンネアはそれが何を意味するかすぐに察した。
「イキそう? イキそうなのね♪ 意外と早いなのね!」
「ふあっ! くぅう! いやぁあああ!」
王后は答えられない。イヤイヤをするように頭を振っているが、それは拒絶と言うより快感から逃れるために反射的にやっているのに近い。勝ち誇ったかのような笑みがヘンネアの口元に浮かぶ。
「それじゃ、イッちゃうのね♥」
「や、や……あ、おあああ!」
ファミリアに後ろから抱かれた王后が雷に打たれたかのように痙攣する。達したのだ。黒色の魔力の粘液に混じって白濁液がどろりと膣口から溢れ出る。王妃テレジア、生まれて初めての絶頂であった。
「いひひ……イッちゃったのね? 気持ちよかった?」
ぐったりしたテレジアをヘンネアは見下ろす。睨み返す王后だが、極値を超えた快感の余韻か、その目は快楽の涙で潤んでおり力はない。
さらに、テレジアはヘンネアの言葉を否定することができなかった。気持ち良かったのだ。風呂や豪勢な食事、美容マッサージなど足元にも及ばない。ファミリアの『人生の半分くらい損をしている』という表現も分からなくはない快感であった。だがそれと同時に、王后は恐怖を覚えている。これを知り続けていると自分の価値観が崩れ去ってしまう……そんな危険な香りも孕んでいることをテレジアは感じ取っていた。
テレジアの中で快なるものと恐怖が葛藤していることをヘンネアは見抜いていた。ニヤニヤと笑いながら語りかける。
「もう一回くらい味わってみる〜? にひひ♪」
「……」
「そう言えば何だけど〜……魔物じゃなくても綺麗なお妃様と同じくらいのおばさん、ヘンネアは何人か知っているなのね。その人たち、だいたい旦那さんと仲良くしているのね♪ そしてセックスも激しくてよくイッてるのね。そう! イクことは美につながってるのね♪」
ヘンネアが美をちらつかせる度にテレジアの心がぐらつく。自分の美に藁をも掴みたいテレジアとしては魅力的な言葉なのだ。みだらな事で女を磨くのは、本来すべきことではないと、主神の教えを守っていたもう一人の自分が声を上げているのだが、それでも惹かれてしまう。
――そう……証拠などない!
敬虔な信徒であろうとする自分がそう叫ぶが、それを見抜いて踏み潰すかのように、ファミリアが言った。
「あのおしどり夫婦と言われている貴族のゴレナックご夫妻は夜の方もお盛ん。主神の教えもなんのそのな濃厚セックスなのね! ねちっこい愛撫でご婦人の方は何度もイッちゃって、上になって下になって前から後ろから……にひひ」
知った名前を挙げられ、テレジアは驚く。ゴレナック夫妻は自分とそう変わらない歳のはずだ。確かに仲の良い夫婦として王宮の間では有名だ。知っている人なものだから、その絡み合いの様を思わずテレジアは想像してしまう。豪奢なベッドで二人裸になって横になり、愛撫しあう二人……夫に突かれて先ほどの自分のようにはしたない声をあげるゴレナック夫人……そうだ、確かに彼女は自分と同じくらいの歳のはずなのに、肌にもハリやツヤがあり、可愛らしい女性であった。
頭を振ってテレジアはその想像や、美の誘惑を振り払う。後ろにいるヘンネアが声を上げた。
「あ〜っ、まだ強情になってるのね。それとももしかして、そのゴレナックの奥さんも牢屋に放り込もうとしているのねぇ?」
そうだ、相手が貴族だったからなかなか手を出すことが出来ずにいたが、そんな淫らなことをしているのなら捕らえる口実に……
「ひぁあああ!」
「そんなこと考えられないように、またいっぱい気持ち良くして頭の中ぐちゃぐちゃのとろとろにしちゃうなのね〜♪」
「やめて、やめ……ふあ、おあああ!」
再び性器への攻めが施される。だが今度の攻めはまた少し違った。魔力の粘液が一人でに動いてクリトリスを刺激しているのだ。べとべとの粘液は突起にまとわりつき、吸いたて、転がす。それだけでも達しそうだ。これに更に加わった愛撫がある。ファミリアの指がテレジアの膣口に潜り込んでいた。子どもを何人か産んで熟れており、おまけに一度達して弛緩した王后の秘部はあっさりと魔物の侵入を許す。
「入口だけにしておいてあげるのね♪ 奥まで挿れちゃうと速攻でイッちゃいそうだもんね、いひひ♪」
「あ、あ、あああ……」
「あれれ〜? お妃様、腰が動いているのね♪ もしかして、ヘンネアにぐちゅぐちゅされたくて堪らないのぉ?」
ヘンネアの意地悪い声で、テレジアは自分が無意識のうちに腰を揺らしていることに気付いた。その動かし方は、魔物の指の侵入から逃れるものではなく、むしろ指をより深く咥え込もうとする動きであった。羞恥心でさっと顔に血が上る。
獲物が自ら快楽を求める動きを見せている。だがヘンネアはそこで更に攻め込もうとしなかった。
「さてさて、お妃様。ここで質問なのね♪ お妃様はヘンネアにどうして欲しいのね?」
快感でもやがかかった頭でも、テレジアはヘンネアが何を狙っているのか理解できた。このファミリアは、自分から要求するようになるまで堕とすつもりなのだ。その気になれば、獲物の抵抗を力づくでねじ伏せて快感を叩き込んで絶頂に追いやり、魔物化させることも容易だと言うのに。むしろそちらの方が楽だと言うのに。堕とす時は徹底的に堕としてから……その意思が見受けられた。
そうなったら意地でも黙ってやる。テレジアは決意した。自分は主神教団関連の国の王后なのだ。穢らわしい魔物に屈するつもりなどない。テレジアは口をつぐむ。喉奥から熱い息がこみ上げてくるが、強引に飲み込む。
「言わないとヘンネアも分からないのね。分からないとやめちゃうのね〜……お妃様は気持ち良くなれないし、美人に戻れないし、良い事なしなのね〜」
ヘンネアの愛撫の手が弱まる。完全に止めはしない。一度着いた官能の炎を消さないよう、ゆるやかに愛撫を続ける。だが、絶対に物足りない。そのギリギリのところで。
だだっ広い部屋には魔力塊が立てる水音と、テレジアのくぐもった息だけが響いた。それだけ。ふたりとも何も言わない。部屋の空気が徐々に冷めていく。
「ねえねえ、お妃様〜」
不意にヘンネアが口を開いた。間延びして退屈した焦れている声だ。魔物に主導権を握られている以上ジリ貧であろうが、このまま耐えていれば誰かがもしかしたら助けにきてくれるかもしれない。あるいは魔物が飽きるかもしれない。そうテレジアは淡い期待を抱くが、相手もさるものだ。何も考えずに王后が堕ちるのを待っているはずがない。
「どうしてそんなに美に拘っていたのね? それでなんで、可愛い女の子を片っ端から牢屋に放り込むなんてむちゃくちゃなことしたのね? ヘンネア、教えて欲しいのね?」
「……」
「いや、教えてくれなくていいのね。当てるのね♪ 女としてのプライドが許せないからなのね」
当たってはいるが、ありきたりな答えだ。下肢から上るもどかしい快感に眉を寄せつつも、胸の内で王后はファミリアを嘲笑う。
「で、そのきっかけみたいなのは……旦那さん、つまり王様に抱かれなくなったから!」
ヘンネアの言葉にテレジアは思わず身体をびくりと、快感以外の物で震わせた。
そうだ。自分が女として屈辱的な感情を抱くようになったのは、夫が自分を求めなくなってきてからであった。主神の教えを守るのであれば、肉欲は唾棄すべきとは思っている。そして、自分は性欲のために夫を求めたり、あるいは求められることを望んだりはしていない。だがそれと、女として求められるのは別なのだ。
「大図星なのね? いひひ♪」
今度はファミリアが笑う番であった。だがすぐにその笑みは消し、ヘンネアはテレジアに話しかける。今までの意地悪い調子ではなく、慈愛に満ちた……まるで母が子に語りかけるかのような調子で。見た目では本当は逆のはずだ。外見はヘンネアは幼い少女の姿でテレジアはその母親くらいに見える。だが今、あやすようにファミリアが王后に話しかけている様は不思議と自然に見えた。
「……同じ女なのね、ヘンネアもそのプライドと気持ちはよく分かるのね。だから……」
優しい調子なのはここまで。ファミリアのヘンネアは魔物娘に、サバトの魔獣に戻る。
「ヘンネアは今からお妃様を素敵な素敵な魔女にしてあげようと思うのね♪ どんな男もいちころな、幼女の魅力なのね♪ 人間のままじゃ絶対手に入らない魅力なのね♪」
「い、いや……」
力無くテレジアは首を振る。自分が胸に秘めていた今回の謀略の動機が暴かれ、心が無防備になっている。だが主神教団にいた彼女としてはやはり魔物化という言葉には抵抗があった。
まだ堕ちきっていないテレジアにヘンネアはぷっと頬を膨らませた。そして追撃の矢を放つ。
「魔物になったらまた旦那さんとまた仲良くセックスできるのね♥ それこそ、ゴレナックさんたちのようにね♪」
ちくりとテレジアの心に、針で刺されたかのような痛みが走る。すぐにその痛み理由を彼女は特定した。嫉妬だ。先ほど自分は汚らわしいと思っている魔物によって激しくも甘美な絶頂をさせられた。だがゴレナック夫人はそれを夫から与えられている。悔しい。自分もこの魔物によってではなく、夫の手で、夫の性器で、絶頂に達したい。
今回のような凶行を起こしたほど高いテレジアのプライドが、そして夫を求める欲望が、彼女の抵抗を押し切った。
「……して……」
「ん〜? 聞こえないなのね〜」
いたぶるような口調でヘンネアは言った。羞恥を煽られたテレジアは一瞬、くちびるを噛む。そして、息を大きく吸った。
「私を魔物にしてください!」
王后の部屋に、主の堕ちた声が響き渡る。主神を信仰していた価値観、魔物への侮蔑、必要以上に高かったプライド……それらの硬い殻を内側からぶち破るかのような声であった。
王后の陥落宣言にファミリアは満足げな笑みを浮かべた。王后を堕としたことに、そして彼女がこれから先幸せに暮らせるであろう新たな魔物の未来に。
「それじゃ、望み通りにしてあげるのね♥」
その言葉とともに、ヘンネアの手に人の頭ほどもある大きな魔力塊の球体が形成された。それはぴったりとテレジアの股間に押し当てられている。
「おぁおおぉお! あ、あ、あがああああ!」
獣じみた声がテレジアの口から上る。お世辞にもお上品とは言えない、国の頂点に立つものの妻にあるまじき声だ。だが彼女はそれを抑えられない。押し当てられている魔力塊が彼女の米粒ほどのクリトリスをも吸い立て揉みしだいている。さらに魔力塊は管状に伸びて王后の秘園と菊座に侵入していた。その三点を一度に攻められては彼女もたまらなかった。だが、それだけでは終わらない。
「あああ、熱い! 熱いのがお腹の中にぃ! ぉおおおおっ! んおぉああああ!」
頭を激しく左右に振るテレジアは叫ぶ。彼女が口走っている事は間違っていなかった。膣内に潜り込んだ魔力塊はその身体を自在に変形させ、王后の子宮の中にまで侵入していた。
テレジアの下腹部に押し当てられている魔力塊が小さくなっていっている。それだけ、彼女の中に入り込んでいるのだ。だが、テレジアの腹は大きくならない。子宮に入り込んだ女性の大事な器官に入り込みそして内側から身体を作り替える。魔物に。愛と快楽と、そのための美貌を持つ、魔物に。
そして変化が始まる。
「うぁおおおおおお!」
ほぼ子宮の中へと消えた魔力塊とは裏腹の、白い光に王后が包まれる。その身体が少しずつ小さくなっていく。孕んだはいいが使われることのなかった乳房が、バターが解けるかのように崩れて平たくなっていく。身体のラインも、柔らかそうな見た目を持ちつつも大人の丸みは消えた。
そして光が消え去った時……そこにはテレジアがいた。四半世紀以上前の姿のテレジアが。一見すると少女の姿になっただけのテレジアに見えるが、彼女は確かに魔物。その魔の者の証拠の一つとして、彼女の耳は尖っている。
「おめでとうなの! これでお妃様も立派な魔女なの! 気分はどう?」
「ああ……身も心もとても軽い……! 私、なんであんなに悩んでいたんだろう……魔物になればこんなに簡単に解決したのに……」
憑き物が落ちたかのようにテレジアの顔は晴れ晴れとしていた。シワもシミもないゆでたまごのような肌は無邪気かつ淫靡な笑みを浮かべている。その顔が失われつつある美に怒り悩み、自分より若く美しい娘たちに嫉妬して歪むことなどないだろう。
新たな魔女の誕生にサバトの魔獣、ファミリアは頷く。
「良かったなのね! さあ、その幼女な身体で旦那さんを堕としてくるのね! きっと旦那さんも気に入ってくれるのね♪」
「はい! ああ、あなた……!」
矢も盾もたまらずと言った調子でテレジアはベッドから飛び降り、王后の部屋の扉を開けた。外では、男と女のみだらな声が飛び交っている。その外へ、テレジアは飛び出した。王の部屋に向かったのだろう。
「良かった良かった……なの! これにて一件落着、なの!」
王后の暴走を食い止めかつ悩みを解決し、囚われの娘達を救い、そして魔王と自分の主であるバフォメットのラファラナが理想とする『人間と魔物が手を取り合う愛と快楽の世界』を創る手助けが出来たことで、ファミリアのヘンネアは会心の笑みを浮かべるのであった。
「はは……生かさず殺さず、苦しめに苦しめております」
「そう、それでいいわ」
女の口がにぃっと釣り上がる。その口角はよく見ればシワがあり、彼女が決して若くはないことを物語っていた。必死で化粧などでごまかしてはいるが、時というものは無情だ。歳を重ねた物はそれ相応の深みのある美が備わるものだが、この女にそれはない。執事の報告の内容に口をいやらしく歪めているそのことが、彼女の過剰なまでに嗜虐的で陰湿な性格を物語っていた。
ここはガディアノ王国。主神教団の息がかかった国の一つである。ガディアノ王国は決して大きな国ではないし、土地も痩せてはいるが、鉄鉱山を持っていた。これによって作られた武器を主神教団国に輸出することで成り立っている。この女の名前はテレジア・ガディアノ。ガディアノ王国の后だ。歳はそろそろ四十に手が届く。昔は絶世の美女と言われていたが寄る年波には勝てない。もし、夫が自分に飽きて側室など迎えた日には……そのときはもうテレジアは立ち上がれなくなるだろう。女として屈辱的なことこの上ない。すでに王子が三人いて世継ぎには困っていないが……国王が何人も妻を娶ることは、主神教団の国であってもありうることだ。
焦るテレジアが国一の美女、国王の后というプライドを保つためにとった行動……それは夫である国王が自分よりも夢中になってしまいそうな美しい女性を全員「男を誑かす魔物」として牢屋に入れることであった。計画が実行するよう、そしてこの横暴が夫に怪しまれぬよう、彼女のやり方は徹底していた。部下達に「国に魔物が紛れ込んだ」と噂を流させ、国を挙げて美女を探すように仕向けたのだ。テレジアの思惑通り、美女は集まった。自分のプライドのためもはや鬼女となった王后は女達を牢屋に叩き込み、奴隷として強制労働をさせた。女が結婚している場合は、魔物に誑かされて穢れた者としてその夫も牢に入れた。
テレジアの常軌を逸した策が施行されて、そろそろ二週間になる。上下関係が厳しいガディアノ王国だ。テレジアの行動を諌める者は誰もいなかった。肝心の王も、自分の妻が裏で流した偽りの噂に振り回され、この愚策の施行を許してしまった。
「引き続き頼むわよ」
寝る前の肌のケアのための道具を準備しながら、背後で控えている執事にテレジアは冷酷に言う。了承の返事を短くして、執事は下がった。
しかし、この時テレジアは重大なミスをおかしていた。いや、この時に限らずここ数日ずっとしていた。テレジアは今のように執事の報告を聞くときは背中を向けている。今回の謀略を実行する前から。だが本当であれば執事の顔を見るべきであったのだ。そうすれば異変に気付けたのかもしれないが……もう遅かった。
満月が高く登った頃、一人ベッドで寝ていたテレジアは妙な胸騒ぎがして目を覚ました。下からだろうか。大勢の人間が騒いでいる物音がする。騒々しさにテレジアは眉を寄せ、身体を起こした。
「ありゃりゃ? 起きちゃったなの?」
不意に部屋に声が響いた。少し舌足らずで高音な、少女の声であった。テレジアは震え上がる。この部屋には自分ひとりしかいない。残念ながら夫は別室、そして親衛隊は部屋の外で見張っている。この部屋には自分しかいないはずなのだ。それなのに声がしたと言うのはどういうことなのか。
「まぁ、起こすつもりだったから結局ノープロブレム、なのね」
部屋の隅の暗がりから声の主が姿を現した。声の通り少女だ。身長は4フィートと少し。ヴァイオレットの髪をツインテールにしている。くりくりとした大きな目、薄汚れていてもすべすべとしていそうな美しい肌と可愛らしい顔立ちをしていた。服装はシーツを身にまとっただけのようなボロボロな代物だ。おそらくテレジアの謀略で捕らえられた女の一人だろう。だが捕らえた女をいちいち記憶するようなテレジアではない。
「無礼者! 奴隷がこんなところで何をしている!? 誰か! この者を……」
「近衛兵呼んでいるの? 近衛兵は私の新しい仲間に伸されてお楽しみの最中、なの! いひひひ♪」
外見通りの、少女らしい意地悪な笑みをその者は浮かべる。それがテレジアの精神を混乱させ、さらに逆立たせた。精一杯虚勢を張る怯えた犬のように、ガディアノの王妃は吠える。
「どういうこと!? 新しい仲間って……あなたは一体……!?」
「いひひ! そう聞かれたら教えてあげなきゃいけないのね!」
テレジアの咆哮に怯えることなく笑った少女の身体が、光に包まれる。眩しさに思わずテレジアは目を覆った。
光が収まったであろうころに彼女は目から手をどけて少女を見た。その目が大きく見開かれる。
確かにそこには先ほどいた少女がいた。髪や顔、肌などは変わっていない。だが普通の人間であれば絶対にないような物が彼女にはついていた。頭からは大きな狼のような耳、腰のあたりから伸びるコウモリのような翼と、鞭のようにしなる尾……良く見れば手も大きくなっており、まるで獣だ。
「ま……魔物……!」
「ご名答なの! 私はファスネット・サバト所属、ファミリアのヘンネアなの!」
ヘンネアと名乗った魔物娘は両手を腰に当てて軽く反り返ってみせた。服も先ほどのみすぼらしい服から、ノースリーブのブラウスとフリルの短い黒スカートと言った、幼い見た目の彼女に合っているお嬢様しかりとした格好に変わっている。
「魔物がどうしてこんなところに……!?」
「ありゃりゃ? 『魔物がこの国に紛れ込んだ』なんて噂を流したのはどこの誰だった、なの〜?」
そうだ、その噂を流したのはテレジアだ。だがもちろんそれは偽りだ。本人の中では。なのに、本物の魔物が今、目の前にいる。
「正直、その噂を聞いた時はヘンネアたちもびっくりしたの。潜伏がバレちゃったかなと思ったの。でもでもぉ、調べてみたらなんのことはない、お妃様の嫉妬に狂った策略だっただけなの」
ニヤニヤと笑いながらヘンネアは近づく。彼女によるとどうやらこのガディアノには多くの魔物が潜んでいるらしい。そしてこの国の動向を監視し、少しでも周囲の国や魔物娘に戦争をしかける素振りでも見せれば阻止するつもりだったとのこと。
「でも今回の件は戦争と同じくらいいただけないことなの……なーんの罪もない女の人達をひっ捕まえて、牢屋に放り込んで奴隷扱いなんて……これにはさすがにヘンネアも他の魔物娘も、そしてヘンネアのボスのラファラナ様も黙っていられなかったの!」
そしてヘンネアたち、魔物娘は行動を起こしたのだ。階下の騒ぎは魔物娘が男女を襲っている音なのだろう。しかし、なぜ見張りは魔物娘の侵入に気付けなかったのか。そこまで考えてテレジアはハッとした。
「まさかあなた……わざと捕まって……」
「話が早くて助かるなの!」
ヘンネア曰く、ファミリアと言うのは膨大な魔力を持つ魔法生物であり、その魔力を使って女性を幼い魔物娘に、多くは魔女に、変えることができる。今回、ヘンネアはわざと捕まって牢に入り、捕らえられていた女性達を次々に魔女にして仲間にしていった。
「牢屋の中は酷い有様だったのね。絶望して何もかもやる気を失っている子、理不尽に捕まえられて怒っている子……ああ、ヘンネアが魔物だと分かると『魔物のせいで私達はこんあ目にあっているんだ』って物凄く怒ってきた子もいたのね」
だが、概してファミリアという魔物は口が上手い。それに陽気で人を元気づける才能もある。ヘンネアも類に漏れずそうであった。そして牢では娘たちの怒りを躱し、絶望している女には勇気と希望を持たせ、仲間にしていったのだ。こうした事態に牢番が気づかないはずがないが、そこは新たに魔女に生まれ変わった女が籠絡した。籠絡した者の一人が、テレジアの秘書だ。秘書の報告の際、正面から向き直って見ていれば彼が傀儡化していたことを見抜けたはずだったのだ。これがここ数日、テレジアが踏み続けていたミスであった。
こうしてヘンネアは城の内部で仲間を増やしていったが、これにはさらにもうひとつの利点があった。それは牢内に立ち込める魔力が濃くなっていくことだ。魔力の濃度は魔女が増えるに連れて上昇し、昨日ついにヘンネアが属するファスネット・サバトの本拠地との直送ワープルートを作ることができるほどになった。今、城内で暴れまわっているのは牢にいた魔女だけでない。ワープを通ってきた未婚の魔女たちもいるのだ。城の内側からの襲撃、人数も相当な物。もはやこの城、この国は魔物の手に落ちたような物であった。
「だけどそれだけじゃダメなのね。やっぱり大将首を取らないと、なの♪」
人ならざる手をわきわきと蠢かしながらヘンネアはテレジアににじり寄る。テレジアは歯をカチカチと鳴らしながら許しと助けを請う。だが無駄であった。
「人を散々捕まえて酷いことをしてきたのに、自分は酷いことをされるのはイヤなのぉ? 随分わがままなのね! でも大丈夫なの♪ お妃様も気持ちいいし、若さも手に入るし、そっちにも悪い話じゃないと思うのね♪」
若さが手に入る……この言葉に思わずテレジアは動揺する。その隙にヘンネアは跳びかかった。ベッドの上に座っているテレジアの背後に回り、脚と左腕を絡みつかせて自由を奪う。空いている右手で寝間着を破いた。熟れきり、崩れ始めた身体が露わになる。それなりに大きかった胸は力なく垂れ始め、腹にも少し肉がついていた。だがそれでも女を捨ててはいないらしく、努力のあとは見られる。
「うんうん。いい身体なのねぇ♪ これが魔物化するともっと良くなるなのね♪」
「魔物化!?」
ファミリアの言った言葉に女は驚愕する。そうだ、そう言えばさっきからファミリアは言っていた。牢にいた女達を魔女に変えたと。この魔物は自分も同じように魔物娘にするつもりなのだ。主神教団が唾棄している、淫らで汚らわしい魔物娘に。
「や、やめて……魔物化なんて……」
テレジアはもがくがヘンネアはビクともしない。笑いながらファミリアは手を王后の鼻先に後ろから突きつける。テレジアの顔がさらに恐怖に引きつる。ヘンネアの手から黒い、タールのような物が滲み出ていたのだ。黒い粘体はどんどんその体積を増し、そして手からテレジアの身体へこぼれ落ちた。
「ひいぃいい! いや、いやぁあああ!」
「そう騒いじゃダメなの。すぐに良くなるの♪」
「何を言って……!?」
やけどでもしたかのようにテレジアは暴れるが徐々にその力が弱くなった。疲れたと言うのもあるが、ヘンネアの言う「良くなる」と言っていた効果が現れたのだ。
ヘンネアが手から生じさせた黒い粘体……それは魔物の魔力を凝集させた物だ。触れれば発情し、人間がそれに曝露され続けていたら魔物になってしまう。魔力濃度が濃い土地で見受けられたりもするが、高位の魔物であれば簡単に作り出すことができる。ダークマターやリリムもしかり。サバトを束ねる、魔物の中でも最高クラスの魔物であるバフォメットなど朝飯前で作る。そして、バフォメットの魔力を分け与えられているファミリアもまた、その能力を持っていた。
その魔力塊をヘンネアはテレジアの身体に垂らしているのだ。粘体はまるで乾いた大地に染みこむ水のように、テレジアの肌に入り込んでいく。魔力はあっという間に全身に回り、熟れた女の身体を官能の炎で加熱した。
「そ、そんな……私……ふあぁあ……」
子を産んだ経験のあるテレジアは当然、生娘ではない。それなりに性の快感も知っている。久しく味わっていなかったが。その感覚を揺り起こされ、テレジアは戸惑いながらも甘い吐息を漏らし始めた。
獲物が発情し始め、抵抗する気力もほぼ失ったことを感知し、ヘンネアはにやりと笑った。拘束に使っていた左手からも魔力の粘液を発生させる。そして黒い粘液まみれの手を乳房に這わせた。
「もみもみもみ〜っとね〜♪ 人間、大きいと歳取った時に垂れちゃうよねぇ……でも幼女な魔物になればそんな心配はないのね!」
「あ、ああっ! や、やめ……はうっ!」
黒い魔力に加え、床上手な魔物娘の愛撫は女の抵抗をさらに削いでいく。ヘンネアに抱かれているテレジアはぞくぞくと身体を震わせ、嬌声を上げた。
ハリは失われつつあるがそれ故の独特の柔らかさを持つ乳房を揉みほぐしながらヘンネアはニヤニヤと笑う。ニチャニチャとわざと粘液の音を立て、テレジアの羞恥心を煽る。
「う〜ん、ちっぱいもいいし巨乳も良いんだけどぉ、子持ちおばさんのおっぱいと言うのも捨てがたい物なのねぇ♪」
テレジアからの応えはない。魔物からもたらされる快楽に溺れつつあった。手はすでに抵抗をやめている。獲物の様子を見てヘンネアはさらにテレジアを攻略すべく、次のステップへと進む。
右手が胸から離れ、つつつと下に向かっていく。快感にとろけていたテレジアもさすがに驚いて脚を閉じようとしたが、指であっさりと開かれてしまう。そしてついに、ファミリアの指が王后の秘裂を捉えた。にぃとファミリアの口が歪む。
「もうぬるぬる! なのね♪ このねちょねちょの魔力の影響もあるけど、やっぱり子持ちは違うなのね♪」
「や、やめ……言わないで……!」
自分より美しいと思った娘を牢に放り込むなどという非道な行動をしたテレジアであるが、それでも主神教団の人間だ。性に対しては厳しい姿勢で臨もうとしている。それだと言うのに後ろで自分を嬲っている魔物に淫乱だと言われたようで、テレジアは恥じ入るしかなかった。
「でもでもぉ、もしかしてイクってこと、知らないんじゃないの?」
「え……?」
「オーガズム、アクメ、エクスタシー……ダメなのね……冗談半分で訊いただけなのに、これじゃあ本当に知らなそうなのね……イクこと知らないって、女の人生半分くらい損をしているのね……」
どんな言い換えをしてもきょとんとしているテレジアを見て、ヘンネアは呆れ悲しむように首を横に振った。いや、実際に悲しんでいるようだ。その目から涙がぽろりと一筋こぼれた。
「し、しかもその歳で子どももいるのに、イッたことないなんて……悲しすぎるのね……どんだけ淡泊なセックスだったなの……」
夫とのセックスは、苦痛に思ったことはなかった。今でこそ求められることはなかったが、昔は世継ぎのため、数えきれないほど王と寝所を共にした。あの温かな手や、自分の中を満たす夫の存在は悪くはないとは思っている。だが、確かに淡泊なセックスではあった。二人とも主神の教えに忠実であろう、国の頂点に立つ者としてふさわしい人物であろうとする気持ちが、そうさせてしまっていたのだ。
悲しんでいたヘンネアであったが、涙を拭ってから雰囲気が一転した。ファミリアは歯を見せてにやりと笑う。肉食獣が獲物をいたぶるかのような、恐ろしげな笑みであった。
「それじゃ、ヘンネアが教えるしかないのね……気持ち良くなっちゃって、イッちゃうのね♥」
「ひぅうう!? な、何これ……ひあっ!? あああああ!」
テレジアの声が大きく、露骨な物になった。ファミリアの指が王后の陰核をこねまわしていた。最初は魔力粘液を塗りこむように優しく。ただ力任せにするのではない、女ならではの攻めにテレジアは悶える。
「気持ちいい? 答えるのね♪」
「き、気持ちよくなんか……!」
強がって見せるが、感じているのは明確だ。少しくすんだ膣孔からとろりと粘液がこぼれ落ちる。ファミリアは見ていないがそのくらい濡れていることなど見通していた。
「正直に言うのね〜♪ 言ったらもっと気持ちよくしてあげるのね♥」
クリトリスへの攻めを少し激しくしながらヘンネアは言う。彼女の指と魔力粘液と、掬い取られたテレジアの愛液がにちゃにちゃと音を立てた。その音を再現するかのようにヘンネアはテレジアに耳に舌を這わせて舐める。わざと音を立てて。同じく主神の教えを守る夫から、このような攻めを受けたことはなかった。王后の身体が面白いように跳ねる。
「あっ、あっ、ああああ!」
「んちゅ……ほらほら気持ちいいんでしょう? 素直に言っちゃうのね♪ 気持ちいいんでしょう? 気持ちよくなりたいんでしょう?」
子守唄のように囁きかけるヘンネアの声に、テレジアの目から徐々に力がなくなっていく。
クリトリスと言うのは感じるためだけの器官と言われている。そこを重点的に責められてはたまらない。一国の王后の精神は、ファミリアの指がクリトリスを一撫でするごとにのこぎりで切られていくかのように、摺り切れていく。
「まぁ、言わなくても一回はイカせてあげるのね♪ どんなものか教えてあげるまでが教育なのね。そこから先を求めるかどうかはお妃様次第なのね〜」
「いやっ! いやっ! んぁああああ!」
いよいよ本格的にヘンネアがクリトリスに愛撫を仕掛けた。尖ったクリトリスを円を描くようにこねまわし、弾く。その間、左手は胸を揉みしだき続け、乳首を摘みひねるように愛撫していた。絶叫に近い声を上げるテレジアの身体がビクビクと震える。種族は違えど同性であるヘンネアはそれが何を意味するかすぐに察した。
「イキそう? イキそうなのね♪ 意外と早いなのね!」
「ふあっ! くぅう! いやぁあああ!」
王后は答えられない。イヤイヤをするように頭を振っているが、それは拒絶と言うより快感から逃れるために反射的にやっているのに近い。勝ち誇ったかのような笑みがヘンネアの口元に浮かぶ。
「それじゃ、イッちゃうのね♥」
「や、や……あ、おあああ!」
ファミリアに後ろから抱かれた王后が雷に打たれたかのように痙攣する。達したのだ。黒色の魔力の粘液に混じって白濁液がどろりと膣口から溢れ出る。王妃テレジア、生まれて初めての絶頂であった。
「いひひ……イッちゃったのね? 気持ちよかった?」
ぐったりしたテレジアをヘンネアは見下ろす。睨み返す王后だが、極値を超えた快感の余韻か、その目は快楽の涙で潤んでおり力はない。
さらに、テレジアはヘンネアの言葉を否定することができなかった。気持ち良かったのだ。風呂や豪勢な食事、美容マッサージなど足元にも及ばない。ファミリアの『人生の半分くらい損をしている』という表現も分からなくはない快感であった。だがそれと同時に、王后は恐怖を覚えている。これを知り続けていると自分の価値観が崩れ去ってしまう……そんな危険な香りも孕んでいることをテレジアは感じ取っていた。
テレジアの中で快なるものと恐怖が葛藤していることをヘンネアは見抜いていた。ニヤニヤと笑いながら語りかける。
「もう一回くらい味わってみる〜? にひひ♪」
「……」
「そう言えば何だけど〜……魔物じゃなくても綺麗なお妃様と同じくらいのおばさん、ヘンネアは何人か知っているなのね。その人たち、だいたい旦那さんと仲良くしているのね♪ そしてセックスも激しくてよくイッてるのね。そう! イクことは美につながってるのね♪」
ヘンネアが美をちらつかせる度にテレジアの心がぐらつく。自分の美に藁をも掴みたいテレジアとしては魅力的な言葉なのだ。みだらな事で女を磨くのは、本来すべきことではないと、主神の教えを守っていたもう一人の自分が声を上げているのだが、それでも惹かれてしまう。
――そう……証拠などない!
敬虔な信徒であろうとする自分がそう叫ぶが、それを見抜いて踏み潰すかのように、ファミリアが言った。
「あのおしどり夫婦と言われている貴族のゴレナックご夫妻は夜の方もお盛ん。主神の教えもなんのそのな濃厚セックスなのね! ねちっこい愛撫でご婦人の方は何度もイッちゃって、上になって下になって前から後ろから……にひひ」
知った名前を挙げられ、テレジアは驚く。ゴレナック夫妻は自分とそう変わらない歳のはずだ。確かに仲の良い夫婦として王宮の間では有名だ。知っている人なものだから、その絡み合いの様を思わずテレジアは想像してしまう。豪奢なベッドで二人裸になって横になり、愛撫しあう二人……夫に突かれて先ほどの自分のようにはしたない声をあげるゴレナック夫人……そうだ、確かに彼女は自分と同じくらいの歳のはずなのに、肌にもハリやツヤがあり、可愛らしい女性であった。
頭を振ってテレジアはその想像や、美の誘惑を振り払う。後ろにいるヘンネアが声を上げた。
「あ〜っ、まだ強情になってるのね。それとももしかして、そのゴレナックの奥さんも牢屋に放り込もうとしているのねぇ?」
そうだ、相手が貴族だったからなかなか手を出すことが出来ずにいたが、そんな淫らなことをしているのなら捕らえる口実に……
「ひぁあああ!」
「そんなこと考えられないように、またいっぱい気持ち良くして頭の中ぐちゃぐちゃのとろとろにしちゃうなのね〜♪」
「やめて、やめ……ふあ、おあああ!」
再び性器への攻めが施される。だが今度の攻めはまた少し違った。魔力の粘液が一人でに動いてクリトリスを刺激しているのだ。べとべとの粘液は突起にまとわりつき、吸いたて、転がす。それだけでも達しそうだ。これに更に加わった愛撫がある。ファミリアの指がテレジアの膣口に潜り込んでいた。子どもを何人か産んで熟れており、おまけに一度達して弛緩した王后の秘部はあっさりと魔物の侵入を許す。
「入口だけにしておいてあげるのね♪ 奥まで挿れちゃうと速攻でイッちゃいそうだもんね、いひひ♪」
「あ、あ、あああ……」
「あれれ〜? お妃様、腰が動いているのね♪ もしかして、ヘンネアにぐちゅぐちゅされたくて堪らないのぉ?」
ヘンネアの意地悪い声で、テレジアは自分が無意識のうちに腰を揺らしていることに気付いた。その動かし方は、魔物の指の侵入から逃れるものではなく、むしろ指をより深く咥え込もうとする動きであった。羞恥心でさっと顔に血が上る。
獲物が自ら快楽を求める動きを見せている。だがヘンネアはそこで更に攻め込もうとしなかった。
「さてさて、お妃様。ここで質問なのね♪ お妃様はヘンネアにどうして欲しいのね?」
快感でもやがかかった頭でも、テレジアはヘンネアが何を狙っているのか理解できた。このファミリアは、自分から要求するようになるまで堕とすつもりなのだ。その気になれば、獲物の抵抗を力づくでねじ伏せて快感を叩き込んで絶頂に追いやり、魔物化させることも容易だと言うのに。むしろそちらの方が楽だと言うのに。堕とす時は徹底的に堕としてから……その意思が見受けられた。
そうなったら意地でも黙ってやる。テレジアは決意した。自分は主神教団関連の国の王后なのだ。穢らわしい魔物に屈するつもりなどない。テレジアは口をつぐむ。喉奥から熱い息がこみ上げてくるが、強引に飲み込む。
「言わないとヘンネアも分からないのね。分からないとやめちゃうのね〜……お妃様は気持ち良くなれないし、美人に戻れないし、良い事なしなのね〜」
ヘンネアの愛撫の手が弱まる。完全に止めはしない。一度着いた官能の炎を消さないよう、ゆるやかに愛撫を続ける。だが、絶対に物足りない。そのギリギリのところで。
だだっ広い部屋には魔力塊が立てる水音と、テレジアのくぐもった息だけが響いた。それだけ。ふたりとも何も言わない。部屋の空気が徐々に冷めていく。
「ねえねえ、お妃様〜」
不意にヘンネアが口を開いた。間延びして退屈した焦れている声だ。魔物に主導権を握られている以上ジリ貧であろうが、このまま耐えていれば誰かがもしかしたら助けにきてくれるかもしれない。あるいは魔物が飽きるかもしれない。そうテレジアは淡い期待を抱くが、相手もさるものだ。何も考えずに王后が堕ちるのを待っているはずがない。
「どうしてそんなに美に拘っていたのね? それでなんで、可愛い女の子を片っ端から牢屋に放り込むなんてむちゃくちゃなことしたのね? ヘンネア、教えて欲しいのね?」
「……」
「いや、教えてくれなくていいのね。当てるのね♪ 女としてのプライドが許せないからなのね」
当たってはいるが、ありきたりな答えだ。下肢から上るもどかしい快感に眉を寄せつつも、胸の内で王后はファミリアを嘲笑う。
「で、そのきっかけみたいなのは……旦那さん、つまり王様に抱かれなくなったから!」
ヘンネアの言葉にテレジアは思わず身体をびくりと、快感以外の物で震わせた。
そうだ。自分が女として屈辱的な感情を抱くようになったのは、夫が自分を求めなくなってきてからであった。主神の教えを守るのであれば、肉欲は唾棄すべきとは思っている。そして、自分は性欲のために夫を求めたり、あるいは求められることを望んだりはしていない。だがそれと、女として求められるのは別なのだ。
「大図星なのね? いひひ♪」
今度はファミリアが笑う番であった。だがすぐにその笑みは消し、ヘンネアはテレジアに話しかける。今までの意地悪い調子ではなく、慈愛に満ちた……まるで母が子に語りかけるかのような調子で。見た目では本当は逆のはずだ。外見はヘンネアは幼い少女の姿でテレジアはその母親くらいに見える。だが今、あやすようにファミリアが王后に話しかけている様は不思議と自然に見えた。
「……同じ女なのね、ヘンネアもそのプライドと気持ちはよく分かるのね。だから……」
優しい調子なのはここまで。ファミリアのヘンネアは魔物娘に、サバトの魔獣に戻る。
「ヘンネアは今からお妃様を素敵な素敵な魔女にしてあげようと思うのね♪ どんな男もいちころな、幼女の魅力なのね♪ 人間のままじゃ絶対手に入らない魅力なのね♪」
「い、いや……」
力無くテレジアは首を振る。自分が胸に秘めていた今回の謀略の動機が暴かれ、心が無防備になっている。だが主神教団にいた彼女としてはやはり魔物化という言葉には抵抗があった。
まだ堕ちきっていないテレジアにヘンネアはぷっと頬を膨らませた。そして追撃の矢を放つ。
「魔物になったらまた旦那さんとまた仲良くセックスできるのね♥ それこそ、ゴレナックさんたちのようにね♪」
ちくりとテレジアの心に、針で刺されたかのような痛みが走る。すぐにその痛み理由を彼女は特定した。嫉妬だ。先ほど自分は汚らわしいと思っている魔物によって激しくも甘美な絶頂をさせられた。だがゴレナック夫人はそれを夫から与えられている。悔しい。自分もこの魔物によってではなく、夫の手で、夫の性器で、絶頂に達したい。
今回のような凶行を起こしたほど高いテレジアのプライドが、そして夫を求める欲望が、彼女の抵抗を押し切った。
「……して……」
「ん〜? 聞こえないなのね〜」
いたぶるような口調でヘンネアは言った。羞恥を煽られたテレジアは一瞬、くちびるを噛む。そして、息を大きく吸った。
「私を魔物にしてください!」
王后の部屋に、主の堕ちた声が響き渡る。主神を信仰していた価値観、魔物への侮蔑、必要以上に高かったプライド……それらの硬い殻を内側からぶち破るかのような声であった。
王后の陥落宣言にファミリアは満足げな笑みを浮かべた。王后を堕としたことに、そして彼女がこれから先幸せに暮らせるであろう新たな魔物の未来に。
「それじゃ、望み通りにしてあげるのね♥」
その言葉とともに、ヘンネアの手に人の頭ほどもある大きな魔力塊の球体が形成された。それはぴったりとテレジアの股間に押し当てられている。
「おぁおおぉお! あ、あ、あがああああ!」
獣じみた声がテレジアの口から上る。お世辞にもお上品とは言えない、国の頂点に立つものの妻にあるまじき声だ。だが彼女はそれを抑えられない。押し当てられている魔力塊が彼女の米粒ほどのクリトリスをも吸い立て揉みしだいている。さらに魔力塊は管状に伸びて王后の秘園と菊座に侵入していた。その三点を一度に攻められては彼女もたまらなかった。だが、それだけでは終わらない。
「あああ、熱い! 熱いのがお腹の中にぃ! ぉおおおおっ! んおぉああああ!」
頭を激しく左右に振るテレジアは叫ぶ。彼女が口走っている事は間違っていなかった。膣内に潜り込んだ魔力塊はその身体を自在に変形させ、王后の子宮の中にまで侵入していた。
テレジアの下腹部に押し当てられている魔力塊が小さくなっていっている。それだけ、彼女の中に入り込んでいるのだ。だが、テレジアの腹は大きくならない。子宮に入り込んだ女性の大事な器官に入り込みそして内側から身体を作り替える。魔物に。愛と快楽と、そのための美貌を持つ、魔物に。
そして変化が始まる。
「うぁおおおおおお!」
ほぼ子宮の中へと消えた魔力塊とは裏腹の、白い光に王后が包まれる。その身体が少しずつ小さくなっていく。孕んだはいいが使われることのなかった乳房が、バターが解けるかのように崩れて平たくなっていく。身体のラインも、柔らかそうな見た目を持ちつつも大人の丸みは消えた。
そして光が消え去った時……そこにはテレジアがいた。四半世紀以上前の姿のテレジアが。一見すると少女の姿になっただけのテレジアに見えるが、彼女は確かに魔物。その魔の者の証拠の一つとして、彼女の耳は尖っている。
「おめでとうなの! これでお妃様も立派な魔女なの! 気分はどう?」
「ああ……身も心もとても軽い……! 私、なんであんなに悩んでいたんだろう……魔物になればこんなに簡単に解決したのに……」
憑き物が落ちたかのようにテレジアの顔は晴れ晴れとしていた。シワもシミもないゆでたまごのような肌は無邪気かつ淫靡な笑みを浮かべている。その顔が失われつつある美に怒り悩み、自分より若く美しい娘たちに嫉妬して歪むことなどないだろう。
新たな魔女の誕生にサバトの魔獣、ファミリアは頷く。
「良かったなのね! さあ、その幼女な身体で旦那さんを堕としてくるのね! きっと旦那さんも気に入ってくれるのね♪」
「はい! ああ、あなた……!」
矢も盾もたまらずと言った調子でテレジアはベッドから飛び降り、王后の部屋の扉を開けた。外では、男と女のみだらな声が飛び交っている。その外へ、テレジアは飛び出した。王の部屋に向かったのだろう。
「良かった良かった……なの! これにて一件落着、なの!」
王后の暴走を食い止めかつ悩みを解決し、囚われの娘達を救い、そして魔王と自分の主であるバフォメットのラファラナが理想とする『人間と魔物が手を取り合う愛と快楽の世界』を創る手助けが出来たことで、ファミリアのヘンネアは会心の笑みを浮かべるのであった。
14/06/02 21:13更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)
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